●都内某所
毎日のように覆面を被って、町の平和を守っていたレスラー風のヒーローがいた。
最初はマスク姿の彼に不信感を抱き、『ねえ、ママ。どうして、あの人。裸なの』、『しっ……、見ちゃダメ!』と言う雰囲気であったが、誰かが困っていればすぐに駆けつけ、弱い者いじめをする者には鉄拳制裁、まわりにゴミが散らばっていれば拾っていき、おばあさんが重い荷物を抱えて困っていれば代わりに持ったり、不良達にどうしてもと頼まれ、アンパンとジュースを買ってきたりしたため、次第に信頼されていったらしい。
だが、あの日を境にして、彼はマスクだけを残して、この街からいなくなった。
その後も彼の名前を名乗って慈善活動をする者や、多額の寄付をする者がいたため、『……彼は生きている!』という噂が広まり、都市伝説が生まれてしまったようである。
「実は覆面レスラーが複数存在していたとか、方向性の違いから解散したとか、そんな噂があるらしい。だから、そのあとも活動を続けていたのは、残ったメンバーだとか、違うとか。まあ、素顔を見た奴がいないんだから、そんな噂がたっても仕方がないのかも知れないが……」
異なる体型のマスクマンが映った写真を並べつつ、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。
今回、倒すべき相手は、覆面を被った都市伝説。
コイツは何となく町の平和を守っているらしく、それなりに近隣の住民達からも評価されている。
おそらく、お前達が行く頃には人気のない袋小路で不良達に絡まれ、ジャンプを強要されている頃だろう。
まあ、状況的に考えて不良達の方が悪く見えるが、都市伝説がブチ切れた場合、肉塊になるのは不良達の方だ。
それを知らずに『おいおい、ちょっとジャンプしてみろや。本当は金を持っているんだろ? パンツの中か、それともマスクの中か?』と迫っている。
万が一、これで不良達がマスクに手を触れたら最後。
千切っては投げ、千切っては投げ、肉塊パラダイス。
いや、自分でも何を言っているのか分からないが、細切れ状態になるまで千切る事を止めない。
しかも、まわりに人気がないから、不良達を始末した後は素知らぬ顔で、慈善活動ってわけさ。
だからと言って、不良達を説得する事は難しい。
無駄に根性があるせいで、脅したくらいじゃ怯まないから、ちょっと痛めつけてやった方がいいかもな。
ちなみに、都市伝説はプロレス技を使う事よりも、力技を使ってくる事の方が多いから、見た目に騙されないようにしてくれよ。
参加者 | |
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永瀬・春杜(小学生シャドウハンター・d01203) |
紅斜子・花々々々(赤い扉の花子さん・d01447) |
エレナ・フラメル(ウィザード・d03233) |
刀崎・剏弥(古色蒼然たる執事見習い・d04604) |
下総・文月(フラジャイル・d06566) |
天城・優希那(おちこぼれ神薙使い・d07243) |
向日・葵咲(エクリプスキャット・d09295) |
ゴンザレス・ヤマダ(世紀末系モヒカン学生・d09354) |
●人気のない裏路地
「……慈善活動を行っていた覆面レスラーか。こやつが都市伝説等では無く、全うな人間であったなら、これほど喜ばしい事は無かったのだが……、被害が出ると有れば仕方あるまい」
複雑な気持ちになりながら、刀崎・剏弥(古色蒼然たる執事見習い・d04604)が都市伝説の確認された現場に向かう。
実際は覆面レスラーに扮した人間が複数存在していたようだが、方向性の違いから仲違いをしてしまったらしい。
そのため、パトロールなども行われなくなったが、彼らを必要とした者達が流した噂によって、都市伝説が生まれてしまったようである。
「ある程度、良い意味で評判があるっていうのが逆に厄介ね。でも……、これは暴走の危険性がある異常現象に過ぎない。今のところ恩恵に預かってる人はいるかもしれないけど、噂は噂として巷に還って貰いましょうか」
仲間達に声を掛けながら、エレナ・フラメル(ウィザード・d03233)が都市伝説を探すようにして歩いていく。
都市伝説のおかげで、この辺りの治安は良くなっているが、だからと言って都市伝説を放っておく事は出来ない。
例え、人目に付くところで良い事をしていても、裏で人の命を奪っているのだから……。
「……ま、なんにせよぶっ倒しちまうか」
だんだん考える事が面倒になり、永瀬・春杜(小学生シャドウハンター・d01203)が気持ちを切り替える。
その時、不良達に絡まれた都市伝説が、春杜の視界に入ってきた。
都市伝説は不良達によってジャンプを強要されており、そのたびチャリンチャリンと音が響く。
「あっと、コンタクトレンズを落としてしまった!」
わざと大声を上げながら、下総・文月(フラジャイル・d06566)が不良達の興味を引く。
その途端、不良達がムッとした表情を浮かべ、『なんだ、てめえらは!』と吐き捨て文月達に迫ってきた。
『間一髪でした。ご無事のようで良かったです』
マシンガンの如くスマホで文字を打ち、紅斜子・花々々々(赤い扉の花子さん・d01447)が読み上げソフトを使う。
その途端、合成音声で花々々々の打った文字が読み上げられ、都市伝説が『加勢は不要だ。さぁ、私の事など構わず逃げなさい』と言って首を振る。
「ヒャッハー! そんな事を言って、不良達と楽しくダンスでも踊るつもりか? 違うだろ、この外道がぁ! モヒカンより優れた覆面は存在しねー!(訳:正義を騙り、覆面で顔を隠して暴力を振るうその所業、許せません!)」
都市伝説と対峙しながら、ゴンザレス・ヤマダ(世紀末系モヒカン学生・d09354)が含みのある笑みを浮かべた。
しかし、そんなゴンザレスの気持ちを逆撫でするようにして、不良達が『おい、こら。何、勝手に話を進めてんだ』と言って肩を掴む。
「わ、悪い事しちゃダメなのですよっ。おばあちゃんに怒られちゃうのですよっ」
不良達を叱りつけながら、天城・優希那(おちこぼれ神薙使い・d07243)がサウンドシャッターを発動させる。
しかし、不良達は『なんで俺達がてめえの言う事を聞かなきゃいけねーんだよ』と言って、威嚇するようにして睨む。
「大人しく逃げた方がいい、それが君らの為だ」
不良達にニコリと微笑み、向日・葵咲(エクリプスキャット・d09295)が警告する。
それでも、不良達がその場から離れず、葵咲達に絡んできた。
●不良達
「覆面レスラーとモヒカンの対決なんざ、時と場所を選べば興行とかになるんじゃねーかあ?」
少しずつ間合いを取りながら、ゴンザレスが都市伝説をジロリと睨む。
その間も不良達が次々と殴りかかってきたが、コツンと殴って軽くあしらった。
「余計なコトしてんじゃねぇよ、ボケが」
こめかみを激しくピクつかせ、文月が不良達に吐き捨てる。
それでも、不良達は諦める事無く、立ち上がって文月達に迫ってきた。
「さっさと失せろっ! 死にたくねぇだろ?」
イライラとした表情を浮かべ、春杜が不良達に対して警告する。
その途端、花々々々が王者の風を使い、一瞬にして不良達を無力化した。
「大人しく逃げた方がいい、それが君らの為だ」
不良達に微笑みかけ、葵咲が殺界形成を使う。
その影響で不良達が『あ、ああ……』と答えて、その場から離れていく。
「助かったよ、感謝する」
ホッとした様子で、都市伝説が葵咲達に握手を求めた。
(「ひょっとして、都市伝説かせ不良達に絡まれず、何のトラブルにも巻き込まれなければ、ただ只管慈善活動を続けるだけの存在なのか?」)
何気ない疑問を感じつつ、剏弥が都市伝説に視線を送る。
おそらく、この辺りの治安が良ければ、都市伝説も人を殺めるような事もなかったのだろう。
しかし、それはそういった可能性があったというだけで、実際には何人もの命を殺めている。
『パンツの膨らみが怪しいです。何を隠してやがるのですか。隠すとためになりませんよ』
スマホで素早く文字を打ち込み、花々々々が合成音声を使って、都市伝説に語りかけていく。
「い、いや、ここにあるのは、お稲荷……。いや、夢と希望……ではなく、すまない」
どうやら、都市伝説は小粋なジョークを飛ばそうとしたが、薄ら寒いネタしか浮かばなかったため、途中で申し訳ない気持ちになってしまったようである。
そのため、花々々々がスマホで文字を打ち込み、合成音声を使って都市伝説を追い詰めていく。
「素敵なレスラーさんと戦うのは心苦しいのですが、その手を血で汚さないようにするには、これしかありません」
自分自身に言い聞かせ、優希那が覚悟を決める。
それに気づいた都市伝説が『いいだろう、掛かってこい!』と言って、ファイティングポーズを取るのであった。
●都市伝説
「其は因果を透し見るもの、我が瞳に宿り給え」
ある程度の距離を保ち、エレナが預言者の瞳を使う。
それと同時に都市伝説が一気に間合いを詰め、エレナに掴みかかろうとした。
「君を放置するわけにはいかない。ここで倒させてもらう。そのマスクと共に燃え尽きてもらおうか」
都市伝説の行く手を阻むようにして、葵咲がレーヴァテインを叩き込む。
その一撃を食らって都市伝説が後ろに下がり、『なかなかやるじゃないか』と言って血を拭う。
『アスファルトの染みになりたくなければ、さっさと消え失せやがれです』
だが、花々々々はスマホに文字を打ち込み、合成音声を使って口汚い言葉で罵った。
それこそ、放送コードに引っかかるような言葉でも、お構いなしに。
「悪ぃが動きは封じさせてもらうぞ。そら、そのマスクの下を見せてみろ!」
都市伝説の死角に回り込み、文月が封縛糸を発動させる。
それと同時に都市伝説の動きが封じられ、悔しそうにグッと唇を噛み締めた。
「なんだかこっちが悪役みたいだな」
複雑な気持ちになりつつ、剏弥が困った様子で頭を抱える。
だが、都市伝説は決して怯む事無く、最後の力を振り絞って戒めから逃れ、剏弥達に殴りかかってきた。
「お釣りは無しだ、一発残らずもってきな!」
ギリギリまで都市伝説を引きつけ、春杜がガトリングガンを連射する。
続けざまに攻撃を食らった事で反撃すら出来ぬまま、大量の血を泡の如く吐いて崩れ落ちた。
「ごめんなさい、どうか安らかにお眠り下さい……」
都市伝説が消滅した事を確認し、優希那が両手を合わせて冥福を祈る。
「はい、お仕事はこれで終わり。まぁ、本来は無かったものなわけだし……、ご近所のヒーローがいなくなったのは、また何処かへでも去ったと思って貰うしかないわね」
今後の事を考えた上で、エレナがさらりと答えを返す。
都市伝説が消滅した事によって、この辺りの治安が悪くなるかも知れない。
だが、都市伝説のモデルとなった覆面レスラー達の意志を正しく継ぐ者が現れれば、町の治安は今まで以上によくなる事だろう。
「それじゃ、これから不良どもの説教にでも行くか。その後は嫌と言っても、慈善活動をさせて、今まで自分達がやってきた事を公開させてやるぜ。ヒャッハー!」
不良達が逃げた方向に視線を送り、ゴンザレスが叫び声をあげて走り出す。
都市伝説の意志を継ぐと言う訳ではないが、自分達にも何か出来る事はあるはずだ。
特に不良達にはその事を十分に分からせておく必要があるだろう。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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