道を阻むは鬼の悪行

    作者:波多野志郎

    「――通せんぼしよう」
    『――は?』
     その少女の言葉に、大の男三人が声を揃えてすっとんきょうな声を上げた。
     その顔を一つ一つ見回し、少女はクスクスと花が綻ぶように笑みを浮かべ続ける。
    「えっとね、この道で通せんぼするの」
     この道――それは一本の裏路地だ。今は人通りはない、元は大通りから外れた狭い道なのだ。日にここを通る人間も限られてくるだろう。
    「え? ここですか?」
    「うん、駄目?」
     少女が泣きそうな顔を見せると青い顔で男は否定した。
    「いえいえいえいえ! そんなとんでもない! で、でも、そういうのはもっと人通りの多い場所の方が……」
    「ああ、そういう意味かー。あのねあのね!」
     少女がよくぞ聞いてくれました、と満面の笑みを浮かべ――ぐにゃり、と水に落ちた墨汁のように、ドス黒い悪意を笑顔に宿して言った。
    「人通りが当たり前にある場所じゃ、つまらないの」
    「つまらないっすか?」
    「うん! こういうのはね? あっちにすればよかった、いつもだったら違ったのに――何て不運なんだって、後悔と絶望を抱かせて殺すから楽しいの」
     地獄に咲く花があったのならば、こうなのだろう――愛らしく、可憐で、人の絶望と死をすすり花開くおぞましい一輪。
    「ね? その時を想像すると――ゾクゾクするでしょ?」
     その花の名を、羅刹と言った。

    「……可愛くてもああいうのはちょっと」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が疲れた表情でそう告げた。
     今回、ヤマトが行動を察知したのはダークネス、羅刹だ。
     その羅刹はとある繁華街の外れ、狭い一本の路地で通せんぼをして遊ぼうとしている。
    「こういうと可愛く聞こえるんだがな? 通さないって言うのは殺すって事だ。通ろうとした人間をそこで殺す、だから通れない通せんぼ――もちろん、ただの人間がダークネスに対抗出来るはずがない。幸い、遊び心で人通りのない道が選ばれたから犠牲者こそはまだ出ていないが……誤って足を踏み入れれば文字通りのデットエンド、行き止まりだ」
     これを放置する訳にはいかない――だからこそ、灼滅者の出番だ。
     深夜、この道を通り抜けようとすれば羅刹とその三人の配下は襲ってくる。
    「道幅が狭いからな、戦うのなら横に四人並べば精一杯だ。相手は配下の三人がディフェンダーで前に三人並んで、中衛のキャスターに羅刹が控えている……んだが」
     配下はいかにも暴力が好きそうないかつい男なのだが、羅刹は十代前半になるかならないかの愛らしい少女の姿をしている。だが、その頭に生えた黒曜石の角が現わす通り、強力なダークネスに他ならない。
     全員が神薙使いのサイキックを使い、羅刹の少女はそれに加え鋼糸のサイキックを使う。バランスの取れた集団だ、こちらも役割分担としっかりとした戦術が必要となるだろう。
    「未来予測の優位はあってもあくまで優位――羅刹が強敵である、という事を忘れずに挑んでくれ。ただ、いつもと違う道を通っただけで殺されるなんて、たまったもんじゃないからな」
     頼んだぜ、灼滅者――ヤマトはそう真剣な表情で締めくくった。


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(愛の戦士・d00151)
    星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)
    辻花・千鶴(エバーグリーン・d00364)
    ジルエット・ソルシエール(揺籃の魔女・d00653)
    楪・颯夏(風纏・d01167)
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    宗形・初心(スターダストレクイエム・d02135)
    隠光・沙月(穏行鬼・d03448)

    ■リプレイ


    「……こんなものかしら?」
     立入禁止――そう書かれた看板をその路地の入り口において宗形・初心(スターダストレクイエム・d02135)が呟いた。
     同じく「Keep out」と書かれたバリケードテープを貼り、ジルエット・ソルシエール(揺籃の魔女・d00653)も小さく肩をすくめる。
    「念のためにお願い出来る?」
    「任せて」
     ジルエットに求められ、加藤・蝶胡蘭(愛の戦士・d00151)は静かに殺気を放つ――殺界形成のESPだ。
     これにより、万が一にもここに近付こうという一般人は出て来ないだろう。
    「ん、行こうか」
     ロープを張り終え、花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)がその路地を振り返る。
     暗闇が続く路地がそこにあった。微かに繁華街の喧噪がここまで届く。それ以外では、古い電灯のジジ……という振動音だけだ。生者の気配が薄い、虚ろな穴のような暗闇だけがそこにあった。
     まるで、黄泉路だ――そう思い至り、誰からともなく笑みがこぼれる。その羅刹が待つ黄泉路へ灼滅者達は躊躇う事無く踏み込んだ。
    「……フフフ」
     どれだけ進んだ頃だろう? その鈴を鳴らすような笑い声が路地へと響き渡った。
     闇の中から一つの影が浮かび上がる。それは幼い少女だ。闇の中に溶け込むような黒いドレスに身を包む、人形のような愛らしさを持つ少女が屈託もなく綻ぶような笑顔で言う。
    「予感があったの……妙な気配がするから。今日は素敵な得物がやってくるって。ここから先は通れないし――帰れないよ? お兄さん、お姉ちゃん?」
    「まったくよ、厄介ごとは勘弁して欲しいんだがな? 頭痛が酷くなる」
     その愛らしさがむしろおぞましく感じる――隠光・沙月(穏行鬼・d03448)は額を抑え、顔をしかめて言い捨てた。
    「残念、通せんぼなのはてめぇらの帰り道だ。こっからはあの世逝きへの一方通行だよ」
    「ふふふ、怖ーい」
     沙月の言葉に少女は言葉とは裏腹に、その口調は楽しげだ。
    「うん、いいよ? 殺したり殺されたりいっぱいしよ? 後悔と絶望をいーっぱい教えてあげるっ」
    「後悔と絶望を抱かせて殺すから楽しいって? じゃあ、トラウマを植え付けてあげるから、心底後悔すると良いんだよ」
     むむ、と眉根を寄せて言う星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)に、羅刹の少女はスカートの端を掴み一礼――ヒュオン、と無数の鋼糸を躍らせた。
    「うん、そういうの、大好き――」
     羅刹の言葉が途中で止まる。不意に自分の鋼糸と合わせて踊るように振るわれる鋼糸に気付いたからだ。
    「……奇遇だな、ボクも鋼糸を使うんだ。だからこそアンタみたいのには負けられないな」
    「うん、とっても素敵ね」
     真っ直ぐに言い捨てる楪・颯夏(風纏・d01167)に羅刹は微笑む。その後ろから羅刹を守るように三人の男が姿を現し、盾になるように身構えた。
     その男達の姿に颯夏が思わずこぼす。
    「ってゆか、まぁ……力関係なんだろうけど、おっさんがこんな小娘に使われてるとか、やっぱりこれがロリ……いや、あえて言うまい」
     誰にも届かない小声だったが、その冷たい視線に何が言いたいかは男達も悟ったようだった。
    「いや、これもこれでなかかなだぞ?」
    「んー、だめー。私がお話してる最中ー」
    「あ、す、すみません」
    「――……アウェイク」
     唇でスレイヤーカードに触れてジルエットが解除コードを呟き、その足元の影を蠢かせる。そして、嗜虐の瞳を羅刹に向けて囁いた。
    「さぁ、とおせんぼをしましょう。貴女はもう、何処にもいけないのよ」
    「ふふ、可愛い――震えを隠して強がられると、ゾクゾクしちゃう」
     ジルエットは表情は変えない。初めての実戦に緊張し、その手が震えが見破られようと――それに勝る楽しみで震えを押し殺す。
     一歩、前に踏み出す者がいた。ガシャリ、と巨大な無敵斬艦刀をその細い両腕で構え辻花・千鶴(エバーグリーン・d00364)が凛と言い放つ。
    「不運も絶望も、全部切り拓いて……通らせて頂きます!」
    「そうね、お互いに――真っ直ぐと通り抜けよっか?」
     灼滅者とダークネス――その相反する二つが相手の道を塞ぎ、己を通すため戦端を開いた。


     三人の配下を盾に中衛に羅刹が控えるダークネス側に対して灼滅者達の陣形はこうだ。
     前衛のクラッシャーに千鶴と沙月、ディフェンダーに蝶胡蘭と颯夏のサーヴァントである霊犬の楓太郎、中衛のキャスターに祭莉とましろ、初心、後衛のメディックに颯夏、スナイパーにジルエットといった布陣だ。
    「うん、まずは小手調べね?」
     ヒュオ! と鋼糸が鋭く空を切り、前衛へと縦横無尽に編みあがったその鋼糸を解き放つ――その結界糸へ、千鶴が迷わず突っ込んだ。
    「――ッ!」
     大上段の戦艦斬りが糸による結界の一角を崩す。相殺し、千鶴は自らこじ開けた隙間へと飛び込むと三人の配下を飛び越え、羅刹へと斬り付けた。
     その切っ先に軽く切り裂かれながら羅刹はパチパチと小さく手を鳴らす。
    「すごいすごい♪ お姉さん、勇気があるんだ?」
    「貴女達に、負けられないわ」
     背後の仲間を信頼しているからこそ出来る事だ、そう千鶴は無敵斬艦刀を握る手に力を込めた。
     だが、結界糸から抜け出せたのは千鶴のみだ。残りの二人と一体は鋼糸の結界に絡め取られている。
    「心配いらない、誰も怪我させない。目の前で誰かが倒れるのは嫌だしな」
     まして、羅刹の所為でなんて御免だから――そう口の中で付け加え、颯夏が清めの風を吹かせ、その風が鋼糸の結界を崩した。
    「助かるぜ!」
     加えて楓太郎の浄霊眼による癒しを受けながら沙月が解体ナイフを振るう。そして、夜霧を生み出し前衛を霧に隠した。
    「みんな一緒にやっつけちゃうんだよ!」
     中衛で祭莉が胸の前で祈るように小さな手を組む。その直後、降臨した輝ける十字架から放たれた光が三人の配下へと降り注いだ。
    「ぐ、う……!」
    「手早くすませるよ!」
     セイクリッドクロスの残光が残る中、蝶胡蘭が踏み込んだ。右肩にロケットハンマーを担いだまま、左手に雷をまとわせ――突き上げる!
     ガゴン! と鈍い打撃音が路地に響き渡った。配下の一人が蝶胡蘭の抗雷撃に顎を打ち抜かれのけぞる。
    「邪魔よ、退きなさい!」
     そこへ初心がその右手をかざした。ゴウッ! と渦巻く風が巻き上がり、のけぞった配下をそのままアスファルトへと叩きつけ、斬り刻む!
    「これが本当の神を薙ぐ刃よ」
     倒れて動かない配下を見下ろし、初心は後ろ髪を整え言い捨てた。
     その光景に羅刹がクスクスと笑い声を上げる。
    「あれ? まさかこの程度で終わったりしないよねー?」
    「余所見をしてる余裕はあるの?」
     その羅刹へジルエットが影を走らせる。その影へ羅刹は鋼糸を放った。ギギン! と影と鋼糸が火花を散らし、相殺される。
     そこに重ねるように一条の光線が放たれる――ましろのバスタービームだ。
    「ここはわたし達じゃなくて、あなた達の、デットエンド……絶対に逃がさないん、だよ」
    「うん、いいよ?」
     肩を撃ち抜かれ、羅刹が無邪気にうなずく。そして、ドス黒い悪意をその笑みに滲ませ続けた。
    「殺しても、殺されても、楽しければそれでどーでもいいもん」
     残った二人の配下が動く。右腕を振るうと同時、その拳が異形化し蝶胡蘭と沙月を殴りつけた。
    「通せんぼ、通せんぼ――それがいやなら、私を通せんぼして殺さなきゃ……ね?」
     自分の命さえ遊戯の道具だと笑みをこぼし、羅刹は神薙刃を繰り出した。


     誰も訪れないその路地は、まさに修羅道――血で血を洗う闘争の場だった。
     ザンッ! と配下の放つ風の刃に切り裂かれ、初心は膝を揺らす。
    「くっ……! この程度のダメージ、計算のうちよ!」
    「じゃあ、これも?」
     羅刹が囁き、その鋼糸を振るう。変幻自在に動くその糸はまさに形を持たない刃だ。初心へと容赦なく繰り出された。
    「させるか!」
     しかし、その前に蝶胡蘭が回り込みその鋼糸を自身の身を盾に受け止める。
    「――!!」
     そして、その右腕でロケットハンマーを振り上げた。頭上にそのハンマー部分が来た瞬間、ロケット噴射で加速――力任せに最後の配下を叩き潰す!
     それを見て、羅刹がキョトンと目を丸くした。三人の配下が一人残らず倒れた事にではない――その証拠に、ようやく合点がいったという風に笑ったその顔には悪意の笑みがあった。
    「ハンマーでは殴れるの?」
    「……何だと?」
    「拳で殴るのは駄目だけど、武器で攻撃するのはいいんだ。不思議な自分ルールね?」
     その指摘に蝶胡蘭は息を飲む。朧気な過去のトラウマがそうさせているのだ――羅刹の嗅覚は蝶胡蘭の中に潜むその心の傷を嗅ぎつけたのだ。
    「うんうん、わかるよ? 私もそういうのってあるから。自分が不利になっても駄目なのってあるよね? 私もだからこうやって通せんぼしてるんだもん♪」
    「……認めない」
    「? 何?」
    「あっちの道にすれば良かった、そう言う者もいるだろう。だがな、私は私の選んだ道を否定したりはしない。通せんぼ、結構! 障害があるなら砕いて押し通るまでだ。そして、二度と罪のない人達に自分の選択を否定させたりはしない!」
     ハンマーを握る右手に力を込めて、蝶胡蘭が言い切る。それに羅刹は言葉を重ねようとしたが、すぐさま振り返った。
    「面倒だからさくっと殺ってやんよ。羅刹の首を殺りに殺人鬼がわざわざやってきてやったぜ」
     沙月だ。気配を消し、高速で死角へと回り込んだのだ。そして、その解体ナイフで羅刹の黒いドレスを切り刻む。
     そして、その羅刹の足元から無数の影がその小さい体へと襲い掛かった。
    「あらあら、そんな煽情的な姿を晒して、そんなに苛めて欲しいのかしら」
    「ふふ、本当――あなた、こっち側だよ?」
     嗜虐の瞳で自分を見るジルエットに、羅刹もよく似た瞳で言い捨てる。その羅刹へ千鶴は右手を――より正確にはその中指にはめられた蔦薔薇モチーフの契約の指輪をかざした。
    「石になりなさい!」
    「本当、怖いわ」
     そのペトロカースの呪いを羅刹は自身を渦巻く風で相殺する。トン、と踊るような足取りで――心の底から微笑んだ。
    「怖すぎて、泣いちゃいそう♪」
     その羅刹から視線を外さず、ましろは防護符を初心へと放ち回復する。
    「だいじょうぶ?」
    「ええ」
     自身も高速演算モードによって自己回復しながら、初心は呼吸を整えてうなずいた。
    (「ようやく折り返し、か」)
     三人の配下を倒した、その時点で颯夏はそう判断を下した。気は抜かない、何故なら羅刹と言う最悪の敵が残っているからだ。
    (「通せんぼ、か……アンタにとっては楽しい遊びになるハズだったかもしれないけど」)
     まるで遊びに興じるように命のやり取りを行う羅刹の姿に颯夏は思う。
    「その遊びは趣味が悪いね」
     倒さなくてはいけない敵なのだ。命を奪う事に忌避を抱かず、それを遊戯に出来る強大な力を持つ存在など――認めてはいけない。
    「あはははははは!!」
     羅刹が鋼糸を振るう。その糸の刃は四方から祭莉へと襲い掛かった。だが、羅刹が小さく目を見張る――その直後、羅刹の右腕が宙へと釣り上げられた。
    「鋼糸の使い方はボクの方が上だよ」
     斬弦糸に切り裂かれながら祭莉が右手をかざす。音もなくその指から伸びた鋼糸が羅刹の右腕を絡め取ったのだ。
     その封縛糸によって動きが止まった一瞬をましろは見逃さない。
    「お返しなんだよ」
     自分よりも仲間が傷つけられる事の方が許せない、そうましろは羅刹の右肩をバスタービームで撃ち抜いた。
     羅刹が鋼糸を振り払い、地面を蹴る。だが、既に真後ろへ回り込んでいた沙月は逃がさない!
    「てめぇの花を咲かす場所は無ぇ!」
     反応し振り向いた羅刹の腹へ沙月の雷を宿した拳が振り上げられた。小さな体が一瞬宙に浮かぶ――そこへ千鶴が踏み込んだ。
    「――ッ!」
     千鶴は華奢な肩に担いだ無敵斬艦刀を加速を乗せて振り抜く――羅刹がそれを鋼糸を束ねて防ごうとする。
     一瞬の均衡、弾かれそうになるその柄に千鶴は渾身の力を込めた。
    「負け――ない!」
     ザンッ! とその受け止めた鋼糸ごと、千鶴は羅刹を切り裂く。
    「あ、ははははは! すごいね、楽しい……?」
    「――子供相手でも、ダークネスに容赦はしないわ!」
     傷付きながらも微笑みかける羅刹へ初心は構わず構えたバスターライフルの引き金を引いた。
    「光の中に消え去りなさい!」
     バスタービームの一撃に今度は左肩を撃ち抜かれ、羅刹は膝を揺らす。だが、その顔には悪意に満ちた笑い顔が張り付いたままだ。
    「あはははははは! 楽しい! 殺すのも、殺されるのも!」
    「……もう黙れ」
     颯夏が鋼糸を繰り出し、楓太郎が跳躍と共にその脇腹を斬魔刀で斬り付けた。その人形のように整った愛らしい少女が――歌うように言った。
    「――楽しいでしょう? 殺すのは?」
    「そうね、でももっといい声で鳴いてくれたら最高よ?」
     ゴブリ、と羅刹の足元から影が伸びる――まるで無数の手が爪を立てて掻き抱くようにジルエットの影業が羅刹を飲み込んでいく。
     そこへ蝶胡蘭が跳んだ。見事な軌道を描く、蝶胡蘭のご当地キック――その名も!
    「ロックハートキック!」
     その蹴りが影に掻き抱かれた羅刹の胸へと叩き込まれた。小さな体が衝撃に揺れる――その感触を影業越しに感じてジルエットは蕩けるような笑みで告げた。
    「ええ、いい感じだったわ。あなた」
     その言葉に、羅刹は楽しげに笑い――掻き消えた。


    「はぁ、頭痛ぇ」
     静寂の戻った路地裏で沙月が額を抑えた。それに、ようやく仲間達も笑みをこぼす。
     羅刹が消えた場所を見て、祭莉が囁いた。
    「ほら、ボクは鬼ごっこが得意なんだ。キミには止められなかったでしょ?」
     その言葉に答えはない。ただ、あの笑い声だけが耳に残っている。
    (「生まれ変わりって信じたことないけど、来世は人間として生まれると良いんだよ」)
    「みんなお疲れ様、だよー」
     祭莉達が黙祷を捧げていた間に撤去してきた看板をその手に掲げ、ましろが笑顔で言った。
     全員で話し合った結果だ――この道を通って帰ろう、と。
    「……帰りましょうか」
     闇に堕ちる前の彼等を想い、祈りを捧げ終えた千鶴がそう告げる。それに仲間達もその路地を歩き出した。
     しばらく続いた暗闇は、やがて繁華街の明かりに掻き消されていく。もはやこの道は黄泉路ではなく、誰もが望む場所に行くために通るただの道となったのだ。
     その日常を取り戻したのだ、と灼滅者達はその胸に勝ち取ったという誇りと共に刻み込んだ……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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