サンマVSマグロ

    作者:空白革命

    ●冷凍サンマ使いとマグロ使い
     既に廃校となって久しいとある中学校舎。
     その家庭科室のテーブルで、一人の少年が眠っていた。
     彼の頭上から上がるもや。
     大量のマグロの群れが泳ぎ回る悪夢――の中から、もやそのものを突き破ってマグロが飛び出してきた。
    「マグロォオオオ!」
    「サンマアアアアアアッ!」
     翻り、突撃しようとするマグロに対し冷凍サンマを突きつける少年。
     二人はぴたりと動きを止め、お互いをにらみ合った。
     もうおわかりだろうか!
     恐ろしきシャドウ、マグロドリーム。
     そんな彼を歓待すべく巨大な『密室』を生み出していた六六六人衆、サンマカッター。
     出会ってはいけない二人が、ついに出会った瞬間である……!
    「フ、ククク……!」
    「はは、あはははは!」
     二人は砕けたように笑う。
    「我はマグロドリーム。ついに我が大海を抜け、現の海へと泳ぎださん……この『海』は泳ぎ心地がよさそうだ。暫く好きにしてよいか」
    「俺はサンマカッター。ヘッ、構わないぜ。校舎まるごと密室にしたはいいが、持て余してたところさ」
     サンマカッターはニヒルに笑って、ジッポライターでサンマに火をつけた。
     葉巻きみたくサンマをくわえると、顎で廊下の外をさす。
    「泳ぎ回れマグロドリーム。この無限の海をよ」
     
    ●ニトロさんの気持ちってやつをよ!
    「わかってる、何も言うな!」
     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)は説明の途中でガッと振り返った。
    「とにかくこのように、シャドウ達が六六六人衆の力を借りて現実世界の戦力を整えようとしているらしい。それも、『密室殺人鬼』の夢をゲートにして密室内に直接現われるというやり方だ」
     これは先だって行なわれたコルネリウスと&オルフェウス会談での情報である。
    「このまま放置すればシャドウは密室内で戦力を蓄えてしまうだろう。言って殴ってぶちのめしてやろうぜ!」
     
     舞台は廃校となった中学校の校舎である。
     どうやら六六六人衆が今回の作戦のために新たに作った密室であるらしい。
    「ダークネスはシャドウと六六六人衆の二人だ。順番に説明していくぞ……」
     黒板に手書きの資料を貼り付けていくニトロ。
     マグロとサンマである。
    「まずはマグロドリーム。影やオーラのマグロを無限に生み出し武器とする恐ろしいシャドウだ。本隊の突撃はトラウマものだぞ。次にサンマカッター。冷凍サンマをナイフのように使う六六六人衆だ。見た目のわりに恐ろしく俊敏で激しく動き回る。二人は協力関係をとっているが、だからって友達同士ってわけじゃない。綿密な連携はしてこないだろう」
     最後に資料を束にして、机にドンと置いた。
    「現実世界に出たシャドウは強敵だ。どちらか片方、そして気合いと根性と知恵がはたらくなら、両方を灼滅したいところだな。皆のファイトが、全てだぜ!」


    参加者
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)
    西原・榮太郎(霧海の魚・d11375)
    十六恋・來依(静夜に響くもの・d21797)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)
    ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246)
    神無月・優(ラファエルの名と共に願は一つ・d36383)

    ■リプレイ

    ●サンマとマグロのレクイエム
    「シャドウと六六六人衆の連携ですか……」
     マフラーを指でひっぱって、西原・榮太郎(霧海の魚・d11375)は目元を暗くした。
    「片方だけでも手間だというのに、やってらんない話でありますなあ。この際分断したまま片方だけ倒せませんか」
    「どうだろうなあ。サウンドシャッターでこっそり……あっ、無理か。そこまで器用な技術じゃあない。マグロのとこまで戦場認識されるやつだこれは」
     頬をかく物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)。
    「出来るだけ急いでみるから、そっちもマグロを足止めしといてくれ」
    「……まあ、やってみます」
     あの物体をどう止めるんだと思わなくも無いが、やらないよりはずっといいだろう。
    「しかし、あのマグロ野郎とまた顔あわせることになるとはなあ。既視感バリバリだ」
    「え、そうなんですか。わたくしサンマのほうに既視感があるんですけど」
     ちらりと振り返る白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)。
    「まさか。流石に他人ですよねえ」
    「よくわかんねーけど仲よさそうだよなあの二人。回遊魚どうしだから?」
     頭の後ろで腕組みする白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)に対して、ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246)が曖昧に頷いた。
    「個人的にはヒラメが好みだけどね」
    「すげーどうでもいい方向に話がそれたな」
    「両方赤身魚なんだけどボクは白身魚が好きなんだ。あっさりしてるし、ほらボクみたく?」
    「更にそれてったな。もどせもどせ」
     手を振る明日香の背後から、笑顔の十六恋・來依(静夜に響くもの・d21797)がスライドアウトしてきた。
    「サンマにマグロ、これがイロモノってやつなのかしらぁ。まっとうな灼滅者として、複雑な気分よぉ」
    「誰かツッコミいれてやれ」
    「絶対カウンター属性あるからやだ」
    「そういわずにどうぞどうぞ」
     眼鏡の縁にゆびをかける神無月・優(ラファエルの名と共に願は一つ・d36383)。
    「マグロの旬は12月だがサンマの旬はすでに過ぎている。時期遅れのサンマは廃棄処分といこうかい?」
    「しれっと元の話題に戻らなくていいから」
     皆が來依の対応を押しつけあっている間、シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)はあくびをしながら密室校舎へと侵入を始めた。
    「しかしわし、魚は好まんのじゃがの。ひとつさ捌きゅとするか」

    ●サンマとマグロのロンド
     家庭科室の机に腰掛け、冷凍サンマを手の中でもてあそぶ六六六人衆、サンマカッター。
     一匹の冷凍サンマを軽くジャグリングしてから、肩越しに後方へと投擲した。
     飛来するサンマをガッとキャッチしてすぐに投げ捨てる優。
    「生臭っ! 冷凍してるのに既に生臭い! なんで武器にしたこんなもの!」
     ぴっと眼鏡を外して瞳を輝かせる優。
     対してサンマカッターは机の上に飛び乗り、背を向けたままサンマを逆手に(これに持ち方とかあるか知らないけど)構えて見せた。
    「灼滅者だろう? フ、来ると思っていたぜ。闇の世界に生きる戦士(ソルジャー)どうし……銀の刃を血潮に染めようじゃあないか」
    「ヒカリモノを捌こうとしてるようにしか聞こえないです」
    「マグロは……近くには居ないか。まあいい。始めよう、殺戮のロンドを!」
     無数のサンマを取り出し投擲するサンマカッター。
     間に割り込んで盾になったジュジュ(ナノナノ)にざっくりいったが、その横をすり抜けて來依が影業と氷の釘を手の中に生成。
     サンマカッターへと連続で投擲していく。
     ガードした腕に突き刺さる釘。
     机を踏み台にして跳躍した來依は、目を見開いた笑顔でハンマー状の縛霊手を振り上げた。
     スイング、直撃。
     対してサンマカッターは投げ放ったサンマを空中で炸裂させ毒の風を巻き起こした。
    「こうなると思ってましたよ!」
     雪緒は懐から黄色いテープを引っ張り出すと、空中に放ってカウンターヒールを展開。同じく優もオーラやらなにやらを広げて黄色い輝きを放った。
     拮抗する毒と光。
    「フ、少しはやるようだが……いつまで耐えられるかな?」
     サンマカッターはサンマを扇状に広げた。

     一方その頃。
    「む、これは戦の臭い。灼滅者たちがかぎつけたか。急がねば――」
     廊下に飛び出し、家庭科室へと泳ぎだすマグロドリーム。
     ざん、とホコリっぽい廊下を踏む足。
     泳ぎをとめるマグロドリーム。
     榮太郎は刀をするすると抜くと、水平に構えた。
    「シャドウと六六六人衆。嫌な組み合わせです。分断させてもらいますよ」
    「できるものなら――マグロゥ!」
     豪速で突撃してきたマグロを、刀でガードする榮太郎。
     刃は相手に食い込んでいるはずなのに、まるで鋼のように通らない。
     どころか、榮太郎は大きく廊下の端まで撥ね飛ばされた。
     壁に足を突いて衝撃をこらえる。
     追撃にとマグロが身体を輝かせたところで――彼の身体にぐるぐるとキープアウトテープが巻き付いた。先端にくくり突いたかぎ爪がマグロドリームのボディに引っかかる。
    「一人では、無いか」
    「とぉーぜんっ!」
     マグロドリームの後方をとっていたルイセが、ギターをかまえてピックを握った。
     空中へ大量に生まれる光と影のマグロ群が泳ぎ出す。
     ギターをかき鳴らしたルイセの音波カッターと交差した。

    「こいつ、ちょこまかと逃げやがる」
     暦生はクロスグレイブを担いで右から左に弾丸を乱射していくが、サンマカッターは流し台や調理机の上を飛び移りながらそれらを回避。していく。
     跳躍の隙を狙って打ち込むが、上下反転したサンマカッターは冷凍サンマの口で弾丸を受け止めた。
     くるりと回って机に着地するサンマカッター。
    「ちっ、ネタキャラなのかシリアスキャラなのかどっちかにしろってえの! 雰囲気がわからねえ!」
    「俺のレジェンドオブ魂は常に真剣至極!」
     サンマを手に突撃してくるサンマカッター。彼を迎え撃つべく割り込んだシルフィーゼが、刀を抜いて銀色に鋭くとがった顎をガード。
     刃をくわえこんだ冷凍サンマが刀身を滑り、激しい火花をあげていく。
     そんな彼の足下を狙っうように硬化したダイダロスベルトを振り込む明日香。
     サンマカッターが跳躍によって回避するその一瞬の隙をついて、暦生はクロスグレイブを、明日香は真っ赤な槍を突き込んだ。
     直撃をさけるべくガード。
     大上段に振り上げたシルフィーゼの刀が追撃とばかりに打ち込まれ、サンマカッターは冷蔵庫めがけて吹き飛んだ。

    ●サンマとマグロのえーっとあの、あれ
     崩壊した冷蔵庫。そういえば電気が通っていたらしくばちばちと火花を上げ、ひらいた扉が傾いて落ちた。
    「クッ、油断したぜ。銀色の流星と呼ばれたこの俺様が……」
    「絶対呼ばれてないと思う」
    「だが、その六人だけで俺を倒そうとはナメられたもんだ。まだまだやれるぜ」
     サンマカッターはコートの前ボタンを自らのサンマによって切り裂くと、内側を開いて見せた。
     ベルト状のホルダーによって大量にストックされた冷凍サンマ。
     優と暦生は目をこらして身を乗り出した。
    「お前……!」
    「クク、驚いたか」
    「驚いたは驚いたが、それ絶対寒いだろ!」
    「あと溶けるだろ!」
    「俺の闇に凍り付いた魂が溶けることなどない」
    「そういう話じゃなくて――」
    「くらえ、ジェノサイドサンマ!」
     サンマカッターは全てのサンマをジャグリングのように引き抜くと、その全てを高速で投擲した。
     重機関銃のように繰り出される冷凍サンマの雨。その全ての目に殺意が宿っていた。
     暦生と優は互いのオーラをぶつかり合わせて拡散発射。
     サンマカッターを迎撃する。
     空中で大量に爆発するサンマの群れ。それを突き破るように放った暦生のデッドブラスターが血の壁を螺旋状に穿っていく。
     その穴をすり抜けるように放たれる優の糸。
     それらがサンマカッターに直撃。さあトドメだ――と思ったその時。
    「マグロオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
     天井を突き破ってマグロドリームが突っ込んできた。
     彼を押し止めようとしがみついた榮太郎とルイセが振り払われて家庭科室の机に転がる。
    「サンマよ、間一髪だったようだな」
    「貴様など居なくても……フッ、だが礼を言っておこうか、マグロよ」
     割れそうになった眼鏡を指で押し上げ、暦生はがれきの中から立ち上がった。
    「なんだこいつら。絵的にはシュールなのに全く油断できん」
    「サイキック界隈あるあるだな」
     ホコリひとつついてない優ががれきのなかから立ち上がる。
    「そういうことならぁ――ジュジュ」
     來依はその辺に落ちていた包丁を掴んで投げると、ジュジュにシャボン玉を発生させた。
     大量のシャボンをマグロが自らのボディではじき返していく。
     一方で飛来した包丁をサンマで弾くサンマカッター。
     彼はマグロの上に飛び乗ると、來依めがけて飛びかかった。
    「サンマレクイエム!」
     逆手に持ったサンマを心臓部へ突き立てようと繰り出してくる。
     対する來依は縛霊手をサンマへ叩き付けることで迎撃。
     ギン、と軋んだ破壊音が響いた。
     と同時に部屋中に大量の幻影マグロが発生。
     魚群となって取り囲み、來依たちをまるで津波の如く押し流した。
     その破壊力たるや凄まじく、家庭科室の壁を崩壊させ廊下をひっぺがしながら向かいの教室へとなだれ込むほどである。積み上げられた椅子や机が爆発したように飛び散っていく。
     直撃をうけた來依を仲間に任せ、ルイセと榮太郎はそれぞれ床に手と足をついてブレーキ。
     ぬんと魚群の中から飛び出してきたマグロドリームめがけて殴りかかる――とみせかけ、その横をすり抜けた。
    「ぬ……!?」
    「狙いはあくまで」
    「サンマなんですよ」
     はっとして顔をあげるサンマカッター。
     榮太郎の刀をサンマで受け止めるが、あまりの衝撃にかるくのけぞる。そこへ追加されたルイセのフルスイングギターが直撃。サンマがへし折れ、サンマカッターはー窓際へと吹き飛んだ。
     フレームに激突し、窓という窓が一斉にひび割れていく。
     マグロドリームの目にはじめて焦りの色が生まれた。
    「いかん……逃げるのだ、サンマよ!」
     突撃によって妨害を試みるマグロドリーム。
     だがしかし。
    「させませんよ。サンマの旬は終わったのです」
     尾びれに巻き付けた帯を雪緒がぐっと掴んだ。
     腕が引きちぎれそうな勢いだったが、優や暦生に身体を掴んでもらってなんとか踏ん張る。
     とはいえ引き留められるのはせいぜい一分たらず。
    「いまのうちに……!」
    「っしゃあ!」
    「まぎゅろに邪魔はさせにゅ!」
     明日香とシルフィーゼがハイスピードスウェーでサンマカッターとの距離をつめると、咄嗟に繰り出そうとしたサンマを刀でもって跳ね上げた。
    「しまった!」
     刀を振り込んだ勢いで身体を同時にひねる明日香とシルフィーゼ。
     二人は息を合わせると、サンマカッターの胸に向かって炎の回し蹴りを叩き込んだ。
    「ぐああっ!」
     窓枠に激突し、今度こそフレームごと破壊。
     ガラスをまき散らしながら野外へと転がり出るサンマカッター。
     シルフィーゼたちが追いかけて外へ飛び出すも、すでにサンマカッターの命はつきかけていた。否、溶けかけていたというべきか。
    「さすがだ灼滅者たちよ。闇を呑んだ人間たち、よ……」
     全身をどろどろに溶かしたサンマカッターは、そのまま氷のように溶けてきえてしまった。
    「灼滅完了……ですか。むっ!?」
     雪緒が息をついたその時、校舎を破壊しながらマグロドリームが野外へと飛び出してきた。
    「見事なり灼滅者。次に会うときはその命を貰うぞ……マグロオオオオオッ!」
     マグロドリームはそのまま天空を泳ぎ、遠い空の彼方へと消えていった。

     かくして、六六六人衆サンマカッターを倒した灼滅者たち。
     だが現実世界に顕現し力をもったマグロドリームは天空を泳ぎ次なる犠牲を求めている。
     戦いは、終わっていない。



     

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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