「女の子は塗れて服の透けてる様が一番美しいもちぃわね」
だから、通りかかる女の子の服をこの明王岩・りんごが絶対に濡れさせようとするのも仕方ないこともちぃわねと少女は呟いた。いや、それをただの少女と言っていいモノか。濡れた衣服を貼り付けたスタイルの良い女性を象る水餅がご当地怪人であると雪嶋・義人(雪のような白い餅をこの手に・d36295)は知っていた。
「一応、女の子って言ってるからオレは対象外だよね?」
この場にご当地怪人と自分しか居ないのに、わざわざ口に出してしまったのは、一抹の不安があったからだろう。義人は体質で女の子相手であればけしからんアクシデントを引き起こしやすいのだ。それは相手がダークネスでもおかまいはなく。
「しかし、全然人が通りかかりませんもちぃねぇ。ここは妥協して男の娘も有りにするべきもちぃか……」
「それ妥協なの?! あっ」
ご当地怪人がボソッと洩らした呟きへ反射的にツッコんでしまったのが失敗だった。
「あら、殿方とは予想外もちぃ」
お約束の如くきっちり見つかった義人を前にご当地怪人は首をかしげ。
「しまっ、逃げ」
「遅いもちぃわ」
慌てて逃げだそうとするも義人は回り込まれ。
「え、って、ちょ」
「え、きゃあぁぁ」
駆け出そうとした勢いを殺せずご当地怪人をその場に押し倒したのだった。
「えーと、オイラどこからツッコめばいい?」
一通りいきさつを聞いた鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)は、半眼で義人に問うた。
「絶対濡らすって今、真冬だよね?」
それだけで風邪をひきかねない悪行だが、その前にご当地成分は何処に行ったと追求されたっておかしくない。
「え、ええと……『塗れ透けの女の子で殿方の視線を集めて水餅のアピールをすれば実益を兼ねて一石二鳥ですもちぃ』って」
「あー、一応考えては居たんだ、ご当地のことも」
一応納得しつつも、それはそれとしてと話題を変え。
「んー、義人兄ちゃんがオイラ達を集めたのはそのご当地怪人をどうにかしようってことなんだよね?」
放っておけば通りかかる女の子達に風邪をひかせてしまいかねないと言う一点でも放置は出来ない。
「うん。ダークネスなら倒さないと行けないし、あの人が闇もちぃに苦しんでいるなら助けないと……」
エクスブレインでない二人には闇もちぃしかけの一般人なのかただのダークネスなのかを知る術はない。
「じゃあ、いつもみたいに声をかけて説得した上で、戦闘って流れかなぁ?」
闇もちぃした一般人を救うにも戦ってKOする必要がある為、戦闘は不可避だが、人の意識に呼びかけることで闇もちぃしかけであれば戦闘力を削ぎ、弱体化させることも出来るのだ。
「そうだね。話しかけるなら水餅を持って行くと会話のとっかかりになるかも。あと、女の子が居てくれれば、あっちから立ち去ろうとすることはないかな」
「えーと、それって女の子が居なかったらオイラ達が女装するって流れじゃないよね?」
「え゛」
何とも言えない表情で投げた和馬の問いに義人は硬直する。
「や、ホラ……そんなこと前にあったからさ」
「やめよ、あの時の話は?」
どうやら共通でほろ苦い思い出があったらしい。
「と、とりあえず、話を戻して戦場はたぶん人気のない路地になると思う。接触もそこ」
「えっ? 何でそんなことわかるの?」
「実は、押し倒したお詫びの品を持って行くって約束したから……」
件のご当地怪人は義人の言を信じて目撃現場で待っていると思われるのだそうな。ちなみに周囲に人気はなく、まだ太陽も高い位置にあるので明かりも不要。
「じゃあ、あとは戦いに関したことだけかぁ」
「そうだね。戦いになったらご当地ヒーローと影業のサイキックに似た攻撃で応戦してくるんじゃないかってオレは思うよ?」
義人曰く、影業の方の根拠は押し倒した時に身体が変形したかららしい。
「あー、影業みたいに自分の体を変形させて攻撃して……オイラもの凄く心当たりがあるんだけど、そう言う攻撃してきたご当地怪人」
納得しつつも和馬の目はどこか遠くを見て。
「そう言う訳だから、協力して貰えないかな?」
和馬から君達へと視線を移し義人は問うのだった。
参加者 | |
---|---|
水月・鏡花(鏡写しの双月・d00750) |
姫条・セカイ(黎明の響き・d03014) |
綾瀬・一美(蒼翼の歌い手・d04463) |
黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643) |
白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160) |
不知火・桂花(幻双鏡・d32619) |
雪嶋・義人(雪のような白い餅をこの手に・d36295) |
非道岩・りんご(間隙に注ぐ紅月・d37335) |
●ぜひもなきこと
「……今回はとらぶるになりませんように」
歩きながら心の中で手を組んだ雪嶋・義人(雪のような白い餅をこの手に・d36295)は密かに祈った。もう既に発見時にやらかしてるじゃんというツッコミはおそらく無粋なのであろう。
「けど、オレよりすごい人いるから大丈夫かな……?」
ちらりと横目で様子を窺った先を歩くのは、黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)。
「今回は私が見つけたわけじゃないから気が楽ですねー。それに義人さんがいるので、とらぶるはみんなあちらが引き受けてくれるでしょうし」
ののほほんとした様は、完全に危機感ゼロであり。
「いちごに呼ばれて来てみたらこれだもの……今回もしっかり警戒しておかないといけないわね」
どう見ても競い合う様にフラグを立てに行ってるとしか思えなかった第三者の水月・鏡花(鏡写しの双月・d00750)がそれとも事故に見せかけて後顧の憂いを断ってべきかしらと物騒なことを考え始め。
「そっか、アタシらが酷い目に遭うってこともあり得るのね」
不知火・桂花(幻双鏡・d32619)も険しい顔をして足を止める。
「安心ですからね、鏡花さんも桂花さんもそんなに警戒しないで?!」
身構える鏡花達に気づいたいちごは慌てふためく。
「こう、何だろ……いつも通りって言うか」
何とも言えない表情で見つめていた鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)はジャズ風のBGMを流す応援の灼滅者の方を見ると、いつも通りでも無いかと呟く。
「今回もご当地怪人が相手なんだっけ」
「そうですね。濡れ姿の女性を美しいと思い込んだり、一応は水餅の事を考えていたり……純粋さ故に性質が悪いですが、だからこそ被害を出す前にお助けしたい所ですね」
話題を変えれば、姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)が肯定しつつ、持参した荷物にしばらく視線を落としてから顔を上げ。
「ぬ、濡れ透けって、やっぱり何も関係ないよねお餅と……!?」
白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)の言は至極もっともなものだったが、女の子の服を濡れ透けさせる水餅のモッチアと限定して探していた人が見つけちゃったんだから仕方ない。
(「濡れ透けを楽しむなんて……えっちなのはいけないとおもいますっ」)
綾瀬・一美(蒼翼の歌い手・d04463)もまた、ぎゅっと拳を握ってみせるも、非難すべきご当地怪人が居るのは、まだ先なのだとか。
「……これだから魔王様亜種シリーズは」
苦い過去の記憶でも掘り出したのか、早苗はやるせない表情で頭を振り。
(「また新しいりんごさんの登場ですのね。いいでしょう、先輩としてびしっと教育して差し上げますわ」)
魔王様亜種シリーズの一人でもある非道岩・りんご(間隙に注ぐ紅月・d37335)は、他者とベクトルの違う熱意で滾る、その一方。
「さて、ではいつものように水餅をもって……あと義人さんと和馬さんにも女装させて、それで彼女を引きつけましょう」
「え゛」
いちごの言に思い切り顔をひきつらせた灼滅者が約一名。
「今回普通に女性がいるんだから、オレ達女装しなくていいんじゃ?」
「和馬くんは素材がいいから、きっと綺麗になるとおもうんですっ! やるなら徹底的にいきましょう!」
「や、ちょ」
義人も疑問を提議してみるも、この時和馬は一美に捕まって連行されて行くところであり。
「ホラ、今更女装が一人二人増えてもどうって事ないし、この際二人も着チャイナさいよ」
「いや、一応するけど、必要かなぁ……あ」
首を傾げつつも流される義人は、聞こえてくる曲がポップでキュートなBGMへと変化したことに気づいて声をあげた。
●犠牲の先に
「自然な膨らみと弾力を水餅で再現するのに苦労しましたが……自分のを参考にして頑張ってみました。自信作ですよ」
もっとも、どうぞとセカイが水餅入りのブラジャーを差し出してくれば、音楽など気にしている余裕も吹っ飛んだ。
「ちょ、先輩ぃぃぃ?!」
いくら大好きな先輩のものでも流石に下着まで女物は拙いと思いとどまってくれる様説得を始めたのは、義人からすれば当然のことであった。
「お化粧して、ルージュ塗って……」
「と言うか、下着まで着替えるってことはオイラ達の裸見ることになるんだけど、その辺よかったのかなぁ?」
「はわっ、動かないで、お化粧が」
「あ、ごめん」
その一方で濁った目で遠くを見ていたもう一人の犠牲者は、謝ると動きを止め。
「出来ましたっ……はわ~、女の私が見てもすごくかわいっ!」
「あら、似合うじゃない」
一美の声に女装させられた二人の方を見て感嘆の声を上げた桂花は、いちごともう一人の男性陣を呼ぶ。カメラ機能付きの携帯を片手に持っているところを見るに撮影でもするつもりなのか。
「先輩、その、今回も服貸してくれてありがとう……先輩の服を着るのに慣れていくような……」
「ふふっ、良くお似合いですよ」
何とか下着着用は免れた義人は義人で、赤面しつつセカイと二人の世界に突入するかと思われたが。
「あら? 雪嶋さん、普段のお姿もいいですが、女装姿もまた一段と……。どうですか? この戦闘が終わりましたら、ゆっくり私にそのおみ足を堪能させて頂くことには……」
「ひ、非道岩さん?」
乱入者が現れるのに時間はかからず、ただこのドタバタ劇の中にあっても密かに秒読みは進行していた。
「何ですか、桂花さわぁっ?!」
そう言う体質のいちごを呼ぶと言うことは、アクシデントを引き起こして下さいというのと、同意味だったのだ。メイクと着替えに使った道具で案の定足を取られたいちごは桂花目掛けて倒れ込み。
「きゃ」
「先輩、危な、わわっ」
「はわーっ」
「ちょっ、なんでオイうぷっ」
事故は起こった。連鎖式で何人か貰いとらぶったのは、もはや言うまでもない。
「魔王様亜種シリーズに会う前からこれとか勘弁して欲しいわ」
難を逃れつつも早苗はげんなりしていた。一歩間違えば巻き込まれていたのだから当然と言えば当然である。
「まぁ、何だか大変そうですもちぃね」
「ええ、まった……く?」
気遣う声に頷こうとし、違和感を覚えた早苗が横を見たのは、おそらく正しい判断だった。
「何やら賑やかだと来てみましたら、女の子が一杯ですもちぃねぇ。これは濡らし甲斐が――」
「ご当地怪人さん、水に濡れた肢体の魅力は服の透けばかりではありませんわ。そう、水の滴らせて艶やかに光る肌もいいものですのよ」
探すまでもなくやって来られちゃったご当地怪人の言葉を遮る形で声を上げたのは、脚線美へのこだわりを見せる人。そのせいか、光る肌のくだりで特におみ足と副音声っぽい幻聴を幾人かは聞いた。
「というわけで、私を濡らせてご覧遊ばせ、さぁ、さぁさぁ」
「……しかしまぁ、またりんごですか。今度は女の子好きなので、ますますうちの妹にそっくりですねぇ……」
自ら濡らしてアピールするりんごにそちらへ近寄らなければ安全だと思ったのか、喉元過ぎて再び危機感ゼロに戻ったいちごはご当地怪人をのんびりと観察する。背後に忍び寄るご機嫌斜めな己のビハインドには気づかずに。
「痛っ、え? アリカさん?! 待っ、やめ――」
「……まぁ、あれはアイツの自業自得だからスルーで良いとして……濡れ透け万歳って、それでいいの? 誰も彼も常時濡れ透けじゃ、有り難みなくない?」
奇襲から始まったお仕置きを一瞥するだけでさらりと流した桂花は今にもりんごに水をぶっかけようとしていたご当地怪人へと問いかける。
「そうもちぃかねぇ?」
「そうよ。そもそも、自分が濡れ透けになるだけなら単なる趣味だから止めはしないけれど、他人もずぶ濡れにさせるのはいかがなものかしら?」
「もちぃ、そうは言われても……」
首を傾げる怪人を前に頷いた鏡花も疑問を提示するも、困惑した表情で視線を向けた先にいたのは、さっきからずぶ濡れリクエスト中のりんごが居り。
「あれはレアケース! 特に今の時期そんな事して風邪でもひかれたら逆に悪印象を与えるわよ」
「そうそう、何というか、その、……はしたないよ!」
知った人に似てるからやりづらいのか、頭を振る鏡花に便乗する形で一美が援護射撃し。
「えーっと、今大丈夫? さっきのお詫びに水餅持ってきたんだけど……いるかな?」
「お詫び? ああ、持ってくるって言ってい」
義人の声に振り返ったご当地怪人は、何故かお詫びを持ってきた相手が女装しているという事態に固まった。
「や、無理もないよね。普通」
と言うか、想定外だろう。
「まさか女装までして下さるとは思いませんでしたもちぃ」
「いや君の好みに合わせて男の娘になったというわけでは……」
「わざわざ女装して来て頂いたのに恥をかかす訳にはいけませんもちぃね」
斜め上に受け取られた義人が後ずさるも、怪人が全く聞いている様子はなく。
「ちょっと、話聞いてる? あまり迫らないで、オレの濡れ透けは色々まずっうわぁ?!」
「きゃあ」
後ろも見ずに下がった義人が水をかけて貰おうと近寄ったりんごとぶつかったのは、体質を考えれば必然だったかも知れない。
「ご、ごめんなさい、大丈」
「まぁ、ありがとうございますわ」
慌ててぶつかった方を見れば、抱きつく形で頬を染めたりんごが居り。
「って、どこに腕を回して……離して、非道岩さんっ」
「あん」
「……この感触」
突き出した手が感じた感触と上がる声に義人は青ざめつつ自分の手元を見る。
「あ」
ただ一言、アウトだった。
「雪嶋さん、どこを掴んでいらっしゃいますの? 私の胸をお掴みになるなんて、嫌よ嫌よも何とやらとはこの事ですわね……ふふふふふ」
「ち、違っ、非道岩さんまで迫ってこないで、先輩が見て」
「そうですよね……わたくしなど3つも年上ですし、無様に胸だけ大きくて綺麗な体型でもないですし……」
あまりのピンチに救いを求める様にセカイの方を見れば、ブツブツ呟きつつ義人の履いていたズボンのチャックの上げ下ろしを繰り返しており。
「先輩ぃ?!」
「一目で精神状態が真っ当で無いってわかるわね」
「冷静に観察しないで?!」
桂花のコメントに思わず叫んだのは無理もないと思う、ただ。
「先輩、これはあくまでも、明王岩さんの説得のためというか、非道岩さんは関係ないというか……す、すみません、後でまた謝りますから先輩の――」
がっちり捕獲されているところを無理に逃げればどうなるか、予測は出来たはずであった。
●なるべくして
「あ、アリカさん、説得しなくちゃいけませんからそろそろ許し痛っ」
そして、ハプニングを巻き起こすであろう因子がもう一つ、ビハインドを宥めようとして叩かれたのが、きっかけだった。
「うわぁっ」
やっぱり躓いた、と言うべきか。
「はわっ! じとしとしてきもちわるいよぉ」
「あら、失礼もちぃ。けど、あちらは何やら取り込み中のご様子ですから仕方ないもちぃわ」
「や、それどういう理屈?! と言うか何でオイラまで?!」
そして、この時既に水をぶっかけられた犠牲者が数名。もう、準備は終わっていたのだ。
「きょ、今日の私は一味違うんだよ……! じゃん、クリーニング付きの服!」
次々に濡れ透けにされる仲間にちょっと怯みつつも、早苗は秘密兵器登場とばかりに自分の着ている高校女子夏服を示した。
「ふっふっふ……! これでもう、怖っぷ」
最後まで言い終えるより早くかけられる水は、お約束だろうか。
「そろそろ正気に戻らないと、アンタもこうな、って、な」
説得を続けていた桂花も言葉の途中でバランスを崩しかけたいちごに気付き。
「隙ありもちぃわ」
「きゃああっ!?」
白のチャイナドレスは一瞬で濡れて透けた。
「この程……わっ、しかっ水で足が滑ってっ?!」
何とか持ち直そうとしたものの、駄目だった感じの声が急接近してきたのは直後のこと。
「にゃあっ!? いやあぁっ!!」
「っ、このっ」
なんだか両手が柔らかいなんて加害者が疑問を口に出す暇はない。豊かな胸をモッチアでもないのに押し倒されてもっちあ(動詞)された桂花は悲鳴をあげ、鏡花の繰り出した鋭利な何かがいちごの頬をかすめたのだから。もっとも、警戒していたからこそノータイムで反撃に転じた鏡花はまだいい。
「す、すみませんー?!」
「こ、この……ひゃうっ!?」
真っ赤になりつつ身を起こそうとした桂花は地についた手を胸から急いで手を離したいちごの腕が払い、再びいちごとの密着を余儀なくされたのだから、しかも胸にいちごの顔を挟み込む形で。
「アンタ何してんのよ!」
頬にビンタを貰ったってこれは仕方ない。
「ご、ごめんなさい……うわっ?!」
「はわっ、はわわ~!」
一方で、義人の方も一美の胸に顔を埋める形で倒れ込んだかと思えば、勢いのまま一美がスカートをずり降ろされる事件も起きており。
「楽しそうもちぃねぇ。混ざってもよろしいもちぃ?」
「駄目だからっ! 姫条先輩、これみんな事故だからねー?!」
「別に混ざりたいとかでは――」
「って、先輩ぃぃ?!」
水餅を食べながら質問するご当地怪人にブンブン頭を振った加害者その2はチャック上げ下げマシーンと化していたセカイに気づくと、慌てて駆け寄る。
「あっ」
いや、駆け寄ろうとして転んだ。
「きゃああっ、んっ」
そのままセカイ押し倒す所までは、もう想定の範囲内。胸を鷲掴みするところもだ。ただ、唇まで重なるのは少し想定外で。
「姫条先輩ごめん。でもオレ、その……」
「まったく……貴方という人は……」
尻すぼみになった言葉でも、気持ちは通じたのだろう。
「……なるほど、そう言うこともちぃね。男の娘と女の子の眼福シーンを繰り広げてこの身体の支配権を奪う邪魔をしようとは」
「え? 何その斜め上解釈?!」
「くぅん……」
きっと文字数的にやばくなった為なんてことはない。あんまりな流れを詫びる様に霊犬の鏡華が怪人の足下で申し訳なさそうに鳴いていたが、追い込まれた怪人としてはこれ以上BGM担当の灼滅者とのんびり水餅なんて食べていられなかった。
「男の娘もありだとか新しい扉を開いてしまった気がしますけれどそんなことどうでもいいもちぃ! 邪魔をするといもちゃばっ」
いざ実力行使に出ようとしたところで、身体に突き立ったのは魔法の矢。
「そうよね……最初っから貴女をさっさと倒せばこんな目に遭わずに済んだのよね」
「えっ」
「何だか……心なし、服がきつくなってきてる気がするし、そっちがそう言う気なら――」
倒させて貰うよと早苗も言った。
「きゃ、きゃああっ」
そして、どこからともなく飛来した光の刃が、ご当地怪人水モッチアの濡れ透け衣服を大きく斬り裂く。
「ごめんね、流石にこのまま長引かせると色々拙いから」
そは、集中攻撃の始まりを告げるもの。
「さ、流石にこれは、ま、待」
見えては拙くなった場所を押さえて両手が塞がった怪人は慌てふためくが、灼滅者達が待つはずもない。ここぞとばかりに畳みかけられ。
「水餅とは日が経っても再び元の美味しいお餅を戴く為に生み出された生活の知恵……ですから貴女もまたその姿を乗り越え、あるべき姿へ還ってきてください!」
「仕方ありませんもちぃね、ここは譲っもちゃべっ」
袋叩きにあった水モッチアはセカイに斬られると微笑を浮かべながら傾ぎ、倒れ伏すなり元の姿に戻り始めたのだった。丈が縮み、限界を迎えた早苗のスパッツがはち切れる光景をバックに。
●やっぱり
「はぁ……なんだか今回も妙に疲れたわ」
疲労感をため息で表現した鏡花は顔を上げると周囲を見回す。
「……どうしていつも、こうなるの」
アスファルトの上にへたり込んで肩を落とす早苗が最初に目に留まり。
「さぁ、雪嶋さん、濡れて風邪を引いてはいけませんわ。さぁ、私と密着してお体を温めて遊ばせ、さぁ、さぁさぁ」
「だ、駄目だって! せ、先輩、ゴメン! これは違――」
続いて白い魔女服を濡れ透けさせたままのりんごに追いかけ回される女装男子が逃げながらしきりにセカイや謝る姿が視界に入り。
「あれは、下手するとまた何かありそうね」
「だよね、誰かにぶつかって転んだはずみで、とか」
嫌な予感を覚える鏡花に相づちを打ったのはもう一人の女装させられた人。
「これ以上何かある前に、帰って温泉にでも浸かりたいわね」
だから鏡花の願いはしごく当然のモノではあったが。
「……で、どう? 正気になった?」
「ええ、ご迷惑をおかけしました」
桂花の問いに応じ、元水モッチアの少女が頭を下げる様を見て、あっちも巻き込まれなきゃ良いけどと漏らしたのは、危惧だろうがどうひいき目に聞いてもフラグ以外のなにものでもなく。
「じゃ聞くけど……名字、なんて書くのよ」
「みょうおういわ・りんご、明るい王様の岩に名前は平仮――」
名前について尋ねられた答えを言い切る前に危ないという声が上がる。
「「え」」
桂花達が顔を上げれば、下半身へりんごに抱きつかれ倒れ込んでくる女装男子と、その女装男子の軌道だけでもせめて逸らそうとして、結果的にもつれた形で倒れ込んでくるいちごの姿が視界一杯に迫っていた。
「あーあ」
「はわぁ」
何がどうなったかは言わずともがな。再び事故は起きたのだった。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年1月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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