シャゲキ・ヨロコビ・バレットストーム

    作者:空白革命

    ●弾丸だらけの悪夢の中で
     死体と消炎と鉛。
     死屍累々の悪夢の光景が、部屋の中へ半透明に浮かんでいる。
     全身を影で覆ったような不思議な人型物体が、『こちら側』へ歩いてくる。
     『こちら側』へ銃を向け、乱射。
     破壊された壁のようなものをのりこえて、人型物体……いやシャドウは現実へと実体化した。
    「実態を、得た。得た」
     悪夢の光景は消え、夢の主であろう男性は眠っている。
     シャドウは男性をそのままに、ドアを開けて部屋を出た。
     安アパートの一室のようだ。
    「この場はつまらない。もっと人の居るところへ行こう。行こう」
     手には銃。
     影で覆われたような人型物体。
    「沢山居るところで、沢山殺したら、きっと楽しい。楽しい」
     シャドウは、ネオン街へ向けて歩き出す。
     
     その後の光景を少しだけ語ろう。
     明滅するネオン。とびちる火花。
     壁にもたれかかったホステスの死体。額に穴。
     地面にうずたかく積もったサラリーマンの死体。みな、額に穴。
     這いずって逃げる女の足は、だくだくと血を流している。
    「もっと逃げて。逃げて」
     悲鳴をあげる女。振り返ると、人型物体が銃を額に押し当ててた。
    「もっと恐怖して。恐怖して」
     トリガーを、引く。
     
    ●回避できる未来
    「シャドウ大戦、お疲れ様。さすがのタロット兵も武蔵坂のチームワークの前ではってな具合だったな。あの後なんだが、デスギガスの連中の中でも力の弱いシャドウが現実世界に実体化しはじめてるらしい。サイキックリベレイターの影響でな」
     現実に現われたシャドウは、現実世界での自由に浮かれているという。
     これがタロットシャドウだったなら大惨事なのだが、シャドウ大戦で多くを灼滅したことで回避できているのだ。
    「今回のターゲット、『バレットストーム』はそんなシャドウの一体だ。こいつが調子に乗って恐怖ムービーを現実の物にするまえに、灼滅する必要がある」
     そう、あの惨劇は未来の出来事。回避することができるのだ。
     
    「バレットストームは銃への恐怖を形にしたようなシャドウだ。銃で恐怖を与えたり、銃撃戦を交わしたりすることに喜びを感じている節がある」
     戦闘に最適な場所はネオン街。
     人が沢山いはするが、出現地点が分かっている分散らすのは難しいことじゃあないだろう。
    「こういうシャドウはこれからも増えてくる。けどな、そいつを片っ端からぶっ潰して行けば確実に敵の勢力は弱まる。やってやろうぜ!」


    参加者
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    桜川・るりか(虹追い・d02990)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)
    白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)
    坂東・太郎(もう寮母さんでいいです・d33582)
    楯無・聖羅(天罰執行人・d33961)
    貴夏・葉月(紫縁は終末に咲く月華のイヴ・d34472)
    ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)

    ■リプレイ

    ●クタバレバケモノ
     物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)はリボルバータイプの拳銃に弾を一つずつ込めながら軋むように笑った。
    「射撃に喜びを見いだすか。変なシャドウもいたもんだな」
    「既視感があるけど……ま、いいや」
     ナイフを布でぬぐって、さくりとホルダーに納める鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)。「無駄骨はごめんだからね、囲んで潰す」
    「同意。折角だし遊びに付き合ってやるとするかね」

    「日本で銃の乱射事件だなんて、世も末ですねえ」
     肉まんを割ってもふもふ食べる白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)。
    「食べ歩きなんてお行儀の悪い。帰ったらご飯してあげるから。何食べたい」
    「お米」
     などと言いながら、坂東・太郎(もう寮母さんでいいです・d33582)の頭上から信夫さん(ネコ)を奪って首に巻く雪緒。
     いいなあそれという顔でウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)が手を伸ばすが、信夫さんはその手を肉球で弾いた。
     手をさするウィスタリア。
    「シャドウもシャドウで、おんもに出た程度でなにを浮かれてるんだか。引きこもりは楽しいのに」

     冷たい蝋燭に息をフッと吹きかける貴夏・葉月(紫縁は終末に咲く月華のイヴ・d34472)。それだけで蝋燭にはバラ色の炎が灯った。
     それを戦闘の合図と受け取ったのか、楯無・聖羅(天罰執行人・d33961)がライフルを担ぎ、周囲に殺界形成を展開していく。
    「トリガーハッピーか。なら、私の出番だな」
    「ふむふむ……」
     桜川・るりか(虹追い・d02990)は人払いの結界を張りつつ、ぎゅっと拳を握った。
    「夜のご飯を美味しくするために、張り切っていくぞー! おー!」

    ●オヤスミケダモノ
     影に覆われた人型の物体が、全身を覆うようなローブを頭まですっぽり被って歩いている。シャドウ『バレットストーム』。
     ネオン街へと足を踏み入れた彼を待っていたのは虐殺の的となるか弱き人々では無かった。
    「ようこそ乱射魔」
    「アンチマテリアルライフルが似合うわねえ、聖羅ちゃん」
     ライフルを構えた聖羅と、一見素手のまま立つウィスタリアである。
     ローブの奥で目らしき光を細めるシャドウ。
     このタイミング。立ち振る舞い。そしてバベルの鎖越しにみえる格。彼は全てを察したようだ。
    「灼滅者……」
    「そういうことだ。撃たれる側の気分を味わえ!」
     聖羅の射撃を紙一重で交わすシャドウ。その途端ウィスタリアは両手から放った糸を引いてそこかしこに仕掛けた火縄銃を連続発砲。
     数発が着弾したそのタイミングを狙って聖羅は一気に距離をつめにかかった。ライフルをあえて乱射しながら突撃。
     シャドウは路地の裏へと飛び込んで追撃を逃れたが、そこには狭霧が潜んでいた。
    「射撃に夢中になりすぎて、背中ががら空きよ」
     物陰から飛び出した狭霧がシャドウの背中をナイフで切り裂き、その場から即座に離脱。
     振り返ったシャドウが銃を向けるが、頭上で両手両足を壁に突っ張ってこらえていたるりかが急降下。腕を異形化させると、シャドウの突きだした拳銃を腕ごと殴りつけた。
     腕らしき部位がへし折れ、なにもかもが吹き飛んでいく。
     もう一丁の銃を抜いた所へ、暦生が一気に距離を詰めた。翻る白衣。
     銃撃の寸前に自らの銃で腕を払って軌道を強制変更。頬上一センチの場所を弾が抜けていく。
     それに構わず暦生はシャドウの胸に銃を押しつけ、トリガーを引けるだけ引きまくった。
     乱発された銃撃によって裏路地を抜け、別の通りへと転がり出てくるシャドウ。
    「『希望を叫べ希望に手を伸ばせ、癒やし繋ぐ導き手降臨!』」
     待ち構えていた葉月が蝋燭の炎を振ると、煙がもくもくとふくれあがってシャドウの視界を塞いでいく。
    「貴様のいう悪夢とやらもたいしたことは無いな。この程度、もはや慣れた」
     声が煙の中であちこちへブレていく。
     気配を感じて背後へ振り向き、銃を向けたその途端、横合いから狙い澄ましたようなバスタービームが彼の肩を貫いていった。
     よろめくシャドウ。
     反撃にと銃を乱射するも、煙の向こうで描かれたネコの魔方陣がカウンターヒール。弾が潰れて地面をはねる。
     煙がはれるや否や、雪緒が車輪移動式の奇環砲と共に現われた。
    「それじゃあ、いってみようか雪緒ちゃん」
    「よろこんで」
     クランクを握り、勢いよく押し回す。
     物理法則を無視して放たれたガトリング射撃がシャドウを襲い、ローブはたちまち穴あきチーズと化したのだった。

     哀れシャドウ・バレットストーム。
     灼滅者に翻弄され手も足も出ずにあえなく死滅。
     これにて騒動、一件落着。
     ――と、なればこの世はここまで堕ちてはおらぬ。

    『恐怖』
     声がした。アルミホイルを噛み千切ったようなギザギザした声がした。
     どこからともなく。
     いや。
     彼らを包む、全ての空間が直接振動して、声となっていた。
    『恐怖して』
     ぬん、と雪緒の眼前五センチの位置に現われる銃口。
     正確にはチェコスロバキア製ブルーノZB Vz37重機関銃の先端である。SF映画の光線銃よろしくねじ巻き構造となった銃身が唸り、毎分七百発の銃弾が飛び出したのである。
     防御や回避など言っている場合ではない。
     なぜならば。
    「雪緒ちゃ――!?」
     横から彼女を突き飛ばして避けさせようとした太郎の眼前にも、空間を無視して日本帝国製九二式重機関銃の銃口ががつんとぶつかったのだ。
     それだけでなない。
     オーストリア製シュワルツローゼ、ソビエト製PM1910、イタリア製フィアットレベリ、イギリス製ヴィッカースにアメリカ製コルトブローニング、ついでにフランス製ホッチキスに至るまでよりどりみどりの重機関銃があらゆる空間から突如現われて乱射の限りを尽くしてきたのだ。
    「う――おおおおおおおおお!?」
     信夫さんに即時回復を求めたが何分もたせられるだろうか。いや、何秒だろうか?
    「くだらぬ、菫!」
     葉月はビハインドの菫を無理矢理盾にして煙を最大展開。
     自らを紫色の煙に隠して弾幕を逃れていく。
     弾幕は周囲の光景そのものを破壊し、窓は割れ立て看板は砕けネオンプレートは爆発した。
     通りの中央に人の形をして集合する影。
     その背後に音も無く忍び寄った狭霧がナイフを繰り出す――が、シャドウは背中からGAU-8アヴェンジャー・ガトリング砲を露出。ヴン、という重い音と共に毎分4000発の銃弾が吹き出した。
     こうなればヒットアンドアウェイなどと言っている場合ではない。咄嗟に障害物の影に飛び込むも、障害物ごと狭霧は吹き飛ばされた。
     追撃――の前に横合いから飛びかかる暦生。
     二丁の拳銃をそろって相手のこめかみに押し当てるが、同時に自分の額に押し当てられたのはFIM-92 スティンガーミサイルランチャーである。
    「ミサイルはずるいだろぉ」
     苦笑する暦生。爆発が辺り一面を包んだ。
     爆炎を抜け、るりかが暦生を小脇に抱えて飛び出してきた。
     ミサイルが彼女を追う。
     るりかは顔をひきつらせ、後ろ手にカマイタチをおこして軌道を無理矢理ずらした。側面のビルに突っ込むミサイル。爆発と共に窓ガラスが連鎖的に吹き飛んでいく。
    「んひゃあ!?」
     前のめりに飛んで爆風をしのぐるりか。彼女にかわって聖羅が滑り込み、ライフルを構――えかけて横っ飛びに回避。
     火の付いたガトリング射撃が抜けていく。
     転がりからのうつぶせ姿勢でライフルを発射。更に転がりながらリロード、連射。
     頭上を抜けたミサイルが側面のビルに突き刺さり、がれきが吹き飛んで聖羅の頭上へ降り注ぐ。
     歌と共に糸をたぐり、がれきを押さえ込むウィスタリア。
    「めちゃくちゃするわね、こいつは……!」
     中指にくくった糸を勢いよく振り上げ、地面から大砲を露出させた。指をグッと畳んで発砲。
     巨大な光の球がシャドウめがけて飛び、爆発の煙を払っていく。
     はれたその先に現われたのは、なんとも形容しがたい巨大な暴力そのものであった。
     銃社会に対する漠然とした恐怖。
     戦火と銃声に脅かされる恐怖。
     恐怖、恐怖、そして悪夢。
    「シャドウ、バレットストーム……なるほど、随分悪夢めいたお姿ね」
    「けど、そんなナリを見せたってことは、もう逃げる気は失せてるってことかしらん、っと」
     雪緒を小脇に抱え、がれきの中から太郎が姿を現わす。
    「いちいち物理法則やら常識やらを破壊するの、やめてくれないかしら」
     砕けた看板を投げ捨てて立ち上がる狭霧。
     葉月も建物の屋上からいつの間にか姿を見せていた。
     相手は。
     と言うより悪夢めいた空間と化したシャドウは、瞬きのように全ての銃器をリロードした。
    『恐怖、して』

     葉月のやるべきことは天地開闢から宇宙消滅まで同じである。
    「悪夢の残りカスめら。未来永劫眠るといい」
     両手を開くと、全ての爪に紺碧の炎を無数にともした。腕を振るや、無数の煙が複雑軌道を描いて走る狭霧たちを覆っていく。
     煙が走るたび、飛来する大量の弾頭が弾かれていく。
     それでも抜けてきた弾頭を、狭霧はナイフで打ち弾いた。
    「制圧射撃といっても直線移動。柄の無い槍! 360度カバーしたところで、防げない軌道じゃあないのよ!」
     相手のガトリング砲を踏みつけにして、相手の顔面があろう場所にナイフを突き立てる。
     周囲の空間が凝縮し、人型の影へと変化。
     どこからともなくL96A1が出現し、腕に握られた。
     狙いは狭霧――ではなく壁を駆け上がって回り込んできた暦生である。
     発砲。カウンターバレット。
     弾丸が空中で潰れ、軌道がややぶれた瞬間をかいくぐるように暦生はシャドウに接近。掠った弾が眼鏡にぶつかりレンズを砕いていく。ひきかえ、ついにガンナイフを頭に突き立てる。
     歪むように笑う。
     穴だらけの白衣が翼の如く広がる。
    「おっけー、脳みそ鉛玉に入れ替えてやる」

     大地に足を踏みならし、雪緒は両手を振り上げた。
     長く長く伸びた帯が、大量の火縄銃の銃口を上げさせる。
    「たまごめようい」
     99ミリNATO弾が腹を抜けていく。
    「ひなわつけ」
     51ミリNATO弾3000発が全身を抜けていく。
    「ひぶたきれ」
     空白。
     雪緒は両手を一斉に下ろし。
    「はなてェ!」
     全弾一斉に発射。弾丸がシャドウへ集中。貫いていく。
    「あははははは! 蓮の実のようじゃあないですか! あはははははははは!」
     唯一あく片目を限界まで見開いて笑う雪緒。
    「これ以上は雪緒ちゃんがヤバイ。林ィ! ぶっ込むぞ!」
    「うっス!」
    「なんだその口調は?」
     太郎、ウィスタリア、聖羅が同時に飛びかかる。
     大量の銃器を向けるシャドウだが、るりかがパチンと指を鳴らした。
    「マグロ戦車――」
     地面を貫いて飛び出したマグロ戦車。
    「突撃!」
     るりかが拳をズンと突きだした途端、マグロ戦車は砲撃を乱射しながらシャドウへと突撃。
     銃器の全てを粉砕し、腕やらなにやらをかっさらっていく。
    「――勝機ィ!」
     糸ですべての火縄銃をくくってまとめ、巨大な棍棒にして叩き付けるウィスタリア。
     と同時にシャドウの横をすり抜け、抜刀。
     胴体をばっさりと切り裂き、振り抜き姿勢でブレーキ。
     刃につやが走り、天上天下唯我独尊の刻が光った。
    「思うがまま撃ちまくればいいというものではないぞ、素人が」
     自由を失って宙を舞うシャドウの上半身。砕け散って舞う無数の折れた火縄銃。
     その中を、太郎は駆け抜け、手ぬぐいを巻き付けた拳を強く強く握り込んだ。
    「俺は特技が三つある。炊事、洗濯、そして――」
     顔面を、太郎の拳がぶち抜いていく。
    「コレだ」
     着地を失敗し、ごろごろと地面を転がる太郎。顔をあげると、そこにはもうシャドウはいなかった。
     あれだけ派手に破壊されたはずの町並みも、綺麗さっぱり元のままだった。
    「……幻覚? まさに、悪夢だったっていうのか?」
    「全部がそうでもないみたいよ」
     大きく破壊されたアスファルトの道路を見下ろして、狭霧はこきりと首を鳴らした。
    「現実にならなくて、よかったわね」

     シャドウ、灼滅完了。
     人的被害、なし。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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