武蔵坂防衛戦～選択の決着

■リプレイ

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『こちら屋上班。予想されるバーバ・ヤーガの軍勢の移動経路を割り出したよ。最適と思われる迎撃地点は……中庭だ』
　他班から無線で連絡が入る。
　入り乱れた戦場ではそこかしこで砂煙があがり、戦闘音が反響し合う。どこかで誰かが、今も戦っている。灼滅者達はそんな場に今いる。
「ぼくたちの班も、すぐに合流するよ」
　ジェルトルーデ・カペッレッティ（幼きアッセディグイーダ・d26659）は、仲間達に向かい合う。彼らのチームが狙う標的は、バーバ・ヤーガ。それを複数の班で協力して捜索している最中だった。
「爵位のご婦人も魅力的ですけれど――まあ、本拠地防衛ですものね」
　と渋々我慢するように百合ヶ丘・リィザ（水面の月に手を伸ばし・d27789）は中庭に向かう。その横ではライバルたる黒揚羽・柘榴（魔導の蝶は闇を滅する・d25134）もいる。
「魔法使いとしては吸血鬼なのに魔女って言われているバーバ・ヤーガは気になるね。ソロモンの悪魔と何か繋がりはあったりするのかな？」
　色々と気になることもあるが、とにかくも。
　最速で敵の元を目指す。同じくバーバ・ヤーガ打倒を志す他の班も、発見の報を受けて動き出している。遅れをとるわけにはいかない。
「敵味方入り交じる中ですが……」
　共に戦ってきた皆と一緒なので支障なく戦える。
　中庭へと辿り着いた祀乃咲・緋月（夜闇を斬り咲く緋の月・d25835）は周辺を見回す。すぐ近くにジェルトルーデを始め信頼できる班員の皆。横や後ろには、他チームの灼滅者達。
　そして……離れた前方には、バーバ・ヤーガ率いるダークネスの群れ。
（「爵位級ヴァンパイアの襲撃、今回で二度目ですか。虎児を得ようとして虎の尾を踏んでしまったこと、後悔しても遅いと知りなさい」）
　水無月・詩乃（汎用決戦型大和撫子・d25132）が、敵の軍勢に真っ直ぐな瞳をぶつける。魔女バーバ・ヤーガ軍は、バッファローの群れの暴走を真正面から見たような迫力がある。
「その鶏小屋ってタクシーとか大型バスのイメージかなぁ。灼滅できれば吸血鬼勢の機動力が落ちるから頑張ろう！」
　神之遊・水海（宇宙海賊うなぎパイ・d25147）は、一つ一つ相手の命中率をイメージする。鶏の足の小屋は、殺竜ヴラド率いる騎兵軍団と共に爵位級の軍勢の先鋒だ。
　ものものしい小屋の鳥の足が、音を立てて進軍してくる。
　それに対し――
「さてと、ここは妾達に任せて先にいくのじゃ！　何だかワクワクするのう、一度は言ってみたいセリフじゃな」
「眷属は任せて！　すぐに追いつくから！」
　朝臣・姫華（月への旅人・d30695）が。
　大夏・彩（皆の笑顔を護れるならば・d25988）が。
　開戦の声をあげる。まばゆいサイキックの光が展開され、灼滅者側として先陣を切る。
「さぁさ、私たちと遊んで下さいな！　構ってくれないと――酷いですわよ？」
　壁役としてリィザが鶏の足の小屋の注意を引きつける。
　合図を受け次第最初に切り込み、眷属を牽制。バーバ・ヤーガ灼滅の時間を稼ぐ……これがこのチームの第一目標だった。
　想いと決意を託し。次々と他チームの者達も進撃を開始する。
　狙うは大将の首だ。
「他の人が、バーバ・ヤーガとの戦闘に集中できるように、手前で戦闘！　その間に、他の班にバーバ・ヤーガを倒してもらお！」
　敵の多さと強大さに逃げ出したくなるけど、ジェルトルーデは頑張って戦う。最初は、群れの先頭を走る鶏の足の小屋を狙い打って倒していく。オールレンジパニッシャーが火を吹いた。
「炎を撒いてダメージを稼いでいくね」
　柘榴のダークネスへの殺意は高い。
　ゲシュタルトバスターの詠唱を行い、現れたる陣は五芒星。物質や霊体を直接破壊する禁呪が大爆破を引き起こし。敵の足を止める。
「此処から先は行かせません」
　緋月のサーヴァントが顔を晒す。
　主の方は、全体の状況に注意をはらい。危機や好機があれば声をかけて対処出来るように、皆を庇いつつ戦う。
（「ボスコウがやってきた時は横槍いれて……あの落とし前つけれる！」）
　やる気に満ちた水海の目は爛々としている。
　レイザースラストの一撃が鋭く繰り出され、小屋の一体を大きく揺るがした。
（「彼我の位置関係を常に頭に入れ連携の途切れることの無いよう攻め――」）
　深入りせずに仕留められる相手から確実に落としていく。
　勢いの弱まった一体へと、詩乃が黒死斬による手刀を叩き込む。切り取られた敵の鳥の羽が宙に舞う。
「！」
「む、歯車が飛んできたのじゃ」
　勿論相手もただ黙っているわけではない。
　先制された鶏の足の小屋は歯車を射出。姫華をはじめ後列のメンバーに襲いかかる。
「ここから先には行かせないよ！　ここで全員やっつけるからね！」
　敵を威嚇し、敵を鼓舞し。
　彩は自分の霊犬と共に回復に尽力する。祭霊光とリバイブメロディを使い分けヒールを行う。
「とにかく私達は時間を稼ぎましょう」
　リィザも回復重視で動く。
　ライドキャリバ―が援護し、ダメージが大きい者に対し集気法を施す。灼滅者達と敵群はどちらも折れず譲らず。押し合い圧し合い。激化していく。それは他のチームも同様だ。
「足止めでのサポートをするよ！」
　ジェルトルーデのスターゲイザーが炸裂した。
　耳に入るのは轟く鬨の声。戦場全体の温度が上がっている。死力を尽くす仲間に負けぬためにも、助け合うためにも、ここで下がるわけにはいかない。
「敵に囲まれないように、複数人で敵を囲むようにして戦うように気をつけるよ」
「ええ、柘榴さん。いきましょう」
　味方との連携は常に意識。
　柘榴が動き、詩乃が呼応する。ティアーズリッパーと縛霊撃によるダブルアタックが、囲まれた標的へと突き刺さる。
「ダメージをとにかく与えるよ」
　間髪入れず、水海の斬影刃。
　影の先端を鋭い刃に変え、敵を斬り裂く。灼滅者の集中打に、鶏の足の小屋は深刻な深手を負っていた。目の前の相手が、膝をつき止まる。
「これで、お終いです」
　その好機を緋月は逃さない。
　仲間の陰から、高速の動きで敵の死角へと周り込み。
「おやすみなさい」
　渾身の斬撃。両断された鶏の足の小屋は、音もなく沈黙した。
　ほぼ同時、敵勢にも不穏な動きが見え始め――

●
「百合ちゃん、これは……」
「ええ、水無ちゃん。敵の動きが、変わりました」
　詩乃とリィザが顔を見合わせる。
　変化は突然だった。バーバ・ヤーガを中心として、ばらけていた敵群が集結を始める。これは無理に突破しようとせず、守りを固めつつ――灼滅者を倒しに来る戦い方。
「こうなると、配下を引きつけるのは――」
「――難しいね」
　柘榴とジェルトルーデも、明らかに風向きが変わったことを悟る。敵の亀のように固まった陣形を保つ動き。
　これでは当初の予定である敵の分断という構想を果たすのは困難極まる。
　それでは、どうするか。
「わざわざ朱雀門と取引してまで作った状況デース。成果を上げなければ何の為かわからんでゴザろう？」
　次の手を模索する刹那。
　他のチームから声があがる。一人の灼滅者が刃を構え、切っ先でバーバ・ヤーガの喉元を指し示す。
「狙うは敵将の首一つ！」
　高らかな宣言。
　口火を切った灼滅者達は、一人また一人と身を躍り出し。後方に控えるバーバ・ヤーガ目掛けて……遠距離から一点集中して技を仕掛ける。
「水海達も加勢しよう！」
　言うが否や、水海は妖冷弾を敵将へと撃ち込む。
　戦力的には拮抗しているが、相手には爵位級であるバーバ・ヤーガがいる。加えてこの状況下では、この攻勢に乗るしかない。
「さて……これからが本番ですね」
　緋月も敵を見据えた。
　相手の軍は確かに戦力を減らしているのだ。何にしても敵将を狙う好機である。
「あとは横殴りして手柄は頂きじゃな」
　まだ余力は残っている。
　姫華は神薙刃で斬り裂きにかかる。己に降ろしたカミの力によって、激しく渦巻く風の刃を生み出した。
「バーバ・ヤーガ！　学園をお前の好きにはさせない！」
　彩は除霊結界を構築。
　内蔵した祭壇を展開し、霊的因子を強制停止させる結界が出現した。思いの丈と共に、大胆にサイキックをぶつける。
「削り切ります」
　詩乃の鏖殺領域も広がる。
　他チームも含めた灼滅者達の数々の飛び道具が、バーバ・ヤーガへと迫り――その多くがディフェンダーの鶏の足の小屋達が盾となって阻まれる。
「やはり、一筋縄にはいかないものですわね」
　たとえ相手の壁に阻まれたとしても。追い詰められても、リィザは優雅な笑顔を絶やさない。チャンスは必ずあると信じて、味方の傷を癒してサポートする。
「確実に潰していくよ」
　クラッシャーとして柘榴は火力を発揮。
　魔術によって誘因された炎が激しく燃える。こちらまでも火傷しそうな熱風が、頬を撫でまわすが。気にしている場合ではない。
「みんなが戦いやすくするよ！」
　ジェルトルーデはスナイパーの命中精度を生かす。精確無比な光刃放出。光の刃を敵に向けて撃ち出し、敵の防御を確実に砕き……その返礼は敵軍の報復だった。
「危ない、ルーデさん」
「！」
　咄嗟に緋月が飛び込み。
　敵の砲撃から仲間を庇う。
「緋月！？」
「緋月さん！」
　何かが潰れる音を立て。その身が切り刻まれる。鮮血が飛び散り、ズタズタになりながらも――　
「大丈夫です。皆と一緒ですから、きっと上手くいきます」
　緋月は立っていた。
　心配そうに見つめるジェルトルーデや味方達を安心させるように、凛々しく応じてみせた。それが何より心強いことだろうか。
「うん、絶対上手くいくよね！」
　連戦上等とばかりに、水海が気炎を吐く。
　盛り上がった気分を反映するがごとく。氷の冷気を、影の刃を連撃連打。少しでもダメージを与えんと、バーバ・ヤーガを攻め立てた。
「バーバ・ヤーガの撃退を狙っていくのじゃ」
　強気に出た姫華も、仲間に続き武器を振るう。
　何度壁となった配下に弾かれようとも、怯むことなく。果敢に弾幕を張りプレッシャーをかけ、遠距離から敵将を狙い撃つ。
「BSの解除は任せて」
　彩はメディックとして戦線を支える。
　大物の敵が相手だ。今回は何が起こるか分からない。この戦いを乗り切りため、もしもの場合に備えるため、態勢はできる限り整えておく必要がある。
「柘榴、まだいけますよね？」
「言われるまでもないよ」
　リィザからキュアの後押しを受けた柘榴は、魔導書を手にして応戦を続ける。戦闘魔術師としての腕の見せ所だ。五芒星の陣を何度も描いては、強烈な光と熱を呼び寄せる。
「ルーデさん、わたくし達も」
「攻撃するね」
　詩乃とジェルトルーデが息を合わせてサイキックを解き放つ。
　彼女達だけではない。この戦場にいる灼滅者達全ての砲火の一つ一つが積み重なり、時に敵軍の盾を越え――確実にバーバ・ヤーガに傷を負わせることに成功していた。

●
「またしても計算違いですか。いえ、これは裏切りですね」
　これまでの流れと推移。
　自分の軍と、敵の軍の状況。
　バーバ・ヤーガは静かに戦場を見渡し、的確に状況を理解していた。　
「ならば、これ以上の戦闘に意味はありません。撤退します」
　その一声に眷属達が、一斉に動き出す。
　戦場を放棄しての後退だった。
「相手を撤退に追い込めた……作戦は成功ですね」
　緋月がそっと呟く。
　とにかくも、最低限の目的は達することができた。それは間違いない。
　だが。
「逃がすか！」
「バーバ・ヤーガを討ち取るぞ！」
　全軍ではないものの、他の数チームがそのまま敵軍を追撃せんと追いすがる。戦況は目まぐるしく変わり、一刻一刻と全ては遠ざかっていく。
「部長殿、妾達はどうするかえ？」
「……追いましょう」
　姫華の問いに、リィザは首を振って即答した。
　迷っている暇はない。
「バーバ・ヤーガを灼滅する意志のある部隊がいるなら、私達も手伝わないわけにはいきませんものね、トゥルーデ？」
「ぼくも、まだやれるよ」
　リィザに水を向けられたジェルトルーデが頷く。
　他の者も否はない。果てた敵配下達の残骸を踏み越えて、再び前線へと赴く。
「また、鶏の足の小屋達が……」
「立ち塞がっているね」
　柘榴と水海が足を止める。
　交錯する味方部隊と敵部隊の影。追撃組の灼滅者達は、数体の鶏の足の小屋と交戦中だった。しかも、そのうちの一体は明らかに他より強力な気配を漂わせる……バーバ・ヤーガの小屋だ。
「ここを抜けないことには」
「ええ。バーバ・ヤーガの元には追いつけません」
　ならば自分達のやるべきことは、この殿部隊を叩くこと。
　彩が閃光百裂拳で追撃し、詩乃の黒死斬による足刀が唸りをあげた。オーラを拳に集束させた凄まじい連打と、恐ろしい切れ味をもった一閃が配下達に傷を作る。
「ブレイクを狙うよ！」
「合わせます」
　ジェルトルーデのサイキック斬り。緋月の雲耀剣。斬撃の嵐が咲き乱れる。多連続のコンビネーションが、不可視の鋭い牙となって敵を貫き突き刺し斬り裂く。
「道を切り開くのじゃ」
　姫華はブレイドサイクロンや援護射撃で敵を減らすことを優先する。剣を高速で振り回し、加速で威力を増しつつ敵群を斬り刻み。銃弾が飛び跳ねて味方のチャンスを作る。
「弱った敵を狙うわ」
　リィザはダメージよりも妨害狙い。
　除霊結界ではパラライズを、スターゲイザーでは足止めを行い。注意して敵に見切りを行わないようにして、敵戦力を削ぎにかかっていた。
「内側から爆破させるよ」
　柘榴が敵を殴りつけると同時に魔力を流し込み。
　フォースブレイクの餌食となった個体は、宣言通り体内から大爆発を起こす。その隣では他班に攻撃された鶏の足の小屋も、ボロボロになって力尽きようとしていた。
　もう少し。
　あと一押しでこの邪魔な敵群の壁を払うことが出来る。
「どっせい！」
　水海の気合の一撃が、仲間達の攻撃と一緒になって響き渡り。
　一体ずつ敵配下はその動きを止め。一際迫力を放っていたバーバ・ヤーガの小屋もついには倒れ消える。
　そうして。
　立っている者が、味方だけとなってとき……既にバーバ・ヤーガ達はその姿を消してしまっていた。
「逃げられましたか」
「みたいだね」
　詩乃と彩が左右をうかがうが、どこにも敵影は見当たらない。
　これ以上の追撃は不可能だった。誰ともなく息を吐き、己の傷をかえりみる。
　安堵か、それとも無念か。
　唐突に激戦による疲労感が全身を覆ってきた。しばらく満足に動けそうもない。少なくとも、この場にいる者の武蔵坂防衛戦が終着したことだけは紛れもない事実だった。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年1月20日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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