武蔵坂防衛戦~襲撃のヴァンパイア

    作者:三ノ木咲紀

    「朱雀門高校との交渉、無事に終わって何よりや。そこで新しい情報が判明したんや。皆も知っての通り――爵位級ヴァンパイアがシャドウとの決戦に合わせて、大軍を率いて武蔵坂に攻め込んで来るんや」
     集まった灼滅者達に、くるみは真剣な表情で続けた。
     朱雀門の生徒会長は、『武蔵坂学園がソウルボードで決戦を行う』という偽情報を流し、先鋒として朱雀門全軍を率いて攻めてくるのだという。
     『朱雀門の軍勢が武蔵坂の奥まで侵攻する事を確認』すれば、爵位級の軍勢が怒涛のように攻め寄せてくる手筈なのだ。
    「武蔵坂学園の選択肢は3つや」
     1つ目は、先鋒である朱雀門全軍を撃退する事。
     朱雀門を撃退すれば、爵位級ヴァンパイアの軍勢は攻めてくることはない。
     だが、本当のシャドウとの決戦時に介入してくる可能性が高くなる。
     2つ目は、先鋒である朱雀門全軍を学園の奥まで侵攻させ、爵位級ヴァンパイアの軍勢を釣り出し、できるだけ多く撃破するのだ。
     この作戦が成功すれば、シャドウとの決戦時に爵位級ヴァンパイアが介入してくるのを防ぐ事ができる。
     最後は、朱雀門高校の軍勢を引き入れた後にだまし討ちにし、その後侵攻してくる爵位級ヴァンパイアを撃破する。
     成功すれば最大の戦果を得る事ができるが、かなり危険な賭けになるだろう。
    「この3つの選択肢について、年末年始に話し合おうてもろうたんや。その結果、2の朱雀門高校の提案を受け入れることに決まったんや」
     来るべきデスギガスとの決戦時に、爵位級ヴァンパイアからの襲撃があれば、防ぎきることはおそらく不可能。
     この選択は止むを得ないだろう。
     この戦いで数多くの爵位級ヴァンパイアを灼滅する事ができれば、爵位級ヴァンパイアとの決戦でかなり優位に立つ事になるだろう。
     ただし、朱雀門高校の戦力が裏切った場合、大変な危機に陥るので警戒は必要かも知れない。
    「皆でよく話し合うて、目標を決めたってや」
     爵位級ヴァンパイアの有力な敵は、『バーバ・ヤーガ』『殺竜卿ヴラド』『無限婦人エリザベート』『黒の王・朱雀門継人』であるとであると想定されます。
     この有力な敵に、配下の吸血鬼や眷属などが従っているようだ。
     爵位級ヴァンパイアを撃退するには、3~5チーム以上のチームが力を合わせなければ撃退する事は出来ない。
     爵位級ヴァンパイアを灼滅するには、更に倍以上の戦力が必要になるが、作戦によってはより少ない人数で灼滅に追い込む事が可能になる。
     爵位級ヴァンパイアと配下の吸血鬼戦力を分断できるか否かが、成否のポイントになるかも知れない。
    「どの作戦も一長一短のある、難しい選択やったと思う。うちは皆の選択を信じとるさかい、皆は自分の選択を信じて進んだってや!」
     くるみはにかっと笑うと、親指を立てた。


    参加者
    近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)
    木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)
    桐谷・結(高校生シャドウハンター・d11933)
    霧月・詩音(凍月・d13352)
    麻古衣・紬(灼華絶零・d19786)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)
    シャオ・フィルナート(性別シャオは合法ロリらしい・d36107)

    ■リプレイ

     エリザベートを待つ灼滅者達の耳に、無線機の着信音が響いた。
     待機している四班へ一斉送信したのだろう。同時に鳴り響く着信に不気味なものを感じながらも、赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)は無線機に耳をそばだてた。
     そこから漏れるのは、戦闘の音。
     敗走し、敵の追撃を受けながらもなお希望を失わず、待ち受けている仲間達に繋げようとする悲痛な叫び。
    「大丈夫だ。とにかく無事に、体育館まで走れ!」
     碧の声が聞こえているのかいないのか。返って来ない返事に無線機のボリュームを下げた碧は、不安そうな仲間を見渡した。
    「……誘導班が、エリザベートを釣り出してこちらへ向かっている。だが、戦闘で複数の重傷者も出ているようだ」
    「そんな……」
     碧の緊迫した声に、近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)は息を呑んだ。
     爵位級ヴァンパイアの一角、無限夫人エリザベート。
     その実力は未だ知れない。
     万が一撤退にも追い込めずに敗北してしまえばどうなるか。
     不安を決意に変え、由衛は仲間へ語り掛けた。
    「此処を乗り切らないと、学園が終わってしまう。それだけは避けたいのよ、何としても」
    「能力が未知数な上、前より元気になってるんだろ。こっちの心臓部に迫られたらたまんねぇな」
     由衛の声に頷いた木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)は、かつて一度だけ対峙したエリザベートを思い出して眉根を寄せた。
     サイレーン灼滅戦の時に見せた霧。
     具体的な能力は分からない。だからこそ、「無限」にあたる部分は見極めたい。
     キィンが決意を胸にした時、一頭の霊犬が駆け込んできた。
     同時になだれ込むように駆けこんでくる灼滅者達の姿に、キィンは駆け出した。
     敵の追撃を受けて倒れた荒谷・耀と最上川・耕平に駆け寄ったキィンは、意識のない二人に叫んだ。
    「大丈夫か!」
     返事のない二人を抱えたキィンは、そのまま用具倉庫へと駆け込み避難させる。
     同時に駆け込んだ誘導班に二人を預けたキィンは、直後に戦列へと駆け戻る。
     体育館の中央にいたのは、紛れもない。
     ニライカナイで遭遇した爵位級ヴァンパイア・無限夫人エリザベートだった。
     数多くの手下――蛇執事やシルキーに囲まれながらも存在感を際立たせるエリザベートは、ドアを閉めて退路を断った他班の灼滅者達の攻撃を涼しい表情でいなす。
     見事な肢体を包む、黒いドレス。憂いを帯びた紅い瞳に、白皙の美貌。黒を彩る銀の髪。
     勝利を疑っていなかったのだろう。余裕に歪む目に驚きの色を浮かばせるエリザベートに、麻古衣・紬(灼華絶零・d19786)は駆け出した。
    「いきますよ……!」
     炎を纏ったマテリアルロッドを振り上げた紬は、鋭い動きでエリザベートの頭に叩き込む。
     咄嗟に腕で防御したエリザベートの腰を薙ぐように、エアシューズが迫った。
     防火シャッターを起動させた桐谷・結(高校生シャドウハンター・d11933)は、返す刀の勢いでエリザベートへと迫る。
     高速の回し蹴りはしかし、空を切った。
     ドレスぎりぎりを通過した結は、エアシューズを納めるようにくるりと回転して着地する。
     立ち上がった結は、気持ちを切り替えるようにエリザベートを睨んだ。
    「炎で着実にダメージ入れたかったけど……まあいいや」
    「Jagsellet! 皆を、護って」
     凛とした声と同時に、黄色い光が前衛を包み込んだ。
     シェスティン・オーストレーム(小さなアスクレピオス・d28645)が持つ交通標識から溢れる光が、前衛を守り抵抗のための力を与える。
     黄色い光を受けたシャオ・フィルナート(性別シャオは合法ロリらしい・d36107)は、加護を得た指をすっと上げた。
    「エリザベートさんに……私怨とか、あるわけじゃ……ないけど……」
     どこか申し訳なさそうに淡々と告げたシャオは、構えた指から霧を放った。
     シャオの魔力を帯びたヴァンパイアミストが前衛を包み込み、戦意を高揚させていく。
     赤い霧に包まれたキィンは、意外そうに呟いた。
    「霧で来るかと思ったが……最初から人型か」
     霧にならないのか、なれないのか。
     判断するには、まだ材料が足りなさ過ぎた。
     考えを隅へ追い払ったキィンは、ダイダロスベルトのTalisman of beliefを解き放った。
     白い帯がエリザベートを切り裂くように伸びるが、まるで読んでいたかのように避けられる。
     灼滅者達の波状攻撃に、エリザベートは意外そうに呟いた。
    『――まさか、罠ですか?』
    「仲間が繋いでくれた好機、逃しはしない!」
     WOKシールドを構えた碧は、回避でほんのわずか緩んだ姿勢を読んで頬を殴りつける。
     頬を赤くしたエリザベートは、怒りの籠った目を碧へと向ける。
     その視界を遮るように、巻き起こる氷の渦がエリザベートを包み込んだ。
    「……魂まで、凍てつかせましょう」
     声と共に放たれた霧月・詩音(凍月・d13352)のフリージングデスが、エリザベートを凍てつかせる。
     一瞬動きを止めたエリザベートに、縛霊手が迫った。
    「はっ……!」
     裂帛の気合と共に放たれた由衛の鬼神の如き腕がエリザベートを捉え、網状の霊力がその身を捕らえる。
     網状の霊力を振り払ったエリザベートは、彼女が追っていた灼滅者達の姿をチラリと探した。
     灼滅者達の波状攻撃を受けている間に、どこかに逃げたのだろう。
    『成程。私たちは誘い込まれた様ですね。……やるものです』
     呟くように告げたエリザベートの体から、霧のようなオーラが立ち上った。
     全身を揺らがせるように放たれた霧が、体育館を飲み込んでいく。
     灼滅者達の力を奪う霧の向こうから、手下達が躍り出た。


     灼滅者達の体力を奪う霧が晴れた時、メイド姿の淫魔――シルキーが、由衛に向けてモップを振りかぶった。
    「邪魔」
     モップから繰り出される一撃を腕で防御していなした由衛は、バランスを崩したシルキーには目もくれずに駆け出した。
     起動させたエアシューズが唸りを上げて突き進み、空中で一回転した由衛はエリザベートに重力を帯びた蹴りを食らわせる。
     突出した由衛に、蛇執事のスネークバイトが迫る。
     食らいつく蛇を引き抜いた由衛は、無造作に蛇を踏みつけた。
     肩口から袈裟懸けに入れられた蹴りに呼応して、紬はマテリアルロッドを構えた。
    「魔法陣よ!」
     マテリアルロッドの杖先に描かれた複雑な文様の魔法陣が解き放たれる。
     意思あるかのように進む魔法陣がエリザベートに触れた直後、大爆発が起こった。
     もうもうと立ち上る爆炎に、蛇執事は紬に蛇を放った。
     迫る蛇を舞うように避けた紬の隣を、帯が奔った。
     狙い違わずエリザベートを捕らえた白い帯に、碧は口元に笑みを浮かべた。
    「霧を使わなきゃ俺達ともまともに戦えないか。たかが知れてるな」
    「なら、たかが知れた霧を受けなさい」
     わずかに怒りを露わにしたエリザベートは、中衛に向けて死毒の霧を解き放った。
     猛毒を帯びた霧が、視界を覆い隠すように三人を包み込む。
     碧を突き飛ばして代わりに毒霧を受け止めたシャオは、毒のダメージに苦しそうな声を上げた。
    「あの程度の安い挑発に乗るとは思えなかったが……。大丈夫か?」
    「うん……。平気。まだまだ……やれる……よ」
     ダメージによる苦痛を見せないシャオは、余裕を浮かべるエリザベートを見た。
     四十人の灼滅者達の総攻撃を受けながらも、未だに余裕の表情を崩さない。
     エリザベートの逃走を許し、万が一アブソーバーを奪われるようなことになってしまえばどうなるか。
    「もう……俺みたいな人、増やしたくないから……」
    「……そうか。俺が考えてる戦法は、ディフェンダーとの連携が不可欠。頼むぜ」
    「うん」
     力強い期待に、シャオは頷いた。
     好機とばかりに叩き込まれるモップを受け止めた結は、意識を脳に集めた。
    「演算開始」
     最適化された演算能力が、戦場の情報をもの凄い勢いで処理していく。
     周囲環境の把握を終えた結は、沸き上がる力に傷を癒した。
    「詩音、さん!」
     声と共に構えたシェスティンの天星弓から癒しの矢が放たれ、詩音の傷を癒していく。
     傷を癒し立ち上がった詩音に、蛇執事の杖から蛇が迸った。
     中衛を狙って放たれた蛇の群れに腕を縛られながらも、詩音の影業がエリザベートへと迫る。
    「……制約を、戒めを此処に」
     真っ直ぐに伸びた詩音の影は、エリザベートの細い腕を絡め取る。
     その隙に、キィンが駆け抜けた。
     起動させたバベルブレイカーに推進力を得たキィンの一撃は、エリザベートの死の中心点を貫く。
     間近に迫ったキィンに、エリザベートは薄い笑みを浮かべた。
    「……やりますね」
     冷徹な笑みを浮かべたエリザベートは、腕を一振りさせるとキィンを弾き飛ばした。
     女性の細い腕の一振りとは思えないほどの力で弾き飛ばされたキィンは、叩き付けられる壁の衝撃に一瞬息を呑んだ。
    「……あんた、何者だ?」
    「私は、無限夫人エリザベート」
     つい、と指を伸ばしたエリザベートは、無限の霧で己と配下を癒した。


     戦いは、灼滅者達が不利なまま進んでいった。
     エリザベートのみを狙い波状攻撃を仕掛ける灼滅者達の猛攻に、エリザベートの体力は徐々に削られていった。
     だが、未だ撤退までには及ばない。
     エクスブレインの予知にあった灼滅可能人数に達していなかったため、攻撃力に欠けていたのだ。
     敵の手数に押され、灼滅者達の戦線は徐々に崩壊していった。

     迫り来る蛇執事のスネークバイトからシェスティンを庇ったシャオは、襲う衝撃に意識を暗転させた。
     そのまま気を失ってしまいかける意識を繋ぎとめたのは、自分のような人間を増やさないという強い決意。
    「……相容れないのなら……見過ごす事は、できない」
     辛うじて立ち上がったシャオを嘲笑うかのように、蛇執事の攻撃が碧へと迫った。
     攻撃から主を守ったビハインドの月代は、ゆらり揺らぐと静かに消える。
     そこへ放たれるシルキーのモップ攻撃を避けきれず受け止めた碧は、ギリギリで踏みとどまると苦痛の息を吐いた。
     左目の紅い焔が熱い。駆け出した碧が放つ妖刀《黒百合》の一撃を受けてなお、エリザベートは揺るがない。
     凌駕し立ち上がったシャオの後ろから、魔法光線が迸る。
     結のバスターライフルから放たれる一条の光は、エリザベートに確実なダメージを与える。
     だが、未だ倒すには至らない。
    「まだ、倒れないの?」
    「……倒れるまで、切り刻みましょう」
     体を蝕む毒の痛みに耐えながら振りかぶった詩音のチェーンソー剣が、エリザベートへと肉迫する。
     ジグザグに裂かれる痛みに柳眉を顰めたエリザベートは、不愉快そうに手を上げる。
    「霧に抱かれて、眠りなさい」
     その直後。命を奪う霧が、中衛を襲った。
     生命の全てを奪うかのような霧の攻撃に、三人はついに意識を失い昏倒した。
     倒れ伏した三人に、シェスティンは叫び声を上げた。
    「碧さん!」
     昏倒した碧は、返事を返さない。
     敵の苛烈な攻撃に、仲間は皆傷ついて、回復が追いついているとはとても言えない。
     倒れた仲間を攻撃されれば、死に直結してしまう。
     沸き上がる恐怖に碧に駆け寄るシェスティンを、エリザベートはチラリと見た。
    「早く片づけなさいな。邪魔です」
     エリザベートの言葉に、シェスティンは目を見開いた。
     エリザベートは灼滅者達に止めを刺そうとは思っていない。
     それは、命の危機が迫らないことを――闇堕ちに至らないことを意味していた。
    「確かに、伯爵とあっても遜色ないが」
     平静を装いながらも冷や汗をかいたキィンは、倒れた仲間を安全な場所へと避難させた。
     痛む体を引きずりながら避難を手伝うシャオの耳に、無線機の着信を知らせる振動が届いた。
     朱雀門監視班の一人である穂照・海からの通信に目を見開く。
    「分かった……ありが、とう」
     見えない海に会釈したシャオは、割り込みヴォイスを発動させた。
    「闇堕ち……した、灼滅者の……一人が、増援として……来るよ!」
     シャオの声に顔を上げた時、体育館のドアが開け放たれた。
     直後、神薙の刃が奔った。
    「雑魚には興味が無い」
     冷徹な声と共に放たれた、灼滅者達のそれと似て非なる刃の一振りが、蛇執事の首を壁まで落とす。
     現れたのはダークネス――かつて詩夜・沙月と呼ばれた灼滅者だ。
     沙月は着崩した着物の裾を翻すと、手にした得物を握り締めた。
    「エリザベートとやら、貴様の首を斬り落としてやる」
     無表情でエリザベートを見据える沙月に、場が注目する。
     その隙に安全な場所へと避難させたシェスティンは、エンジェリックボイスで由衛を癒した。
     響き渡る心地よい天使の歌声を受けた由衛は、現れた沙月に息を呑んだ。
     冷静にエリザベートを見据えた沙月の目が、不愉快そうに歪む。
     己の気持ちを噛み砕くように牙を覗かせた沙月は、研ぎ澄まされた霊刀を構えた。
    「行くぞ」
     ほんの一言、ほんの一瞥。
     それだけで灼滅者達に意思を伝えた沙月は、次の瞬間エリザベートへと斬りかかった。
    「援護する!」
     沙月の意思を汲み取った由衛は、斬撃を受け止めるエリザベートへ朱散花を振りかぶった。
     引き裂く大鎌の一撃に呼応した白い帯が、エリザベートを切り裂く。
    「俺達は、負けねぇっ!」
     キィンの放つ白い帯が、確実にエリザベートを捕らえる。
    「逃がさないわ!」
     紬の無数の拳が、魔法の追撃を得て威力を増してエリザベートへ確実なダメージを与えていった。
     灼滅者達の連撃にくらりとよろけたエリザベートの隙を突くように、疾風が奔った。 
     身を低く一気に駆け抜けた沙月の愛刀・雪夜が、たなびく帯と共に弧を描き振り上げられる。
    「闇堕ちした灼滅者……一人とはいえ厄介ですわね」
     頬に紅い筋を走らせたエリザベートは、苛烈に攻撃を繰り出し続ける沙月に呟いた。
     灼滅者達もまた厄介でしぶとい。そう言いたげなエリザベートの視線に、紬は炎を帯びたマテリアルロッドを振りかぶった。
    「ここで負けるわけには、いきませんからね」
    「学園は――必ず守るわ」
     紬と同時に放ったグラインドファイアが、エリザベートを引き裂き炎を与える。
     命を奪う毒霧が前衛へと吹き荒れる寸前、シェスティンのJagselletが輝いた。
     イエローサインが前衛を包み込んだ直後、毒霧が吹き荒れる。
     シェスティンの援護で辛うじて踏みとどまったキィンとシャオが、霧を割りエリザベートへと迫る。
     沙月の加勢に息を吹き返した灼滅者達の苛烈な攻撃に、エリザベートは床を蹴った。
    「これ以上は無意味」
    「逃げるか?」
    「待って。深追いは禁物よ」
     撤退を開始したエリザベートに追い縋る沙月を、由衛は呼び止める。
     大きな音を立てて、扉が破られる。
     差し込む光に溶けるように撤退したエリザベートを追い、シルキー達も撤退を開始する。
     扉から吹き込む冬の風が、灼滅者達の頬を撫でていった。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:赤城・碧(理想を手にした団長・d23118) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年1月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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