悪夢からの紳士と密室の館

    作者:彩乃鳩


     広い豪邸の使用人室。
     そこのベッドで、メイドの姿をした六六六人衆がすやすやと寝息を立てていた。彼女はこの豪邸の主である密室殺人鬼であった。
    「……ううん」
     殺人鬼の悪夢。
     眠っている殺人鬼の周囲に黒いもやのようなものが現れ、そのもやを切り裂いて、シャドウが出現する。
    「久しぶりの現実世界は気分が良いな」
     豪奢な礼服に身を包んだシャドウが口笛を吹く。すると先程まで寝ていた六六六人衆が目を覚ました。
    「これはこれは、シャドウ様。お待ちしていました」
    「うむ。暫くの間、よろしく頼むよ。密室殺人鬼君」
     メイドの六六六人衆がお辞儀をすると、シャドウが手を軽く挙げて応じた。
     エンドレス・ノットから、現実世界に現れたシャドウたちを戦力として匿うように言われているので、六六六人衆はそれなりに対応する必要がある。必要以上にへりくだる必要はないが、失礼があってはだめだ。
    「で、暇つぶしは用意してくれてるのかね?」
     そらきた。
     だが、こういうシャドウの無茶ぶりにも六六六人衆は準備を怠っていなかった。抜かりはない。
    「はい、シャドウ様。暇つぶし用に、人間を何人か飼っておりますので。好きなように遊び殺してもらって結構です」
     六六六人衆のこともなげな返答。
     シャドウは愉快げに口元を歪ませた。
    「それはそれは……退屈せずに済みそうだ」


    「コルネリウスとオルフェウスから得られた情報もあり、シャドウ達が六六六人衆の協力を得て、現実世界で戦力を整えようとしている事がわかりました。その方法は、密室殺人鬼の見ている悪夢を通じて、密室殺人鬼の密室内に直接現れるという作戦です」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が、皆に説明を始める。大将軍アガメムノンは、友好関係にある六六六人衆の一人、エンドレス・ノットと連絡を取り、実体化したシャドウを、エンドレス・ノット配下の密室殺人鬼の密室の中に匿ってもらい、地上での戦力の増強を秘匿する作戦に出たのだ。
    「密室の内部については、エクスブレインも予知できないと六六六人衆側は考え、この作戦を実行したようですね。確かに、密室殺人鬼の密室の内部はエクスブレインの予知で感知する事は出来ず、この作戦が秘密裏に進行すれば、シャドウの大戦力が現実世界で大暴れという危険性もあったでしょう」
     しかし、それは、サイキック・リベレイターがシャドウに使われていなければの話だ。サイキック・リベレイターは、他のダークネス組織への予知が行えなくなる代わりに、対象とした組織に対しては、サイキックアブソーバーでは予知できないレベルまで予知が可能となる。
    「つまり、密室殺人鬼の密室にシャドウが現れれば、シャドウが現れた密室の場所を特定することが可能となったのです。シャドウと六六六人衆が同盟を組むという事態は、憂慮すべきことですが、逆に、現実世界に現れたシャドウと密室殺人鬼を灼滅するチャンスでもあります」
     可能ならば、シャドウと六六六人衆の両方、それが不可能ならば『捕捉が困難で厄介な存在である密室殺人鬼の灼滅』を狙って欲しいと姫子は言う。
    「今回の密室は、街中の豪邸です。最大で数十体のシャドウが、作戦開始時まで滞在できるくらいの広さで、今回の作戦のために新しく作ったもののようですね」
     密室内部にいるには、シャドウと六六六人衆。
     そして、捕らわれた一般人達。
    「この密室内の地下室には、十人程度の一般人が眠らされて拘束されています。密室殺人鬼が、シャドウの暇つぶし用にと捕まえた人達です」
     このままでは一般人達の命も危うい。
     問題の二体のダークネスは、特にシャドウの方は強敵だ。六六六人衆はシャドウを歓待するように命令を受けており、密室内を取り仕切っている。
    「現実世界に出てきたシャドウは強敵で油断は出来ません。密室殺人鬼は、戦闘力は高くありませんが厄介な力をもっているので、どちらか片方しか灼滅できない状況であれば、密室殺人鬼を狙うのが良いかもしれません。皆さん、どうかお気をつけて」


    参加者
    風華・彼方(中学生エクソシスト・d02968)
    咬山・千尋(夜を征く者・d07814)
    アレックス・ダークチェリー(ヒットマン紳士・d19526)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)

    ■リプレイ


    「素晴らしい豪邸だな。駅からのアクセスもいい。私が住んでみたいぐらいだ……」
     アレックス・ダークチェリー(ヒットマン紳士・d19526)は、密室となっている豪邸を眺めて感想をもらす。目の前の洋館は確かに、雰囲気があった。
    「まさか、密室殺人鬼とシャドウが結託するとはな」
     咬山・千尋(夜を征く者・d07814)が、難しい顔をする。意外な組み合わせが手を組んだものだ。だが、だからこそ今回のような事件を察知できたともいえる。
    「なんか、ちょっと抜けてるよね……アブソーバーのこと知らないとこんな感じなのか…… あ、もしかするともっと前から交渉はしてたのかな」
     風華・彼方(中学生エクソシスト・d02968)も、少し考え込む。今までの、そしてこれからの敵の動きも気になるところだ。
    「六六六人衆の密室が見つかったのは不幸中の幸いと考えたいけど、どちらかを選ばなければならないこの依頼は、ちょっときついですね。体がふたつあればいいのに」
     四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)としては、六六六人衆とシャドウの両方をどうにかしたい。ただ、それが難しいのも間違いない事実である。
    「ま、まずは密室殺人鬼からかな。厄介な能力持ちを先に倒そう」
     陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)の言葉に皆が頷く。
     今回の灼滅者達の第一目標は、六六六人衆。その後に一般人の保護という流れを想定していた。
    「では、まっすぐ密室殺人鬼の部屋へ移動ですの」
     黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)が音頭をとると、灼滅者達は館に突入を開始する。二階のシャドウに悟られないよう音を出さないようにし、静かに移動する。敵二体に合流されたら厄介だ。
    (「殺人鬼とシャドウが一緒に居たなら、ワザと小さな物音を立てて殺人鬼を誘い出すのを試みる必要があるかな」)
     注意深く周囲を観察しつつ、彼方は万一の事態を想定しておく。
     不気味なほど静まり返った館内は、侵入者達をどこか不安にさせる魔力じみたものが漂っている。
    「内装もすごいな。使用人室は……この先か」
     アンティークに統一された廊下を歩き、アレックス達は奥の部屋へと突き当たる。悠花が扉のノブに手をかけ、皆が瞬時に動けるように身構えた。
    「……行きます」
     細かく装飾された扉を一気に開く。
     使用人室には、机やクローゼット、それにベッド……の上で堂々と寝息を立てている六六六人衆。そんな光景が飛び込んでくる。
    「いい気なものだな」
    「……うが」
     千尋がサウンドシャッターを展開する。
     するとメイド姿のダークネスは、口元のよだれを拭いながらよろよろと起き出した。
    「うーん……何ですかー……侵入者? ワガママなお客さんの世話がひと段落して、せっかく気持ち良く寝ていたのにー」
    「大変だねー、シャドウの接待も。けどまあ、シャドウと関わったのが運の尽きってね」 
     寝惚けた相手に先制し。
     鳳花が縛霊撃で口火を切る。サーヴァントのウイングキャットも、主人と同じくディフェンダーの位置でリングを光らせた。
    「さぁ……断罪の時間ですの!」
     炎を纏った鎌の切っ先を殺人鬼に向け、白雛が高らかに宣言する。
     白と黒のレーヴァテインの炎が、ダークネスへと渦を巻き。世界を圧倒的な熱で満たす。
    「あつっ! 寝起きに、これって……嫌なモーニングコールですね……」
    「やあ、殺しに来たよ。」
     初手は黒死斬で足止め。
     アレックスはサングラスに手を当て、メイドに向かってニマァと笑いかける。
    「殺しにって……はー、シャドウの次は灼滅者のお相手ですか」
     六六六人衆が、スカートを翻し。
     長い刃渡りの凶器を両手に持つ。周囲に一気に、殺気が充満した。
    「残念、ちょっと運がなかったね。もう少しシャドウが現実に出てこれる理由を考えれれば良かったけど 密室殺人鬼が居なくなれば僕達も 君達の仲間を見つけ易くなるからね。その作戦は、ありがだいよ」
     彼方が彗星撃ちを放つ。
     彗星の如き強烈な威力を秘めた矢が降り注ぎ。敵はそれらを高速回避して、斬撃を見舞う機会をうかがう。
    (「騒ぎを起こすことで、シャドウが逃げちゃうかもだけど、目の前の命を守るために急ぎます」)
     悠花が棒術を駆使し、フォースブレイクを放つ。
     魔力のこもった突きが繰り出され、敵の内部に魔力を流し爆発させんと攻め続ける。
    「さて誠心誠意おもてなししましょうか――おもてなしの死で」
    「そうはさせない」
     六六六人衆の斬撃を。
     己が剣で受け止め、千尋はクルセイドスラッシュでカウンターを仕掛けた。破邪の白光を放つ強烈な剣戟が煌めく。
    「厄介な能力持ってるみたいだし、ここで対処させてもらうよ!」
    「対処できるものならしてごらんなさいーっ」
     流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴り。鳳花がスターゲイザーを炸裂させた。サーヴァントは肉球パンチや猫魔法を使って、主人に合わせる。
    「このまま押し切りますの!」
     白雛がグラインドファイアで攻め立てる。 
     己が炎を一つでも多く相手に付与し、ジャマ―として敵を追い詰めた。連携を意識した攻撃に、六六六人衆の体力は確実に削られる。
    「あー、お屋敷を隅々まで掃除したのにー……また、汚れるー。また掃除しないとー」
    「実に良い屋敷だね。私が貰い受けようか?」
    「べー。お断りしますー」
     胸元でバッテンをつくり、六六六人衆が舌を出す。
     そんな相手に、アレックスはティアーズリッパーで服破りを与える。高速の動きで敵の死角に回り込みながら、身を守るものごと斬り裂く。


    「これは……お客様にもお伝えしたほうが、いいですかね」
    「ふぅん、『お客様』に手伝って貰わないといけないぐらい弱いんだ」
    「む。そんなことありません!」
     戦いが激しくなるにつれ、六六六人衆が室外を気にするようになる。
     すかさず彼方が挑発すると、メイドはぷんぷんと憤慨した。
    「ただ、一応お知らせした方がいいかなと思っただけですー。いいですよ、先にあなた達を倒しちゃいますからっ」
     自分の方に攻撃が来る。
     それを察知した彼方が紙一重で、屈んで刃を躱した。
    (「場合によるとシャドウとも戦わなくちゃいけないかもなので、時間をかけるわけにはいきません」)
     目指すは出来る限りの短期決戦。
     悠花による炎を纏った打撃が唸る。クラッシャーとして攻撃の手は決して緩めない。
    (「とりあえず今回は密室の解放を狙うぜ」)
     クラッシャーの悠花とスナイパーのアレックスへの攻撃を優先的にカバーリング。ディフェンダーの千尋は、幾多の斬撃を切り払い。断斬鋏を回転させ、威嚇しながら戦う。
    「それ! それ!! それ!!! 死ね灼滅者!!!!」
    「敵の攻撃が激しくなってきたね。回復するよ」
     鳳花がダメージを受けた味方へと逐次祭霊光を使う。
     列攻撃が飛んできた場合には、天魔光臨陣を展開した。サーヴァントもヒールを行う。
    「負けませんわ」
     自身もシャウトで回復を行いつつ。
     ダークネスに対する敵愾心を露わに、白雛がスターゲイザーで足止めを続ける。
    「!」
    「おや、不意をつけたと思ったけど反応したか。なかなかやるね」
     スーツの内側からガンナイフを抜き、おもむろに発砲。
     アレックスが放った漆黒の弾丸が、標的をかすめる。殺気を感じた六六六人衆が咄嗟に回避行動を行ったのだ。次からはホーミングさせるかと、灼滅者は次の一手を考える。
    (「ディフェンダー陣にはシールドリングを、それ以外には癒しの矢だね」)
     メディックとして、彼方は回復の術を使い分け。
     味方の損害を出来る限り少なくし、攻防を支援し、戦線を支える。六六六人衆の怒涛の攻撃の火を、少しでも消火せんと努めた。
    「回復は基本仲間に頼りますが――」
     そうも言ってられない。
     悠花が自分自身もキュアを行う。行いつつも、一撃を狙い。手にした魔力のこもった棒をしならせて、敵へ叩きつける。
    「これを避けられるかな」
    「っ! これは……」
     足元の影から、千尋は蝙蝠の群れを生み出してけしかける。
     六六六人衆が顔をしかめ、その隙に灼滅者が生み出した影に呑み込まれる。トラウマになりそうな光景だ。
    「どんどん行くよ」
    「その通りですわ」
     息つく暇を与えず。
     仲間の攻撃に続き、鳳花がグラインドファイアを浴びせる。白雛は白と黒の炎を操り、纏わせて閃かせた。連撃に次ぐ連撃が、敵にプレッシャーをかけ続ける。
    「くっ」
    「おっと、そうはさせないよ」
     敵が殺気を放ちエンチャントを行わんとするとほぼ同時、アレックスが零距離格闘でブレイクする。鋭い奇声を発し、ガンナイフによる刺突とキックのコンビネーションを繰り出す。
    「うう、痛ててて」
    「……効いてる。このままいけば」
     六六六人衆に疲労の影が見え始める。
     好機を逃すまいと彼方も、マジックミサイルで追撃する。高純度に詠唱圧縮された魔法の矢が的を貫く。
    (「こちらの余力も、万全とは言えませんが――」)
     今は六六六人衆戦に集中。
     悠花が炎を帯びた渾身の打突をみせる。敵の持つ刃が砕け、勢いのある極炎がその身体を焼く。
    「ぐうううううう!!」
    「キミの負けが近いね」
     炎に巻かれた敵の悲鳴が響く。
     鳳花とサーヴァントが、ダメ押しするように息を合わせて攻勢をかけた。主従のダブルアタックに、六六六人衆が身体をくの字に曲げる。
    「この……このおおおおおおおお!!!」
     ダークネスが吼える。
     折れた剣を手に、誰もが怯むような殺気を乗せた一撃。それを――千尋が正面から受け止め、仲間を救う。
    「今のうちに――」
    「ああ。狙わせてもらう」
     盾となってくれた味方の影から、アレックスがホーミングバレットを早撃ちした。敵を自動的に狙う特殊な弾丸が、弾道を曲げて標的を撃ち抜く。
    「フィニッシュですわ!」
     白雛が攻撃を切り替える。
     ガイアパワーを宿したご当地キックが、ボロボロとなった敵を吹き飛ばし。声をあげる暇すら与えず、確実に相手を灼滅の運命へと導いた。


    「どこかに、鍵があるはずだ」
     千尋がサウンドシャッターを保持しながら、使用人室を物色する。ポケットや机の引き出し、クローゼット……あと怪しいのはベッドの枕元。
    「あった。多分、これが牢屋の鍵だぜ」
    「では、一般人の救出を優先して地下室へと行きましょう」
     白雛の言葉に従い、一行は人質が囚われている地下へと急ぐ。
     シャドウの攻撃を警戒しながら、悠花は先頭に立って目的地へと直行した。
    (「一般人の皆さん……生きていてください」)
     今はそう信じるしかない。
     地下室はまさしく中世の牢のような造りとなっており、一般人達が転がされて眠らされていた。灼滅者達は発見した鍵を作って扉を開け、いち早く鳳花が人質の一人に駆け寄る。
    「大丈夫かい?」
    「うう……ここは?」
    「詳しい説明をしている暇はなくてね。立てるようなら、誘導するから館の外に出て」
     一般人達に外傷の類はない。
     意識が朦朧としているせいか、こちらの指示にも素直に従ってくれる。消音をここでも行い、皆は避難と同時に撤退を行う。
    「急いで、全員を連れだそう。シャドウに見つかったら大変だからね」
     もしものときは、彼方は自分が敵を引きつける気でいた。
     もう一体のダークネスと連戦して、確実に勝てるといえるだけの戦力は残念ながら今の灼滅者達には望むべくもない。
    「……よし、もう残っている者はいないな」
     最後にアレックスが、地下室内をもう一度見回す。逃げ遅れた者がいないのを確認すると、真っ二つに切られたトランプのカード……ダイヤの札を現場に置いて立ち去った。
    (「ここでシャドウを逃がしてしまって、ほかで事件を起こしていたら、わたし達の責任です。その時は見つけ出し、絶対に滅ぼしてやります」)
     悠花が脱出した屋敷を振り返る。
     現か幻か。二階の窓には不明確な人影じみたものが浮かんでいて。討ち取れなかったシャドウが、自分達を見下ろしているかのように感じられた。

    作者:彩乃鳩 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月14日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
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