慈愛と贖罪、その先に

    作者:カンナミユ

    「シャドウ大戦への介入、よく頑張ってくれた」
     大戦の終結を伝えた神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)は、灼滅者達へねぎらいの言葉をかけた。
     四大シャドウの存亡をかけて争ったシャドウ大戦へ介入するという作戦に参加した灼滅者達は、それぞれが自分の役割を果たして連携し、行動した。
     その結果、闇堕ちしていた灼滅者を救出し、優貴先生を救出。更には四大シャドウの慈愛のコルネリウスと贖罪のオルフェウスの両名を連れ帰る事ができた。
    「シャドウ大戦はデスギガス軍の勝利という結果ではあるが、シャドウ大戦への介入は大成功だったと言えるだろう」
     そう言いヤマトは灼滅者達を見渡し、言葉を続ける。
    「コルネリウスとオルフェウスが優貴先生のソウルボードに居る事で、デスギガスの軍勢が学園に直接攻撃をかける事への抑止力になるだろうが、シャドウ大戦に勝利したデスギガス軍がこのまま黙っている筈は無い」
     大戦に勝利したデスギガス軍は、いずれ何かしらの行動を起こすだろう。
    「これからの戦いの為に、コルネリウスとオルフェウスとの調整が必要だ」
     そう言い、ヤマトは灼滅者達に慈愛のコルネリウスと贖罪のオルフェウスとの調整――話し合いをしてくるよう依頼する。
      
    「慈愛のコルネリウスや贖罪のオルフェウスとは、根本的な考え方に差異がある為、完全な協力体制を取ることは不可能だ」
     話し合いを依頼したヤマトはそう言いきるが、歓喜のデスギガスを灼滅するまでの短い間であれば、その目的の為に協力し合う事ができるだろうとも話す。
    「今回の目的は、今後のシャドウとの戦いにおいて、コルネリウスとオルフェウスにどう動いてもらいたいかを提案する事にある。提案の全てが受け入れられる訳では無いだろうが、立場的にも状況的にも、非常識すぎる提案でなければ受け入れてもらえるのではないかと俺は思っている」
     提案には条件をつけるのも良いだろうし、矛盾する提案などをした場合にはその提案をした理由などを説明する準備も必要だろう。
    「気を付けて欲しいのは今回の話し合いは、今後のシャドウとの戦いで、コルネリウスとオルフェウスにやって欲しい事を提案する事だ。歓喜のデスギガスを灼滅した後に、もう一度今回のような話し合いを行う事になると思うからデスギガスとの戦いに影響しない情報収集や提案などは行わないようにして欲しい」
     説明を終えたヤマトは資料を閉じ、灼滅者達へと真摯な瞳を向けて言葉を続けた。
    「この話し合いは、今後のシャドウとの戦いに大きな影響を与えると思われる。慎重かつ大胆な話し合いが行えることを期待している。……頼んだぞ」


    ■リプレイ

     その場所は、武蔵坂の教員のソウルボードの中にある。
    「……ミゼンが世話になったな」
    「俺であって俺ではないが、元メッセンジャー兼部下の顔ぐらいは覚えているだろう?」
     仲間達と共に足を踏み入れたレイと冬舞の声に二人のシャドウは静かに瞳を向けた。
     
     二人のシャドウ――『慈愛のコルネリウス』と『贖罪のオルフェウス』。
     
     シャドウ大戦にて敗北し、死を覚悟したダークネスの命を救ったのは灼滅者達。
     今後について話し合う為にやってきた仲間達の中には死せる命を踏みとどまらせた者もいれば、その血路を開いた者もいる。初めてその姿を目にした者もいるし、言葉を交わした者もいる。
     様々な思いや考えが灼滅者たちの胸の内を巡り――、
    「これから話し合いなんだし、甘い物食べて脳ミソ稼働させましょーう。あ、もちろんイフリートは入って無いから安心してねー」
     弥勒が差し入れにと用意したミニイフリート焼きとイフリート焼きが並び、
    「あくまで利害関係が一致しての協力関係といきましょうか」
     以前にミゼンと突然訪れた事に対する謝罪を改めて明日等がすれば、話し合いははじまる。
     
    ●慈愛と贖罪の手札
    「抱きしめさせて下さい! ほら! 士気って戦争に最も大切でござるからね!」
     彼女募集中だという木菟が欲望のままに話を切り出せば、見つめ返す瞳にこほんと咳払い。
    「今のコルネちゃんとオルフェちゃんの勢力はどんだけ戦闘員残ってるでござる?」
     それはこの先にあるであろう戦いにとって、重要な問いかけであった。
     この先、共に戦うのならば非常に重要な質問だが、それに返ってくるのは淡々とした声。
    「我々の手元には何も残っていない」
     オルフェウスの言葉に灼滅者達は目を見張る。
    「私達はシャドウ大戦で敗れました。そうなった以上、配下達も勝者であるデスギガス陣営に降伏したか殺されているでしょう……」
     共に戦った配下たちの事を思ってか、コルネリウスは瞳を伏せた。
    「そうなると、オブザーバーとして各監視所にオルフェ・コルネリ両軍の残存から人員を出してもらうのも無理ですか」
     頷くオルフェウスを目にフォルケは残念に思うが、配下達はいないというのなら、それを補うものはないだろうか。
    「『プレスター・ジョンの国」を活用せん手はあるまい」
     そう提案するのは悲鳴だ。
    「慈愛と贖罪の力を合わせれば、プレスター・ジョンの国からデスギガスに対抗するための戦力を呼び出すことも可能なのではないか?」
    「例えばパチンコ濃尾のスフィアマザーとか。これから先、戦力はいくらあっても足りないしね」
     悲鳴の提案にミレーヌは言い、
    「もっとも、かなり虫のいい話だろうとは思うけれど」
     六六六人衆が攻め込んだ時の、かの国の住人達を思い出し止水は言うが無理だろうと返ってくる。
    「プレスター・ジョンの国も大変な状況の筈です」
    「そもそも大戦に敗北して逃走した我々の頼みを聞くシャドウなどいないだう」
     確かに、勝者に背いてまで敗北した側につこうとするダークネスがいるとは思えない。
     ともなれば。
    「在野、もしくは無所属のシャドウを統制下、支配下におけない?」
     ライラは口にし和弥もコルネリウスやオルフェウスに従うシャドウ達に人間への干渉を控えるように二人の名前で同じ内容の御触れを出して欲しいと提案するが、その効は薄いだろう。
     闇堕ちした学園生――特にシャドウに成った者を、戦力として欲しいと理彩は思っていたが、さすがにそこまで把握しきれない。
     理彩が小さくため息をつく中、火華流は問うた。
    「二人は今、私達にどう動いてほしいの?」
     デスギガス軍の事のみ……と念を押すが、むしろ二人から堂々と提案・要求してもらいたかった。
     勝つ為の作戦があるのなら、それを話して欲しいと願うが――、
    「敗北を悟り、私達はもはやこれまでと覚悟を決めていました」
    「我等はあの場で死ぬつもりだった。あの戦いから撤退したのは、お前たちの説得があったからだ」
     説得がなければあの戦いで命を散らしていたと二人は話し、
    「つまり……」
    「私達から要求する事はありません」
     コルネリウスの声に火華流はぎゅっと拳を握りしめた。
     闇堕ち誘発による戦力の増強は控えて貰いたいと最低限の願いを告げるつもりの咲哉だったが、少なくとも二人にはその意思すらなかったに違いない。
    「デスギガスにどうやったら勝てるのか教えてくれないかしら?」
     嘘をつかないでほしいとも殺姫は言えば、コルネリウスとは瞳を閉じ、オルフェウスは眉をひそめた。
    「先ほども言いましたが、私達はあの戦いで死ぬつもりでした」
    「我々は持つべき兵も、策もない。死を覚悟した我々が何故、お前達に嘘をつくのだ」
     そのやりとりを聞き、琥太郎はごくりと息をのむ。
     自分達はデスギガスの戦力に勝てる目算はあるかを聞く為に、ここに来たのではない。
    「僕達はデスギガスを倒したい」
     そう、真名が口にしたように、勝つためにできるコトを提案する為に、ここに来たのだ。
     
    ●武蔵坂が見せる札
     さて、どのようにしてデスギガス軍と対峙するか。
    「アガメムノン、撃破すべく三段構えの策を提案、進言致したく」
     そう言うのは仲間達と策を練ってきた泰孝だ。
    「三段構えの策、とは?」
     問うオルフェウスに泰孝が進言するのは大将軍アガメムノンを撃破すべく練られた3段構えの作戦。
    「どちらか、もしくはお二人で軍師の暗殺ができないかしら?」
     シャルロッテは言い、
    「タイミング狙って歓喜を引きずり出すために、『贖罪さんと慈愛さんにはつぶし合いのフリをしてもらう』ってどう?」
    「潰しあい、ですか」
    「奇襲攻撃のための誘き出し役、もしくは囮役をお願いしたいのです」
     セリーナとウサギの補足にコルネリウスは呟いた。
     3段構えの作戦は『状況的に不利な贖罪が武蔵坂と手を組んで慈愛と戦闘に入ったが、武蔵坂が裏切って共倒れを狙っていた為、贖罪も慈愛も灼滅された』という芝居をするというもの。
     敗戦に見せかけアガメムノンを現実につり出し、撃破する。
    「――アガメムノンの灼滅の件ですけども……こちらの担当は直接戦闘で、相手との交戦はこちらがほぼ引き受けますわ……攻撃された場合は、コルネリウス様・オルフェウス様の即時撤退等、壊滅から全滅へは繋がらない様に配慮致しますわ」
     アリスお嬢様を横にミルフィは言い、
    「こっちが直接戦うからジャミングをナミダ姫に頼むんだおっ」
     作戦実行を確実にする手段としてスサノオ、ナミダ姫の助力という手段を考案した、マリナと真冬はそれを提示しようとするが――それは一度きりの手札。それを使うかどうかはこの場にいない者も含め武蔵坂全体で検討する必要があるだろう。
    「確かに、アガメムノンを暗殺する事が出来れば、デスギガス軍に大打撃を与える事ができますね」
    「というわけで、アガメムノンを引きずり出す、襲撃する策について同族としての知恵を借りたいデース」
    「今回はアガメムノンを討ちデスギガス軍の弱体化を狙うのが目標じゃ。その後にデスギガスを討とうぞ?」
     作戦の内容を聞き終えるコルネリウスにウルスラと真央は言うが――、
    「アガメムノンは強力なシャドウだ。それを実体化させればアガメムノンだけを撃破するのは容易ではないが、何か策はあるのか?」
    「それは……」
     オルフェウスの問いにシャルロッテは仲間達へと視線を向ける。
     アガメムノンが実体化できるのは、『デスギガスの実体化に連れてきてもらう』か『サイキックリベレイターの効果により、シャドウ全軍が現実世界に実体化できる状態になる』のいずれかである。そのどちらの場合も、アガメムノンだけを撃破するような状況には持ち込めない。
    「デスギガス勢力はシャドウ大戦の勝者であり、今やソウルボードの支配者です。今更、大将軍アガメムノンが少ない戦力で前線に出てくるような事はありえないでしょう」
     コルネリウスの発言は、暗殺作戦の実現性を失わせるには十分すぎるものだった。
     アガメムノンが率いてくるであろう配下達を抑えてもらい、アガメムノンを孤立させる提案を明日香は口にできなかった。無論、アガメムノンを武蔵坂に引き入れたり、孤立させるという鎗輔の考えも実現は難しいだろう。
    「つまり、シャドウ大戦の戦いが、暗殺できる千載一遇のチャンスだったんですね」
    「あの時より今はずっと状況は悪いんだお……」
     機会を逃したのは大きかったと真冬は思うが、あの戦いの中でそれを実行するにはリスクが高すぎた。マリナもしょんぼりするが、アガメムノンの撃破という提案そのものは悪くなかった。
    「暗殺は不可能でしょうが、デスギガス軍の弱点がアガメムノンであるのは間違いありません」
    「では戦争となった際には作戦に組み込めるよう進言致してみるか」
     コルネリウスの言に泰孝は頷いた。
    「アガメムノンさん討伐の後になりますけど……何れ来るデスギガスさんとの決戦の為、コルネリウスさん、オルフェウスさんに、戦力の建て直しをお願いします……具体的にはアガメムノンさんが支配、統括していたタロット兵さん、タロットの吸収でしょうか……」
     手作りお菓子を持参したアリスは尋ねるが、最善は尽くそうとオルフェウスは応え、そこでアガメムノン暗殺計画は区切られる。
     
    「デスギガス自ら侵攻してきた場合の手立てとしてグレート定礎の力は有効だろうか」
    「第2次新宿防衛戦では影ながらでもデスギガスとの戦いに協力してくれてたし、今度も協力を得られるなら心強いなの!」
     そう、シグマとサナは口にする。
    「今年の4月頃の名古屋で起こった決戦の後からソウルボード内にご当地怪人が居たということが何度かあったんだけど……。もしかして二人のどちらかがザ・グレート定礎というこんな頭をしたご当地怪人をソウルボードに招き入れたとかいうことはありませんでしたか?」
     看板を持って法子は尋ね、
    「グレート定礎は現在六六六人衆として再誕した状態だが、行動原理がご当地幹部のときのままならば、デスギガスの力を押さえ込むことに協力的かもしれない」
     千尋は言い、グレート定礎に協力を仰いでみるのはどうかと提案するが、一度灼滅され人為的に蘇ったダークネスは、果たして同一なのだろうか。
     再誕した定礎は別の存在と考えた方が良いだろう。
    「ハンドレッド・コルドロンの後、復活したザ・グレート定礎配下の定礎怪人がソウルボードにいる事件が結構あったなの。だから、シャドウとザ・グレート定礎は繋がってると思ってたけどなの」
     サナは言い、ふと、繋がっていたとしてシャドウ――デスギガス勢力は六六六人衆と繋がっていた事を思い出す。
     現在のグレート定礎が仮に同一だったとしても、デスギガス勢力寄りの立場の可能性が高いだろう。
     
    ●札をめくる、その間
    「先達各位の言葉に応じてくれた事に感謝する、取り得る手段を知る為にも、推測込であれ可不可の回答や情報が欲しい、協力を頼みたい」
     デスギガス対策の為に情報を得たいという純也の申し出にコルネリウスとオルフェウスは快諾する。
    「どのような事を聞きたいのですか?」
    「聞きたいことは8つある。まず最初に――」
    「そんなにあるのか」
     絞り込めないのかとオルフェウスが言葉を遮る中、次に問うのはエリザベートだ。
    「デスギガスの目的や、灼滅者を嫌う理由について、何か心当たりはない? 推測込みでも構わないけど」
    「憶測でもいいから心当たりだと? 随分と曖昧だな」
    「もっと具体的な質問だと助かるのですが」
     困惑する二人に今度はいろはが問いかける。
    「現在コルネリウスとオルフェウス間ではどの様な約定が結ばれているの?」
     既に密約が結ばれていて、デスギガスを倒した後に即座に掌返しをされても困るからという理由のそれ答えるのはコルネリウス。
    「デスギガス軍の脅威を払うまで、オルフェウスには将軍として戦ってもらうというものでしたが……大戦で敗北した以上、この約束はないも同然です」
     特に敵対する理由もない二人にシャドウ大戦へ至った理由を一真が問えば、シャドウ大戦はソウルボードの支配権をかけた戦いだとオルフェウスは答えた。
    「四大シャドウの戦力が拮抗していた為、ソウルボード内を分割統治していましたが、絆のベヘリタスが灼滅された事で、勢力バランスが崩れてしまいました」
     そうコルネリウスは言い、戦えば勝てる状況になれば戦いを仕掛けるのはダークネスとしてごく普通の事だとオルフェウスも言う。
     
    「お伺いしたいのですが、デスギガスはなぜ、アガメムノンを友達と認識しているのでしょうか?」
     丁寧に名乗り質問するのは清美。
     デスギガスは何も覚えていられないはずなのに、それだけは覚えている事が不思議だと話し、
    「アガメムノン以外にも、デスギガスが友達と認識している存在は居るのでしょうか?」
    「確かに、アガメムノン以外にデスギガスに友達と認識している者は確認されていないが……おそらく、出会った瞬間に友達だと思ってもらえるような相性を持っているのではないだろうか」
     オルフェウスがそう話すのを聞きアイスバーンはアガメムノンを倒した後のデスギガスに何か入れ知恵をと考えたが、それは難しそうである。
     そして流希がデスギガスの弱点であるへそについて尋ねれば、へそを制圧し激痛を与えれば撤退させることができると返ってくる。
    「撤退させるだけでは撃破という事にはなりませんよねえ……」
     では歓喜の門についてはどうだろう。
    「アガメムノン潜伏先の拠点が歓喜の門と推測されるなら門に繋がる経路は利用可能ですか?」
     ヴァレニアはそう問い、
    「コルネリウスさん、オルフェウスさんの力で『歓喜の門』を封じることはできるでしょうか?」
    「急所の歓喜の門を陥落する方法があれば教えて貰えないか?」
     桃花と布都乃が聞けば、コルネリウスは揺れる髪をすと払う。
    「デスギガスを灼滅出来る状況で私達がその場にいれば、試す事は出来ると思います」
    「試す?」
    「やった事がないからな」
     夕月が問えば、試みたとしても、結果がどうなるかは分からないとオルフェウスは答えた。
     
    「タロットはコルネリウスさんやオルフェウスさんも使用できるのですか? もし使用できるのなら、学園側でも力の恩恵を受ける手段や方法はあるのでしょうか?」
    「タロットの力を武器化した『タロットの武器』の事ですね?」
     コルネリウスに頷く陽桜に続いて暦生と采も願い出る。
    「俺らでタロットを武器として扱う、なんてことは出来るのか?」
    「お嫌かもしれませんが、タロットの武装化技術を、歓喜のデスギガス戦の間だけで構いません。力貸して貰えませんやろか?」
    「タロット武器はタロット兵が普通に所持するものだからな。いわば量産品。我々も使えるが、役には立たん」
     タロット兵が装備する武器よりも自分達は強力な武器を持っているのだから、持ち替えては戦闘能力が落ちてしまうという事だ。
     灼滅者が持つ『殲術道具』も、タロットの力が流用されている。なので灼滅者がタロットの武器を奪い、それを自分が使おうとした場合、性質が変化して殲術道具になるので、タロットの武器を奪っても特に意味ないという。
    「武蔵坂がタロット武装化技術を使ったとしても、普通の殲術道具になってしまう、という事なんやな」
     残念そうに采は言い、
    「シャドウの『王』、『赤の王』について教えてください」
    「『赤の王』って……あるいはプレスター・ジョンのことではないの? かの者の助力を得ることはできないの?」
     紅緋とハイナが赤の王の存在について尋ねれば、プレスター・ジョンではないとの言葉が返る。
    「赤の王は、サイキックリベレイターが稼動した時に、シャドウをソウルボードに導いた存在。赤の王の存在がいなければ、ソウルボードに避難するということは不可能だっただろう」
     そうオルフェウスは言う。
     ソウルボードに避難したシャドウを分解してソウルボードと一体化させようとした為、赤の王は現在の四大シャドウが、歓喜の門に封印しているという。
    「それが目覚めた時、交渉で私達の側へ付かせることが出来る存在なんでしょうか?」
    「赤の王がどのような存在で、どういう目的を持っていたかは不明ですが、ソウルボードと一体化した強大な存在であったのは間違いありません」
     そう話すコルネリウスは空を見上げた。
    「……あと質問はいくつだ?」
     まだ続きそうなのを察したオルフェウスはふう、と息をつく。
    「では最後の質問はあっしが。よござんすか?」
     質問続きの最後に魔導書を手にした娑婆蔵はそれに搭載された能力や、新宿橘華中学でベヘリタス分割存在と逢った事や魔導書の入手経緯を仔細に説明し、
    「この魔導書にデスギガスへのカウンターとしての特殊な作用は存在しやせんでしょか?」
    「特殊な作用? そんなものはない」
     そこで問う時は終了した。
     
    ●めくる1枚、その札は
     ふわりと優しい風が頬を撫で、コルネリウスの髪が揺れ。
    「デスギガス、それにアガメムノンはの目的はいったい何なのだろう」
     シャドウ大戦に勝利しソウルボードの支配者となったダークネスの目的について思案するレイのつぶやきに、赤の王が歓喜のデスギガスを灼滅する可能性を考えていた冬舞の脳裏に、ふと逆の可能性が湧き上がる。
    「赤の王……ソウルボードと一体化した強大な存在……。まさか、アガメムノンの目的は『赤の王タロット』の力を得る事だろうか?」
    「もしそうだとしたら、防ぎようがありません」
     その可能性に佳奈美が言えば、
    「ソウルボード内で歓喜の門を開けば、赤の王の力は再びソウルボードと一体化してしまうだろう。だから、赤の王の力を取り込もうとするのならば、ソウルボード以外……つまり、現実世界で行う必要がある」
     そうオルフェウスは言う。
     アガメムノンの目的がそうであるならば、それは、つまり。
    「デスギガスの軍勢が、現実世界に出現する……?」
    「うにゅ、デスギガスは第二次新宿防衛戦の時に出現しているし、すぐ出てこられそうなの!」
     風蘭とサナは言うが、どうやらそう簡単は出てこられないようだ。
    「デスギガスが地上に現れる為には、業大老や光の少年タカトのような『強力に外から呼びかける力』が必要だ。現在のデスギガス勢力は、六六六人衆と協力関係にあるから、六六六人衆の協力で現実世界に出現するための儀式のようなものを行わせているのではないだろうか」
    「デスギガスに与する六六六人衆……まさか、暗殺武闘大会が?」
     オルフェウスからの説明にまさかと口にする樹斉に灼滅者達の間にざわめきが起こる。
    「武闘大会って、まだ予選がはじまったばかりだよね」
    「そうなると、儀式が完成するよりも、サイキックリベレイターの効果によって現実世界に出られるようになるのが先かもしれないね」
     雪紗と心太は言葉を交わし、
    「そうなると、彼らがいつ現実世界に出現可能になるかが重要になってきますね」
     空子は言うが、それにはコルネリウスが答える。
    「サイキックリベレイターの効果がシャドウ全体に効果があるならば、私たちも予測する事ができるでしょう。私達が実体化できるタイミングで、デスギガス達も実体化できるはずです」
    「エクスブレインの予知もあるし、奇襲をかけられる事は無い筈だから、迎撃は可能だよね」
     陽太も頷いた。
     だが、迎撃は可能だからといってこちらが待っているだけではどうしようもない。いずれ起こるであろう戦争に向けて少しでも戦力を削っておく必要がある。
    「先にこちらから打って出ないとっすね」
    「普通のソウルボードでは戦場として脆いでしょう。頑丈な戦場か、壊してもよい戦場か、何か当てはありませんか」
    「罠に嵌めるのに適した場所……できれば、ソウルボード内でそういう場所に心当たりはない?」
     雅と武之介、白雪が問えば、やはり候補として挙がるのは『かの国』だ。
    「ヤツが以前狙ったプレスター・ジョンの国が使えると思うんだが、どうだろうコルネリウス」
    「プレスター・ジョンの国の住人の力を借りられないか?」
    「無理なら残留思念の妨害が無い場所を選びますが」
     矜人と徒、通は言い、
    「『搭、世界、節制』を持つ理想王プレスター・ジョンと共闘できないかな」
    「大淫魔スキュラ、絞首卿ボスコウ、ご当地幹部ゲルマンシャーク。他にも沢山、あなたが彼の国へ送った残留思念達。今が彼らの使い時では?」
     楔とアリスは言うが、やはりそれは難しいようだ。
    「ソウルボード内に攻め込む作戦については、プレスター・ジョンの国経由ならば確かに可能だが、プレスター・ジョンの国は既に制圧されている筈だ」
    「危険ですし、プレスター・ジョンの国の住人が防衛に回されていた場合は、敵の戦力を削る事もできないでしょう」
     そう話す二人を目に式は小さく息をつく。どうやら国王への謁見は不可能のようだ。
    「ソウルボード内に攻め込むのが難しいとなれば、やはり現実世界しかないか」
    「ただ、力の弱いシャドウが散発的に現実世界に出てくる事件が起こっているのは、デスギガス側も察知し始めている筈。現実世界へ出る事を禁止しつつ、現実世界に出られる戦力を使った地上侵攻作戦のようなものを行う可能性がある」
    「ゆくゆくは自分達も出られるようになるという事をシャドウ達が知らなければ、協力者である六六六人衆と合流するような作戦を行うのでは無いだろうか」
     難色を示すセイに脇差と死愚魔の言葉を聞いたリーファは思案し、
    「もしそのような作戦が行われるのであれは、そこを襲撃して一網打尽にできないでしょうか」
    「悪くない作戦だな」
     その提案にオルフェウスは言い、そこへ燐がこれから起こるである事についての提案をする。
    「デスギガス軍が大軍で侵攻してきた際……戦争となった際は友軍として御一緒に戦って頂きたいです」
     その提案にダークネス二人の瞳が向き、
    「アガメムノン灼滅によるデスギガス軍の指揮系統の崩壊を実現するための戦闘支援を要請する」
    「一緒に戦ってほしい。可能な範囲で援護してほしいんだ」
     明日香、明彦からの提案を静かに聞いた。
    「支援の内容については敵の作戦が分かってからになりますが、……シャドウのご両名、いかがでしょうか?」
    「異論はない」
    「問題ありません」
     オルフェウスとコルネリウスは眠兎から問われ、快諾する。
    「コルネリウス、オルフェウスの死が前提の作戦はなしで願いたい」
     謡の提案にシエナは賛同し、
    「出来ればコルネリウスさんもこの部隊でわたし達を助けて欲しいところですの……」
    「シャドウ大戦で敗北した私達に部下はいませんが、できるかぎりの支援を約束しましょう」
     残念がるシエナにコルネリウスは優しく言うのだった。
     そして、
    「出来る限り先生への負担を減らすために他のソウルボードにいるようにするとかどうです? たとえば、ボクとかドウでしょう……」
     そうあきらは提案するが、
    「引き続きユウキ先生のソウルボードを守って貰えないだろうか」
    「これだけは絶対に譲れない条件だが、頼めないか?」
     璃依と摩耶の提案にコルネリウスは了承する。
    「デスギガス軍が優貴先生のソウルボードを利用した奇襲攻撃への警戒、そして戦争となった場合は、現実世界に出現して増援として必ず手助けをしましょう」
     その言葉にオルフェウスも同意した。

    ●めくるは更に、もう1枚
     ソウルボードの持ち主である優貴は、璃依が淹れた煎茶を手に生徒達とシャドウ二人とのやりとりが続くのを見守っていた。
     ことりと湯呑みの音が響き。
    「シャドウが六六六人衆と組むならば、こちらも相応の手段を取る必要があるだろうね」
    「相応の手段とは?」
     そう言う拓馬にオルフェウスが問えば、
    「朱雀門と共闘するしかねぇな! リスクはあるが、相応のリターンもあるぜぇ!」
    「シャドウが現実世界に現れる事態は、朱雀門としても避けたい筈」
     ダークネスへ向くのは、ゴンザレスと千尋の提案だ。
     実は『強化されたデスギガス軍が地上に進出しようとしており、現在地上で強力な勢力である朱雀門への侵攻も狙っている』と嘘の情報を流し共闘する作戦を提案をするつもりだったが、まさか本当にデスギガスが現実世界に出てこようとしているとは。
     メモ書きへ視線を落とすジュンは顔を上げ、
    「共戦協定を結ぶしかないよな」
    「そうですね」
     ジュンに同意する京一達に反対する者はいなかった。
    「朱雀門が爵位級ヴァンパイアの灼滅を狙っているのならば、それも交渉の材料になるかもしれないわね」
    「じゃあ早速、交渉の準備をはじめようか」
     樹と拓馬の会話をコルネリウスとオルフェウスはただ静かに聞いていた。
    「サリュ、ご両人。ここは任せてくれないかな?」
     千尋が聞けば、反する意見はなく。
    「じゃあ、話し合いはここまでかしら?」
     優貴は言い、ダークネスとの調整――話し合いはここで終わる。
     武蔵坂へと戻ろうとする灼滅者達をダークネス二人は見送るが、ふと、こちらへ立ち止まりこちらへ戻る姿を目にとめた。
    「どんなヤバい状況でも命は捨てるな。諦めるな。必ず助けにいく。味方のうちはどんな無茶でもしてやるさ」
     そう言いレオンは握手でもと手を差し出すが、
    「あ、嫌? デスヨネー」
     その反応にくるりと踵を返し、仲間達と共に武蔵坂へと戻っていく。
     コルネリウスとオルフェウスが見送るその顔を知るのは優貴、ただ一人。
     
     慈愛と贖罪の先にひらかれたのは、朱雀門という新たな道。
     その道がどのような道なのか。その道の先に何があるのか。
     それを知る者は、まだいない。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月2日
    難度:簡単
    参加:86人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 16
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