武蔵坂防衛戦～吸血鬼との死闘

■リプレイ

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　戦場と化した学園敷地内を紫乃崎・謡（紫鬼・d02208）が進む。自班の仲間と共に。物陰から物陰へ、迷彩ローブで姿を隠しつつ、殺竜卿ヴラドの本陣を目指していた。
「どうしてこの手薄なときに～！」
　別班のミカエラ・アプリコット（弾ける柘榴・d03125）の怒声。そして激しい戦闘音。ミカエラを含む2班が、ヴラド本陣を前衛部隊と切り離すため戦っている。
　さらに本陣に向けて進むと、渡橋・縁（神芝居・d04576）らの無線から、
「こ、これから後方へ突撃を開始します！」
「同じく。最後尾、仕掛けるよ」
　源野・晶子（うっかりライダー・d00352）、蒼間・舜（脱力系殺人鬼・d04381）の声。
　晶子と舜の2班が、敵本陣と後衛部隊を切り離すため突撃したのだ。
　謡は敵の本陣に目をやる。ヴラドは謡たちからさほど遠くない位置にいる。そしてヴラドの周辺には騎兵4体のみ。ミカエラや晶子、舜たちの奮闘の結果だ。謡は自班の仲間へ告げる。
「行こう、学園防衛の駄賃に――殺竜卿の首、頂戴しよう」
「了解だ、ウタ……敵は竜騎兵に爵位級のヴァンパイア。戦場は自軍の心臓部。立ち向かうは、振り上げられた拳と化した精鋭。不謹慎だが……楽しいなァ」
　ハイナ・アルバストル（塗り潰す蒼・d09743）は謡の言に、真顔で頷く。
　他の灼滅者2班もヴラドへ動き出す気配を見せていた。彼らに呼応し、ハイナ達八人は戦場をひた走る。

　そしてヴラドを守る騎兵一体の前に、ハイナは立った。騎兵は武器を振り上げたが、ハイナの方が早い。ハイナは異形化させた腕の手刀で、敵の肩を打つ。
　謡も包帯に覆われた手を振る。肩を打たれた敵を風の刃で切り刻む。
　先制攻撃を決め灼滅者達は次々攻撃するが、
　騎兵が手綱を振った。騎馬が灼滅者前衛の中を駆けだした。馬の蹄が不動・祐一（幻想英雄譚・d00978）の顔面を蹴る。
　さらに騎兵はダブルの動きで剣を操る。祐一を切る。
　傷ついた祐一の肩にさらに刃がめり込んだ。膝を震わせる祐一。
　が、祐一は縛霊手はめた腕を握り、光を放つ。光で己を癒す。
　霊犬・迦楼羅も祐一の足元に駆け寄り、瞳の力を祐一に注いだ。
　笑みを敵に見せる祐一。効かないといわんばかりの不敵な笑み。その時、声がした。
「祐一くん、半歩右にずれてください」
　祟部・彦麻呂（快刀乱麻・d14003）だ。彦麻呂は祐一のすぐ後ろにいた。
　彦麻呂に従いずれる祐一。
「おー、彦麻呂。やってやれ！」
　彦麻呂は間髪いれず片腕を振る。ダイダロスベルトを伸ばし、騎兵の腹を刺す。
　傷つく騎兵。が、一分後には再び騎馬での突進を行ってくる。
　漣波・煉（平穏よ汝に在れ・d00991）は馬に蹴られ、明日・八雲（追憶の鳴き声・d08290）は剣で傷つけられた。
　縁は今、後衛にいた。
　縁は仲間の負傷を赤茶の瞳で確認。彼らの傷は浅いものではない。縁は二人を励ますように、
「大丈夫です、私ちゃんと支えますから」
　縁は『葦切』を持つ手を上へ。法陣を生成。
　縁の気が煉や八雲を治療。体勢を立て直させる。
　縁に、煉は視線で礼。
　煉は走り、騎兵の側面を取る。
　煉は相手の脇腹を強かに殴る。さらに霊力の糸で締め付ける。
　煉は視線をわずかに動かし、
「明日君、追い打ちをかけられるか？」
「任せて、煉」
　八雲は応えるや否や、跳びあがる。夕焼け色に染めた髪が微かに風に揺れる。八雲は宙で体を捻る。足を突き出す。
　スニーカー『馬酔木の幸甚』でのスターゲイザー。敵の脇腹を強かに蹴る！
　大幅に体勢を崩す騎兵。己を癒そうと、「おおおおおおおおお！」気合の声を発した。
　アリス・ドール（断罪の人形姫・d32721）は右に左にと、敵の周囲を跳びはね回っていた。敵が回復してできた隙を逃さず、高く跳びあがる。辻が花染め「光響」の裾が揺れた。
　アリスは宙で、
「……引き裂く……」
　銀爪を騎兵の頭部へ振り――騎兵を終わらせた。

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　八人は、ヴラドを守る騎兵の一体を倒した。本陣を狙った他の二班も、それぞれ一体を倒したようだ。
　が。ヴラドの手前に、まだ一体の騎兵。
　その騎兵は銀髪。眼光や体の動きが、他の騎兵を上回る実力の持ち主だと示していた。
　八雲は別班の仲間に告げる。
「あの銀髪のは、俺たちが相手をするね。だから……ヴラドはお願い」
　八雲の声に、
「了解、ありがたく頼らせて貰うぜ」
　柳瀬・高明（スパロウホーク・d04232）の返事。もう一つの班の村山・一途（硝子細工のような・d04649）からも、
「はい。遠慮なく殺しますよ、私は――殺人鬼ですから」
　と目くばせ。
　彼ら2班がヴラドに向かうのを見つつ、八雲は自班の仲間と銀髪の騎兵へ駆ける。
　銀髪の騎兵は八雲らへ叫んだ。
「我はヴラド様の副将、竜旗手ワフラン。ヴラド様のためにまずは貴様らを倒す！　そして他の者も……殺す！」
　銀髪――ワフランの叫びに、彦麻呂は何げない口調で返す。
「はじめまして、竜旗手。竜旗手にも殺竜卿にも別に恨みはないですけど、人類の存亡とかそういうののために死んでください」
　彦麻呂は一歩踏み込む。ベルトで敵の馬体とワフランの胴を貫いた。
　が、ワフランの顔色は変わらない。
「笑止！」
　ワフランは馬を走らせ苛烈な突撃を行ってくる。馬体に前衛の5人が吹き飛ばされた。
　八雲も突撃を受け、地に叩きつけられる。
　両手を地に着け、八雲は上体を起こす。強い痛みがあるが、八雲の顔に恐怖は無かった。死闘でも、皆と一緒に戦えるから怖くない、というように。
　そして八雲は叫ぶように歌いだす。リバイブメロディ。おかゆも仲間を癒すべく、懸命に戦場を駆け回る。
　が、一分後にワフランは、無数の弾丸を空中に発生させる。前衛に降り注ぐ弾丸。
　縁は、弾丸に撃たれる仲間を見、一瞬顔を曇らせる。が、すぐに表情を戻した。縁は息を深く吸う。目を閉じ開く。
　縁は天魔光臨陣を展開。弾丸でできた傷を素早く塞いだ。
　縁は顔を動かす。ハイナの青い瞳と目が合った。
　ハイナは縁の意を受け取ったように小さく頷き、そしてワフランへ向き直る。
　ハイナは『奇譚が如き足跡』の裏を地に擦り付け、炎を起こす。足を上げた。爪先を敵の体にめり込ませる。敵の体を焦がす。
　さらに灼滅者は畳みかけるように攻撃し、敵の傷を広げた。
　が、ワフランは余裕を失わない。
「ふん……そのような攻撃で我が倒れると思ったか。まだまだゆくぞ！」
　祐一と煉は顔を敵に向けたまま、言葉を交わす。
「次は後衛狙いみてーだな。煉、いーかげんお前との連携も飽きたわーってほどやってきたけどさぁー……また、やっか？」
「こっちこそいい加減、不動と合わせるのは飽き飽きだ。だが、役割に準じるとしよう」
　ワフランが無数の弾丸を宙に生成したのを見、二人は跳ぶ。後衛を狙う無数の弾丸を己の体で受け止める。
　祐一に迦楼羅が駆け寄り治癒。祐一自身も眩ゆい光を放つ。治癒の力を持つその光で己を照らす。
　煉も祭霊光で己を癒すと、祐一とともに、敵の前に。槍を両手に構えた。仲間は護ると、表情で告げる。
　祐一や煉が守りを固めている間に、アリスが動いた。
　地を這うように低い姿勢で駆け、絶刀「Alice the Ripper」を閃かす。異常に長く硝子のように透けた刀身で、敵に傷を刻む。ワフランがアリスを睨んだ。
　そのワフランの背後を、謡がとる。
　謡がふりあげるのは、紫苑の彩宿す十字砲『紫苑十字』。
　謡はワフランの後頭部を容赦なく強打。
　謡は、打撃に揺れる敵の体を見ながら、さらに攻撃するべく、十字砲を構えなおす。気力が続く限り攻撃し続けてやるというかのように。

●
　ヴラドの副将にして竜旗手たるワフランは、攻撃の一つ一つが、鋭くかつ重い。
　灼滅者たちは工夫された陣形と、十分に備えた治癒の力で、その攻撃に耐え抜いていた。が、治らない傷は増えていく。今も、
　ワフランの幾度目かの突撃に、前衛の者らの血が零れた。ワフランは肩で息をしながら、灼滅者を見る。
「……少しはやるようだが、所詮烏合の衆。このまま、倒すのみ」
　縁は傷ついた腕を振る。天魔光臨陣で、仲間の出血を抑え痛みを取り除く。
　仲間を癒しつつ、縁の顔はワフランへ向けられていた。
「たかが、烏合の塵芥とどうぞ侮りませんよう。竜を殺すも化け物を殺すも、いつだって、一念を持った人間の役目なのだから」
　その瞳に顔に、強い意志。ワフランは、
「貴様らが何を倒そうと、ヴラドさまとその副将の我は倒せぬ」
　手綱を握りなおし、再度攻撃する気配を見せた。
　そのワフランの前でアリスが立ち上がる。ワフランの攻撃を浴び、うつ伏せに倒れていたが、縁の力で立ち上がったのだ。アリスは言う
「……あなたが……副将でも何物でも興味ない……あなたたちの力で……泣く子がいるの……だから……その力ごと……全てを斬り裂く……」
　アリスの声は小さい。けれど――アリスのその声には、確かに力があった。
　アリスは絶刀「Alice the Ripper」の柄を両手で握る。刃を上から下に。ワフランを斬る！
「ぐっ」
　アリスの斬撃は、ワフランに苦悶の表情を浮かべさせる。
　そのワフランの顔を、ハイナは見つめた。ハイナたちの被害とて小さくはないが、しかしこちらの反撃もワフランの体力を確実に削いでいる。
「殺竜卿の副将、竜旗手。大層な名前だけど、たかが灼滅者に苦戦するようだ。格好良すぎて僕なら自殺するね」
　ハイナは言葉で敵を煽る。そして、ジャンプ。輝く踵で脳天を潰す如くに蹴る。
　ワフランは顔に苦悶を浮かべつつも、片手を上げた。渾身の一撃を放とうというのか。
「遅いよ、竜旗手。その遅さは致命的だろう？」
　と、謡。謡はすでに風の刃を放ち終わった後だった。謡が言い終わらぬうちに、刃がワフランの首に当たる。
　ワフランの首から散る赤。ワフランは手で首を押さえた。

　その後は、一進一退の攻防が続いた。
　煉の前で、ワフランの騎馬は後ろ足で地面を蹴る。突撃しようとしている。
　が、煉は敵前から動かない。
　敵が動くと同時、握っていた拳を解き、掌を前に。結界を生成。
　ワフランの突撃に、膝をつく煉。だが、煉の結界も敵を痺れさせていた。
　煉は立ち上がりながら、鋭い眼光を敵に向ける。
　交差する煉とワフランの視線。互いに引く様子はみじんもない。
　その時、
「ヴラドを灼滅した！　私達の勝利だ！」
「こちら高明班……殺竜卿ヴラド、灼滅完了！」
　セレス・ホークウィンドが割り込みヴォイスで、柳瀬・高明が無線で、勝利を伝えてくれた。
　彼らは闇堕ちする者を出しつつ、それでもヴラドを追い詰め、討ち取ったのだ。
　ワフランもヴラドが倒れたことを知ったようだ。顔色を変える。
「ば、ばかな？！　ヴラド様が？　ばかなばかなばかな、我が主君が……ありえないありえないありえない」
　繰り返すワフランを八雲と彦麻呂が左右から挟み込んだ。
　八雲はおかゆに仲間の回復を続けさせながら、自身は『きしめんの御手・改』を嵌めた手で爆霊撃。
　彦麻呂の腕を振る。手には一本の杖。下から上に勢いをつけて。
　果たして、八雲の霊力の糸がワフランの胴体を締め上げ、彦麻呂の杖が敵の顎をかちあげた。
「がああああああああうあうううあッ」
　ワフランの口から言葉にならない叫び。
　ワフランは自棄になったように腕を振り回す。無数の弾丸で八雲や彦麻呂を撃つ。壊れたような顔と声でやみくもに。
　弾丸の嵐の中――祐一は駆ける。弾丸を受けるが、迦楼羅が癒してくれるから、だから祐一は足を止めない。
　そして射程圏に入ると、祐一は腕を突き出す。相手の体を掴む。ワフランがもがくが祐一は手を放さない。そして祐一は結界を発動。結界でワフランを包み込み、体力を奪う。
「ヴ、ヴ……さ、ま……ぐ……あっ」
　祐一の結界が、今まで全員で与えたダメージが、ワフランの体を横転させた。
　ワフランは二度と立ち上がらなかった。

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「……アリスたちが……勝ったの……？」
「あー。ヴラドも、その副将も倒したんだ。これは――」
「私たちの勝ちだな」
「ヴラドが率いていた騎兵は逃げ出しているようだね。この場の安全は確保できたみたい」
「他の班では闇堕者もでたようですから……手放しで喜ぶことはできませんが」
　アリス、祐一、煉はヴラドもワフランも完全に灼滅できたと確認。そして謡は戦況を確認。彦麻呂は眉を寄せる。
　八雲が皆の顔を見つめ、縁は遠慮がちな口調で、彼らに声をかけた。
「けど……休憩してる暇はないね。他の場所の皆のこともあるからね」
「え、ええ。無線でも聞いてみますが、確認しに行かないといけませんね」
　ハイナが同意する。
「ああ、あっすといろはすさんの言う通りだ、すぐ行こう」
　八人は移動し始める。ある者は、仲間が闇堕ちしたことに胸を痛めつつ。ある者はここにいない者を案じつつ。
　だが、八人が大きな戦果をあげた、奇襲を成功させヴラドを討ち取るその一翼を担ったことは、紛れもない事実。冬の空気は冷たいが、それでも八人は力強い足取りで、歩き続けた。

作者：雪神あゆた	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年1月20日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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