「わたくし、仁王岩・りんごと組んずほぐれつ納豆まみれになりたい殿方はいらっしゃいませんもちぃ?」
黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)はおそらくその声がした時、一目散に逃げるべきだったのかも知れない。
「変態だー!」
と叫ぶのは、気持ちも解るがよろしくない、まず確実に見つかってしまうだろうから。
「え、うわぁっ、たったっと」
ただ、この時のいちごはそのどちらでもない。納豆まみれになっていなければ素っ裸の少女が口にした名に思わず足を止め、足下の納豆に滑ってバランスを崩し、そのまま片足でケンケン跳び。こう、名乗り出るかわりに自分から進み出た格好になったいちごだが、とある体質のいちごがこれで終わるはずもなかった。
「わぁっ」
「きゃあっ」
勢い余って少女の納豆にまみれた豊満な胸にダイブ。悲鳴をあげた少女をそのまま押し倒し。
「まあ、大胆ですもちぃね。ですが、嫌いじゃありませんもちぃよ。では、たっぷりとそのうなじを堪能させて頂きますもちぃ。その後、納豆餅について色々とお話を――」
今回はうなじに執着かとか、それであんなことを言っていたのかと思う暇があったのかどうか、いちごは犠牲になったのだった。ご当地怪人の犠牲に。
「へぇ、それで……」
納豆の臭いがするいちごから少し距離をとったまま、鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)は災難だったねと労って見せた。
「けど、そんな話をしたってことは……」
「はい、放っておくと私以外にも犠牲になる人が出てくるかも知れませんし」
なんとかすべく和馬や君達は呼び集められたのだろう。
「あー。じゃあ、出向いて、接触して、一応説得して、戦うって流れかな?」
「そうですね。一応、堕ちかけの可能性も……救える可能性があるかも私達だけじゃ判りませんし」
エクスブレインが不在なのだから、それは仕方ない。
「幸いと言っていいかは判りませんが、私が納豆まみれになってから時間は経っていませんし、あのりんごさん……ご当地怪人は時々身体についた納豆を落としながら移動してるみたいですから」
「うわぁ……オイラたちからすると辿っていけば接触出来るってのは楽で良いけど、うん……後で掃除とか必要かなぁ」
灼滅なり救出なりしてしまえば納豆は消えてしまう可能性も残されてはいる、いるがエクスブレインが居ない以上、断言出来る者は居らず。
「とりあえず、モッチア……お餅のご当地怪人なら対応するお餅を持っていった方が向こうの反応は良いよね?」
「そうですね……あとは」
いちごが身を挺して集めた情報によると、ご当地怪人は男の娘と男性のうなじも大好物らしい。
「え゛? と言うか、何で性別男限定なの!?」
「女子校出身で、女の子は飽きたそうです」
ピンポイントに自身も狙われる可能性のある追加情報に和馬が顔を引きつらせる一方で、補足するいちごの目もすわっていた。
「ご当地怪人なら、ご当地ヒーローのご当地ダイナミック相当の攻撃はあるでしょうから――」
納豆まみれのご当地怪人が掴みかかり、納豆まみれにされたあげくうなじを堪能された上で叩きつけられると言うことも充分に考えられ。
「遠くに行っていないなら、戦場はたぶん私が滑った路地の近くです。掴みかかってくるご当地怪人から隠れられるような場所は無かったような。あ、街灯はありましたから明かりは必要ないと思いますよ」
「まぁ夕方でもあるもんね」
一つ準備しなくて良いのは嬉しいが、自分まで納豆まみれにされる可能性を減らせないとなれば純粋には喜べず。
「あとは人よけの用意ぐらいかな?」
そうですね、と和馬のあげたひつようなものに同意したいちごは君達の方に向き直るといろんな意味で放っては置けませんからと前置きし、ご協力お願いしますと頭を下げたのだった。
参加者 | |
---|---|
姫条・セカイ(黎明の響き・d03014) |
綾瀬・一美(蒼翼の歌い手・d04463) |
皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424) |
パニーニャ・バルテッサ(せめて心に花の輪を・d11070) |
水無月・カティア(仮初のハーフムーン・d30825) |
神御名・詩音(神降ろしの音色・d32515) |
雪嶋・義人(雪のような白い餅をこの手に・d36295) |
非道岩・りんご(間隙に注ぐ紅月・d37335) |
●あと二人?
「本当に……どれぐらい……いるんだろうね……もっちあって……」
ポツリ漏らしたのは、皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)だった。
(「今回は……納豆か……」)
そは幾人かに後ろをトボトボ歩く綾瀬・一美(蒼翼の歌い手・d04463)が話を聞いた際の反応を思い起こさせる。
「納豆!? 納豆嫌いなんですよぉー、あのねばねばーが~」
と声に出しはしないが一美は納豆が嫌いらしく。
「はわ~、今回はテンションだだ下がりですよ」
服だけでなく顔まで青い。
「『モッチア』で『魔王』!?」
一方で納豆以外の要素に仰け反って見せたのは、パニーニャ・バルテッサ(せめて心に花の輪を・d11070)。
「世の中には似た方が3人おられると聞きますが……」
「よく似た人三人ね……」
姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)の言に表情が動かし。
「リンゴ、よく似た人三人どころかどんどん増殖してない……? しかも大概へんてこな属性付きで……」
ただ、そう口に出さなかったのは正解だった。
「同じ顔が3人というのは聞いたことありますけれど――」
「どんどん増えていくと、2人目のわたくしがまだましに――」
パニーニャから見て後方で鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)のサポートに駆けつけた白と黒が会話していたのだから。
(「同じ名前として、一つだけ譲れないことがありますのよ」)
一方で無言のまま謎の闘志を燃やす非道岩・りんご(間隙に注ぐ紅月・d37335)も同行者にいる訳で、既知の魔王を思い返しあちゃーと掌で顔を覆う前に「どうへんてこか教えて頂きたいですわね」という声がステレオで聞こえてもおかしくなかったのだから。
「な、なんでしょう? 最近、詩音さんと一緒に依頼に行くと、変な相手に良く会いますね……?」
「否定はしませんし身の危険は然程感じませんが、何でしょう? 何か乙女として放置してはならないことが起きる気がしてなりません」
水無月・カティア(仮初のハーフムーン・d30825)の言葉に応じた神御名・詩音(神降ろしの音色・d32515)の言の身の危険とは当人限定なのか。
「はわー、り、りんごさん、『テンション』って、そう言……ひゃうんっ」
「身の危険というか、既に襲われてる人居るんだけど?」
思わず和馬がツッコむが、サポートに来てるはずの黒い方は平常運転であり。
「そのうち六つ子になるんじゃないかしら……?」
周りの視線も気にならないのか、謎の予言。
「でも、何人目であろうとお助けしたい気持ちに変わりはありません」
「うん」
一人目の言を継ぐ形で、再び口を開いたセカイの言に頷いたのは、雪嶋・義人(雪のような白い餅をこの手に・d36295)。
「その人も闇もちぃに苦しんでいるなら助けないと」
自身も闇もちぃしてダークネスになりかけた過去があるからだろう。
「では、これを」
「あ、ありがとう」
だから、セカイから差し出された女装用の服を受け取るところまでは問題なかった。
●風評被害
「えっ」
問題は受け取った衣装を確認したあとだ。
「えと、先輩、女装用に服を貸してくれるのはいいんだけど……」
言い辛そうに取りだしたのはブラジャー。
「下着はいらないからっ?! それになんで下着の中に納豆餅入れてるの? パッド替わりなの??」
「え? ええ、以前レオタードからチョコ餅を出された方がいらっしゃって、モッチアの流――」
「そんな流儀ないから!」
思わず義人は叫ぶが、これは仕方ない。
「大丈夫です、内側に納豆を包んでいるのでべとべとしませんし」
「そう言う問題じゃないよ? 先輩の天然な所は好きだけど……包んであっても臭いはするから先輩の匂いが納豆臭に消さ……げふんげふん」
とんでもない事まで口走りかけた義人は咳払いで誤魔化し。
「じゃ、始めようかしら? 素でもかわいいけど、男の子の魅力引き上げるメークくらいはしてあげた方がいいだろうし♪」
「え゛」
化粧品をずらっと広げるパニーニャに腕を掴まれて硬直したのは和馬だった。
「和馬さんも女装するんですか。それはいいですねぇ、服ならわたくしのを貸してあげますから、さあさあ」
「や、ちょ」
目を輝かせ背を押すのは白いりんご。
「では、こちらも参りましょうか」
「先輩?!」
セカイもこれに倣って義人を確保し。
「ちょ、ちょっと待」
「なるほど、囮は男性か男の娘だから……あれ? もしかして私も狙われるんですか?!」
デフォ女装で難を逃れ、得心しつつ二名程が物影に連行されるのを見ていたカティアは、今更ながらに大問題に気づき。
「あ、あの、詩音さん、危なくなったら助けてくだ――」
詩音の方を振り返ろうとし、目撃する。
「こっちだって、やられてばかりじゃ!」
「『やられてばかりじゃ』、何ですか?」
「はわわー」
身内とおっ始めた一美とかを。
「詩音さんじゃありませんし、問題ないですね」
「ないんだ?!」
「はいはい、あんまり動くと折角のメイクが台無しになるから動かないっ……! ツッコミは後ね、後」
サラッと流したカティアに物影から声が上がるが、すぐパニーニャのモノらしき声に窘められ。
「お待たせしました。ふふっ、雪嶋さんはお肌も白くて女性のお洋服も似合いますね」
貴い犠牲を出しつつ女装タイムは終了。
「確かに、雪嶋さん、元々かわいらしい殿方でいらっしゃいますものね……」
「そうですねぇ、義人さんの女装可愛いですねぇ……♪」
「え゛っ」
セカイの言葉に相づちを打ち自分を見るりんご達に固まった義人の背へ寒気が走った。
「ともあれ、これで準備は完璧ね、しっかり囮となってもらいましょう。後は、殺界形成も展開して……ッと」
だが、パニーニャには関係ない。ささっと準備を済ますと道を空け。
「……いこ」
素で間違えられるからか、騒ぎに巻き込まれなかった零桜奈が所々に納豆が落ちてる道に進み出て、振り返る。
「あ、うん」
「そうですね、行きましょう。私の髪の長さならうなじも狙いやすいはず?」
「って、何でそこで疑問系?!」
カティアの言にツッコミも入って賑やかに囮の男性陣が出発し、暫し後。
「わたくし、仁王岩・りんごと組んずほぐれつ――」
件のご当地怪人はあっさり見つかった。
「辿るだけですし、納豆」
問題は、誰が声をかけるか。
「あの、声はかけずともこちらに気づかせてから下がれば良いんじゃないですか?」
「あ」
緊迫した空気はすぐに崩れるも、遅かった。
「まぁ、素敵な方。ようやく名乗り出て下さったのもちぃね?」
「き、気にいってくれるのは嬉しいけど……どうせなら怪人じゃなくて、元に戻ってから……」
「ちょっ、義人兄ちゃん?!」
納豆を踏んで滑って進み出てちゃったのだろう。既に接触してる人が約一名。
「まあ……その格好じゃ……相手も逃げる……だろうし……それに……」
実際、義人の腰が退けてる様を零桜奈は指摘する。
「元に戻ってから……やる方が……いいと思うよ……うん……」
「いいえ、違いますもちぃ。これはきっと照れてるだけで……って、あら?」
説得に持ち込まれ反論しようとしたご当地怪人こと納豆モッチアは零桜奈をマジマジと見て、あなたも殿方もっちぃのねと嬉しそうな笑顔を作る。
「嫉妬何てしなくても、順番にしますもっちにのに」
「何て言うか、この人紛れもなくお仲間だ」
白い方のりんごに抗議をスルーされた時の対応に似たものを感じて、和馬は呟く。
「わたくしですか?」
「うん。って、何時の間に?!」
答えてから自分を抱きしめてる存在に和馬は戦くが、答えを口にしたのは、別の人物。
「胸騒ぎがしたのです」
言いつつ、詩音がちらりと視線を向けた先に居たのはカティアだった。
「あら、そちらの殿方もいかがですもちぃ?」
「いえ、納豆は嫌いじゃないんですけど、詩音さんの手前、とらぶるに巻き込まれるわけには……」
もっとも、二名の貴い犠牲を代償に怪人から距離を取ろうとしているところでもあり。
「ですすが、杞憂に――」
終わりそうと続けることは出来なかった。
「って油断してたら接近されてます!? いえ、あの、私には詩音さんがいるので! ハグはノーサンキューで!」
かなりせっぱ詰まったカティアの声を聞きつけ、庇う様に詩音が飛び出す。
「カティアさんはダメです。私の旦那様なんですから」
「た、助かりました、詩音さん。……今、何て言いました? えっと、あの、こんな大勢の前で言われると、その……」
おそらくは、自分が納豆まみれになってもいい覚悟で飛び出したのだろう、カティアも感謝してから大胆発言にまごつき、窮地は去ったかの様に思われた、ただ。
「顔が似てるのはわかりますが、複雑ですわね」
「「あ」」
そこにいたのは、苦笑するスリット好きのりんごであり。
「さあ、遠慮はいりませんもちぃ」
「だから……」
本物の納豆モッチアは、二名の男性陣を追いつめている真っ最中。
「納豆餅の匂いと、こう……魔王オーラ? っていうの? そゆのがまじり合うと……カオスね……」
頭を振るパニーニャに一言ツッコむことがあるとするなら、接触前からだったよと言ったところか。いずれにしても、説得はまだ始まったばかりだった。
●女の戦い?
「あら、仁王岩さんはうなじがお好きですのね……」
苦笑を引っ込め、進み出たスリット好きのりんごは名を呼ばれたご当地怪人が、自分に視線をやるのを認めてから再び口を開く。
「甘い、甘いですわ。若い殿方の魅力は、そのおみ脚にありますのよ」
「なっ」
自分とは違う趣向を持つ者の力説は注意を迫られる男性陣から一瞬で移すことに成功する。迫られてる二人からすればまさに救いの主。
「さあ、雪嶋さん、あの都市伝説ではなく、わたくしの近くでもっと見せてくださいな……」
「非道岩さん?!」
じゃなかった。
「さあさあ」
「非道岩さんもくっつかないで……って言うか、たくしあげないで!」
流石にセカイからの借り物にスリットを入れるのは行けないことだという分別はあったのだろう、だがそれ以外は行方不明になってるらしい。
(「これもあの都市伝説を惑わせるため……今ばかりはご容赦を」)
ちらりとセカイの方を見た非道岩さんが、モッチア手前、声には出さず詫びてみせたところを加味すればそうでもないか。もっとも、これで察しろと言うのは無理がある。一杯一杯の義人へセカイが徐々に不機嫌なる過程を察していろと言うのも。
「……随分と慕われておいでですね」
だから、凄みのある笑みを向けられたのは、必然だった。
「ち、違っ、オレは先輩一筋だからっ!」
慌てて二人を引き剥がし大好きな先輩の元に戻ろうとする義人。
「あ」
ただ、服を掴まれているのを忘れており。
「……危な、あ」
傍観していたにもかかわらず零桜奈も当然の様に巻き込まれた。
「まぁ、路上に寝そべってなんて大胆ですもちぃね、では早速」
「ち、違うから!」
「あら、このままスカートの中に頭を突っ込んだらおみ脚を眺め放題ですわね」
「非道岩さん?!」
本来女性が被害に遭う場面だが、今回は巻き込まれた側もまともじゃなく。
「個人的には可愛ければ男の娘もありだな~って思ってたけど」
「はい、巻き込まれなくて良かったです」
詩音以外の異性の裸は気にならないカティアも詩音の前で他の異性ととらぶるのは嫌だったのだろう。パニーニャの言葉を継ぐ形で頷き。
「はわ……りんごさ、そろそろ離し、ひゃうん」
「って、まだ捕まってたの?」
服に手を突っ込まれた一美の声に振り返ってパニーニャが驚く。
「はぁ、はぁ、危ないところでした。ですが、もう大丈夫です」
「や、大丈夫って」
「大丈夫なんです! 納豆まみれは嫌ですから近づきませんし――」
乱れた呼吸とか着衣とか全てを強引に力説で流すと、一美はくるり怪人の方を向き。
「納豆を遠距離に飛ばしてくるわけなんて無いですよね、無いですよね!」
「もちぃ? ご当地ビームに納豆のせられもちぃわよ?」
大切なことなので二回言った一美の念押しは、キョトンとしたモッチア当人によって否定される。
「はわーっ」
「いや、今のは予想出来たと思うんだけど」
むしろ、フラグ立てて踏み抜いた感もある。もっとも、怪人にはどうでもいいことだったようだが。
「それよりも、もっとこちらに。これではこちらの方しかうなじが見えませんもちぃ」
「だ、だからそれは元に戻っ」
「ああ、薄暗いですけれどここはパラダイスですわ。あ、こんな所に納豆餅が」
「ちょ、どこ触って――」
焦る義人と、そのスカートの中で蠢く魔王その三。
「駄目! これ以上誑かさないでください!」
流石にセカイも黙っていられなかった。駆け寄ると雪嶋くんの手を引っ張り。
「……うぷっ、苦、ぐっ」
「えっ」
災難だったのは、モッチアのもっちあ(名詞)の下敷きになった上、セカイに踏んづけられた零桜奈だろう。
「きゃああっ」
「先輩ごめーん?!」
「皆さん大丈夫ですかっ?! って、わぁっ」
「はわっ」
セカイ達がいつものやりとりへ突入する中、お説教から解放されたいちごが駆けつけ、勢いのまま一美達とぶつかり、押し倒す。
「うん、やると思った。けど、チャンスよね」
酷い状況ではあるが、説得には格好の機会であり。
「私、納豆餅というものは今知ったのですけど、美味しく頂くには――」
「もちぃ? それはいけませんもちぃね」
詩音が言い切って話を振るよりも早く、存在意義を思い出したモッチアが食いつき説明を始める。
「ありがとうございました」
詩音が礼を口にしたのは、解説が全て終わった後のこと。
「色々と納豆餅への愛を感じました。ですので、どうにか立ち戻って頂きたい……のですが」
「残念ながらそうはいきませんもちぃ」
頭を振って身を起こした怪人は身構える。
「ですよね。納豆まみれで服が脱げたりしても気にしません。乙女にだって退けない戦いがあるんです」
「服が脱げても気にしません、じゃなくて、気にしてください!?」
カティアのツッコミが響く中。
「ソノ死ノ為ニ……対象ノ破壊ヲ是トスル」
胸やお尻に埋まっていた零桜奈も身を起こし、カードの封印を解き。
「はっ、倒れている殿方のうなじがベストポジションに。これでは動――」
怪人の動きが止まるも、詩音は既に肉迫しており。
「もちゃばっ」
上がった悲鳴が袋叩き開始の合図。
「ふふ、うなじ、楽しませて頂きましたもちぃ」
そのままボコボコにされた怪人は悔いなき表情で傾ぐと、納豆をまき散らしつつ傾ぎ、元の姿に戻り始めたのだった。
●いつもの
「モッチアも何とかなりましたし、殿方のおみ脚も堪能できましたし、よかったですわ」
「だ、たったら、これ以上はいいよね、非道岩さん?!」
ほうと息をつくりんごに義人が腰の退けた様子で居るのは、自分を視線から外さぬ為。
「けれど……あともう少しだけ、ゆっくりと楽しみたいところですわね……」
「あぁ、わたくしももうちょっとうなじを堪能したいですわねぇ。さっきまではダークネスだったので記憶も朧気ですし」
「元に戻った仁王岩さんまで、ちょっとっ?!」
慌てる義人の声をスルーしてりんご二人は無言のままセカイの方を見る。
「うっ」
つまり、揃って間接的にセカイをからかっているのだろう。だが、迫られてる殿方だけがこれに気づかない。
「せ、先輩、誤解しないでー?!」
「あ、非道岩さんも仁王岩さんもずるいですわ」
セカイに向かって手を伸ばす義人へ向け近寄るのは白い三人目。
「あ、大丈夫ですよ、セカイさん。とりませんから」
「とりませんは、良いからそっちに行くならオイラは解放して欲しいなぁと思ったり」
くすくす笑うショタ好きに抱えられ和馬は零した。猛烈に嫌な予感もしたのだ。
「あ、アリカさん、反省してないって違いま、これは事」
衝撃を感じたのは、一美の言葉に続いちごの声が不自然に途切れた直後。
「「きゃあ」」
「はわーっ」
「わぁっ」
いくつもの悲鳴は重なり。
「倒れた先がスカートの中で助かりましたわ」
「ちょっ、非道岩さん?!」
「でしたらうなじはわたくしが」
「あら、義人さん達が丁度良い場所に居ますわね。混ざってしまいましょうか?」
出来上がったのは、幾人もの男女が絡み合う様転倒し、とらぶるを良いことにやりたい放題始めそうな魔王達の図。
「雪嶋さ――あ」
当然、見ていられずセカイは助けに向かおうとするが、一美のお尻に顔を埋めたまま他者の下敷きになって動きの取れない零桜奈の身体で躓き。
「せ、先ぱ」
「きゃあああっ」
連鎖するアクシデント。
「旦那様、綺麗にして頂けますか? あちこち納豆がついてしまって……」
「き、気持ち悪いのはわかりますが、服を着てください!?」
巻き込まれなかったのは、クリーニングを依頼する詩音とそんな詩音を直視出来ないカティアの二人だけ。
「やっと終わりましたか……」
何だかんだ言ってもお願い通り詩音の身体を綺麗にしたカティアが言及したのは、ESPの話か、それとも戦いについてか。
「何かとっても疲れましたけど、やっぱり詩音さんが一番です」
嘆息しつつも、二人だけの世界で口元を綻ばせる。きっと周囲の惨状と混沌は見えないのだろう。
「「それにしても……やっぱり色々複雑ですわ」」
まだ絡まり合ったままの中、四人のりんごは顔を見合わせると声をハモらせるのだった。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年12月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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