見立て殺人をなにより愛す

    作者:一縷野望


    「ひぃ!」
     古き家にありそうな畳み貼りのだだっ広い部屋で、男は腰を抜かさんばかりに膝をおる。
     床の間に両手を鳥のように広げて細い糸で結わえられた和装の女は、彼の一人目の娘。
    「な、なな子……」
     男が呼ぼうが娘は血の気を失った頬を晒すだけでなにも答えない。
     血の気がない。
     そう、白い鶴が舞う意匠の着物の胸元からは、無骨な日本刀の柄が飛び出している。
    「お父さんが殺したの?」
    「その声は……六朗?!」
     手鞠を包みこみにっこり笑う少年の頬から口元にかけては、べったりとした血潮がこびり付いている。
    「♪てんてんてんまり、数を指折り数えりゃああれ、七が足りぬ」
     とす、
     とすっとすっ、
     とすっとすっとすっ、
     奇妙な歌とともに鞠が畳みに叩きつけられる度に、畳みには悪魔の足跡の如く血痕が移り染みた。
    「こういう話は作り話だから楽しめるんだ!」
    「お父さん、無粋だよ」
     ころり。
     主から見捨てられた鞠はコロコロとなな子の足元へ。一方六朗は、小さなナイフを取り出してにんまり。
    「ひいいいい! ……め、やめてくれえええええ!」
     ひゅ。
     恐怖を煽るために手首を返した六朗……の姿をとっていたシャドウは、悪夢がぱくりと斬れて、その先に『現実』がちらついているのに気がついた。
    「……へぇ」
     頭をつっこみ畳みを蹴れば、シャドウはあっさり現実へと顕現できた。
     出てきたそばには、布団に転がり悪夢にうなされる老人がいた。眠気誘いの友とした読みかけ推理小説が枕元に投げ出してある。
    「折角出れたんだし、夢を叶えてあげようね。僕もそういうのが趣味だしさあ」
     少年シャドウは右手にナイフ、左手に鋼糸と見せつけるようにしてにんまり。
    「ああでも残念だなぁ。なな子さんはお嫁に行ってて、六朗さんも家を出てる。奥さんは先立たれて……素材がないよ」
     ふくれっ面で窓から飛び出たシャドウは、たまたま通りがかった女性へ鋼糸を伸ばす。
     悲鳴もあげず命を断たれた女を担ぐと、彼は沈思黙考。見据えた先は古めの民家が並ぶ界隈。1つぐらいは空き家があるだろう――そこで見立て飾りをすればよい。
    「空き家がないなら、気に入った家を皆殺しにしちゃえば――うんうん、一冊の推理小説書けそうだよね♪」
     とにかく死体が必要だから、殺そう♪
     死体を背負ったシャドウは深夜の住宅街を愉しげに闊歩する。
     

    「シャドウじゃなくてリアル人殺ししないなら、すっごい話合いそうなんだけどなぁ」
     灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)はわざとらしく溜息をついた。
    「またまたシャドウ大戦の残りカス、デスギガス軍のシャドウが現実にでてきちゃったからさ、お片付けお願いね」
     現実世界で自由に行動できる状況にるんたった、非常に偏った殺人嗜好を持っている模様なので、ちゃっちゃと誘導して倒して欲しい。
    「悪夢の主の多田さんへシャドウは攻撃する気はないみたい。だから多田さんへのフォローは一切必要ないよ。むしろ彼から離れた場所へ導き出して欲しいぐらい」
     標は付近の地図を広げて、在る場所に赤丸をつける。
     多田家からさほど遠くないそこは、持ち主が死んで数年放置されたボロボロのアパートだ。勿論住民もゼロ。
    「ここまで誘導して」
     誘導方法はシャドウの嗜好を読めば容易いはずだ。
     そう、例えば――。
    「殺したての死体を背負って歩く犯人とかいたら、もう嬉しくてついてっちゃうコト請け合い」
     標さんいい笑顔である。
     襲われる予定の人をなんとかして遠ざけて、代わりに囮? ……囮が廃墟アパートまで誘導すれば、あとはお好きなようにお料理どうぞ。
    「まぁ、ピンチになったら多田さんという逃走経路に向かって逃げちゃいそうだから……シャドウが飽きさせないようにすればいいんじゃないかなぁ」
     例えば、辿りついた先には曰くありげな住民が住んでいて、それぞれなんだか憎しみもあって、今にもうっかり殺人事件が起こっちゃいそうな感じとか?
     ――やけに具体的である。
    「誰かが死んだふりしたら、シャドウは見立て飾りをすべく張り切っちゃうから隙だらけだよー」
     ちなみに、見立て飾りするためのスポットとして、付近には楓の木と狂い咲きの桜の木があります。
     あと遅咲きな彼岸花と金木犀も彩りを染めてますね。
     そうそう、朽ち果てた室内や屋上なんかも素敵スポットです。
     殺人事件はなにも1つじゃなくてもいいのよ?
    「シャドウはシャドウハンターと鋼糸と解体ナイフのサイキック、あとシャウトを使用するよ」
     そそっと付け足した標は文庫本めいた手帳を締める。
     
    「まぁ本当に殺人事件を量産されてもこまるし。そういうのは虚構だからいいんだよね……だからこのシャドウは灼滅対象」
     でも見送りが「楽しんできてね」辺り、色々アレである。
     


    参加者
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    正陽・清和(強制同調・d28201)
    宮瀬・柊(月白のオリオン・d28276)
    ミストラル・グランフィールド(蒼硝子ハムレット・d33302)
    水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)

    ■リプレイ

    ●序
     ふ。
     夜闇の中、少女のか細い呼気が焔を震わせる。
    「きっと」
     何処にでもいるような平々凡々とした面差しの正陽・清和(強制同調・d28201)が、
    「どこかの」
     廃棄され腐るに任せるモルタル二階建ての建物前で囁く。
    「不思議な話」
     直後、
     できすぎた暗転。
     同時に、
     ケタケタと解放の喜びを謳う常軌を逸した笑い声と少年の面白がるような困惑。
     重なる書生の妄執は招かれざるモノ全てを遠ざける。

    ●夜に釣る
     いつだって、兄は『茶黒が纏わり付く蒼白い塊』を口元に宛がうのを止めなかった。
    「だから、僕は……」
     思い出すのを拒み水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)は干からびた塊を口元に。飢え狂ったようで淡々とした所作は兄と酷似している。
    「ひぃ!」
     確かに黒髪美少女が得体の知れないものを頬張ってるのに深夜遭遇したら怖い(被害者遠ざけ完了!)
    『あっれ?』
     膝丈浴衣で出てきたあざとい少年シャドウさん、完全に持っていかれた模様。
    「♪てんてんてまり」
     その眼前を季節外れの狂い櫻が通り過ぎた。
     跳ね損ねた手鞠は転がるままに羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は八歩先でくぅるり振り返る。
    「生まれは八つ子」
     にたり。
     口だけ笑みで瞳は虚ろ、結わえられた日本人形と犬のぬいぐるみを引き摺り陽桜は歩き出す。
    「きゅ……」
     声を殺した霊犬あまおと。アスファルトずるずるってすごく痛そーガンバレあまおと!
     腹違いの妹が過ぎていくのを見送った風真・和弥(風牙・d03497)は、ポケットに手を入れ「あー」とやる気の無い声を漏らす。
    「♪憂鬱怠惰と纏まりて」
     それでも母に教えられた数え歌を口ずさんでしまう疎ましさよ。
     かつては慎ましくも母との穏やかな生活を送っていた――相続争いの駒として親戚連中に見出されるまでは。
    (「本当にどうでもいい、なにもかも」)
     親戚連中に見つけられるのを忌避しながらアイス買いに来たのは遺産アパートのそば。
    「あははは」
     あまおとを抱き上げ陽桜は頬ずり。
     壊れたアパートはおじいちゃまの大事なお城。
    「♪虚で飾りて籠の中」
     あたしが謳う狂い嘔、呪いだと父が忌む。でもこれは御守り。不気味な娘の徘徊に怯えあの土地は買い手がつかない、イイ気味。
    『!』
     深夜、年も見た目も違う二人が同じ節で歌詞の違う数え歌を口ずさむ。
    (『なんという偶然! 装飾しがいのありそうな殺人の予感!』)
     シャドウアホの子、げふんげふん!
     電信柱から伺う鼻を擽るは濃厚な血の香り。
    「はは……」
     文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)は闇にとけ込むコートを翻し、胸を駆け上る甘い懐旧に思わず唇を割った。
    「♪七つ子抱えた人形を」
    『!!』
     ……ひとり減っている、だと?!
     そう、娘が謳ったのは「八つ子」
     彼が謳ったのは、
    『七つ子!』
     バン!
     大コマですっかり主人公ムーブなシャドウさん(手鞠回収済み)の眼前で惨劇はあからさまな足音立てて進んでいくわけで。
    「みゃぁん」
    「……なんだ、猫か」
     肩竦めコンビニに入る和弥の脇を闇が過ぎる。
     あの子の心にはジジイと怒りが充ちている、赦せない。
     アイツの心には母親と怠惰が充ちている、赦せない。
     だって、あいつもそいつもこいつも俺のモノ――だからねえ、心の疵を晒してのたうって。
    「♪数を指折り数えりゃ……あれ?」
     末尾は気のフれたフリをする陽桜が見せた年相応の驚きの声。
     ――七が足りぬ。
     それはお前が欠けるから――。
    「ただいま……先ずは一人目」
     胸の真ん中に刺したナイフを引き抜いた咲哉は堪えたモノを吐き出すように先程よりは明確に、笑った。

    ●あまおとの悲劇はようやく終わった!
     殺人にも動じなかった紗夜に動揺が奔ったのはコンビニからでた和弥を前にした瞬間であった。
    「! ぁ……ッ」
     取り落とした『某か』には目もくれず、甘露味わう彼を追う。
     一方シャドウは奇声に釣られ殺人鬼を追い越し『籠』に誘い込まれていた。
    「あは、あはっ! あーっはっははははは!」
     カンカンカンカン……!
     銃を鉄柵に叩きつけ走る宮瀬・柊(月白のオリオン・d28276)が過ぎる度、ボロドアは吹き飛び醜態を加速させる。
     永久トリガー、アナタも私もボクも俺も内側から食い荒らして殺ス殺ス。
    「ひゃは! 弾丸尽きることなんてないんだああっ」
    『アッパー系殺人鬼もいるなんて!』
     踊り出たシャドウはるんらるりんら♪
     ――この玩具、頭が悪すぎて手ごたえがないなんて事はないだろうね?
     なんて内心に侮蔑を抱きながら、
     しゅるり、
     煩い狂患者に包帯巻いて唐突に止めたのは、場末にそぐわぬ秀麗なる面差しの少年。彼は齢14で既に医術を収めた天才ミストラル・グランフィールド(蒼硝子ハムレット・d33302)
    「宮瀬さん」
     手枷足枷茨疵だらけの柊の足首掴み囁く声は慈愛塗れ――見破れないのだ、その仮面の造りは余りに巧みすぎて。
    「せ、せんせぇええ!」
     自らを監禁し続けた医者へ向ける柊からの眼差しは――信頼、歪みきった形で固定されし関係性。
    「全く、誰が鍵をあけたのやら」
     がこんがここんがここここん!
     足引き摺られ駆け上がる階段で頭強打。
    (「わー、ミストラル、痛い痛い」)
     聞こえない――そううっすら笑う口元に純正のSを見た柊はえへへと口元を緩めた。うん、手加減してくれないの、知ってた。
    『あれ、殺人鬼認定間違えた?』
     そんな風に首を捻るシャドウをまずはガンスルー。ぽいっと2階角部屋に患者を放りこみ丹念に執拗に鍵を掛けるミストラル。入れ替わり少女が気配もなく階段を降りていく。
    「それは罪だと誰かが言いました」
     ふ。
     そうして再び清和の小さな指で灯された蝋燭の袂、咲き誇るは見事な薄紅。
    「♪降る櫻、沈む櫻」
     腸……違う綿降るような桜の袂、陶器のように仄白い頬で俯く木元・明莉(楽天日和・d14267)は胸に巻いた包帯を握りしめる。恋に溺れた書生は続きを紡ごうとして哀しみに喉を鳴らした。
    『――ね』
     後ろに回り込んだシャドウが浪々と話しかけようとした刹那。
    「兄さん」
     ぷちり。
     明莉は櫻がもがれ怒りに染まる。
    「兄さん」
     しかし紗夜は虚空に浮かぶ誰かしか見てません。
    「ああ、何時だっただろう? 僕の元を去り心に抜けぬ棘を刺したのは。いや彼はこの土の下にいる、だから一緒……そして……借金、ううっ」
     失意で階段から転げ落ちるもミストラルの手当で命拾い。ただし巧みな話術で気づけば負債者、此方は直視したくない現実。
    「食べなきゃ……兄さんみたいに。ああ、何を食べればいいんだっけ」
     ぷち、ぷちぷち。
     もっしゃ、もっしゃ……。
     明莉が借金の数を数える暇も恐ろしい勢いでもがれ花びらは紗夜の口中に消えていく。
    「ぼっ、僕の愛し人を喰ったなっ?!」
    「いい匂いが、する」
     ねえそれ花的に? それとも食べ物的に?
    「……酷い、僕だけの彼なのに」
     すん。
     花びら唇に宛がったって紗夜のせいで和菓子にしか見えないじゃないですかー! その怒りが向いたのはうっかりやりとり見ていたシャドウである。
    「櫻に埋まるはずの彼を返せえっ」
    『ひいッ』
    「食べなきゃ食べなきゃ……」
     掻っ捌かれて蹌踉けた所を紗夜の影じゅるり飲み込み咀嚼する。
    『こっこんなもらい殺人で死ぬようなアパートにいられるかっ』
    「お話は、最後まで聞いて」
    『ぐふっ』
     ふ。
     虚空より鋭いメスが恐ろしい程精密に脇腹から臓物を切り裂く、清和の仕業だ。
    「妬むあなたも食べすぎるあなたも」
    『こっの』
     ふ。
     拳握りつき出す先に清和はいない。さすがキャスター、回避するする!
    「欲張るあなたも」
     ……キィ。
     しばらくして清和の手で何重もの錠前が外されて開くドアの音が、夜を震わせる。溢れ出す笑いは傲慢と奇異に充ち劈く銃撃はシャドウの躰をあっさり貫いた。
    「あー、いいねぇ。やっぱり銃撃の音って最高だよお」
     獣めいた瞳だけが爛々と二階から、柊は銃身に舌を這わせのたうつシャドウを睥睨する。
    「この騒ぎ、何があったんですか?」
    『ああやっぱりこの人医者だ、冷静だよ! あのさぁ、この人たち変だ……ぎゃあ』
     救いを見出し手を伸ばすシャドウにミストラルは包帯を巻く素振りでレイザースラスト。
    「ああ治療費は二億、勿論現金で」
    「あああああ! 月々支払い利息だけでも三十万!」
     あの笑顔でハメられたとフラッシュバック! 明莉は頭を掻きむしる。
    「…………はぁ」
     ぱほり。
     投げやりに書を閉じた和弥は櫻に凭れて狂乱にも興味ゼロと目を閉じる。あ、さりげにシャドウは否定しときました。
    「――なん、だ。この騒ぎは」
     そこへ辿りついた咲哉は、死体を背負っているにも関わらず思わず素。
     もしゃもしゃもしゃ……。
     耳にねたつく咀嚼音にどさりと陽桜を取り落とし。
    「きゃん!」
     ごめん悲劇終わってなかったわ。あまおと陽桜の下敷き。
    『死体キター! わぁ櫻の見立て殺人だぞー。手鞠も櫻模様だし』
     嬉々として櫻の木に持ち込むシャドウがいっそ憐れである。
    「はぁ、こんなものただ刺されただけだよ……」
     怠惰ムーブな和弥さんが結果として反応してくれたよ、一番優しいよ!
    「な、なにを……喰って……」
     だって殺人鬼にはそっちの方が重要なんだよ。
    「何の肉だろうね……兄さん?」
     紗夜は口元から『某か』を外すとぼそり、そこに疑問符つくのヤバイヤバイヤバイ。
    「お肉怖いーー!」
     咲哉の悲鳴が古びたアパートを芯から震わせた。

    ●あらすじ
     嬉々として陽桜を櫻に見立てようとしたらミストラルに「工夫がないね」とバッサリ。シャドウさん彼岸花畑なう。日本人形を羽根っぽく配置し、彼岸花を髪に結わえた。
    「櫻の少女が彼岸花ね……犯人は随分とねじくれた趣向の持ち主のようだね」
     アンタが仕向けたんやとシャドウ涙目。
    『げふっ』
     なんか顎の下十字架っぽいサムシングで殴られたよっ!
    「……ぱたり」
     しかも陽桜の倒れる角度が変わって髪の彼岸花もなくなってる気がするんだけど?!
    「はぁ……櫻とくれば、枝だろ」
    『枝?』
    「♪桜の枝を数えりゃあれ、三が足りぬ」
     顎をさすさすしつつネタ探しなシャドウさんに謳ってあげる和弥はやはり優しい。
    「――」
     紗夜は和弥の口元をじっと見つめている。
    「……はぁ、腹減った」
     ガサガサ。
     気怠げにコンビニ袋から出したアイスを咥えた直後、和弥は後頭部に鈍痛。後ろに立つは肉塊を手にした紗夜。
    「だって兄さんは……いつもいつもいつも……っ」
     チョコミントアイスガコガコ。
     だからイラッとして頭ガンッ! 大丈夫、撲殺じゃないから。
     うん。
     殺したって書いてない。
    『確か枝って言ってたよね。僕ぁ絶対に櫻で見立てをするんだからねっ?』
     ふんすふんすと和弥を櫻に吊すシャドウを背景に、じとりと湿度高い視線で咲哉を睨む明莉が怖い。
    「ぼ、僕って者が居るのに、また浮気? ♪地に横たわるは、彼の骸。地に滴るは、紅の滴」
    「それって俺が、死ぬ?」
     気づいてしまったよ咲哉さん。
    「死っぬぅ? 死んじゃうぅ?!」
     ちゃきちゃき。
     楽しそうに零距離の銃剣手に躍り込む柊は、ドス持ちに切り替えて刺す刺す刺す。
    「これこれ、やっぱこの肉を断つ手ごたえがないとさぁ」
     ただし刺されてるのはシャドウである。あ、和弥は櫻の枝のようにしなっと、躰中にお花も散らして完璧な見立てだ!
    「肉」
     げふぅと口元押さえる咲哉は明莉の掻きむしる包帯が異様な動きを見せるのに思わず自分を庇った。
    「あんなに……あんっっなに深く愛し合ったのにっ」
    「いや、俺はこの屋敷の地主の愛人の孫で血筋ごと愛せ(=殺ス)とは言われたけどお前なんて知らな……」
    「酷い!」
     ガッ!
     シャドウを羽交い締めにし地獄投げ。飛び散る血に咲哉の殺戮衝動が再び目を醒ます、いや醒めとかないと多分自分の身が危うい。
    「♪全て寄越せと喧嘩が絶えぬ……一つ壊れて六体に」
    『ぎゃん』
     投げ出されたシャドウの腹がジグザグに切り裂かれる様を、ミストラルは冷えすさぶ眼差しで見下ろしている。
     ふ。
     清和の翳した蝋燭が虚空を踊りシャドウに着火、キラキラ漁り火の如く燃えて彩を添えた。
    「そう言うあなたは、と誰かが訊きました」
     スポットライトをあてるように、清和は頼りない焔で闇医者を浮かび上がらせて。
    「♪僕は……」
     さぁ誰なんだろうか。
     胎から出て知らない他人に渡ったこの身に歌が続けられるわけがない!
    「あはっ、せーんせっ!」
     狂いの形に開き続けていた柊の口元が線を引いたように、締まる。
    「先生は」
     銃身巫山戯て傾けず真っ直ぐにこめかみに突きつけて、
    「この名工が娘を融かした鉄で打った幻の銃で葬送ってあげるね」
     引き金を、引け。
     ざぐり。
     ――しかし果たして砕けるように倒れたのは柊の長身。
    「……どうせ足枷掛けて閉じ込めたっていなくなるんだ」
     重たく囁くミストラルは柘榴色の鋏を手に、ぽつり。

    ●おしまいの嘔
     鋏の血はシャドウの内容物な安心設計でお送りします♪
    「「くっ……」」
     つま先だけで全身支えるという無理なポーズに和弥の躰が限界を迎えつつある中、顔を覆い明莉は膝を折る。
    「羨ましや羨ましや――執着の果ての監禁、先生は僕を閉じ込めてはくれなかった!」
     明莉、見境ねぇな。
    「ならば、俺が殺してやるよ……」
     後ろからナイフを喉に宛がわれ歓喜で口元を呆けさせる。
    『うん、死体はちゃんと見立ててあげ……げふぅっ』
     逆手の日本刀で切り裂かれ、
    「味見させて」
     紗夜に囓られシャドウは息も絶え絶えなわけですが。
    「美味しくなかったんだけどぉお!」
     しかも逆ギレ、そして回復。
    「困るなぁ、彼からは治療費を回収できてないんだからね」
    「……くッ」
     咲哉がミストラルの鋏で刺されて倒れた……ら、何故か自分が痛い。倒れる柊の銃が硝煙臭いのはどうして?
    「咲哉ぁ!」
     抱き起こす素振りで暗幕掛ける明莉、陽桜と清和が舞台裏へ引き摺り隠す淀みない連携である。
    「♪知らぬ顔でも構りゃせぬ」
    『え?! 構わないの?』
     瀕死のシャドウに泣き笑いを浮かべ明莉はこうはっきりと言った。
    「僕を愛して愛して愛して、殺して殺して殺してっっ!」
     連呼する喚き声デタラメに見えて確実に振り回される大鎌の軌跡――しかしより耳元にはっきり届いた声は、違う。

    「♪てんてんてんまり」

     殺して愛してと切り刻まれているのに、穏やかな声が謳うは最初に聞こえた数え歌(ヒントは割り込みヴォイス)
    『何これええ!』
     耳を塞いでイヤイヤするシャドウは憐れ明莉の愛欲の強奪によって息絶えた。

     ふ。
    「みんなみんな罪深いと言いました」
     死したるアパートにて清和は狂い咲く花を労うように焔で照らす。
    「それもそうだとみんなが頷きました」
     楓、櫻、彼岸花に金木犀……ざわりざわり夜風に香を散らし同意する。
    「そうして『みんな』」
     唐突に少女は消え、残る言の葉は八人で。
     ――仲良く一緒に神様の元へ、謝りにいきました。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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