昏き世界を照らす10の名を持つ道化師

    作者:長野聖夜

    ●道化師と奇術師の宴
     名古屋某所にある荒廃した洋館にて。
     ひっそりと静まり返った館の執務室にて、一人の青年が高鼾で眠っている。
     階下からは、時折呻き声の様な何かが聞こえるが、気にした様子は無い。
     ――ふっ、と青年の周囲に黒い霧が舞った。
     それはやがてサーカスに出てくる道化師の様な姿をした人物へと姿を変えていく。
    「ふふふっ……何やら楽しげな声が下からしていますね?」
    「いらっしゃいませ、ディエース様。お待ちしておりました」
     道化師の姿をした彼に、何時の間にか目を覚ました青年がシルクハットを片手に一礼する。
     ディエースと呼ばれた道化師が笑う。
    「暫くお世話になりますよ、奇術師殿」
    「いえいえ此方も歓待の用意をしてお待ちしていたのです。下拵えも完了しておりますうえ」
     階下から、聞こえてくる啜り泣き。
     耳を澄まさずともそれが、お楽しみだと直ぐに分かる。
    「ふふふっ、それでは始めましょうか……道化師と奇術師の解体サーカスを。……ここでしたら、流石の騎兵隊の皆さんも容易に気がつかないでしょうからねえ」
     ディエースの呟きに、青年が嬉しそうな笑い声をあげた。

    ●道化たる影、ディエース
    「皆、コルネリウスとオルフェウスとの対談お疲れ様。皆が彼女達から得た情報が切欠で、シャドウ達が六六六人衆の協力を得て、現実世界に出てこようとしているのが分かったよ」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)の呟きに、灼滅者達がそれぞれに頷き返す。
    「今回、俺の方で予知できたのは、一度君達とも戦ったことのあるシャドウが名古屋の某所にある洋館を密室化した殺人鬼の悪夢を通じて現実世界に現れる様だ」
     シャドウの名は、ディエース。
    「当時は名前まではっきりしなかったんだけど。調査したら、そう言う名のシャドウだと分かった」
     灼滅者達を騎兵隊と呼び、ギリギリまで介入出来るタイミングを絞ってきた道化師の姿をした快楽主義者のシャドウ。
    「皆には、ディエースが現れる密室を襲撃してこのシャドウと、密室殺人鬼……奇術師と名乗っているが……を灼滅して欲しい。両方灼滅出来れば越したことはないけれど……難しそうなら、奇術師の方だけでも」
     優希斗の呟きに、灼滅者達がそれぞれの表情で返事を返した。

    ●最善の選択は
    「ディエースと奇術師は、奇術師が用意した名古屋某所にある廃館にいる。……皆が介入出来るタイミングが厄介なんだけれど」
     僅かに顔を俯ける優希斗。
    「奇術師はこの密室を作り上げる時、『宴』の準備として数人の一般人を誘拐している」
     尚、誘拐されたのは、若い少女が数人。
    「……それで奇術師は、ディエースと一緒にその子達を一人ずつゆっくりと解体する宴を催す。皆が介入出来るのはその直前……つまり、彼女達の所に、ディエース達が入り、彼女達を部屋の奥に追いつめた直後になる」
     因みに少女達は自力で逃げ出せない。
     一方でディエース達はその気になれば何時でも逃げ出せる。
     逃げた後は、奇術師さえ生きていればまた何処かに新しい密室を作成するだけだ。
    「……ディエース達は簡単には彼女達を殺さない、けれど嬲り殺しにはする。……両方灼滅するのであれば、その隙を狙うのが最善になる」
     逆に彼女達を救うのであれば、どちらかの灼滅を諦めるのが最善となる。
    「彼女達を救いその上で両方を灼滅する……それは、予知の範疇外になる。……それだけは気を付けて欲しい」
    「今回の戦い、全ての成功を考えるのは困難だ。だから、どんな選択を選んだとしても俺は、皆のことを支持するよ。……どうか、悔いの無い選択を」
     優希斗の呟きに見送られ、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    槌屋・透流(ミョルニール・d06177)
    狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)
    シグマ・コード(デイドリーム・d18226)
    獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)
    有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751)
    荒谷・耀(一耀・d31795)

    ■リプレイ

    ●其々の想い
    「名古屋で新たな密室、か。しかもその中にシャドウ。……ただ、潰すだけですね」
    「そうですね……」
     有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751)の呟きに、荒谷・耀(一耀・d31795)が生返事を返す。
    (「……ああ、またろくでもない事を企んで」)
     かつて、自らの大切な『人』が『死』によって自分たちの心に残した『生』の尊厳。
     それを容易く踏みにじった六六六人衆。
     人の命を冒涜する行為を平然と行う彼らの存在を意識するだけで、胸の内に荒れ狂う激しい感情は消しようがない。
    「有城、荒谷?」
     2人の思いつめた気配を感じ取り、槌屋・透流(ミョルニール・d06177)が声を掛けた。
    「大丈夫っすよ、槌屋っち。荒谷っちと有城君なら」
     雄哉と耀のことをよく知る獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)が返事を返す。
     ここが名古屋である以上、彼らが『あの時』のことを意識してしまうのは仕方ないことだと思う。
     だからと言って立ててきた作戦に支障が出るような行為はしない。
     それは、幾度も戦場を共にした『戦友』であるが故の信頼であろう。
    「レイ、お前とこうして戦場を共にできること、嬉しく思う」
    「そうだな。改めてよろしく頼む、摩耶」
     神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)の呟きに、レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)が軽く頷いた。
     あの時、レイを救えなければ、こうして肩を並べて共に戦えることもなかった。
    (「シャドウと六六六人衆が協力、か。思えばウツロギさんの突然の闇堕ちの時もシャドウが絡んでいたのかねぇ」)
     一般人をどの部屋に避難させるかを検分する狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)の脳裏にそんな考えがふと過る。
     もし今の状況でアツシが存命であれば、どんな手を打ってきただろうか。
    「六六六人衆と手を組んでまたひと騒動起こそうってか」
    (「さて、あいつは俺達が乱入したらどういう表情になるのかねぇ」)
     思案気な刑に問いかけつつ、かつて一度対峙したことのあるシャドウを思い出しながら、シグマ・コード(デイドリーム・d18226)が口元に楽しそうな笑みを浮かべた。
    「行くか」
    「そうっすね、シグマっち」
     シグマの促しに天摩が頷き、目の前の扉を押し開け一斉に部屋に向かって飛び込んだ。

    ●宴の始まり
    「これより宴を開始する。解体されるのは……アンタだがな」
     呟きと共に、スレイヤーカードとカズミを解放した刑の声。
     その声に部屋の最奥部へと少女達を追い詰めていた2体のダークネスがこちらを振り向く。
     一人はシルクハットを被り、執事服に身を包んだ礼儀正しそうに見える青年。
     その口元に浮かぶ邪笑は、到底人が浮かべられるものではないが。
     そしてもう一人が……。
    『おやぁ? まさか、ここまで入ってくる騎兵隊の方々がいらっしゃるとはねぇ』
    「ども騎兵隊っす。呼んだ?」
     サーカスに出てくる道化師の様な姿をした人型のシャドウに天摩が軽く手を振って応じた。
    「ディエースって名前だったんだな」
     余裕のありそうな言葉とは裏腹に、その表情に以前とは異なるものが浮かんでいるのに気が付き、シグマが愉快そうに笑いながら、Memento moriと名付けられた古代の有名な詩、Carpe diemをベルトに写本した魔導書から怪しげな輝きを発する炎を放ち、奇術師とディエースを焼き払った。
    「デスギガスを召喚する為の儀式か何かの為に出てきたのか? あいつも大変だな。強力過ぎて現実に現れるのにも一苦労だろ」
    『さぁ、何のことでしょうか?』
     シグマとディエースの問答の間に奇術師がシルクハットを帯状に展開、全身に巻き付かせながらその攻撃を受け止め、ディエースは僅かに体を傾けることで、炎による被害を最小限に抑えている。
    「まさか、ここが突き止められるとは……。貴様たち、どうやって……?!」
    「さぁ? 死んで」
     奇術師に冷たく言い放ち、耀が不正を許さぬ鋼の様に硬い光の刃……『弾劾剣・凰』を大上段から振り下ろす。
     咄嗟に防御する奇術師にちっ、と舌打ちを一つ。
    (「荒れてはダメ……怒りも、憎しみも、全部……殺すだけの意思に、変えるの」)
     そう自らに言い聞かせ、吹き出しかねない感情の全てを奇術師への殺意へと変貌させていく耀に、床に転がされていた少女たちが怯えた様にひっ、と小さな悲鳴を上げた。
    (「……惨いな」)
     耀を気遣う様にちらりと見た透流が床に転がされている少女たちの状態を確認して、優希斗の言葉の意味を悟り、眉を顰めた。
     両手両足に錠をされ、足の腱を切られているのだ。
     恐らく、奇術師の趣味であろう。
    (「自主避難を促すのは無理だな」)
     レイがそう悟り、踵を返してディエース達を見つめる。
    「神崎センパイ、そっちは任せるっす!」
    「任せておけ」
     奇術師に向けては、天摩が光る数列のエネルギー障壁を、ディエースには摩耶が左甲のコイン状の光の盾から光を放出し叩きつける。
    「全く……貴方方はいつも大事な時に現れますねぇ……」
     摩耶の放ったシールドバッシュに道化師が顔を歪ませた。
     一方、奇術師の方は次の一手についてを思案する表情だ。
    「天摩、加勢しよう」
    「任せるっす、レイっち!」
     天摩と入れ替わると同時にレイがシールドバッシュを奇術師へ。
    「くっ……この……!」
     奇術師の呻きを無視して、刑が4人いる一般人の内2人を怪力無双で抱き上げ、透流もまた、残った2人を抱えて隣室へと退避させるべく背を向ける。
     そうはさせぬ、とばかりにディエースが刑の背に向けて影を放ち、その身を食らおうとさせるが、ミドガルドがその場に割り込み攻撃を受け止めていた。
    「邪魔はさせない」
     雄哉が鋼鉄化させた拳を奇術師に向けて叩きつける。
     拳を通して感じた手応えが心地よく、自分の中の闘争衝動を強く刺激してくる。
    (「くっ……!」)
     歯を食いしばり堪える雄哉の横をカズミが駆け抜け、素顔を晒して奇術師を僅かに怯ませた。
    「もうここにいる必要ないんじゃない? やるならとことんやるけど心中する気ある?」
     摩耶達の攻撃によって生まれた隙をついて、透流達が一般人を避難させたのを確認しながら、天摩がディエースに向けてからかう様に声をかける。
     それに対しては、クツクツとディエースが笑った。
    『中々面白いことをおっしゃる御仁ですな。まあ、此処は奇術師殿の家。家主を置いて逃げるのは、流石に義に背きます。あの子たちのことは食後のデザートとでも考えさせて頂きますよ』
    「ハハッ。まさかアンタから義に背くなんて言葉が聞けるとは思わなかったぜ」
     ディエースの言葉に、シグマが笑いながら不安定ながらも異形の手を象る影を放ち、奇術師を締め上げていく。
    『こう見えても義理堅いのですよ、私はね』
     ディエースが無数の異形の影を生み出しシグマに放つが、摩耶が割込み光の盾で受け止めた。

    ●流れは決して止まることなく
     ――戦いが始まって、2分が経つ頃。
    「とっとと殺るか」
     隣室へと少女達を避難させて透流と共に戻ってきた刑が、軽く呟き、自らの体を手裏剣の様にして、ミドガルド、カズミと共に奇術師に向けて体当たりを敢行。
     衝撃に仰け反りながら奇術師が、解いたシルクハットをレイに向けて放つ。
    「させるか」
     摩耶がレイの前に立ち、その身を持って攻撃を受け止めた。
    「そこか」
    「さて、胸糞悪い殺し屋さんとはここからがショータイムっすね」
     摩耶の影から飛び出したレイがチェーンソー剣で奇術師をズタズタに斬り裂き、天摩がそれに連携してOath of Thorns……此処名古屋で手に入れた悔恨と罪、そしてそれを背負って前に進む決意を込めて名付けたその靴に星々の力を纏わせ、回し蹴り。
     耀が脳髄に叩きこまれた蹴りに体の動きを鈍らせている奇術師を叢雲で死角から斬り裂く。
     容赦なく急所を抉り取られた奇術師が傷の痛みに喘ぎながら微笑む。
    「この殺気……お客様は私達の同胞にでもなりたいのですかな?」
    「黙れ」
     奇術師を耀が唾棄すべき輩のように蔑んだ眼差しで見つめている。
     ――こいつらは、ルナ先輩の生きた証を踏み躙った奴らだ。
     そんな相手にくれてやる慈悲などない。
    『余所見はいけませんよ、お嬢さん?』
     ディエースが無数の影を生み出し、耀に連撃を叩きつける。
     天摩が代わりにその攻撃を受けるが、衝撃で右肩の骨が軋む嫌な音が室内に響いた。
     天摩をラビリンスアーマーで癒しながら僅かに目を細める透流。
     耀がどうしてそれほどまでの憎悪を抱いているのか、詳しい事情は聞いていない。
     自分を救ってくれたことには感謝の言葉もないが、それだけに無理をし過ぎていないかが心配になる。
     そしてその心配は、まるで何かを堪えるように唇を嚙み締めながら奇術師へと殲術執刀法を浴びせる雄哉や、鎖状に編み込み、左腕に纏わせた影を刃に変じさせて奇術師を斬り裂く刑に対しても同様だ。
     ――特に……。
    (「狂舞先輩は、闇堕ちからまだ帰って来たばかり。カズミの動きも精彩を欠いているようだしな」)
     刑達は、透流が闇堕ちした戦いに同道している。
     その折にはビハインドは持たず、自らの力のみで戦っていたから、連携に乱れが生じてしまうのも仕方ないのかも知れないが。
    「くぅ……やってくれますね、灼滅者……!」
     容赦のない連撃を受け苦痛に顔を歪める奇術師が、上空へとシルクハットを投げ出し、パチン、と指を一つ鳴らす。
     シルクハットから無数の帯が飛び出し、後衛にいる透流達を斬り裂こうとする。
    「やらせないさ」
     摩耶が透流を庇いながら、その手に影を纏わせて奇術師に叩きつけた。
    「何処まで私に攻撃を集中させるつもりですか……?!」
    「私は、お前達のやり口が大嫌いでな」
     摩耶の呟きと同時に放たれたトラウナックルに合わせて雄哉が鋼鉄拳で追撃。
    『奇術師殿。そう簡単に倒れられては困りますよ』
     小さく詠唱を行うディエースをシグマが牽制すべくゲシュタルトバスター。
     炎に道化の衣装を焼かれながらも契約を完成させたディエースから放たれた光が、奇術師の傷を癒していく。
    「確かに見事な技っすね」 
     分断されながらも意外に鋭い連携を見せるディエース達に天摩が感心しながら奇術師の懐に飛び込み、トリニティダークカスタムの引金を引き、奇術師の急所を射抜いた。
    「残念ながらキミと共存できそうにはないけれど、戦いの中だけでならわかりえる部分もあるかもね」
     ――それは、同じ『戦場』に立つ者としての宿命だろうか。
     天摩に連携して殲術執刀法で奇術師を斬り裂く雄哉。
     ミドガルドが弾幕を張り、奇術師を牽制するのに合わせてレイがジャッジメントレイでその身を射抜く。
    (「シャドウと密室殺人鬼が協力するとはね……」)
     正直、ある意味一番厄介な状況ではないだろうか。
     特に六六六人衆は現在、アンブレイカブルとも手を組んでいる。
     そこに強大なデスギガス勢力も加わる現在の状況は、はっきり言って危険だ。
     ――それなのに。
     そんな危険な状況も興味深い、と心の何処かで思ってしまっている自分に気が付き、レイは微苦笑を零した。
    「さっさと死んで」
     ディエースの回復に鬱陶しさを覚えながら耀が叢雲で奇術師の魂を袈裟懸けに斬り裂く。
    「私にどんな怨みがあるというのですか、貴女は?!」
    「さぁ?」
     取り付く島もない耀に舌打ちしながら奇術師が鋭い殺気を摩耶達前衛へと叩きつけた。
    「カズミ……!」
     自らを庇い消滅したカズミの姿に呻きながら刑が殺影器『偏務石』を影の刃に変じさせて奇術師を斬り裂く。
    「消えてもらうぜ、奇術師!」
     刑の刃に連携する様に、シグマが奇術師の死角から飛び出しティアーズリッパ―。
     レイがズタズタラッシュで逆袈裟に斬り裂き奇術師の神経を麻痺させ、摩耶がすかさず左甲のコイン状のシールドから光を放出させ、強烈な痛打を叩きつけた。
    「ぶち抜く」
     回復よりも奇術師を攻撃した方が決着が早くつくと判断した透流が、ダイダロスベルトの帯を射出しその身を締め上げ。
    「今回は……!」
     負傷を蓄積させつつも、まだ暴発していないけれどもいつ暴走してもおかしくない闘争衝動に抗いながら雄哉が鋼鉄拳を叩きつけ。
    「有城君、任せるっす!」
     天摩がOath of Thornsで星の力を纏った膝蹴りを叩きこみ。
     ミドガルドが体当たりを敢行し。
    「これで終わりにしようか」
     レイが騒音刃でその身を斬り裂いた。
    「くっ……くぅ、この私が……」
    「死ね」
     奇術師の呻きに動ずることなく。
     狙い過たず耀が弾劾剣・凰で胴と腰を泣き別れにした。
    「ディエース様……お逃げ……」
     その言葉を最期に。
     2つに斬り裂かれた奇術師が光となって消えた。

    ●夜明けの来ない夜は続いて
    『フム……奇術師殿がやられましたか』
     ライオン型の影を放ち、その背後から耀を倒そうとしたディエースだったが、ミドガルドがその正面に立ちはだかり、消滅したのを見て溜息を一つ。
    「さて……どうする、ディエース?」
     多彩な攻撃を繰り出し、ディエースと奇術師の攻撃を攪乱しこの戦いに貢献したシグマがディエースに問いかける。
    「オレ達は、アンタを追うつもりはない」
     僅かに逡巡する様子のディエースに刑が軽くそう声を掛けた。
    『なるほど。それでは……今回はここで幕引き、と行きましょうか。貴方方が来るのが分かっていたら、もう少し戦えるだけの準備をしていたのですがね』
    「今後は密室内でも僕らは介入できる。覚えておけ」
    「次はないと思っておくっすよ」
     雄哉と天摩の言葉に、ディエースが優雅に一礼した。
    『覚えておきましょう。それでは騎兵隊の皆さん、ご機嫌よう』
     摩耶達への警戒を怠らぬままに、ディエースはまるで舞台の俳優の様に優雅な足取りでその場を退出。
     その様子を見ながら、レイがふぅ、と一つ息をついた。
    「出来ることなら両方とも灼滅したかったがな。まあ、奴の方は次のお楽しみにとっておこうか」
    「奴等のことだ。このまま戦い続ければ、私達はともかく、あの子達の所に向かい、巻き添えにするのも躊躇わなかっただろう」
     心配していた刑達が無事だったことに安堵から微笑を零した透流が答え少女達を避難させていた隣室へとシグマ達を導く。
     震える少女達の傍らに跪き、彼女達の傷を癒し始める透流を見つつ雄哉がそっと呟いた。
    「怖かったよね……もう大丈夫」
     堪え切れなくなったか、わっ、と泣き出す少女たちの姿を見ながら雄哉は思う。
    (「エンドレス・ノットが関わっているとしたら……早く見つけないと」)
     耀がそっと暗闇を連想させる天井を仰いだ。

     ――月の沈んだ夜は、まだ明けない。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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