クリスマス2016~皆のごちそうパーティー

    作者:雪神あゆた

     12月。商店街やコンビニで、クリスマスソングが流れるようになった。
     町に貼られたポスターには白いお髭のサンタが描かれていたりして。
     学園にも、クリスマスは近づいていた。
     生徒たちの多くが今年のクリスマスはどうする、どうやって過ごす、と話に花を咲かせる。そんな学園の廊下で、
    「よぅ。もうすぐ、クリスマスだな」
     地央坂・もんめ(大学生ストリートファイター・dn0030)は、出会った生徒に話しかけた。
    「クリスマスには学園でも大きなパーティーが開かれる。
     学園内の伝説の木を飾ってクリスマスツリーにして、ツリーの前でパーティをするんだが……そこで、提案だ」
     もんめはぴんと指を立てた。
    「当日は、パーティー会場に、皆でそれぞれ料理を持ち込んで、一緒に食べないか?」
     クリスマスパーティーでは、学園も料理を用意するが、そこにみんなの料理を加え、より豪華で楽しめるものにしようというのだ。
     持ってくる料理はなんでもいい。クリスマスといえば、ケーキや鶏肉が定番だが、それにこだわらず好きなものを持ってきていい。
    「持ち込むのは、買ったものでもいいが、せっかくだから手料理を持ってきてもいいだろうな」
     自分の郷土の料理を持ってきて、地元の味を皆と共有してもいい。
     自分の得意料理を披露するのもいいし、とっておきのスイーツで皆の舌をとろけさせてもいい。変わり種の創作料理でびっくりさせるのおもしろいだろう。
     持ってきた料理は皆で食べよう。
    「自分の好きな料理をひたすら食べるもよし、友達と会話をしながら食べるもよし。それぞれの方法でごちそうのあるパーティーを満喫しようぜ」
     そしてもんめは、拳を握り言う。
    「一人の奴も友達同士の奴も、皆歓迎だ!
     今年のクリスマスは今年の一回しかない。たった一回の今年のクリスマスを燃えるほど楽しくしようぜ――俺たちのごちそうでな!」


    ■リプレイ


     装飾が施されたクリスマスツリー。賑やかな声が聞こえる会場で。
     小町は今、タコ焼き機を見ていた。タコは投入済み。生地のタネは固まりかけている。小町は箸を生地に近づけ、くる、ひっくり返す。
     丸くて表面に焼き色のあるそれが出来上がっていく。それは――、
    「タコ焼きやないよ。明石焼き。食べてや?」
     つけ汁を添え、皆に勧める小町。
     生地に使った鶏ガラとつけ汁のカツオ節、二種の香りが会場内を流れる。

     【人狼研究部】にも香りは届いていた。
    「いいわね。あちこちから美味しい匂いがしてくるもの」
     浅葱は香りを楽しみつつ、目の前のローストチキンを一口。そして、スープを一さじ口に。
    「先輩たちが持ってきてくれた料理、おいしいですね。私はミンスパイにローストビーフを持ってきました。良かったら先輩たちも……って、あら? 九凰院先輩、何を?」
     食べる手を止め、首を傾げる浅葱。
     紅がケーキを刺したフォークを友衛の口に近づけていたのだ。
    「……ん、あーん」
    「え? そ、それじゃあ」
     友衛は動揺しつつ、慌てて口を開ける。ケーキが唇に触れる直前、紅はフォークをさっと引く。
    「なんてな、冗談」
    「冗談!?」
     目を丸くする友衛
     二人のやり取りを見ていた浅葱は頬を緩める。
    「九凰院先輩の冗談を見るのは珍しい気がしますね、ふふっ」
    「まぁ、こう言うことを出来るくらいには成長したってことだ」
    「もうっ」
     微かに笑む紅。怒る友衛。でも、本気で怒ってはいなくて。やがて友衛の顔にも笑みが戻る。
     冗談を交えつつ、料理を味わう楽しい時間……。

     笑い声が聞こえて、黒斗は近くのテーブルに顔を向けた。そこには様々な料理が並んでいる。黒斗は昴に話しかける。
    「御馳走がいっぱいだな。きっと全部美味しいよな。後で色々食べて回るぞ!」
    「ああ、摘まみに行こうな。……ところで、チキンはどうだ? 味見して貰ってから改良したんだぜ?」
     二人のテーブルには、昴のフライドチキンが並んでいた。味付けは五種類、どれも昴が工夫したもの。
     黒斗が豪快にチキンに齧りつく。
    「美味しい! 美味しすぎて手が止まらないや」
     昴は満足げに目を細めながら、自らも食べだす。
    「帰ったら、ブッシュドノエルがあるからな」
    「ああ、一緒に食べような。楽しみにしてる」
     パーティーの後は2人だけの御馳走を食べよう、昴と黒斗は見つめあい、約束しあう。

     和弥は久良の料理を見、目を丸くしていた。
    「私も二品用意したけど……居木さん、恐ろしい女子力……」
     ローストビーフにアイリッシュシチュー、アップルパイ……工夫の凝らされた料理たち。
     和弥の賛辞に笑む久良。久良は和弥の焼いた七面鳥をナイフで切り、フォークで口へ。
    「若桜さんのシュトレンもターキーもおいしいよ?」
     屈託ない顔で言う。
    「若桜さんの好物を一緒に食べれて嬉しいよ」
     一緒に食事をしつつ、和弥はふと目を閉じる。想う。
    「(2年前に出会えて、今、こうして一緒に過ごせている……有難いことだな)」
     目を開けると、久良が優しい目でこちらを見ていた。和弥は彼に笑みを返す。普段通りの笑みで。

     【七天】の卓では、ローストビーフやおにぎりが並ぶ。
     緋頼は、隣に座る白焔の顔へ、
    「おにぎり用意してくれてありがとうね。お返しに、あーん」
     フォークでローストビーフを差し出した。
     ぱくっと肉に食いつく白焔。口を何度か上下させ、ごくん。
    「これは緋頼の手作りだったな。美味しいぞ」
     素朴な白焔の賛辞。笑顔を濃くする緋頼。
    「こちらもお返しだ。どうぞ」白焔も唐揚を摘まみ、緋頼に近づける。
    「あーん」緋頼は唐揚を口で受け取る。唇が指に触れた。「幸せよ」かすかな声でいう緋頼
     同じ卓で。鈴乃が卓中央のケーキに見とれていた。
     山盛りに載った苺の中に砂糖細工のサンタがちょこん。鈴乃と鞠音の作ったケーキ。
     鈴乃はケーキの美しさに溜息。
    「ナイフ入れるのがちょっともったいないのですね」
    「切ります」ずだん。
     鞠音は躊躇なくケーキを切った。
     苦笑する鈴乃の前で、鞠音はケーキを一かけフォークで掬い「鈴乃さん、あーん」
    「あーん」苦笑を止め、口を開けて食べさせてもらう鈴乃。瞳が見えないくらいに目を細め、嬉しそうな顔になる。
     白焔と緋頼は二人の食べさせあいっこを微笑ましげに見、
    「鞠音、こっち」「鈴乃、こっちきて?」
     声をかける
     白焔と緋頼はケーキの刺さったフォークを年下の彼女達へ差し出す。
     大きく口を開け食べさせてもらう鞠音。「甘くて幸せなのですよー」喜ぶ鈴乃。
     鈴乃の言葉通り幸せな、四人の食べさせあいっこは続く。

     【クローバー・ハウス】の四人は、
    「「メリークリスマス」」「メリークリスマス、です」「めりー、くりすます……♪」
     ユーリが淹れたミルクティやスモークウォーターで乾杯。
    「佳奈子さんのパン、甘くていいね。ユーリも食べてごらん?」
     千尋は甘いパン――ルッセカットをユーリの口に運ぶ。
     ユーリは甘さにほっこりしつつ、頬を抑えた。
    「ほっぺが、ほかほかします……」
     手の下で頬は赤い。三人の微笑ましげな視線がユーリに注がれた。
     佳奈子は千尋に視線を移しスプーンを持ち上げた。
    「え、えっと、千尋さん、あーん、です。わたしのグラタン、一口どうぞ」
     頬を赤らめ、スプーンをかすかに震わせつつ、佳奈子は千尋に食べさせる。
     タシュラフェルは目を細めつつ、スプーンを動かしていた。
    「佳奈子のお料理はグラタンもパンも流石に凝っていて美味しいわね。よかったら、私のサラダとマリネもたべて? マリネにはサーモンと、あ」
     そこで、タシュラフェルは言葉を止める。
    「千尋、頬にソースついてるわよ?」
     タシュラフェルは身を乗り出し、千尋に顔を寄せ、舌先で頬についたのを、ちろっと舐めとる。
    「タシェ、ありがと♪ 佳奈子姉さんもユーリも美味しい料理と飲み物をありがとうね」
     満面の笑みの千尋。
     食べさせてもらい、自分からも食べさせて。ルッセカットやケーキ以上に甘い、四人の時間。


     【フィニクス】の卓では、
    「播州手延べ素麺で『洋風一口プチ素麺』を作ったんだ! 母ちゃんに手伝って貰って、沢山作ったぞ!」
     と、健が自信満々に自作の料理を紹介している。素麺にホワイトソースやミートソース、ブロッコリー等を盛り付け焼いたもの。白赤緑のクリスマスカラー。
    「皆食ってくれ、オレもマジ食いまくるぞー!」
     宣言する健。そのお腹から、ぐきゅーと音。健は照れ笑い。
     健の前に、靱が皿を差し出した。皿の上に餃子。もちもちの皮の中に、黄色い具。
    「お腹がすいたなら、ドライカレー入りのカレー餃子がありますよ! 『ちゅうから』です!」
     聞いていたさくらえは手を震わせる。
    「なん……って……カレー……だと? ちゅうから? ……御納方さん、超辛じゃあないよね?!」
     問い詰めるさくらえ。靱はにこやかに「ですから、ちゅうからですよ」
     さくらえは恐る恐る餃子に手を伸ばす。味は……「よかった、普通に美味しい」安堵するさくらえ。
     葉月は仲間を見つつ、野菜スティックを齧る。さくさく。
     紅音は葉月に声をかけた。
    「葉月さんも一緒に食べない? このプディング、マーガリンを使ったのよ。うまく出来たかは自信ないけど……」
     紅音はプディングの皿を指しながら説明。それに、と視線を動かす。
     そこには双調と鈴音。
    「カナッペには、梅干しと大葉のものも用意してきましたよ。良かったら葉月さんも如何ですか?」
    「白い方のブッシュドノエルは動物性素材を使ってないから食べてね」
     紅音や双調、鈴音を始め、多くの者が菜食主義へ配慮をした料理を作っていた。
     葉月は椅子から立ち、「皆さん、私の菜食主義に配慮していただき感謝です……紅にも感謝だ」
     と、ビハインドの菫と共にお辞儀。どういたしましてと返事する三人。
    「じゃあ、皆、一緒に食べましょ。んー、どれも美味しそう♪ ……じゃあ私は、神鳳さんのクロックムッシュから……」
     紅音はさっそく卓を物色し始める。
    「実は、私、鈴音さんのスイーツ、凄くファンなんですよ」
     双調が言うと、鈴音ははにかんだ。
    「ありがと、こっちのミンスパイとレープクーヘンも気合を入れて作ったから食べて。――あ、双調さんのカナッペ美味しい!」
     鈴音はカナッペを一口。そして快哉を上げた。
     昭乃はパンケーキを切り分ける手を止め、鈴音の焼いたパイをまじまじ見る。
    「こちらは……ミンスパイですか? 初めて見ました」
     ホットアップルジュースを注いでた凜も、明るい声で昭乃に答える。
    「ミンスパイって願掛けのお菓子って聞いたことがあるよ。その年の最初の一個を、願い事しながら、喋らず食べると願いが叶うって」
    「それは……素敵ですね」
     昭乃の言葉に数人が賛同。誰からとなく、皆で一緒にミンスパイを食べ、願い事しようと、決まる。
     凜は「ミンスパイは行き渡った? じゃあ……」と勇弥を見る。
     勇弥はカップを掲げた。カップからは大豆とピーナツのこうばしい匂い。豆乳にナッツバターが加えられた珈琲。勇弥は仲間へ言う。
    「えと、聖夜とフィニクスの開店記念日を祝して、乾杯!」
    「「乾杯!」」
     飲み物を口にし、それぞれパイを齧る。
     涼子と空凛は目を閉じていた。声に出さず、口の中で、
    「(願い事は……来年も-こうして皆で楽しくクリスマスをすごせますように、かしら)」
    「(大切なカフェの皆さまといつまでも笑顔ですごせますように)」
     食べ終え涼子は目を開く。隣の空凛の顔を見れば、自分と同じことを願った気がした。他の者の願いもきっと同じで。
     ミンスパイを食べ終えた一同は、宴を続ける。未来を共に過ごすためにも、今を大事にしようと。
    「絆、鈴音さんのケーキを美味しそうに食べていますよ? こんなに尻尾を振って……他の霊犬の皆さんも、嬉しそう……」
    「人間のごちそうもまだまだあるわ。空凛さんのパイシチューも体が温まりそうだし……私のジンジャークッキーもぜひ食べてね?」
     霊犬たちをみる空凛、皆にクッキーを勧める涼子。テーブルはとても賑やかだった。

     【探求部】が用意した鍋の中、味噌ベースの出汁がぐつぐつ沸いていた。
    「じゃあ、ここで持ってきた最中を、沢山投入しちゃいましょう」
     藍は明るく言うと最中を放り込む。
     一同の多くは、鍋に最中って大丈夫? と不安そう。
     最中は、鶏肉や白菜、大根、エノキに混じって、ぷかっと浮いている。
     藍は、
    「えへへ、実は中身は餡子じゃないんです。フリーズドライの京野菜が入っていたんですよ」
     とネタ晴らし。ほっとする皆。
     統弥は穏やかな顔で最中を食べていた。
    「藍、美味しいですよ?」
     と柔和な声で藍へ。
     統弥と藍は鍋をつつきつつ、仲間と歓談。統弥がしみじみと、
    「今年も大変でしたが、何とかなりました。来年も何とか乗り切りましょう」
     明彦は統弥に頷き、
    「じゃあ、その為にも精をつけないとな。そっちに猪肉が入っている。皆もぜひ食べてくれ」
     と肉を勧める。肉に舌鼓を打つ仲間を見つつ、明彦自身も箸を動かす。
    「俺も色々食べ……これはトマトに……ナタデココ!?」
     トマトの酸味、ナタデココの甘み、出汁の旨味が口内で混じり……明彦は硬直。
     真琴が慌てて駆け寄った。
    「トマト入れたのは私ですけど、まさかナタデココと味が混ざるなんて……大丈夫ですか? お水ありますよ?」
     コップを差しだす。
     やがて。
     少しの犠牲を出しつつ、一行は鍋を食べ終え、デザートの準備へ。
     真琴が苺のケーキを皿に乗せ皆に配る。
    「はねゆいさんは苺が一番多いのでしたね?」
    「うん、ありがとう! 皆にも行き渡ったみたいね。じゃあ、皆、一斉に」
     結衣菜がグラスを高く掲げた。中の飲み物が揺れる。結衣菜は皆がグラスを持ったのを確認し、
    「メリークリスマス! 今年は色々あったけど、なんだかんだで楽しかったよ。みんなのおかげだね!」
     結衣奈も結衣菜に応じ、
    「今年一年、みんなとワイワイやれた事に感謝しつつ、メリークリスマスだよ!」
     明るさと優しさに満ちた言葉。そしてグラスとグラスを触れ合わせる。ケーキの前の乾杯。
     七波は大きな皿を卓に置いた。さらには山の形に積まれたチョコシュー。
    「ケーキもいいですが、チョコシューもありますよ? 一緒に食べましょう」
     と七波は、チョコシューマウンテンから一つを摘まみ――そして仰向けに倒れる。
     どうやらチョコシューの中に、数個激辛シューを混ぜていて、その激辛を七波が自ら引き当ててたようだ。
    「み、皆さん、すみません。ネタを入れないと死ぬ病なんです……」
     皆は笑ったり。慌てて介抱したり。
     さらに時間が経ち。結衣奈が声を上げた。
    「記念の写真撮影で締めだよ!」
     撮影の準備をする結衣奈の前に、皆が集まる。
     おどける者、恋人同士で寄り添う者……。
     やがて――パシャリ。幸せな今が記録される。

     探求部のシャッター音を聞いて、他のテーブルの者たちも記念撮影をしだしたり、あるいは、まだ食い足りないと言ったり。大事な人と微笑みあったり。
     素敵な夜はまだ続く。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月24日
    難度:簡単
    参加:35人
    結果:成功!
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