●背景おふくろ様。
俺の名前は天元坂ノボル。
札付きのワルだ。
地元でもトップクラスのワルが集うというギャラクシィ高校(通称)に転校してから瞬く間にクラスを制圧していた。
だがこんな俺も元は純朴な高校生。フェルト手芸が趣味の大人しい男だった。輸入物のアルパカ毛皮を使ったミニアルパカはクラスでも評判だったぐらいだ。だが親の都合でこの高校に転校すると決まったと聞いて慌てた。なんとか学校に馴染むべく俺は苦労に苦労を重ね……いつしか闇に浸食されかけている気もする。
だが……正直、あんまりワルいことはしたくない。
「ふぃー、今日もタバスコがうめぇぜ」
「ほんとタバスコはやめられねえよなあ! 俺なんて一日ひと箱は吸っちまうぜ」
「皆さん! タバスコは成長期の身体に毒だと何度言ったら分かるんですか!」
「お前の言ってることは分かる。でも俺達の生活はずっとタバスコ漬けだった。今更健康のこととか言われてもなぁ」
「…………ウホ」
「五里山だってそう言ってるぜ!」
「そうだそうだ!」
「おい皆大変だ! ジェノサイド高校(通称)のヤツが喧嘩売ってきやがったぜ!」
「なんだとぉ! ぶっコロがしてやる!」
「コロコロしてやるぜぇ!」
「ウホ」
「皆さん落ち着いて。喧嘩はよくありません。天元坂さん、どう思いますか!」
「………………」
沈黙したままむっつりと天井を眺める天元坂ノボル。
スキンヘッドの頭。
人の二倍はあろうかという巨体。
そして全開に開いた学ラン。
何よりも見ただけで人を殺しそうな野獣が如き顔つき。
それまで沸き立っていたクラス中がしぃーんと静まり返る。
モヒカンの男も、パンチパーマの男も、ゴリラ顔の男もだ。
「(くそぅ、こいつら毎日毎日喧嘩ばかりしやがって。俺も最近すごく喧嘩したい衝動にかられてはいるが、なんだかこの一線を越えるとヤバイ気がする。何故かはわからないがとにかくヤバい。完全抗争さけは避けなくては)」
「おいヤベェぞ、天元坂のやつ滅茶苦茶キレてやがる……」
「こりゃ地獄が見れるぜ」
「馬鹿やめろ、俺達まで見境なくぶちコロがされるぞ!」
「おいお前ら」
ノボルは己の巨体を揺らしながら立ち上がると、クラス中を睥睨した。
「喧嘩をしたい気持ちは分かる。舐められたら千倍にして返すのが筋ってもんだ。だが考えてみろ。今は秋、食欲の秋だ。暴れればそれだけ腹が減る。腹が減ったら俺たちのお小遣いはみるみる減って行くんだぞ」
「なるほど、確かに言うとおりだぜ。今だって既にちょっとお腹すいてるしよぉ……」
「……わかりました」
「(わかってくれたか!)」
若干真面目そうな男が、机に山盛りにしたアンパンを指し示して言った。
「これは全部天元坂さんに差し上げます! まずは天元坂さん一人で行って来てください!」
「…………………………」
かくして、天元坂ノボルは単独でジェノサイド高校(通称)へ攻め込むことになったのであった。
●どうしてこうなった系ハイスクール
一般人が闇落ちしかけているという事件の説明を、たしかしていたんだと思う。
「羅刹のなりかけがいるんだ。ギリギリのところで抑えているらしいが、今回なりゆきで完全闇落ちしそうになっている」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は教科書を開きつつ、そんなことを言った。
「なりゆきか……」
「なりゆきだ……」
まあ、ギリギリ抑えているというだけあって元人格がそれなりに残っている。このまま放っておけばヤバイが、何とかならない域ではないだろう。
名前は天元坂ノボル。
見るからにワルそうな男だが、趣味はフェルト手芸だ。
見ただけで動物とか殺しそうだが、アルパカとか大好きだ。
しかし今はダークネス。
一応なんか、すごく喧嘩したい衝動みたいなもんに駆られている。
「闇堕ちはKOすれば救うことができる。この際完全に灼滅してしまうか、いっそ灼滅者になってしまうかは彼の素質次第だが、どの道戦うことは避けられないだろう」
だがその際、彼の人間性に訴えかければ多少はダークネス的能力をブレさせることも可能だという。
「彼がどうなるかは皆次第だ。頼んだぞ!」
参加者 | |
---|---|
椙森・六夜(靜宵・d00472) |
鳴神・裁(戦慄の蒼汁(アジュール)・d01586) |
東風・希(全力系ガサツ女子・d02315) |
室本・香乃果(ネモフィラの憧憬・d03135) |
水樹・葵(鳴らない鈴の音・d04242) |
森山・明(少女修行中・d04521) |
飛田・球児(和製ランディ・d05549) |
湶・渓志(神威の薬師・d06210) |
●
野球帽のつばを掴み、きゅっと真っ直ぐに被る飛田・球児(和製ランディ・d05549)。
青空へまばらに浮かぶ白雲と、通り過ぎる飛行機。
一度だけ明滅した陽光に球児は太めの眉を寄せた。
「俺は、スキンヘッドで巨体で開いた学ランの人物を探した」
左右を通る学ランの巨体(スキンヘッド)。
後ろで犬の散歩をするスキンヘッドの学ラン(解放型)。
カバディのトレーニングをしながら通過していく巨漢の群(学ラン)。
「……二秒で諦めた」
球児の目尻に光る、心の汗。
携帯電話を掴み、両手で包むようにして頭上に掲げる。反射的に上がる左膝。
「次に俺はインターネットでジェノサイド高校を検索した」
ディスプレイに表示される『一致0件』の文字。
「クソの役にも立たねえええええええ!」
球児はスプリットフィンガードファストボール(やったら落ちるフォークボール。SFFと呼ばれている)でコンクリートブロックに投擲した。砕け散る携帯。
「おおお落ち着け球児! 必要な情報はちゃんとエクスブレインから教わってるだろ! っていうかその手の情報がぐぐって分かるか! どんなヌルゲーだ!」
東風・希(全力系ガサツ女子・d02315)に羽交い絞めにされ、球児の目に光が戻った。
「ハッ、そうやった……俺としたことが初歩的な勘違いを。すまんな、緊張のあまり混乱しとったようや」
「そ、そうか」
ついても居ない胸の埃を落とす球児。希も胸をなでおろす。
「それにしてもなんていうか、なりゆきって怖いな」
人物スケッチを取り出してしげしげと眺める。
学ランに赤Tシャツ、ゴリラの如き巨漢にスキンヘッド。話しかけただけで頭蓋骨を握り潰されそうな顔をしているが……趣味はフェルト細工だという。多分秘密なんだろうけど。
名前は天元坂ノボル。
室本・香乃果(ネモフィラの憧憬・d03135)は両手を組んでくわっと天を仰いだ。
「ノボルさんのこと……私、気になりま――!」
「言わせねえよ!?」
目を剥いて振り返る希。
油断すると流行りに乗りたくなる。人間と言うのはそういうものである。関係ない話だが。
そんなやり取りをよそに、水樹・葵(鳴らない鈴の音・d04242)は手の中でぬいぐるみをジャグリングしていた。口の中ではロッドキャンディーがくるくるしている。
「しかし特技がフェルトとは、なかなか器用だな……」
「あなたほどじゃないと思いますけど……ええと」
森山・明(少女修行中・d04521)も同じようにぬいぐるみをくるくるしてみる。ロングヘアの先をリボンで結び、『それなり』の顔立ちをした少女である。
「なんか女子力で負けてる気がする……フェルトとか、なんかこう指にザクザク刺さって痛いっていうか……何でみんな無傷でできるんだろう」
「もしかして革サックしないでやってない?」
横から顔を出す湶・渓志(神威の薬師・d06210)。
「えっ、革?」
「あと台座ね。初心者用キットって意外と指サック入ってないから、別売りのを買った方が良いよ」
「そ、そう……」
本日二度目の女子力的敗北に、明は目の光を消した。
その一方では鳴神・裁(戦慄の蒼汁(アジュール)・d01586)がビニール紐なんぞで編みぐるみを作っていた。器用なものである。
「なりゆきで闇落ちなんてもごにゃーぽな話なんだよ」
「そのもごにゃーぽって何ですか」
椙森・六夜(靜宵・d00472)は逃げようとする本多さん(ライドキャリバー)を掴みつつ、ステッカーなんぞ貼っていた。
「それにしてもさ、ボクらさ」
……さて、そろそろ気づく頃かもしれないが。
なんか。
みんな。
「アルパカファンクラブみたいだよね」
「…………ええ」
暫しの沈黙を挟んで、アルパカマフとアルパカ手袋をつけたアルパカだらけの六夜は頷いた。
何故だろう。
『アルパカとか好き』というだけでなぜここまでアルパカに偏るのか。
それが人の情とでもいうかのようにだ。
「まあ、とにかく、行きましょうか」
かくしてアルパカファンクラブ……もとい灼滅者たちは、ご近所の好奇な目に晒されながら街を歩いていったのだった。
●アルパカが好き≠アルパカに弱い
「ここは……河原だな」
突然だが、天元坂ノボルはジェノサイド高校への単独カチコミ直前に灼滅者たちから誘いを受け、なんだかんだあってすったもんだで河原まで誘導されていた。
頻繁な場面転換を避けるべくダイジェスト化するが……。
『お悩みのようだな少年。喧嘩を避ける方法を知りたくはないか! とうっ!』
三歳は下の少女が少年っとか呼びかけながら民家の屋根から飛び、無駄に三回転一捻りからのY字着地をキメたとして、まあ『はいそうですか』と言えるヤツは居ない。
だがとりあえずカチコミはしたくなかったノボルは自分の中で最大限の譲歩を見せようとした。そこへ割り込んだ渓志が『ワルと言えば(邪魔の入らない)河原だ』とか微妙に理屈の曲がったことを言い出したので、ノボルは矛盾に気づかないフリをしてついていくことにしたのだった。
……ということで、河原である。
砂利道が広がり、すぐ近くで川のせせらぎが聞こえる。流れは早くやや深い。田舎が故か水は綺麗な様子だった。
そんな中で、ノボルは丸太のような腕を振り、岩石のような拳をがしがしと打ちあわせた。
「俺の中の本能が言っている。お前らならそう悪くない戦いができる。そして多分、思ったほどオオゴトにはならないだろう」
「と言うことは……まずは問答無用で戦うということですか?」
斜めに構えて眼鏡を光らせる六夜。
彼の横でアイドリング状態を解除したキャリバー(本多)が猛烈なスピードでノボルへと突撃。
彼は地面を拳で殴ると盛大にジャンプ。斜め上からの強襲で六夜を狙いにかかった。
だがしかし六夜は余裕の態勢を崩さない。頭上にアルパカのアップリケ(手袋)を翳して不敵に笑った。
「ふふ、こんな可愛い物を、あなたは殴れま――めらみっ!?」
顔面にパンチを食らってきりもみ回転する六夜。
「今何かしたか?」
「あ……」
川に落ちて流されてゆく六夜(下半身だけ水面に出ていた)。それを追いかけていく本多さん。
明はキャラを忘れて顔を引き攣らせた。
「もしかしてこの作戦、根本から間違ってたんじゃね?」
「かもしれん……なら、プランBだ」
帽子をきゅきゅっと被り直す球児。
「プランBとは……」
「殴って黙らせるんだよおおお!」
「やっぱりかああああ!」
サイキックバット(ソード)を掲げて突撃する球児の横で、明がまたもキャラを忘れて絶叫した。
プランがブレたらノープラン。それもまた、灼滅者のセオリーであった。
「よい、しょっ……」
香乃果はバスターライフルを重々しく持ち上げると、安全装置を解除。
ホログラフィックサイト越しに狙いを定め、片目をぎゅっと瞑ってトリガーに指をかけた。
「わっ!」
反動で身体が後ろにぐらんと傾く。
撃ち方こそよたよたしたものの威力は十分だ。ノボルはそれを交差した腕でガードしつつ突撃。
「腕力は貴様だけの得意分野じゃない」
葵は鬼神変で腕を異形巨大化させると、突撃してくるノボルの顔面へ向かってダイレクトに手を叩きつけた。
顔にそぉいされて弾け飛ぶケーキ。
「アルパカケーキだ」
「葵さんそれっ、運用方法が違うっ」
「隙あり、ごにゃーぽチョップ!」
飛び込んできた裁が大上段からスティックを叩きつける。
クリームだらけの頭部にがつんとめり込む攻撃。
「からの――!」
いつの間にか急接近していた球児がクラウチング打法からのフルスイングを繰り出した。
カキーンという良い音と共に吹っ飛んでいくノボル。
「ぬう……最初はアルパカファンクラブか何かと思ったが」
「思われてたんだ……」
「今こそワケが分からなくなったぜ。ふざけた戦い方だが弱くはねえ」
「まあその、一応灼滅者だし」
渓志の神薙刃をかわぎりに、希と明が飛び込んで行く。
「漢の勝負といこうぜ、天元坂ノボル!」
「えっ、あのっ、私達女の子なんだけど!」
などと言いつつも明は横薙ぐ形で紅蓮斬を繰り出す。
それを拳で撃ち落とすノボル。その隙に希は片手でデッドブラスターを連射。ノボルが空いた掌で蠅のように撃ち落としたのを見て、指輪を嵌めた拳で直接殴りかかった。
ノボルはごつごつしたスキンヘッドで迎え撃つ。威力は互角……いや、希の競り負けである。腕ごと弾かれるようにして打ち払われる。
とんとんと七歩下がってくる希と明。渓志は護符を構えたまま周囲を伺った。
「強いね……アルパカも全然効いてないし」
「いや、そんなことはありませんよ」
彼等の後ろで六夜(ずぶぬれ)が眼鏡をくいっとやった。
いつの間に戻って来たのか。さりげに本多さんに跨った状態である。
「見て下さい、彼の頬が若干赤くなっている。どうやら高校がワルの巣窟であったせいで趣味を表に出さない習慣がついていたのでしょう。しかし本能には逆らえません、このまま押すのです……さ、渓志君!」
「なるほど、本領発揮だね!」
渓志は目をキラーンと光らせると、受身姿勢にあるノボルへと突撃、靴底でスライドブレーキを駆けながら腕を繰り出し、ノボルの手前で停止させた。ぱかっと開かれるお弁当箱。
「これは」
「アルパカの……キャラ弁だよ。俺は喧嘩の腕っぷしより、この家事スキルを誇る!」
「灼滅者としてそれどうかと思いますけどね!」
「黙ってて!」
いっぺん振り返ってから向き直る渓志。
「オトメンは生き方を恥じない。君の本当にやりたいことは何っ!?」
「そう、私たちは怪しい物じゃない。少し話がしたかっただけだ」
ぬいぐるみをそれぞれ両手でもほもほしながらロッドキャンディーを高速でくるくるする葵。
「いや、見るからに怪しいが」
「ええっと……」
明の頭上を、『ここは女の子の出番よ! 可愛い話題で彼のハートをキャッチしちゃえ☆』という女明と『もう殴ったらいいんじゃね?』という男明がクルクル回っていた。
その二つを鷲掴みにして止める希。
「悩んでたってよくないぜ。吐き出してみろって!」
「そや、自分の悩みゆうてみいへんか。男なら直球勝負。思ったことずばり言うて万事解決や。まあ俺変化球投手やけどな」
バットを杖のように肘でつき、うんうんと頷く球児。
「十代でのタバスコ(タバスコ!)も自分を押し殺して期待に応えるのも身体に悪い。医者をもうけさせるだけですよ。ちなみに俺は……このマフをして女の子に『カワイー』と言われて『ありがとう君も良く似合っていて、可愛いよ』と歯を光らせる準備をしていましたがその機会は訪れませんでした!」
「身体に悪いことしてる……」
眼鏡を光らせる六夜を押しのけてふいふい押し退ける裁。
入れ替わりに割り込んできた香乃果が、口の前で手を合わせて爪先立ちをした。
「ノボルさん、見かけは怖いけどすごくいいひとってわかります。瞳がこんなに澄んでる」
目をきらきらさせて相手の目を見る香乃果。
「私、気になり――」
「言わせねえよ!」
振り返る希再び。
「……………………」
ノボルは暫く黙っていたが、深く頷いてから言った。
「とりあえずは、決着をつけてからにしないか」
「そうですね」
それから。
ごたごたばたばたとした殴り合いの結果、ノボルは戦いに敗れた。
素質があったのかなんなのか灼滅者になった彼は、まあ学園に来ることは無く、とりあえずギャラクシィ高校へと戻って行った。
「趣味は趣味として、このままやって行くことにしよう。じゃあな」
ずしーんずしーんと自分の高校へ帰って行くノボルの背中を眺めながら、八人の灼滅者は遠い目をしていた。
「何か、忘れてる気がしますが」
「なんだろうね」
「さあ……」
空を見上げる八人。
「ま、いいか!」
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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