ふわもこトナカイの幽霊

    作者:芦原クロ

     とある多目的ホールでは、クリスマスパーティーが開催されていた。
     噂が都市伝説になっていないかを確認しに来た、神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)と灼滅者たち。
     パーティー会場に入ると、一般人の悲鳴が響いた。
    「やだ、お化け!?」
    「喋ってるぞ!」
    『あ、あの、私もパーティーを楽しみたくて……あ、待って、逃げないでください……』
     全身がほんの少し透けているトナカイが、申し訳なさそうに喋る。
     あっという間に、一般人は逃げてしまい、ホール内には悲し気なトナカイと、灼滅者たちだけになった。
    『私だけではパーティーにならない……悲しい』
     しょんぼりしているトナカイの幽霊こと、都市伝説は、まだ灼滅者たちに気づいていない。
    「クリスマスパーティーに紛れる幽霊、ほんとに居たね。トナカイの幽霊だったのは、意外だったけどね」

     逃げてしまった一般人を見た限り、クリスマスに関した仮装ならしても大丈夫なようだ。
     ホールにはテーブルがいくつか有り、その上には美味しそうなご馳走が並んでいる。
     トナカイと一緒に、クリスマスパーティーを楽しんでいれば、トナカイは弱体化するかも知れない。
    「中央には大きなツリーも有るし、みんなでクリスマスパーティーしよう?」


    参加者
    神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)
    獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)
    沢崎・虎次郎(地獄の厨師・d01361)
    青海・竜生(青き海に棲む竜が如く・d03968)
    烏丸・伴(ブラッククロウ・d04513)
    芹澤・夢(虹色パスカル・d08286)
    太治・陽己(薄暮を行く・d09343)
    水沢・安寿(花色天使・d10207)

    ■リプレイ


    「メリィィィィ! クリスマァァァァス!!」
     烏丸・伴(ブラッククロウ・d04513)が大きく叫び、仲間たちと一斉にクラッカーを鳴らす。
     落ち込んでいたトナカイは、期待に満ちた目を灼滅者たちに向けた。
    「大丈夫、ゆきたちのクリスマスパーティーはこれから! 思いっきり楽しもうね♪」
    「折角のクリスマスだというのに、都市伝説とは言え寂しい思いをしてる奴は放っておけないすね!」
     神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)と沢崎・虎次郎(地獄の厨師・d01361)が、トナカイに向けて言う。
    「……華やかなものにしよう」
     仲間たちの賑やかな空気を読み、太治・陽己(薄暮を行く・d09343)は静かに呟く。
    (「今日は楽しいクリスマスパーティ。いっぱい食べて遊んで楽しく過ごしたい。都市伝説でもそう願う気持ちは変わらないものなんだね」)
     トナカイをちらりと見た、青海・竜生(青き海に棲む竜が如く・d03968)が、考え込む。
    (「そう考えると、何だかやり難いな」)
     一般人を攻撃するわけでも無く、ただパーティを楽しみたいだけのトナカイに、竜生は複雑な想いを抱える。
    「さぁトナカイさんも一緒に楽しもうね」
     水沢・安寿(花色天使・d10207)は、作って来たクッキーをトナカイに差し出す。
    「折角のクリスマスですから、笑顔でいなきゃ、勿体無いです」
     トナカイに対し、笑顔を向ける芹澤・夢(虹色パスカル・d08286)。
    「さあトナカイよ、思う存分楽しみ抜くが良い!」
    『は……はいっ! よろしくお願いします!』
     大きな態度の獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)を前に、トナカイは子分状態になった。


    「クリスマスには、やっぱりケーキがないと! トナカイさんにも切り分けてあげます。苺で作ったサンタさんも添えてあげましょうね」
     夢が持って来たのは手作りの、ブッシュドノエルが2本。
     飾りつけや形も良く出来ていて、見ているだけで、わくわくしてしまう。
    「夢ちゃんの作ったケーキ、食べちゃうのが勿体ないくらいね」
     完成度の高いケーキを見て、安寿がフォークを刺すのをためらう。
    「あたしはステンドグラスクッキーを焼いてきたので皆さんもどうぞ……太治くんはどこへ?」
     オシャレなクッキーを仲間たちやトナカイに配り始めた安寿が、太治の姿を求めて視線をさまよわせる。
     太治は、ご馳走が並んでいるテーブル付近に移動していた。
     料理人志望の為、ご馳走の味付けや盛り付けに、太治は興味を持ったようだ。
     さらに太治は和食専門だった為、ローストチキン等の料理を食べたことがない。
     味を覚える良い機会だと判断し、積極的に食べている太治。
     恋人が料理好きなのを知っている安寿は、微笑ましい光景にほんわかしている。
    「折角のご馳走、食べなきゃ損!」
    「この肉美味いぞ! 彩りも綺麗だ!」
     虎次郎と、くるりは、美味しそうな料理を片っ端から食べてゆく。
     一通り食べてから、美味しかった物をトナカイや仲間たちに、オススメする虎次郎。
    「ほら、お前さんも食え食え! これとか超美味いぞ!」
    「トナカイさん、これもどうかな?」
     伴と竜生がトナカイに声を掛けると、トナカイは嬉しそうに近寄ってゆく。
    「お食事、どれもおいしくて幸せね。夢ちゃんのケーキも、安寿ちゃんのクッキーもすっごくおいしい♪」
    「ゆきちゃん、ありがとう」
    「ありがとうございます。結月ちゃん」
     結月のことを、かわいいと思っている安寿と夢は、そんな相手から褒めてもらえたのが嬉しく、微笑む。
     幸せといえば、伴も幸せそうな顔をしている。
    「どっちもうまくて、ばんちゃん感激だぜーい」
     伴は安寿と夢が作ったお菓子を、思う存分、堪能していた。
    「クリスマスを楽しまずしてなんとする、例えそれが都市伝説であったとしてもだ!」
     大はしゃぎしながら、大食いのくるりは、まだ足りないとばかりに食べまくっている。
    「食い過ぎんじゃねーぞ」
     虎次郎がさり気なく心配するが、くるりの食べっぷりは止まらない。
    『豪快な食べっぷり……見ていてわくわくします、さすが親分!』
     親分? と、首を少し傾げる、何人かの灼滅者。
    「そろそろ音楽に合わせて楽しく踊りましょ! 虎さん音楽お願い♪」
     結月が仲間たちに声を掛け、音楽担当の虎次郎が頷く。
    「夢ちゃん、俺がリードするから楽しもうな!」
     伴が夢の手を取り、夢のペースに合わせながらも、しっかりリードする。
     おぼつかない動きだが、伴と踊れることが楽しく、夢は頬を染めて赤面する。
    「楽しいやら恥ずかしいやらで……顔が熱いです」
     はにかみながらも微笑む夢の愛らしさに、伴はあっさり落ちた。
    「ダナ、トナカイさんと踊っておいで。あたしは太治くんと一緒に……踊ってくれる?」
     安寿はウイングキャットのダナに声を掛けてから、陽己に問う。
     恋人からの誘いを断るはずも無く、陽己は安寿を優しく引き寄せる。
     少しぎこちない動きだが、音楽に合わせて楽しそうに踊る、安寿。
     そんな安寿を、くるくると回す、陽己。
    「太治くん、目……目が、回っちゃう」
     安寿は目を回し、陽己の胸に倒れ込んだ。
    「……回しすぎたな、すまない。くるくる回っている安寿がかわいいので」
     安寿をしっかり抱き支えて陽己がそう言うと、安寿は下の名前で呼ばれたことに気づき、真っ赤になる。
     誰に対しても苗字呼びの陽己だが、恋人だけは別のようで、愛しい気持ちが強まると下の名前で呼んでしまうようだ。
    『クリスマスパーティーは、幸せそうな恋人さんたちが見れるのも、良いですよね』
     ほっこりと恋人たちを見ているトナカイに、くるりが接近。
    「振りなんてでたらめで良いのだぞ? 楽しければな! あととらじはムードある曲を!」
    「気になるあの子と踊るからムードある曲を? やらせねぇよ?」
     くるりのリクエストを、虎次郎はかたくなに拒んだ。


     夢だけじゃなく、場も盛り上げようと、伴は悪戯心から派手な大技を決めている。
     それを見て笑っている結月に、竜生が話し掛ける。
    「ゆきに、ダンスのお相手をして貰おうかな?」
    「竜生ちゃん、ロマンチックなエスコート期待してるのよ♪」
     ほんの少し悪戯っぽい笑みを向ける結月は、小悪魔のようで愛らしい。
     竜生は、そんな恋人に微笑みを返す。
     動画や本で勉強し、姉に練習を付き合って貰った成果を、順調に発揮出来た、竜生。
     ムードのある曲は結局最後まで流れずに、ダンスが終わる。
     虎次郎が早速、ゲームに移行する為にホール内に有る椅子を集めようとするが、トナカイが椅子に座れないことに気づく。
    「どうする、くー?」
    「椅子など要らぬ! プレゼント置いた場所に座れば良い!」
     虎次郎の問いに、くるりは素早く、交換用のプレゼントが置かれた場所へ座る。
     あっという間に他の仲間たちやトナカイも座り、最初の鬼役は虎次郎になった。
    「はやっ! フルーツ名じゃなくて人の特徴でって話っすよね。じゃあ、男の人!」
     虎次郎が指定すると、虎次郎を取り囲むように座っていた仲間たち、男性陣が動き始める。
     座れなかった陽己が、今度は鬼役だ。
    「目玉焼きには醤油派」
     論争が起きかねない内容を、さらっと出す、陽己。
     またもや何人かが動いた。
    「よーく指定を聞いて動く! 負けないよー! トナカイさんが鬼になったらゲームは終わりなのよ♪」
     自分のプレゼントの位置には座らないように気をつけながら、結月が楽しそうに笑う。
     楽しんでいる灼滅者たちを見て、トナカイは幸せそうだ。
    「好きな人がいるやつ!」
     伴が言うと、ほぼ全員、動いてしまう。
     鬼役になった安寿は、指名する相手に迷い、全員が席を交換できる言葉を発する。
    「クリスマスが好きな人!」
     夢の言葉にも、やはり大分動く。
     とうとう鬼役になってしまった結月は、周りを一度見回してから、口元に悪戯っぽい笑みを浮かべる。
    「今日が楽しい人ー!」
     全員、動いた。
    「トナカイさん、パーティー楽しんでもらえたかな? ゆきはトナカイさんともたくさん一緒に遊べてとーっても楽しかったよ!」
     トナカイが中央に残ったのを確認し、結月が口を開く。
    「さて、そろそろパーティーもおしまいだな。楽しめたか? 私はすっごく楽しかった!」
    『はい、楽しかったです』
     トナカイは元気良く、明るい声で答えた。
    「楽しかったけどパーティーはここまで。このままじゃダメだって、分かってるよね?」
    「僕らが、トナカイさんとクリスマスパーティをしに来て、とても楽しかったのは本当の事だよ」
     安寿と竜生が真剣な表情で、言葉を紡ぐ。
    「さーてと……もうそろそろお前さんも気付いてるんじゃねーかな?」
     正々堂々勝負をする為、伴は素性を明かそうとする。
    『はい! 分かっています。貴方がたは……サンタさんですね!?』
     まるで分かっていないトナカイの発言に、思わずずるりと転びそうになる。
    「最後まで楽しもう。ここからは力比べの時間だ……我等灼滅者と、お前との!」
    『分かりました! 親分!』
     くるりの言葉に、はきはきと答えるトナカイ。
    「お前が居たからこの時間を過ごせた。感謝する」
    「楽しかったよ、バイバイ」
     陽己が片腕を異形巨大化させる間に、安寿は指輪から力を引き出す。
     敵の右側から、凄まじい勢いで陽己が敵を殴ると同時に、反対側からは安寿の魔法弾が撃ち込まれる。ダナは猫魔法を放った。
    「どうか、許してください……なんて、言えません、ね。でも、私達がトナカイさんを憎んでいる訳ではないことは、解って、ほしい、です……」
     引っ込み思案で心優しい夢は、悲しい気持ちでいっぱいになりながらも、ダイダロスベルトにサイキックエナジーを喰らわせる。
     戦闘系の依頼は初めての為、少し判断に遅れながらも、夢は一生懸命、結月の全身を帯で覆い、防御力を高めるサポートに回った。
     ナノナノのレムは、しゃぼん玉を夢に使い、エンチャントをつける。
    「あばよ、じゃなくて、またな、だ。次は都市伝説なんかに生まれてくるんじゃねーぜ?」
     出来る限り夢を護りながら、伴はライドキャリバーの空・二式と共に、攻撃する。
    「十分楽しめたっすよ」
    「またいつでも遊んでやるから、今度はまっすぐ私の元に来い!」
     虎次郎とくるりが上手く攻撃を合わせ、ライドキャリバーの流星号はフルスロットルを展開し、ウイングキャットのクィンは肉球パンチを放つ。
    「ばいばい。トナカイさん。もうこれ以上、パーティーに混ざれないって寂しくならないように、楽しかった思い出いっぱいのまま、お別れしよう?」
     ナノナノのソレイユにメディックを任せ、結月が竜生に視線を送る。
    「恨んでくれて構わない。きっと、貴方は悪くないのだから」
     竜生はトナカイに声を掛け、結月に向かって頷く。
     伸ばした影で敵を覆った結月とタイミングを合わせ、竜生は納刀状態の中脇差を一瞬で抜刀し、敵を斬る。
    「また、会えますよね……? 次はきっと、サンタさんのソリを引っ張ってきてくださいね」
     今にも泣きそうな声を出す夢の頭を、ぽんぽんっと優しく撫でる伴。
    『とても楽しいクリスマスパーティーでした。サンタさんたち、ありがとうございます!』
     灼滅者たちのやるせない気持ちを吹っ飛ばすほどに、トナカイは嬉しそうに消え、完全に消滅した。


     戦闘を終えた灼滅者たちは、プレゼントの中身を確認し合う。
    「おお、よい香りのアロマキャンドルだ。私のたい焼き器は、たじくんに行ったか! それで超美味いたい焼きを作ってくれるのを期待しているぞ!」
     ふんわりと優しい花の香りがするアロマキャンドルを貰い、くるりは上機嫌だ。
    「アロマキャンドルは、あたしが用意したものだね。このかわいい猫さんの、お箸置きは誰からかな」
    「超美味い、たい焼きか……善処しよう。水沢、それは俺からだ」
     安寿は嬉しそうに微笑むが、陽己からのものだと知ると、頬を赤く染めて照れる。
    「おお! 手編みマフラーか! 誰からかね? ……あ、夢ちゃん、それ俺の」
    「えと、既製品じゃなくてすみません……最近編み物にはまってて。これは伴先輩から、なんですか……大切に、します」
     夢から貰ったものだと分かれば、手編みマフラーを早速首に巻き、ガッツポーズをする伴。
     モコモコして暖かい、冬用のルームシューズを貰った夢は、大切そうにシューズを抱え、赤面する。
    「パズル良いっすねー、景色すげー! しかし千ピース……くー、一緒にやるか?」
     雪に覆われた街を空から撮影し、サンタクロースの目線を意識したピースタイプのパズルは、竜生からのものだ。
    「やりがいのあるパズルなので、恋人さんと遊べるんじゃないかと。僕が貰ったこのハンカチは……?」
     竜生は、シンプルな濃紺に銀の星のワンポイント刺繍が入ったハンカチを手に、仲間たちを見回す。
     クリスマスデザインのロータリーキャンドルホルダーを貰って喜ぶ結月に、虎次郎が自分からのプレゼントであることを告げる。
     と、いうことは……。消去法でいけば、1人しか居ない。
    「バレちゃったかな? 使う人に素敵な一日が訪れますようにって、ゆきの気持ちがいっぱい入ってるよ♪ 今日は、みんなとたくさん一緒に遊べて、ゆき、とっても嬉しかったよ。ありがとー!」
     明るく仲間たちに声を掛ける結月のもとへ向かった竜生は微笑み、感謝と愛情を伝えるように、結月と手を繋いだ。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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