色とりどりのイルミネーションが木々を飾り、街中のBGMものきなみクリスマスソングに席巻される季節……。
それはクリスマスへの期待と高揚感を盛り上げてくれるものではあるが、一方で迫り来るそれらに追い詰められているように感じる者も少なくない。
そう――日本におけるクリスマスは、ちょっと『誰か』と楽しむことを、前提としすぎてはいないか!?
●
「家族でも、恋人でも、友達でも。特別な誰かと過ごす特別な時間、というのも魅力的ではあるけれどね。もっと自由で、気楽な、『特別なクリスマス』っていうのも悪くないと思わないかい?」
そう言って一枚のチラシを手に誘いをかけるのは相楽・藍之介(大学生神薙使い・dn0004)だ。
手にしたチラシに大きく書かれているのは――。
『響かせろシングル・ベル!』
という文言。
その後に少し小さな字で書かれているのは、このようなアオリ文だった。
『恋人がいるかどうかなんて関係ない! 俺たちだって輝けるさ。そう、あの一番星のようにな!!』
これだけを見ても一体どういう企画なのか分からないが、更にその後にはちゃんと説明が書かれていたらしい。
「要は学園を舞台とした、宝探しだね」
学園のどこかに、星型オーナメントがつけられたベルが隠されている。
それを探し出そうという、ちょっとした宝探しゲームだ。
せっかくの年に一度のクリスマスパーティーの日。
一人で過ごすのも、誰かと過ごすのもいいけれど。
クリスマス一色になった学園の中を歩き回りながら、気楽に楽しく、自分だけの星を探してみるのもいいのでは?
とはいえ、『気楽に自由に』を合言葉にしたこの企画。
一番最初に見つけた人は記念として表彰されるけれど、タイムを競い合うというほどのものでもないし、ベルを奪い合ったりするのは禁止だ。
一人で参加を前提としてはいるが、もちろん友達同士で参加しても構わないので、仲間内で誰が一番早く見つけられるかを競ってみたりしてもいいだろう。
ただし、ベルは一人につきひとつまで。
見つけた人は、高らかに勝利の鐘を鳴らして自分だけの一番星を見せつけてほしい。
クリスマス一色の学園を歩き回った後、鳴り響くささやかな鐘の音は、ちょっとだけ君のクリスマスを特別なものにしてくれる――かもしれない。
「ベルはあちこちに複数隠されているらしいから、どこから探そうか迷うところだねぇ」
教室の窓から外を眺めながら、藍之介は早速どこを探そうかと楽しげに考えている様子。
「ああ、ただし人の迷惑になるような場所には隠されていないそうだよ。あくまでも平和に、気楽に、楽しく、自由に、クリスマスを楽しもうじゃないか」
なにしろ、年に一度のクリスマスパーティー。
一人でも、一人じゃなくても、誰だって楽しく幸せでなくちゃ。
そう言って笑うと、藍之介はチラシを一枚差し出してきた。
すっかりクリスマス一色となった学園の中、宝探しの始まりを告げる鐘の音が響く。
参加者達は思い思いにスタート地点の教室を出ていくが、中でも一番に教室を飛び出していったのは焔月・勇真(フレイムエッジ・d04172)だ。
校舎を出て一直線に向かうのは、一番背の高い常緑樹。
きっと物理的なハードルが高いところにもある筈という読み通り、高い木のてっぺんあたりに煌めく何かが見える。
あえてESPも使わず身一つでするすると登っていく勇真の動力源は、わくわくと高鳴る胸の鼓動だろう。
それに押されるように木を登り最後の枝葉を抜けて顔を出せば、てっぺんに輝くのは、探していた自分だけの星。
「へへっ、見つけたぜ」
一番星を手に収めた勇真のベルが、誇らしく鳴り響いた。
「さぁ、行きましょう迦月さんっ。園観ちゃんたちが一番に見つけちゃいますよーっ」
少し前。園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061)に急かされて、一番を狙うと思っていなかった布都・迦月(幽界の斬弦者・d07478)は慌てて走り出していた。
やる気を漲らせた遥香は、既に目星がついているのか迷うことなく走っている。
「よし、俺は信じて後をついて行こう」
キリッと格好良くきめた迦月だが、全力疾走の遥香についていくのは楽ではない。
最近の生活を省みて鍛え直そうと心に決めてみたものの、当の遥香も意外に苦しそうで、少し安心する。
息をきらせながら辿りついたのは、昇降口。
「あ、ベルです! 迦月さん、やっぱりここにありましたよっ、ほらっ」
ベルといえば玄関で鳴らすもの。出入り口にあるという予想は当たったものの、ベルはドアの上、開閉できないガラス部分の桟にあった。
「その場所じゃ、遥香には届かなくないか?」
迦月の疑問を余所に遥香はぴょんぴょんと必死に何度も飛び上がって手を伸ばす
「あ、び、微妙に届かないっ」
だがやはり届かず、結局は迦月に向かって上目遣いでお願いすることに。
「かづきゅん、アレ、取って……?」
「……そんな顔せんでも、取ってやるから」
最初からそのつもりだったのだけれど、必死に飛び上がる遥香の姿が面白くて可愛かったので見守ってしまっていたことは秘密だ。
「ほれ、ベルだぞ」
一番にはなれなかったけれど、二人で見つけたベルは二人だけの宝物になるだろう。
そう。一番は決まっても、それぞれの勝負はまた別の話。
「ベルといえば音楽室! ぜったいココにはひとつはあるハズ!!」
ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268)は確信して、ライバルに先を越されぬよう真っ先に探索に来ていた。
楽器をひとつひとつ見ていけば、一瞬ハンドベルに惑わされそうになったのはご愛敬。特徴をメモした紙を持っていて良かったと胸をなで下ろす。
準備室までくまなく回り、箱の中まで覗き込んでみたところでベルを見つければ早速パシャリと携帯電話で写真を撮って真咲・りね(花簪・d14861)へとメールで送る。
先に見つけた合図として写真を送る約束なのだ。
「りねはドコまで探しに行ったんだろ?」
後で話を聞くのを楽しみに思う彼のメールを受け取ったりねと言えば、実に色々な場所へ行っていた。
ベルを探すついでにお散歩気分で図書室や花壇などを見て回るのは、見つからなくても楽しいもので。
「おにいさんと競争です」
と意気込んではいたけれど、勝敗そのものに大きな意味はない。
辿りついた大きなクリスマスツリーを見上げれば、幾つもの飾りに紛れて探していたベルを見つける。
木を隠すなら森の中と聞いたのは、授業だったか。
メールには気付いていたけれど、見つけた嬉しさで合図も勝敗も忘れ、ベルを持った笑顔の自撮り写真を、嬉しさと共に届けるのだった。
勝負は時に非常なもの。
ケーキを賭けて宝探しに挑むのは、月村・アヅマ(風刃・d13869)と桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)である。
霊犬ティンの参戦にアヅマは『それずるくない?』と零したけれど、夕月も自分の分は自力で探しているので公平……どころか、先に見つけられれば選択肢が減るので若干不利なのだ。
そんな机の中やカーテンの裏に絞って見ていた夕月がふらりと入ったのは美術室。
独特の匂いを抜けて絵の具のついたカーテンをめくれば、窓際にそっと輝くベルがある。
掌に収めて笑みを零した夕月は合流場所の教室に向かおうと顔をあげるが……。
「ありゃ、ティンどこー?」
どうやらその前にもうひとつ探し物ができたようだ。
とはいえ一方のアヅマも苦戦中。
ロッカーや物陰を覗きながらもクリスマスツリーを目指してきたはいいが、なにしろ大きく飾りも多い。
木を隠すなら森の中。狙いは的中していたが、似たような飾りの中から見つけるのは運次第だったようで、意外にも時間がかかってしまう。
ベルを片手に教室に辿りついた時には既に夕月とティンが居て、仕方がないかと肩を竦めた。
夕月の要望通りのケーキを用意した後で、改めて各自が見つけた三つのベルを合わせて鳴らせば澄んだ音が響く。
「えへへ、きれいな音色だよねぇ」
上機嫌の夕月と、自腹とはいえ美味しいケーキ。
負けたとはいえ、これはこれで悪くないクリスマスかもしれなかった。
「ツリーはもう見つかっちゃってるかもなあ」
どこを探すかを考えて英・蓮次(凡カラー・d06922)が次に目星をつけたのは学生食堂。
入口にリースがあったような気がして覗いてみると、記憶通りそこに飾られていて、これはと更に調べれば中央に鎮座するのは探していた星のオーナメント付きのベル。
期待通りの展開に上機嫌で宝を手に入た蓮次は、待ち合わせまで時間もあるので食堂の中をもう少し見て回ることにする。
蓮次と競争をしているのは朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)で、ツリーを始めとして植木や街灯、その飾りの裏などを重点的に探していた。
「こんなところにベルがかかってたら可愛いし雰囲気でるよね」
雰囲気や飾りも楽しみながら歩いている中で街灯の飾りに紛れていたベルを見つけると、待ち合わせ場所へと急ぐ。
「おかえりー、どうだった?」
迎えてくれた蓮次と発見時間を比べたところ、残念ながら夏蓮の負け。
「頑張ったのにな-」
けれど勝敗よりも気になるのは互いの探検談で、他にどんな場所に隠されているかも気になってくる。
「やーワクワクした! 今度は二人で一緒に探してみようか」
「うん! 二人で見つけられたらもっと幸せになれそう」
ツリーの下で鳴らしたベルは、勝負の終わりと二人の新たな探検の始まりを告げる音になった。
一方こちらは、探検に心躍らせるもふもふ達……もとい、白兎姿になった神宮寺・天龍(王者の光・d25538)と、猫変身でサイベリアンとなった桜田・紋次郎(懶・d04712)の二人。
「俺様は百獣の王! 故に初めに見つける一番星は俺様なのだっ!!」
開始と共に兎らしからぬ音をたて一直線に駆けていく天龍に、紋次郎は慣れたもので慌てる様子もない。
見失うことなく後を追っていくと、びゅーんと音を立てて茂みに飛び込んでいくところ。
やれやれと自分も茂みに分け入ってみれば、そこにはベルを持ってドヤ顔で振り向く天龍の姿が。
「やっぱり俺様はすごい!」
「うんうん、凄いな」
ふんぞり返る天龍に称賛の拍手を送っていた紋次郎は、ふとその背後の木の根元に、見覚えのある輝きを見つける。
近寄り少し土を掘れば、やはり探していたベルだった。
「おおっ、紋次郎くんも見つけたか!」
喜びのあまりか尻尾を振りながら天龍が鳴らすベルは激しすぎて台無しではあったけれど。
(「細く澄んだ音何処いった……」)
試しに鳴らせば事前情報通りの細く澄んだ音色で、どこかで揃って鳴らすため良い場所を探すことにする。
一人で不足はなくたって、二人ならもっと楽しいのだから。
「俺様達のベルの音を皆にも聞かせてやろうっ!」
もふもふ姿の二人の音色は、きっと綺麗な協和音を奏でるだろう。
「なんとなく宝物って埋まってる気がするのよね」
地面や鉢植え、掃除用具入れに水飲み場。つい低い位置を探してしまっていた阿部・ミナ(櫨朱葉・d13071)は、最終的には地面を辿って目に入った百葉箱の中からベルを見つけた。
発見後に合流する予定の恋人を探しに行く途中、相楽・藍之介(大学生神薙使い・dn0004)に会ってしばらく民俗学や出身地のことなどを話していたので待たせてしまったかと思ったが、どうやら杞憂だったよう。
子供の頃のクリスマスを思い出して、聞き覚えた賛美歌を口ずさみながら飼育小屋のあたりをのんびり探していたウェリー・スォミオ(シスルの翅音・d07335)は、近くの渡り廊下でちょうどベルを見つけたところだった。
合流し、乾杯のように二人のベルをあてて鳴らしあえば、澄んだ音色が重なって深い響きになる。
「ヒュヴァーヨウルア!」
メリークリスマスと同じ意味の言葉を口にしてミナの手を引き寄せハグしても、家族的なものになってしまうのは何故なのか。
恋人になって初めてのクリスマス、ミナとしては恋人らしい雰囲気になれないことに少しばかり不満はあるけれど。
「どうも僕はこう、雰囲気を出すのが下手ですねえ」
照れた様子で、それでも精一杯の気持ちをこめて額にキスを贈られれば自然と笑みがこぼれる。
「いいわ。次は美味しいケーキ、一緒に食べよ♪」
急がずに、今は自分達らしく。
まだ手を取り合って歩き始めたばかりなのだから。
人が行かなさそうな場所を探そうと『ひるさがり』から参加している二人は理科室へと来ていた。
学園の探検はロマンがあるけれど、一通り見てもなかなか見つからない。
もう少し難しいところにあるかもと、シルヴァン・メルレ(トワイライトは斯くして遊ぶ・d32216)が覗いてみたのは準備室にある骨格標本。
たまには骨もお洒落したってイイだろうと考えてのことだったが、誰の悪ふざけなのか黒の燕尾服を纏った骨格標本は予想以上にお洒落だ。
「ほら発見ー♪」
首元を飾っていたベルを手に入れれば、蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)も我がことのように喜んで感心してくれる。
とはいえ榛名も自分のベルを探すのだから、喜んでばかりもいられない。
「となると他にありそうなのは……」
探し尽くした理科室と準備室。引きつった顔でちらりと視線を送った先にあるのは人体模型だ。
触りたくないが、仕方ない。青ざめた顔で目を瞑り、意を決して人体模型の腹部をえいやと取り去る。
恐る恐るに目をあければ、臓器の一部のかわりに確かにベルが収まっていた。
「あっありました! 発見なのです!」
「めっちゃ勇気だしたね、偉い!」
「ふふー偉いのです、わたし!」
シルヴァンに拍手で発見と勇気を称えられ、ようやく榛名の表情も緩む。
恐ろしくも楽しかった宝探しの仕上げに、せーので鳴らしたベルの音は、クリスマスを更に楽しくしてくれるのだった。
「メリークリスマス!」
「ゆうり、ゆうり、深雨は宝探しだなんて、はじめて」
「俺も初めてだよ」
楽しげに歩く六木・深雨(貴方のぬくもりであれたらと・d32529)を、南・優利(君の太陽であれたらと・d32374)は微笑みながら見つめた。
互いがいれば、どこにいても何をしても楽しくて心が弾む。
その気持ちの名はわからないけれど、二人で過ごす時間にこそ意味があるから、歩みはゆっくりと。
「深雨はゆうりのおほしさまを探すわ。ゆうり、ゆうり、はやくはやく」
ふぅわりとした暖かな笑顔で差し出された手を優利は優しく掴む。
「じゃあ、俺が深雨のおほしさまを探すね」
自分の星はもう、この手に掴んでいるのかもしれないけれど。
かけがえのない、優しいぬくもりをくれる星と手を繋ぎ、彼女の望むままあちこちを探した。
いつもの通学路から、ベンチや植木を覗いて、最後に悪戯っぽく微笑んだ深雨の提案にのって向かったのは職員室。
流石に中は探せなかったが、代わりに職員室を示すプレートの上に乗せられたベルを見つけ、二人で笑い合う。
外へ出れば、首元が寒そうに見えて深雨は自分のマフラーを優利に巻いた。
「深雨は寒くない?」
嬉しさと幸福を混ぜた笑みで問いながら、ぎゅっと宝物を閉じ込めるように大切に握り直された手。
「深雨は、ゆうりの手があたたかいから……へいき」
互いのぬくもりに包まれながら、二人でひとつの星は澄んだ鐘の音に耳を澄ませる。
気が付けば羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は、複雑な想いを抱く場所の入口に立っていた。
見つけたベルを手に、宝と同時になくしたものまで無意識に探していたのだろうか。
「ううん」
何かを否定するようで変化を選ぶ迷いはあったが、その先で得られるものもあると今は知っている。
その象徴である霊犬のあまおとが、主を心配してか足元に擦り寄り見上げてくるのに気付いて、陽桜は優しく頭を撫でて微笑んだ。
変化も否定も終わりと同義ではないなら、信じる力を胸に抱き、何度でも自分を確かめればいいだけ。
「だから、あたしはあたしなりに」
一人と一匹の決意をのせて響く音は、普段は薄暗い場所をほんの少し暖かな場所に見せてくれたような気がした。
これまでとこれからを思い校内を歩くのは陽桜だけではない。
彼女と過ごした最初のクリスマスもこんな風に校内を探索していたことを思い出して笑みをこぼした葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)は、どうしたのかと問いかけてきた志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)に微笑みかける。
「藍と出会った頃のクリスマスを思い出したら懐かしくてね。あの時藍に告白して、もう3年経ったんだな」
「同じこと、考えていたんですね」
理由を知って、藍もくすっと笑った。
あっという間にも思えるけれど、改めて振り返れば沢山の思い出を積み重ねてきたことに気付く。
最初のクリスマスと同じように、手を繋ぎ校内を歩いて。
ベルを探しながら、二人の思い出も同時に探して語り合った。
やがて辿り着いたのは、屋上に続く扉の前。
左右のノブにひとつずつ提げられたベルは、まるで二つで一組のよう。
顔を見合わせ笑い合った二人は、ひとつずつを手にとって屋上に出た。
積み重なった思い出の場所、これからも思い出を積み重ねていく場所を眺めながら、そっと二人で鐘を鳴らす。
澄んだ音は細いのに遠くまでのびていくようで。
「これからもよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。」
音は消えても、響く音色とこの時を。
そして繋ぎあったこの手のぬくもりを、忘れることはないだろう、そう思えた。
作者:江戸川壱号 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年12月24日
難度:簡単
参加:20人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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