はらりと舞う雪が頬を撫でる。白い息を吐き出しながら歩む先には海の香が交じり合う。
春に綻ぶ花弁に目を奪われ、夏の星空を追いかけて、秋に笑った魔女たちに手を振れば、湊の風にも寒さが混じる。赤と緑のカラーに彩られ、鮮やかな光に満ち溢れれば季節外れの蛍のように光が綻んでゆく。
駅に大きく飾られたクリスマスイベントの掲示に視線を向けて、踊る様に向かった先は横浜・赤レンガ倉庫。
「今年も、こんな季節なのね」
はあ、と吐き出す白に赤くなった指先を擦り合わせて不破・真鶴(高校生エクスブレイン・dn0213)は瞳を輝かす。
白を基調とした空間は本場・ドイツを思わせた。ヴァイナハツ・マルクトと題打ったクリスマス・マーケットに並ぶ小物は可愛らしい。
小さなサンタが手を振るだけで、心はふわりと浮かび上がった。ヒュッテに並んだノンアルコールのホットドリンクに小さく息をつけば、真昼の空のように眩しく輝く観覧車がゆるりと時を刻んでいる。
今日だけは、もう少し時間が過ぎ去るのが遅ければいいのにと。
――君のもとに、聖夜のお誘いを運んでいこう。
みなとみらいのクリスマス。
そう文字を並べたパンフレットを手にした真鶴は幸福そうに「ジョワイユーノエル」と声をかけた。
「汐先輩、お天気は?」
「晴れ時々雪。ホワイトクリスマスってやつな」
スマートフォンに表示された天気カレンダーを弄りながら海島・汐(潮騒・dn0214)は横浜のクリスマスという慣れない文字を目で追った。
「今年も横浜に行きたいのよ。毎年違った感じで素敵なの!」
恒例となったクリスマスマーケットの露店(ヒュッテ)にはヴルストやハーブティー、スウィーツが並んでいるらしい。もちろん、雑貨も揃っている。
「クリスマスマーケットでプレゼントを探すのはどうかな?」
「それもいいし、赤レンガ倉庫のカフェでのんびりもいいよな」
時間がいくらあっても足りないとぼやく汐に「スケートリンクもあるみたいなの」と真鶴は冗句めかして笑う。
グリーティングのサンタと出会えばプレゼントだってもらえるのだから、一日かけて遊びに行くのにちょうどいい。
横浜を代表する観覧車や、5000本にも及ぶキャンドルを灯した幻想的なカフェも楽しむことが出来る。
「ロマンチックなの! 夜景もね、キレイなのよ」
「山下公園とか聖地だよなあ。あ、俺は中華で食べ歩きとかも楽しそうだと思うけどさ」
チラつく雪の下、15分の空中散歩や海沿いの散歩も普段とはまた違うだろう。
みなとみらいでクリスマスディナーを楽しむのも少し『オトナ』で素敵だと真鶴は目尻を赤らめた。
「今年はどんなクリスマスを過ごす?
お友達とでもいいし、部活の課外活動ってのもいいと思うのよ」
「あー……勿論、デートとかもありだよな。いろんな過ごし方がある」
一人なら俺たちが一緒する、と照れ臭そうに告げた汐に真鶴はどこか楽し気に微笑みを溢す。
「幸福なお話は、みんなで紡いでいくっていうのよ。しあわせな一日になりますように!」
2016年の君がしあわせだと感じる一日になりますように。
●
クリスマス。日本では『恋人たちの日』とも称されるイベントに二人で買い物し、一緒に食事を――そんな平穏な日常を送れる幸せに夏樹はリコの横顔を見つめる。
赤レンガ倉庫にずらりと並んだクリスマスマーケット。木製のコースターを二人用にと用意する彼にリコは「ひみつ」と笑みを漏らす。
「とりあえず、ノンアルコールカクテルと……あったかそうなのと、お菓子と……」
「ちょっと大人っぽい感じだね。……ね、夏樹もこれ飲んでみて?」
購入したノンアルコールカクテル。間接キス、と上目遣いに見つめた彼女は口元に笑み漏らした。
はらりと散る雪の中、灯りの溢れるクリスマスマーケットを歩くニコは「久しぶりだなあ」と目を輝かせた。
「チュロスとハーブティー位なら奢ってやろうか」
相も変わらずの賑わいを振り仰ぎ、「色々なことがあったな」と傍らで白い息を吐き出すポンパドールの横顔を見つめる。思えば、彼の背は随分と高くなった。
「人見知りのお前に俺以外の良き友達ができてよかった」
「ニ、ニコさんだっておトモダチいっぱいできたじゃん!?」
これからも互いに大事にしていこうかと齧るチュロスは甘く薫った。
奇妙な置物を意気揚々と購入した彼女に「雨宮君……」と困ったように呟く霞は、ノンアルコールカクテルを選ぼうかとヒュッテを見回した。
「何に乾杯しよっか……二人の未来に?」
なァんて、そう笑った音に「凄ぇいいじゃんズルい」と霞はぼやく。
途中で買ったプレゼントを何時渡そうかと悩む音の目の前に「ぼんやりしてどうしたんだい?」とわざとらしく問いかける霞の手には可愛らしい小さな袋。
君の笑顔に乾杯――ドヤ顔の彼に乗じて霞と呼びたいけれど、ああだめだ。やっぱり、まだムリ!
去年も横浜には訪れた。今年も――とそう思えばセレスティアの心も踊る。
「あ、帽子屋さん……んー……わたしは、帽子より、髪飾り、かしら?」
あさひの方が。そう言う彼女に旭は「似合いますかね?」と首傾ぐ。
毛糸の帽子だって暖かい。海色の瞳を瞬かせる彼女に旭は「買っていこうかな」と彼女のセレクトの紺色の帽子を手に会計へと進んでゆく。
それから。暖かなドリンクを手にしてツリーを見よう。そして願いを口にしようか――来年も、君と一緒に。
人がたくさんだから――ぎゅ、と握った指先は冬の寒さも和らげて。
すてきと軽やかなステップを踏むみかんは「サズさん」と手招いた。
「サンタさんって会ったことある?」
プレゼントだって大学生(おとな)は貰えないと呟くサズヤにいい子だからとふわりと笑ったみかんは鞄の中から包みを取り出した。
スノードームはいい子へのプレゼント。冗談めかして笑った彼女の手を引いて、サズヤは『いい子のみかん』を露店の前へと誘った。
星煌めくブレスレットをその腕に飾れば、心は自然に暖かで。バウムクーヘンに暖かいココア――今は少し休憩しようか。
色々あるんだなと周囲を見回す勇騎の傍らで、「色々ある」と瞳を輝かせる里桜の心は自然に逸る。
食いしん坊な里桜の目尻に赤みが差し込んで「あーんってしてもいい、かな」と恥じらいを浮かべながらちらりと見やるその姿が愛おしい。
「随分積極的になったな」
食べ歩きをしながら、雑貨を見やればシュパンバウムという削り木が二人の目に留まる。
来年のクリスマスにはこれを飾ればいいだろうかと、何気ないそんな言葉がどうしても幸せで、ゆっくりと掌を握りこんだ。
「流石に人が多いね……そんなにしっかり手を繋がなくっても」
逸れても優志の背は高いから簡単に見つけられると美夜は首傾ぐ。しっかりと握りしめられた掌は暖かなぬくもりを感じた。
「買うどうかは慎重にね。あんまり悩んでると『隣の人が勝手に買って』きちゃいかねないし」
表情を覗き見ている――そんな彼の行動を牽制するように睨みつける瞳さえも愛おしいから。
後で彼女の気に入ったものを購入しようと心に決めたそれに「無駄遣いは赦しません」と見透かしたように柔らかな声音はそう言った。
●
中華街は変わらずの喧騒に包まれる。
誕生日の食べ歩きのお礼だとファティマは「今日は私が出そう」と真鶴を手招いた。
パンダを模した肉まんを、と金の瞳を細める真鶴にファティマの口元には自然と笑みが零れる。
「……不破、楽しいのはわかるが、転ぶなよ」
つんのめった彼女にファティマは友人と共に過ごす一日は楽しいと小さく呟きクリスマスマーケットに向かう彼女を見送った。
ホットドリンクを購入しようと屋台を見回す華月はマシュマロ入りのホットチョコを見つけ雷歌を振り仰ぐ。
二人で歩きながら目移りするのは楽しい。きらきらと綺麗なものが多いから、ふらふらと去っていきそうな華月の手を彼は握る。
『迷子対策』なんて言葉、言い訳がましい――でも、手を繋ぐだけで幸せだから。
「ねえ、いつか自分の家でいろいろ飾ってクリスマスを過ごすなんて言うのもしてみたいな。
……それでね、雷歌さんが一緒に居てくれると、うれしいなって」
それなら俺はツリーだな、と笑った彼が手に取ったオーナメント。その時はこれを飾ろう――ずっと、こうして寄り添いながら。
ノンアルコールカクテルは去年も飲んだと振り仰ぐ悟に「乾杯しませんか」と想希はカップを掲げた。
二人そろって選んだバウムクーヘンの『おそろ苺』の味わいは、何時もよりも妙に甘ったるく感じて。
「あの大きいマシュマロもおいしそうです。半分こしませんか?」
二人揃って腹を満たせば、足は自然に雑貨を目指す。飾られたトナカイの置物に「誰かに似てる」と小さく笑みが漏れた。
「俺こんな鼻赤ないで!?」
雪が降っても握る掌が暖かい。この幸せをもう少し、二人だけの二次会でも続けよう。
喧騒の中、のんびりとベンチに座った雄哉の隣で「横浜に来るのは初めてだったわ」と愛莉は瞳を輝かせる。
「真鶴さんにお返事しなきゃいけないことがあるんじゃないの?」
その言葉に背を押され、雄哉はぎこちなく言葉を選ぶ。
「お久しぶりです。えっと……そろそろ言えるかな、と思って」
ずっとお返事待たせてましたからと口の中で呟く雄哉に目を丸くした真鶴は「雄哉さん、雰囲気変わったのね」と小さく笑みを漏らす。
「友達に、なってください。まだ、少し人が怖いけど――だいぶ平気になりました」
ぎこちない彼の隣で愛莉が大きく頷く。歓びに笑みを漏らし「よろこんで!」と頷く真鶴は彼女の姿に首を傾いだ。
「真鶴さん、初めまして」
にこりと笑った愛莉へと「マナと呼んでね」と新たな友人に微笑む真鶴はショコキュッセを差し出した。
●
颯爽と滑り出す志歩乃は故郷でも上手だったと振り仰ぐ。話しかけていたはずの相手がいない事に違和感を感じてみれば――
「統弥さんー?」
スケート経験は三回程度。そうなれば、彼女のようには滑れないと立っているのがやっとな統弥は曖昧に笑う。
滑りを教えるね、と手を引いて、リンクの縁をなぞる様にゆっくりとエスコートする志歩乃に統弥はほっとするのも束の間。
「助かるんだよ――なぁっ!」
つんのめった彼の手を支えて、「めんこくみえていいねー」と笑った志歩乃の方が一枚上手なのだろう。
茫としたまま、智之はどうにも笑えないのだとゆっくりと瞼を伏せた――自分が分からない。
曖昧な思いを抱えたまま滑る彼に「すごい、かっこいい!」とはしゃぐ想々は僅かに目を瞠り唇を引き結ぶ――私は邪魔だろうかと、そんなことを考えてしまうのは氷が冷たいからだろうか。
「想々」
呼ばれた名に楽し気に顔をあげた想々はそのままずるりと滑り、尻もちをつけば手が差し伸べられる。
彼の心に触れる事ができなくとも――あなたと居られる気持ちがとても、うれしい。
4年の月日がたてば『もう4年』。それとも『まだ』?
どちらも気持ちとしてはあると樹が唇に笑みを乗せれば拓馬は俺も、と彼女の手をとった。
クラスのみんなと一緒に並んで行ったスケート――それが気づけば二人きりに。
「拓馬くんと滑っていた時が一番楽しかったわ。それに、プレゼントも」
「樹のイタズラだって。あの時はおあいこかな」
今日は悪戯しないからと差し出す手。その手を握ってもう一度。
今なら景色だって楽しめるような余裕がある気がするから、見て、こんなにも輝いている。
雪降る日は身を縮まらせるようで。ふるりと震えた春は「コーチ、お願いしまーす」と笑ったひよりに大きく頷く。
「ねえ、あずまくん。手。繋いでくれる? だって、お姉ちゃん転んじゃうもの」
はい、と元気よく差し出された手に「しょーがないな」と彼はゆっくりと手を取った。
合図に合わせて滑り出せば、ひよりは心地よさに目を細める。
「転びそうでも助けるし安心していーよ」
――あずまくん、ありがとう。
返事はしないけれど、寒くないねって只、笑って。
雪国生まれ――けれどスケート経験はないと彩歌は小さく瞬く。スキーなら得意だと彼女は笑みを溢した。
「お兄様さえよければスキー旅行とかも楽しそうかもしれませんね」
「……寒いのが手なの知っててそういうこと言うか?」
楽し気な彩歌の手を取って、悠一はそろりと氷の上を滑り出す。
こんな寒さも悪くないと悠一が小さな声で呟けば「私も寒くないです」と彩歌は彼の名前を小さく呼んだ。
「こっちだよ」
保護者役のつもりだったのに――大人びた輝乃を見ると自然と鼓動が音を立てた。
スケートは初めてだと言う彼女がずるりと転ぶ。慌てて助けようと手を差し伸べた脇差はそのまま――
庇うことで下敷きになった脇差に慌てた様に輝乃は飛びのいた。
近くのベンチへと移動して、こっそりと購入したストライプの革製手袋を差し出せば脇差はうれしいと口元に笑みを溢した。
「――あー、こっちこそ、ありがとうな」
今日の感謝をと笑みを溢す輝乃の髪へ薄紫の花を飾って脇差はふい、と目を逸らした。
サンタに会えればいいなと歩き出す羽衣。耳当てとブーツにあったかカイロケース。気づけば一緒にいた分だけ大切なものが増えていて包まれて暖かい――羽衣の言葉に彗樹の心もほっこりと温かくなる。
「うい、レープクーヘン食べてみたいの!」
ガイコクの味を楽しもうと手を繋いでヒュッテを巡れば、腹ごしらえも十分に。
はじめましてのスケートにチャレンジしようと氷へと躍り出た。
両手を引っ張り紳士的にリードする彗樹に羽衣は楽し気に目を細めれば、彼は笑う。
「コケても俺が受け止めてやるからさ、こんな風にっ!」
●
「ご覧くださいな。小屋の飾りもかわいいわ!」
イコと希沙のの歩調は速い。置いて行かれない様にと緩めて早めて宝探しに出かければ、小太郎は「しまさん」と彼女を呼んだ。
「しまさんが一番ときめく店を教えて。そこがオレ達の行きたいところ」
イコが手にした旧式一眼。希沙と小太郎のツーショットをと特大ハートのプレッツェルと一緒にフィルムに収めれば、彼の頬が赤く染まる。
ええいと勢いよく二人で齧り付けばその頬袋もぱしゃり。プレッツェル越しのイコが笑み溢す。
「せや、イコちゃん」
希沙と小太郎から大切な友人へ――君に似合うからと選んだよろしくのしるしは白いミトンに緑のリボン。
「――吃驚、したわ」
瞬くイコの表情が喜色と幸福に入り混じる。瞳に滲んだ涙に小太郎は柔らかに語り掛けた。
「おかえり」
――ただいま。
「さぁ、クリスマスマーケットで掘り出し物を探すんだ!」
「しかたないなー」
コロナの衝動買いはとまらない。荷物持ちとなる悠は木製のオルゴールと飛行機のオーナメントがお気に入り。
ふと、西洋柊の模様がある懐中時計を手に振り向くコロナは微笑んだ。
「セットで売られてたから1つあげるよ。そこのカフェでサンタを捕まえる計画でも立てようじゃないか!」
それじゃあと子犬のエンブレムのオルゴールをお返しに。次は腹ごしらえと行こうじゃないか。
絵本の中みたいだと走り出した祝の背中を冷め気味に見送る翌檜はゆっくりと歩き出す。
チュロスも飲み物も、欲しいとはしゃぐ彼女に翌檜は「はいはい」と肩を竦めた。
「やっぱりツリー欲しいなあ。先輩、何か欲しいものある?」
彼女の言葉に「暖房かな」とカフェを指さす翌檜は自分でもノリがわるいと感じた。
からころと下駄鳴らして先行する祝が「どしたの先輩」と振り仰げば何でもないと手を振った。
――普通の女の子らしく過ごさせてやれてるのか。
欲しいものはその姿だけで満たされてしまったから。こんな当たり前の日常が続けばと切に願う。
関係を言葉にすれば恥ずかしい。要はデートなのだと胸中に思いめぐらせる幽香は慧の背を見つめた。
「折角だからカフェ行ってみようか」
幽香の好みかわからないけれど、とテイクアウトしてベンチへと彼は慣れた足取りで誘った。
病院に引き籠る幽香には新鮮で、「逸れたら困るし」と理由付けて差し伸べた手に慧は頷いた。
「ほいこれ、あげるよ」
軽めの包みを差し出して、誘ってくれたお礼だと笑う慧に幽香は笑みを溢す。
心から温まる素敵なものをもらったと、口には出さないけれど。
マシュマロドリンクやチョコかけフルーツ。目移りするとはしゃぐ陽桜に真鶴も「バウムクーヘンもおいしそうなの」と笑み溢す。
「あ、あれ、食べましたよね…。食べたくなっちゃうなあ」
きょろりと周囲を見回して陽桜の視線がぴたりと止まれば――「真鶴さん、サンタさんです!」
くい、と袖を引き慌てて走る陽桜に真鶴も笑みを湛えて走り出す。
「陽桜さん、プレゼント貰いましょ!」
「写真も撮ってもらいましょうね!」
少女二人、目当てはサンタクロースの『プレゼント』!
「よう、不破。此処であったがナイスタイミング」
ひらりと手を振って供助は真鶴を呼び止める。トナカイとスノーマン――二つのスノードームを差し出せば真鶴がぱちくりと瞬いた。
「んー……トナカイ、かなって思うの」
その言葉に頷いて、会計をし包みを真鶴へと手渡した。瞬く彼女に供助は「礼、言ってなかったから」と呟く。
「この前見つけてくれて、ありがとな。そいだけ、メリクリ」
ひら、と手を振って背を向ける供助におかえりの小さな声。背を押され、ヴルスト片手に贈り物を探しに行こうか。
みなとみらいは三度目。観覧車、スケート、それから今年――指折り数えた彼女と逸れぬようにと手を繋いで葉は白い息を吐き出した。
「今年はね、クリスマスの雑貨が欲しいの」
『毎年』の短さに千波耶はツリーへ向けて歩みながら葉に笑み溢す。
蜜色に照らされながら、あれもこれもとヒュッテに寄り道する千波耶に「冬籠り前のリス」と言いかけて首を振った。
今しかないものだから、そう告げて手にしたのは手のひらサイズのスノードーム。見えるツリーを閉じ込めた、それは三度目で初めてのクリスマスの記念。
「買うもん決まった? んなら、それ俺が払うわ」
――ずっと待っててもらったから、これくらいは。モミの並木を抜けてあのツリーのてっぺん星を来年も見よう。
●
「ふわわ、観覧車きらきら綺麗なのです~!」
観覧車を眺める優希那はマッキに誘われてゴンドラへと乗り込んだ。
少し寒いから――隣へとするりと滑り込みコートの中へに潜り込めばぬくもりが感じられて。
「ゆきな照れてる?」
頬を赤らめ、えへへと笑った優希那をぎゅ、と抱きしめて「幸せな気持ちになれるね」とマッキは笑う。
「こんな穏やかな時間がとっても幸せだなって思うのです。また来年も――」
――来年は中華街に行こうか。君とたくさんの場所に行って思い出を増やしたいから。
「実は、観覧車に乗るんは初めてなんです。今日は初衣さんと一緒に見れて夜景もええなぁと思いました」
初衣とだから、と笑う朱彦の袖をくい、と引いて初衣は「あの、」と声を震わせる。
「なにか、ほし、いものは、ありま、すか……?」
ふ、と立ち上がり、彼の唇が重なった。合わさる唇は初めてで、熱がどうにも離れない。
「もう、もろたよ?」
唇に指で触れ愛おしいと笑う彼に嬉しさと恥ずかしさに頬を赤らめ初衣は「うぅ」と唸った。
去年も同じ景色を二人でみた――今年も見れる嬉しさに郁は笑み漏らす。
(「あれから少しは大人になれたかな、僕は……」)
茫と光を眺めた修太郎を見つめる郁はゆっくりと手を伸ばす。触れあう肩と、絡めた指先が妙に熱い。
積極的ですねと茶化す様に言う修太郎に彼女は「もしてっぺんで観覧車が止まったら?」と冗句を溢す。
「そうなったら椿森さんにしがみついて離れないよ!?」
好きだから、くっつきたいから悪くない。地上が近づくと名残惜しい熱をもう一度――このまま。
観覧車に、と手招くシャルロッテに誘われて律はオーケーとゴンドラへと乗り込んだ。
学園を探し指さすシャルロッテに「反対じゃないかなぁ」と茶化す律に彼女は嗤う。
いつもよりはしゃぐシャルロッテの姿に律は仄かな違和感を感じる。
「これでも、ひとつはお姉さんデスカラ、頼ってくれてもいいんデスヨ」
ごめんね、と小さく呟き彼氏失格だねと肩に寄り添えばぬくもりが心地よい。
この後はディナーにいこう。いつもの自分で君と笑うから。
「宝石箱にダイブしたみたい!」
キレイと笑み溢す千穂は秋帆を仰ぐ。眩しいと、手放し難い世界を目にした秋帆は息をついた。
あき、と漏らされた声を抑える様に抱き留めて。眩しい世界から彼女を隠してしまおうと。
このまま百週――二百週。こうしていたいと二人で願う。
ゼロ距離のぬくもりも、その優しい声も、ぜんぶ、自分のものにしたいから、見上げる視線に秋帆は笑った。
「なぁ、千穂」
――今は俺に独占権。
寄り添う様に傍らに座れば、温もりが感じられる。
「観覧車って星座盤の形と似てるよな」
くすりと笑み溢す錠に理利は大きく頷いた。2年前のクリスマスは星を見上げたけれど――今は自分たちが欲しなのかと彼は瞬く。
失う怖さが胸に過るのはどちらも同じ。寂しいという気持ちを分けてくれた彼にゆっくりと声を震わせた。
「……その手に触れてもいいですか?」
ゴンドラが下降していく。理利の震えた指先を掬い上げ「俺たちの部屋に帰ろう」と彼は笑み溢した。
空の星と地上の光。どちらがきれいだろうかと首傾げる七葉に「綺麗だねえ」と銀河も身を乗り出した。
二人と夜景を見下ろして藍花は「あの光のひとつひとつに人が暮らして、泣いたり笑ったり、時節柄愛を語らったりしているのかな、と、想像してみたりです」と白い息を吐いた。
「景色もきれいだけれど、七葉も藍花も綺麗になったよねえ」
まじまじと二人を眺め、がばりと抱き寄せた銀河に七葉は「銀河さんも藍花さんも素敵だと思うよ」とぽつりと呟く。
首傾げた藍花に七葉は「また3人でお出かけしようね、約束、だよ?」と小さく囁き指切りを交わした。
「真鶴嬢! いってきます!」
ただいまと抱きしめて、心桜は明莉と共に走り出す。
頭上の星空、海を見れば星とイルミネーションの光の雫。観覧車に乗りこめば、心桜は落ち着いたと息をついた。
「……明莉さん、おかえりとただいま」
初めて手を繋いだ時に心桜と呼んだっけと小さく笑う。
「よろしく、望月」
何があっても手を離さない。であった奇跡をもう一度始めよう。
「おかえり、心桜」
――あなたを呼ぶから。
「高いところから見るイルミネーション、きれいでござる!」
雪が光を反射してきれいだとサーニャは瞳を輝かせた。楽しいと、暖かい飲み物を掌で包み込み夜霧ははしゃぐサーニャの横顔を見つめる。
「にゃはー……」
あれもこれも意識しちゃうから。そんな彼女に「来い」と膝を叩いてからかえば、サーニャの頬が赤く染まった。
胸がぎゅ、と切なくなって恋とはこれなのかと唇を震わせる。
「夜霧殿、だーいすき!」
●
眩い光に目が慣れた。人の気配は少しだけ――頬撫でる風は少し冷たく感じさせた。
海面に一層煌めく夜景をみをきは白い息を吐きながらそういう場所なんですよと、下準備で得た知識を披露して口数が多くなる。そんな彼に壱は笑みを溢した。
「んっ?」
赤い耳を気にしていればお留守の掌はポケットへと吸い込まれていく。
「今年はいろんなことがありました――来年も一緒に居ましょう」
ズルい、と小指を絡め、約束しよう。これからの未来を。
寒いと手に息を吹きかけた。雪降る位に寒いから手を繋ごうとさりげなく繋いだ真咲に初美は俯く。
綺麗で神秘的――恥ずかしげもなくそういうものだから「君の熱で溶けるから大切に扱うのだよ」と軽口を叩いた初美の頬は更に赤く染まった。
「そういえばまだ、1年なんだな」
それから何か変わっただろうか、この世界の有様以上に、そういえば真咲は「初美を好きになったことだよ」とわざとらしく名を呼ぶ。
思い出は君に染まっていくから、これからも――ずっと。
「ほらっ、いちごくんっ。ここに一緒に来たかったんだ!」
恋人同士になって1年――その思い出と1本のマフラーでのぬくもりに微睡むいちごは「わぁ」と瞳を輝かした。
「前はイルミネーションの中だったけど、今年は遠くから見るのもいいかなって思って。その……好きな人と一緒に、ね」
海面の向こう側、きらりと輝く夜景が見える。去年はあの光に包まれていたから。
頬が赤らむ由希奈へと、ゆっくりと近づいて唇を重ねれば、ずるいと 言葉が漏らされた。だから、もう一度今度はゆっくりと――
「去年も、ここに訪れたの……覚えてますか?」
ゆったりと微笑みかけるさくらに凍路は大きく頷いた。
かなり長い時間を一緒に過ごしているはずなのに――どうしても、こころは落ち着かない。
あの頃から好きだと自覚していたから。凍路は嬉しいと彼女の手を握る。
「……少しだけ、甘えていいですか?」
いくらでも。さくらの頭がこつりと肩に乗る。そのぬくもりに来年もこのぬくもりと共にあれればと願ってや案内。
――かみさま。願わくは、これからもこんな風に、隣にいられますようにと。
ベンチに腰掛け、ライはイルミネーションに見惚れたように息を吐いて――「黒?」
姿が見えないと周囲を見回す彼女の肩をぽんと叩いた黒が頬へと指先をぷにと差す。
「黒……!」
む、とした彼女を抱きしめれば、重みで体が倒れてくる。頬を赤らめるライがすこし背を伸ばし、唇を重ねた。
「クリスマス……プレゼントだよ……メリークリスマス、黒」
「――ライが好きでいてくれるうちは絶対話さないから」
●
初めてのイルミネーションと観覧車。周囲を物珍し気に見回す汐音に銀静は「行きましょう」と手を引いた。
そろりと乗り込む汐音はきょろりと周囲を見回し、息を飲んだ。
「初めてでしたよね? ええ、楽しんで何より」
ささくれた心が和らいだ気がして銀静は口元に笑みを湛える。「こんなきれいな夜景、初めてです」とほほ笑んだ彼女は、瞬いた。
「来年も」とそういった銀静に汐音は小さく瞬いた。
ロマンティックだね、とうっとりした花恋に「素晴らしいですねぇ」とロジオンは頷いた。
「少し早いですが、プレゼントでございます」
二人きりだからと、開いた小さな箱。きらりと輝く指輪が覗く。お揃いですよ、と右薬指を見せたロジオンに花恋はきょとりとした。
「――ロジー、これって……アタシに?」
左の薬指に指輪を飾った彼女に「日本では此方ですね」とロジオンは笑み溢した。
幸福の鐘までもう少し――
今までも二人で出かけることはあったけれど――恋人となってからは初めてだと夕霧は俯く。
「これならあんまり気にせず使えるんじゃないかなって」
ゴウンと音たてたゴンドラ。二つセットのシュシュに、夕霧は胸の高鳴りを感じて息を飲む。
「夕霧ちゃんと『恋人とのクリスマス』を過ごせてよかった」
好き――なのだ。お礼を、と頬に一度だけ口づけて。
「大観覧車! の、透明ゴンドラ!」
わくわくしない? ――なんて、振り仰いだ希に厳は「勿論」と唇を釣り上げた。
足元もすげェと厳は宝石箱にブチこまれたみたいだと笑った彼に花弁のように降る雪に希は言葉を失った。
夜景だ聖夜だと目に見えて沸き立つ性質は持ち得てないが友人が幸福そうなのは悪くない。
「な、なに? 俺、何か変だった?」
かぁ、と頬を赤らめて、見るなよとむくれた希は「何か奢れよ!」とふいと顔を逸らす。
「バーカ」
ただ、一言だけ、返して。
2度目の観覧車。懐かしいと茫とした霧夜に「寒くはございませんか?」と巽は柔らかに声をかけた。
「問題ない」
そう言えば指先を包み込むように暖かな掌が伸びてくる。
「霧夜様はサンタクロースが見えて居そうですね」
冗句めかす彼に「そうだな、」と呟いて、つられるように外を見やる霧夜は冬空をじ、と見つめ指さした。
あそこにいる――間をあけて冗談だと付け加えた霧夜に巽は拗ねた顔や笑みを漏らし、「私のサンタは霧夜様かもしれませんね」と冗句めかした。
「大観覧車! 私、高いところって好きなんだ!」
シュエット――茴香は雪音の言葉に大きく頷く。みなとみらいのクリスマスは初めてで、心が躍る。
田舎出身の自分には珍しいと瞬く雪音に「観覧車ってとても好きなのよ」と茴香は微笑んだ。
「……こういうのって大切な人と乗るのが一番なのかしらね?」
縁がないけれどと考える雪音に降るのは――「私は雪音ちゃんのこと好きよ」
「私も好きだ!」
二人そろって笑みを溢し合って。ほら、降りたら次の目的地は見下ろしたあの店だ。
クリスマスは特別だから。運ばれる料理を見つめながら久遠は息をつく。
「幻想的だが、温もりを感じる炎だな」
冬だからかな、と首傾げる言葉の緊張は浪漫溢れるキャンドルを眺めるうちに次第と溶けてゆく。
「初めて共に過ごしたクリスマスも、キャンドルを眺めたな」
あの頃はこんな風になると思わなかった、小さく呟く言葉へと「共に歩んでくれることを感謝する」と彼は向き直る。
これからも、思い出を作っていこう。
初めてのデート。その為に拵えた一張羅だと桃瀬は緊張したようにウサギを見上げた。
『カワイイ男の娘』は今日はお休みだと男の子らしいウサギに桃瀬の心もとくりと跳ねる。
(「う、ウサギさんは、かわいいって思ってくれてるっすかね……?」)
緊張に、下した髪を指先で弄った桃瀬はちらりと視線を送る。
「あ、ご、ごめん、すっごくかわいいよ、桃瀬ちゃん」
頬を赤らめ、二人共の視線が逸れる。ウサギさん、と呼んだ桃瀬は「だ、大好きっすよ」と思いを吐き出した。
「うん、ウチもっ。桃瀬ちゃ……桃瀬のこと、大好きだよ。……絶対に、離さないからね」
背伸びをしてディナーを、と向かい合った美希は「優生君」と呼んだ。
「結婚してください、って、言って下さったですよね。お嫁さんを『先輩』って……? ねえ、これを機に名前だけで呼んでみませんか?」
ああ、頬が赤くなる。そんな彼がかわいいからと『お姉さん』は小さく笑った。
「美希」
なぞった名は照れくさくて、耳まで熱い――煌めく宝石のようだと優生は瞬いた。
「……やっぱり、もう暫くは『先輩』のままで良いです」
ふたりきりのときにと囁いた声に今だね、と彼は悪戯っ子のように笑った。
「――美希、愛してる」
作者:菖蒲 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年12月24日
難度:簡単
参加:95人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 4
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