願掛けで寒中水泳をする女子

    作者:芦原クロ

     とある北の地域。
     一般人の姿が見当たらない夜の浜辺は、極寒となっている。
     気温は、マイナス12℃ぐらいだろうか。とにかく寒い、寒すぎる。
    『絶好の寒中水泳日和ね!』
     水着姿の女子が声高々に言うが、寒さで自分を抱きしめながら震えている。
     灼滅者を連れて来た水無月・飛鳥(俎板・d00785)は、女子に声を掛けようとしたが、その前に女子は海へダイブ。
    『寒い! 死ぬ! 寒い! でも泳がなきゃ!』
     女子はガチガチと歯を鳴らして叫び、泳ぎ始める。
     だったらやめろよ、とか。ドエムか、などといったツッコミが入りそうだが、飛鳥はその場から一度離れ、戻って来た。
    「寒すぎるのは、この浜辺だけだね。そこだけ真冬の海になる、寒中水泳命の学生は、おそらく彼女のことだと思うよ。都市伝説になっていたんだね。学生が女子だったのは、ちょっと驚きだね」

    『泳がなきゃ! 泳がなきゃー! 願掛けしなきゃ!』
     女子は鼓舞して泳ぐが、数分も経たぬ内に動きを止め、うつ伏せの状態で海に浮かんだ。
     飛鳥が助けようと海に飛び込み、女子を連れて戻って来る。
    「だ、大丈夫? ……想像してたよりもずっと、水温が低すぎるよ」
     女子に声を掛け、続いて灼滅者たちに海の寒さを伝える。
    『はっ!? ここはどこ? わたし、気絶して流されちゃったの!? 泳がなきゃ!』
     女子は必死な様子で、飛鳥たちにも気づかず、急いでまた海に入ってしまう。
     少し経過すれば、また気絶するかも知れない。
     気絶したら即攻撃する、という方法も有るが、その場合は女子が直ぐに目覚め、攻撃して来た相手を冷たい海水で、押し流す。
     その反撃でダメージは入らないが、女子を何度も攻撃していると、女子は消えて逃げてしまい、依頼が失敗に終わるという、最悪のパターンになる。
     一緒に寒中水泳をしたら、女子はその相手に懐く確率が高い。
     夜空を見ながら、温かいものを食べたり、会話を楽しむことも可能だ。
     そうすると女子は、次第に弱体化するかも知れない。
    「願掛けで寒中水泳しているのかな? 理由を上手く聞きだせたら、弱体化に近づけるかもね」
     首を傾げてから、飛鳥は灼滅者たちにそう言った。


    参加者
    幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    エスカトーネ・オリビア(大学生魔法使い・d23230)
    鮫島・チア(大学生ストリートファイター・d23320)
    方舟・紫(魔性の紫電・d26556)
     

    ■リプレイ


    「寒中水泳も修行になるかな!」
     わくわくした表情で、準備運動を始める幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)は、水玉模様が入った赤色のビキニ姿で、泳ぐ気満々だ。
    「碧くん、出番よ。さあ、泳ぎなさい」
    「俺かよ……」
     方舟・紫(魔性の紫電・d26556)の命令に、赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)は溜め息を零す。
    「師匠が泳ぐならアタシも……!」
     碧に向かって、決意の証とばかりに拳を握る、鮫島・チア(大学生ストリートファイター・d23320)。
    「む、無理しないでね……」
     エスカトーネ・オリビア(大学生魔法使い・d23230)は寒空の下、冷たい海で泳ぐ者たちを心配する。
     その直後、女子が気絶して海に浮かんだ。


    「桃に任せて!」
     すかさず女子を助けに入る、桃琴。
     気絶している女子を浜辺まで運び、呼び掛けてみる。
    『……え!? わたし、また気を失ったの!?』
     すぐに意識を戻した女子は、慌てて、また海へ向かおうとする。
    「桃は鍛えてるから平気だけど、休憩はとったほうがいいよっ」
     女子の腕を軽く掴んで引き留める、桃琴。
    『そっか、休憩しないから気を失っちゃうのかも!』
     女子は納得し、その場にしゃがみ込む。
     そんな女子に桃琴はバスタオルを渡し、体を拭くようすすめる。
    「ちゃんと体を拭いてから、夜空の下でお話しよっ! ねぇねぇ、どうして泳いでいたの?」
    「叶えることが可能であれば、手伝うよ」
     女子の隣で興味津々に問う桃琴と、寒さで歯をがちがち鳴らしている碧。
    「温かいココアとポトフを作って来たから……わ、私のお料理……お口に合うといいなぁ……」
     エスカトーネは女子や仲間たちに、それらを配る。
    「美味しいよっ」
    『うん! とっても美味しくて、それに優しさが伝わる温かい料理ね!』
     桃琴が笑顔を見せ、明るく元気いっぱいに感想を告げ、女子も頷いて見せる。
     心の底から美味しいと思ってくれていることが伝わり、エスカトーネはほっと胸をなでおろした。
    「イワンは、女の子と一緒に遊んでてもらおうかな」
     エスカトーネがウイングキャットのイワンに声を掛けると、イワンは女子の元へ飛んでゆく。
    「とても必死なようだけど……どうかしたの? 願掛け内容が実現可能で有れば、手伝う……というか、碧くんにさせるけれど」
     涼し気な顔つきで、紫はライドキャリバーの翡翠にもたれかかり、さらりと、碧にプレッシャーを掛ける。
    「お手伝いできることあったら、何かしたいなぁ」
     エスカトーネも女子の力になりたいと、優しい気持ちをさらけ出す。
     女子はしばらく沈黙してから、やがて口を開いた。
    『わたしの大切な友達が入院してて、難しい手術に挑むから、成功するように! って、願掛けしてるの』
     美味しそうにポトフを食べながら、女子は事情を話しだす。
    『寒いのは大嫌いなんだけどね、苦行や試練をすることが本当の願掛けなんだって! だったら大嫌いな寒中水泳するほうが良いのかなって』
     だからすぐ気絶するのか、と。
     灼滅者たちは納得する。
     そして同時に、願掛けの内容を実現させることは、不可能だと察した。
     ならば、することは1つしか無い。


    「桃も一緒に泳ぐねーっ! 1人で願掛けするより、2人のほうがずっといいよっ」
    『え、でも寒中水泳は危険だよ……貴女みたいな幼い子を、危険にさらすのは……』
     女子は桃を見て、不安そうな顔をする。
    「桃は鍛えてるから! 桃はね、拳法家なんだ! これも修行だよ!」
     拳法の構えをして見せる、桃琴。
    『すごい! こんなに幼い子が拳法家だなんて!』
    「それに、えへへ、せくしー、でしょ!」
     驚き、感心する女子に対し、桃琴はお気に入りの水着が良く見えるように、胸を反らす。
    『セクシー? セクシー……う、うん、ソウダネ』
     セクシーと呼ぶには、まだ胸が足りない桃琴を見て、女子はそっと目を逸らし、最後は棒読み状態だ。
    「解った。何とかして見せるわ……碧くんが」
    「俺も泳ぐよ。覚悟決まったし」
     丸投げ状態の紫に、碧が続く。
    「師匠! アタシも全力で泳ぐ!」
     チアが碧に向かってそう告げてから、一番乗りとばかりに海へ飛び込む。
     そんなチアに続き、泳ぐと決めている猛者たちと女子も、冷たい海の中へ。
    「うぅっ、流石に冷たいかな……? でも去年も出来た事だもん! きっと平気だよっ」
     さきほどは女子を助けるのに夢中だった為、寒さをあまり感じなかったが、いざ寒中水泳となると、桃琴は身を震わせる。
    (「……凍死しなければいいなぁ……」)
     海水のあまりの冷たさに、碧は少し遠い目をした。
    「おおおお!!」
     チアは雄叫びをあげながら、泳いでいる。
     すると碧まで、叫び始めた。
     どうやら、寒さを誤魔化す為に叫んでいるようだ。
    「み、みんな大丈夫かなぁ……」
     色んな意味で、心配してしまう、エスカトーネ。
     女子が気絶しそうになれば、仲間たちが声を掛けて、気を保つようにさせる。
    「寒くってもまだまだ~!」
     明るく元気に、声をあげながら泳ぎ続ける、桃琴。
     やがて、灼滅者たちが声を掛けてくれたお陰で、一度も気絶せずに寒中水泳を終えることが出来た女子が、海からあがる。
     弱体化した為、女子の体は透けていた。
    『ありがとう……お陰で、泳ぎ切れたよ……これで願掛けになったよね』
     疲れ切った様子で、女子は浜辺に座り込む。
     泳いでいた桃琴と碧とチアも浜辺へ戻り、桃琴が用意した人数分のバスタオルで体を拭く。
     どんな寒さにも適応できるESPも使わずに泳いだのだから、かなりの猛者たちである。
    「一生やろうとは思わないが……寒中水泳、楽しかったよ。じゃあな」
     碧はビハインドの月代と動きを合わせ、都市伝説を攻撃する。
    「桃も戦闘を挑むねっ」
     都市伝説に対して桃琴は敵意を向けることは無く、あくまでも楽しい時間の続きとして、超硬度の拳を打ち込む。
     感傷の情を抱きながらも敵を攻撃する、紫とエスカトーネ。
    「寒中水泳、楽しかったぜ! いつかまた、出来たら良いな!」
     チアも別れが寂しいのか、どことなく哀愁を漂わせている。
     喧嘩屋の別れ方として、チアは握った拳を叩き込んだ。
     それがトドメとなり、都市伝説は完全に消滅した。


    (「七不思議使いの子がいれば良かったのだけれど……残念ね……」)
     紫は、都市伝説が消滅して大泣きしているエスカトーネをなだめながら、胸の内で言葉を紡ぐ。
    「……寒中水泳してる俺を見て、楽しんでたような気がするけど」
     碧は月代へ、眼差しを注いでいる。
    「寒中水泳、屁でも無かったぜ!」
     チアはそう言うが、鼻水を出したり、くしゃみが連続で出ているあたり、強がっているのが明白だ。
    「流石にもう1回寒中水泳しよー! っていうのは大変だよね。温かいものを食べ終えて、お話したら帰ろうっ」
     ほんの少し漂う、晴れ晴れとしない雰囲気を吹っ飛ばすかのように、桃琴が元気良く、笑顔で仲間たちに声を掛けた。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月11日
    難度:普通
    参加:5人
    結果:成功!
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