忘れられた闇の祈り

    作者:幾夜緋琉

    ●忘れられた闇の祈り
     闇に包まれた……千葉県某所の神社。
     以前は周りに人里があったのに、今となっては誰もがその町から離れてしまい……その神社には誰も居ないし、来訪する者も居ない。
     ……そこに。
    『グルゥゥ……ゥゥァ……!!』
     呻き声を上げながら、人里離れた神社で暴れ回るのは……人とは全く違う姿をした幻獣、イフリート。
     イフリートは凄まじい力でもって破壊する……幸いなのは、その周りに人が居ない事のみ。
     そして神社の中にある芯棒をへし折り……大きな音を立てて崩壊したその神社を、どこか満足げに見つめ、次なる破壊物を求め、蠢くのであった。
     
    「どうやらみんな集まってくれたみたいだね? それじゃあ説明、始めるね!!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、集まった灼滅者達に向けて説明を始める。
    「今回みんなにお願いしたいのはね、村を破壊し回っているイフリートを倒してきて欲しいんだ! 場所はここだよ」
     千葉県は成田市の辺り……山中のとある村でイフリートが現われ、暴れ回っているのだ。
    「皆も知っての通り、ダークネスにはバベルの鎖の力による予知能力がある。だけど私の指示に従ってもらえれば大丈夫! イフリートの隙を突いて仕掛ける事が出来るの」
    「その方法は……宵闇に紛れてこの村の神社に行くこと。イフリートは神社を壊している最中だから、周りに余り注意が言ってない。その隙をつけば、少しは有利に戦えるかも知れないね」
    「勿論ダークネスは、単体でもかなり強力な敵であるのは間違い無いけど……でもきっとみんなが協力すれば、大丈夫のハズだから!」
     そしてまりんは、続けてダークネスの能力を告げる。
    「皆が相手にするダークネス、イフリートは超強力な攻撃能力を持つ。無論体力も高くてシブトイ敵だよ。まぁそもそもその実力は彼一体で、灼滅者10人分ほどの能力を持っているから油断は大敵だけどね」
    「でもこのイフリート、防御力はそうでもないから、攻撃が突き抜ければダメージも高く掛かるハズなんだ。だからこそ、不意打ちの一撃が重要になるんだよ」
    「尚、場所は宵闇の廃神社だから灯りは無いんだ。忍び込むならそう簡単に灯りは付けられないけど……まぁ大きな音を立てて破壊し続けているから索敵するのはそんなに難しく無いと思うよ」
     そこまで言うと、最後にまりんは。
    「こっちに未来予測という優位はあるけど、油断大敵だからね? みんな、注意して頑張ってきてねっ!!」
     拳を振り上げるまりん。
    「っ……うぅぅ」
     その勢い余って、拳を壁にぶっつけてしまって、その後ちょっと涙目になるのであった。


    参加者
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    八尋・藤枝(リドーグリシーヌ・d02531)
    神宮時・蒼(幻想綺想曲・d03337)
    芥川・真琴(Sleeping Cat・d03339)
    阪木・こよみ(静かな焔・d04338)
    マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)
    久遠寺・織姫(金剛不壊ノ事・d06105)
    メルフェス・シンジリム(自称魔王の黒き姫・d09004)

    ■リプレイ

    ●忘れし社
     まりんより話を来た灼滅者達が向かうのは、千葉県某所の神社。
     そこで暴れ回っているダークネス、イフリートを倒すが為に、山中にある……既に信仰を喪ってしまったその社へと向かっていた。
    「うーん……しかしこのイフリート、何で暴れているんだろうね? お腹が空いてるのか、何かに怒っているのか……案外、自分の身体が熱すぎるから……だったりしてね」
    「確かにそうですね……何故こんな人気の無い所を襲っているのでしょう? 疑問は尽きませんね……」
     芥川・真琴(Sleeping Cat・d03339)と、阪木・こよみ(静かな焔・d04338)が何気なく口にする会話。
     確かに人里から遠く離れたこの地……誰かにその苦しみを訴えかけようとしているにしても、訴えかける相手が居ない。
    「でも、神の棲まう社を破壊している訳よね? 何がイフリートを破壊へと駆り立てているのかは推測の域を出ないけど……神様にでも訴えかけようとしているのかしら? 『俺はこんなに苦しいんだ、助けてくれ』……って言う様な感じで、ね」
    「ええ……その可能性も充分にあり得そうですね……だって、ダークネスではありますが、私と同じ元は人間だったのかもしれませんし……」
     神薙・弥影(月喰み・d00714)に、マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)は静かに一端、目を閉じる。
     イフリートはファイアブラッドである、彼女の宿敵でもある。
     目を閉じ、少し考えて……。
    「宿敵……私も一歩間違えていたら、こうなっていたのかもしれません。そう思うと、少し怖くなります……でも、私の血は、炎はあんな風にならない。そう証明したいから……気合いを入れて頑張ります!」
     宿敵である者の闇落ちした姿を想像し……その心を一重に定めるマリーゴールド。
     そしてそれに対し、メルフェス・シンジリム(自称魔王の黒き姫・d09004)、神宮時・蒼(幻想綺想曲・d03337)が。
    「そうね。イフリートは闇落ちした先の姿……自分が違うのを、実力を持って示すしかないわよね」
    「はい……。神社……人がいなくて良かった……です……村へ向かわれる前に、駆逐しちゃいましょう……です」
     そんな仲間達の言葉に、久遠寺・織姫(金剛不壊ノ事・d06105)とこよみが。
    「後もう少しで到着ですね……それじゃ、気を引き締めて行きましょうか」
    「ええ……あ、そうだ。私始めての通常依頼なので……至らない点があるかもしれませんが、どうぞ宜しくお願いします」
     ぺこりと頭を下げるこよみに、織姫も。
    「んー、大丈夫、気にしなくて大丈夫ですよー」
     と手をひらひらと振って微笑むのであった。

     そして更に暫し、既に舗装されていない道のりを上がり続けていく。
     一時間ほどが過ぎて、遠くの方から聞こえてくるのは……ガン、バキ、という破壊音。
    「……あれね。本当に体当たりで破壊しようとしてる。一人ぼっちの神様も、こんな来訪者は嬉しくないよね」
     八尋・藤枝(リドーグリシーヌ・d02531)が指差しながら呟く言葉。
    「そうですよね……例えその思いの伝え方がこれだったとしても、神社を壊されたらたまったものではありませんしね」
    「うん。神様の下に来るのは願い、感謝を伝える人。昔々は誰かの願いを叶え、そして喜びを生み出したハズの此処を……今を生きていく人と、時間を守ってみせるの」
    「ええ……ここで倒してしまえば、彼が此処を破壊し続けている意味など気にならなくなります。さぁ……狩りの時間です、行きましょう」
     藤枝にこよみが静かに告げる……各自ヘッドライトや懐中電灯などを用意。
     ただ灯はつけない……イフリートに気づかれないようにする為に。無論それは、サーバントにも伝える訳で。
    「いい、菜々花? これからはしー、だよ。暗いけど、まだ灯はつけられないから気をつけてね」
    『ナノ』
     マリーゴールドがナノナノの菜々花にヘッドライト付きヘルメットを被せつつ、そういう事を伝える。
     そして皆が灯の準備を整えたら。
    「さぁ……跪いてもらうわよ、魔王の名の下に」
    「……喰らい尽そう……かげろう」
    「憂きことの、なおこの上に積もれかし
     メルフェス、弥影、織姫を初めとして、それぞれがスレイヤーカードを解除し、戦闘態勢を整えていく。
     総てがオールクリアとなった所で、いざ……神社に向けて近づくのであった。

    ●力と心を結び
    『ウウゥガァア……!!』
     更に一層、強く響き渡る破壊音。
     神社の入口を、とりあえず目に付く物を手当たり次第にぶちこわしにしていくイフリート。
     そんなイフリートが破壊に夢中であるのを見定めながら……一歩一歩、彼に気づかれないように接近していく。
     ……そして。
    「……」
     織姫が声を出さず、手で、3、2、1……とカウントダウン。
     そして……0のカウントと共に、一斉に奇襲を仕掛ける。
    「ここは神様のお家なの、だから護るの、ここで祈られた総てをっ!」
    「そう、とっとと潰れなさい。貴方は退場の時間なのよ!」
     藤枝とメルフェスの二人が、イフリートに対して居合い斬りとトラウナックルで初撃を叩き込むと、織姫も龍翼飛翔でその注意を自分自身へと向ける。
     前衛陣三人の攻撃で、イフリートのターゲットは灼滅者側へ。
    「……今です!」
     織姫が声を上げると、一斉に灯を点灯させ、イフリートの姿を白日の下にさらす。
     全身に灼熱の炎を纏う獣、イフリート……そして行動は、理性を失った獣そのもの。
    「……続けて、行きます……!」
    「其は夢か現か……悪夢に呑まれなさい」
    「咎の力……解放、します……」
     キャスターポジションについた弥影と蒼が、影喰らいとブラックウェイブでトラウマと武器封じを及ぼす。
     とはいえ、流石にダークネス……その攻撃では、多少ダメージは及ぶものの、死にはほど遠い。
    「さすがに初撃だけでは落ちないわね」
    「ええ……ダークネスですね。ですが……」
     マリーゴールドはきっ、とイフリートを見つめて。
    「怪物は人間に倒される、神話の怪物ってそういうものだよね? だから……私達で倒します」
     と、五星結界符で、足留めを更に追加する。
     前衛、中衛に位置する攻撃、それに追加し、後衛に居るスナイパーについたこよみが。
    「……決めます」
     制約の弾丸で、パラライズを付加、メディックの真琴も。
    「熱は命、心は焔……あなたのその身を焼く心の源泉はなぁに?」
     と、ジャッジメントレイ。更にマリーゴールドの菜々花もたつまきで攻撃を加える
     ……そんな灼滅者達の奇襲による先制攻撃……ダークネスには確実なダメージとバッドステータスを与える。
     しかしながら、体力の減少度合いはそこまで多いという訳ではない。
     2ターン目……直ぐに動くのはイフリート。
     その大きな身体を、攻撃に活かすかの如く、暴れる。
    『ウグァアア!!』
    「っ……甘いわ!」
     その攻撃ターゲットは織姫。
     一発で、かなりのダメージ……ディフェンダー能力で被ダメージが半分になっていなければ、恐らく瀕死にも至りかねない所。
    「菜々花、回復してあげて!」
    『ナノ!!』
     すぐ菜々花がふわふわハートで回復し、彼女の体力を維持。
     そして、藤枝、メルフェスがレーヴァテインと、デッドブラスターで攻撃し、ダメージを加える。
     無論蒼と弥影のキャスター陣も。
    「……逃がしません」
    「これで、少しでも楽にさせて貰うわよ」
     結界糸と、斬影刃にて捕縛と服破りを更に付与。
     既にバッドステータスが幾重にも重なっているダークネスだが、決してそれでも……灼滅者達に引けを取らない戦闘能力を持っている。
    「やはり、強敵なのに変わりはありませんね……織姫さん、頑張って下さい」
    「ん、あぁありがとー」
     マリーゴールドは防護府を織姫に使用……そして織姫自身も、龍翼飛翔で怒りを付加。
     攻撃を自分自身に集中させるよう、更に行動すると……真琴はそんな彼女に防護府で、バッドステータスの耐性を追加する。
     そして、その怒りに震えるダークネス……第三ターン。
     怒りのままに振るう攻撃は……今度は織姫ではなく、蒼に。
    「っ……!!」
     その攻撃は、ギリギリで織姫が庇いに入り、ダメージを受け止める。
     流石に二連続で攻撃を受けるとなると、回復を受けて居たとしてもダメージの蓄積は高くなる。
     そのダメージに対し真琴がヒーリングライトで、菜々花がふわふわハートで、一気にダメージを回復していく。
     ……そして。
    「……本当、良い度胸してるわね。破壊の衝動を抑えられないケモノ風情が」
     何よりも冷たい視線で睨み付けるメルフェス。
     斬弦糸を撃ち放つ彼女は、一切の容赦も無くなっていて……三ターン目、四ターン目……そして、五ターン目……と続く。
    「しかし本当一撃が重いし、強い相手ね……でも、それだけに圧倒されはしないわ」
    「うん……貴方はもう、熱は喪われていくだけ……だからおやすみなさい。よいねむりを……捧げる」
     弥影、そして真琴がそれぞれ相手に対し、負けない心の意思を紡ぐ。そして。
    「神の……刃……!」
    「あなたの燈火、頂きなのっ!!」
     蒼の神薙刃や、藤枝の紅蓮刃……こよみもペトロカースやリングスラッシャーで、何度も何度も攻撃していく。
     ダークネスの攻撃は織姫が庇うを活かして、ダメージを総て受け止めるように動き……菜々花と真琴が確りと回復を請け負うことで、重傷へとは陥らさせない。
     ……そして、時は過ぎゆき10ターンを超える。
     流石にダークネスも、蓄積ダメージが過半を超えて、次第にその動きが鈍りつつある。
    「ふふ……ケモノ風情が私達にたてつこうなど、甘いのよ!」
     攻撃してくるイフリートを、半ば挑発するかの様に声を掛ける彼女。
     ……そして。
    「……これで、トドメを刺して上げるわ!」
     メルフェスが渾身のトラウナックルを叩き込み、その身体を壁に向けて叩き付けると。
    「それじゃこれで最後ですよー」
     織姫が黒死斬を放ち……イフリートの身体は、二つに切断されるのであった。

    ●遠し力
    「……終わりました、ね……皆さん、お怪我はありませんか……?」
    「ええ、大丈夫よ……蒼さんこそ怪我無い?」
    「ええ……大丈夫、です……」
     蒼の言葉にメルフェスが言葉を返す。
     そして、ダークネスの姿は消え失せると……後に残るは、ダークネスの遺した破壊の跡のみ。
     神社の中はイフリートの大暴れによって破壊された柱やふすま……ご神体。
    「……騒いでしまって、ごめんなさい。神様、きっとまた誰かが来てくれる様に此処を護る。だから未だ見ぬ誰かとの出会いを楽しみにしてて欲しいの」
     その破壊の跡を見て、溜まらず藤枝は手を合わせ、この神社に棲まいし神様へと祈り、謝る。
     そして藤枝の祈りに続けて、マリーゴールドと菜々花、他の仲間達も祈りを捧げて、恐らく闇落ちし、イフリートと化してしまった名の知らぬ人の死を弔う。
     ……祈りを終えると共に、マリーゴールドは。
    「でも……怪物だったね?」
    『ナノナノ』
    「でも……本当は闇落ちした元人間なんだよ、私と同じ、ね……」
    『ナノ……』
     悲しげな表情を浮かべる菜々花に、マリーゴールドは。
    「大丈夫、私はそんな事に絶対になりはしないから、ね」
     と微笑み、その頭を撫でて上げる。
     ……そうして、破壊された神社に。
    「えと……神社……このままでも大丈夫でしょうか……?」
    「そうですねー……このまま放置しておくのも、なんか可哀想ですし、出来る所で片付けませんか?」
    「ええ、私もその案に賛成です。例えお参りされなくなった神社だとしても、信仰心篤い方が不意に来るかもしれませんし……その方が驚いて、信仰心が無くなってしまうのも悲しい事ですし」
     蒼の問いに、織姫とこよみが提案。
    「それじゃ片付けようよ。壊された柱とかは直せないけど、破壊されたふすまの破片とかを片付ける事くらいなら出来るし、ね?」
     と真琴もその提案に頷いて、みんなで協力して、イフリートの暴れし跡を総て片付ける。
     片付けた後……神社へもう一度祈りを捧げてから。
    「……本当、強い相手でしたが、無事に駆逐出来て、良かった……です……」
    「そうね……良かったわね……でも疲れたわね。帰ったらゆっくりしましょう」
     と、弥影が蒼の言葉に微かに微笑みながら……帰路の山を下っていくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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