●今宵殺戮の遊戯
天蓋のベッドに眠るゴシックドレスの少女。
部屋に浮かぶ、バラバラ人形の悪夢。
悪夢を切り裂くように、一体のダークネス・シャドウが現われた。
巨大な両手である。
手首から先の無い、絹の白手袋のような物体が単独で宙に浮いている。
指からは糸が下がり、木製のデッサン人形のような物体が吊るされていた。
指がかたかたと動き、デッサン人形を操っていく。
『やあやあ、おはよう。おじょうさん』
おどけるような仕草をする人形。
ゴシックドレスの少女はぱちりと目を開け――た途端にベッドが激しい炎に巻かれて爆ぜ飛んだ。
少女もろとも消し飛んだかと思いきや、少女は大きな鎌を握りしめ、デッサン人形を切断。さらには糸に刃を引っかけて、ブチブチと引きちぎっていく。
「突然、熱いじゃない。私の、か、身体が、燃えちゃったら、どうしてくれるのよ」
『きみこそ。ぼくのいとが、きれちゃったじゃあないか。おにんぎょうは、いとでうといているんだよ?』
巨大な両手がかたかたと動く。
糸など一切合切千切れているというのに、デッサン人形が糸に吊られているかのように起き上がってぱたぱたと動いた。
人形の胸に刻印が生まれ、切り裂かれた部位が吸い付くように修復されていく。
顔を歪めて舌打ちするゴシックドレスの少女。もとい六六六人衆。
彼女と大きな鎌を観察して、シャドウが、もとい人形が腕組みして頷いた。
「そうかい、きみが、『人刈り鎌』だね」
「そういうあなたは、『マリオネット』」
二人のダークネスは互いの実力を確かめ合って、満足げに頷いた。
「このお屋敷は、密室に、なっているから。好きに、遊んでいてちょうだい。『お人形』も、あるから」
そう言って、カーテンを引く。
ギャグボールをはめ込まれ、天井から両手をくくってつるされた女性が気を失っていた。
『わあ』
驚いたような仕草をする人形。
『きみは、とってもすてきなしゅみを、しているね!』
●
「ふうん、そう、『人刈り鎌』がね……また遊べるんだあ」
来栖・律紀(ナーサリーライム・d01356)はうっとりとした顔で首を傾げた。
彼に頷くようにして話を続けるエクスブレイン。
「ハイ。シャドウが六六六人衆の協力を得て、現実世界での戦力を整えようとしていマス。密室殺人鬼の悪夢を通じて、密室内に直接顕現するという、方法で」
今回密室になっているのは、ある大きな洋館である。
かなりの広さがあり、六六六人衆が今回の作戦のために新しく作った密室であるらしい。
「将来的には数十体のシャドウを滞在させるつもりのようデスが、今のところは六六六人衆ひとりとシャドウ一体。この『どちらか』を倒すことが、今回の最低成功条件となります」
では順番に説明していこう。
六六六人衆『人刈り鎌』。人間の美しい部位を刈り取って殺すことを趣味としているが、刈り取る行為そのものに執着しているためその後は興味を無くしてしまうという退廃的な性格をしている。
ゴシックドレス少女の姿をしているが、これはまだセーブモード。本性を現わすと大量の殺意の腕を伸ばして相手の部位という部位をもぎ取ろうとする。
一方でシャドウ『マリオネット』は巨大な両手と等身大のデッサン人形で構成されたシャドウだ。
どちらが本体ということもなく、右手左手人形の三つそろって一体という扱いになっている。デッサン人形の動きで感情を表現する習性があり、これを破壊されると何らかの本性を現わすだろうと言われている。
他人に『意識の糸』をつけて操ることを得意としている。
「二人の仲は、良くもないし悪くもないデス。ただ趣味が似通っているので通じるものがあるようデス」
「ふうん……つまり、二人ともお人形遊びが大好き、ってことかな?」
律紀はふわふわと笑って言った。
「いいよ、ボクらも一緒に遊ぼう。遊んで遊んで、壊しちゃっても、いいよね……?」
参加者 | |
---|---|
来栖・律紀(ナーサリーライム・d01356) |
霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884) |
アリアーン・ジュナ(壊れ咲くは狂いたがりの紫水晶・d12111) |
ヴォルペ・コーダ(宝物庫の番犬・d22289) |
斎・一刀(人形回し・d27033) |
文月・綾乃(蒼い月・d31827) |
七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540) |
アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020) |
●カニの身を喰うように人の腕を折れ
『どうやって、あそぼうかな。うでをおったり、ぎゃくむきにねじったり、しようかな』
デッサン人形を巨大な両手があやつるシャドウ・マリオネット。
人形は手の中に炎を生み出すと、大きく振りかぶった。
『そうだ。ばくはつあそびを、しようね。くびとつくものぜんぶ、ふきとぶんだよ!』
振りかぶった炎を投げつけるマリオネット。
と同時に、扉が蹴破られ二人の男性が飛び込んできた。
気を失って吊られた女性の両脇を抜け、来栖・律紀(ナーサリーライム・d01356)は蜘蛛の巣のような力場障壁を形成。ヴォルペ・コーダ(宝物庫の番犬・d22289)はガード姿勢のまま手の甲からエネルギーシールドを最大展開。
炎を二人で受け止めると、律紀は蜘蛛の巣状の障壁を拳に纏ってマリオネットへと殴りかかった。
人形が思い切り吹き飛び、壁に叩き付けられて脱力する。
『ひどいじゃあないか、にんぎょうを、ぶつなんて』
両手が一瞬で人形の上に移動して、かたかたと起き上がらせるように動く。
律紀はぱちんとウィンクした。
「やあ、またあったねお嬢さん。沢山遊ぼうネ」
「ギャグボールに縛りプレイなんていい趣味してる。俺もませて貰えるかい」
ヴォルペは後ろ手に指を立てると、後ろの女性を助けるように合図を送った。
一方で、六六六人衆『人刈り鎌』は顔を覆うように片手を当て、左右非対称に大きく歪ませていた。
「灼滅者、か、からだ、からだ……返して貰うって、や、やくそく……!」
大地を蹴って走り出す。
対して。
律紀たちが左右に分かれ、間から霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)とアリアーン・ジュナ(壊れ咲くは狂いたがりの紫水晶・d12111)が姿を現わした。
「……ごきげんよう、素敵なドレスに、素敵な趣味だね」
「そうですか? まあ、そうか」
シルクハットのつばをつまむラルフ。
飛びかかった『人刈り鎌』の大鎌が首に掛かる直前、アリアーンが手のひらから上がった白いもやのようなものに吐息を当てた。
大きく広がったもやが熱を奪い、部屋をたちまち冷却していく。
ぱちんと指を鳴らすラルフ。
途端に冷却した部屋に炎が満たされ、激しい爆発見舞われる。
吹き飛んだ『人刈り鎌』は空中でぐるんと身体を捻り、両足と腕を地面に突き立ててブレーキをかけた。
歯を食いしばって顔をあげる『人刈り鎌』。
その間にアリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)は気を失った女性を叩いて起こし、ラヴフェロモンを発動させた。
「部屋を出て隣の部屋の物影に隠れてもらえますか。わたしたちは、この変なのを部屋から出さないようにしますので」
状況がわからず恐怖する女性に語りかけるアリス。
七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)が縄やギャグボールを切ってはずしていくと、女性はアリスの足にすがるように抱きついてわめいた。
「い、いやです! ここにいます! いっしょにいてください!」
「……」
口を引き結ぶアリス。かえって面倒なことになってしまった。恋愛感情をダシに他人を操作しようとすると、しばしば足を引っ張られるものだ。今回がその『しばしば』だった。
だが構っているような時間も、優しく口説いてエスコートする余裕もない。
紅音は鼻で笑うと、女性の後頭部を蹴りつけて再び気絶させた。
「連れて行って」
霊犬・蒼生を呼び出すと、女性を引きずってよその部屋へと連れて行かせる。
『だめだよ。つれていっちゃ。ぼくがあそぶんだよ』
マリオネットが不自然な動作で追いかけようとするが、入り口前に立ちはだかったアリスがラビリンスアーマーを展開。
払いのけようとするマリオネットを逆にはじき返した。
クローバー形状の指輪を撫でて光を打ち出す紅音。
側面からの射撃に大きく飛び退いたマリオネットは、おおげさな動作で肩をすくめた。
『あーあ。もうしらないよ! みんなばらばらにして、おもちゃばこに、しまっちゃうんだから!』
その一方で、『人刈り鎌』はヴォルペや律紀へ執拗に斬りかかっていた。
二人がかりで攻撃を弾いていなすヴォルペたち。
からん、と二つの人形をたらす斎・一刀(人形回し・d27033)。
「ビハインド、今日の演目は『パンチ&ジュディ』なんだよ。キキキっ……さぁ、ダークネスの目に一発くらわせてやるんだな」
刀を抜いて浮き出るビハインド。
その横で、文月・綾乃(蒼い月・d31827)がビハインド・澪央を顕現させていた。すらりと刀を抜く澪央。
「扉の先には、行かせないからね」
「うるさい。その目、チョウダイ――!」
部屋中に大量の鎌を生み出す『人刈り鎌』。
対して綾乃は刀を抜きつつ結びヒモを発射。
一刀もまた人形ごと糸を放ち『人刈り鎌』へと絡みつけようとする。
ビハインドが両サイドから滑り込み、『人刈り鎌』の腕を左右それぞれ切断していく。
切り取られた腕はまるで腐ったトマトのようにぺちゃんとつぶれて地面におちていく。
「ま、また、わたし、わたしのからだァアアアアアアア!」
目を限界まで見開いて叫ぶ『人刈り鎌』。
そんな彼女に、マリオネットはおどけた仕草で言った。
『ぼく、あのおもちゃを追いかけるね。きみはかってに、いきたりしんだりしていいよ』
「行かせないって――」
扉の前に陣取る綾乃を無視するように、マリオネットは壁に向かって手を翳した。
『えい』
爆発がおき、家具ごと壁が崩壊していく。
気を失った女性が転がり、肩口をくわえた蒼生が焦った様子で振り返った。目を細める紅音。
「逃げなさい、限界まで!」
●昆虫を捻って遊ぶ子供のように
結果として、チームは二つに分かれることになった。
女性を追いかけて遊ぶマリオネット。これに襲いかかって足止めするチーム。
そして今回の主眼であるところの『人刈り鎌』灼滅を目指すチームである。
『そーれ、おどろう!』
大げさな動きでスキップする等身大デッサン人形。
歩幅と全くあわない速度で逃げる霊犬と女を追いかける。
その後ろを、ヴォルペが全速力で追いかけていた。
「お人形遊びなんて歳じゃあないけど、踊るならおにーさんと踊ってくれよっ」
助走をつけてとび、後頭部を狙って殴りかか――ろうとした途端、自らの身体が意志とは無関係に後方からつづくビハインドを殴り飛ばした。
「うお――!?」
まるで身体に糸がついて、無理矢理に動かされているような感覚だ。実際に糸がついているわけではないので力業でこらえるほかない。
『おにんぎょーう、あーそびー!』
かたかたとへんてこな踊りをするデッサン人形。
更に無形の糸が絡みつきそうになったところへ、アリスが防護符を飛ばしてきた。
ヴォルペの身体から呪縛が消え、開放されたかのように膝をつく。
『じゃあつぎはー、きみ!』
無形の糸がアリスへ絡みつく。
と同時に、アリスは大量の拘束ベルトを発生させ人形へと絡みつかせていった。
互いにからみつく糸やベルトを引きちぎる。
横の扉が開き、一刀が現われる。
「カカっ。人形回しとビハインドの舞。特とご覧あれ」
人形を操ってオーラキャノンを乱射。
マリオネットがまるで機関銃の零距離射撃でもくらったかのようなデスダンスを舞う。
綾乃がここぞとばかりに滑り込み、澪央と共に刀による斬撃を叩き込んだ。
ばっさりと切断され、パーツごとにばらばらに飛び散っていく人形。
『ああっ! もう! なにするんだよお! だいなしじゃあないか! まだなかみが、からっぽなのに!』
からっぽ。
そんな単語を聞いて、はたと人形のパーツに目をやった。
ちょうど。
人間が一人中にねじ込めるような空洞が内側にできていた。
「ますます、あの人のもとへは行かせられない」
『いいもん! きみであそぶからさ!』
ぶわり、と炎が広がる。
危険を感じたビハインドたちが盾になるように割り込んだが、直後に起きた爆発で周囲の壁や綺麗な家具や床板や照明器具やあれやこれやが一瞬で粉々に吹き飛んでいった。
盾になったビハインドたちも例外なく消し飛んだようだ。
今度はヴォルペが進路上に立ちはだかる。
「人形が飛び散ってるが、いいのかい?」
『いいさ、つぎのにんぎょうは、きみだもの!』
ヴォルペの腕にがちゃがちゃとデッサン人形の腕が覆い被さっていく。まるで鎧でも着込むように彼を包んだ人形の腕が、曲がってはいけない方向にねじ曲がった。
「がっ……!」
声を出そうとしたわけではない。人体を圧迫されて空気や血液が口から強制的にあふれているのだ。
だがしかし、彼はサングラスの奥でぱちんとウィンクをした。
がちゃがちゃとヴォルペを人形のパーツが覆っていく。
まるでおかしなダンスを踊るように、腰を二回転させたり首をぐるぐるまわしたり、腕をオモチャのようにぐるぐる回したりして人形が踊り始める。
そのたびに接続部から吹き出る血液。
だがヴォルペのメッセージは受け取っていた。
アリスはベルトを人形の各部に引っかけて無理矢理にでも引きはがしにかかる。
その間に綾乃はマリオネットの上に生まれていた大きな手へと斬りかかった。
断末魔のような声がもれる。
一刀はきしむように笑い、人形を操って影喰らいを発動。
マリオネットを大量の影の幕が覆っていく。
一方こちらは『人刈り鎌』。
両目から黒い涙を流しながら、律紀の首へと食らいつく。
「わたしの! からだ! 頂戴! 頂戴いいいい!」
首を食いちぎられる。が、律紀はかたむいた頭で不自然なほど美しく笑った。
「あはは」
『人刈り鎌』の顔面を掴み、眼孔に指を突っ込んで握りしめ、相手の胴体から無理矢理頭を引きちぎった。
けいれんした『人刈り鎌』の身体から大量の殺意があふれ出し、肉体を埋めていく。
カマキリやクモやクラゲや形容不明な動物や、様々な腕やら頭やらが一瞬ごとに歪んでは形成されていく。
もはや人間の形を忘れたかのようにうごめく、少女の胴体をもったなにものかは、律紀の身体に食いつくとぶちぶちとあらゆるものを引きちぎっては飲み込んでいく。
ラルフはその様子に、どこか不思議な表情をした。
「しょうがない。切り刻みましょうか、アリアーン」
「……壊しあいを、しよう」
アリアーンはため息をひとつ漏らすと、どこからともなく大鎌を抜いた。
同じく大鎌を取り出すラルフ。二人はそれを放り投げると、部屋じゅうに大量の鎌を生み出した。
駆け出す。
途中で鎌を掴んで斬撃。
律紀を放り投げた人刈り鎌だったものが刃を握ってへし折るが、すぐに別の鎌を抜いて投擲。投げては抜いて、抜いては投げ、何十本もの鎌が身体に突き刺さった人刈り鎌だったものは、最終的に形容すらできないような殺意の塊になってアリアーンたちに掴みかかった。
二人の首や腕や胴体に掴みかかり、握りつぶさんばかりに爪めいた何かを食い込ませる。
が、それが最後だった。
二人の間を抜け、にいと笑う紅音。
殺意の塊に自ら飛び込むと、中心にある『なにか』を掴んで背中から飛び出してきた。
地面に『そいつ』を叩き付ける。
殺意の塊が散っていき、『かのじょ』はわなわなとなにかを叫んだが――。
「もう遅いのよ」
紅音は足を振り上げて。
振り下ろして。
『それ』を踏みつぶした。
「手間のかかる人形遊びだったわね」
頬に飛び散った赤いものをぬぐって、紅音は言った。
原型をほぼ律紀を修復してから、密室の解かれた屋敷を進んでいく。
一階の広間に一般人の女性が横たわっていた。
かたわらで腰を下ろしていた蒼生が、紅音を見て役目を終えたかのように姿を消す。
奥の廊下から、ラルフとアリアーンが満身創痍のヴォルペを抱えてやってきた。
「随分ひどくねじ切られたようですね」
「……けど、まだ死んでない」
「ははあ、おかげさまで。シャドウは逃げていったよ。密室化が解けた途端にね」
へらへらと笑うヴォルペ。
彼に包帯を大量に巻き付けて修復したアリスは、腕組みをして女性を見下ろした。
「この人はどうしましょうね。放って置いても大丈夫でしょうが」
「一応、安全な所まで連れて行こうか」
綾乃が一刀と一緒にやってきて、女性を抱え上げた。
ぎい、と音を立てて玄関の扉が開く。
ヴォルペを手放して、アリアーンは黒いドレスの裾を翻した。
「……かえろう。それと、これ……」
そして、人刈り鎌が持っていた鎌を投げて渡す。それをキャッチしたアリスは、自らのサイキックエナジーに定着したのを確認してカードにしまい込んだ。
「噺の種としていただいていきます。では、さようなら」
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年12月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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