暗殺武闘大会暗殺予選~灼滅ロックンロール

    作者:空白革命

     裏路地を歩くホームレスが血煙となって死んだ。

     血は瞬く間に蒸発し、段ボールハウスに黒焦げになった骨らしきものが散らばっていく。
     誰の目にも付くことなく、今日もまた一人が殺された。
     

    「みんな、六六六人衆とアンブレイカブルの同盟が、ミスター宍戸のプロデュースによって派手な事件を起こし始めたようだ」
     場所は変わって武蔵坂学園。
     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)は集まった灼滅者たちに今回の事件について説明していた。
    「宍戸は全国のダークネスに暗殺武闘大会暗殺予選への参加を呼びかけている。
     それは学園でも察知することができたんだが、なかなかに開き直ったというか、ロックな考え方をしてやがる……」
     フィールドは横浜市。ここから出ること無く一日一人以上を殺害し、一週間生き延びることが予選通過の条件だという。
     完戸は灼滅者が察知して邪魔するところまでを含めてルール化しているらしく、武蔵坂学園の介入も計算に入っているようだ。
    「手のひらに乗せられたようでムカつくが、こっちとしてもダークネスの殺人を許すわけにはいかねえ……」
     ニトロは拳を机に叩き付け、強く唸るように言った。
    「横浜に向かってくれ。ダークネスをぶちのめすぞ!」


    参加者
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    黒木・唄音(藍刃唄叛・d16136)
    八守・美星(メルティブルー・d17372)
    水無月・咲良(躊躇わない手・d21498)
    赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)
    黒絶・望(闇夜に咲く血華・d25986)
    風間・紅詩(氷銀鎖・d26231)
    貴夏・葉月(紫縁は原初と終末と月華のイヴ・d34472)

    ■リプレイ

    ●探索、一日目
     暗殺武闘大会暗殺予選。
     この大会に参加するダークネスを見つけ出すべく、八人の灼滅者がチームを組んだ。
     人通りの激しいスクランブル交差点。青信号に応じて歩き出す、一見普通の学生グループが、そのチームである。
     四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)。
    「灼滅者を警戒して動くってことは、やっぱり人に見つからない方法を探るよね。やっぱり、狙うのはホームレスなのかな」
     黒絶・望(闇夜に咲く血華・d25986)。
    「死体さえ見つけることができれば、大きな確証を得られるんですが……まずは殺害現場を絞るところからですね」
     風間・紅詩(氷銀鎖・d26231)。
    「ホームレスが自ら人目に付かない場所に入っていけばやりやすい、ということですか。なら、まずは裏路地や公園からですね。どちらから始めます?」
     雑踏に紛れて歩いているのはこの三人だけだ。
     ダークネスに遭遇してから合流するのでは遅いので、チームでそろって行動しなければならないのだが……本当に彼らはたった三人で行動しているのだろうか?
     その証明として、かたわらを歩いていた犬が公園に入った時点で人間へと変じた。
     犬変身していた赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)である。
    「人混みを犬の姿で歩くのって、案外疲れるね」
     いろはや紅詩たちがバッグを開くと、中からネコやウサギに変身していた仲間たちが飛び出してきた。
     黒猫から変じる黒木・唄音(藍刃唄叛・d16136)。
    「でも、人目をごまかせるから結構アリな作戦だと思うよ」
     同じく変身を解いた水無月・咲良(躊躇わない手・d21498)と貴夏・葉月(紫縁は原初と終末と月華のイヴ・d34472)が身体を伸ばしている。
    「武蔵坂が八人チームっていうのは、流石にもう知っていそうだものね」
    「ただ、直接目撃されたら流石にバレるよな」
    「学生の集団がうろついているって噂さえたたなければいいのよ」
     八守・美星(メルティブルー・d17372)がやや乱れた髪を手で整えた。
     いくらバベルの鎖で噂が伝播しづらいとはいえ、学生が裏路地や公園の隅に集まって何かを調べていればマックで話題に上がるくらいのことはあるだろう。それを聞きつけて『あの場所に近づくのはよそう』なんて判断されては面倒だ。
     相手がコソコソするなら、こちらもある程度はコソコソしたい。
     さておき。
    「まずは近隣の公園を探索していきましょ。『匂い』は感じないけど、念のため慎重にね……」
     美星がまず探索範囲に選んだのは公園のトイレや遊具の影など、それこそ社会の影になりがちなエリアだ。
     場所によってはホームレスのたまり場になったり、秘密のやりとりがなされたりする。ダークネスとしても狙いやすいところだ。ただ一歩外に出るとすぐに注目されるので、候補としては『最初に潰しておきたいエリア』といった所だろう。

    ●探索、二日目
     予選エリア内の公園を探索しおえた彼らは、探索範囲の絞り込みを始めていた。
     遊具の撤去などが原因で最近の子供が公園を使わなくなったというが、こういう時は『誰も入って居なさそう』という公園を探索範囲から除外できて便利だった。
     絞って絞って、二日目にしてようやく見つけたのが公園のトイレにあった黒焦げの死体である。
    「調べてみます」
     望がそばによって断末魔の瞳を発動。
     仲間たちも周辺の痕跡を調べはじめる。
     調査の結果、ホームレスが裏路地から出ていって、このトイレを利用した時に後ろから襲われたことが分かった。
    「公園が近くにある裏路地……ですか」
     腕組みをして考える望。
     その日は探索を切り上げ、より細かく絞った探索範囲を調べることにした。

    ●探索、三日目
    「血の臭いがする」
     いろはの呟きが、発見のきっかけだった。
     唄音や咲良に周辺警戒を頼みつつ、ビルの間に存在する暗い裏路地へ入っていくいろはたち。
     ライトを照らして見つけたのは、壁にべったりとついた血のあとだった。
     その下には、黒焦げの死体。
     調べてみたところ、ダークネスによる殺人だということが分かった。
    「二日目に見つけた死体と同じだよ。激しい炎で焼き殺されてる」
     すぐそばにはビニールと段ボールの燃えかすが残っている。周辺に散らばった物品から察するに、どうやらここをねぐらにしていたホームレスが直接襲われたようだ。
     都内のホームレス狩りが問題になったことがあったが、襲われるタイミングがまさにそれである。
    「ホームレスの仮住居に目標を絞って探索してみれば、もっとダークネスに近づけるかも……」

    ●探索、四日目
     確実に、地道に、狭い範囲を徹底的に調べるという彼らの手法は四日目にして決定的な成果を生むことになった。
     ついさっき殺されたばかりの死体を発見したのだ。
    「今回もホームレスか……」
     焼け焦げた死体を見下ろし、紅詩は呟く。
     だがこれまでの死体と比べて焼き方が荒い。逃げ出したホームレスを後ろから焼き殺し、自分もまた逃げたといった様子だ。その証拠に、対象を殺害しておきながらテントがそのまま残っている。
     しかも……。
    「このテント、二人用ですね」
    「どういうこと?」
     葉月や心愛が問いかけてくる。紅詩はテント両端の寝袋を指さした。
    「どうやら二人のホームレスが利用していたらしいですね。恐らく一人でいたところを襲われて、それを戻ってきたもう一人に目撃された……」
    「今すぐ追いかける? 思い切り走れば間に合うかも」
    「確かに、『匂う』わ。けどこのまま大通りに飛び出すかも」
    「いや、もう一日ここで待ち伏せしましょう。騒げば狩り場を変えるかもしれない。それに……」
     お金の入った袋を手に取る。
    「もう一人は、必ずここに戻ってきます。そして、ダークネスも」

    ●探索、五日目
    「ハッハー! キルスコア更新! 巣穴に戻ったところを見事獲得、ってなあ!」
     燃えるテントを背に、火炎放射器を抱えたダークネスがげらげらと笑っている。
     今まさに殺されんとしているのは、このテントに所持金の全てを置いてきてしまったホームレスである。
     ダークネスはテントで待ち伏せして、戻ってきた所を殺すつもりだったのだ。
    「さて、大事なお金共々燃え尽きな!」
     炎を放射するダークネス。
     ホームレスは己の死を覚悟した。
     が、しかし。
    「そこまでです!」
     望と紅詩が物陰から飛び出し、音波と光で火炎を空中でせき止めた。
    「何ィ……!?」
    「さっさと逃げなさい。邪魔よ」
     反対側から現われた葉月が武装を最大展開して身構える。ホームレスは悲鳴をあげてその場から逃げていった。
     葉月たちを見回し、自分が包囲されたことを悟ったダークネスは顔を引きつらせた。
    「待ち伏せたつもりが、俺様の方が待ち伏せられていたってことか。まるで罠にかかった獣の気分だぜ」
    「なら、大人しく狩られることですね」
     紅詩は複雑に入り組んだ糸を発射し、ダークネスの足へと絡みつける。
     同時に望は腕を異形化させて突撃。
    「せいぜい食い殺されねえように注意しな!」
     ダークネスが反撃にと放った炎はしかし、葉月の放った煙と割り込みをかけた菫さんによってかき消された。
     バラの香りがする煙が炎が身を焼くそばからぬぐっていくのだ。
     ダークネスは殴りつけられ、燃えさかるテントへと放り込まれる。
     吹き飛ぶ炎と灰。
     燃えかすを振り払って立ち上がるダークネスに、美星と咲良が同時に飛びかかった。
    「単純そうなやつで助かったぜ」
    「見つけたからには、逃がしはしないわ」
     二人は複雑に交差しながら爪とナイフで切りつけ、同時にターン。
    「ハティ」
     美星の足下から角のある狼をかたどった影業が出現。ダークネスの腕へと食らいつく。
     反撃の動きを一瞬だけ遅れさせ、その隙をついて咲良が後ろ回し蹴りを繰り出した。
     なんとか片腕で防御するダークネス。
    「チィッ、やりたい放題やりやがる……!」
     思い切り蹴飛ばされるダークネス。
     いろはが刀を鞘に収めたまま突撃。腹を思い切り突く。
    「倒すなら、介入が起こる前にっ」
    「わかってる! いくよぉー!」
     唄音はフードの下の目を大きく見開き、妖刀を振り込んだ。
     ほぼ同時に飛び込んだ心愛もまた、大太刀を力一杯振り込む。
     胸をX字に切り裂かれたダークネスは、歯を食いしばって叫んだ。
    「ぐぉの……ナメんじゃねええ!」
     ダークネスは持っていた火炎放射器を放り投げ、両腕から炎の弾丸を発射。
     裏路地を激しいブレイジングバーストで薙ぎ払った。

     細い路地を走るダークネス。
     包囲を無理矢理に突破し、なんとか逃げ延びようとしているのだ。
     灼滅されれば全てが終わりだ。
     もはやダークネスが灼滅者を虐げるような時代が終わりつつあることを、このダークネスも本能的に察していた。ゆえに、生き延びるために逃げるのだ。
    「待ちなさい……!」
     ダークネスの蹴倒したビールケースを飛び越え、速度を上げる紅詩。
    「こんな使い方は不本意ですが――」
     ギターに炎を宿らせ、殴りつける。
     と同時に、ビルの壁を斜めに駆け上がった唄音が強引に切りつけてくる。
     二人の攻撃を払いのけ、どこからともなく取り出した斧を叩き付ける。
     あまりの衝撃に紅詩は吹き飛ばされたが、その後ろに滑り込んできた菫さんと葉月によってキャッチ、回復される。
    「唄音、交代!」
     ムーンサルトジャンプでダークネスから距離をとった唄音と入れ替わるように、いろはが突撃。刀を抜いて、強烈な斬撃を叩き込んだ。
     それを斧で受け止めるダークネス。
    「クソッ、俺は負けねえ! 俺は生き延びる……!」
    「残念だけど、それは無理ね」
     頭上から声がした。
     ビルの壁に据え付けられた室外機を足場に、美星が腕組みをして立っていた。
    「スコル」
     指を一本立てて、影業の狼を呼び出す。食らいつくやいなや、美星は腕を砲台化。ダークネスめがけてエネルギー弾を乱射した。
    「ぐおおお!」
     反撃のために手を翳し、火炎放射。
     しかし間ビルの上から飛び降りてきたらしい望が間に割り込みラビリンスアーマーを展開。
     純白の羽衣が炎を受け流していく。
     そして、唯一の退路であった路地の反対側に現われる咲良と心愛。
     二人はナイフと刀をそれぞれ抜いて突撃。
     苦し紛れに放った炎を無理矢理に突き抜けて、二人はダークネスの首を両サイドから切り裂いた。
     血を吹き出し、両膝をつくダークネス。
    「畜生、もっと、もっとやれるはずだ……こんなはずじゃあ……」
     壁に手を突いて立ち上がろうとするダークネスだが、既に何もかもが手遅れだった。
     首にいろはの刀が添えられる。
     反対側からは唄音の刀もだ。
    「観念した?」
    「あ、ああ、降参……」
     ダークネスは手首を握り、そしてその手首を自ら外した。
    「するわけがねえだろォが!」
     ダークネスの腕そのものが火炎放射器。それを突きつけた瞬間に、勝負は決していた。
     ごろんと落ちるダークネスの首。
     しかし自らの死体を残すつもりがないのか、それとも肉体を改造しすぎた反動か、彼の身体は自ら燃えだし、灰と僅かな骨しか残らなかった。
     それはまるで、今まで殺してきた人々の末路をたどるかのようだった。

     戦いを終えた八人。
     しかし受けたダメージも少なくない。心霊手術で念のために回復を施し、裏路地の外を見やる。
     武装を解いて町に出ると、そこは静かな夜の町だった。
     深呼吸をするいろは。
    「今すぐそばで人が死んでいても、町はこうして動いてるんだね」
    「……ねえ」
     唄音が猫変身して、いろはの足に頭をこすりつけた。
     苦笑して、お菓子を取り出す。
     もう探索は同じく路地から出た美星と咲良も、示し合わせたように変身を始めた。
     葉月が変身したネコを抱えて路地を出てくる望。
     心愛が変身した犬をつれて出てくる紅詩。
     それぞれがみな、静まった町を眺めている。
    「どうする? 探索、続ける?」
    「心霊手術もしましたし、五日で一人見つけたところからして難しいのでは」
    「とにかく……ご飯、ですかね」
     死と闇に包まれた世界から、ネオンの光る夜町へと歩き出す少年少女。
     日常の隣に、焼けた死体を置き去りにして。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年11月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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