トナカイの季節

    作者:聖山葵

    「ごおお」
     文字に書き起こすとそんな感じだろうか。
    「ぶおも」
     あるいはこちらか。
    「……豚とか牛とかの鳴き声にちょっと似てる気がするんだぜ」
     ボソッと望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)が洩らしたのには理由がある。一頭のトナカイが居たのだ、人の手になった角の一部に右と左で手帳とペンを持っている上、やたら胸の大きな。もちろん、こんなトナカイが日本の山中に生息しているはずもない。と言うか、膨らんだ胸はどう見ても人間の女性のモノと極度に似た形状をしている。つまり、タタリガミと呼ばれるダークネスであるのは明らかで。
    「何だか、すごいデジャヴなんだぜ」
     以前、闇堕ちしかけ暴れ猿の都市伝説を取り込んだ少女が胸の大きな猿と化した一件を思い出している葵からすれば、それは現実逃避に他ならなかった。

    「ってな訳で、『動物系タタリガミが他にもいる』んじゃないかって探した結果がこうなった訳だが……」
     クリスマスにトナカイ、何ともピンポイントにタイミングが合うものである。
    「えーと、それじゃオイラ達はその目撃した山に行って、問題のタタリガミを何とかすればいいってことかな?」
    「だな。前の時と動物が違うのとはるひ姉ちゃんの助言を貰えないって所を除くと似てるところもあるから、ひょっとしたら助けられる可能性もあるけど――」
     鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)の確認に葵は頷いたものの、エクスブレインがこの場に居ない状況下ではどちらとも言い切れない。
    「じゃあ、例によって『一応助けられること』もあるかも知れないから人の意識に呼びかけ、説得しつつ戦うって流れかなぁ?」
     闇堕ちした一般人を救うにも戦ってKOする必要がある。戦闘が避けられない以上、一手間加える以外の違いはない、故に。
    「おおよそはそれで良いと思うんだぜ。ただ」
     葵も和馬の言を良しとしつつも顔を曇らせて付け加える。
    「接触するのに人の手が入っていない山中を探す必要があるんだぜ」
     と。
    「あー」
    「人は居ないだろうし、太陽もまだ高いからな。明かりとか人よけはいらないだろうが」
    「探す必要はあり、かぁ。手がかりになるのは鳴き声だっけ?」
    「それと、痕跡だな。胸が大きくて引っかかる枝とかバキバキ折りながら進んでたんだぜ」
    「うわぁ」
     探す方からすればありがたい話ではあるが。
    「もし、助けることが出来たとしたら……」
    「目のやり場に困ることになるかも知れないんだぜ。ついでに言うなら、以前似たケースで戻ったら裸ってこともあったからな」
     着替えも用意しておいた方が良いかもしれない。
    「ええと、それで戦いになったら相手がどんなことをして来そうだとかは判る?」
    「そうだな……七不思議使いに似た攻撃はほぼしてくるとして、後は肉体を使った攻撃になるんじゃないかと思うんだぜ」
     角を武器のように叩きつけたり、大きな体を使ってぶちかましをかけたり。
    「んー、シールドバッシュやキャリバー突撃みたいなものかなぁ?」
    「うーん」
     それっぽいサイキックはいくつかあるので、断定は難しく。
    「はるひ姉ちゃんが居ない以上、その辺りは出たとこ勝負にならざるをえないんだぜ」
     若干申し訳なさげに頭を振った葵は君達に向き直ると、頭を下げる。
    「タタリガミが山から下りてきて被害が出てもまずいからな。どうか力を貸して欲しいんだぜ」
     と。
     


    参加者
    鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)
    アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)
    櫻井・クロ(スピーディキャット・d14276)
    望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)
    湯乃郷・翠(お土産は温泉餅・d23818)
    八宮・千影(白霧纏う黒狼・d28490)
    夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)
    国府・閏(普通の女子高生・d36571)

    ■リプレイ

    ●平穏無事に行くはずない
    (「今度は葵くんが見つけたのね、モッチアじゃなくてアニマルだけど」)
     見渡す限り木々に囲まれた山の中、湯乃郷・翠(お土産は温泉餅・d23818)は少し先を行く望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)の背に視線をやった。
    「前の時に私も参加したけど今回もやっぱり大きいのかしら?」
     主語はないが、胸のことならばやたら大きかったと言う目撃者である葵の証言がある。
    「アニマル系は胸がでかいとかそういう繋がりってないわよね? 今度の人も満月さんや土門さん越えだったら泣くわよ」
     どことなく震える声は誰がどう聞いてもフラグである。
    「それはそれとして、随分と山奥まで来てしまいましたね」
    「……よくこんな山の中まで来ましたね、それともタタリガミになってから山に入ってきたのでしょうか?」
     おそらくは優しさから話題を変えた鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)の言に応じて首を傾げたのは、アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)。
    「じ、自分からだとしたら、やっぱり怖い物見たさなのでしょうか?」
    「んー、もし助けられたらその後で聞けば教えてくれるんじゃないかなぁ、アルゲーさんの疑問にしても満月姉ちゃんの疑問にしても」
     大きな胸を木の枝に引っかけない様苦闘しつつ夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)も疑問を口にすれば、一つ唸って自分なりに答えながら和馬は周囲を見回す。タタリガミの残した痕跡を探しているのだろう。ただ、捜し物に集中するあまり、後方への警戒は疎かであり、だからこそ気づかなかった。
    (「うう、お山は冷えるにゃ……ファイアブラッドって温かいかにゃ?」)
     動きやすさを重視するあまり、肩や胸元を露出させた櫻井・クロ(スピーディキャット・d14276)がふいに隙だらけな自身の背中に目をとめ、そろりと忍び寄りだしたことに。
    「背中、借りるにゃ」
    「え」
     許可を出す、かどうかは別として返事をする間もない。
    「ちょ」
    「ふー、思った通りにゃ」
     突然押しつけられた柔らかなモノの感触に背中の主があたふたするのも構わずクロはますます身体を密着させる。
    「ファイアブラッドとか関係なくくっつけば普通は温かいですよね?」
    「そりゃそ……あ、アルゲー」
     この非常事態に和馬へ思いを寄せる乙女が動かないはずもない。
    「……和馬くん」
    「え? あ、ちょ、アルゲーさん? な」
     後ろにくっつかれても前が空いているとばかりに思い人へ胸を押しつける形で抱きつき。
    「今日のアルゲーさんは大胆ですね」
     蒼香がこの光景を微笑ましげに見守る中、クロも押しくらまんじゅうかにゃとこちらはこちらで誤解し。
    「はぁ……行ってくるわ」
    「えーと……言った方が良いのかなぁ、問題のタタリガミあそこに居るっぽいって」
     嘆息した翠が丸めたパンフを持って急行するのを横目に何とも言えない表情で国府・閏(普通の女子高生・d36571)は視線をやや遠く、行く手を遮る枝をへし折りつつ進むトナカイ風味の存在に戻すのだった。

    ●遭遇
    「とりあえず前回見た場所から探せばいると思うんだぜ」
     という葵の予想は正しかった。
    「僕と同じで何か都市伝説を探した結果ああなったのかな? 他人事とは思えないね」
    「季節的には良いのかもしれないけど……なった本人は大変だろうから、助けないと、だね」
     時折あがるトナカイの鳴き声めいたものを聞きつつ、件のタタリガミを眺めて口を開いたのは、閏と八宮・千影(白霧纏う黒狼・d28490)。
    「そうですね。閏さんと同じでタタリガミになってしまった人でしたら他人事でもありませんし、頑張って救出しましょう」
     山中の気温の低さに吐息を白く曇らせつつも、蒼香は力強く頷き。
    (「トナカイはこの時期にピッタリにゃけどこのままクリスマスを迎える訳にはいかないにゃね」)
     充分に人肌の暖かさを堪能したクロもぺりっと和馬から剥がれてタタリガミへと向き直る。
    「クロも頑張って救出するのにゃ」
    「あ、うん」
     やる気になってくれたことより離れてくれた事にほっとする灼滅者が約一名居たがそれはそれ。
    「自分で見つけた以上はしっかり救出するんだぜ!」
     真っ先に近寄っていったのは、発見者でもある葵。
    「こんにちはなんだぜ! 俺は望山・葵っていうんだがちょっといいか?」
    「こんにちはなのにゃ! まずは話を聞いてくれないかにゃ?」
     まずは挨拶から、ある意味基本ではある。
    「ぶおも」
     少なくとも声をかけられたことで葵とクロに気づいたトナカイもどきは二人の方に向き直り、一声鳴く。
    「あんまりよ……あんまりだわ」
     人の言葉は話せないのか、そのまま二人をじっと見やる中、翠は木の陰にしゃがみ込んで本当に泣いていた。人間よりも明らかに大きなトナカイの身体だからか、それとも不用意にフラグを立てたからか、タタリガミの首の下にある女性の胸に似た膨らみは満月のモノと比べても一回り以上大きかったのだ。
    「そ、その人じゃない異形だからあんなに大きいのかも知れませんし」
    「もとに戻ったら、普通かも知れないよー」
     トナカイももどきの説得の前に仲間を慰める必要があるとか誰が予想しようか。
    「……そうね、絶望にはまだ早すぎたわ」
     満月と千影のフォローで立ち直った翠は、立ち上がるとタタリガミの方へと歩き出し。
    「とりあえずこれでも食べる?」
    「ごあぐっ」
     差し出せば温泉餅はトナカイの一口で消え去った。
    「凄い食べっぷりなんだぜ」
    「ぶおも」
    「お腹が空いていたのかも知れませんね」
     他の灼滅者が餌付けを眺める中心で、温泉餅の提供者はお代わりを強請る様に密着したタタリガミの超質量兵器に精神的な追撃を受け。
    「世界はどうしてこんなにも悲しみに満ちているのかしら」
     思わず天を仰ぐ。何処かのエクスブレインから聞いた豊胸法は効果を見せていたと言うのに、1mを越える胸囲の持ち主が周りにポコポコ居る環境が無慈悲すぎた。
    「こんな山の中でどんな都市伝説を聞いて来たのか分かんないけどその行動力は凄いと思うんだぜ」
    「ごおぉ」
     まるでポニーとの触れ合いコーナーか何かの様な構図になってる葵とトナカイもどきもただ空を見上げていれば目に入らない。
    「なりたくてトナカイなったわけじゃないよね、僕もそうだったし」
    「ぶおも」
    「そ、そのどんなトナカイの話を追って山奥に来たのでしょうか?」
     それを会話が成立していると見て良いのか、トナカイもどきの鳴き声を挟む形でかけられる声は鳴き声を返事や相づちとすればかいわしているようには聞こえ。
    「ツノがトナカイじゃないから人間だと思うのにゃけどどうしてそうなったのかにゃ?」
    「ごおお」
     クロの疑問にも角の手になっている部分が動き、手帳にペンを走らせるぐらいで返答らしい返答は帳面のそれがさっぱりわからなくてよと言う文字ぐらいしかなく。
    「って、筆談できるの?!」
     驚愕を顔に貼り付けた閏が思わず叫ぶ。
    「でしたら話は早いですね」
     後はこのまま説得を続ければいい。
    「そうね……枝をなぎ払うぐらい大きい胸なんだから山の中は不便じゃない? 前の姿はわからないけどやっぱり普通の姿に戻りたいでしょ?」
     閏の叫び声で現実に戻ってきた翠は蒼香の言葉に頷き、トナカイの顔を覗き込む。
    「お、また手……じゃなくて角が動くんだぜ」
     葵の言葉に幾人かがトナカイもどきの角を見やれば、めくられた次のページに書き込まれる文章。
    「『そんなことないトナ。静夜はこのまま私に身体を譲って消えて貰う予定トナからな』って――」
    「トナ語尾は新しいですね」
    「そ、そんなことを言ってる場合じゃありません」
    「きゃ」
     明らかに追い込まれてダークネスが出てきた様子であるにも関わらず、ピントのずれた感心をする蒼香に満月が胸からぶちかましをかけ、尻餅をついた蒼香の頭上を何かが通り抜ける。
    「……トナカイ、具現化した怪談ですね」
    「邪魔だから実力行使ってことにゃね」
     敵意を露わにしたタタリガミを前にアルゲー達は殲術道具を構えた。

    ●戦う理由
    「……元々のあなたの姿はどんな感じだったのでしょうか? 私達と同年代なのか年下なのか年上なのか分かりませんが」
     臨戦態勢のまま、アルゲーはトナカイもどきを見つめる。当然、誰かを泣かせた大きな胸が視界に入ることになってちらりと和馬を見る。
    「アルゲーさん?」
    「……予め話した通りでお願いしますね」
    「あ、うん」
     思い人は視線の意味を連係のタイミングを計ってのモノと思ったのか、訝しげな表情を引っ込め。
    「山の中は寒いし一人だし辛いわよ、雪が降ればなおさらだわ」
     だから、元の姿に戻してあげると地を蹴る翠にアルゲーも続いた。人に戻れば胸も小さくなるかも知れない。思い人が大きな胸を好むと誤解しているアルゲーにとっても、タタリガミの胸の大きさに打ちのめされた持たざる者にとっても、可能性の一つでしかないそれが唯一の希望であった。
    「胸の大きさが戦闘力の基準じゃない事を教えてあげるわ」
    「ごぎっ」
     次の瞬間、雷を弾け散らしながら天へ突き上げた翠の拳にトナカイもどきの身体が宙に舞い。
    「……ステロ、行きますよ」
    「ぶごぉっ」
     ビハインドに声をかけるが早いか、振るわれるウロボロスブレイドが落下してくるタタリガミの身体を切り刻む。
    「あの二人、凄い気合いなんだぜ!」
    「一刻も早く戦いを終わらせたいんだろうね、うん」
     思わず拳を握る葵の言葉に、何かを察した閏は視線を逸らす。ただ、他の面々としても見物している訳にはいかず。
    「と、とにかく私達も続きましょう」
    「そうにゃね。ちょっと痛いけどガマンにゃよ」
     促す満月の声に同意したクロがエアシューズを駆り、立木を足場に身体を宙に躍らせる。
    「い、痛いと思いますが少しの辛抱です」
     一方で、満月もトナカイもどきの死角に回り込む。共通するのは、はずみで大きな胸が揺れること。ぽよんとかばるんとか擬音語のつきそうな光景に誰かが歯ぎしりしたかは定かでない。
    「ぶ、ぶも」
     地面に激突するより早く、霊障波を叩き込まれた上光の刃に貫かれ、ようやく起きあがろうとしているトナカイもどきに察せと言うならば無理だった。既に二方向からの攻撃が迫っている上。
    「呪われし狼姫の牙、その身に受けてもらうよ」
     千影の持つ黒狼姫の銃口もまたトナカイもどきに向けられていたのだから。
    「アナタは人、だよー。何をしに来たのか思い出して、自分を取り戻すんだよー」
     トナカイに似て異なる異形を怯ませたのは、千影の連射する爆炎の魔力を込めた大量の弾丸か、向けられた言葉か、あるいは双方か。
    「ぶもーっ」
    「手も胸もありますしまだ助かりますよ、人間だった自分の姿を強く思い出してください!」
     蹴られ、斬られ、ブレイジングバーストの着弾で生じた爆発に呑まれ、中からあがるタタリガミの悲鳴を頼りに蒼香は呼びかけ、バスターライフルの照準を晴れつつあった爆炎の中央へ合わせる。
    「ではトナカイからあなたを救出しますよ。何も寂しい山の中に居る必要は在りません、人間に戻って一緒にクリスマスを楽しみましょう」
     トリガーが押し込まれ放たれる魔法光線。
    「ジョン防御を頼んだ、それじゃ今から助けるんだぜ」
     霊犬に一声かけて葵も槍の妖気を冷気の氷柱に変えて行く。
    「いくぜ!」
    「わうっ」
     まるでバスタービームへの逃げ道を塞ぐ様に氷柱は飛び、タタリガミの反撃を警戒しつつジョンも六文銭を飛ばして逃げ道を断った。
    「ごぶも-っ」
     集中攻撃に身を起こそうとしていたトナカイもどきは、氷柱を身体に突き立てたままひっくり返り。
    「胸や腕の部分は人間で居たい証拠だからね、ちゃんと戻れるのは僕が保障するよ、だから――」
     閏の語り始めた怪談に幾人かがマッチョを幻視した。
    「ふぅ、これぐらい濃い怪談ならパワー負けしないよね?」
    「そう……かな?」
     かくんと千影が首を傾げるが、語り手は気にしない。珍しく弄られなかったから。
    「このまま押し切るよ、弄られない世界の為にも!」
     ここにも別理由から必死な人が居た。
    「ぶもーっ!」
    「角をそう使うのか……でも単調だから当たんな……ぐはぁ」
    「千影さん!」
     だが、タタリガミも肉体を持ち主に取り戻されまいと必死だった。
    「めちゃめちゃに振り回して、近寄らせないつもりのようですね。ですが」
     アウトレンジから攻撃出来る灼滅者には意味がない。
    「ごおも゛っ」
     タタリガミは一方的に攻撃に晒される。それに千影も無意味に角に引っかけられた訳ではなかった。吹っ飛ばされた先はトナカイもどきの死角。
    「まだ飲まれきってないから人間に戻れるぜ、このままトナカイになるのは見過ごせないんだぜ」
    「……なりたくてなった訳じゃないのですから気を強く持ってくださいね」
     仲間達が声をかけつつ攻撃を加えて行く中、白狼姫を填めた手を前にかざす。
    「ボクの牙は、人を不幸にする存在を砕く! ……だよ」
    「ごべっ」
     悲鳴をあげて毛皮の一部を石化させたトナカイもどきはそのまま傾ぐと人の姿に戻りながら倒れ伏したのだった。

    ●きづかい
    「寒いし早く着替えるのにゃ、風邪をひいちゃうにゃよ」
     元に戻れば案の定裸だった少女へ最初に服を渡したのは、クロだった。
    「そうですね、寒いですしちゃっちゃと着替えてしまいましょう」
     これをと持ってきていた自分のお古である軍服風ジャケットを差し出す蒼香は、この時もう自分のジャケットは羽織る以外の利用法がないと気づいていた。
    「これはどうでしょう……着れる、かな?」
     純粋な目を少女の胸と手元へ行ったり来たりさせる千影が用意したのは、下着代わりのサラシ。
    「タオルはこれを使ってね、誰のサイズが一番あうかな?」
    「あら、ありがとう。感謝して差し上げてよ」
     閏を含む灼滅者達の好意に礼になってるのか微妙な感謝の言葉を返した少女は、サラシを胸に一周させてとりあえず見えては拙いところだけ隠すと、満月提供のブラウスに袖を通し、ジャケットを羽織る。まぁ、翠がフラグを立てた時点で、満月のブラウスが胸の部分だけかなりきつそうにピッチピチになったのはもはやお約束であった。
    「おーっほっほっほ、この柊・静夜(ひいらぎ・せいや)、何を着ても絵になりましてよ」
    「……怪我はなさそうですね、安心しました」
    「怪我はなさそうだけど、別の部分でちょっと不安になるみゃね」
     下はすっぽんぽんのまま手の甲を頬にあて高笑いする少女を見て、葵へのブラインドとして立ちながらも和馬に密着し両手で目をかくしつつアルゲーが呟けば、同じ光景を見ていたクロもぼそりと零す。
    「僕と同じ感じだったみたいだけど気分は大丈夫かな?」
    「お気遣いありがとう、もう問題はなくてよ? おーっほっほっほっほ」
    「や、問題だらけだからーっ! と言うか、下履いて、下っ!」
    「あら、失礼」
     脊髄反射で思わず閏がツッコむのも無理はない。
    「そ、そういえばどんな都市伝説を追っていたのですか?」
    「サンタの元から逃げ出したふぬけたトナカイですわ」
     やがて着替も終わり、ふと疑問に思った満月が問えば、静夜と名乗った少女はあっさり答える。
    「子供達へのプレゼント配達のお手伝いを投げ出すなんて、と看過し得ず足を運んだのですけれど、不覚でしたわ」
     その結果、襲われて闇堕ちしトナカイを取り込んでああなったと言うことなのだろう。疑問も解けたところで一行は静夜に闇堕ちと学園について説明し。
    「まあ、何にしても閏姉ちゃんみたいな素質もあるし、俺達もフォローするから安心だぜ」
    「そうそう。同じ七不思議使いなら仲良くやれそうだね?」
    「っ」
     葵と閏の視線を受けた少女の肩がびくんと跳ねるも、嫌とかそう言う訳ではなさそうに見え。
    「これで一件落着ですね。……ただ、何故葵くんの方ばかりチラチラ見てるんでしょうか?」
    「か、勘違いなさらないで下さるかしら? 別にこの方の事なんて何とも思っておりませんわ」
     蒼香が首を傾げれば、顔を赤くして少女は狼狽し頭を振る。
    「じゃあなんでおっぱい擦りつけてくるんだぜ?!」
    「こっ、これは既成事実、もといマーキングですわ!」
    「言い直した方が酷くなってるんだぜ?! だ、誰か助け――」
     自らの体質が事態を悪化させる予感を覚えたか、葵が救いを求める中。
    「ていっ」
     漸く復活した翠は、渡すつもりだった予備のパンフレットを丸め、静夜の頭上に叩き付けたのだった。
    「ふー、もう駄目かと思ったんだぜ」
    「モテモテでしたね、葵くん。それはそれとして、クリスマスですし皆遊びに行きましょうか♪」
     一難去って嘆息する葵を微笑ましげに見つめていた蒼香振り返ると仲間達に提案し。
    「……どうします、和馬くん?」
     帰路にツリーでも見に行きませんかと誘っていたアルゲーは思い人の方を振り返る。
    「え、ツリーならその後でも見れるだろうし」
     どうやら異存はないらしい。
    「決定ですね。では、葵くんの隣は静夜さんで」
    「え゛」
     寄り道が確定し撤収の支度が始まる中、葵は再起動までに数秒を要したのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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