死の幻がさまよう館

    作者:六堂ぱるな

    ●悪夢との邂逅
     陽光が窓から差し込む洋室で、ソファにもたれ彼女は眠っていた。
     かっちりとしたスーツの襟元には緩みもなく、眠るのに適しているとはいえない。事実、苦しげな表情からすれば、悪い夢を見ているのだろう。
     その周りに不意に黒い靄がかかった。女性の顔を覆うほどになった瞬間、内側から吹き散らされる。靄の中から飛び出してきたのは小学生ぐらいの子供だった。シャツにショートパンツ、ベストの彼が体操の着地でも決めるように両手を広げて床に降り立つ。
    「お上手です」
     少年が振り返ると、ソファから身を起した女が微笑んでいた。
    「ようこそ、我が密室へ。お待ちしておりました」
    「ねえ、外に出ちゃいけないってほんと?」
    「密室の中なら灼滅者にもわかりません。少しの間ご辛抱下さい」
     口を尖らせてぺたりと窓にはりつく少年を、女は柔らかな笑みを浮かべてなだめた。
    「そのかわり私がおもてなし致します。遊び友達も何人かご用意しました。それとも召使におやつを持ってこさせましょうか?」
    「おやつ!」
     少年と手をつなぎ、女が嬉しげに絨毯の上を歩きだす。
     女を見上げた少年が陰惨な笑みを浮かべたのは、誰も見ていなかったのだろう――。
     
    ●死の巣窟
     コルネリウスとオルフェウス、二人のシャドウと灼滅者の間で話し合いがもたれてまもなく。埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)は資料を整えながら肩をすくめた。
    「あれだけ手を焼かされた密室が、シャドウを迎えただけでまる見えとはな」
     大将軍アガメムノンと六六六人衆のエンドレス・ノットによる作戦であり、密室内に予知は及ばないので完璧に思われた。だがシャドウに対する予知はリベレイターにより、サイキックアブソーバーが把握できる範囲を超えてエクスブレインにもたらされる。
    「またとない機会だ。可能なら両者を撃破してくれ」

     場所は名古屋近郊、海が近い大きな洋館。三階建てでかなりの広さがある。シャドウを数十体は迎え入れるためだろう。
     支配者である密室殺人鬼は篠原と名乗っている三十歳ほどの女だ。密室能力を優先したせいかダークネスにしてはいささか弱い。そのかわり、シャドウは強大な力を持っている。
    「そして問題なのが、この密室内には退屈しのぎとして子供が二人、成人男女二人の計四人が閉じ込められている点だ」
     いざ灼滅者たちが踏み込めば彼らが盾として使われるのは間違いないので、何らかの対応が必要となるだろう。
     篠原は一日のほとんどを玄関からすぐのリビングで過ごす。一般人たちも大抵リビングにいて、食事時になると大人二人は食事の支度をさせられるようだ。シャドウは時折二人の男の子を追い回し、怯えさせて遊んでいる。
    「従って、両者が揃っている時間か、篠原しかいない時間帯。どちらか決めてくれれば襲撃によい時間を指示させてもらう」
     どうも篠原は子供に何らかの執着があるらしく、ゆうくんと名乗るシャドウを守るため我が身を省みない戦い方をする。もちろんシャドウは篠原を利用する気満々だ。
    「正直なところ、二体ともに灼滅を狙うにはそれなりの作戦が必要だ。どちらかと言えば後々補足が困難になる密室殺人鬼を優先して、灼滅して貰いたい」
     篠原は殺人鬼と日本刀のサイキック、ゆうくんはシャドウハンターと怪談蝋燭のサイキックを使って対抗してくるだろう。
     眼鏡のブリッジを押し上げて資料を見返し、玄乃は渋面になった。
    「どうあれダークネスが二体、楽な話ではない。くれぐれも気をつけて事にあたり、無事戻ってきてくれ。私に言えることはそれだけだ」


    参加者
    陽瀬・瑛多(高校生ファイアブラッド・d00760)
    万事・錠(ハートロッカー・d01615)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    辻凪・示天(彼方の深淵・d31404)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    貴夏・葉月(紫縁は勝利と希望の月華のイヴ・d34472)

    ■リプレイ

    ●悪夢と死の協定
     ひとたび形成されれば察知は至難、それが密室殺人鬼の作る『密室』だ。本来エクスブレインの予知の及ばぬ危険な能力、なのだが、シャドウがいるだけで筒抜けとは。
     複雑な心境のエリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)である。
    「まぁ厄介な敵を片付けるチャンスだと思いましょう」
     物陰を伝って洋館へ近づく彼女に続き、事態を痛感した平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)が唸るような声をあげた。
    「まだ名古屋にこんな密室があったとは。……まさかとは思うが、今横浜でやってるアレとは別案件、だよな?」
    「さあなァ、俺は一参加者だったし、そこらへんの関連はわかんねェんだよな」
    「暗殺武闘大会の一参加者ってすげえパワーワードだな」
     まさに横浜で行われた暗殺予選で闇堕ちから戻った万事・錠(ハートロッカー・d01615)が首をひねる横で、彼を連れ戻した一人である一・葉(デッドロック・d02409)が無表情に呟く。
     密室殺人鬼とシャドウ、どちらも人間に対して大いに有害だ。
    「ただでさえ両方とも厄介だってのに、文字通り悪夢のコラボレーションとか洒落にならん。……だが、宍戸ならやりそうだ。くそ、想像するだけで気が重いぜ……」
     頭を抱えかねない和守を気の毒げに眺めて、エリノアも思わず嘆息する。
    「……しかし、こうも露骨に両者が組んでると、やっぱり暗殺武闘大会はデスギガス招来目的、なんでしょうね。仮説が証明されて喜ぶべきか、気が重いと嘆くべきか」
     宍戸め、本当に碌でもないと唸るエリノアに並び、貴夏・葉月(紫縁は勝利と希望の月華のイヴ・d34472)が洋館の様子を窺うように顔を出した。目隠しで視覚を遮られた彼女は他の感覚が鋭い。
    「密室殺人鬼は確実に仕留めましょう。シャドウは最悪逃がすのもやむなしです」
    「ま、すぐに再起できねぇぐらいボコっときたいもんだね」
    「深追いは禁物だけどな」
     頷いた葉と錠が洋館の玄関ポーチへ駆ける。予知のとおりなら密室殺人鬼はリビングで窓に背を向けている。密室の主ゆえの油断だと言えるだろう。
    「しかし『退屈しのぎとして計四人が閉じ込められている』か。まさに今更な話だがあまり崇高な人格はしていないな」
     玄関へ向かって走りながら辻凪・示天(彼方の深淵・d31404)はしみじみと首を振った。灼滅者にもわかりやすい精神レベルの低さを感じる。
    「或いは桁が違いすぎて、俺の理解が追い付かないだけかも知れんが」
     そう言う彼もまた目を――否、仮面で顔の上半分を隠している。
    「暇潰しなら殺され難いとは思うが、問題は一般人は道具では無い事だ」
     片倉・純也(ソウク・d16862)にとって、懸念は拭い難いものだった。道具でないのなら居ても居なくてもいい。いつでも処分されかねない。業を嗅ぎとる彼の鼻は、惨たらしい業を重ねたものが付近にひとりだと教えてくれる。
     最後尾として身軽に駆けてきた陽瀬・瑛多(高校生ファイアブラッド・d00760)が玄関ポーチに到着した。和守が指定の時間どおりに玄関扉を外す。

    ●死の手を穿て
     リビングの扉を蹴破って侵入してきた者たちに、篠原は咄嗟に反応できなかった。
     攫ってきた一般人二人から目を離した瞬間のことだ。
    「灼滅者?!」
     ありえない。ここは私の密室で。
    「叫べ、手を伸ばせ。癒し繋ぎ希望を与える者、ここに降臨!」
     篠原がソファから立ちあがった一瞬、葉月が自身の封印を解除し、同じく封印を解いた和守が相棒のヒトマルと突進した。軋む駆動音を立てて加速、頭部から爪先まで迷彩柄の装甲を纏った『キャプテンOD』が接敵、戦術剪子で切り裂きながら吹き飛ばす。
     続くヒトマルの突撃でよろけた篠原の、懐に飛び込んだ錠がにやりと笑った。
    「お邪魔してンぜ!」
     蠍の毒針が轟音をたてて女の腹を貫くや、背面へ回った葉の『Unknown』は紅い螺旋の残像を描いて脇腹を抉る。
    「よお、灼滅の配達だ」
    「何故ここが……!」
     歯を食いしばった篠原の全身から濁った殺気が噴き出し、前衛たちを蝕んだ。
    「我のストレス解消に付き合え。貴様のする事はそれだけで良い」
     葉月が仲間へかける言葉からは想像し難いほど激しい宣戦布告をする。充分距離を稼げていることを確認した純也は、竦み上がった一般人の男女を振り返った。
    「救助に来た。これより障害の排除を開始する為、壁沿いに後退し待機を要請する」
     二人は顔を見合わせ、一拍おいてじりじりと退った。途端に葉月から巻き起った柔らかな風にあてられて昏倒する。それを視界の端に収め、純也はギターを掻き鳴らして音波を篠原へ叩きつけた。
     確かにこの女はナンバー持ちに数歩劣るようだと示天は考えていた。命中予想からしても明らかだが、危険は相応に存在する。攻撃力を削ぎ被害を抑えてリスクを減らそう。
     得物の鞘を払った篠原に肉迫した示天の日本刀が、上段から真っ向斬り下ろしを見舞った。耳障りな音とともに篠原の刀の刃が毀れる。
     渦をまく殺気からヒトマルに庇われたエリノアは跳び退る女を追って槍を疾らせた。この女を一般人から離さなくてはならない。渾身の刺突が女を一般人のいる側と反対側の壁に激突させた。
     すかさず瑛多が縛霊手で殴りつけ、起動した網状結界で動きを縛める。自由に動かせはしない――戦いの終わりまで。
    「菫、貴様は我が盾だ」
     葉月の掲げた『想薔薇』が黒い焔華を揺らめかせた。前衛たちを黒い煙が包み込み、気配を消しながら傷を癒していく。その間に彼女のビハインドの菫さんが滑るように距離を詰めて槍の一撃を喰らわせた。

    ●死の手は朽ちて
     予知によればシャドウ不在の時間は10分そこそこ。長期戦は望ましくない。しかし己の密室を突きとめられたとあって、篠原はかなり粘った。
    「あいつらなの、あいつらのせいで来たの?!」
     激昂する瞳が壁際で眠りに落ちた男女を捉える。
    「其方の灼滅を以て彼らの帰還を手伝って貰う。装い通り仕事をこなされても困る」
     彼らを殺しに行きそうな篠原に、和守へダイダロスベルトを滑らせ、盾の加護をかけながら純也が几帳面に応じた。誘導で攻撃を引き受けている和守の怪我は相当嵩んでいる。
    「たかが三、四人の人間のために邪魔をしにきたの?!」
    「数の問題ではないな」
     示天が足の腱を狙った斬撃を繰り出し、絨毯を走ったウィールが炎を噴き上げると瑛多が鮮やかな回し蹴りを放った。息を詰まらせた篠原に、ノイズ混じりのサイキックエナジーを刀身とした『1/f noise』で斬りかかりながら葉が応じる。
    「べつに人助けがしたくて灼滅者やってるわけじゃねぇ。ただそう生まれついたってだけで意味なんかねぇさ。アンタを殺すことにも、な」
     太陽と月と櫻が刻みつけられた金の指輪を掲げて葉月が和守の傷を癒す。しかし傷が嵩んでいくらも治らない。吹き飛んだ菫さんの復活までまだかかる――。
    「ああ、ゆうくんのご飯の時間になってしまうわ」
     シャドウも食事をするらしい。本体は異形でも人化しているうちは生物の範疇ということか。思いを巡らす示天の前で、篠原と葉が鍔迫り合った。
    「早く死んでちょうだい! 水を差されては余計食が細くなってしまうわ!」
    「あのシャドウもどうせガキに擬態してるだけだろ」
    「やめて!!」
     まとめていた髪を振り乱し、篠原が叫んだ。
    「きっと好きなものが足りないんだわ、ハンバーグにナポリタンにフライドポテト、ああ、もっと、もっと用意しなきゃ!」
     女の手にした刀が翻り、下段からの切りあげが衝撃波を生みだし灼滅者を襲う。ここまで粘ったヒトマルが吹き飛び、葉を庇った和守が唇を噛んだ。痛みを堪えて『Bayonet Type-64』を手に立ちあがる。

     精神の平衡を崩すダークネスは珍しくない。
     シャドウに心の急所を突かれた彼女は、幻に囚われ、縋りついている。
     そのための食事、ままごとのように人の生活をなぞって。

     破邪の光が放たれ、和守の斬撃は篠原の胸から腹を深く裂いた。苦鳴を漏らす彼女へ十字架を操り叩きつけながら、純也が問いかける。
    「何度も悪夢を観る事になると知って引き受けたのか。其方個人としては何の為になる。利点を見出せない」
    「どれだけ見ても構わないわ。あの子が帰ってきてくれたんですもの」
     それは現実を見ていない、愚かな、狂ったありさまだったが。
     でも確かに母の在りようで。何かを重ね見た錠は、思わず呟いていた。
    「……あの性悪そうなシャドウが、アンタみたいな綺麗で真っ直ぐな女のガキなワケねェだろ」
     途端、篠原の動きが止まった。愕然とした表情の篠原が、錠へ掴みかかるように迫る。今まで以上に鋭い太刀筋に笑ってしまうのは、殺人鬼という性ゆえか。
    「行くぜ葉!」
    「ちっとばかし早いが、俺からのクリスマスプレゼントだ。ありがたく貰っとけ」
     錠が逆十字の如き『St. PETER』を篠原の腹に深々と突きたて、骨すらすり潰す拳の連撃を葉が食らわせる。彼女の足が止まった時、純也が警告の声をあげた。
    「先達各位、シャドウが接近中だ!」
     業の主がやってくる。廊下をゆっくりと近づいてくる――。
    「済ませるわ」
     エリノアの肩でバベルブレイカーが駆動する。ジェット噴射で一気に距離を詰め、篠原の懐へ飛び込んだエリノアは引鉄を引いた。
     どれほど我が子を愛そうと、失った嘆きに心引き裂かれたのだろうと。
     今や息をするように人を殺す種であり、我が子以外にひとかけらの情もない咎人で。
    「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
     打ち出された杭はバベルの鎖がどこよりも薄い死の中心点――心臓を貫いた。
     彼女を蝕んだ氷の呪いが全身を侵し尽くしたように青ざめ、スーツの色すら染めて結晶化するとひび割れる。床に落ちるとガラスが割れるような音をたて、粉々になっていった。

     息を弾ませた純也が仲間に目だけで、廊下に出る最寄りの扉を示す。
     それを待っていたように扉が開いた。

    ●残された悪意
     楽しそうな笑顔だけを見れば子供に見える。けれど右手に小さなランプを提げ、左手にはぐったりした子供を軽々と引きずっている。
    「ママ死んじゃった?」
    「とっとと正体現せよクソヤロー」
     葉が『Unknown』を構えると同時、葉月の足元から黒い花びらが舞った。HOPE OF GOD【EVE EDENA】の影の狼が床を這うように、不死鳥が宙を駆け挟撃で襲いかかる。
    「あれー、いいの? ぼくには盾があるんだけど?」
    「貴様は愚か者か。盾は破壊してしまえばもう盾ではなかろう?」
     どっちへ子供を放ろうかと笑うシャドウへ、葉月は平然と切り返した。
     人に死んで欲しいわけではない。けれど影がシャドウに迫った現状、子供を避けるのは困難だ。影の陰から死角へ回りこんだ葉も眉ひとつ動かさず斬りこむ。
    「迷う余地もねぇよ。テメェらは灼滅だ」
    「いいね、そういうの」
     嘲笑するシャドウが葉の赤錆びた槍筋へ子供を残し、葉月の影に背を裂かせながら強引に跳び退る。無防備に放りだされた子供に刃が迫った、一瞬。
     体当たりをするように和守が身体を捻じ込み子供を受け止めた。
     待っていたようにシャドウが手にするランプから炎が迸る。そばまで来ていた純也へ子供を託した和守は、為す術なく身を焼かれた。
    「ぐっ、う!」
     紫煙を纏って繰り出す和守の戦術剪子を軽々とかわし、『ゆうくん』が肩を竦める。
    「遊びはおしまい……やれ、付き合いにも疲れるのう」
    「篠原が死ぬのを待ってやがったな!」
     咆哮する錠が叩きつけた回転する杭に体を裂かれ、シャドウは唇を尖らせた。
     傷を負った自分たちと無傷の敵、およそ戦いにはならない。リビングの奥まで入ろうとするシャドウの前に立ち塞がり、掴みかかる影を切り払いながら示天は考えていた。
     灼滅者を全員殺そうとしている? 一般人を手にかける? どちらもありえる。
     同じことを考えていたエリノアの放つ螺旋を描く刺突がまともに突き刺さった。『ゆうくん』の体から血がしぶき、示天も上段に構えた刀で斬りかかる。ざらりとした手ごたえを感じながら斬り下ろし、ふらついたシャドウを頭から瑛多が叩き伏せた。
     炎に包まれた装甲の熱で皮膚が焼け始め、和守が顔をしかめる。それでも守りたいものの為に戦うと選んだのだ。
    「熱心に人命救助かね、若いの」
    「人を殺すのも助けるのも、成り行きだ成り行き」
    「その割に、彼は頑張っとるのう」
     葉の斬撃で喉をぱくりと裂かれながらシャドウが純也を指す。
     絨毯から浸み出るような影に掴みかかられ、子供を抱えたままからくも避けていた。その脚を取られ、動きが止まったところへ青い炎の群れが襲いかかる。
    「させん!」
     飛び込んだ和守が身代わりに直撃を受けた。青い炎が形づくる醜い小鬼が次々とぶつかり、和守は意識を失った。重々しい響きを立てて鎧が倒れ伏す。
    「平! この性悪ショタもどきが!!」
     怒りの叫びをあげた錠の影が小さな体に絡みついた。狙いをつけた示天が指輪から魔力弾を撃ち放つ。眉間を打ち抜かれたシャドウが不意に大きく後ろへ跳び退ると、そのまま廊下へぽんと出た。

    ●悪夢の退館
     無造作に影を引き剥がし、苛立ったように嘆息する。
    「全く冗談ではないわ、絶対割り出せんという話だから来たものを。客のワシが怪我をさせられるわ、見つかったと知らせに行かなくてはならん」
     まだ余裕はある一方で、シャドウは少しも油断していなかった。
     灼滅者を追い詰める危険、闇堕ちのリスクは承知している。灼滅者の誰かが倒れ、自分を追えなくなればそれでいい。
    「ではな。養生せいよ、小僧ども」
     投げ捨てるように一言残し、『ゆうくん』は床を蹴った。廊下を駆け、ガラスの割れる音がする。この洋館を後にしたようだ。
     子供をしっかり抱えたまま、純也は長い息をついた。
     意識を奪った男女にはダークネスを近づけずに済み、三人はなんとか守りきった。二階を捜索に行ったエリノアが隠れて泣いていた子供を見つけ、一般人の完全保護に成功したのを確認したのはそれからまもなく。
     シャドウが仲間を連れてこないとも限らない。葉月が必要な治療を施し、いまだ意識の戻らぬ和守を示天が抱え、一行は素早く洋館から撤収した。

     もはや館に夢見るものはない。
     死を撒く夢も過去の幻も満ちることなく、静寂だけが館にさまよい続けるだろう。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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