命はったはった

    作者:夕狩こあら

     線路を挟んで北にビジネス街、南に繁華街。
     活気溢れる街の中心地だというのに、全くテナントが入らない雑居ビルが、この駅に近い小路に取り残されている。
     ――何故、何も入らないのか。
     此処を過ぎ去る人々は、きっと裏にコワ~イ話があると噂していたのだが、その怖さたるや幽霊や妖怪の類ではない。
    「なぁ、ここのビルに誰も入らないのって、アレらしいな」
    「知ってる。コワ~イお兄さん達がバックに居るからだってんだろ」
     そう、よりリアルな怖さだ。
     日中も薄暗い、何処か殺伐とした通りの雰囲気もあるだろう、その噂は人々に広まり、怪しい方向へと肉付けされていく。
    「このビルには地下があるらしいが、此処がコワモテの連中の溜り場になってるから、誰も入んねぇって」
    「大方、公には出来ないギャンブルでもしているんだろ?」
     それは実しやかに話され、
    「夜になると聞こえるんだ……『半か丁か!』……ってな」
    「丁半賭場か。詳しく聞かせてくれ」
     戦城・橘花(ぐあああああ・d24111)がこの街を訪れた時には、立派な都市伝説となって人々の足を遠ざけるまでになっていた――。
     
    「全くテナントが入っていない雑居ビルの地下が、ヤクザのコミュニティースポットになってしまっているらしい」
     聞き込み調査により噂の内容を確かめた橘花は、集まった仲間に対してこう話した。
    「夜になるとイキの良いヤクザが集まるというから、面倒を恐れた人々がこの小路を避け、かなり遠回りをして駅に向かっている」
    「それは困ったわね……」
     見過ごせようか――否。
     殺意の波動を覚醒し始める仲間達に、その選択肢はない。
    「当然、これを壊滅させる訳だが、問題は現場が地下で、入口に『賽銭箱の亀七』というショボイ見張り役が居る事だ」
    「入る者を仲間かどうか見分けているのか……」
     彼を欺いて潜入するか、問答無用で突破するか。
     それ次第で地下での立ち回りも変わろう、と一同は頷く。
     仲間を装ったなら、賭場にある程度馴染んだ所で――つまり地形や人の配置を把握した後に攻撃を仕掛ける事が出来る。一方、見張りの亀七を倒して一気に地下に向かう場合は、異音に気付いた連中と直ぐに闘う事となり、相当な修羅場となるだろう。
    「地下には、壺振師の女『お菊』と、客人15名、それに場を取り仕切っている若衆が5名……こいつ等は腕が立つという」
    「成程。それは楽しみだ」
     一同の凶悪な笑みが揃った所で、橘花は灼眼を鋭く、
    「聞けばこの賭場には『漢組』が噛んでいるらしいからな……腕が鳴る」
     凄惨たる殺気を連れ立ち、雑居ビルへと向かった。
     


    参加者
    周防・雛(少女グランギニョル・d00356)
    神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042)
    叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)
    灰色・ウサギ(グレイバック・d20519)
    戦城・橘花(ぐあああああ・d24111)
    荒吹・千鳥(風立ちぬ・d29636)

    ■リプレイ


     賽銭箱の亀七はチンケな男である。
     喧嘩の張り番もロクに出来ぬと頭を叩(はた)かれたのが昨日の事、未だ疼く鈍痛を抱えて戸口に立っていた彼は、
    「こんばんは」
    「……んん?」
     靉靆たる小路より届いた西の抑揚に、さも大仰に首を傾げた。
    「ちょいと遊ばせて貰いに来ましたでー」
    「此処はキレイな身体で来る所じゃねェよ、巫女さん」
     二言目には「帰れ」と突っ撥ねるつもりであったが、その手はいつの間にか懐に迫った長身の男に止められ、
    「何も起きなければ何もしない」
    「三下がなんぞ文句あるん?」
     それと同時、ほんの一瞬だけ殺気を暴いた少女に肝を潰される。
    「……へ、何にもありやせんで」
     この言に再び天真が戻るが、彼女の機嫌次第で隣の用心棒が動く事は想像に易い。
     命あっての物種と身を引いた亀七は、ヒラリ翻る白き袖と、それに続く黒き冷徹を横目に、地下への扉を開いた。
     つまり――気圧されたのである。
    「これだからいけねぇ、次は呑んでやる」
     瘤を作った頭を自ら殴った亀七が、目に涕を滲ませた頃合にやって来たのは、或る黒叢。
     着流しの男を中心に夜を歩くは博徒の輩か、連れた着物の女といい「いかにも」だが、
    「顔を検めるのが決まりでさぁ、お止り頂きやす!」
     今度はビビらぬと食って掛かれば、艶やかな金髪を結い上げた美女がころり笑んだ。
    「あら。このお方を何方と心得ておりますの?」
     知らぬを嗤うか、嫣然は軅て翠眉を吊り上げ、
    「下手をなさっては、指が何本あっても足りなくなりましてよ?」
     下郎と蔑む瞳が五指を滑れば、次は鷹の目の男に肩を抱かれていた凄艶が凄んだ。
    「アンタ、何処に目ぇつけてんだい? 見たら分かるだろ?」
     極道の女の声に、不覚にも居竦まされる。
     亀七が吃驚に声を詰らせていると、鷹の目は腕の女を唇に宥め、
    「ちょいと待ってなせえ。今ナシ付けてやりまさァ」
     その粋な流し目は男を捉えて漸う鋭く――。
    「誰を呼び止めていやがる盆暗が。よりによってあっしにケチを付けるか」
    「へぁっ」
    「お前さん、貸元さんへ送る指は決めておきなせえよ」
    「ふぇあああ……!」
     まさに仁王の威迫。
     亀七が膝を震わせば、彼が座り込むより速くブラックスーツのチンピラが割り入り、
    「兄貴、姐さん! これは手前の不始末で!」
     連絡が行き届いていなかったと侘びる彼は舎弟であろうか、サングラスを外して直る。
    「このケジメは――」
    「外で止しな。中のモンは知ってるさ」
     姐さんと呼ばれた女が小意気な微笑に窘めると、緊張に身を固くする亀七の前には、冷たき黒影――殺し屋と思しき男が間際に立ち、
    「ひ……ひぇ」
     無言で金を握らせる。
     それは通行料であり口止め料であり、事を荒立てぬ為の彼の取り分。
    「ど、どどどうぞお楽しみくだせぇ」
     亀七は金だけは確り握りつつ、戦慄く手で扉を開けると、六人を通した。
     ――そう、六人。
     堂々たる入りを見せる彼等に従う最後者は、何とも気弱な一般人で、
    「しゃ、借金を一発で返せる方法があるって……」
     大方、この賭場で一切を搾り取られるのだろう。どう見てもカモだ。
     亀七は彼女にだけは憐みの眼を注いで、その縮こまる背を見送った。

    「みんな、潜入に成功したようね」
     街灯の陰より始終を見届けたのは、九人目の撫桐組見習い。
     唯一の入口であり退路である玄関口を確保せんと待機した彼女は、見張りの亀七を見張るべく、闇に留まった。
    「次は博打勝負(という名の内部調査)……上手くいきますように」


     蓋し撫桐組に心配は御無用。
    「木札かい? それともチップかい?」
     彼等はネイティブと疑うほど地下の空気に馴染み、ナチュラルに賭場の料率を確認すると、即刻換金する――驚くべき手際の良さ。
     これも一見と悟られぬ為の振舞いなのだが、水の流るるが如く違和が無い。
     それ故に周りの連中も彼等より賽の目に釘付けられ、
    「よろしゅうござんすね? ……入ります」
     女壷振り師・お菊の嫋やかな手指に、野太い声が集まった。
    「さぁ、張った張った!」
    「丁!」
    「半!」
     鷹の目の男は、差し詰め『今宵の盆に召された五分盃』と言った処か、ハクいスケを侍らせて賭けに興じ、時に女や舎弟に、肴にと連れたカタギの女にまで丁半を任せる大物っぷり。
    「さぁ、これで如何かしら!」
     一輪を添える花もまた勝負を楽しみ、木札をバンッと叩き付ける気っ風の良さで、お菊が羽振りの良い上客と目を付けた頃には、一同は場の空気をモノにしていた。
    「丁半コマ揃いました」
    「――サンピンの丁!」
     流れを我が手に掴めば、相応の果が呼び込める。
     嘆声と歓声が入り乱れ、莫大な金が音を立てて動く中、頓て彼等は「もてなし」以上の益を得るまでになっていた。
    「……お前さん達、中々の勝負師のようだね」
     ここでお菊が襖の奥より注がれる視線に頷いたのを、其々の懐刀は見逃さない。
    「どうだい、アタシとサシで勝負しようじゃないか」
     それでも口を閉ざし続けた炯眼は、唯、人知れず刀の柄に指を掛け――待った。
     何をか。
     無論、お菊が『サマ』を仕掛ける、その時である。
    「それじゃあ、いくよ」
     賽が、やけに高鳴った。

     ――シニの丁。
     ――サブロクの半。
     ――ゴゾロの丁。

    「お菊姐さん、強すぎやない?」
    「フフ、此処じゃ巫女さんもツキの神様に嫌われちゃったかしら」
     ゴネた少女が手元や道具を訝しむのも当然、お菊は勝ちに勝った。
     繊麗なる白指を遊ばせた彼女は生粋の博徒らしく、場が張り詰めるほど強欲を増し、次なる勝負に口端を持ち上げる。
    「参ります」
     ――その時であった。

    「キャ嗚呼ァァァアアッッ!」

    「お菊!」
    「どうしたァ!」
     裂帛の声に襖が開き、奥の部屋から若衆が出てくる。
     見ればお菊の腕は空を斬るナイフに捕えられ、畳には緋牡丹の花が散り――、
    「賭け事に向かぬタチ故に、サマの瞬間を見極めていた」
    「な、に……!」
     女侠の雪肌を染めるは【無銘蒼・禍月】――殺し屋を演じた叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)の獲物だ。
     俄かに騒然とする賭場は、別なる角度から投げられた一刃に遮られ、
    「やはり、見えぬ一人は此処か」
    「グッッ、畜生!」
     若衆の人数を慧眼に数えた御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)は、【封緋殲装"月”】の切先を盆茣蓙に沈め、『隠れていた五人目』を示す。
    「……出目をイジってやがる」
    「大層ご立派なおもてなしね」
     二刀が血汐を以て不正を暴けば、着流しの男は仲間の声を両脇に漸う立ち上がり、不敵な笑みに場を組み敷く。
    「あ、あんた等……何者だい!」
    「博徒の末裔、撫桐娑婆蔵たァあっしのこと」
    「黒地に金抜きの代紋……まさか!」
     撫桐組が組長、撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)は仁義を切るや、壁に掛かる『漢』の一文字を両断し、
    「地の利にゃちょいと尻込み致しやしたが、一度盆茣蓙の前に着いちまえば後はあっしの故郷みてえなモンでさァ」
    「、貴様ァ!」
     その言に全てを知った若衆らが眼を剥いた。
     侠族『漢組』に牙剥く撫桐組が、生意気にも賭場に乗り込み、シノギを削りに来たのだ!
    「ッッ……やっちまいな!」
     血染めた柔肌を押さえ、お菊が声を張る。
     すると客人らは一斉に懐より匕首を取り出し、雪崩込むように襲い掛かった。
    「ワシらに楯突くたぁ良い度胸だ!」
    「しばいちゃるけぇの!」
     拾伍の刃が迫る――狂気の波濤を前に、カタギの女は愈々悲鳴を裂くかという時、
    「あー疲れた! 慣れんことはしたくないな!」
    「?」
     徐に佳顔を持ち上げた女は、スーツの前を外すと同時、【ドス】と【チャカ】(※殲術道具です)を暴いて戦城・橘花(ぐあああああ・d24111)と為る。
    「ワレェ! やくざ者か!」
     その問いに対する答えは、熾烈なる斬撃と弾雨。
    「ぬおおを、こいつ等……!」
    「かッ返り討ちじゃあ!」
     爪を隠していたのは彼女だけではない。
    「荒れる風は、灰色さ! ……やっぱこっちのほうがしっくりくるなあ」
     スーツを脱ぎ捨て戦闘服に身を包んだ灰色・ウサギ(グレイバック・d20519)は、【虹の刃】を二刀に別ち、猫の爪と手術刀の閃きに凶邪を裂く。
    「狙われるモンより狙うモンの方が強いんじゃコラー!」
    「どおふ!」
     口調はチンピラ継続中。
     着物をしっとりと着崩した二輪の花とて凄腕の戦闘員で、
    「オイデマセ、我ガ愛シキ眷属達!」
     黒き道化のペルソナに殺意の波動を覚醒する周防・雛(少女グランギニョル・d00356)と、【夢想橋】の延伸に挙止を阻む神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042)は、醜男の突進を華麗にあしらう。
    「入った時から失礼な態度を見せていたあなたには、仕置きが必要ね」
    「おおおおおぉぉ!」
     彼女らの白肌を、美しい刺青(※ボディペイントです)を、鼻の下を伸ばして見ていた男が激痛に転輾つ。
     忽ち賭場が赫き戦場と化せば、異音を聞きつけた亀七が階段を駆け下り、
    「兄ィ! 何やら凄ェ物音が――」
    「あぁ、三下の」
    「あー!」
     そんな彼を凶相に迎えたのは、荒吹・千鳥(風立ちぬ・d29636)。
     掃き溜めは似合わぬと追い返そうとした巫女が、白き袖より異形の怪腕を暴き、白皙を朱に染めている。
     足元には、累々と積み重なる客人の躯。
    「そういう事や」
    「……ッッッ」
     後悔する間もない。
     亀七が巨大な蝸牛の幻覚を視たと思ったのも一瞬の事、鈍器の如く重き衝撃が豪雨となって降ると、彼は転がる死屍の一つと為った。
    「かっ敵わねぇや……!」
     たった数分で修羅の軍庭と化した賭場に、男の声が悴む。
    「ハッ……若(ワカ)に報告せにゃあ!」
     仲間の血に足を滑らせた客人の一人が、武器を捨てて階段を駆け上がるが、戸口から吹きつけた疾風がその身を床に叩き落し、
    「鼠一匹逃さないって……こういう事ね、撫桐くん」
     昏きより現れた槇南・マキノ(仏像・dn0245)が退路を塞げば、「上々ォ!」という威勢の良い声が通り抜けた。


     撫桐組に懼るるもの無し。
    「ササラモサラにしちゃるッコラー!」
    「わんっ!」
     主を援護するランクマもキリリと、ウサギは悪漢を痛罵に敷いて無双。
    「誰から殺されたいかしら? え、言うてみい?」
    「わふっ」
     ヤクザな物言いが板についた雛は、ボンボンの回復を支援に無双。
    「娑婆蔵、合わせるよ」
    「よし来た、鈴音にノッた!」
     大物ヤクザとその愛人を演じた二人(※実際に恋人同士)は、阿吽の呼吸で烈火を合わせ、無双、無双、無双。
    「嗚嗚をををっっ!」
    「ぐぉああああ!」
     その見事な立ち回りは、見張りを欺いて暫し賭場に馴染んだからこそ得た有利であろうが、人を排した雑居ビルの地下とあって、ご近所様への騒音の不安もない彼等は大暴れ。
    「命、取ったああああ!」
     床下から狂気と共に鋭い針が飛び出せば、
    「そのくらい読んでたわ!」
     忽ち身を翻した橘花が会心の踵落とし!
    「アタシとサシで勝負……きゃあっ!」
    「うちはイカサマなんかせんよ」
     千鳥は行く先を阻んだお菊のサラシを【うさ右衛門】に引っ掻かせると、ころり床に落ちたグラ賽を一瞥し、真ッ向勝負を叩きつける。
    「漢組が仕切る賭場は、イカサマのデパートだったという訳ね」
     彼等の進撃を耐性と強化に支えるマキノがそう言えば、聞き捨てならぬと若衆が日本刀を抜き、
    「おう、イチャモンつけんのかゴルァ!」
     強靭なる躯ごと爪先を弾いた、須臾――刃先が悲鳴した。
    「……あまり吠えるな、痩せ犬」
    「ッ、痩せ犬だと!?」
     猛る驀進を止めるは宗嗣。
     瞬速か神速か、声も音も置き去りに壁を蹴った鋭牙が死角を衝くと、影を捉えようと眼を泳がせる男を噛み殺す。
    「ア、アンタ……!」
     懇意であったか、お菊が之に声を震わせれば、その咽喉には連斬が疾り、
    「サマをやらかしたケジメは、何処も相場が決まっている」
    「ッッ、ッ……ッッッ……!!」
     まさか死が空より降るとは思うまい。
     天井の照明を背に墜下した白焔は、右一本で息の根を絶ち――女博徒の命を屠った。
     それからは怒涛――衝撃の大海嘯である。
    「おどれら覚悟しあそばせ!」
    「ザッケンナコラー!!」
     嗤う道化は血塗れた畳の上を躍り、灰色の風は紫電の如く燦爛と、
    「向こうが賽の目だけ穴あけるってんなら、こっちは壱百八の穴をあけてやるよ」
     橘花は向かい来る狂気に宣言通りの風穴を開けて、圧倒的な武に蹴散らす。
     惨澹たる修羅場に凛然は輝き、
    「遊ばせて貰いに来たっていうんは嘘やないし」
    「それって賭博? それとも喧嘩?」
    「どっちもでございやしょう!」
     自然と繫がる会話は感情の絆に結ばれて連携し、繁吹く血汐を四面に塗りつけた。
     敵にも増して戦ぐ侠客の風はマキノにも波及し、彼女は「どりゃあ!」と、とあるスジの者より会得したヤクザキックをご披露。
    「貴様等ァ……こげな事やらかしてタダで済むと思うなや……!」
    「――期待しておこう」
     今際の科白に過る警告も白焔が斬り捨てれば、賭場は漸う狂熱を手放し――、
    「眠れ……凶方の果てで」
     宗嗣が血塗れた靴底に骸を踏み付けた時には、終ぞ聞き得ぬ静寂が訪れていた。


     畳も壁も、天井すら鮮血に染まる地下の檻に、制勝の吐息が零れる。
    「折角の七不思議なんだし、いただいていこうかな」
     掃討を確認した鈴音が都市伝説『丁半賭場』を取り込めば、『漢組』とも決着がつくか――否、一同の表情は硬い儘だ。
    「これが最後とは思えない……!」
    「二度目があった事を思えば、懸念は拭えませんこと」
     首肯を重ねるウサギと雛は、どことなくうずうず。
    「まだ親父(組長)が出てきていないからな」
    「奴を引き摺り出さねば、事も収まらんだろう」
     殺らねば――。
     宗嗣と白焔がそう言えば、何故だろう、本当にそんな気がしてくる。
    「逃げ出そうとしていた男が零した、『若』と言う奴……」
    「……まさかと思うけど」
     細顎に指を添えた橘花もまた、『漢組』の膿は出し切れていないと読み、彼女の真実に色濃い予測に、マキノはコクンと頷きを添えた。
     娑婆蔵に於いては鋭き眼光を眈々と、まだ見ぬ敵に注ぎ、
    「傘下とシノギを潰した程度じゃァまだまだ、第二、第三の漢組が……」
    「……娑婆蔵兄さん」
    (「噂の流出元、ここに居たんじゃね?」)
     弟分より、ちょっとした「タタリガミもどき」を視る目を注がれていた。
    「ええやん、うちらが相手してやれば」
     そう言って破顔する千鳥の言は柔らかいが、「撫桐組を敵にしたら、どうなるか……」という含みを隠したそれは、殺気が滲んでコワイコワイ。
     戦闘を終えて尚も冷めやらぬ闘熱は、地上の凍風にあてられても暫く収まる気配がなかった――。

     ともあれ。
     ヤクザ組織『漢組』の賭場に潜入し! イカサマを見破り! 汚ねェカネに集る亡者を駆逐し! その汚銭を上納する凶漢をブッ飛ばした撫桐組は、悪を怖れて遠回りする人々の足を安堵の裡に取り戻したという――またも天晴な仕儀であった。
     

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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