シャドウとの決戦を前に、代表者が朱雀門高校との共闘を求めて交渉に赴いたのは、昨年の年末のこと。
「その結果、爵位級ヴァンパイアがシャドウとの決戦に合わせて大軍を率いて武蔵坂に攻め込む計画があることが判明したのは、周知の事実だろう」
教室内に集まった灼滅者を見渡して、浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)は言う。
朱雀門高校の会長からは、『武蔵坂学園がソウルボードで決戦を行う』という偽情報を流した上、先鋒として朱雀門全軍を率いて攻めてくる。という情報を得た。
そして『朱雀門の軍勢が武蔵坂の奥まで侵攻する事を確認』すれば、爵位級の軍勢が怒涛のように攻め寄せてくる手筈であるようだ。
「わたしたちの選択肢は」
3つ。と千星は左手の三本の指を立てた。
「1つ目は、先鋒である朱雀門全軍を撃退する作戦」
朱雀門を撃退すれば、爵位級ヴァンパイアの軍勢は攻めてくることはない。が、シャドウ決戦の本番に彼らが介入してくる可能性が高くなる。
「2つ目は、先鋒である朱雀門全軍を学園の奥まで侵攻させて爵位級ヴァンパイアの軍勢を釣り出し、爵位級ヴァンパイアの軍勢をできるだけ多く撃破する作戦」
この作戦が成功すれば、シャドウとの決戦時に爵位級ヴァンパイアが介入してくるのを防ぐ事ができるだろう。
「最後は、朱雀門高校の軍勢を引き入れた後にだまし討ちにして、後に侵攻してくる爵位級ヴァンパイアを撃破する作戦」
成功すれば最大の戦果を得る事ができるだろう。だが、かなり危険な賭けになることは必至だ。
「この3つの選択について、皆には年末年始で話し合いと選択を行ってもらった。その結果、朱雀門高校の提案を受け入れ、爵位級ヴァンパイアを誘き出して灼滅する作戦を取ることとなった」
来るべきデスギガスとの決戦時に爵位級ヴァンパイアからの襲撃があれば、防ぎきることはおそらく不可能。
「だから、この選択は止むを得ない所だな」
この戦いで数多くの爵位級ヴァンパイアを灼滅する事ができれば、爵位級ヴァンパイアとの決戦でかなり優位に立つ事ができるだろう。
「ただ、朱雀門高校の戦力も所詮ダークネス。彼らが裏切った場合は、甚大な危機に陥ることは必至だろうから、警戒は必要だろうな」
爵位級ヴァンパイアの有力な敵は、『バーバ・ヤーガ』『殺竜卿ヴラド』『無限婦人エリザベート』『黒の王・朱雀門継人』であると想定される。
この有力な敵に、配下の吸血鬼や眷属などが従っているようだ。
爵位級ヴァンパイアを撃退するには、3~5チーム以上のチームが力を合わせなければ撃退する事は出来ない。また、爵位級ヴァンパイアを灼滅するには、更に倍以上の戦力が必要になるだろう。だけど作戦によってはより少ない人数で灼滅に追い込む事が可能になりそうだ。
「爵位級ヴァンパイアと配下の吸血鬼戦力を分断できるか否かが成否のポイントになるかもしれない。それを踏まえてどう行動するかを仲間同士で話し合って作戦目標を決定してほしい」
一通りの説明を終えて、千星はいつものように自信満々に笑む。
「皆が選び取った選択と練り上げる作戦が最良の未来を導くことを、わたしは信じてる」
だから迷わず進め。その胸の輝く星の導きの元、選び取った道を。
そう、強く願いながら――。
参加者 | |
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森田・依子(焔時雨・d02777) |
ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802) |
清水・式(愛を止めないで・d13169) |
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789) |
居木・久良(ロケットハート・d18214) |
安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263) |
神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500) |
●
『『黒の王の部隊』が動き出したわ』
『そちらへ向かっている、みんな気を付けてくれ』
「わかった。そちらも気を付けて」
各務・樹と 無常・拓からの無線連絡に応答したエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)は無線機を仕舞うなり、彼らからの情報を仲間に伝えた。
その緊迫した表情に、皆の気も引き締まる。
皆、小さな武者震いは収まりそうにないし、滾らないはずがなかった。
エアンもその一人。
宿敵の総大将である黒の王――朱雀門・継人を目の前にすることになるのだから。
そんな彼の袖を掴む手に力を込めて、葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)も、チームの仲間や他のチームの仲間とともに前を見据えていた。
「朱雀門・継人……遂に襲撃をかけて参りましたわね……」
うさ耳を揺らすミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)も表情を引き締める。
「しかし、学園を爵位級達に蹂躙はさせませんわ……!」
その言葉に頷いたのは清水・式(愛を止めないで・d13169)。
「負けられないからね」
学園の危機を守ることは、大事な人を守ることにもつながるのだから。そのためだったら、何だってしてみせる。
皆と同じようにまっすぐ前を見つめる神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500)も、皆と同じ想いでいた。
そして聞こえてきた。徐々に大きくなる進軍の足音。それぞれが武装し、得物を構える。
が、進軍してくる舞台を見、灼滅者達の脳裏をよぎったのは、困惑の二文字だった。
多くの兵を従えた黒の王は隊の中心に構えている。
周囲の索敵も抜かりなく、あらゆる軍勢からの万が一に備えているといっても過言ではない。
この状態は奇襲はおろか、配下を引き剥がすことも容易ではないことが伺えた。
「まずいな」
「確かにまずいですね」
徐々にその姿を露わにしてくる黒の王の軍勢を見つめながら、戦城・橘花が呟くと、同意するように寺見・嘉月が目を細めて頷いた。
「さて、困りましたわね……」
「完全に不意打ち対策をしているみたいだ」
ミルフィが眉根に皺を寄せると、居木・久良(ロケットハート・d18214)も表情も硬くさせて軍勢を凝視する。
「奇襲を仕掛けるつもりだったけど……隙なさそうだねー」
赤星・緋色が小さく首を横に振る。
「ならば、正面から戦うまでっす」
彼女の囁きに天摩が答えると、安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)も、
「ドイツの名将ロンメルのように、継人が最前線で指揮をとるタイプなら奇襲も狙いやすいですが……後ろで動かないなら、大阪夏の陣のように急襲するまでです」
と、得物を構え直し。
正面で対峙する事も想定に含めていた。平・和守は沈着を崩さず、
「黒の王と対峙する五隊のうち、二隊は先に挟撃の為に動いている。此処に居る三隊は彩瑠の班を中央に、右翼に森田班、左翼に俺達が布陣して敵と正対し、挟撃班と合わせて三方から攻撃しないか」
当初より五チームでは灼滅に至れぬ事を承知した上での配置の提案だ。
「うん。それでいい」
「爵位級が相手だものね。不満はないわ」
輝乃とエリノアが当然の様に応じ、森田・依子(焔時雨・d02777)もチームの仲間を見ると、
「私も……、私たちも提案に異議ありません」
と仲間の意思を和守に向けてはっきり告げる。
では、と和守が頷き返し、24人の灼滅者たちは彼の献策を受け入れ布陣を敷く。
程なくして、黒の王の軍勢がその姿を現した。
天摩が左翼班の白石・明日香へとアイコンタクトを送ると、右翼班の依子も二人と目線を合わせ、微かに、だけど確りと頷いた。
その陣形はまるで翼を広げたフェニックス――不屈の鳥。
灼滅者達は雄叫びを上げて戦場へと駆け出した。
大切なものを守る戦いが、いま、幕を開ける。
●
黒の王は笑みを浮かべていた。
その笑みの前に立つ屈強な体躯のヴァンパイア・紅血魔が二体と、露出の多い女型のヴァンパイア・ミストレスブラッドが一体、迫りくる灼滅者に向け、得物を構える。
まずは自分たちからだ。
禍々しい赤黒い爪を剥き出しに襲い掛かってきたのは、紅血魔。
「……!」
とっさに防御態勢をとった久良の前に躍り出たのはジェフ。
「っ!」
体が裂かれる痛みをグッと堪える。
「……ヴァンパイアというのは火事場泥棒が好きなようですね」
眼鏡を指で押し戻し、口元を手の甲で拭ったジェフが縛霊手の祭壇を展開させると放出された霊的因子は、ヴァンパイアたちの動きを封じる結界と成る。
「貴族のような爵位は止めて、お頭とか兄貴に呼び方を変えたらどうですか?」
行いはまるで荒くれ者そのものなのだから。
ウィングキャットのタンゴもひと鳴き、魔法でヴァンパイアを縛り上げた。
「ここで灼滅出来ないのは残念だけどね……」
エアンはクロスグレイブを構えると紅血魔を殴りつけ、その先の黒の王を睨み付ける。
宿敵を完全に葬り去るには、圧倒的な戦力不足。それでも自分は――。
「えあんさん……今は堪えてっ」
彼の前に躍り出た百花は、その勢いを足に込めてさらにリノリウムの床を蹴り、紅血魔めがけて星のきらめきを纏う蹴りを一発。
ウィングキャットのリアンも黒い長毛を揺らしながら、しっぽのリングを光らせてジェフを回復する。
振り返った百花の心配そうな顔を見、エアンは息を吐いて小さく笑んだ。
「大丈夫、君は俺のストッパーでもあるから」
万が一の時は逆にもなり得るけど。続く言葉を飲み込んだ彼が見たものは、百花のいつもの微笑み。
緑の髪を揺らしたミストレスブラッドは、右手に融合しているキャノン砲をこちらに向けるや否や、放たれた赤々とした砲弾はミルフィを抉る。
「……っ!」
「待ってて、ミルフィ。今回復を」
依子はWOKシールド『£1』から銀色の光を帯びたシールドが展開され、ミルフィを癒し守る。
「……依子様、ありがとうございますわ」
ミルフィに礼を言われて、敵を見据えつつも頷く依子。
完全に朱雀門を信じたわけではない。
全て疑心暗鬼で倒していく先に、道はないと思う。
「ただ、学園の存続と命は、何があっても護る」
強い眼差しに呼応して、シールドがさらに冴えた光を帯びた。
ここには、自分の大事な人たちがいる。
恩人、友人、大切な人。
すべて守るため、ここにいる。
続いた久良の覚悟に応えるかのようにエアシューズ『ムーンドリッパー』が爆発的な炎を吹き出す。その勢いを味方に蹴りだして、紅血魔を焼く。
雄たけびを上げた紅血魔が、大腕を振り回して暴れだす。狙いは、ジェフ。
「神夜!」
式の声に呼応してビハインドの神夜が前線に躍り出、彼を庇う。そしてカウンターと言っても過言ではない霊撃を放つ後ろ。
まだ傷の深いミルフィを、式は帯でしっかり覆って守りを固めた。
「朱雀門・継人様――黒の王を、こうしてお目にかける事になるとは……」
ミルフィは白い十字架型碑文『アームドクロックワークス:ブレイカーラビット』を構えると、聖碑文の詠唱を始めた。
十字架の砲門が全て開放し、放たれるのは罪を灼く光線の乱射。
「少々無粋な御出迎えとなりましたが……学園を陥落させる訳には参りませんわ……!」
榛香は久良めがけて矢を放った。これで少しは狙いが付きやすくなるだろう。
「……今ここで耐えれば後々が楽になるというのならば……」
どんな道でも、僕は進む――。
●
黒の王配下はそれほど強敵ではないものの、纏めて相手をするとなるとやはり厳しい戦いになる。
火力を集中させて紅血魔を倒し終え、敵の先鋒隊は残り二体。灼滅者たちは武器を構えなおす。
と、敵軍の向こう側に、武器を振り上げて飛び上がる灼滅者の姿を見た。
海川・凛音だ。
あの敵の数を抜けて、今至近距離に黒の王を捉えている。
だが彼女の盾は虚しく空を斬り。渾身の攻撃を躱した黒の王が彼女を一瞥――。
刹那、その体は黒い雷に撃たれ、紅く染まり墜ちた。
「……嘘、一撃で……?!」
式が思わず口を手で覆う。
だが、敵軍は灼滅者のショックなど気に留めるわけもなく、唸り声をあげて鋭い爪を突き立てる。
「っ!」
肩を抉られて依子が呻いた。
「依子さん!」
叫んだ式がぴぃんと弓の弦を張って、癒しの力を撃ち放って彼女を癒す。その矢と同時に飛び出した神夜が霊障波を放出し敵を引き付ける。
その脇ではミストレスブラッドが銃を構えるのが見える。
「っ神夜! お願い!!」
式の命に銃口前に飛び出した神夜は、弾丸の雨の撃たれて消滅していく。
「……次は紅血魔撃破ですわ!」
うさ耳を揺らしたミルフィが純白のダイタロスベルト『ナイトオブホワイト』を駆使して紅血魔を蹂躙していく。剥き出しの血管から血が吹き出した。
エアシューズに煌きを纏った力を込めて。ジェフが渾身の力を込めて巨体の鳩尾に蹴りをねじ込ませれば、タンゴも主人の奮闘を真似る様にパンチを繰り出す。
よろめく紅血魔に止めを刺さんと飛び出したのは、エアン。
今は未来をつかみ取るため、仲間を、自分を信じて、全力で――!
標的の死角に回り込むと、全身全霊の力で斬り刻んだ。
紅血魔は大量の血を吹き出し、咆哮を上げて消えていった。
ちらと見上げた黒の王と言えば。
灼滅者の攻撃が全く届かないというわけではなかったが、その攻撃はすべて配下が受け止めている。
言わば、『戦闘に参加せずに、戦いを配下に任せている状態』。
先ほどの黒の王の攻撃を目の当たりにしていた灼滅者たちには、理解できていた。
……このままでは、最悪の結末にもなりかねないことを……。
と、その時。
「皆! もうすぐ増援が来る! 絶対に護り抜くぞ!」
左翼側から響いてきたのは、鈍・脇差が張り上げた声に灼滅者たちの士気が上がる。
久良は声を張った。
「諦めないで頑張ろう、みんな!」
頷いた百花。
今まで見て来たエアンの頑張りに自分を奮い立たせ。
「未来のためにできること……がんばるの!」
纏う気を両腕に集めて、ミストレスブラッド目がけて一気に打ち出していくと、リアンは傷ついた仲間をリングの光で癒していった。
そういえば、増援は……。
何者かの気配を感じ、ちらと後ろを見やる灼滅者の目に飛び込んできたのは、
「助けに来たでぇ!」
関西弁の混じった声。銀夜目・右九兵衛だ。
彼は中央の班の灼滅者に声を掛けると、彼らと共に闘い始めた。
これで少しは戦いが楽になる。
誰がともなく小さく息を吐き。
榛香は、これで少しは楽になればとダイタロスベルトで依子を包み守る。
「ありがとう、式、榛香」
依子は笑んで礼を言うと、きりっと目標を見据えた。
「貴方がたに此処は壊させない」
片腕を半獣と化し、ミストレスブラッドを力任せに引き裂いて。
「守る為なら、全てをかける。それが学園生徒の矜持です」
高らかに宣言した。
痛みに蠢くミストレスブラッドに、『モーニング・グロウ』を振り上げたのは久良。燻された真鍮が赤く燃える。
どんな苦境でも諦めない。それは生きるための覚悟。
「まだまだ、動けるうちは意地でもどかない! 俺は、俺たちは絶対に諦めない!」
ミストレスブラッドの胴に渾身の一撃を喰らわせて。灼滅され霧と化すそれを見遣り、新たな標的に目線を向けた。
そのとき。
「ガ……ハッ……!」
場の空気を凍らせたのは、衝撃音と苦しげな呻きとかすれた声と。
「脇差!!」
「どういうつもりですか、銀夜目さん!」
輝乃の悲鳴にも似た声と嘉月の叫びが響き――。
左側から――、闇堕ち灼滅者が援軍として加わった、中央の班からだ。
皆、咄嗟にそちらを見、言葉を失った。
裁きの光条が、倒れ込んでいる脇差の腹を貫いていたのだ。
「……なに、これ」
見える光景と聞こえた情報を結び付け、榛香の目線……いや、皆の目線が一人の男を捉える。
ゆらりと立ちニタリと笑んでいる、闇堕ち灼滅者――銀夜目・右九兵衛を。
「裏切りか?!」
「クヒャヒャヒャ!」
橘花の言葉を遮ぎり、右九兵衛の不気味な笑い声をあげた。
その笑い声は戦場全体に響き渡りる。それまでの交戦がまるで無かったかのような静寂――。
その静寂の中を右九兵衛が駆けていく。黒の王の配下たちも彼の気迫に押されたのか、退いて道を開き。
彼は辿り着いた。
――黒の王、継人の下へ。
「お前は一体、何だ?」
継人は問う。邪悪な笑みを浮かべ自分を見据える彼に。
右九兵衛はさらに口角を上げ、告げる。
「黒の王さん、俺を雇ってくれへんやろか?」
「ほう?」
その言葉に、継人は目を細めた。
右九兵衛はさらに口の端を上げ。
「勿論、ただでとは言わへん。見返りは朱雀門瑠架の居場所も含めた武蔵坂の情報。手始めに、あんたのところの朱雀門、裏切ってるわ。このまま進めば、無傷の朱雀門全軍と戦う事になるで」
「!」
右九兵衛が告げたその言葉に、息を呑む音がする。
「っ、瑠架様の情報まで……!」
ミルフィの反応が、彼の言葉の何よりの証明。
「……貴様ぁっ!!」
「っ、えあんさん、だめっ!」
今にも右九兵衛の元に駆け出さん勢いのエアンの腕に、百花はとっさに縋り付いた。黒の王との戦いに水を差される形となって、彼の腕は怒りに震えている。
百花はぎゅっと目を瞑ってさらに腕に力を込めた。
「どういうつもり!?」
式も声を荒げると、久良も歯を軋ませ。
「……何考えてるんだ、灼滅者が……灼滅者が裏切りだなんて……!」
朱雀門が裏切ることは予測できていた。
だけど、思わぬ伏兵がいただなんて――。
それがよりにもよって、闇堕ち灼滅者個人の裏切り――。
他の灼滅者達も其々に怒声を上げているが、時すでに遅し。
継人が、薄っすらと笑みを浮かべた。
「お前の存在は不愉快だな、だが愉快な男でもあるようだ。よかろう、配下の末席に加えてやろう」
告げると、今度は配下に向かい号令を発する。
「皆のもの、この場より撤退せよ」
その礼に従い継人の軍勢が整然と退いていく。
右九兵衛は、してやったりと笑みを浮かべて灼滅者を一瞥する。そして踵を返すと、継人と共にその場を立ち去った。
「――こういうこともあるのね……」
依子はその場に力なくへたり込む。今まで呼吸をすることを忘れていたかのように、深く息をつき。
「あらゆるものの裏切りに、もっともっと注意すべきでしたね」
拳を握りジェフが呟くと、その傍らに寄り添って傷の手当てをしていた榛香も小さく頷いた。
「……黒の王、退いたね」
強大である黒の王が、退いた。
それはこの場を、帰る場所を守り切ったということ。
ミルフィと久良も安堵の息を吐き。
やっと落ち着きを取り戻したエアンは、瞳を潤ませている百花をそっと抱き寄せた。
まだ残敵が残っているかもしれない。
しばらくすると灼滅者はゆっくり立ち上がり、歩き出す。
苦しみに心の星の輝きがくもらないよう――。
作者:朝比奈万理 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年1月20日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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