暗殺武闘大会武闘予選~喧囂を突き進む凶邪

    作者:夕狩こあら

     景気の良い音楽が耳を覆い、玉を吐き出す音が鼓膜を麻痺させる。
    「五月蠅ェな」
     姦しい光と音を振り払う様に悪態を吐いた男は、左右に壁と居並ぶパチンコ台に目を滑らせながら、フロアを探索していた。
     狂った様にパチンコを打ち続ける者、或いは誰も座っていないのに玉を吐き出し続けるパチンコ台……その異様な光景と狂熱の先に、己が求めるものが、必ず、ある。
    「……ま、さっさとボスとやらを倒して予選突破といこうか」
     ボスを倒して帰還すれば『クリア』なのだ。
     腕に覚えのある自身にとっては、単純明快で潔いルール。
    「武蔵坂の連中が邪魔に来るかもしれないという話だったが、さて……」
     それも瞬殺すれば問題なし。
     喧囂を縫う足は颯爽と、フロアを駆け抜けた――。
     
    「兄貴~! 姉御~! 大変ッス~!」
     横浜で行われた暗殺武闘大会の暗殺予選に介入したのも先日の事、またも教室へと駆け込んだ日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)の表情に大事を気取った灼滅者達は、息を整える彼を暫し見守った。
    「件の暗殺武闘大会は、本戦に進む道はひとつじゃなくて! 先の暗殺予選とは別に武闘予選というのも行われるみたいなんス!」
    「武闘予選?」
     それなりの成功を収めた暗殺武闘大会暗殺予選。
     想定より予選通過者が多かったようだが、ミスター宍戸にとっては誤差の範囲。当初の予定通り、武闘予選を行う事にしたのだ。
     その内容もミスター宍戸によって広く広報された為、武蔵坂も情報を得ている。
    「暗殺武闘大会武闘予選は、『武蔵坂学園の灼滅者が探索するブレイズゲートを探索、クリアして帰還する』というものッス」
    「ブレイズゲート?」
     首を傾げる灼滅者が居るのも当然、ダークネスは長時間ブレイズゲートに滞在すると、ブレイズゲートに取り込まれてしまう危険性があるのだが……。
    「手早く探索して帰還する程度なら大丈夫という判定みたいっすね。もし取り込まれても、制限時間オーバーなら予選も落選、運営としては問題が無いんス」
     暗殺予選では『暗殺されない為の隠密性や立ち回り』等が要求された一方、今度の武闘予選で要求されるのは『相応の戦闘力と、素早く目標を達成する実行力』といった処か。
    「挑んでくる敵の雰囲気も変わりそうだな」
    「脳筋って感じッスよね」
     うんうん、と重なる首肯。
     但し、それ故に戦闘力は確かであろう。
    「ミスター宍戸も、灼滅者の妨害がある事を前提にしているな」
    「そうなんス。横浜の事件と違って、無視しても被害が出る事は無いものの、暗殺武闘大会に参加するダークネスの数を減らす事は、次に繋がると思うんス」
     少なからず成果がある戦いだ。
     可能な範囲で数を減らして欲しい――ノビルの声に、一同が頷く。
    「作戦は?」
    「押忍!」
     身を乗り出したノビルが言うには、こうだ。
    「先ずブレイズゲート内で迎撃ポイントを選択し、その地点までの探索を行って配置に付き、やってきたダークネスを迎撃して撃破する――これが基本の流れッス」
     ブレイズゲートのボス撃破のルートを完全に塞ぎ、やってきたダークネスを灼滅し続けると、予選突破の為にダークネス同士が協力して襲い掛かってくる危険性が出てくる。
     これを阻止する為には、『ボス撃破のルートを完全に塞がないような場所で戦う』か、或いは『わざと一部のダークネスを通してクリアさせる』といった工夫が必要だ。
    「有力なダークネスのみ襲撃して撃破し、弱めのダークネスを通すといった策戦をとれば、武闘予選の意義を失わせる事が出来るかも知れないッスよ!」
    「……方針を決める必要があるな」
     探索に来るダークネスは、六六六人衆、アンブレイカブル、羅刹、デモノイドロード。
     どのダークネスがどういった順番で来るかは分からない。
    「ブレイズゲートの内部の構造を踏まえて、迎撃作戦を練るのも良いッス」
     構造を活かした戦術が取れる、とノビルは希望の色を示し、
    「ご武運を!」
     教室を出る彼等の背に、ビシリと敬礼を捧げた。


    参加者
    花檻・伊織(蒼瞑・d01455)
    泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)
    炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)

    ■リプレイ


     フロアに反響する音という音が鼓膜を打ち、瞳に飛び込む光の明滅さえ囂しい。
     咽返る様な烟草の煙が行く先を白ませる中、泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)はそこに我が身を隠しつつ、探索の足を疾らせていた。
    「ダークネスにブレイズゲートを通らせるなんて……誰も予想しなかったろうね……」
     其は愕きか惘れか。
     忽ち蝉噪に掻き消える言を拾う北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)は翠眉を顰め、
    「宍戸の野郎、本当突拍子もねぇ事思いつくな」
     側面より躍り掛かる人喰いパチンコ台に【Gladiolus】を衝き入れる。
     ジャンジャンバリバリと喚く電子音が周囲の喧囂に呑まれると、今度は天井からマイクアナウンスが降り注ぎ、欲望渦巻く空間は更なる狂熱に湧く。
     左右に並ぶ遊戯台、そこに食入る様に張り付く男達は強化多重債務者であろう。
    「こんな小さな玉では追っても楽しくあるまい」
     炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)は彼等の背越しに、盤面を躍る銀の玉を見てそう呟いたものの、ドル箱より零れたそれが足元に転がると、
    「……ハッ、いかんいかん」
     不覚にも繫がれた視線を、再び警戒に巡らせる。
     だるだる気怠げな牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)は、景気の良い音楽に滅入ったか、先程から「やだ」「むり」と呟いていたのだが、狂った様に叫ぶダークネスを見るや、
    「もう帰っていいですか?」
     早々にこの科白。
     狂喜と狂気が否応にも強欲を掻き立てる――ブレイズゲート「パチンコ濃尾」は、彼女にそう言わせるだけの歪な昂奮に満ちていた。
    「目的が違うと、通い慣れた道中も些か違って感じるもんだね」
     花檻・伊織(蒼瞑・d01455)はカウンターより投げ込まれたカードを【花葬一文字】に打ち落とすと、一足でトリックディーラーの懐に侵略し、
    「ここで宍戸の目論見も少しは潰せるといいんだけどな」
     その踏み込みに神風を合わせた三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)が、血塗れて床に落ちるトランプのスートを見て言う。
     迎撃ポイントに辿り着く迄は、戦闘を必要最低限に――そう方針を決めた彼等は、遊戯に没入するダークネスの背を擦り抜けながら、襲い来る敵だけを駆逐して進んだ。
     一同が『挑戦者』を篩に掛けるべく選んだのは、三階の奥のフロア。
     此処には次の階へ進む為に必要な『扉の鍵』を持つスワンプウォーカーが居るのだが、彼とは戦わない。
    (「さて、どのような方が現れるのか」)
     その手前、遊戯台の陰に華奢を隠した刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)は、これから戦う敵の強さを想像しつつ精神統一し、
    (「どうせなら……否、是非に我等が怨敵と死合いたいものよ」)
     別なる角度から通過者を探る西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)は、それが六六六人衆であれば赫灼と滾る殺気を裡に抑えて時を待つ。
     ――そして間もなく。

    「……で? この金属人形を殺って上階に行けと?」

     丸太の様な腕を剥き出しに、その剛拳より雷光を迸らせたアンブレイカブルが現れ、白銀の騎士を前に嗤笑を噛み殺した。


     蓋し灼滅者は老獪。
     ブレイズゲートの構造を悉に知る彼等は、手前に遊戯台、奥に柱と、身を隠すに事欠かぬ場所を選んだだけでなく、挑戦者がある程度階を踏んだ所で待ち受ける策戦は、自身の損耗をも減らすに奏功した。
     何より優れていたのは、スワンプウォーカーと最初の挑戦者を戦わせ、何れが勝ってもその後に急襲して鍵を奪い、扉の開閉を掌握するという戦術――畢竟それは、予選通過者を『彼等が』選定するという事であった。

     ――此処は戦に事欠かぬ泥黎。共に歓喜せよ! いざ尋常に勝負!
     ――ハッ、軽く蹴散らしてやるぜ!

     加えて。
     彼等の賢哲は『運』をも引き込んだらしい。
     頑健なる銀鎧を拳の連打に穿つ男は相当な手練で、
    (「……高レベルか」)
    (「アタリを引いたね」)
     当初の狙いである『中レベル以上』な上、難敵を相手に疲弊した直後を、十分に余力がある状態で仕掛けられる――最も優位性を得られる初戦に高レベルの挑戦者と戦えたのは、正に強運であった。
    「今、そこの遊戯台に座ったら、結構出るかも……」
     壁を足場に天井に張り付いていた星流が、そう皮肉を零して目配せしたのが合図。

     ――強し、強し、強し! その力、見事也!
     ――弱者の賛美は要らねぇよ。さっさと鍵を渡して消えろ。

     アンブレイカブルが勝利を収めた、刻下。
     まさかという角度から灼罪の光弾が射すと同時、一陣の風が狂熱を裂いた。
    「おっと、ここから先は通さねぇぜ。此処で出会ったのが運の尽きってな!」
    「その鍵、貰い受けます」
     静なる織久と、動なる葉月。二振りの鋭槍の挟撃だ。
    「、っ! 貴様等――!」
     鍵を得た瞬間が最大の隙であったろう。
     フロアを滑った闇黒は利き脚を縛し、足元に目を遣る間もなく頭上に婚星が堕つ。
    「ぐッッッ! 灼滅者ァ!」
     武蔵坂の介入をルールとして把握していた筈だが、彼等の智恵を痛撃として味わった兇暴は憤怒し、背に担いだ杭打ち機を構えて銃爪を弾いた。
    「時間を掛けちゃいられねぇ、手っ取り早くブチのめす!」
     その威力たるや、宛ら武神の霹靂。
     之には即座に楯が踏み揃い、夥しい流血を代償に自陣の瓦解を防ぐ。
    「ッッ……カルラの前では倒れられないよね」
     猛然と迫る巨杭を、鬼神の怪腕に手折る渚緒は、腕に走る激痛にも痩せ我慢の微笑。
     兄の面影を映す魂の欠片を隣に、弟としての矜持が彼を奮い立たせる。
     轟音と烈風が肌を刺す中、伊織は爆風を裂いて現れ、
    「得意の兵法で相手させて貰う。一期一会の精神で、心込めて」
     陰之流の一太刀に焔の蹴撃を交えたダブルが、男に衝撃を突き返した。
    「ッチィ! 味な事を!」
     力では押し通れぬと思った時には、是を示す如くスナイパーが連撃を挟み、
    「何見てんスか。向こうからも来るんすよ」
    「お前の道、断たせて貰う!」
     麻耶が放ったレイザースラストに太腿を貫かれたのも一瞬の事、激痛を手向けた主を睨み据える間もなく、真逆の方向から飛び込んだ軛の磔柱が脇腹を打ち貫く。
    「だああぁっ! 畜生が!」
    「ッ!」
     感情の絆を結んだ巧みな連携に苛立った拳は、激情の儘に痩躯を沈めるも、床に叩き付けられた瞬間には癒しが届き、致命傷を許さない。
    「千鳥。その二刀で次撃を防いでくれ」
     ビハインドを楯に回復を注ぐ刀は飽くまで冷静だ。
     先の戦闘を見ていた所為か、敵の間合いや呼吸を考えた上での立ち回りは、決して優勢を譲らず、
    「小間使い、がんばれ」
    「にゃふん」
     また、ヨタロウの戦闘援護をはじめ、多く強化の術を持ち合わせた事も剴切。
     個の戦力差を優れた戦術と連携に補った彼等は、高レベルのダークネスを相手に颯爽と立ち回り、翻弄し――軅てその武を淘汰した。


     幸先良く初戦を制した灼滅者が、次に迎撃したのは――中レベルのアンブレイカブル。
     これは先の戦闘で極力消耗を抑えた事に加え、効率的に心霊手術を行った甲斐あって、互角の勝負を仕掛けるに成功し、撃破した。
     今は、次なる挑戦者がフロアに踏み入るを待つ――伏龍の時。
    「ブレイズゲートに潜伏して、探索者を攻撃するっていつもと逆だな」
    「待ち伏せて襲撃ってのは少し胸が疼くね。こっちが悪巧みしているようなというか」
     葉月と伊織、共に玲瓏たる双眸が不敵に交わる。
     彼等が二度目の心霊手術を惜しまぬのは、次が三戦目で、それ以上の戦闘はダークネスの滞在限界からも無いと読むからだ。
     またも天井近く、死角に身を潜めた星流は、彼だけが知り得る角度から索敵しつつ、
    「分裂、弱体化……はともかく、強大化だけは勘弁してくれよ」
     一方の軛は、狼の耳をヒクヒク動かして音を拾う。
     喧囂にあっても、聡い聴覚は挑戦者の跫音を捉え、
    「――1体、来るぞ」

     ――おうおう、結構来たモンだぜェ~?

     最奥部の柱より敵影を捉えた織久は、密かに吐息した。
    「羅刹、ですか……しかも低レベル……」
    「当初の方針通り、これはスルーだね」
     渚緒が敵の死角よりハンドサインを送れば、扉の開閉を任された麻耶がそっと開錠し、上階への道を示してやる。
    「予選通過っす。次もがんばって下さいっす」
     心にもない祝辞を添えて。
     男が本選へと駒を進めたからと言って、脅威とは為り得まい。これは未だ全容が明かされぬ宍戸の陰謀を潰すに、有効な策戦であった。
     斯くして三体目のダークネスを見逃した――その時。
    「――! 直ぐに施錠を。四体目が来ます」
     手鏡にて敵影を確認していた刀が、僅かな光を合図に臨戦態勢を促した。
     四体目は、【殺意の黒炎】がぶわり迸る通り――六六六人衆。

     ――武蔵坂の連中が邪魔に来るという話は、フフ……ここら辺かな♪

     その猫背は床にばかり目を滑らせていたが、勘は良いらしい。
    「西院鬼一門が怨敵、その臓腑……屠らせろ」
    「ウフフ、アタリだね♪」
     須臾。
     爪先を弾いた織久が鏖殺の業と、彼とルーツを同じくする神速の斬撃が角逐する。
    「我等の狂刀の前に跪け」
    「嫌だよ。ココの床、汚いんだもの♪」
     怨念に自我を沈ませた灼眼を、ギチギチと抗衡する斬撃を間に覗き込む凶邪。
     レベルは中程度であろうが、回復・強化の手立てを少なくした今は難敵に違いない。
    「連戦かつ持久戦、どこまで粘れるかが勝負だな」
    「連戦は覚悟の上、敵が強いのも覚悟の上……闇堕ちから戻ってきて早々、大変だけど頑張らないとね」
     葉月の声に頷きを合せた渚緒は、己が髪を撫でる疾風を糸目に追うと、
    「ここで予選敗退だ!」
    「援護するよ」
     フォースブレイクと蒐執鋏、属性を違えた同時攻撃に敵躯を突き放した。
    「ッ、ぐぅ! ……フフフ、君達がボス戦前の番人だね♪」
     血塗れた匕首を握り直した男が、再び彼等の布陣に飛び込めば、速度を得るより疾く星流が魔矢を射て挙止を阻む。
    「この大会……勝ち残った者には何がある?」
     主催者側の意図は知らずとも、参加者として求める物はあろう。
    「少なくとも、こんな所にまで足を運ぶぐらいなんだから……」
     リスクに相応しい見返りがあるのかと問えば、刃の切先に軌道を往なした狂気が嗤う。
    「クフ、君も参加したいの? いいよね、存分に殺戮が楽しめるんだから♪」
     そうだろう? と同意を求めて肉薄した凶相が、反撃の楔を肩口に撃ち込む。
     之には危機を悟った軛が、骨を食い破る前に牽制を敷き、
    「お前達も奇怪な遊戯に興じる貉か」
    「嫌だなぁ、ココの奴等と一緒にしないでよ♪」
    「……精々引っ掻き回してやろう」
     獣の様に嫋やかに空を躍った躯が踵を落とすと、超重力に圧削された男が笑みを湛えた口元より血を零す。
    「あ~あ……僕の血じゃなくて、君達の血を味わいたいんだって♪」
     咥内に溜まる鉄の味を床に吐き捨てた男は、次に惨澹たる殺気を放って灼滅者を檻し、生血を絞らんとした。
     咄嗟にカルラと千鳥が守壁を成すが、膨張する闇黒は彼等を鷲掴む様に掻き消す。
    「クヒヒヒヒッ、これで壁は二枚♪」
     ここで刀が、今や彼女だけが持つ回復に時を使わず、攻勢へと転じたのは見事という他ない。沈着なる炯眼は、敵にこそ忍び寄る終焉の気配を見逃さず、黒影の刃を疾らせた。
    「唯……斬り捨てるのみ」
    「――!」
     漆黒の一閃が、振り上げた瞬間を捉える。
     血花が咲き乱れたのは、匕首を握った右腕が切り離され、大量の血を噴いて空を躍ったからであろう。
    「背筋が伸びて良いんじゃないかな」
     少なくとも猫背よりは見好い――と、痛撃に身を反らせた痩躯に佳声を置くは伊織。
     つまり零距離に投足した彼は袈裟に斬撃を走らせると、繁吹く血の勢いに倒れそうになる躯を遊戯台に押し付けて次撃に託した。
     最期の一撃は――、
    「ここでヨタロウ」
    「に゛ゃふ!?」
     いや、麻耶。
     頑張らない彼女は、その低温を映したような氷の楔を撃ち出すと、敵躯が凭れた遊戯台ごと貫穿し、
    「ん、沢山玉が出てきた」
    「出血大サービスってやつっすかね」
    「………………ハッ、いかん」
     本当に狂って(壊れて)流れ出るパチンコ玉の洪水に、闇を蹴散らした。


     初戦に高レベルのアンブレイカブル。
     次戦に中レベルのアンブレイカブル。
     三戦目は低レベルの羅刹を見送り、中レベルの六六六人衆を撃破。
    「功名の餓鬼じゃあるまいし、刎ねた首数を誇りはしないけど」
     ――出来る限りをした。
     伊織は今の尽力が先々に繋がれば良いと、白皙に滲む紅血を拭って吐息する。
    「中レベル以上を三体……これは運も味方したろうが、上出来だと思うぜ」
     肩で息をする葉月も疲労が色濃いが、その消耗に見合った戦果を得た事は間違いない。
     良策なくしては初戦の強敵を倒すだけで撤退も考えられたが、優れた戦術と連携、そして合間に行った心霊手術の手際の良さが、功を奏したのだろう。サーヴァントを失ったとはいえ、八人全員が両の脚で立つ今はそれを誇りたい。
     戦闘外に定めた撤退条件に達した彼等は、ここに殲術道具を収め、
    「引き際を見極めるのも重要だ。お暇するとしよう」
     ふぅ、と息を吐いた軛が、漸う近付く五番目の挑戦者の跫音に耳をピンと立てると、同じく気配を感じ取った渚緒が、安堵にも失笑にも似た表情で言った。
    「……低レベルの羅刹のようだね。どのみち見過ごす相手だ」
     すると麻耶は、件の鍵をフロアに投げ捨て、
    「鍵を見つけ出すのもブレイズゲートなんで」
     本人には届かぬアドバイスを添えて踵を返す。
     彼女に続いた仲間もまた、敵に気付かれぬよう遊戯台の陰を擦り抜けた。
     喧囂を駆ける星流は静かに、
    「暗殺から逃れる隠密性と、迅速に目標を達成する実行力……二つの予選を用意して集めた者達を、どうするつもりだろう……」
    「向こうも武蔵坂の介入を読んでいるなら、本選に送り出された者達を私達の『答え』と受け止めるかもしれません」
     刀は、今後も宍戸が灼滅者の動向を見据えた上で企画を練るだろうと懸念を示す。
    「――若しか」
     未だ狂熱を手放さぬ空間に織久はそっと言ち、
    「試されているのは此方かもしれません」
    「……」
     一同は重い沈黙を以て答えとした。

     ――まだ予選。
     渇望と絶望が倒錯するブレイズゲート「パチンコ濃尾」を潜り抜けた灼滅者は、そう遠くない未来に訪れる『本選』――そこに蠢く大いなる陰謀に向き合うべく、今はただ唯、疾るのみであった。
     

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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