「どいつもこいつもハロウィンハロウィーン! オレンジのカボチャが何だって言うのよ」
オフィス街。
ちらちらと自分に好奇の目を向ける人々に目もくれず、彼女は怒りに震えていた。
好みはあるものの、誰もが美人と認めるであろう彼女は、およそオフィス街にはそぐわない存在だった。
ぴちぴちのボンテージに身を包み、手には鞭、背にはマント。
太ももまである編み上げのロングブーツは、もちろん10cmヒールだ。
カツカツと、ヒールの音も高らかに歩くその姿は、まさに女王様。
だが、頭にかぶった冠はどう見てもフライドポテトで出来ているし、マントにくっついた無数の丸っこいのは、間違いなくジャガイモ。
「なにがハロウィーンよ。あたしはメイクイーンよ!!!」
だん!
噴水の土台に足をかけ、メイクイーンは叫ぶ。
ハロウィーンとメイクイーン。
延ばした音と、『ン』しか合っていない。
「オレンジにすればいいの? 黒にすればいいの? いいえ、あたしはそんなものには屈しない! 私は女王、メイクイーンなのだから!」
ビシィッ!
手にした鞭を地面に叩きつける。
ざわざわと集まりだした一般人を、不適に見つめる。
「いいことお前達? あたしを崇めなさい!!」
びしりと鞭で叩いた地面から、次々とジャガイモ怪人が現れた。
特撮かなと見つめる一般人を、ジャガイモ怪人達は情け容赦なく襲い掛かる!
真昼間のオフィス街は、ジャガイモの巣窟と化した。
「俺の脳に秘められた全能計算域(エクスマトリックス)が、新しい未来を弾き出した!」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が集まった灼滅者達に未来予測を告げる。
「いわゆるご当地怪人が出現した。場所は埼玉のオフィス街だ。お前達の力が今こそ必要だ!」
ヤマトはバンと机を叩く。
「いいか? メイクイーンはその名の通りジャガイモのご当地怪人だ。埼玉でただでさえ影が薄いというのに近頃のハロウィンで怒りが頂点に達したらしい。オフィス街の一般人を次々と捕らえて女王様と呼ばせている」
呼ばせることとハロウィンとご当地と。
一体どんなつながりがあるのかまったくわからない。
「敵の趣味だな。まず最初にお前達がすることは捕らえられている一般人の救助だ。メイクイーンの気を上手くそらし、一般人を逃がしてくれ。
一般人はおよそ10人程度だ。
オフィス街だったせいか、 それほど多くはないな。
メイクイーンは捕らえた一般人に『女王様最高です! メイクイーンこそ最高のジャガイモです!』と叫ばせている。
そろそろ喉がかれるものも出てくるだろう。
完全に喉がつぶれてしまう前に助け出してやってくれ」
ヤマトはいたってまじめに説明しているのだが、状況的に苦笑が沸いてくる。
捕らえられた一般人は両手を後ろに縛られ、噴水の周辺に正座させられているらしい。
「メイクイーンの攻撃手段は以下にあげる3つだ。
まずはマントに装着した『ジャガイモ爆弾』。こいつはマントから敵に向かって飛んでくる誘導弾だ。当たればもちろん爆発する。
だが連続攻撃が出来ない。つまり、一回発動すると暫くは使えない。
次に『フライドポテトビーム』。
これはフライドポテトがビームミサイルのように無数に飛んでくる。
後列範囲攻撃だから、後衛も注意してくれ。
最後が『ジャガイモ怪人』だ。
鞭を地面に叩きつけるたびに、配下のジャガイモ怪人を召還する。
ジャガイモ怪人は主に近接攻撃が得意だ。
得物は持っていないが、やつらの繰り出すキックとパンチは灼滅者のそれを凌駕する。
おそらくこいつが一番厄介な攻撃だろう。
ジャガイモ怪人は全身をジャガイモで覆った姿で、最大20人召還だ。
一体倒せばまた一体召還されるだろう。
召還を止めるには、鞭を奪うしかない。
鞭を奪う手段はメイクイーンを褒めちぎって隙を見つけるか、憎しみを向けているハロウィンに関するもので気をそらすか、後はイケメンだな。
メイクイーンは自身の美貌に絶大なる自信を持っている。手入れの行き届いた薄茶色のウェーブヘアでスタイルもいい。そんな自分に似合うのはイケメンだと思っているのだろうな。
イケメンが褒めちぎればかなりの高確率で鞭はおろそかになるだろう」
なんというか、色々と面倒な敵なようだ。
「まぁ、あれだな。ヒールで踏まれたいやつから頑張ってきてくれ」
ヤマトはやれやれと肩をすくめた。
参加者 | |
---|---|
天津・麻羅(神・d00345) |
久遠・翔(高校生殺人鬼・d00621) |
帆柱・れとろ(門司港潜姫・d00794) |
霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946) |
乾・舞夢(煮っ転がし・d01269) |
柊・志帆(浮世の霊犬・d03776) |
迅藤・境(シャドウツインズ・d07092) |
エデ・ルキエ(樹氷の魔女・d08814) |
●オフィス街
「神であるわしは王になど興味はないのじゃ。ましてや邪神など、笑止」
自称・高天原の神たる天津・麻羅(神・d00345)は、現地に着くなりそう言い切る。
彼女の意識は、自信過剰なご当地怪人メイクイーンより、怪人による被害者に向いているようだ。
怪人の出たオフィス街は、既に噂が出たのか、それともバベルの鎖の効果か。
十数人の被害者以外、OLもサラリーマンも周囲にはいない。
被害者達は未来予測通り、公園の噴水の周りに正座させられ、後ろ手に縛られ、メイクイーンに美辞麗句を言わされていた。
サラリーマンの中にイケメンが居なかったのは、幸か不幸か。
灼滅者の美形コンビ(?)久遠・翔(高校生殺人鬼・d00621)と迅藤・境(シャドウツインズ・d07092)の二人には、天津達とは別に、近辺に潜んでもらっている。
今回のダークネスは、エクスブレイン情報によれば、イケメンに弱いらしいからだ。
これを利用しない手はなく、天津と帆柱・れとろ(門司港潜姫・d00794)、霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)、柊・志帆(浮世の霊犬・d03776)の人質救出班からは、美形コンビ二人の姿が確認できない。
恐らく、状況を確認できる位置に居ると信じよう。
乾・舞夢(煮っ転がし・d01269)もみんなとは別の場所に潜んでいる。
いつも身に着けているとんがり帽子も、マントも、今は手提げにしまってある。
仮装ではなく普段着とはいえ、魔女を彷彿とさせれば、それはメイクイーンを刺激してしまうからだ。
「面食いーん……いえなんでも! ご当地怪人は滅する。慈悲は無い、ですよっ」
メイクイーンを物陰から観察しつつ、れとろが言ってはいけない事実をぽろっとつぶやく。
そう、誰しもが思ってはいたのだ。
メイクイーンではなく、面食いだと。
「コペルはあれに近づいちゃダメだよ。コペルは誰よりもイケメンだから取られちゃやだし」
志帆は垣根に身をかがめながら、霊犬・コペルに言い聞かせる。
言われなくとも恐らく近づいたりはしなさそうだが、コペルは『くぅん♪』と小さく鳴いて茶色い尻尾を振る。
ふわふわのトイプードルがメイクイーンにとってイケメンかどうかはおいておいて、愛らしさは群を抜く。
嫉妬されて、攻撃でもされたら大変だ。
『女王様最高です! メイクイーンこそ最高のジャガイモです!』
『声がちいさーいっ!』
『女王様、最高ですうううううううっ!!!』
かなり必死の、絶望にも似た絶叫があたりに響く。
そろそろ人質達が限界だった。
「なあにその格好! 貴女もハロウィンに出たいの? でもダメ全然ダメ、都会のセンスじゃないわ」
ついにエデ・ルキエ(樹氷の魔女・d08814)が、傍若無人なメイクイーンの前に立ちふさがった。
●救出と挑発と
ルキエの出で立ちは、魔法使いを髣髴とさせる大きな三角帽子と同色の黒いマント。
手にはカボチャ型のカゴ。
カゴからはスティックキャンディーやクッキー、パンプキンパイなど沢山のお菓子が夢のように溢れ、オレンジと黒のクロスがカゴから覗いている。
まさにハロウィン!
スティックキャンディーをカゴから取り出し、勝ち誇ったようにルキエは微笑む。
ミニミニのジャックオランタンのモチーフまでついたキャンディーは、もう、とどめに等しい。
「ねえ、イモは田舎者って意味なの知ってた?」
憎しみの対象たるハロウィン仮装美少女・ルキエの出現に、女王様はあっさりブチ切れた。
「ハロウィンなんか、どうだっていいわ! このあたしの魅力を崇め奉りなさいっ!」
女王様の頭上に輝くフライドポテトの冠から、無数のフライドポテトビーム、発射!!!
弾丸のように飛んでくるそれを、ルキエは内心焦りながら避け、自分の役割を全うしようとする。
「このイモイモイモイモイモッ!! そんなイモお菓子にもなれないし、フライドポテトじゃ豚を肥えさせる事しか出来ないのよッ」
叫びながら、ルキエは人質達から女王様を引き離すべく、走る。
「お待ちっ、このハロウィン娘!!」
公園から出たりはしないが、渾身の演技でルキエはメイクイーンを惹きつける。
女王様が逃げるルキエを追いかけてる今こそ、人質救出の時!
「はよう民に救いの手を差し伸べてやらねばな」
「門司港潜姫RETRO、ダイブオン!」
天津が物陰から飛び出し、れとろがスレイヤーカード解除!
スクール水着を着て、豊満な胸に時計をつけ、ライドキャリバーで人質の傍に一気に接近。
「みなさん、もう大丈夫ですよっ」
スタッと降り立つれとろ。
揺れる胸に、サラリーマンがガン見なのはお約束。
足が痺れて動けないサラリーマンを、ライドキャリバーに。
だがれとろは大きな胸が邪魔で、引っかかってなかなかサラリーマンをライドキャリバーに乗せれない。
そんなれとろを、天津がちっこいながらも必死にサラリーマンの首根っこを引っ張って立ち上がらせ、二人で何とか押し上げる。
「どうか落ち着いて、静かにしていてください。私達はあなた達を助けに来ました」
竜姫も同じく動けずに涙ぐむOLを、自身のライドキャリバーへ。
「コペル、縄を噛み切ってもらえる? 手首を傷つけないように注意してね」
そして志帆はコペルと一緒に、人質を拘束する縄を次々に切ってゆく。
十数名の人質を救い出したとき。
ルキエに向けて、メイクイーンのジャガイモ爆弾が撃ち放たれた。
●褒めてほめて褒めまくれ!
メイクイーンのジャガイモ爆弾は、誘導弾なのだ。
どれほど逃げても追って来る。
そして本気で逃げるルキエを捕らえ、爆ぜた。
吹き飛ぶルキエに駆け寄りたい衝動をぐっと抑え、舞夢は物陰から飛び出す。
「メイクイーン様、最高なんだよっ! こんなところでお会いできるなんてびっくりだようっ!」
メイクイーンの手には、まだ鞭が握られている。
この鞭を奪わない限り、灼滅者に勝利はない。
それに何より、これ以上ルキエを追撃しないよう時間を稼がないと。
必死の思いを胸に、女王を褒める舞夢。
その声は、まさに迫真。
きらきらと輝く大きな瞳は、疑うことを知らない子供のよう。
「そうよ、良くわかってるじゃない♪」
上辺だけでない舞夢の言葉に、メイクイーンの表情が柔らいだ。
ジャガイモ爆弾を受けて、地面に倒れ付すルキエから、メイクイーンの意識がそれる。
「そうです。メイクイーン様は最高の存在なのです」
畳み掛けるように、境がすっと歩み寄る。
「メークインは蒸かしてよし! 煮てよし! 揚げてよしの万能食材! 南瓜ごときが勝てるわけないだろうが! つか調理しにくいし!」
大量のジャガイモの詰まったスーパーの袋を抱え、翔も女王様に歩み出る。
「あらららっ♪ 二人ともイケメンね。見る目があるわ」
メイクイーンの機嫌が、一気に上昇していくのが手に取るようにわかる。
ルキエのことも、可愛い舞夢のことももう眼中にない。
メイクイーンの瞳に映るのは、もはや境と翔の二人だけ。
(いまのうちなんだよ)
舞夢はこそこそっとルキエに近づき、しゃがみこむ。
ルキエの傷口に手を当て、舞夢は身体を巡る気を手の平に集める。
「きゅあきゅあっ」
暖かい気が手の平からルキエに流れ込み、ルキエの怪我が塞がってゆく。
「その艶やかな髪、魅惑的は大きな瞳、すっと通った鼻筋、形の良い唇。全てが私の理想です」
口下手なのに、歯の浮くようなセリフをすらすらと口にして、翔はさながらホスト。
切れ長の黒い瞳が甘やかに女王を見つめる。
「ハロウィンとは収穫祭! つまり、女王を引き立てる舞台でしかない。南瓜など女王様の足元にも及びません!」
境は跪き、女王の手を取る。
指先まで手入れの行き届いたメイクイーンに触れれたのは、ある意味役得。
思わずにやけそうになるのをぐっとこらえ、境は当初の目的通り、女王の握る鞭をさり気なく奪い取る。
女王が何か言うより早く、翔が、
「美しい貴方に無骨な武器は似合いません。その手に似合うのはこのジャガイモだけです」
スーパーのビニール袋から花束でも手渡すかのように、翔はジャガイモを手渡す。
時は、満ちた。
●いざ、反撃の時!
「一皮剥いて、出直しなさい!」
ライドキャリバーを颯爽と操り、竜姫が突っ込んでくる。
そのまま勢いつけて、メイクイーンにご当地キッーック!
突然の攻撃にメイクイーンは思いっきり体制を崩した。
すぐさま、鞭でジャガイモ怪人を召還しようとするが、鞭がない。
境が持ち去っていた。
「どこをみておるのじゃ。そなたの相手はわしじゃ。この拳を受けてみよ、神ダイナミック!」
天津が駄々っ子のように拳を振り回し、急な攻撃に動揺する女王様のお腹を直撃した。
「ぐはっ! なんてことすんのよこのくっそがきぃぃいいいっ!」
メイクイーンがヒステリーを起こしながらフライドポテトビーム!
「あ、ずるい!」
境がすかさず天津を庇い、全てのポテトの直撃に晒された。
だが彼はめげない。
「女王様、どうか僕を踏んでください!」
いや、めげてはいないが、何かがぶっ飛んでしまったのかもしれない。
鞭を奪い返そうとしているメイクイーンも、あまりの言動に近寄れない。
「女王様、貴方の全てを私に下さい。……テメェの全てを喰らいつくしてやるよ!」
すっと眼鏡をはずした翔は、先ほどまでの穏やかさとは別人だった。
女王様に情け容赦なく日本刀で切り込み、その見事な身体を包み込むボンテージをズタズタに切り裂いた。
「あたしを愛してるって言ったのにーーーーー!」
羞恥心に叫ぶ女王様。
ちなみに誰一人愛してるなんて言ってません。
「ぐにぐに潰して、マッシュポテトにしてやるんだからっ」
舞夢に治療されたルキエも参戦!
ジャガイモに迎撃されたように、今度はこちらの番といわんばかりにマジックミサイル、発射!
ジャガイモ爆弾のように誘導弾ではないが、狙い違わず女王様を吹っ飛ばす。
「ここからが本番だよっ」
舞夢も一瞬にしていつもどおりの魔女スタイルに着替え、女王様に「なぎ払え!」と叫んで咎人の大鎌を降る。
怨念の込められた鎌から溢れる黒き波動が、女王様を苦しめる。
「ジャガイモって言ったら北海道だよね。んー、埼玉産は百歩譲るとして、メイクイーンってMayQueenって書いて5月の女王だよ。今はもう冬の間近だし! 半年時代を先取りした変人か、行き遅れたかのどっちさ!」
志帆も叫んだ。
人質が居たから、ぐっと我慢していたのだ。
その指に輝く指輪から、魔法弾が放たれ、きらめる軌跡は放物線を描いく。
メイクイーンの自慢の髪をばっさりと切り裂いた。
「なによなによ! なんなのよ! さてはお前達、イケメンを奪いにきたわね!!」
女王様、涙目で切られた髪を押さえて、ジャガイモ爆弾発動!
だが、もう何を狙っているのか判らない。
8人の灼滅者を前に、たった一人で立ち向かっているのだ。
頼みのジャガイモ怪人も召還できないのではメイクイーンになすすべはない。
それでも必死に、女王は最後の威厳を保とうと、フライドポテトビーム!
灼滅者に全力ではなったそれは、フライドポテトの量が半端無い。
今までがMサイズなら、これはもう特Lサイズ。
量が量だけに灼滅者も避けきれず、次々被弾!
「そんなやけくその攻撃で引くほど、甘くはないよ!」
竜姫が暴れるメイクイーンの背後に回りこみ、そのまま背後からがっちりホールド、ブリッジをする勢いで地面に女王様を叩きつける!
「あ、あたしが、負ける……? グローバルジャスティス様、今度生まれ変わる時も、メイクイーンでーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
地面に頭をめりこませ、女王は爆発した。
「できるなら、別の形でイモを語ってほしかった……」
メイクイーンの滑らかな指先の感触が残る両手を、境は名残惜しげに見つめる。
「悲しい戦いだったよ……」
爽やかな笑顔で舞夢はいいきり、ついでに翔から余ったジャガイモをちゃっかりもらったり。
「邪神の末路じゃのう」
天津はやはり女王様に興味が無い。
「目の保養でしたね」
翔は眼鏡をかけなおし、にっこりと微笑む。
「肉じゃが食べたいですね……」
ジャガイモを沢山見続けて、お腹が減ってくるのはれとろだけではないだろう。
倒してすっきりとした広場を後にして。
灼滅者達は翔の持ってきたジャガイモをお土産に帰っていった。
作者:霜月零 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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