暗殺武闘大会武闘予選~廃病院の来訪者たち

    作者:海乃もずく

    ●ブレイズゲート探索者増加中
     ドガッ、と音をたて、病室の壁にいけないナースが叩きつけられる。
    「こいつら、次から次へとわいてきやがる。ウサばらしにゃ悪くねえが、それだけだ」
     そこにいたのは、獰猛な笑いを浮かべるアンブレイカブル。医療器機が散らばる室内を横切り、戸を開けて先へと進む。
     廃墟の街の中にそびえたつ、荒れ果てた病院。要塞化され、ブレイズゲートとなった建物の中。
     ほどなくピンクハートちゃんの一群と出会ったアンブレイカブルは、力任せにつかんで投げ飛ばし、蹴り上げた。
     廊下の向こうでも、似たような音がする。アンブレイカブルは舌打ちをした。
    「他のやつらと鉢合わせるのも面倒だな。さっさとボスを倒して、俺は予選突破とさせてもらうさ」
     
    ●暗殺武闘大会武闘予選
    「ミスター宍戸プロデュースの暗殺武闘大会は、暗殺予選とは別に、武闘予選もあるんだって」
     天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は、ベッドから身を乗り出して、そう言った。
     先日、横浜で行われた暗殺予選は、残念ながら完全阻止とはいかなかったらしい。予選を通過し、本戦に駒を進めてしまったダークネス達が何人かいる。
    「その上、本戦に進むための道はひとつじゃないんだよ。それが武闘予選。例によってミスター宍戸があちこちに広めているから、何をするかはすぐにわかったの」
     武闘予選とは、『武蔵坂学園の灼滅者が探索しているブレイズゲートを探索し、ボスを倒して帰ってくる』というものらしい。
     今回も、灼滅者の妨害がある事を前提に、ブレイズゲートの制覇を目指すというのが、ミスター宍戸のプロデュースのようだ。
    「横浜の事件と違って、無視しても被害が出る事はないけど、暗殺武闘大会に参加するダークネスの数を減らす事は、次に繋がる成果であると思う。だから、可能な範囲で数を減らして欲しいんだよ」
     
     カノンの提示した手順は、シンプルなものだった。
     あらかじめ、迎撃ポイントを選択しておく。ブレイズゲートに入り、その地点までの探索を行う。配置に付き、やってきたダークネスを迎撃して撃破する。
    「ただ、ブレイズゲートのボス撃破のルートを完全に塞いで、やってきたダークネスを灼滅し続けていると、予選突破の為にダークネス同士が協力して襲い掛かってくるかもしれないよ」
     これを阻止する為には、ボス撃破のルートを完全に塞がないような場所で戦うか、或いは、わざと一部のダークネスを通してクリアさせるといった工夫が必要になる。
     有力なダークネスのみ襲撃して撃破し、弱めのダークネスを通すといった事をすれば、武闘予選の意義を失わせる事ができるかもしれない。
    「探索に来るダークネスは、六六六人衆、アンブレイカブル、羅刹、デモノイドロードだよ」
     どのダークネスがどの順番で回るかまでは、残念ながらわからなかったという。
    「ブレイズゲート内部の構造は、みんなもよく知っているだろうから、地の利を生かして戦うのもいいと思うよ」


    参加者
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    サーシャ・ラスヴェート(高校生殺人鬼・d06038)
    ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)
    カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)
    空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)
    九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)
    土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)
    日下部・優奈(フロストレヴェナント・d36320)

    ■リプレイ

    ●ブレイズゲートの中へ
     那須殲術病院がブレイズゲートとなってから既に3年が経過している。
     光景はいつも変わらない。白いロビーには円柱が等間隔に並び、柱の間には血まみれのベッドが並ぶ。
     九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)は、来慣れた様子でロビー奥へと向かう。
    「ブレイズゲート化してますから何が起こるか判りません。慎重に参りましょう」
     今日の目的はブレイズゲートの踏破……ではなく、暗殺武闘大会の武闘予選の妨害。そのため、まずは最短経路で拠点とする地下3階を目指す必要があった。
     日下部・優奈(フロストレヴェナント・d36320)の脳裏に、いくつもの感情と記憶が押し寄せてくる。
    (「そうか、帰ってきたんだな……此処に」)
     血鎧を纏うヴァンパイアから鍵を奪取し、地下1階へ。
    (「鈴森君さん居ないのが実に残念。まぁ、ここにはあんまり良い思い出も有りませんか」)
     ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)は予言者の瞳を駆使し、真っ向から向かってくる草津温泉怪人の眉間を撃ち抜く。
     草津温泉怪人達を排除し、地下2階へ。スイッチを押し、地下3階へ。
     無数のダークネス達が潜んでいるであろう建物内部は、しんと静まり返っている。
    「それじゃ、ちょっと行ってくるよ。待っててね」
     空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)が犬に姿を変え、目立たぬ姿で先行する。敵の気配がないことを確認し、キャビネットの並ぶ部屋を通り抜けた。
     3階の固定敵、白い炎を纏うイフリートを灼滅。
    「ここまでは無事に来れたのう。もっとも、本番はこれからじゃ」
     カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)が壁面のスイッチを押す。扉の開閉が可能になり、先にある小部屋に入れるようになった。
     ――ここが今回、灼滅者達が潜伏場所として選んだポイントだった。
    「このポスター、スイッチ隠しに使えそうです」
     土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)は、掲示物をスイッチの上に貼る。違和感を減らすため、壁と紙を横切るように汚れを足してバランスをとった。
     扉の前についたてを配置し、覗きやすく角度を調整する。その上で細く扉を開け、潜伏場所を整えた。
    「ターゲットは六六六人衆と、アンブレイカブル。中程度の強さか、それ以上の敵。あとは見逃すでいいんだよな?」 
     方針を確認し、サーシャ・ラスヴェート(高校生殺人鬼・d06038)は見張りに立った。
    (「召喚の儀式を参考にするとかでソロモンの悪魔信奉者達と接触してたりしたら嫌だなぁ……勉強熱心な六六六人衆とか笑えない」)
     しばらく後、六六六人衆らしいダークネスが部屋を通りかかる。出現したイフリート相手に、苦戦している様子が見て取れる。
    「あれは、見逃すべきでしょうね」
     黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)は、冷静に相手の強さを見極めていた。
     敵の強さを知る試金石となったイフリートには形ばかり「御免なさいね」と呟くが――璃羽の関心は、もっぱら敵の強さを見極めることにある。

    ●予選参加者たち
     1人目、2人目の六六六人衆は素通し。地下4階から頻繁に咆吼が響き、ベッドの金具が振動する。
    「彼らを藤堂さんの所へ行かせるのは業腹ですが……ここは目的の為に我慢のしどころですか」
    「この件については、ミスター宍戸はいずれ殴るとして、今は、倒すべき敵を倒しませんとね」
     皆無と璃羽の会話を耳にしながら、サーシャは片手で合図を送る。
    「今度の奴は有望そうだ」
     扉の隙間から、イフリートを手際よく追い込む六六六人衆が見える。
    「僕たちの出番が回ってきたってことだね。それじゃ、行こうか」
     陽太はかぶっていたフードを落とす。すると、普段の笑みがスッと消えて無表情になった。手に持つ銃器の一部のように、まとう雰囲気も、無機質なものへと一変する。
     イフリートとの戦闘直後、部屋へとなだれ込む。音を遮断し、外部との繋がりを断つ。
    「Quiet,見ての通りの忍者ですよ。お静かに退場願います」
     対角線の物陰へと滑り込み、撃ち込むジンザの弾丸が、身を翻す六六六人衆の腕をかする。
    『ケッケケケ、さッきからコソコソかぎ回ってたのはバレバレだぜェ!!』
     高々と笑う、短髪にレザージャケットの男。ジンザを追いかけ毒液の滴る爪を振りおろす。
     ガチリと固いがして、鬼の腕を模した皆無の手甲が、振り下ろされる毒爪を受けとめた。
    「私達も、さほど奇襲に期待はしていません。……どのみち結果は変わらないからな」
     荒っぽい言葉混じりで皆無が答える。六六六人衆は、包囲体勢をとる灼滅者達を見回しニヤリと笑った。
    『いいねェいいねェ、ちッと物足りねェと思ッてたところだ。ここは湿っぽくて陰気臭くて、遊園地にしてもお粗末すぎるからなァ! ケッケケケケ!』
    「……色々と言いたい事はあるが、の」
     白梟の羽を生やし、梟のお面を被るカンナが、怒りを押し殺した声で男の笑いを遮った。
    「此処は妾達の同胞が、妾の『家族』が眠る地よ。貴様らのような輩に、其の安寧を乱されるのを放ってなどおけぬのでな」
     カンナが放つダイダロスベルトが、急所へと撃ち放たれる。敵の回避行動を読んだ優奈が、回り込んでサイキックソードの一撃を入れた。
    「消え失せろダークネス風情が、ここはお前達が踏み込んでいい領域ではない」
    『畜生ッ、やってくれたなァ!』
     短期決戦を目指す戦いは、激しい応酬を交わす苛烈なものとなる。
    「支えます、任せてください」
    「オレも回復に入るぜ。土屋は前線を頼む!」
     筆一は立て続けに回復を飛ばし、戦線の下支えに注力する。仲間の負傷は、いつ直面しても息が詰まる思いがする……が、今は戦闘に集中しなければ。
     都市伝説から癒やしの力を引き出す筆一のかたわら、サーシャは浄化をもたらす清めの風を呼び込んで、毒爪の影響を打ち消す。
    「ブレイズゲートを玩具にするな、と言えた義理はないですが。ここは気軽に踏み荒らして欲しくありませんのでね」
     ジンザのガンナイフ『B-q.Riot』が光条を描き、六六六人衆の肩先を切り上げる。
    『ぐ……ッ!』
     黒一色の服に身を包む璃羽の足下から、彼女自身と等しく黒く長い影が伸び、角度を変えて敵を斬り裂く。
    「こんなゲームに参加する時点で程度が知れますが、貴方にはここでリタイヤして頂きますよ」
    『くッ……そ。ここで予選敗退かよッ!』
    「予選敗退? それで済むわけないだろう、ダークネス」
     狙撃魔銃McMillanCMS5の引き金を引く陽太。とどめの魔弾は六六六人衆の体内で荒れ狂い、内側から爆ぜるように、装備ごと全身を引き裂く。
     六六六人衆の体はドロリと溶け、毒々しい臭いを放ちながら蒸発していった。

    ●激戦
     速やかに拠点の小部屋へと引き上げ、負傷の程度を確認、慌ただしく処置を施す。準備していた心霊手術のほぼ半分を消費し、完治といかずとも傷を治した。
    「それで、陣形はどうするかの? 妾は交代なしで構わぬが」
    「オレも問題ないぜ。何とか治す時間があったからな」
     カンナとサーシャの言葉に、筆一が頷く。
    「わかりました。このまま、僕が回復を受け持ちます」
     扉の向こうに新たなダークネスの気配を感じたのは、回復時間をぎりぎり確保できた直後のこと。
    「アンブレイカブルだね。しかも……」
    「……強敵のようだな」
     陽太と優奈が、交互に扉の向こうを確認する。――標的条件に合致する。
     この戦いも、タイミングをはかったが不意を打つことは難しく、アンブレイカブルとの正面対決になった。
     着流し姿のアンブレイカブルは、緩急取り混ぜた身のこなしと、鉄塊のような威力の木刀で灼滅者達を打ち払う。
    「こいつでまだ2人目か。1人でも多く倒してやるぜ」
     受け損ねれば体が粉々になりそうな木刀の刺突を、サーシャは槍の枝でどうにか弾き返す。サーシャの手元でヒュンと一回転した槍先が、螺旋を描きアンブレイカブルの足下を穿つ。
    「もっと強い人が参加しているのを教えてくれたら、見逃してあげてもいいですよ……と言ったら、どうしますか?」
     璃羽の問いかけに、豪快に笑うアンブレイカブル。無造作ながら隙のない構えで攻撃を受け流す。
    『今はわしで我慢しておけ。こう見えて、お前らをひねるくらいは造作ないわ』
    「そう言われるとは思いました。こちらも本心ではありませんので」
     璃羽の周囲を巡るサイキックの光輪が、死角へ回り込み急所を狙う。
    「ここは仲間の眠る場所ですのでね」
    「妾の家族の眠りは、乱させぬ!」
     皆無のシールドバッシュと、カンナのクルセイドスラッシュを紙一重で回避するアンブレイカブルのこめかみを、陽太の魔弾が撃ち抜いた。
    「……少し浅かったな。もう一手先か」
     わずかに目を細めた陽太は、すぐに次の一射への補正を加える。戦闘中にすることは一つ、ダークネス灼滅への最短経路の追求。
    『いい戦いぶりだ! 楽しみも増すものよ!』
     頭から血を流すアンブレイカブルは、獰猛な笑顔で木刀を振るい、前衛を打ち据えた。
    「九形さん、カンナさん!」
     全身の血の気が引く思いの中、筆一は集中ももどかしく癒やしの矢を飛ばす。心霊手術に変えたために欠けた手数が、選択肢を狭めていることがもどかしい。
     負傷度合いも激しく、前衛自身の手数を回復に消費する頻度も増す。
    「藤堂さんもまだ元気なようで。僕等も、もうちょっと頑張りますか」
     地下からの咆吼を耳にしながら、ジンザはソファの背を蹴り距離を詰める。契約の指輪から放たれる呪いが、アンブレイカブルの足取りを鈍らせる。
    「ここで勝って、少しでも仲間の弔いを……!」
     優奈の胸に去来するのは、ここにはいない赤黒い翼のダークネス。
     額を流れる血を拭う間もなく、優奈は流星の軌跡を描く蹴りを撃ち込む。……それが、激戦の決定打となった。
    『いい気概だ。――見事、だった』
     消えゆくアンブレイカブルは、最後の瞬間、ひどく満足そうにも見えた。

    ●撤収
    「引き返すべきじゃのぅ」
     小部屋で回復を済ませる。一息ついて、カンナが口火を切った。
    「あともう1戦くらい……ってわけにもいかないか」
     戦意はまだ高いサーシャだが、仲間の総意が撤収なら、反対するつもりはなかった。
    「心霊手術もわずかですし、戻りのことも考えなければいけません」
     情報をまとめたスケッチブックを閉じ、筆一も同意する。戦闘リソースが減った現在、リスクを回避した行動を重視する必要がある。
     最後まで気は抜けない。不測の事態を警戒しながら、灼滅者達は速やかに撤退をはかる。
    「優奈さん、何か気がかりなことでも?」
    「すまない。何でもない、今行く」
     壁の血痕を指でなぞる優奈に、気づいた璃羽が声をかける。
     去りがたい気持ちを振り切り、急ぎ合流する優奈。……いつもと違いざわつく気持ちを、最後まで抑え切れなかったように思う。
    「それにしても、このくだらない催しがデスギガスを呼び出す儀式とはね」
     フードをかぶり直し、口元にいつもの笑みを戻した陽太が呟く。フード越しに隣を行く皆無を見上げた。視線に気づいた皆無と目が合う。
    「どうかしましたか?」
     丁寧で穏やかな物腰はいつもの皆無だが。……あえて言うなら、雰囲気が、少し――。
    (「……まあ、いいか」)
     何でもないよ、と返して、陽太は仲間と共に歩を早める。
    「運営さんもお疲れ様です。ギャラは、次の機会にたっぷり請求させて貰いますよ」
     ジンザの言葉が、無人となった室内に向けられる。暗黒武闘大会の『運営』はこの様子を把握しているのかどうか……結局、彼らの姿は確認できなかった。
     この先、暗黒武闘大会がどう進むのか。それは間もなく、知ることになるのだろう。

    作者:海乃もずく 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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