クリスマス・ブリッツクリーク!

    作者:泰月

    ●トナカイの出番は今回はありません
    「最近、この辺りで『夜に落雷』が起こる数が増えてるんだ」
     とある公園で、国府・閏(普通の女子高生・d36571)は集まった灼滅者達に、屋根が壊れた東屋を背にしてそう言った。
     この破壊こそ都市伝説の仕業、と言う事らしい。
     一体、どんな都市伝説かと言うと――。
    「サンダーとサンタって、語感が似てると思うんだよ」
     閏のその言葉は、事情を端的に現していた。
     つまり、サンタサンダー。語感似てる系な都市伝説だ。
    「全身が雷なサンタっぽいのだったよ」
     12月になって、そろそろクリスマス商戦が始まっている。
     サンタのイラストを目にしたり、その名前を耳にする機会が増える時期でもある。
     だからだろうか。
     サンタとサンダーって語感が似てる、とか、字面も濁点と伸ばし棒の違いだけで似てるなと思ったりとか。
     或いは、「さんたさんだー」と言う幼い声を「サンタサンダー」と聞き間違えたりとか。
     そんな事が重なって、ゴロゴロピッシャンと発生したのかも知れない。
     まあ、この際、問題は原因ではない。
     実際にサンタサンダーが発生し、雷による被害が出ていると言う事だ。
     発生が夜だけであり、被害を受けた建造物に人家が入っていた事がない点から、大きな問題にはなっていないらしい。
    「僕は、これって予行演習みたいなものなんじゃないかって思うんだ」
     今はまだ12月の前半。
     サンタがプレゼントを配るのは、クリスマス前日の夜だとされている。
     都市伝説は、一般人の噂や心象が元となる。
     サンタ要素が入った都市伝説の行動パターンが、一般的なサンタ像に似たとしても、不思議ではない。
    「多分、屋根に穴を空けてお届けするつもりなんじゃないかな?」
     煙突がなければ、屋根をぶち抜けばいいじゃない的な。
     まさに文字通りの電撃作戦。ループレヒトやクランプルよりも、タチが悪そうだ。
    「雷は戦闘にも使ってくると思う。あと、空飛んでる筈だね」
     此方も、使うサイキックを選ぶ必要がある。
     可能なら空中戦を挑むのも、手かもしれない。
     あとは戦ってみないと判らないが、単純に雷を放つだけ、と言う事はないだろう。多少のバリエーションはあると予想すべきだ。

    「何かが間違ってるサンタは、クリスマス前に退場願わないとだね」
     閏の言う通りであろう。
     トナカイの引くソリで冬の夜空を駆け、大人も子供も皆が寝静まった頃に煙突からこっそりお邪魔して子供達にプレゼントを配る老人。それがサンタだ。
     届けるべきは、雷ではないのだから。


    参加者
    古海・真琴(占術魔少女・d00740)
    赤染・達紀(大学生ファイアブラッド・d06179)
    繭山・月子(絹織の調・d08603)
    神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)
    国府・閏(普通の女子高生・d36571)
    沢渡・千歌(世紀末救世歌手・d37314)

    ■リプレイ

    ●雷鳴轟いて
     ゴロゴロ――ドドーンッ!
     冬の夜空、雲もないというのに唐突に雷が鳴り響いた。
     その音に6人の灼滅者達は足を止め、ぐるりと周囲の上空を見回す。
    「あ、あれでしょうか」
     繭山・月子(絹織の調・d08603)が指差した先には、夜空に爆ぜている雷が見えた。
     頷き合い、駆け出す灼滅者達。
     最近の落雷で被害が出ているのは、全て屋根がある無人の建造物。それと同じものがある場所を調べておくくらいはしてある。
    『Ho、Ho、Ho、Ho、Ho――!』
     程なくして、夜空に浮かぶサンタの様な姿でサンタの様に笑う人影を見つける。
    「偽サンタ発見っす!」
    『Ho――!?』
     サンタ服姿の沢渡・千歌(世紀末救世歌手・d37314)が、それをビシリと指差して声を上げると、同時に上がっていた笑いが止まった。
    『NOOOOO!? 見ツカッタァァァァ!?』
     頭を抱える偽サンタの全身が放電し、雷花が弾ける。
    (「今回は命預けますよ! 天狗丸!」)
     放電するのを見ながら、古海・真琴(占術魔少女・d00740)は愛用の職人製箒『天狗丸』に乗って同じ高さに上昇していく。
     間近で見ると、雷を纏っているか、或いは雷がサンタの姿になったようにも見えた。何れにせよ、都市伝説、サンタサンダーで間違いない。
    「予想した以上にアグレッシブみたいだね、被害が少ない内で良かったかな?」
     なんか昂ぶったというか荒ぶったと言うか、それだけで激しくスパークしちゃってるサンタサンダーに、国府・閏(普通の女子高生・d36571)が困ったように呟く。
    「周りが住宅街なのが気になりますが、ここで戦うしかなさそうですね。幸い、ここは公園ですし」
    「騒音対策もしたよ。人避けは中心から外れちゃってるけど、これでいけるね」
     周りを見回して改めてサンタサンダーを見上げた月子に、閏は戦いの音を断つ力を広げながら告げる。
     雷鳴が響く少し前に、怪談で雑霊をざわめかせてある。
     1人で2つ使うにはタイミングをずらすしかなく、敵がいない内はそもそも戦場は存在してない。こちらを後に回すしかなかった。
    『戦ウ? ……サンタ狩リカ! ソウハサセン!』
     サンタサンダーのバックに、ピシャーンッと雷が走る。
     聞こえた言葉を勝手に解釈して、戦闘モードに入ったと言った所か。
    「サンタでサンダー……強敵感あるぜ!! 燃える!!」
     サンダー度合いが強くなるサンタサンダーを見上げつつ、赤染・達紀(大学生ファイアブラッド・d06179)がコートを脱ぎ捨て、代わりにオーラを纏う。
    「最初聞いたときサンタ型のチョコ菓子かと思ったけど……取りあえずさっさとシャクっちゃいましょーかね」
     神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)の剣を握る手にも、力が入る。
     チョコほど甘い相手ではなさそうだ。

    ●ジングル・サンダー
    「ンッフッフッフ! あたしの歌で悪者をお仕置きしちゃうっす! 真のサンタが誰なのか、判らせてあげるっす!」
     千歌がサンタサンダーを見上げて言い放つと同時に、持ち歩いているラジカセから流れ出すクリスマスソングのBGM。
     それに乗せて響き出した歌声は――音が外れまくっていた。ナノナノのナノ山から放たれたシャボン玉も、心なし揺れている。
    『ナ、何ダコノ歌ハ!?』
     だが、それに驚くのはサンタサンダーだけである。
     灼滅者達はまあ何と言うか、慣れていたし、そうでなければ聞いていた。
    『シャラーップ!』
     業を煮やしたサンタサンダーの腕が輝き、バチバチと放電し出す。
     そこから放たれた雷光が、地上へと真っ直ぐに伸びていった。
    「っ……サンタさーん、そんだけ帯電してるんだったら、ウチ来て発電してくんない? 冬場って電気代くってしょーがないのよ……」
     咄嗟に飛び出し体を盾にした律は、サンタサンダーを見上げて、そんな所帯じみた事をぼやく様に告げる。
    『電気ガ欲シイナラクレテヤル。メリクリ・サン――』
    「クリスマスには早すぎですよ!」
     サンタサンダーが2発目の雷を放つより早く、箒に乗った真琴が飛び込んで、光が集まった掌を向ける。
    『ヌォォッ!?』
     至近距離から放たれた光の砲弾を、驚きながらも仰け反って避けるサンタサンダー。
    『グヌッ!?』
     そこに地上から律が放った光の砲弾が、サンタサンダーを撃ち抜く。
     一方、仰け反ったサンタサンダーの真上を飛び越えた真琴は、空中で急速旋回。
     サンタサンダーの正面まで一気に回り込むと、そこから真っ直ぐ突っ込んで、ぶつかる直前で急降下。
    『Ho!?』
    「遅いですよ、サンタのまがい物!」
     驚くサンタサンダーの目の前に急上昇で再び現れ、またすぐに急降下。箒につけた優しいランプの光が、テールランプの様に光の尾を引く。
     サンタサンダーを、地上近くへ誘導しようと言うのだ。
    『ヌ、ヌゥゥ。ハ、速イ……』
     だがその動きを、サンタサンダーは目で追うだけで動けずにいた。
    「さっきの雷凄かったぜ。でも、子供が当たっちゃったら危険すぎる! 是が非でも止めないとな!!」
     その隙を逃さず、達紀がサンタサンダーに掌を向ける。
    「くらえ、紫蘇ビーム!」
     放たれた光は、気を取られていたサンタサンダーを撃ち抜いた。
    「アウリン、古海さんの様子を見てふわふわハート、お願いね」
     空中戦を挑む仲間の補佐をナノナノに頼んで、月子はロッドを上空に向ける。
    (「……紫蘇ビームはああ言う色でしたか。やっと見れました」)
     胸中で笑みを浮かべて呟くと同時に、月子が向けた先端の月長石から放たれた雷光が空へと奔って、サンタサンダーを撃ち抜く。
    『オノレ! ダガ、サンタハコノ程度デヤラレナイッ!』
     サンタサンダーが気合いを入れると、やっぱり全身がバチバチ放電する。
    「何かと激しいサンタだね。ではこっちも激しく行ってみようか?」
     闇の力を強めた閏が怪談を語り出す。
     そして現れたのは、半裸どころか8割近く裸なマッチョ集団。
    『ファ!?』
    「「「「「!?」」」」」
     その強烈な見た目に、仲間もサンタサンダーすらも驚きを隠せない。
    「浜マッチョ達の集団サーブからいくよ。援護もよろしくね」
    『『ナイスバルク!』』
     閏の合図に野太い声で答えて、一斉に撃ち出されるビーチボール。そこにライドキャリバー・ストレッチャーからの機銃も加わる。
    「濃い……」
    「そうかな? 普通だよ」
    『ノフッ!? ウゴッ! グハッ!』
     5人の誰かが思わず上げた声に閏が応える上で、サンタサンダーがボールを受けて呻いていた。なお、外れたボールも多いがそれらは夜空にキランと消えている。
    『クッ……何ト濃イ連中……ン? 何ヲシテイル!』
     ふとサンタサンダーが、自分の真下で歌って踊れるスタンドマイクを頭上にかざしている千歌の姿に気づく。
    「雷だし、避雷針的なものに落ちてきたりしないかと思ってっすねー?」
    『サンタガ降リルノハ煙突ダケダ――レッド・サンダー!』
     サンタサンダーから放たれた真紅の雷撃が、地上に降り注いだ。

    ●雷はどちらかと言えば直流らしいです
     ヒュゥと冷たい風が、公園を吹き抜ける。
    (「……やはり足から冷えて来てますね……けど、安全安心なクリスマスを守るため、もう少し頑張りますっ」)
     ぶるりと小さく身を震わせた月子は、寒さを紛らわせようとぐっと拳を握る。
     マフラーに耳当て、ニット帽と上は防寒対策をしていたが、ホットパンツと言う難点があった。
    「目の保養にはなるケド、寒そーだから。これ使って」
     そんな月子に律が差し出したのは、小さな機械――電気カイロだ。
    「充電まだだけど、大丈夫。電気はソコに沢山ある!」
     律がビシッと指差したのは、勿論サンタサンダー……なのだが、なんか激しく放電していた。
    「充電とか言ってる場合じゃなさそうだぜ!」
     サンタサンダーの全身で雷が荒れ狂うのを見て、達紀が警告の声を上げる。
    『サァァァンタ! サンダァァァァァァストォォォォムッ!』
     その直後、サンタサンダーの全身から放たれた幾筋もの雷光が、地上の灼滅者達へと浴びせられていった。
    「ナノ山さんファイトだーっ! 皆をしっかり守って上げるっすよ!」
     体を張るナノナノを激励した千歌は、視線をサンタサンダーに向ける。
    「こらー卑怯者ー! 降りて来るっすよ! でもってあたしにプレゼント寄越すっす!」
    『降リロト言ワレテ、降リルサンタガイルカ』
     物欲の滲む言葉に言い返し、サンタサンダーは全身から更なる雷を放つ。
     今度は縦横無尽、夜空にも雷が迸る。
    「ペンタクルス、地上をお願いします!」
     ウイングキャットのペンタクルスには地上を守らせ、真琴は雷を掻い潜っていく。
    「くぅっ……雷は出せても、プレゼントはないの?」
     避け切れなかった雷に撃たれながらも、サンタサンダーを挑発する真琴。
     だが、サンタサンダーが釣られて地上に降りる素振りは見られない。
     飛行技術は明らかに、真琴が上だ。だが、サンタの飛行はプレゼントを運ぶ為。速さや飛行技術を競うという概念が、サンタサンダーにはないのかもしれない。
    「それなら……上から!」
     飛行技術で誘えないのなら、やり方を変えれば良い。
     真琴は素早くサンタサンダーの頭上に回り込むと、魔力の矢を降らせる形で撃ち込んでいく。そこにペンタクルスの猫魔法も合わさった。
    「苦しい時は敵も苦しい筈っす! 皆、頑張るっすよ!」
     千歌がギターをかき鳴らし、やっぱり音程の外れまくった歌声を響かせる。だが、ようはサイキックだ。音程がアレでも、何とかなる。
    「回復アリガト! あとで蜜柑買ったげるからね! 先輩! 俺らの連携でたたみかけましょーや」
     千歌に礼を言った律は、そのまま達紀に呼びかける。
    「おお! 結構しびれたが、まだまだ俺は止まらない! ぼっこぼこにしてやるぜ」
     頷いた達紀がテンション高めに返し、2人の影が形を変えて、刃をとなってサンタサンダーに襲い掛かった。
    『グォォッ!? ……ム?』
    「~~♪ ~~♪」
     新たに響く、月子の滑らかなアルトボイスのスキャット。
     何度かリメイクされているSFアニメの歌だったりするが、その声はサンタサンダーの精神を揺らして掻き乱す。
    『グゥゥゥッ』
    「そろそろ派手に打ち上げようかな」
     呻くサンタサンダーの様子を見ながら、閏が語る新たな怪談。それによって姿を現すのは、全身が花火の人型。
    「花火マン、ごーっ!」
     閏の合図を皮切りに、なんかこーウルトラ的なポーズで飛んでいった花火マン。
     そしてサンタサンダーに抱きつき――ドパパパパッ! ヒュルルルッ、ドーンッ!
     火花と雷が反応し、眩い閃光が夜空を煌々と照らした。
     膨れあがった光が、サンタサンダーを飲み込んでかき消していった。

    ●もうすぐクリスマス
    「トナカイとかもセットだったら、もっと大変だったかもね」
     そう呟いた閏の中に吸い込まれるように、バチバチと電気を帯びた光が消えていく。サンタサンダーも、閏の七不思議のひとつになったのだ。
    (「サンタ……か。もしアンタが本当にいるなら……俺の義妹を……返してくれ」)
     光が消えるのを見届けながら、律は胸中で独りごちていた。その後本当に発見の報が届くとは、この時は思っていなかったか。
    「いえーい!」
     気を取られていた律の背中を、千歌の掌がバシンと叩く。
    「やったー! 大勝利っす!」
    「お疲れー。やったね、大勝利ー♪」
     そのまま走っていった千歌は、月子と笑顔で顔を見合わせパシッとハイタッチ。
    「無事完了だな! 街の平和は守られた!」
     2人の隣で、ウンウンと頷く達紀。
    「これで無事クリスマスを迎えられ……あ」
     降りて来た真琴だが、しまった、と表情を曇らせる。
     思い出してしまったのだ。その前に、通知表が来ると言う事を。
    「……嫌なプレゼントが残ってました……って、どうしたんです?」
     少し憂鬱な気分で呟いた真琴は、達紀があちこち動き回っている事に気づく。さっきまで満足げに頷いてたよね?
    「俺のコートがどっか行っちまった!!」
    「あ、それなら――」
    「黒焦げになってたっす」
    「なっ……」
     月子と千歌から告げられた無情な結果に、唖然とする達紀。
    「ラーメンでも食って帰らね? クリスマスって雰囲気じゃないケド、暖まるし」
     その様子を見ての律の提案で、灼滅者達は住宅街を後に飲食店が並ぶ街並みへと向かって行くのだった。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月24日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
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