武蔵坂防衛戦~釣野伏

    作者:佐伯都

     シャドウとの決戦を控え、共闘を要請するため朱雀門へ代表者が向かったことは記憶に新しい。
    「その結果、皆にも知らされている通り爵位級ヴァンパイアの武蔵坂襲撃計画の存在が明かされた。武蔵坂がソウルボードでシャドウとの決戦を行う、と偽の情報を流して全軍を率い爵位級の先鋒として攻め込む、と」
     そのうえで朱雀門軍が奥まで侵攻したことを確認すれば、爵位級の軍が攻め寄せてくる手筈になっているらしいね、と成宮・樹(大学生エクスブレイン・dn0159)は教卓へルーズリーフを広げた。 

    ●武蔵坂防衛戦~釣野伏
     武蔵坂の選択肢は3つ。
     一つ、先鋒の朱雀門軍を撃退する。朱雀門を撃退してしまえば爵位級ヴァンパイア軍は攻めて来ない。ただしシャドウとの決戦に介入してくる可能性が高くなる。
     二つ、先鋒の朱雀門を学園の奥まで侵攻させることで爵位級ヴァンパイア軍を釣り出し、できるだけ多く撃破する。ここで戦力を削いでおけばシャドウとの決戦へ爵位級に介入されることはないはずだ。
     三つ、引き入れた朱雀門を騙し討ちにしたのち、やってくる爵位級を撃破する。もし成功したならどの作戦よりも戦果を得られるが、かなり危険な賭けであることは言うまでもない。
     年末年始でこのうちどの作戦を採るべきかの決定が行われ、二つ目、朱雀門の提案を受け入れ爵位級を誘い出す作戦を行うことになった。シャドウ大戦を制したデスギガスとの決戦中に、もし爵位級から横槍を入れられれば恐らく防ぎきれない。それを考慮するならやむを得ない所だ。
    「ただ、この戦いで多くの爵位級を灼滅できればヴァンパイアとの決戦で優位に立てることは間違いない」
     朱雀門がこちらを裏切ったりさえしなければ、と樹は声を低める。警戒はしておいた方が良いかもしれない。
     爵位級ヴァンパイアの有力敵は『バーバ・ヤーガ』『殺竜卿ヴラド』『無限婦人エリザベート』『黒の王・朱雀門継人』、と想定されている。これらに吸血鬼や眷族などが配下として従っているようだ。誰を作戦目標とするかはよく話し合っておくべきだろう。
    「爵位級ヴァンパイアを撃退するためには複数、3~5チーム以上が力を合わせなければ不可能だと考えられる。灼滅を狙うとなるとその倍以上が必要だと思うけど、作戦内容によってはそれより少ない人数でも可能になるかもしれない」
     うまく爵位級と配下を分断できるかどうか、が成否を分けると考えていいだおう。
    「……ヴァンパイア、か。ああは言われたものの、これまでずっとダークネスの貴族と表現されてきた相手だ。それを忘れないで」
     どんな策をもって挑むとしても決して侮らないように、と樹はいつになく真摯に言葉を重ねた。


    参加者
    暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)
    槌屋・透流(ミョルニール・d06177)
    碓氷・炯(白羽衣・d11168)
    海川・凛音(小さな鍵・d14050)
    ハノン・ミラー(蒼炎纏いて反省中・d17118)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)

    ■リプレイ

     襲いくる『黒の王』――朱雀門・継人を奇襲する作戦は断念せざるを得なくなったが、もともと挟撃を狙って動く手筈になっていた自分達にとっては作戦の大方に変更はない。
     奇襲を担うはずだったエリノア(d26318)や依子(d02777)、明日香(d31470)らは正面からの正攻法に方針転換したようだ。
     連絡係を担っていた海川・凛音(小さな鍵・d14050)は作戦変更の了解と引き続き埋伏を続けることを冷静に伝え、その瞬間を待つ。
    「作戦とは言え、学園内に敵を引き入れるなんて……もし追い返せなかったら」
    「ま、ifの話をしても始まらない。相手が誰だろうと何だろうとぶっ壊すだけだ」
     心なしが顔色が優れない湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)へ、槌屋・透流(ミョルニール・d06177)は低く鼻を鳴らした。ひかる自身触れるつもりがなかったのか、それともその想像が恐ろしすぎて口に出せなかったのか、ここで吸血鬼軍を追い返せなければ学園はもとより自分達はどうなるのか、透流は深く考えないことにする。
     帰ってこいと言った相手がいる。ならばその場所は何としてでも死守しなければならない、ただそれだけの簡単な事だ。
     難しく考えることは嫌いだ。戦っている方が楽で、そのほうがずっといい。
     やがて身を潜めていたポイント付近へもう一つ、挟撃を担う樹(d02313)や泰孝(d03626)らのチームが姿を現し、合流を果たす。いや高まる緊張感に、葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)は無敵斬艦刀【フレイムクラウン】の感触を確かめた。
    「さて、貴族に喧嘩を売るとどうなるか」
     一丁やってみましょっか。そう呟いたハノン・ミラー(蒼炎纏いて反省中・d17118)の足元から陽炎がゆらめき立つ。
     埋伏する2チームが見守る先、唐突に剣戟の音が響き渡った。
     宿敵、ヴァンパイア。まみえるのは本当に久方ぶりだ。
     この、ダークネスの貴族様達はどうにも他よりひときわ腰が重くていけない、と牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)は思う。
     疑い、謀って、謀られて。
     王ってやつはなかなか大変そうだ、同情などしてやる義理はないけれど。
     ――さぁ、遊ぼう。
     そんな麻耶の内奥の呟きがメンバーに聞こえたかは定かではない。しかし、回復を担うために最後方へ布陣する予定の湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)には、挟撃班2チームのスタートはほぼ同時に思えた。
     退路を挟撃で分断した今こそ好機、と確信した統弥は暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)と共に先頭で斬りこんでいく。
     『黒の王』。人間のそれと意味は違えど王の名を冠するもの。たとえ今は及ばず勝利できないとしても、けれど、サズヤはこのヴァンパイアに負けるつもりは一切ない。
     あの頃より自分は強くなった、絶対に、確実に。
     黒の王率いる吸血鬼軍が挟撃に気付いたのはその直後。もっとも、朱雀門の裏切りや他の危険も織り込み済みだったこともあり、動揺は少ないようだと碓氷・炯(白羽衣・d11168)は分析する。
     血管と筋肉組織が生々しくむきだしたようなグロテスクな四肢を晒し、紅血魔が二体、行く手を遮る。そのすぐ背後では、青白い肌のヴァンパイアが右腕へ直接接続された赤い砲身を向けていた。
     ミストレスブラッド、と思わず呟きその場にハノンは急停止する。
     突進の勢いのままに統弥は黄金の王冠の意匠もまぶしい無敵斬艦刀を紅血魔めがけて叩きおろし、サズヤのバベルブレイカー【丑の刻】もまた唸りをあげて目の前のダークネスを排除にかかった。
     継人がもう、すぐそこにいるというのに。
     しかし今は後方から降り注いでくる援護に背を守らせ、目の前の障害を突破するだけだ。撃退狙いの策ではあったが、だからと言って最初から防戦一方でやりすごせる相手とは夢にも思っていない。黒の王の首級を挙げる、そのつもりで挑まなければならないとさえ考えていた。
     ハノンはとっさに凛音と共に、三体のダークネスの突破口を探る。
     後衛から雨あられと降り注いでくる援護。
     そして麻耶のヨタロウとひかるの霊犬がヴァンパイアの猛攻を凌いでくれているうちに、刃を届かせなければ。
    「――その首置いていけ、黒の王」
     白の猫耳パーカーに埋もれた麻耶の口元が囁いたひどく剣呑な台詞は、彼女のすぐ目の前に立っていた炯にしか聞こえない。全砲門の解放に続き、そこから猛然と乱射される光線によって、紅血魔のむきだしの血管がびちびちと灼き切れた。
     統弥はこれらのダークネスを打ち破り前進してこそ勝利へ、ひいては黒の王の眼前へ至る道と信じて疑わない。たださすがに一度に三体ものダークネスを相手取ればあまり余裕はなく、炯は忙しく考えを巡らせる。
     何度目かのサズヤとの打ち合いでついに、紅血魔が一歩後ろへ脚を引いた。すかさずカバーに入ろうとミストレスブラッドが動いた瞬間、炯は電撃じみた天啓を受けた、そんな気分で目を瞠る。
     絶妙のタイミングでもう一体の紅血魔を、力任せに左方向へさばききった統弥の背中。今です、と自分の口が叫んだのを他人事のように炯は聞いていた。
     弾かれたように凛音が前へ出る。あれほど強固だったダークネスという名前の障害物は、もはや彼女を束縛していなかった。継人が真正面に見える、今この瞬間にこの隙を突けるのは自分だけ、と直感的に理解しそのまま矢のように飛び出す。
     完全にがらあきの、黒の王。背後で誰かが、いけ、走れ、と叫んだのが遠く聞こえていた。透流の、麻耶の、炯のサイキックが爆ぜるのがわかる、とても時間の流れが遅く感じる、そんな錯覚。
     その瞬間、凛音は自らの命の安全も、何もかも投げ捨てた。のるかそるかの賭けがここでどう転がるかなんて誰も知らない、ただ信じるもののためにこの戦場へ持てる限りのものをベットするだけ。
     まず外さない。シールドバッシュへそんな確信を得た凛音は、青白い肌、吐息の温度を感じるほどの至近距離で継人がうすく笑むのを目にする。
     渾身で振り抜いたはずの盾は空を切っていた。
     余裕をもって、それであえて紙一重で躱したのだ――そう理解した瞬間、何もかもが闇色に塗り込められる。
     ――ああ、わたし。
     全身のブレーカーが落ちたような感覚。こほり、凛音は自分が吐いた息が真っ赤な飛沫になって飛び散ったのを見た。
     たった一撃で凛音を戦闘不能に陥れた、真正面に見えた黒いなにかは継人の、……そこまで知覚したのが凛音の限界。意識が強制的にシャットダウンする。
     恐怖も後悔も、数限りなく経験してきた。恥じない歩みであると顔を上げていられるように。
     ――かっこよくいられた、でしょうか。
     今日よりも良い明日のため、乗り越えて、悔いなく前に進むために。ずっと。
    「海川先輩!」
     継人が放った闇の雷で、なすすべもなく小さな身体が宙を舞うのを透流は見た。どこかのチームが相手取っていたのであろうミストレスブラッドの、凄まじい断末魔の悲鳴が聞こえたが今はそれに構っている余裕などどこにもない。
    「海川さん!」
     ひかるの目の前まで吹き飛ばされ転がった体躯を抱き起こす。何から何までぼろぼろの状態、意識もないが、決定的な生命の危険だけは免れたようだ。
     これ以上戦闘に巻き込まれては今度こそ命に関わるだろうが、ひかるが血の気が引いた顔で周囲を見回してみても戦場外へ連れ出せそうな隙はどこにも残っていない。互いに一進一退の攻防が始まっていたが、視界の端に見える黒の王には明らかに余裕が漂っている。
     激戦の真ん中、凛音を逃がすことは不可能。身も凍るようなその現実にひかるはせめて自分がおかしな悲鳴をあげぬよう必死に唇を噛み、霊犬を傍へ呼び戻す。
     決して傍を離れず守りきるよう命じ、どうかしたら舌を噛みそうに震えてしまう顎を上げた。怖い、怖い。今すぐ何もかも見なかったことにして耳も塞いでしまいたい。
     でも前線で、諦めることなく戦い続ける人の背中があるなら。
     それだけは絶対に支えなければならない。
    「……『黒の王』、朱雀門継人!」
     統弥のフレイムクラウンへ突き立てられた赤く大きな爪が、嫌な音を立てている。紅血魔が牙を剥きながらぐいと幅寄せしてきた勢いを殺しきれず、一歩二歩と統弥の踵が後退した。
     余計なことを喋るつもりはないが、もし気を惹くことができれば。
    「貴方も、サイキックハーツを目指すのですか」
     もっとも、統弥には魅力的なものと思えない。達成しても永続できず崩壊するものを目指す意味はどこにあるのだろう?
    「それより愛する人と共に生きる方が尊くはありませんか」
     ダークネスにこの言葉が理解できるとは思わない。しかしそれでも統弥は声をあげた。ミストレスブラッドからの砲身から放たれた赤い弾丸で、頬に熱い感触が走る。
     凛音の穴はハノンが埋め、ダークネス三体の猛攻はそれまでにも増してヨタロウに重くのしかかった。どうかしたら一進一退どころか押し戻されそうな勢いで猛攻を仕掛けてくる紅血魔とミストレスブラッドに、ハノンは思わず眉をゆがめる。
     チーム内で最大火力を誇る統弥をうまく回すためには、そのための盾がいる。凛音が抜けた穴はハノン、そしてサズヤにとって非常に大きい。
     元々撃退狙いのチーム数しかいないなら、こちらが追い詰められてくるのは自明の理だった。黒の王も余裕を漂わせており、力量差は時間の経過と共に明白になる。
    「……で、押されてるからって、何だ。邪魔する奴はぶち抜く!!」
     自分を奮い立たせるように一声吼えて、透流は踵を鳴らすように脚を振り上げる。狙いあやまたず、その足元から放たれた闇色の刃は紅血魔の眉間を見事に打ち抜いていた。
     しかし、さすがは黒の王の周辺を固めるだけあって紅血魔は相当にタフだ。何事もなかったように手近なハノンへ殴りかかる。壮絶な消耗戦になりそうだった。
     周囲の別チームの助っ人に入るような余裕はない。
     だから誰も気付いていなかった。その笑い声が上がるまでは。
    「クヒャヒャヒャ!」
     出し抜けに響き渡った、狂気すら感じる哄笑。ハノンは背筋を駆け抜けた悪寒に目を瞠る。
     知らない声だ、でも、そこに横たわる闇の深さなら知っている。その事実が知らせる直感にじわじわと冷たい汗がにじみだした。まさか、と肩越しに振り返ったひかるは一人の闇堕ち灼滅者が黒の王、継人の傍へ駆け寄ってくるのを見る。
     闇の王の誰何に、今やダークネスという存在へ堕ちた銀夜目・右九兵衛は信じられない取引を持ちかけてきた。
     朱雀門瑠架の居場所も含めた武蔵坂の情報を見返りに、自分を雇え、と。
    「手始めに、あんたのところの朱雀門、裏切ってるわ」 
     全身の血流が逆回転を始めるような不快感を覚えてサズヤは歯噛みする。
     朱雀門ではなく、まさか灼滅者だった男とは誰が予測するだろう。朱雀門の監視役と裏切りの兆候あらば連絡するよう申し合わせていたが、それもなかった。つまり、あちらのチームも欺かれたという意味だ。
    「……なるほど。獅子身中の虫ってやつですね」
     殺気とも怒気ともつかぬ気配を漂わせつつひどく乾いた笑いを漏らした炯の声音に、透流は目元を覆う。
    「ないな……これは、ないだろ……」
     闇堕ち灼滅者をフリーにしておいた代償がこれだとしたら、ずいぶん高くついたものだ。
     しかしダークネスは己の欲望に忠実な邪悪なもの、と相場が決まっている。このたび共闘を容れた朱雀門ですらそうなのだ、根本的な思考が邪悪であるなら、むしろ元・灼滅者こそ誰より武蔵坂へ牙を剥く可能性が高いと考えるべきだったのかもしれない。
     しかし、今そこに透流が気付いてももう何もかもが遅い。エリノアが非難に満ちた叫びをあげた所で、もはや右九兵衛の心に届くことはありえないだろう。
    「ここまで、でしょうか」
     激しい戦闘の余韻を残す荒い息を吐きながら、統弥は静かに剣を下ろした。
     朱雀門の裏切りをこんな所で暴露されてしまった以上、吸血鬼軍は戦闘を続ける意味がない。次々と他チームから怒声が上がっているのが聞こえるものの、灼滅者として戦った右九兵衛の心を揺らしてはいない。少なくとも統弥にはそう思えた。
     闇堕ちから引き戻すには、大なり小なり必ず人の心の部分を呼びさます必要がある。絶対にだ。
     でもこうして武蔵坂へ明確に弓引く真似をした右九兵衛は恐らく、もう。決して。――
    「お前の存在は不愉快だな、だが」
     端整な面へ薄い笑みをのぼらせて、黒の王はそんな右九兵衛のことを『愉快な男』と表した。
     ……それこそ冗談じゃない。こんな手ひどい裏切りが、愉快なものであるわけがない。
     右九兵衛を末席へ加えることに諾と答えた継人と、にやにやと底意地の見えない笑いを浮かべる右九兵衛。両者を睨みつけた炯はこの例えようもない屈辱と怒りを忘れるものかと、それだけを考えていた。
     でなければ、何もかも振り捨てて今すぐあの首を掻き斬りに、走り出してしまいそう。こんな馬鹿馬鹿しい裏切りのせいで、あんなふうに凛音が倒れたことも、この場、他の場で戦っている灼滅者の流した血が踏みにじられることも、何もかもが許せない。
     今ここで、殺してやりたい。今すぐに殺してやりたい……!!
    「皆のもの、この場より撤退せよ」
     朗々と響く黒の王の号令に従い、整然と撤退を始める吸血鬼軍。
     その背中を何もできぬまま呆然と見送り、こんな事もあるのかと呟いた依子がその場にへたりこむのがサズヤにも見えた。やりきれない思いを散らそうと頭を振っても、吐息は石のように重い。
     疑い、謀って、謀られて。
    「最後に謀られたのはこっち、って事スね……」
     遠くなる背に目を細め、深々と溜息を吐いた麻耶がずいぶん小さくなっていたロリポップをがりりと噛んだ。
     妙に苦く感じる飴玉の欠片。後味は良いものではないが、ひとまず黒の王は退いた。むしろ壊滅的な被害を受ける前にお帰りいただいたと思えば、悪くない結果のはず。
    「ヨタ、おいで」
     丸々とした立派な体躯の相棒をひとつ撫でて気分を変えた。
     朱雀門も、何も無かった顔で帰還できるとは思っていないだろう。ここからの身の振りようはある程度折り込み済みのはず、でなければよほどの考え無しとしか言えない。
     ならば今は、武蔵坂は武蔵坂の、やるべき事をするだけ。
    「ところで、残党掃討戦と洒落込むのはどうですかね。こんな後味悪い勝利、自分は嫌なんスけど」
    「賛成です。まだ学園から吸血鬼の脅威は去っていない」
     すぐに統弥が同意し、残る者もひとり残らずそれに従う表情を見せた。ひかるは慌てて未だ意識の戻らない凛音のもとへ戻り、震えのさめやらない腕で抱き起こす。すっかり汚れてはいるものの、その顔が苦痛に歪んでいないことにひどく慰められるような気がした。
     何故だろう、目の奥がとても熱かった。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年1月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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