●悪い子どもはいませんか?
晴れやかな空の下、寒々しい風が吹き抜けていく昼下がり。ゆっくりとした足取りで住宅街を歩く中、白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)は語りはじめていく。
「噂を聞きました。この先にある公園を舞台にした、この季節にまつわる噂話を」
――ブラックサンタクロース。
クリスマスの近づいた十二月。
祝祭に向けての準備が行われていく中、悪い子どものもとへ赴くと言われる黒いサンタクロースは公園を根城にした。
彼は公園にて悪い子どもを待ち構え、袋に入れて攫うのだ。さらった先で、悪いことをした罰を与えるのだ。
「恐らく、実際の黒いサンタクロースのお話を元にして、子どもたちをしつけるため……あるいはおどかすために作られたお話なんだと思います。しかし……この噂が、都市伝説化してしまっていることがわかりました」
故に、公園へと赴き何か悪いこと……子どもが可能な範囲で大丈夫なので、本当に些細な悪事を行えば良い。そうすれば、都市伝説が現れるはずだ。
「姿は、噂にもあった通り黒いサンタクロースだと思います。ですが、具体的な戦闘方法についてはわかりません。恐らく、攫う時に用いているという袋は使うと思いますが……」
多くのことは、実際に相対してから判断する事となるだろう。
以上で説明は終了と、雪緒は締めくくる。
「公園という場所柄、非常に危険な状態だと思います。全力で解決しまいましょう」
子どもたちが犠牲にならないうちに……。
参加者 | |
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坂東・太郎(もう寮母さんでいいです・d33582) |
白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072) |
ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784) |
神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500) |
●ブラックサンタクロースがやって来た
冷たく色濃い影が世界に差し込みはじめ、夕刻を招き始めているかのような昼下がり。ひと時の休息に浸っているのか歩く者の数は少なく、乾風に追い立てられたか子供たちがはしゃぐ声も聞こえてこない街の中。人々の安全を確保するために、灼滅者たちは公園を人を遠ざける空間へと変えていく。
変わらず足を運んでくるものは、風に運ばれてきた枯れ葉くらい。それが植え込みを覆う乾いた色に紛れていく音を聞きながら、頭にウイングキャットの信夫さんを乗せている坂東・太郎(もう寮母さんでいいです・d33582)は、囮役を担う白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)と神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500)を見つめていた。
今回の都市伝説は、ブラックサンタクロース。クリスマスの時期、この公園で悪さをした子供をさらいに来るという都市伝説。
もっとも……。
「ブラックサンタの元ネタはサンタの従者だっけ。彼はご主人に付き従って行動するものであって、単品で出てくるモノじゃないんだけど」
都市伝説との相違を思い浮かべ、小さなため息。
「そこを弁えずにしゃしゃり出る都市伝説はただの劣化版ナマハゲだから、細かく刻んでしまっちゃおうね」
「物騒なことで」
傍らに立つウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)が、小さく方をすくめていく。
「ま、ないわー、ってのは同意だけど……」
顔を上げ、口元を着物の袖で隠しながら言葉を続けた。
「ブラックサンタは悪い子の悪さに応じてお仕置きのグレードを変える……だったな。それが、問答無用でみんな拐うとか……」
それを許さぬために、この公園へとやって来た。
都市伝説・ブラックサンタクロース出現に備えて身構えながら、二人は囮役を担う二人を見守っていく……。
花壇の傍に佇む時計台の下。公園の中心部に位置するベンチに腰掛けながら、歌音は手提げ付きのビニール袋を持ち上げた。
「ふふっ、学校帰りの買い食いだぜ―!」
袋の中には、駄菓子やアイス、ジュースなど、いわゆる買い食いと呼ばれる品物たち。隣に座る榛香もまた自身の袋を覗き込み、同様の物品を見つめていた。
最初にジュースを取り出して、乾杯しながら頂きます。
歌音は駄菓子のお団子に手を伸ばし、慣れた手つきで封を開け口の中へと放り込んでいく。
「お? このだんご結構食べやすいな! 適当に買ったからどこだったか分からなくなったぜ。袋見たら分かるかな?」
「……ん、そうだね……裏の方に……」
四角くてピンク色で小さなお餅のような駄菓子を口に運んでいた榛香は、歌音が取り出した袋を見つめていく。
互いに駄菓子を食べながら、時に交換を行いながら……緩やかな時間が流れていく。
半分ほどを食べ終わっても、何かが出現する気配はない。
榛香は静かな息を吐いた後、食べ終わった駄菓子の包装を投げ捨てた。
「……黒サンタをおびきだせると……」
歌音へと視線を送ろうとした時、首を横に振って立ち上がる。
同様に、歌音も荷物をベンチに置いて立ち上がった。駆け寄ってくる太郎たちを横目に、公園の中心を見つめていた。
公園の中心には、白いふわもこがラインのように入っている黒いサンタクロース衣装を来た男が一人。
男は二人を見つめながら、対し恭しく一礼した。
――メリークリスマス。
●悪い子供をさらいに来た
囮役を担ってくれた二人との合流を目指し走る中、太郎は横に並ぶウィスタリアに視線を送る。
「林、お嬢さん方はきっちり庇えよ」
「ええ。とっとと片付けましょ。先輩、フォローは頼んますよ」
不敵な笑みと共にウィスタリアは速度を上げ、ブラックサンタクロースと囮役を担ってくれた二人の間に割り込んだ。
ブラックサンタクロースが立ち止まっていく中、太郎は間合いのギリギリ外側で立ち止まり頭に乗ったままの信夫さんをむんずと掴み取る。
「信夫さんも、カバーをお願い。二人を重点的にかばってくれ」
返事は聞かずにぶん投げたなら、信夫さんは慌てて翼をはためかせながらブレーキをかけ、ウィスタリアの隣に並んでいく。
瞬く間もなく構築された二つの壁を前にして、ブラックサンタクロースは立ち止まった。
暫くの間、攻撃を引き受けることができるだろう……と、ウィスタリアは氷の塊を生成する。
「お代は大特価、あんたの首一つ、ってねェ!」
ブラックサンタクロースの首元に槍を突きつけ、氷の塊の行く手を示した。
虚空を駆けて行く氷の塊が懐から取り出された袋の一振りで弾かれていくさまを見つめながら、歌音は……。
「過剰な罰で不幸を届けそうな黒サンタ!しかもクリスマスまでちょっと早いからマギステック・カノンが退場させてやるぜ!」
……マギステック・カノンは拳を握りしめ、ウィスタリアの横を抜けブラックサンタクロースに殴りかかった。
腕を縦に構え、ブラックサンタクロースはその拳を――。
「……」
――縦に構えられた右腕の掌に、一本の矢が突き刺さる。
ブラックサンタクロースが矢の出処を……弓を握りしめている榛香と視線を重ねた時、マギステック・カノンの拳が腹を中心とした胴体に何度も何度も刻まれた。
うめき声こそ挙げないものの、一歩、二歩と下がることを余儀なくされていくブラックサンタクロース。
されど足をふらつかせることはなく、マギステック・カノンの拳に耐えきった。
マギステック・カノンも同様の感想を抱いたのか、反撃に備えるためにバックステップを踏んでいく。
再びウィスタリアが最前線となった時、ブラックサンタクロースは袋を空に放り投げた。
袋の中から飛び出してきた無数の小枝が、矢の雨がごとき勢いで前衛陣のもとへと降り注いでいく。
ウィスタリアは素早く後ろへ跳躍し、ブラックサンタに背を向けながらマギステック・カノンを抱きしめた。
「お、おい。大丈夫か」
「ふふっ……このくらい、平気よ」
二人分の小枝を背に受けながらも、その笑顔が崩れることはない。
小枝の雨が止むとともにマギステック・カノンから体を離し、その背中を押し出した。
促されるがままにあるき出しながら、マギステック・カノンは頷いていく。
「……わかった。ウィスタリアの分まで……行くぜ!」
軽快に大地を蹴り、脚に炎を宿しながらブラックサンタクロースの懐へと入り込む。
かと思えばスライディングを放ち股の下をくぐり抜け、振り向きざまに炎の後ろ回し蹴りをかましていく。
背中を強打されたブラックサンタクロースが炎に抱かれていくさまを見つめながら、太郎はウィスタリアに帯による治療を施した。
「よくやるじゃないか、林」
言葉とは裏腹に労いの感情を含んだ声音を紡ぎながら、状況の分析を開始する。
ブラックサンタクロースの反撃は、威力だけを取り出すのならばさほど強いものではない。一方、治療を施してなおウィスタリアの着物が繕いきれないほど、強固な呪縛の力を持っている。
もっとも、それは信夫さんや榛香が補ってくれるはず。
マギステック・カノンへの直撃を防いでいる限り、致命的な状況には至らない。
「……よし」
ならば、彼女を守るウィスタリアと信夫さんを全力で支えていくと、改めて心に気合をいれていく……。
世界を軽く歪ませながら、雪崩のごとく襲いかかってくる熱された石炭の群れ。
マギステック・カノンへは至らせぬため、ウィスタリアは信夫さんと共に一歩前に踏み込んだ。
「あたしの目が黒いうちは……いいえ、たとえ黒くなくなってしまったとしても、彼女たちには指一本触れさせたりしないわよ」
信夫さんが魔法を放ち勢いを弱めていく中、白と薄紫の糸を縒り合わせた鋼糸を振り回して石炭を次々と切り裂いていく。
破片が頬を裂き、脚を焼いても、決して退くことはない。
徐々に力を失っていく石炭が、マギステック・カノンへと届くことはないだろう。
ただ、余波として伝わってくる熱だけを感じ取りながら、榛香はブラックサンタクロースの背後へと回り込んでいく。
前線に集中しているからか、ブラックサンタクロースが榛香の到来を察知した様子はない。
気づかれる前にと間を置かず、榛香は腰を軽く落とす。
脇腹へと、鋭い蹴りを突き刺していく。
うめき声を上げながら、よろめいていくブラックサンタクロース。その横顔を見つめながら、榛香は静かな息を吐いていく。
――表情に乏しき瞳に、一瞬だけ映り込んだ光は何だったのだろうか?
誰かが気取ることもないままに、ブラックサンタクロースが振り向いてきた。
直後、脚に炎を宿し懐へと入り込んでいたマギステック・カノンが背中を蹴りつけていく。
「お前が出てくるからやったのであって、オレは普段……あ、ちょこちょこ買い食いしてる。……いやいやいや、だからって攫うのはやっぱり罰が大きすぎるからな!?」
言葉を彷徨わせながらも熱く激しき炎をくわえ、花壇の方角へと押しやった。
つんのめりながらも、ブラックサンタクロースは振り向いた。
袋の口を空に向けたなら、その中から幾つもの石が飛び出していく。
勢いを失った石の群れが落下を始めてくるまでに、そう長い時間はかからない。
短き猶予の中、信夫さんがマギステック・カノンの頭上へと移動する。
信夫さんが一つ目の石を受け止めた時、ウィスタリアがマギステック・カノンの小さな体をかっさらい地面に押し倒す形で抱きしめた。
背中に、後頭部に降り注ぐ、石の雨。
血を流しながらも、決してうめくことはない。笑顔を崩すこともない。
ただ強く抱きしめて、マギステック・カノンを守り続けていく。
石の雨が止むとともに、静かな笑みと共に起き上がった。
「……大丈夫だったかしら?」
「……ああ!」
元気な声と共に、ウィスタリアの腕から離れ飛び出していくマギステック・カノン。
背中を見送りながら、ウィスタリアもまた氷の生成を始めていく。
「随分とふらついてきたみたいだし……そろそろ終わらせましょうか。先輩、もう治療は必要ないよ」
「言われなくても……」
頷き、太郎は駆け出した。
氷の塊が横に並んでいくのを感じながら跳躍し、ブラックサンタクロースの背後に着地していく。
包丁を縦横無尽に振り回し、背中を切り裂いていく。
氷が面積を増し、炎が勢いづいた。
呪縛もまた強さを増し、ブラックサンタクロースは動きを止めて……。
「……」
次の刹那、一本の矢がブラックサンタクロースの首を貫いた。
勢いを殺せず倒れていくさまを見つめながら、榛香は弓を下ろしていく。
静かな眼差しで見守る中、ブラックサンタクロースは影に溶けるようにして消滅し……。
●サンタクロースを迎えるため
風が木々を揺さぶる音色が聞こえるほどの静寂が、世界を満たし始めた夕刻前。戦いの終わりを実感し静かな息を吐き出したウィスタリアは、同様に額を拭う仕草を魅せていた信夫さんへと向き直った。
「癒やしをー」
抱きつこうと両腕を広げた時、ハッとした表情を浮かべた信夫さんが一目散に太郎のもとへと飛んでいく。
頭に隠れていく信夫さんを感じながら、ウィスタリアを手で制しながら榛香と歌音に向き直った。
「それじゃ、ポイ捨てたのはちゃんと片して帰ろうね。ちゃんとクリスマスには黒くないサンタさんが来てくれるように」
「……そうだね、悪いことは些細なことでもしない方がいいし……」
ゴミを捨てた方角へ視線を向けながら、榛香は言葉を続けていく。
「……それから、お疲れ様」
労い、ひとりごちていく。
「……まあ、こういう都市伝説も元は親が子のために……って考えたんだろうね。……大変そうだね、子のしつけとかは」
様々な手段を講じて、子供を導いていこうとする大人たち。一つボタンの掛け違いが起きれば悲劇が生まれてしまうかもしれないけれど……今回は、未然に防ぐ事ができたのだ。
平和の証となる公園を片付けていく中、歌音は軽くお腹を抑えていく。
「うう、ちょっと調子に乗って買いすぎたかな……お腹いっぱい。夕ご飯入るかな?」
おやつは美味しく、けれど食べ過ぎはいけないこと。
そんな教訓を胸に、全てを終えたら各々があるべき場所へと帰ろうか。
数週間の時が過ぎた後……心から、サンタクロースを迎えるために……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年12月14日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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