武蔵坂防衛戦~選択の先の未来を

    作者:佐和

    「ヴァンパイア、攻めてくる」
     八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)はまず端的に現状を告げた。
     それは、朱雀門高校の会長ルイス・フロイスからもたらされた、情報と提案。
     爵位級ヴァンパイアが、シャドウと武蔵坂学園の決戦を好機と見て、戦力が少なくなるそのタイミングを狙い武蔵坂へと攻め込む計画を立てているということ。
     そして朱雀門高校は、決戦の偽情報を爵位級ヴァンパイアへ、爵位級ヴァンパイアの戦力情報を武蔵坂学園へ流すということ。
     得られた情報と提案に対して、武蔵坂のとれる選択肢は3つあった。
     まずは、先鋒として攻めてくる朱雀門高校全軍の撃退。
     先鋒が倒れれば本陣は動かないため、爵位級の軍勢が学園内に攻めてくることはない。
     撤退した爵位級ヴァンパイアは、改めて、シャドウとの決戦時に攻めて来るだろう。
     次に、朱雀門高校をわざと侵攻させての爵位級ヴァンパイアの撃破。
     先鋒が学園の奥まで進めば、爵位級の軍勢が動き出す手筈になっているという。
     釣り出した爵位級ヴァンパイアを、朱雀門と戦わないことで万全の戦力で迎え討てる。
     そして、3つ目。
     学園の奥まで侵攻させた朱雀門高校を騙し討ちにし、なおかつ、釣り出した爵位級ヴァンパイアの灼滅も狙う搦め手。
     成功すれば最大の戦果を上げられるが、相応に危険の伴う賭けだ。
     そんな武蔵坂学園の今後を左右する決断を、灼滅者達は既に行っていた。
     それぞれに話し合いを重ね、様々な意見を交わした上で、各個人の考えと判断を集約する、投票という武蔵坂学園の選択。 
     だから秋羽は、どれにするか、ではなく、結果を告げる。
    「皆、提案の受け入れ、選んだ」
     選択は、朱雀門会長からの提案を受け入れての爵位級ヴァンパイアの灼滅。
     シャドウとの決戦と同時に爵位級ヴァンパイアが襲撃、という危険性をなくすことを優先した選択だ。
     さらに、数多くの爵位級ヴァンパイアを灼滅できれば、今後いずれあるであろうヴァンパイアとの決戦でかなり優位に立てるだろう。
    「攻めてくる爵位級ヴァンパイア、これくらい」
     朱雀門高校からもたらされた情報を秋羽が読み上げる。
     子爵級にして豊富な魔術知識を有する、魔女バーバ・ヤーガ。
     同じく子爵級、ヴラド竜騎兵を率いる、殺竜卿ヴラド。
     ニライカナイで邂逅した霧の伯爵、無限婦人エリザベート。
     そして、瑠架の弟にして黒の王、朱雀門・継人。
    「誰を、何を狙うのかは、皆で、決めて」
     いずれの相手も、撃退するには、それぞれに3~5チーム以上が力を合わせて当たる必要があるだろう。
     さらに灼滅を狙うのならば、その倍以上の戦力が必要と目されている。
     誰を撃退し誰を灼滅するのか、という判断も必要かもしれない。
     また、上手く作戦を立てられればより少ない人数での灼滅ができるかもしれず、戦果を増やせる可能性もある。
     ただ、黒の王は朱雀門高校の情報を疑っているようなので、その撃破には相応の工夫が必要と思われる。
     そして。
    「他にも、護衛のヴァンパイアとか眷属、いる」
     有力敵が単騎でいるわけでないのは当然だろう。
     これら配下と狙う相手とを分断することが、成否を左右するかもしれない。
    「あと、朱雀門高校……」
     そして秋羽は、少し不安そうに目を伏せる。
     提案してきた相手ではあるが、その裏切りを危惧する声は少なくない。
     爵位級ヴァンパイアの軍勢を釣り出す作戦上、武蔵坂学園の奥へと招き入れる形となるため、警戒も必要かも、と秋羽は残念そうに呟く。
     共謀と信頼とはイコールではないこともある。
     悲しげな表情をふるふると振り払ってから顔を上げて。
    「皆が選択した、未来……」
     じっと灼滅者達を見据え、秋羽はこくりと頷いた。
    「だから、皆で、頑張って」


    参加者
    天鈴・ウルスラ(ファイター・d00165)
    ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)
    猫乃目・ブレイブ(灼熱ブレイブ・d19380)
    北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    シエナ・デヴィアトレ(治療魔で露出狂な大食い娘・d33905)
    篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)

    ■リプレイ

    ●襲撃の待ち伏せ
     遠くから戦いの音が聞こえる。
     近づいてくるその音に気付いたジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)は、壁に背を預けた体勢のまま、静かに目を開けた。
    「勝手知ったる我等が学び舎、隠れるならお手の物で」
     言葉通り物陰に隠れ、ジンザ達は息を潜める。
     ヴァンパイアの軍勢による、武蔵坂学園襲撃。
     それは、武蔵坂が戦争で出払っている時を狙ったものだった。
     だが、朱雀門高校の策略によって、灼滅者達はその襲撃を万全の戦力を持って待ち構えられることとなる。
     ゆえにまずは罠と気付かれないように、爵位級ヴァンパイアが進軍可能と判断するように、灼滅者達は『手薄な武蔵坂学園』を演出すべく身を隠す。
     聞こえる戦闘音は、朱雀門高校が快進撃を続けている演技だろう。
    「……こうなった以上、警戒しながらでも立ち向かうしかないわね」
     座り込んでいた篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)が立ち上がり、ぽつりと呟く。
     朱雀門高校を完全に信用したわけではない。
     だが、戦争に乱入されるという最悪の展開の回避を最優先したからこその選択。
    (「……そう、シャドウ決戦の時こちらが全滅しないように、ね」)
     無表情の下に固めた零花の決意に反応してか、ウィングキャットのソラが寄り添った。
    「防衛戦ならば退く理由も場所も無し」
    「ぜったいにまもらなきゃいけないのです……!」
     陽気に笑う天鈴・ウルスラ(ファイター・d00165)の隣では、北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)が可愛らしい顔にぐっと緊張を詰め込んでいる。
     力一杯握られた両手に、月姫・舞(炊事場の主・d20689)がふわりと優しく手を重ねた。
     朋恵がはっと顔を上げると、そこには穏やかな微笑みが向けられていて。
     大丈夫、と言うように頷く舞の後ろで、ナノナノのクリスロッテが主の気持ちを和らげるようにクルクルと回る。
    「皆と共にあれば心強く!」
     その様子を見た猫乃目・ブレイブ(灼熱ブレイブ・d19380)が、舞の手の上からさらに自身の手を乗せて。
    「最後まで戦いまショウ」
     ウルスラも面白がるように加われば。
    「はいです。頑張りますです」
     重ねられた思いに、朋恵の肩の力が程よく抜け、可愛い笑顔が戻ってきた。
    「まー、あちらさんの思惑はともかく、暴れてやろうかねぇ」
     カーネイジ・ジャケットをふわりと揺らしながら、レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)は長尺鉄杭を無造作に肩に担ぐ。
     その耳にはインカム式の無線機がついていて、へらりと笑いながらも抜け目なく、他班の通信を傍受していた。
     舞や朋恵も無線機を手に、主に同じ相手を狙う班の状況を伺っている。
     その中で、シエナ・デヴィアトレ(治療魔で露出狂な大食い娘・d33905)は、朱雀門高校の監視についた班からの連絡に注視していた。
    「朱雀門の皆さんは約束を守ってくれるですの……」
     そう信じ、願うシエナの元に、朱雀門高校離反などといった望まぬ報告は全くない。
     恐らく、提案通りこちらの指示に従って動いているのだろう。
     監視の目は緩まないだろうが、想いに応えてもらえた気がして小さく微笑むシエナに、ライドキャリバーのヴァグノジャルムが擦り寄るように近づいた。
    『こちら屋上班』
     そうして隠れる皆の元へ、待ちわびた情報がもたらされる。
    『予想されるバーバ・ヤーガの軍勢の移動経路を割り出したよ。
     最適と思われる迎撃地点は……中庭だ』
     無線機から流れ出るロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(d36355)の声に、レオンが皆を見渡せば、それぞれの頷きが返ってきた。
     それを確認してから振り向いた先で。
    「オーライ。では、すぐに」
     視線を受けたジンザが無線機に応えると、灼滅者達は静かに中庭への移動を開始する。

    ●選択した戦い
     バーバ・ヤーガの軍勢は、灼滅者達の予想通り眷属を引き連れてきていた。
     大きな歯車を内蔵した小屋から鶏の足がダチョウ以上の太さと頑丈さをもって生えているその姿と『鶏の足の小屋』というその名は、サイキックアブソーバー強奪作戦で既に確認されていたのだから。
     爵位級ヴァンパイア軍としての先陣でもあるのだろう、怒涛の勢いで駆け込んでくるその軍勢は、1体1体の大きさも相まってかなりの迫力を与えてくる。
     1人でそれと相対していたなら、思わず後ずさってしまっていたかもしれない。
     けれども、と朋恵は笑顔で周囲を見やる。
    「ローストチキンにすればいいですの」
    「……美味しくできる?」
    「いえ、硬そうなチキンですから、どうでしょうね。
     どちらかというとバーバ・ヤーガさんの方が……でもやや古いですか」
     臆するどころか和やかな会話を交わすシエナと零花に、ジンザも笑いながら歩み寄り。
     でも、軽口を叩きつつも眼鏡の下の青瞳は鋭く軍勢を睨み据えていて。
    「ならばローストを通り越して、灰にするまでです」
     にっと笑って見せれば、シエナと零花も頷いた。
     頼もしい仲間達が共にある。
     さらに他の班も中庭へと集結してきていて。
     その中に青和・イチ(d08927)の姿も見つけて、朋恵はふわりと微笑んだ。
    「皆と共にあれば心強く!」
     意気込むブレイブの言葉も重なって、士気を高める灼滅者達。
     そして、その時を感じた者達が飛び出した。
     先陣を切ったのは、朝臣・姫華(d30695)と大夏・彩(d25988)の放つ眩い光。
     続いて金髪を煌めかせた百合ヶ丘・リィザ(d27789)の声が弾むように響く。
    「さぁさ、私たちと遊んで下さいな! 構ってくれないと……酷いですわよ?」
     その光に、声に、次々と灼滅者達が軍勢の前へと姿を現す。
    「さあ、まずはお前からだ!」
     真っ向勝負を挑むロベリア・エカルラート(d34124)の影が小屋を絡め取れば。
    「くらえ!」
     その足元から山田・透流(d17836)が掬い上げるような一撃を喰らわせる。
    「さあ力比べだ。派手に行こうか!」
     そんな他班の仲間達に遅れは取らないと、レオンは笑みを深め、緩く纏めた漆黒の髪と暗い赤錆色のジャケットを翻して戦場に躍り出た。
     自律斬線“鏖殺悪鬼”から銀朱の薄刃を射出し、近くの小屋を貫けば。
    「難しいことは分からぬゆえ、今は敵を倒すにござる!」
     狙いを揃えたブレイブも、帯を続けて撃ち込んでいく。
     ウルスラが殺気を広げる中で、B-q.Riotを構えるジンザと視線を合わせた朋恵が、その射撃を追うように光輪を放った。
    「……ソラ、攻撃しながらたまに皆を癒してほしいわ。……頼んだわよ」
     零花の言葉を受けたソラは、胸元の鈴をちりんと鳴らして青いマントを揺らしながら、ならば最初はと小屋に突っ込み肉球パンチを喰らわせる。
     そんな相棒の背を見送り、零花はバベルの鎖を瞳に集中させていく。
    「貴方は私を殺してくれる? それとも殺されるのかしら?」
     問いかけるように囁いた舞も、まずは態勢を整えようと弓に癒しの矢を番えた。
     シエナの蝋燭にも黒い炎が灯り、仲間を支えるためのエンチャントが広がっていく。
     小屋はお返しにと太い鶏の足で蹴りを繰り出すが、ヴァグノジャルムが盾となり庇い。
     後続の小屋から援護するように飛ばされた歯車は、クリスロッテと朋恵で受け払った。
     押し寄せる小屋の群れ。
     だが、灼滅者達は気を散らさず、まずは目の前の敵をと狙いを前衛の1体へ揃える。
     舞が差し出した殺略の箱から零れるように伸びた影が小屋を覆い喰らえば。
     その隙にと素早く間を詰めたレオンが鋭く切り裂いていく。
     ジンザが放つ石化の呪いに小屋の動きが止まった瞬間。
    「この一閃、受けてみるでござる!」
     非物質化した剣をブレイブが真っ直ぐに斬り下ろした。
     重なる攻撃についに鶏の足ががくんと折れ、小屋が地面に倒れ伏す。
     最初の相手の撃破に、だが皆は気を抜くことなく、次の小屋へと向かっていく。
     しかし。
     弓を構え、狙うと共に敵の観察を続けていた舞がそれに気づいた。
    「動きが変わったようです」
     最初は突撃とばかりに勢いよく進軍していた小屋が、守りを固め、確実にこちらを倒そうと狙いを集めてきていると。
     散発していた歯車も、狙って朋恵へと飛来し。
     シエナが回復の旋律を奏でる間に、零花が拳の連打を叩き込めば、小屋もすぐさま仲間の傷を癒していく。
     拮抗する戦況だが、相手は鶏の足の小屋だけではないのだ。
     小屋の群れの向こうには、まだ参戦していない爵位級ヴァンパイアが控えている。
    「このままではバーバ・ヤーガに届きませんですの」
     舞の指摘から状況を判断したシエナが苦々しく呟いた。
     本丸の前に取り巻きを倒していくという作戦はどうやら難しいようで。
     ならば、とウルスラが一歩前へと出る。
    「わざわざ朱雀門と取引してまで作った状況デース。
     成果を上げなければ何の為かわからんでゴザろう?」
     言いながら皆へと振り向けば、首に巻いた空色の長い長い布が鮮やかに揺れて。
     武士の魂と信じる一刀を掲げると、真っ直ぐにバーバ・ヤーガを指し示す。
    「狙うは敵将の首一つ!」
     宣言と共にウルスラのどす黒い殺気が襲い掛かった。
    「なら、いこうか。『歌え、サイレーン』」
     乗ったとばかりに、レオンは錫杖を起動させ大きく振りかぶり。
    「俺たちの道を、切り開きやがれ!」
     魔力と共に小屋へと叩きつけると、爆発と共に小屋の群れに乱れが生じる。
     その隙に、零花が白い魔導書を開き、魔力の光線を撃ち放てば。
     朋恵の光輪が、舞の影刃が、バーバ・ヤーガへと向かう。
     そして、この流れに乗ったのは、彼らだけではなく。
    「バーバ・ヤーガを仕留めて差し上げます。いざ!」
     赤茶色の巻き髪をなびかせながら槍を振り下ろした御印・裏ツ花(d16914)から、冷気のつららが撃ち放たれ。
    「いい加減灼滅者を見下すのはやめた方がええで!
     俺達の結束力……しかとその目ん玉に焼き付けや!」
     鋭く魔女を睨み据えた迦具土・炎次郎(d24801)が、その瞳と同じ漆黒の影刃を操る。
     次々と重ねられていく全班での一点集中攻撃に、シエナも今この時だけはとリュジスモンヴィエルの奏でを回復から攻撃へと転じ。
     ブレイブの蝋燭の灯が赤く揺らめくと、炎の花が飛んで行く。
     それらの多くは主を守らんとする小屋に庇われ、阻まれたけれども。
    「包囲陣の時から気になってたんですよね。歳の割りに綺麗な脚してるなって」
     皆の攻撃の隙を見てしっかり射角を得たジンザの魔法の矢が魔女を捉えた。
     バーバ・ヤーガの真っ白な肌に刻み込まれる幾つもの傷。
     その1つ1つは浅く、致命的なものは与えられなかったが。
     虚ろにも見える赤い瞳が、ゆるりと、灼滅者達を見回した。
    「またしても計算違いですか。いえ、これは裏切りですね」
     魔女は静かに戦場を見据え、的確に状況を理解する。
     そして素早く次の方針を眷属達へ告げた。
    「ならば、これ以上の戦闘に意味はありません。撤退します」

    ●退却の追撃
    「撤退……っ」
     その言葉と、直ちに退き始めた小屋の動きとに、舞が焦りの声を上げる。
     逃がすまいとするブレイブだが、大きな眷属の軍勢ゆえに横から回り込むことはできず、逃げる小屋を追いかけるのが精一杯。
     他の班も、最初の一斉攻撃のために同じ場所に集まっていたのが裏目に出て、退路を塞げる者達はいないようだった。
     挟み撃ちなどの作戦を立てていれば違ったかもしれない。
     だがそれも今や遅く。
    「あきらめませんです……!」
     しかし、それでも諦めるには早いと、朋恵がエアシューズを駆り追いすがる。
     そのまま流星のごとく跳び上がり、重力を宿した蹴りを放った。
     そんな動きに数体の小屋が足を止め、灼滅者達へと向き直る。
     殿ということだろうか。
     他より一回りは大きな個体を中心に、小屋達は灼滅者達の行く手に立ち塞がった。
    「邪魔だ!」
     不敵に笑いながら、レオンは進む先に居る小屋に斬りかかる。
     立ち塞がるなら、それを払いのけるのみ。
     ジンザの銃撃と共に間を詰めたウルスラは、巨大な杭打ち機を振り上げて。
    「大地ごと震えて砕けやがれデース!」
     その意思を貫くように叩きつければ、振動波が小屋を揺らす。
    「この一撃、耐えれるなら耐えてみるでござるよ」
     そこに、手を振りかざすブレイブの動きに合わせて放たれた帯が、鶏の足を貫いた。
     痛みに振り回されたような小屋の中から歯車がばら撒かれたけれども。
     シエナの奏でる旋律とクリスロッテが飛ばすハートに支えられ、ヴァグノジャルムは車体に走る亀裂に構わず突撃して行く。
     零花の影が、ソラの魔法が、続けて放たれて。
    「悪を極めんとした男の業(わざ)と業(ごう)を見なさい」
     凛とした声を響かせて、舞が紅白合繊巻きの柄を握る。
     梅透かしの図柄が入った鍔を鳴らし、金糸乱れの白鞘から刀身を抜き放てば。
    「血河飛翔っ、濡れ燕!」
     上段から真っ直ぐに振り下ろされた重い重い斬撃は、小屋を見事に断ち割った。
     しかしレオンは、傾く小屋が倒れ伏すのを待ちきれないようにそれを飛び越えながら、銀朱の薄刃を放つ。
     本当の敵であるバーバ・ヤーガは小屋の先に居るのだから。
     だが、レオンの刃は空を切り。
     目指した魔女の姿は既にどこにも見えなかった。
     白鞘に刃を納めた舞は、殿の役目を果たし消える小屋を静かに見下ろす。
     あの大きな小屋も他班が倒せたようで姿はなく、辺りにもう戦いの気配はない。
    「2年越しの因縁に決着をつけたかったのですが……」
     呟いたジンザの青眼が陰る。
     朱雀門の期待に応えきれなかったと、シエナも緑色の瞳を伏せた。
     沈む空気の中で。
    「……みんないるわね」
     ぽつりと零したのは、周囲を見渡していた零花。
     バーバ・ヤーガは逃したけれども、魔女を狙い集った仲間は皆無事で。
     誰1人として欠けることなくこの場にいる。
     零花の言葉に目を瞬かせたブレイブとウルスラは、思わず視線を交わし合い。
     程なくして小さな笑顔がこぼれ出た。
     朋恵も武蔵坂学園を眺めて目を細めて。
     ふわふわと近づいてきたクリスロッテを抱きしめる。
     そして。
    (「秋羽さん……皆さん……」)
     守れた大事な場所に大切な友人達の姿を想い重ね、朋恵は可憐に微笑んだ。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年1月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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