ガラクタ箱のお姫さま

    作者:零夢

     ころり、と少女が寝返りをうつと、近くにあったらしいの玩具にぶつかり、がしゃんと玩具の山が崩れた。
     かといって、少女は気にする風もない。
     あれも、これも。
     向こうに転がっているブロックも、そちらに寝転んでいるぬいぐるみ達も、全部全部、自分が欲しかったものだ。
     なのに……――。
     少女はただぼうっと、ほんの気まぐれにはめてみた右手のカエルパペットを眺める。
     ぱく、ぱく。ぱくん。
    「『きょう、も、ひま、だね……?』」
     ぱくぱく。
     カエルの口の動きにあわせ、少女は声を出す。
     いや、少女が声にあわせてカエルの口を動かしていると言うべきか。
    「えるもそう思う? めあもね、ひまなの」
     少女――めあは、えると呼びかけたパペットに頷いてみせた。
     ひま、ひま……ひとり。
     …………、そんなの、やだ。
     心がぎゅってして、鼻のおくがつんとする。
     めあは熱くなった目を閉じると、ころころと寝転がる。
     初めは楽しかった。
     裕福な家庭ではなかったし、こんなにたくさんのおもちゃに囲まれたことなんてなかったから。
     ずっと、思い切り遊んでみたいと思っていた。
     でも、いつもいつも遊んで、そうして気づいた。
     玩具なんかじゃ詰まらないのだと。
     こんなに囲まれてても、退屈でしかないのだと。
     楽しくもない玩具など、ただのガラクタでしかない。
     だから少女は、温度のないガラクタ達に囲まれて瞼をおとす。
     これを夢だと知りながらも、不変の悪夢から逃れたくて。
     もちろん眠れないこともわかっていた。だからいっそう苦しい。
     そういえば、このゆめのさいしょの日、おもちゃをたくさんくれたあのひとはどこにいってしまったんだろう。
     ずっとあってない。
     もう、きてくれないのかな。
     ……でも、あのひとはだれだったんだろう――。

    「集まってくれてありがとう! 今回みんなには、シャドウの灼滅をお願いしたいんだ」
     教室の灼滅者たちへと説明を始めたのは、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)である。
    「相手はダークネス、闇に堕ちちゃった存在だから、すっごく強いんだけど……」
     もしかすると灼滅者十人分、いやそれ以上の強さかもしれない。
     それでも、なんとか捕えた闇の欠片をみすみす見逃すなんて、したくない。
     だから。
    「――大丈夫」
     絶対に、何とかして見せる。
     アレクシス・カンパネラ(高校生ダンピール・dn0010)は、まりんの傍らで彼女の言葉を支えるように頷いたのだった。

    「今回、悪夢に捕らわれているのは、たった五歳の女の子、めあちゃん。ご両親は仕事で急がしくって、いつも一人でお留守番してるんだ」
     朝、目が覚めると両親がいて、けれど二人は程なく出勤してしまう。そして、日が沈むまで帰ってこない。
     それに文句があるわけではないし、中休みを利用して職場を抜けてきてくれる父も母も大好きだった。
     ただ、寂しさを口に出すことが出来ない――めあはそんな少女らしい。
     それゆえの、『寂しくないように、思い切り遊んでみたい』というささやかな願いが、シャドウに見入られてしまった。
    「……切ない、な」
     ぽつりとこぼしたアレクシスの言葉に、まりんは頷く。
    「まだ小学校にも上がってなくて、お友達もいないから尚更寂しいんだと思う。なのに夢まで独りぼっちだったりしたら、やりきれないよね」
     このまま延々と孤独を突きつけられ続ければ、めあも参ってしまうだろう。
     心が崩れれば、身体も壊れる。
     幼さゆえに感受性の強い心ならば、いとも容易いに違いない。
    「めあちゃんを救うために、まずはソウルアクセスで悪夢に入って、めあちゃんに接触して欲しいの。午後になるとみあちゃんはお昼寝をするから、その時がチャンスだと思うよ」
     どうやら家の鍵も開いているらしく、非常に不用心であるがこの際ありがたく利用させてもらおう。
     加えて夢に入った後も、その単純さゆえに、めあを見つけることにさして苦労はないはずだ。
     ただし、いきなり現れただけでは警戒されてしまうかもしれない。
     なるべく友好的に近づくに越したことはないだろう。
    「そして、めあちゃんに会えたら、一緒に遊んであげて欲しいんだ」
     そんなまりんの言葉に、一瞬の間を空けてアレクシスが訊き返した。
    「……。遊ぶ?」
    「うん。おもちゃはいっぱいあると思うから、それでめあちゃんと……あっ、もしかしてそういうの苦手かな?」
     慌てたようなまりんにアレクシスが小さく首を振れば、ほっとしたような表情が返って来た。
     そう、苦手ではない。
     ……ただ、得意と言えるようなことでもないだけで。
     ともかく、アレクシスの逡巡はさておき、まりんの説明は続く。
    「それでね、めあちゃんが『独りじゃない』、『寂しくない』って思えるように悪夢を変えると、めあちゃんを悪夢に誘ったシャドウがみんなを夢から排除しようと現れるはずだよ。そこからが、みんなの本領発揮だね」
     正々堂々サイキックバトル――そして、灼滅だ。
    「向こうは手先として、夢の中にあるおもちゃ達を使ってくるよ。これは夢に入った時点でおもちゃを全部壊してしまえば防げるのかもしれないけど、いくらなんでも……、だよね」
    「……ああ」
     たしかに、いくら不要のガラクタと呼ぼうと、突然見知らぬ侵入者に破壊されては夢見が悪すぎる。
     ここは大人しく、遊ぶだけ遊んで危なくなったらさようなら、というのがいいだろう。
    「幸い、この手下達はそんなに強くないし、ある程度衝撃を与えると動かなくなって、元のおもちゃに戻るみたい。でも数だけはあるし、纏わりつかれると動きにくくなっちゃうから気をつけてね」
     もしも玩具の足止めにより、モロにダークネスの攻撃を喰らったりしては一大事だ。
    「……ならばそちらは、私が相手にしよう。もし助けてくれる人が居たら、すごく助かる」
     小物たちを惹きつけ、元凶たるダークネスとの戦いが少しでもスムーズに進むようにとのアレクシスに、まりんも賛同した。
    「うん、その方が戦いやすいかもしれないね。ダークネスは一体だけでも、充分厄介だから」
     いくらソウルボード内のシャドウは弱体化しているとはいえ、それは決して余裕の持てるレベルではない。
     加えて、今回のシャドウはシャドウハンターと同等のサイキックも使ってくる。
     その辺りも、注意が必要だろう。
    「それじゃあみんな、小さなめあちゃんを守って、無事に帰ってきてね!」


    参加者
    時渡・みやび(シュレディンガーの匣入り娘・d00567)
    花厳・九(レイン・d00983)
    壱乃森・ニタカ(妹は魔法使い・d02842)
    マリス・アンダー(シャドウわんこ・d03397)
    近江・祥互(影炎の蜘蛛・d03480)
    稲峰・湊(中学生シャドウハンター・d03811)
    嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)
    聖江・利亜(星帳・d06760)

    ■リプレイ

    ●おもちゃの国の招待状
     今日もいつもと同じ夢。
     そう思って寝転んだのに、めあは鼻の頭に冷たいものを感じて瞼を上げた。
    「まっしろの、ねこさん……?」
     目の前の白猫が、めあを起こすように鼻先で突いている。
     こんなの、今までになかった。
     なんだか嬉しくなって頬が緩むと、白猫は途端にぽんっと人になった。
    「ふあぁっ、ねこさん、ねこさんがっ!」
     めあが飛び起きると、白猫――マリス・アンダー(シャドウわんこ・d03397)はにかっと笑う。
    「でも俺、どっちかっていうとわんこだったり!」
    「ねこさんが、わんこさん……!」
     めあはマリスの耳のようにはねた髪を興味津々に見つつ、だがやはり驚いたのか後退る。
     と、その背にとんと何かがぶつかった。
    「めあ、めあ、何をしてるの? どこへ行くの?」
     振り向くと、今度は犬の人形がぱたぱたと腕を振りながらめあに話しかけてきた。
     花厳・九(レイン・d00983)は人形を動かしつつ、そっと少女を窺い見る。
    「良かったら、一緒に遊ばない?」
    「めあとあそんでくれるの?」
    「もちろん! 皆も一緒だよ」
    「みんな?」
     訊いためあが見回せば、周りには今まで無かったものがすごくたくさん――特に、大きなぬいぐるみや人形が増えている。
     思わずうわあ、と声が漏れると、その中から、クマとネコの着ぐるみが飛び出した。
    「やあ! 初めまして、お嬢さん。君に会うために大きくなったんだよ!」
     ぴょこんとクマの近江・祥互(影炎の蜘蛛・d03480)がお辞儀をすれば、
    「やぁやぁ、こんにちは。めあちゃんの為に皆で遊びに来たのですっ♪」
     稲峰・湊(中学生シャドウハンター・d03811)も、自身の着ぐるみとよく似たネコのぬいぐるみを片手に腹話術なんて器用な真似をしてみせる。
    「おぉぉ!」
     ぱちぱちと不器用な拍手を送るめあに、ふわりとしなやかな手が伸べられた。
     差し出したのはおもちゃのプリンセス、嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)だ。
    「ね、めあちゃん。いつも遊んでくださる御礼に今日はみんなで遊びましょう?」
     優雅にドレスを翻した姫君はにこりと誘う。
    「ニタカたちはここに住む玩具の精霊なの。一緒に遊んでくれると嬉しいなっ」
     ふわふわの髪を揺らして壱乃森・ニタカ(妹は魔法使い・d02842)が笑えば、つられてめあもぱあっと笑顔になった。
    「あそぶあそぶ! あとはどんなせーれーさんがいるの?」
     そんな問いには、くるりと回った踊り子が歌うように答えを差し出す。
    「私は人形のりあです。踊りが得意なのですよう」
     言って聖江・利亜(星帳・d06760)が再び踊り始めると、りあ、りあ、と嬉しそうに呼びながら、めあも必死で真似をする。
     そして足が絡まり、ぺとん、と尻餅をつくと、目の前に立っていた時渡・みやび(シュレディンガーの匣入り娘・d00567)を見上げ、小首を傾げた。
    「おねえちゃんはなあに?」
     末っ子として育ったみやびに、その響きは何だか照れくさい。
     でもちょっとだけ嬉しくて、思わず微笑んでいた。
    「私、お人形の妖精ですのよ!」
    「よーせいさんだぁ」
     はじめましてだね、とその手を繋ぎ、めあは次のおもちゃに問いかける。
    「ねぇねぇ、あなたは?」
    「わ、たしは……」
     突然向いた無邪気な瞳に、思わずどもったのはアレクシス・カンパネラ(高校生ダンピール・dn0010)だ。
     何度も考えたのに――と、そこに大きなわんこが助け舟を出してくれた。
    「こいつはちょっと照れ屋だけど、悪い奴じゃないんだワン」
    「そうです、カンパネラさんは正義の吸血鬼なのですよ」
     利亜の言葉にめあもほうほうと頷く。
     その隙におもちゃ達がアレクシスの背中を押して促せば、小さく頷き、帽子を取るとそっと前に出た。
     妖精達がじっと見守る中、彼はちょいと屈んで帽子を示し、そして指を三本、まっすぐ立てる。
     3、2、1――、
    「にゃぁ!」
     元気いっぱいの黒猫が帽子から飛び出すと、めあはぱっちり目を丸めた。
    「うっわぁ、すごいね!」
     飛び出した黒猫を嬉しそうにぎゅっと抱き上げ、次は次はと駆け回る。
     いつも周りにあったものが、今日は特別に変わる。
     何しろすべてが動くのだ。
     動いてめあにお話してくれるのだ。
     ガオと熊さんが襲ってきたときは、鳥さんの後ろに隠れて護ってもらった。牛さんとうさぎさんとおしゃべりをして、ちょっと不思議な魔女さんと歌を歌って。ゲーム機や図鑑に見入っちゃって、さらにはお菓子をもらったりして。
     くるくると嬉しそうにはしゃぐめあに、そろそろ頃合かとみやびは呼びかけた。
    「よーし、次はみんなで遊びますのよ!」

    ●ひっくり返ったおもちゃ箱
    「何して遊ぼっか? 早く遊びたいよぅ」
    「おままごと、鬼ごっこ、それともおにんぎょ遊びしますですか?」
     ニタカと利亜の誘いに、じゃあ、とめあが選んだもの。
     それは――、
    「だるまさんがぁ……転んだっ!」
    「あっ、おひめさまがうごいたの!」
     きゃっきゃと指差すめあに、イコはあらら、と笑いながら列に加わる。
    「めあちゃんはよく見てるわね」
    「うん!」
     大きく頷くが、しかしめあは鬼でない。
     鬼は祥互だ。
    「ぼくよりめあちゃんの方がいっぱい見つけてるよね」
     祥互の言う通り、鬼の横に並んでいるおもちゃ達の半分はめあの手柄だ。
    「でもめあ、あの子達が鬼にタッチしてくれなきゃ逃げられないよ?」
     めあの右手を繋いでいた九がそっと教えてやれば、
    「あ、そっか!」
     たいへんだ、とめあは気づき、でもね、と小声で秘密を囁いた。
    「……めあはおててがどんどんつながっていくのもすきなの」
     ないしょないしょ、とめあは笑う。
     助けに来てくれるのは嬉しいのに、鬼も一緒に皆並んで繋がるのもすっごく嬉しい。
    「でも、助けてもらったら逃げますのよ?」
     左からみやびが言えば、めあはもちろんと頷く。
    「だって、そしたらもっかいできるもんね」
     だからたすけにきてね、とこっそりネコ湊を振り向けば、湊も、任せて、と視線で頷いて見せる。
     一人じゃこんなこと出来なかった。
     だから今日は、いっぱいいっぱい、眠くなるほどたくさん遊ぼう。
     おもちゃたちは、めあが大好きだから。
     結んだ手と手は、温かいから。
     さみしい気持ちは、吹き飛ばそう。
    「よーし、じゃあ……」
     いくぞ、と祥互が背を向けた瞬間、ぱっと夢が暗転した。
     少女の夢を彼女の意志に関係なく操れる者。
     それはたったの、一人だけ。
    「めあ、めあ。私のめあ」
     闇の中から歌うように男が現れる。
     スーツ、シルクハット、伯爵眼鏡――悪夢の案内人が指揮者のように腕を振ると、玩具達はむくりむくりと、彼を守るように動き出す。
    「めあ、知らない人に騙されてはいけないよ?」
     だからこちらに、さぁおいで?
     どこか楽しげな男の声に、めあはふらりと誘われる。
     けれど小さなその手を九とみやびが引きとめ、そして――、
    「ターッチ!!」
     マリスが鬼に触れれば、それを合図に正義のおもちゃ達は、わぁっと飛び出した。
     ストップはかからない。鬼から離れ、今度は悪夢と戦うのだ。
    「……子供相手に孤独を突きつけるってのは趣味悪すぎだわアンタ」
     低く言ったマリスが男に突き進めば、ニタカも手下の玩具を蹴散らし続く。
    「めあちゃんの夢はニタカがまもーる!」
    「皆! 一緒にめあちゃんを、ともだちを守ろう!」
     祥互が炎を振りまき、次々に玩具たちの持ち物に灯してゆく。
     闇に浮かんだ光が道を照らせば、鮮やかな焔を纏ったイコがみやびとともに駆け抜ける。
     その後を追う玩具を遮ったのは利亜だ。
    「いっぱい喧嘩して後でいっぱい仲直りするです。いくですよー!」
     そして湊もライフルで次々敵を弾き飛ばす。
    「みんなの邪魔はさせないよ。キミたちはぼくらと遊ぼうか!」
     それに続くは九。
    「おもちゃはね、楽しくなくちゃだめなんです」
     だから楽しく遊んで、おやすみなさいをしましょうか。
     滑るように潜り込み、足元を払えば玩具は軽々と舞い上がる。
     それを見ためあは大はしゃぎだ。
    「めあも、めあも!」
     一緒に遊ぶと駆け出すが、咄嗟にアレクシスが押し止めた。
    「めあ。すまないが……」
     小さく首を振れば、めあはきょとんと見つめ返す。
     なぜ、と訊こうとして、
    「わぁっ」
     その口から漏れたのは感嘆の声。
     もふもふの猫がめあを抱き上げると、その身はすっぽり腕に納まる。
    「めあちゃん、お姫様はいい子で王子様を待つんだよ」
     ヘッドフォンをつけた妖精がめあを覗いて教えてやれば、
    「めあ、おひめさま?」
    「あぁ、そうだ」
     めあの問いに頷いたカエルの精霊に、小さな目は嬉しそうに見開かれる。
    「おっきい『える』だぁ!」
     すっかりご機嫌のめあにアレクシスはほっとし、後は任せたと手下達へ走りこむ。
     大きく踊るように捌き上げれば玩具達は宙を舞い、あちらこちらで上がる炎とクロスが彼らを明るく照らし出す。
     楽器を奏でる者がいればある者が歌い、またある者はそれに合わせてステップを刻む。
     霧が立ち込め風が吹き、雷が落ちたと思えば無数の流れ星が降り注ぐ。
     突然闇に堕ちた夢――けれど今は、たくさんのものが煌きとても鮮やかだ。
    「きれーなの……」
     思わずめあが呟いた。
     賑やかに歌い、踊り、戯れ合い、そして遊び疲れた玩具たちは眠りゆく。
     目覚めたときに、再び楽しく遊べるように。

    ●おもちゃの国のお姫様
    「勝手に人の夢に入っちゃダメじゃないか。ねぇ?」
     男は薄く笑い、漆黒の弾丸を撃ち出す。
     撃ち抜かれた祥互はうっと呻き、けれど何とか持ちこたえる。
     流石はダークネス、手下がなくとも彼一人で灼滅者五人と互角以上に渡り合っていた。
     でも、そんなことを負ける理由にしてはいけない。
    「それはてめぇの台詞じゃないだろ!」
     祥互の影がおもちゃの兵隊となり男を襲う。
    「玩具を悪い道具に変えちゃう人はおしおきだよ!」
     ニタカの喚んだ激しい雷が男を貫けば、反撃を許すことなくマリスが続く。
    「そらそらそら! どんどん行くぞぉ!!」
     次々に繰り出されるナイフ、どんどん増える斬り傷――なのに、男は笑みを絶やさない。
     余裕の表情で胸にスートを浮かべ、あっさりその身を癒してしまう。
     それでもイコは、槍を伸ばす。
    「一刻も早くめあちゃんをここから連れ出すの……ここから、皆で一緒に!」
     震える指で握りしめ、炎を纏わせ真っ直ぐに。
     何度回復されたって、ダメージは確実に蓄積してるのだ。
    「寂しさと必死で戦っていためあちゃんを、あなたの好きにはさせませんわ!」
     みやびの魔力が矢となって男の足を貫く。
     がくりと膝を突きかけ――しかし、彼は途中で動きを止めた。
    「悪い夢は、そろそろお終いです」
     言葉とともに現れたのは、手下の相手を終えた九。
     その指先から伸びる糸が男を絡め、自由を奪う。
    「遅くなってごめんね!」
     残りはアレクシスたちに任せてきたから大丈夫と、九に続き、湊も利亜と一緒に、皆と合流した。
     そしてシャドウに狙いを定め、引き金を。
    「このっ、めあちゃんの中から出て行けっ!」
     光線が男を射抜けば今度こそ彼は膝をつき、それでも不敵に微笑んだ。
    「小さなめあは私のもの……。めあは、私だけのお姫様でいいんだ」
     そんなはずはない――、
     誰もがそう叫ぼうとしたときだった。
    「ちがう、ちがうもん!」
     着ぐるみに囲まれ、玩具を眺めていためあが大きく声をあげた。
    「めあはあなたのじゃないの! めあはみんなとあそぶの!」
     もう独りぼっちじゃない。
     だから、だから、だから――!
     今にも泣き出さんばかりに必死なめあに、利亜がふわりと笑いかける。
    「めあちゃん、私達おもちゃにも、心があるのですよ」
     めあちゃんが寂しそうな顔したら寂しいのです。
     だから私達ここに来たです。
     めあちゃんは私達の友達なのです。
     大事大事なのです。
    「だから、笑ってくださいですよ」
     踊り子は駆け出し、リードを取ってシャドウと踊る。
     熱く激しく、追い込むように。
     男が弾丸を放てば、みやびの歌声が利亜を癒す。ニタカの光が彼を突き刺し、祥互の兵隊も踊りに加わる。九と湊の弾丸も襲いかかり、かわす隙も癒す暇も与えはしない。
     踊り終えた利亜から、イコが男の手を受け取り、ぶわりとその身に炎を燃え移らせる。
     そして、真紅に燃え盛る悪夢の主にマリスが刃を振りかぶった。
    「アンタはここにお呼びじゃねぇんだよ」
     だから、とっとと失せちまえ。
     振り下ろされた刃は闇を切り裂き。
     少女の悪夢を、終焉に導いたのだった。

    ●おもちゃがくれた勇気の魔法
    「めあちゃん、そろそろボク達はさよならの時間なのです」
     そう告げたのは湊だ。
     遊び終わればお片付け。
     めあの夢も、いつかは醒める。
    「さよなら……?」
     言ってめあが俯くと、ニタカがそっと駆け寄り髪を撫でた。
    「めあちゃん、大丈夫? 寂しくない?」
     じっと俯いたまま、めあは首を横に振り、そしてぱっと顔を上げるとにっこり笑った。
    「うんっ! いっぱいあそんだからへーきだよ!」
    「めあちゃん……」
     その笑顔がなんだか不安で、ニタカはめあの手をとり、小指と小指をそっと結ぶ。
    「寂しかったら、いつでも会いにいくからね。約束!」
    「やくそく……」
     めあは口の中で繰り返すと、解けた小指をじっと見つめ、ほわっと相好を崩した。
    「また、あえる?」
    「うん、まぁアレだ十年後くらいにとびきりの美少女になって――」
     げふんげふん。
     マリスが咳払いで先を濁せば、めあは大真面目に頷いた。
    「めあ、きれーになるよ!」
     そのときはおよめさんにしてね――なんて、どこで習ったのやら。
    「めあちゃん、ぼく達はいつだって君の傍にいるよ」
    「だから、どんな時でもめあちゃんは一人じゃないのです」
     祥互と利亜は口々に励ます。
     寂しいときには、きっと思い出して。
     一緒に笑って、一緒に泣いた――それは決して、ガラクタなんかじゃない。
     いつだって、おもちゃたちは君と遊べることを待っている。
    「夢が醒めてもきっと……覚えていてね、めあちゃん」
     九が犬のぬいぐるみとともにばいばいと手を振る。
    「めあちゃんなら大丈夫。学校へ行く様になればきっとすぐにお友達が出来るわ」
     イコの保証に、みやびも頷く。
    「そしたらいっぱい遊べますのよ!」
     だからその時を楽しみにしているとよいと思いますの、と。
    「ほら、アレクシスちゃん、笑顔笑顔」
     ニタカに小突かれたアレクシスは笑おうとして、けれどそのぎこちなさにすぐに顔を逸らした。
     途端。
    「ちゅ」
     ぐい、と引かれ、振り向きざまに膝をつけば、アレクシスの頬に何か――めあのパペット、えるの口が触れていた。
     いつの間にかはめたらしく、ぽかんと目を開くアレクシスに、声をあげてめあは笑う。
    「……またね、おもちゃさん」
     もう、さみしくないんだよ。
     だから、いまはばいばい。
     こんどはめあの、おへやにきてね。

    作者:零夢 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 23/キャラが大事にされていた 1
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