ハロウィンを夢見て

    作者:佐和

     自身の格好を見下ろして、千里はその場でくるり、と回った。
     ちょっと変わったオレンジのシャツに、黒の半ズボン。ブーツは足先が長くて反り返ってて、雨の日に履く物とは全然違う。手袋も、冬に使うものより可愛い、黒い模様のついたオレンジ色。頭の上には、かぶるというより乗せている、小さくて黒い帽子。
     そして。
     千里はもう一度、くるりと回る。黒いショートマントがまたふわりと膨らんだ。
     ハロウィンの仮装をまとって、千里は嬉しそうに微笑む。
     ……これらは全て、お母さんが用意してくれたものだ。
     ハロウィンというものを教えてくれたのもお母さん。
    「仮装して大人にある合言葉を言うと、お菓子がもらえるの。
     もし、もらえなかったら、悪戯してもいいのよ」
     楽しい日でしょう? って笑いながら、お母さんはこの衣装をくれた。
     ハロウィンの日になったら着ましょうね、って。いっぱいお菓子もらえるといいわね、って。
     お母さんがそう言って笑ってくれたから。
     だから千里は、初めてのハロウィンを、とっても楽しみにしていたのだ。
     衣装に一通り満足して顔を上げると、広場のあちこちに、千里と同じように仮装した子供達がいる。
     そして、めぐらせた視線の先に、お母さんがいた。千里と違い、いつもと同じ格好のお母さんが。
    「お母さん!」
     呼びながら駆け寄って、千里は早速、教えてもらった合言葉を言おうと口を開いて、
    「トリック・オア・トリート」
    「え?」
     言おうとした言葉は、千里ではなく、お母さんの口から出てきた。
     戸惑う千里に、お母さんは何かを要求するように手を差し出してくる。
    (「……お菓子?」)
     教えてもらったルールを思い出したものの、千里はお菓子なんて持っていない。だって、千里はお菓子をもらう側だったのだから……
     困惑する千里に、後ろからさらに声がかかる。
    「トリック・オア・トリート」
     振り向くと、知らない大人達がそこにいた。
     お母さんと同じように片手を差し出して、もう片方の手に刀とか鎌とかを持っている。
    (「どうして?」)
     お母さんは、お菓子をもらうのは子供だって言ってた。お菓子をくれるのは大人だ、って。
     なのにこの大人達は、今のお母さんは、千里にお菓子をちょうだいって言ってくる。
    (「お母さんはボクに嘘を教えたの?」)
     トリック・オア・トリート。
     お母さんに教わった合言葉。
     子供が大人に言うはずの言葉。
     その意味は……『お菓子をくれないと悪戯するよ』
     立ち尽くす千里に、大人達は手にした武器を振り上げて。
    「どうして!?」
     千里の悲鳴がその場所に……千里の夢の中に、響き渡った。
     
    「ダークネス……シャドウの行動を察知しました。
     小学1年生の千里さんという子の夢が悪夢に変えられてしまいます」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まってくれた灼滅者達を見渡してから、自らの未来予測を語り始めた。
    「近くの広場で行われるハロウィンのイベントに、千里さんは初めて参加することになっています。
     それを楽しみにして、夢に見るほど待ちわびていたのですが……
     その夢を、シャドウが悪夢に変えてしまうのです」
     仮装した千里へ仮装していない大人達がお菓子を要求して詰め寄り、お菓子を渡せない千里に悪戯と言うには酷すぎる危害を加えるらしい。
     しかもそれを、千里の母親が当然のように見ている。苦しむ千里を助けることもせず、ただじっと見つめているのだ。それがハロウィンのルールだと言うかのように。
    「それまでのハロウィンへの期待の大きさもあって、幼い千里さんにこの悪夢は耐えられません」
     だから。と、姫子は灼滅者達を真っ直ぐに見据えた。
    「シャドウを撃退して、千里さんの夢を守ってください」
     灼滅者達が頷くと、姫子は嬉しそうにふっと笑顔へ戻った。
    「夢の中……ソウルボードへ入ったらまずは、シャドウに気付かれないよう、千里さんの夢の一部であるかのように振舞ってください。
     千里さんの夢はハロウィンの夢ですし、仮装している子供が他にもたくさんいるようですから……
     皆さんも仮装していくのがいいかもしれませんね。
     ペンギンさんの着ぐるみとかどうでしょう?」
     ……それは絶対ハロウィンじゃない、とその場の全員が思ったが、とりあえず口に出して指摘する者はいなかった。
    「そして、大人達が千里さんに攻撃しようとしたところで、その間に割って入ってください。
     大人は4人で、それぞれ日本刀、ガンナイフ、妖の槍、咎人の大鎌を持っています」
     まずはこの4人……シャドウの配下が、灼滅者達の戦う相手となる。
    「シャドウがどこにいるのかは分かりませんが、千里さんの近くにいることは確かです。
     そして、大人4人のうちの1人が倒されるとその姿を現し……出現と同時に、一番近くにいる者へ攻撃してくるようです」
     シャドウは、ダークネスの中でも特に強大な力を持つ存在。そう簡単に倒せる相手ではない。配下がいて、さらに千里を庇いながらでは尚更だ。
     だが、シャドウはソウルボード上で戦う時は弱体化しており、そのためもあるのか、目的が達成できないと分かれば撤退する可能性もある。
     だからこそ、と姫子は言葉を重ねる。
     今回の依頼は、千里の心をシャドウから守ることです、と。
    「それと、シャドウと配下4人、そして千里さん以外の人達は、夢の一部です。
     ただの背景だと思ってください。
     触ったりはできますが、皆さんに何かの反応をすることも、喋ることもしません」
     必要な説明を全て終え、最後に姫子は、千里の家を示した地図を灼滅者へと手渡す。
    「千里さんに、ハロウィンの楽しさを教えてあげてください」
     渡された地図の端には、可愛いジャック・オー・ランタンの絵が描かれていた。


    参加者
    置始・瑞樹(殞籠・d00403)
    浅間・雪(ぐれいはうんど・d00428)
    外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)
    四季咲・白虎(蓐収のポルモーネ・d02942)
    霞翠・湊(未成無窮動・d03405)
    影石・キヨジ(日常の影・d04310)
    黒御門・凜々子(幻想に咲く黒百合・d05833)
    佐和・夏槻(物好きな探求者・d06066)

    ■リプレイ

    ●All Hallows eve
     陽気な音楽に灯るランタン。仮装した子供達が、灯りや飾りのついた家を目指して夜道を歩く。
     灼滅者達がソウルアクセスした精神世界は、まごうことなきハロウィンの光景を映し出していた。
    (「みんなの仮装……見てるとワクワクする……」)
     霞翠・湊(未成無窮動・d03405)はそっとその行列に混ざり込む。
     静かな湊は酷く落ち着いているように見えるが、その瞳は輝いていた。
     包帯にボロボロの黒マントと、ちょっとブカブカな尖り帽子。さらに、手に持つバスケットもハロウィンらしく南瓜を模したものとくれば、準備は万端だ。
     だが、残念なことにこれは、ただハロウィンを楽しむ、そんな気楽な夢ではない。
    「お菓子くれないはろうぃんなんて最悪だよ。すっごい悪夢だ」
     黒猫に扮した黒御門・凜々子(幻想に咲く黒百合・d05833)がぽつりと呟く。こちらもフリルたっぷりの黒いワンピースを着て、頬にひげまで書いてある。ハロウィンを楽しみにしていたのは間違いない。お菓子を、かもしれないが。
     そんな2人の横を、四季咲・白虎(蓐収のポルモーネ・d02942)が南瓜のスカートを揺らして通り過ぎた。少し先で足を止め、大きめの黒マントをふわりと翻しつつくるりと振り返ると、胸の位置で手をぐっと握り締めて。
    「千里ちゃんの夢は壊させないよ」
     そうだよね? と可愛く小首を傾げて同意を求める。
     その後ろに立つのは、南瓜をかぶった外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)。
    「シャドウくんには夢の中から退場願おうか」
     振り向いた白虎と、互いの決意に頷き合ってから、再び仮装行列の中へと紛れ込んでいく。
     そう。彼らはこの夢の主である千里を、ダークネスから守るために集った灼滅者。
     仮装はシャドウを欺くための手段にすぎない。
     ……とはいえ、普段と違う祭りの服装。見ていてるだけでも楽しい格好をして、気分が上がらないわけがない。
     見事に子供達と同化していく心底楽しそうな2人を、湊はキラキラした瞳で見送る。
     そういえば、と振り返ると、そこには残りのメンバーが集っていた。
     ウツロギと同じ南瓜だが、ちょっと暗めのジャック・オ・ランタンに扮した影石・キヨジ(日常の影・d04310)。
     そしてキヨジがじっと見つめるのは、隣に立つ佐和・夏槻(物好きな探求者・d06066)。耳と尻尾をつけた夏槻の仮装は、ハロウィンから連想すると狼だが、可愛い印象があってどちらかというと……
    「……柴犬」
    「柴犬言うな。狼男だ」
     ぼそっと言ったキヨジの率直な感想に、夏槻が即座にツッコんだ。
     その後ろには、同じく狼男に仮装した置始・瑞樹(殞籠・d00403)。
     高校生、さらに年上に見られる瑞樹と、中学生にしては線の細い夏槻。そんな年齢や体格のせいもあるだろうが、とても同じ狼には見えない。
    「狼じゃないよな?」
     キヨジは首を傾げている。
    「柴犬、可愛い~」
     犬好き、特に柴犬が好きだという浅間・雪(ぐれいはうんど・d00428)に至っては、完全に夏槻を柴犬認定で大喜びだ。
     まだ可愛いと言われてしまう年頃だと理解してはいても、やはりそう評されることが気になってしまう夏槻の心境は複雑で……
    「お、いたいた」
     そんなウツロギの声に、夏槻はそのもやもやを無理矢理消しさった。
     そしてウツロギの視線を辿り、その先に守るべき相手を……千里を発見する。千里は、行列から離れ、大人の女性へと駆け寄っていくところだった。
    「ではこっそりとー」
     ウツロギが、そして白虎が、相変わらず見事に子供達に紛れながら、行列の端、千里に近い場所へと進んでいく。
     千里の前に出るのは、千里が攻撃されるその直前。早すぎてもシャドウの行動を変えてしまうが、遅すぎれば千里の身が危ない。
     だからこそこっそりと、だからこそその時を逃さないよう素早く、灼滅者達は行動する。
     ……8対の視線が向かうその先で、千里の顔に戸惑いの表情が浮かび、すぐに周囲に武器を手にした大人4人の姿が現れて。
     合言葉が冷たく響いたその直後、大人達がそれぞれの武器を振り上げた。

    ●Will o'the wisp
     配下の攻撃意思を見て取るや否や。
    「まとめてドーン!」
     有無を言わさずウツロギが放った鏖殺領域が、4人の大人達……シャドウの配下達を一度に包み込んだ。その隙にウツロギは千里へと駆け寄ると、その場にいる大人全員から千里を引き離すように下がる。
     間をおかず、仲間達が次々と飛び込んできた。
     夏槻が、鋼糸を繰り出し配下の動きを牽制。白虎と雪が駆け込んだそのまま配下へ向かうのを、援護する形だ。
     一方で凛々子は通り過ぎようとしたその足を止め、ふっと千里へ振り返る。
    「これは、お化けが見せた悪い夢。
     本当のはろうぃんはもっと素敵で楽しいんだよ」
     言いながら差し出されたのは小さなチョコレートと飴が1つずつ。
     驚く千里へ、凛々子は無表情にこくんと頷いて。
    「いくよ、幽子さん」
     虚空へ呼びかけた声に応え、凛々子のすぐ横にビハインドが現れる。
     お菓子以上に驚いた表情を見せた千里の前で、凛々子は、配下のうち咎人の大鎌を持つ者へ向かってトラウナックルを。続くようにビハインドが配下達へまとめて攻撃を放つ。
     そんな凛々子達の背中を見送ると、今度はその頭を、ぽんっと軽く、大きな手が叩いた。
     反射的に見上げた瑞樹の姿に、先ほどの大人達を思い出して千里は一瞬息を呑む。
     でも、頭に触れた手はとても優しくて、千里はすぐに緊張感を解いた。
     瑞樹はそのまま何を言うでもなく、千里から手を離して踵を返し、仲間の盾となるべく前へ出る。日本刀の斬撃を受けつつ、BS耐性を狙って雪へとワイドガードをかけた。
     キヨジも瑞樹と同じ狙いで白虎へと防護符を飛ばす。仲間の回復と千里の守りを役目と心得た彼は、千里のすぐ傍で千里を庇うような位置に陣取った。
    「……まずは、きみ」
     湊がくるりとガンナイフを回して構えると、大鎌を持つ配下へ弾丸を打ち出した。そのサーヴァントである霊犬も、大鎌持ちを狙って射撃を行う。
     シャドウがその姿を現すのは、配下のうち1人が倒された時。
     その1人を、灼滅者達は大鎌持ちと決めていた。それゆえの集中攻撃だ。
     そして、シャドウはその姿を現した時、一番近くにいる者へ攻撃する。
     シャドウがどう出現するかは分かっていない。不意をつかれて攻撃される恐れもあるが、何より最悪なのは千里が攻撃を受けてしまう展開だ。
     だからこそ、灼滅者達は千里の守りを意識し、そして『その存在』を警戒していた。
     夢の一部としてただ存在するだけの仮装行列と違い、シャドウの配下達と同じように、千里の行動に反応して関わる行動をする『存在』。すなわち。
    「千里。こっちへいらっしゃい」
     唐突に響いた優しげな声は、千里の母親のものだった。
    「ちゃんとハロウィンをやりましょう。
     お菓子が渡せなかった千里は、悪戯されなきゃ駄目でしょう?」
    「お母さ、ん……?」
     千里が呼び声に応えるように、ふらふらとした足取りを母親へと向ける。
     最も信頼を寄せる者の呼び声に惹かれるのは当然のことだ。たとえその言葉に小さな違和感を感じたとしても。
     だが、それほど信じてすがった存在に裏切られたとしたら、それはどれほどの絶望だろう?
    (「母親……それが、この子にとっては特別な存在という事か」)
     予想を確信に変え、夏槻はその母親を睨むように見据えた。
     キヨジは行く手を阻むようにその前に立ち、千里の足を止め。
    「……お母さんは……優しいヒト?」
     そこに湊が、ぽつり、と話しかける。
    「でも……優しいヒトは、危険な目にあってる子を助けない事は無いよ」
    「君のお母さんは、君が苦しむのを望むような人じゃないだろう?」
     重ねられた夏槻の言葉に、はっと千里が顔を上げた。
    「あれは君のお母さんに化けて悪戯しようとする悪いオバケなんだ」
     バスターライフルを油断なく配下へ向けながら、ウツロギも千里へ声をかける。
    「みなさん気をつけて」
     割り込んで響いたのは、前衛として白虎と共に積極的に配下へ向かっていた雪の声。
    「いきます!」
     続く白虎の声と、彼女のマジックミサイルが向かう大鎌持ちの様子を見て、灼滅者達はその意味を理解する。
     魔法の矢は、狙い違わず突き刺さり……
    「……悪い子達」
     配下の1人が消滅するのを見た母親の口から漏れたのは、低く暗い声。
     そして、優しげな雰囲気から一転して嘲るような笑みを浮かべると、
    「トリック・オア・トリート」
     母親は……いや、シャドウは、一番近くにいた瑞樹へと、千里へ見せ付けるようにして強烈な一撃を叩きつけた。

    ●Trick or Treat
    「お兄さんっ!?」
     シャドウの一撃で吹っ飛んだ瑞樹に、千里が悲鳴のような声を上げた。
     それを聞いてか、ふふっ、と酷く楽しそうに、母親の姿を保ったままのシャドウが笑う。
    「千里が来てくれないから、代わりに悪戯しちゃったわ」
     さあ、次は誰? というように辺りを見回しながら、シャドウはゆっくりと余裕の足取りで己の配下達と合流する。
    「お母さん……どうして……」
    「違うよ!」
     泣き出しそうな千里に、白虎が強く首をふった。
    「千里ちゃんのお母さんは、いつもはもっと優しいはずだよ。これは悪い夢なんだよ」
     再び魔法の矢を生み出して残る配下へと向けながらも、肩越しに千里へ笑顔を向けて優しく、諭すように言う。
    「思い出して。その可愛い服を用意してくれた時のお母さんは、どんなだったかな?」
     千里にとても良く似合ってると思うその仮装を指差して、雪も笑いかける。
     そして、すぐに配下へと向き直り、漆黒の弾丸を作り上げて、
    「……つぎ、槍」
     湊が示した、3人の配下で一番ダメージが深い相手へと、その暗き想念を解き放つ。
     間髪入れずに、死角へと回り込んだ夏槻が槍持ちに斬りかかった。
     シャドウへは、凛々子の矢が牽制のように放たれる。
    「キミのお母さんはお菓子をたくさん準備して、楽しくはろうぃんしようと待ってくれてるから……
     だから、早く帰ろう?」
     弓を構えた凛々子は、同時に千里への言葉も放っていく。
    「ボクの、お母さん……」
     千里にはこれが似合うわ、と笑っていたお母さん。
     お菓子は何がいい? と楽しそうなお母さん。
    「ボクのお母さんは……こんなことしないよ!」
     戸惑いの末、強く言い切った千里を見て、灼滅者達の間に安堵が広がる。
     一番守るべきものは、これなら守りきれそうだ。
    「大丈夫か?」
     キヨジが防護符で回復をかけながら、瑞樹に声をかけた。
     思い出したかのように千里も駆け寄って。
    「お兄さん……」
     せっかくの笑顔を曇らせてしまったか……
     少し申し訳なく思いながら、瑞樹は千里の頭に再びぽんっとその掌を弾ませて。
    「ありがとう。大丈夫だ」
     2人に背を向けると、戦いに戻るべく、シールドを展開した。広がる蝶のような盾に、千里が、わぁ、と小さく感嘆の声を上げる。
     やっと子供らしい無邪気さが見えてきた千里。だがキヨジは、ほっとしつつも怒りを覚えていた。
    (「折角の祭りだというのに、何が楽しくてこんな……」)
     本当なら最初から最後まで、千里の夢は楽しいもののはずだったのに。
    (「だからアイツらは嫌いなんだ……」)
     未だ母親の姿を保ったままのシャドウを睨みつける。
    「さあ、お母さんに化けた悪いオバケをやっつけて一緒にハロウィンを楽しもう!」
     そんなキヨジと千里の横でバスターライフルを撃ちながら、陽気にウツロギが声をかける。
    「度が過ぎるイタズラは、ハロウィンでも許されないかね……
     お菓子くれないなら、灼滅で」
     冗談めかして言う湊に、ウツロギも乗って、
    「トリック・オア・灼滅!」
    「いやそれは酷いだろ」
     思わず即座にツッこみながら、しかしシャドウ相手ならいいのかもしれないと、キヨジはふと思ってしまった。
     ……そしてさして間をおかず、最後の配下、日本刀持ちが消滅した。
     灼滅者達の視線が、一斉にシャドウを捕らえる。
     湊の胸にスペードのマークが浮かび上がり、 
    「……演算終了。目標捕捉。周囲の障害物クリア。あなたをkill zoneに捕えました」
     白虎の高速演算モードが発動。
    「さて、君で最後だ」
     それぞれの準備完了を見てとって、ウツロギが宣言する。
     そして、強い瞳でシャドウを見据える千里。
     もう千里は、シャドウを母親としては見ていなかった。
     それを感じたのか、シャドウはつまらなそうに千里を一瞥すると、無言のままその姿を消した……

    ●Happy Halloween
     シャドウが消え、千里も無事。これにて任務完了。
     ではあるのだが……
    「はろうぃんはこれからだよ千里ちゃん」
     凛々子が無表情のままそんなことを言い出した。
    「……ボク達に何か言うことあるんじゃない?」
     その言葉に灼滅者達は意図を汲み取って、千里の周りへ集まってきた。
     飴を見せる湊に、南瓜のクッキーを掲げる夏槻。
     キヨジはしゃがんで、お菓子以外持っていないと、手を広げたりポケットの中を見せたりせわしなく。
    「トリック・オア・トリートと言ってごらん」
     ウツロギの直接的な促しに、千里も理解して、おずおずと……
    「……トリック……オア・トリート」
    「ハッピーハロウィン!」
     白虎の応える声に合わせてお菓子が次々に降ってきて、だけどお菓子よりも応えてもらえたことに千里は顔を輝かせた。
     だが、ただ1人、瑞樹だけがお菓子を渡さずに、じっと千里を見ていた。
     千里に何かをしようとしている素振りが全くない。
     むしろ、何かを待っているような……?
    「お菓子をくれないなら」
    「悪戯しちゃおう!」
     千里より先に気付いたウツロギと白虎が、その小さな手を引いて一緒に瑞樹に飛び掛った。
    「凛々子さんが食べちゃ駄目だよう」
     飛び出した千里に代わってお菓子に囲まれた凛々子に、雪が困ったように声をかける。
     だが。
    「とりっく・おあ・とりーと」
     凛々子の声に、ビハインドが手を出して雪にお菓子を催促。
    「ハロウィンはなぁ……楽しいぞ、うむ」
     キヨジがそれらを見て頷き。
    「……たのしい、よ」
     湊は霊犬にもお化けの飾りをつける。
    「悪いお化けが消えたから、目が覚めたら楽しい本当のハロウィンが待っているよ」
     はしゃぐ千里に、夏槻が歩み寄って笑いかける。
    「お兄さん、お姉さん」
     千里は、大きく息を吸って。
    「トリック・オア・トリート!」
     ありがとうの代わりに、今度は大きな声で、守ってもらった楽しい合言葉を、言った。

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 4
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