
●世界が白に染まる、その前に
人波も、行き交う車もまだ少ない、雪を待ち望んでいるスキー場。動いていないリフトを眺めながら、十六夜・朋萌(巫女修行中・d36806)は語りだす。
「噂を聞きました。この、スキー場に関する噂です」
――スキー場に住む雪男。
毎年、たくさんのスキー客が訪れるスキー場。初心者から上級者まで様々なコースを揃えており、腕にあったスキーが楽しめるという。
戒めとしてか、あるいは何か元になった話があるのか……いずれにせよ、コースから外れてはいけないと言われていた。
その山には、雪男が住んでいる。人の領域を理解しているのかスキー場の範囲には姿を見せないけれど、その外側……コースを外れた場所は雪男の領域だ。
雪男は、領域を侵す者を許さない。
女はさらい、男は殺す。
踏み込んできたもの全てが獲物なのだから。
「そして、この噂が都市伝説と化していることがわかりました」
もしも放置してスキー場営業の時期が訪れたら、不慮の事故などでコースを外れ都市伝説の被害にあってしまう者がでてしまうかもしれない。
故に、今のうちにこの事件を解決する。
そのために今からコースを外れた場所を登り、都市伝説をおびき寄せる。そして打ち倒す……それが、大まかな流れとなるだろう。
「具体的な戦闘能力などは不明ですが……雪男らしい姿をしている、ということは予想できますね」
後は実際に相対してから判断することになるだろう。
以上で説明は終了と、朋萌は締めくくる。
「いろいろな思いはあると思います。ですが、被害が出る可能性があるのなら……解決しなければなりません」
望まぬ悲劇が生まれぬうちに……。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 高階・桃子(追憶の桃・d26690) |
![]() 仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159) |
![]() 仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171) |
![]() クラリス・カリムノ(導かれたお嬢様・d29571) |
![]() 仮夢乃・流龍(夢を流離う女龍・d30266) |
![]() 姫上・環(ラベンダーの旋律・d32609) |
下乃森・藩茶(パンティ・d34680) |
![]() 十六夜・朋萌(巫女修行中・d36806) |
●雪を待ち望んでいるスキー場
木々のざわめきが世界を満たし、冷たい風が生い茂る雑草をなで上げる。土の匂いは湿り気を帯び、彩りといえば雑草の他には紅葉の残り香ばかり……そんな、生物の気配すらも乏しい山の中。
右方向に立ち並ぶ木々の隙間から顔を覗かせているリフト……雪を待ち望んでいるスキー場のリフトを視界の端に捉えながら、厚手のコートを着込んでいる仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)は楽しげな笑顔とともに口を開いた。
「雪男が相手ですか……毛むくじゃらした人間みたいなやつなのでしょうか? ともあれ危険そうですので絶対に倒さなくてはならないですね!」
「案外、ビッグフットとかの正体は都市伝説なのかもしれませんね」
後方を歩く十六夜・朋萌(巫女修行中・d36806)は首を傾げつつ、スキー場とは反対側の方角へと警戒のアンテナを向けていた。
都市伝説・スキー場に住む雪男。コースを外れた先を領域とし、足を踏み入れた者に襲いかかる……男は殺し女は拐う、そんな都市伝説。
都市伝説の概要を改めて確認し、クラリス・カリムノ(導かれたお嬢様・d29571)は手袋に包まれた拳を胸の前で握りしめていく。
「話を聞く限りかなり力が強そうね……油断ならないわ」
「ただ、探すうちに遭難しないように注意だねぇ」
人払いの力を放ちつつ前を歩く下乃森・藩茶(パンティ・d34680)は、のんびりとした様子を見せながら、地図に自分たちの軌跡を記していく。
きっと、遭難したとしても都市伝説はやって来る。
けれど、可能な限り遭難という事態は避けたほうが良いのだから……。
●領域を侵せし者に死の裁きを
少しずつ木々が開け、山頂へと近づいて来た。
それでもなお空の青は遠く、日差しも強まるわけではない。対象的に風は強さを増し、肌を刺すほどになり……。
「わっ」
左手側を警戒していた朋萌が、小さな驚きの声を上げるとともに立ち止まった。
即座に歩みを止めた仲間たちが身構えていく中、朋萌は十メートルほど先にある木々の間を指し示していく。
「イメージ通り……」
肩を怒らせているような様子を見せながら、ノシノシと近づいてくる人型の影。
陽光を浴び顕になったその体はたくましく、顔の一部を除いて余すところなく毛むくじゃら。
服の代わりに獣の如き体毛を纏う、雪男という名の都市伝説……。
猿にもゴリラにも似つかない、けれど人間にも遠いように思える顔を見つめながら、朋萌はカメラを構えていく。
「撮影して雑誌に投稿とか……ダメかしら?」
流石にそれはダメだろうと自答しつつ、撮影はきっちり行った上で武装した。
一方、聖也、仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)、仮夢乃・流龍(夢を流離う女龍・d30266)、クラリスの四人は最前線へと移動し――。
「夢見る一家参上!」
声を合わせて決めポーズ!
背後でカラフルな爆発が起きるような予感を漂わせた。
もっとも、ばっちりとポーズを決めている聖也、蛍姫、流龍とは対象的に、クラリスはどことなく恥じらう様子を見せていたけれど……。
……何はともあれさておいて、彼らがポーズを取っているうちに雪男が遠距離攻撃の間合いへと踏み込んできた。
即座に彼らは構えを解く。
各々の立ち位置へと移動した後、聖也は黄金色に輝く刃を持つ鞭剣を縦横無尽に振り回した。
「後に続くですー!」
黄金色の煌めきを纏いながら突撃すれば、蛍姫は喉を震わせる。
「あなたを惑わせてあげるよ!」
軽やかな歌声が、戦場を抱きはじめていく。
詩に編み込まれた思いと力が、雪男の歩みを鈍らせていく。
動きも鈍った雪男に、刻まれていく黄金色の斬撃。
たゆたう煌めきを眺めながら、流龍は最前線へと移動した。
「皆は私が守る! 小竜も頼んだよ!」
ウイングキャットの子竜は頷き、横に並ぶ。
反撃に供え身構える中、雪男は天に向かって咆哮した。
抗う存在だと認識したか血走る目を向けながら、虚空に向かって手をかざす。
煌めきが収束し、人間など数人は軽く飲み込んでしまうだろう雪の大玉が形成された。
軽い仕草で差し向けられた大玉を、前衛陣が横に並び押さえ込む仕草を見せていく。
押さえ込む際に感じただろう冷たさを、衝撃を和らげるため、クラリスは優しい風をて招いた。
「メア、仲間を守って」
優しい風と共にもたらされた命を受け、前線に出ていたナノナノのドリームメアはハートを飛ばしていく。
ハートを受け取りながら、姫上・環(ラベンダーの旋律・d32609)は制止を促す交通標識を振りかぶった。
「赤色注意です、これでも食らいなさい」
――全てはスキーを安心してできるよう、雪男の都市伝説が噂話に戻るよう……。
雪の大玉をかっ飛ばし、雪男へとぶつけていく。
よろめいていくさまを眺めつつ、朋萌はドリームメアに気の力を送り込んだ。
「……大丈夫。治療は間に合っています。だから……皆さんは攻撃をお願いします!」
「ええ」
落ち着いた調子で頷き、高階・桃子(追憶の桃・d26690)は剣を袈裟に振り下ろす。
かわされ地面を軽くえぐりながらも、表情を崩すことなく告げていく。
「聖戦士化、完了よ」
守りの構えを取りながら退けば、雪男が後を追いかけてきた。
間に割り込んだ流龍が拳を受け大樹の方角へとふっ飛ばされていく光景を前に、蛍姫は若干身をこわばらせる。
「ひゃあっ! 凄い馬鹿力だね!」
すぐさま黄金色に輝く鞭剣を握り締め、縦横無尽に振り回しながら突撃する。
蝶のような幻影と共に雪男へと突貫し、腕に胸に浅い傷跡を刻んでいく。
黄金の色彩を散らしながら蛍姫が離脱した時、環は交通標識で虚空を切り裂いた。
「さぁ、この刃を避けられるかしら?」
静かな願いとともに放たれた風刃は、雪男の頬を切り裂いた。
一歩、二歩と後ずさっていく光景を前にして、静かな息を吐いていく。
「どんどん重ねていきましょう」
「十分に効いているみたいですしね」
頷きながら、朋萌は流龍に符を投げ渡した。
治療を欠かさず行うこと、全員の状態を万全に保つこと。それこそが、討伐に繋がると信じて……!
人々がスキー場のルートを外れぬよう、戒めとして作られた。あるいは何かの元になった事件があったのか……今となっては知る由もない、雪男の都市伝説。
軽く幾つかの仮説を立てた後、桃子は首を横に振って行く。
――人に危害が及ぶなら、事前に阻止するのが私たちの役目です。
誓いと共に剣を横に構え、転がってくる雪の大玉を受け止めた。
刃を当て少しずつ削っていく桃子に大玉を任せ、流龍は横へと飛び出した。
真っ赤な炎のイラストが描かれている縛霊手を雪男にかざし、力を開放する。
「動きを止めてやる! 私達の力で!」
赤色に編まれた結界が、雪男の動きを鈍らせる。
拘束を振りほどかんというのか、立ち止まり身動ぎする様を見せていく。
好機と、環は魔導書を抱いたまま雪男を指し示した。
「漆黒の弾丸を、その身に受けなさい」
指先より放たれた弾丸が、雪男の左肩を貫いた。
こそげ落ちた体毛の隙間が、毒々しいほどに黒ずんでいく。
痛みも増したか苦悶の声を漏らしはじめていく雪男を視界に収め、桃子は虚空に逆十字を描き記した。
「貴方を精神から破壊してあげますよ」
告げた時、雪男の右胸に桃子が書き記したものと同様の逆十字が赤き軌跡によって刻まれた。
それでもなお体中を震わせ結界の影響下から逃れようとしていく雪男に迫るのは……。
「行くぞ、パンティスラスト!」
藩茶操る、帯状に群れなすとある布地。
同様の柔らかな布をかぶる藩茶の力と想いが込められるがまま、布地は雪男の脚を切り裂いていく。
よろめきながらも、雪男は結界の外側へと脱出した。
血走る瞳がクラリスを捉えた時、その正面に流龍が立ち塞がっていく。
仕方ないとばかりに振るわれた拳を、流龍は正面から受け止めた。
「ぐふっ」
後方へとふっ飛ばされながらも、大樹からは程遠い位置に膝を畳みながら着地する!
「……なかなかのパワーだけど私を倒すにはまだまだだなあっ!」
治療を受けながら立ち上がり、自身もまた自然の力を取り込んでいく。
「ふふん、まだまだこれからさ!」
痛みを消しながら、再び最前線へと歩み出て……。
●雪男と雪だるま
坂の上へと駆けた雪男が、体を丸めながら転げ落ちてきた。
後を追いかけていた藩茶は立ち止まり、中に浮かぶ布地に似た幾つもの光輪で正面を固めていく。
「やはり地の利は敵にあるか。ならば、知略でお前を倒す!」
固めた光輪で転がり落ちてきた雪男を受け止めて、貫く衝撃に襲われながらも表情を崩すことなくその場に留まった。
ダメージのほとんどは、朋萌が治療してくれるはず。
だから、クラリスは蓄積していた細かな傷を拭うため、暖かな風を招き寄せる。
「皆頑張って……後少し……!」
願いと共に戦場を駆け抜けた暖風が、前衛陣に動きの精彩を取り戻させていく。
輪に混じり、聖也は雪男に肉薄した。
金色の龍が装飾されている豪華なお杖に魔力を込めながら、高く高く振り上げていく。
「暴れ方が凄いです! あんなおっきな雪玉まで投げてくるとは! でも……!」
呼吸を紡ぐと共に、脳天めがけて振り下ろした!
「この一撃でええーっ!」
掲げられた腕にぶつかった時、魔力を爆破。
爆風に乗って退く中、響くは蛍姫の歌声だ。
願いが、想いが込められた歌声は、爆風に押されていた雪男の体を揺さぶっていく。
満足に動くことのできない状態へと追い込んでいく。
震えながらも毛むくじゃらの腕が持ち上げられた時、藩茶は背後に回り込んでいた。
「お前に俺の動きは見えるか? パンティ斬!」
連ねて形成された刃にて、雪男の左ふくらはぎを切り刻む。
膝をつきながらも、雪男は雪の大玉を生み出した。
転がりゆく雪玉へ、ドリームメアが飛び込んでいく。
雪の中に埋もれながらも雪海女を止めていくさまを見つめた後、クラリスは青白く冷たそうな縛霊手を固く熱く握りしめた。
「まだまだやれるはずよね……メア」
腕を肥大化させながら、雪男へと歩み寄っていく。
行き掛けの駄賃とばかりに雪の大玉を打ち砕けば、元気よくドリームメアが飛び出してきた。
口の端を軽く持ち上げながら、クラリスは雪男の頬をぶん殴る。
仰向けに倒れていく雪男を押さえつけるため、藩茶は殺気をたぎらせた。
「俺の正義が唸る! 貴様にパンティの未来を奪わせやしない! パンティ領域!!」
「噂話から生を得たあなたに罪はありません。……でも、ごめんなさい。倒させていただきます」
さなかには治療は必要ないと判断した朋萌が歩み寄り、獣に変えた右腕を振り下ろす。
胸元に深い爪痕を刻んだなら、聖也がオーラを宿した拳を振り下ろした。
一発、二発と重ねるたび、雪男の口から苦悶の声が漏れていく。
二桁に登る頃、声の代わりに血の色をした泡が溢れ始めた。
手応えが失われたと聖也が腕を引いた時……雪男は瞳を閉ざし、姿を薄れさせ始めていく。
あるいは、そう……最初から何もなかったとでも言うかのように、この世界から消え去って……。
晴れやかな空の下。雪男の消滅を見届けた流龍は、大きく胸を張っていく。
「当然!」
「やったね!」
蛍姫は皆とハイタッチをして周り、完全勝利を喜んだ。
互いを労い称え合い、緊張を解いた灼滅者たち。各々の治療といった事後処理が行われていく中、環は雪男が残してくれた雪を元に雪だるまを作っていく。
雪男が消えた場所に、雪だるまと花を供えていく。
「……」
「どうか、安らかに……」
存在した残滓に、桃子も花を備えて祈りを捧げていく。
物語から飛び出してきてしまった雪男が、安らかな眠りにつけるように……。
| 作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年12月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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