●Giovanna Redi.
日常はありふれていて、毎日が特別。
一日一日はいつだって、何処かの誰かにとっての大切な日だと云う。
喩えば、お伽噺を一頁残らず味わい尽くす、贅沢なひとときだとか。
さあ、物語を辿って――めくるめく甘い童話の世界へ、一日だけの御招待。
「メルヘン・ビュッフェ――ってこたぁ、有名な童話をモチーフにしたスイーツ食べ放題って奴か?」
「ええ、そうなの。ちょっとリッチなレストランで開催しているイベントなのだけれど、もうすぐ終了してしまうみたいだから是非行ってみたいと思って」
チラシをちら、と見やり関心する白椛・花深(大学生エクスブレイン・dn0173)へ、ジョバンナ・レディ(高校生サウンドソルジャー・dn0216)は心なしか声を弾ませて語り続ける。
芝居を愛する彼女にとって、やはりお伽噺は特別な思い入れがある様子。
チラシを見る薄紅の眸は普段以上に輝き、まるで朝露に濡れる薔薇のように瑞々しい。
それにメルヘン・ビュッフェの最終日は――偶然にもジョバンナ自身の誕生日であるようだ。
チラシの写真を見ると、内観はおとぎ話の森をイメージしたようで、大きな時計のモニュメントや様々な色の花々に観葉植物……フロアを照らすのは大きなシャンデリアだ。
「フロアは広々としていて、童話ごとにブースが設けられているみたいなの。シンデレラのブースだと、かぼちゃの馬車のパンプキンプディングだとか、ガラスの靴をかたどったケーキなんてのもあるみたい……!」
隣の白雪姫ブースには魔法の鏡のアイシングクッキー、毒林檎ムース、鉄の靴の生チョコレート。
アリスのブースでは『EAT ME』と描かれたマカロンにトランプ型のサンドイッチ、時計うさぎのマシュマロ、チェシャ猫ロールケーキ……等々。
一つ一つのスイーツにモチーフがしっかりあり、眺めるだけでも楽しめるものばかりだ。
まるで本当に童話の世界に飛び込むみたいだな、と花深もまたさらに興味を示して。
「へえ……っつーことは、別のブースのスイーツも選んで良いのか? たとえば、動物繋がりで赤ずきんとブレーメンとかさ」
「そうね、選び放題みたい。砂糖菓子でできた登場人物たちのちび人形もあるから、お皿の上で好きな童話同士のコラボレーションもできるのよ」
あたしなら、いばら姫と白雪姫かしら――とジョバンナは悪戯っぽく囁いた。どちらも眠りに落ちるお姫様として共通するのは偶然か、それとも。
「それにね、ドリンクは各種取り揃っているけれど、好きなフレーバーの持ち込みも歓迎みたい。
あとは……童話にまつわるものならお菓子の持ち込みも自由のようね」
格式高いレストランでも、今回ばかりは「楽しむことが最上である」と開放的らしい。
童話を茶菓子として味わい、慣れ親しんだ紅茶は珈琲などを楽しむ――というのもなんて贅沢なのだろう。
「中でも目玉になってるのが……ほら見て、ヘンゼルとグレーテルの『お菓子の家』!」
ジョバンナが指で示した先には、童話から抜け出してきたようなお菓子尽くしのハウスが写っている。
小さな子どもが入れる程度の大きさで、煙突はウエハース、屋根の瓦は板チョコ、壁のカステラに氷砂糖の窓――など、忠実に作られているようだ。
外観は色鮮やかなチョコで飾られていて、童心に返るならぜひ住んでみたいと夢を抱くものだろう。
「最終日だから、解体ってことでお菓子の家も食べられるみたい。ふふっ、なんだかヘンゼルとグレーテルになった気分ね。こんなに満喫していたら、悪い魔女に食べられちゃいそう」
気取って冗句をさらりと添えて、楽しげにジョバンナは笑う。その様は、童話の登場人物に早くもなりきったかのよう。
遊びに行く前なのに最早楽しんでるとは、とこれには花深も苦笑い。
けれど、そこまで行きたいのなら――と帽子を被り直し、一つ提案を。
「なあ、折角だから学園の皆にも広めたらどうだ? お前さんみたいに夢見がちな子だって居るだろうし、デートスポットにも合うんだからさ」
「ふふっ、ブラボー! それが良いわね。お伽噺は皆が楽しむ為のものだもの。一緒に夢を紡げるなら、あたしも幸せだわ」
花咲くような満開の笑顔はそのままに、ジョバンナは夢見心地で感嘆の溜息を零した。
――戦いの傷は深くとも、今は夢を、希望を忘れぬように。
きっとその想いは、童話のようなハッピーエンドに繋がるはずだから。
●
氷華と雪月が訪れたのはアラビアンナイト。
エキゾチックな装飾に、魔法のランプや空飛ぶ絨毯などお菓子のモチーフも中東風の幻想的なものばかり。
ゆづはこういうの好きだよな――と氷華がちらと彼女を見やれば、雪月は今年のハロウィンのお揃い衣装を想い浮かべて笑顔満開の様子。
「ひょーちゃん、これ美味しいよ。良かったら一口食べてみないかな?」
美味しいものを分かち合うなら好きな人と。雪月が財宝モチーフのミニケーキを差し出せば、氷華は一瞬面食らった顔をして。
しかし動揺するのも野暮だ。パクっと一口。
「へぇ、うめぇな」
口の中に甘さが広がると同時、次第に氷華の顔が熱くなってゆく。
(「ほんっとこいつずるいなぁ……」)
きっと彼女自身は無自覚で勧めたのだろう。そんな行動も、笑顔も――すべて愛おしくて、ずるい。
思えばあのバレンタインの時もだ。お互いにずるいと零して頬を染め合った、あの日も。
どうしたの? と気遣う雪月へ、氷華は「何でもねぇよ!」と帽子のつばを下ろして照れ隠し。
そして仕返しに、とお菓子をフォークで刺して彼女の口へ。
――千夜一夜の恋物語は、幕を開けたばかり。
森の中のお茶会。しかもお伽噺の世界だなんて夢みたい。
優奈は緋色の瞳に歓喜を灯す。
白雪姫からシンデレラ、アリス……まるで本棚から書物を選ぶように、トングを運ぶ。
こうして創られたお菓子たちは、まるで物語の頁が新たに綴られたよう。
イイわねぇ、こういうの――童話を想い、暁は紫晶の眸をすっと細めて。
テーブルを共にする優奈の皿には、沢山のお菓子たち。
「優奈の皿はまた随分と豪華ね――アンタはどれが一番好き?」
訊ねたのち、「アタシはね、これ」と暁は自分のお気に入りを彼女の口元へ。
ふわり、唇に触れる白は、時計うさぎのマシュマロ。優奈は柔らかなそれを頬張ったのち、
「えへへ、あたしも暁と一緒!」
照れ臭そうに笑い、彼へマシュマロのお返しを。
その頬に染まる仄かな赤は、一昨年のハロウィンを思い出してか、それとも気恥ずかしさか。
さあ、思い出を辿るように、ふたたび頁を開いて。
ハロウィンと戯れた、白黒双子の時計うさぎの物語を――。
いざ、お菓子を求めて。【童話ハンター】の冒険譚が始まる!
青みを深めた水色ワンピースをふわり揺らし、シンデレラたるミユが訪れたのはやはり、シンデレラブース。
様々なお菓子たちに心奪われながら、ミユは最初のお目当てを見つける。
「わあ、ガラスの靴のケーキ。想像通りとっても素敵……!」
淡い青に色づいた、ガラスの靴の砂糖菓子。真っ白なクリームも柔らかそう。
シンデレラと云えば、青。最終章に奇跡を呼び寄せたその色は、ミユの髪にも青薔薇として咲き誇る。
(「うぅ、今は底無しのお腹が欲しいです」)
皆に配る分のケーキをトレイに乗せつつ、お菓子を惜しむ気持ちも滲んで。
一方、まほろは艶やかな和の人魚姫。
足元がきらめき透ける裾引き着物に、玻璃色の髪を飾るのはヴェールに真珠――透明感溢れる装いだ。
まほろが向かった人魚姫ブースには、涼しげなスイーツが沢山。
(「皆様の分はどうしようかしら? ――わぁ……これにしましょうっ」)
まほろが選んだのは、砂糖細工の魚たちが泳ぐクラッシュゼリー。
泡と帰す終幕は過去のもの。人魚姫は幸せな笑みを湛え、お菓子の家でのハッピーエンドへ泳いでゆく。
所変わって、お菓子の家の前。
其処には穏やかな笑み綻ぶ帽子屋の織兎と、麗らかに大人びたアリスのリケの姿が。
家の前でしゃがみ込み、開いた扉から中の様子をじーっと伺う織兎。
(「すごい、入りたい」)
そんな彼の様子に、リケはお菓子の家を見上げつつ、
「しゃがめばオリトでも入れそうかしら?」
と楽しげに冗句をひとつ。
一足先に、二人はティータイムを。
少女から一人前の娘と成ったようなアリスに、すらりとした長身の帽子屋――向かい合うとそれらしく、まるで不思議の国の後日談のよう。
「リケのアリス姿、すごく似合ってるよ」
彼女のリボンにそっと触れて、織兎は常のやさしげな笑みとともに囁く。
リケは驚きで紅の瞳を見開いた。けれど何より、意外なその言葉が嬉しくて、思わず照れながら。
「オリトは似合ってますね。帽子が決まっててかっこいいです」
お気に入りのチェシャ猫ロールケーキを切り分け、そう微笑んだ。
童話ハンターが集い、テーブルには皆が選んだお宝(スイーツ)たちが勢揃い。
白雪姫ブースから帰ってきた銘子も、お皿を並べて悪戯に微笑む。
毒リンゴムースに茸たっぷりケークサレ、贅沢な木の実のロールケーキ――と、選んだスイーツは魔女らしさたっぷり。
極めつけは、お皿にちょこんと佇む7人の砂糖菓子。
「ふふ、7人の小人は人質よ?」
それもそのはず。銘子の仮装は白雪姫を狙う黒の魔女。
五芒星や蝙蝠を模した銀の装飾がきらめき、妖しげな魅力がさらに増す。
「さて、魔女が集めてきたスイーツを食べる勇気はあるかしら――と、その前に」
皆のスイーツと共に、ジョバンナも呼んで記念撮影しましょ、と提案。
連れられ現れたジョバンナは、皆の仮装を一目見て「まあ、みんな素敵……!」と瞳を輝かせる。
物語の挿絵を収めたなら、不思議なお茶会の幕開け。
不慣れながらも精一杯にヒールで足を運び、小さな雪の女王たる六華も席に着く。
皆の膝の上にハンカチをそっとかけたのち、雪結晶のクッキーを頬張れば――頬に朱が染まり、感嘆の吐息。
「……しあわせ。お砂糖とバターは幸せの味ですね」
湛えた笑みはまさにしあわせいっぱい。
口に広がる優しい甘さに、雪の女王の心は温かく満たされた。
――物語はいつも「めでたしめでたし」で終わるもの。
【クローバー・ハウス】の面々もまた、お菓子な世界へ迷い込む。
千尋は文字通りの猫っ被り。黒いチェシャ猫耳をぴんと立てて、
「お嬢さん達、どの世界から行こうか?」
へらりと微笑みながら、少女たちの道案内。
先ずは美女と野獣、そしてラプンツェルのブースへ。
薔薇のマカロンに、麗しき長髪を想わすモンブランに、砂糖菓子のラプンツェルを飾る。
「むかしむかし、塔に閉じ込められて育ったラプンツェルは、ある日美しい薔薇を世話する野獣に恋を――なんて、ね」
佳奈子が紡ぐのは、皿の上で広がる物語。序章を語る佳奈子の姿は、本や言葉を愛する故にとても楽しげで。
そして次の物語は赤ずきん。タシュラフェルは、苺のチョコケーキと巡り合う。
チョコの地面やクリームの木々を越えて祖母の家へ向かう、苺の赤ずきんだ。
チェシャ猫の助言に頷けば、
「悪い狼さんに食べられないように、連れてってあげましょ」
そっとケーキを救い出し、新たな旅路へ。
辿り着いたのはオズの魔法使い――もとい、エメラルドの都。
「頭脳に、心に、勇気。ドロシーの御供さん達がそれぞれ望んだモノです……♪」
彩り豊かなハート型のクッキーたちに、ユーリも惚れ惚れ。
けれどユーリが選ぶクッキーには、長靴や猫の姿も。
それもそのはず。長靴を履いた猫は、ドロシーの御供たちが欲しがった知性と愛と勇ましさを兼ね備え、主を幸せに導いた存在なのだ。
さあ、旅の終着点。皆で持ち寄ったお菓子たちを揃えれば、素敵な物語のはじまり!
「あら、猫さんを追いかけていったら不思議な処に出ちゃったみたいね」
タシュラフェルの赤ずきんは森を抜け、ドロシー御一行と長靴を履いた猫はエメラルドの都から、悪戯な猫に案内されて。
「そして恋をしたラプンツェルは高い塔から――不思議の国に集まりました。というのは、いかがでしょう?」
沢山の童話を一つの物語にまとめ、佳奈子は新たな物語を創り上げる。
そのあらすじが素敵だと言わんばかりに、チェシャ猫の千尋は皆へ一礼して。
「まとめて不思議の国にご案内。出揃った新たな物語を楽しもう?」
テーブルへ黒いチョコケーキを置いたなら、ホワイトクリームで描かれたチェシャ猫が笑顔を見せた。
「アリスは好きなのよ」
そう、感慨深く切り出したのは樹だ。
「せっかくの機会だから、持ち込むよりはあるものを味わってみたいの。できれば、全部」
……よくばりかしら? 伏せ目がちに樹が訊ねると拓馬は勿論だと頷き、アリスにまつわる食べ物を思い浮かべる。
『EAT ME』のクッキーに、『DRINK ME』と記された小瓶。
「中はスイーツっぽく、ミルクセーキみたいになってるのかな」
拓馬がブースの中で見つけた小瓶をそっと覗けば想像どおり、甘やかなミルクセーキで満たされていた。
選び抜いたアリスのお菓子たちを囲み、不思議な空間と共に二人で語らって。
「ふふ、アッサムのミルクティーもあったら英国式ティータイムみたいよね」
白うさぎのマシュマロをそっと一口頬張ったのち、樹は幼少期を想いながら――彼と共に夢のようなひとときを過ごす。
お菓子の家から逃げ出した、大切な1ピース。
退治してしまわなきゃ、と云う恵理の素敵な誘い言葉に連れられて。
ジョバンナは共にテーブル席へと向かう。
恵理の皿に盛られた様々なお菓子たちに惚れ惚れしてるうちに――魔女は一つ、ジョバンナの皿に一つの魔法をかけた。
「自分のお誕生日を私達の楽しみに分けて下さる貴女に、星の銀貨を。
私はこの日に感謝します、ジョバンナ」
「うふ……恵理、素敵な魔法をありがとう」
きっとこの星は、進む道を正しく導いてくれるのね――。
贈られた銀貨の輪郭をそっとなぞり、薔薇の娘は花咲く笑みを向けた。
「本当に御伽噺の世界に入り込んだみたいだ。どこに行こうか迷うなあ……」
な、メル。と瑞樹が傍らのメルキューレへと常の愛称で呼ぶ。
ビュッフェと云えど、幻想的なこの空間は絵本の挿絵をそのまま描いたかのようで。
「えぇ。童心に帰って、一緒に冒険している気分になります」
地図は無くとも、宝物は溢れ返るほど其処に在る。
只、折角選ぶならば――と。メルキューレは、友であるジョバンナに声を掛けた。
二人をじっと見つめ、「オススメなら、」とにこやかに薔薇の娘が案内したのは……『雪の女王』ブース。
冬から春へ、廻る季節の冒険譚。
鏡の欠片が産む凍えた心を熔かすのは、春の日差しみたいに優しい涙。
きっと、二人にぴったりの物語だとジョバンナは語る。
「と、そうだ、レディには俺達からこれを」
お菓子たちに見惚れながらも、瑞樹が差し出したのは赤い小箱。
まあ、と感嘆しながら娘が白のリボンを解けば――其処にはスコーンと、小瓶詰めのベリーに薔薇のコンフィチュール。
二人で作ったんだ、と語る瑞樹に、
「また一年、楽しいことがたくさん貴女に訪れますよう」
メルキューレから送られた、心からの祝いの言葉。
どうか二人共に、幸せなひとときを長く過ごして欲しい――と願う薄紅の眸が潤み、娘は精一杯に花笑んだ。
●
溶けやすいチョコレートなどを先に選びつつ、統弥は色んな味のお菓子を皿へのせてゆく。
一方の志歩乃は、たっぷり選び取って非常に賑やかなお皿に。まずは様々なチョコを食べ比べ。
「む、この部分はビターでいいねー。甘いものだらけだから、他の味があるといい感じー」
「そうだね。甘さが控えめで、俺もこのビターチョコがお気に入りかな」
統弥も頷き微笑んで、二人とも他のお菓子たちにも舌鼓。
あまりに幸せいっぱいな最中、志歩乃はハッとなって目をぱちくり。
食べ方良くなかったかな? と恥じらいつつ、小首を傾げて訊ねると。
「むぐ、え、えーと、統弥さんはどうー? 美味しいー?」
「ああ、美味しいよ。ほら、こうしてクッキーを牛乳に浸すと――」
首肯した統弥は、手にしたクッキーを牛乳入りのマグカップにそっと沈める。
すると、しっとりとした食感のミルク味に早変わり!
美味しい&楽しいで大満足! な志歩乃に対し、統弥はこんなに食べた後の明日が気になる様子。
しかし、まだまだ二人のお菓子の家攻略は続く――!
ウエハースの煙突に、クッキーの扉。
お菓子の家の欠片たちを皿に盛られ、シャオとミサはさっそく一つずつ口へ運ぶ。
「んむ……えんとつ、おいひい……。坂崎さんも、食べる?」
シャオがフォークで煙突の一欠片を刺して、ミサへと差し出すと、
「わあっ、ありがとうございます!」
笑顔をいっそう深めて、ミサは餌を与えられた動物のように忙しなく咀嚼する。
だが、しかし!?
「えっ、あ……大丈夫……?」
ミサは喉にお菓子を詰まらせたようで、シャオは心配そうに背中をトントン。
頼んだ紅茶をすぐさま流し込んだなら、ほっと一息。
「ふう。でもまさか、実際にお菓子の家を食べられる日が来るとは……!」
解体されゆくお菓子の家を見上げながら、ミサは改めて感激に浸った。
南瓜の馬車プティングに、海色グラデーションゼリー、そして林檎のタルトタタン。
三つの世界のお姫様からお裾分け。希はお菓子たちを綺麗に一つのお皿へ。
「二人ともっ、ほらほら超可愛いー!」
ドヤ顔で見せつけるようにお皿を示せば、
「ああ、鳩谷可愛い可愛い。川内は――……」
また豪気だな、と厳は相変わらず眉間に皺寄せ呟いて。
そんな鋭い灰眸が見据える先には――梛が掲げる、皿よりデッカいチョコの屋根……の一部。
「どうせならでかいままがいいと思って貰ってきた。……まあ食いきれないんだけどな」
インパクト絶大なチョコ屋根は、持ち主である梛がナイフでパキパキっと大まかに三分割。
こうして、メルヘン世界へ突撃した勇敢なる三人の男子会が幕を開ける。
――しかし。
「チョコばっかはさすがにキツイわ」
「おい」
梛はぐったりと背もたれに寄り掛かりながら仄かに花薫る紅茶を啜り、
「だよねー、甘いものばかりだと飽きちゃうし?」
「おい」
微笑み湛えた希が、ひょいっとトランプのサンドイッチを一口。
因みにどちらも巌の選んだものである。
餓鬼か手前等、と嘆息する。嗚呼、全然足りねぇと席を立つ巌は二人へ向き直って。
「――ほら、周回行くぞ。付き合えよ」
彼の様子にへらり笑う二人は、勿論付き合うともと言わんばかりに共に、再び童話の世界へ――。
勇敢なる三人――もとい、三銃士の旅路は果てなく紡がれる。
「お姉ちゃん、お待たせっ」
切り分けたお菓子の家の欠片たちを集めて、悠樹は愛する薫子お嬢様の元へ。
かわいい弟分が、健気にも自分の為に。薫子はにこにこ笑顔で悠樹にお礼の言葉を送る。
「まあ、ありがとうですの!」
「わ、わ……」
可愛らしさのあまりつい頭を撫でると、悠樹の幼い顔は瞬時に真っ赤に。
いっぱいどうぞっ、と使用人らしく務め、薫子へお菓子を勧めると。
「はい、ゆーきくん。どうぞですの~」
薫子はフォークに刺したお菓子を、悠樹へ差し出した。
まだまだ真っ赤な頬は収まらない……けれど、悠樹は口を開けてはむっと一口。
「美味しいね、お姉ちゃん」
そのままにこっと笑顔を向ければ、薫子はさらに嬉しげに笑みを増す。
「良かったですの! あっ私にもしてほしいですの」
あーん、と口を開く彼女の姿はちょっぴり小悪魔。
ボクもお返しに……と悠樹はお皿の中からお菓子を選ぶ。
「えと、それじゃ、あーん」
ドキドキは収まらない。二人の時間は甘く、長く続いてゆく。
歳を重ねた薔薇の娘を祝ったのち、夜音は気ままにフロアを彷徨う青年へと手を振って。
「花深くん、楽しんでるさん?」
「おう、夜音! すっげー楽しんでるさんだぜ。お気に入りは見つかったか?」
普段通りからからと笑う花深が訊ねれば、夜音は深々頷きアリスの世界で見つけた小瓶容器の青いゼリーを見せる。
――よく見れば、小さくなったアリスの砂糖人形が。花深が相席を願い、二人は共にテーブル席へ。
フロアを見守るように聳えていたお菓子の家も、もうすぐ食べ尽くされてしまいそう。
崩されちゃうのが残念さんだね――と柘榴の瞳がそっと伏せられる。
「……悪い魔女に見つかる前に、一緒に食べちゃおうか?」
小さく囁いた言葉と共に、一変して悪戯っぽく笑った。
少女の誘いに乗ったとばかりに、花深も企むように眸を細めた。
「いいぜ。ただもし俺が魔女に囚われたなら……夜音(グレーテル)は助けてくれるよな?」
童話をかたどるお菓子たちは、夜の星々みたいに無数で食べきれない。
アリスが織りなす不思議な世界に魅了されながら、アルコは紫鳥に好きな童話を訊ねた。
すると少女は逡巡したのちにシンデレラだと答えて、砂糖菓子のプリンセスを彼の皿へ。
「どんなに辛くても、報われる事があるなんて素敵でしょう?」
「ああ――最後は、ハッピーエンドがいいよな」
報われるといいな、ほんと。そうアルコは呟いて、シンデレラの砂糖菓子をフォークでつついてみる。
EAT MEのマカロン食べたらおっきくならないかな。なんて『if』を考えられるのも、このビュッフェならではだろう。
そういえば、と紫鳥は赤ずきんのブースをちらり覗き見て。
「ぶどう酒ってすごーく美味しそうな響きじゃないですか?
でも、お酒はまだ飲めませんから……」
「そうだな、ぶどうジュースで乾杯だぜ!」
アルコの一声でワイングラスにぶどうジュースを注ぎ、グラスを交わす。
物語を分かち合い、お菓子の家も頂いて――贅沢な童話世界を楽しもう。
作者:貴志まほろば |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年12月5日
難度:簡単
参加:31人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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