武蔵坂防衛戦~血戦の幕開け

     初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)からの招集は、ヴァンパイア勢力に関するものであった。
    「先日行われた朱雀門との交渉において、武蔵坂学園とシャドウとの決戦に合わせ、爵位級ヴァンパイアが大軍を率いて武蔵坂に攻め込むという計画が明らかになった」
     朱雀門の生徒会長からは、『武蔵坂学園がソウルボードで決戦を行う』という偽情報を流した上で、先鋒として朱雀門全軍を率いて武蔵坂に侵攻する、という情報を得ている。朱雀門の軍勢が武蔵坂の奥まで侵攻したのを確認し次第、爵位級の軍勢が動くようだ。
    「こちらの選択肢は3つだ」
     杏は指を立てた。
     1つ目は、先鋒である朱雀門全軍を撃退する事。成功すれば爵位級の軍勢の侵攻を阻止できるが、シャドウとの決戦時に介入してくる可能性は残ったままになる。
     2つ目は、朱雀門全軍をあえて学園の奥まで侵攻させ、おびき出された爵位級ヴァンパイアの軍勢を出来る限り撃破する事。うまく行けば、シャドウとの決戦時に爵位級の介入を防げるというメリットがある。
     最後、3つ目は、朱雀門高校の軍勢を引き入れた上でだまし討ちにし、その後侵攻してくる爵位級ヴァンパイアをも撃破する作戦だ。成功時の戦果は大きいが、その分リスクも大きい。
     この件について、皆に話し合いと選択をしてもらった結果、朱雀門高校の提案を受け入れ、爵位級ヴァンパイアを誘き出して灼滅するという作戦の実行が決定した。
    「もしデスギガスとの決戦中に爵位級ヴァンパイアの襲撃を受ければ、これをしのぐ事はほぼ不可能だろう。今回は朱雀門を信用するしかない」
     ここで爵位級ヴァンパイアの戦力を削る事ができれば、後々訪れる決戦で優位に立てるはずだ。
    「先ほどは信用するしかない、と言ったが、もし朱雀門が裏切った場合、爵位級の軍勢と同時に相手をしなければならなくなる。そうなれば、大きな危機だ。そのような事態を避けるためにも、朱雀門への警戒は怠るべきではないと思う。話が通じそうに見えても、相手はダークネスなのだしな」
     爵位級ヴァンパイアの有力敵は、『バーバ・ヤーガ』、『殺竜卿ヴラド』、『無限婦人エリザベート』、そして『黒の王・朱雀門継人』だと想定されている。
    「これらの有力者が、配下の吸血鬼や眷属などを従えているようだ。チームの仲間同士で話し合い、どの敵を討つか、決めて欲しい」
     爵位級ヴァンパイアの撃退には、3~5以上のチームが力を合わせなければならない。
     もし灼滅するとなれば、更に倍以上の戦力が必要だと考えられる。だが、皆の作戦が優れていた場合は、想定より少ない数で灼滅に追い込む事も不可能ではない。
     いかに爵位級ヴァンパイアと配下の吸血鬼戦力を分断するかが、カギのようだ。
    「どの敵と相対するにしても、皆の連携と作戦が重要だ。それと、いずれにせよ、この後にはシャドウとの決戦を控えている。無理はするなよ」
     言われるまでもないだろうがな、と杏は強気に微笑んだ。


    参加者
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    蒼月・碧(碧星の残光・d01734)
    忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)
    東雲・悠(龍魂天志・d10024)
    赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)
    チェーロ・リベルタ(忘れた唄は星になり・d18812)
    双葉・翔也(表情豊かな無表情・d29062)

    ■リプレイ

     武蔵坂学園、屋上。
     蒼月・碧(碧星の残光・d01734)は、朱雀門の軍勢が『予定通り』侵攻する様を確かめていた。
    (「攻め入ってくるのを黙って見守るのは正直心苦しいですけど、でも、相手の虚をつくならそれも我慢しないと……」)
     全ては朱雀門との『共闘』。爵位級ヴァンパイアを引きずり出すための策なのだ。
     屋上に集った皆の標的は、魔女バーバ・ヤーガ。優先すべき索敵対象は敵陣の守りの厚い部分、そしてそれを構成する眷属、鶏の足の小屋に絞られていた。
     索敵に集中していた花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)は、小型望遠鏡の向こうに、新たに進撃してくる影を捉えた。
     力強く前進する小屋の列。動力は車輪にあらず、たくましい鳥の足。
    「鶏の足の小屋。あれがバーバ・ヤーガの軍勢で間違いないね」
    「ああ。バーバは後方で控えているんだろうな」
     ましろに頷く東雲・悠(龍魂天志・d10024)。
     鶏の足の小屋と言えば、黒翼卿に貸し出された経緯もあるが、今回はバーバ・ヤーガ自身が兵力として使役しているようだ。
    「鶏の足の小屋のサイズからして、どうしても進軍経路は限られるはずですから」
    「ええ、先読みはそう難しくないわね」
     双眼鏡で敵の進路を追う赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)と忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)。
     鶏の足の小屋がヴァンパイアの輸送能力を持つことは、既知の事実だ。その大きさゆえに、隠密性は皆無。
     まして、向こうにとってここは敵地。挟撃を受けかねない手狭な進路をあえて選ぶとは考えにくい。
     それらを前提とした上で、双葉・翔也(表情豊かな無表情・d29062)が、校内各所に設置しておいた監視カメラの映像をチェックする。敵の侵攻に対し、学園側の各迎撃班も動き出しているようだ。それらの動きも加味していく。
     そうして仲間達が集めた情報を元に、チェーロ・リベルタ(忘れた唄は星になり・d18812)が碧と共に、敵の進軍予想経路を導き出す。
     バーバ・ヤーガと相対するのは、自分達を含めて7つの班。必要なのは、それらが十分に機能しうる戦場。
    「相手の移動予想進路と、7班の合流にかかる時間を合わせて考えると……」
    「はい、ここが最適だと思います」
     果たして、碧とチェーロが同時に差し示したのは、『中庭』だった。
     皆も、異論はない。決定を受け、ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(華散し・d36355)が双眼鏡を無線機に持ち替えた。連絡先は、無論、バーバ・ヤーガ迎撃各班。
    「こちら屋上班。予想されるバーバ・ヤーガの軍勢の移動経路を割り出したよ。最適と思われる迎撃地点は……中庭だ」
     わかった! 了解した。すぐに向かいます。オーライ。
     ぼくたちの班も、すぐに合流するよ。歓迎会をはじめましょうか……。
     次々届く各班からの応答に、ロードゼンヘンドの口元が笑みを作る。声に含まれる頼もしさに、他の皆の士気も高まっていく。
    「それじゃあ、ボクらも急ごうか」
     ここからが本番。
     いよいよ、作戦開始だ。


    (「朱雀門の提案に乗るのは癪だが、吸血鬼共の思い通りにはさせないぜ」)
     仲間達に続き、悠が縄梯子に手をかけた。
     避難用スロープやESPも駆使して、中庭へと急ぐ碧達。
    「お手伝いします」
     豪胆にも、着の身着のまま跳び下りようとしていた翔也の頭上から、声が降って来た。見上げれば、箒にまたがったチェーロがいた。『感謝』と書かれたプラカードを掲げた翔也を乗せ、チェーロの空飛ぶ箒が地上を目指す。
     ほどなくして、中庭に灼滅者の集団が形成されていた。魔女バーバ・ヤーガを討つという共通の意志のもとに。
    「圧倒的、とは言えないけれど、なかなか頼もしいじゃないか?」
     集った灼滅者の数に、悠やロードゼンヘンドの表情に自信が満ちる。
    「さぁ、今日は爵位級との時間無制限1本勝負……腕が鳴りますわ!」
     鶉が、蒼きリングコスチュームをまとう。この姿で、今までも数多くの戦場をくぐり抜けてきたのだ。
    (「戦うのは私達ばかり……この状況は、本当に共闘と言えるものなのかしら」)
     一方で、玉緒の心にあるのは、ガイオウガ決死戦時に萌芽した、武蔵坂への不信。だが、今はその原因でもあるダークネスへの憎悪を、戦いへと向ける時。鍵へと祈り、力を解き放つ。
     直後、皆の耳を、轟音が叩いた。
     地を揺るがす震動……鶏の足の小屋の群れだ。
     その圧倒的な迫力に、一同が息を呑む。あたかもバッファローの突進力と、ゾウの大重量を兼ね備えたような。
     しかし、取り乱す者は誰一人としていない。
    (「……だいじょうぶ、一緒だから怖くないよ」)
     蒼炎の模様が刻まれた指輪に、そっと触れるましろ。
     不安なことも、難しいことも、考えるのは後回し。今はみんなの大事な場所を守ることだけに集中すればいい。
     先陣を切ったのは、朝臣・姫華や大夏・彩のいるチームだった。声を上げ、百合ヶ丘・リィザが、鶏の足の小屋を引き付けにかかる。
     今こそ突撃の時、遅れを取るな。他の班と共に、玉緒達も攻撃を開始する。
     武蔵坂7班連合と、バーバ・ヤーガ軍の戦いの火ぶたが切られた瞬間であった。


     先鋒を務める小屋が、轟音を伴い、突撃してくる。その屋根に、影が落ちる。
     直後、悠が降って来た。渾身の刺突が、小屋を突き破る。
    「こっちの本命はお前らじゃないんでな!」
     槍を引き抜き、悠が飛びのくタイミングに合わせ、ロードゼンヘンドの弾丸が、チェーロの矢が、次々と小屋の外壁を貫き、穿つ。同時に、外壁を覆っていた加護の輝きが、霧散する。
     しかし、また別の小屋が、その強靭な足でこちらを踏み潰そうと迫る。
     早くも乱戦の様相を呈する戦場を、二種の武器を手にして立ち回る翔也。左手の交通標識を黄色に変え、影業で鶏の足を縛る。
     次手に移ろうとしていたチェーロを、太い鶏の足が襲う。だが、無慈悲な重圧がその身を潰す事はなかった。碧のダイダロスベルトがチェーロを覆い、壊撃を軽減してくれたのだ。
     チェーロから足を引き剥がしたのは、腕に鬼の力を降ろしたましろ。そのまま、鶏の足の小屋を押し返す。
    「私達は、この小屋を引き受けましょう!」
     言うなり、鶉は、ましろを振り払おうとする小屋へと、一筋の光となって飛び込んだ。舞い上がる土埃。
    「マイペースが信条ですが……ここは私達の学園。今日は熱くいかせてもらいますっ!」
     その場での停止を余儀なくされた小屋へと、玉緒の断斬鋏が閃いた。鶏の名に相応しい羽を、次々と断裁していく。
     だが、敵が一対多数の状況を許すはずもなかった。後列に控えていた小屋の扉が開け放たれる。内部機構から射出されたのは、巨大な歯車だ。
    「先輩!」
     碧の声が、ロードゼンヘンドを動かした。直後、爆ぜる地面。
     なおも続く歯車の掃射を、ましろや翔也が受け、あるいは弾く。
    「翔也くん、だいじょうぶ?」
     気遣うましろに、頷く翔也。守り手として、仲間の足を引っ張るわけにはいかない。
     降り注ぐ歯車が体を傷つけるのにも構わず、眼前の小屋の突破だけに専念する鶉達。
     そして遂に。玉緒の斬撃が、脆くなっていた小屋の構造に引導を渡した。支柱を砕かれ、沈むように倒壊していく。
     周囲でも、次々と小屋が撃滅されていくのが見えた。
    「次はバーバを……!」
     一旦距離を取り、敵陣全体の把握に努めるチェーロが、ある事に気づいた。
    「敵の陣形が……」
     これまで灼滅者達の突破に注力していた敵勢が、一転、守りを固めていく。巨体に任せたがむしゃらな戦法をやめ、こちらの戦力を堅実に削りにかかったのだ。
     現状、自分達は劣勢ではない。互角、と言ったところか。
     しかし、こちらは7班の全戦力を投入しているのに対し、敵陣には首魁たる魔女バーバ・ヤーガが無傷で控えているのだ。
    「このままではらちが明かないわね」
     思わずこぼれた玉緒のつぶやきが、皆の心情を代弁する。
     だが、敵が作戦を変えたのならば、こちらも応じるまで。
    「わざわざ朱雀門と取引してまで作った状況デース。成果を上げなければ何の為かわからんでゴザろう」
     勇ましくガンナイフを掲げたのは、天鈴・ウルスラだった。刃が示すは魔女バーバ。
    「狙うは敵将の首一つ!」
     その声に呼応し、各班の魔力が、技が、魔女1人へと注がれていく。
    「よし、ここが踏ん張りどころだからな! 俺たちの学園は俺たちで守る!」
     次々上がる皆の決意に続き、悠も力強く宣言した。


     赤眼の魔女……陣後方にいるバーバ・ヤーガ目がけ、ロードゼンヘンドが矢を放った。たとえ加護があろうとも、それを貫くだけの力を秘めて。
     ましろも、指輪の魔力で練り上げた弾丸で狙撃する。だが、鶏の足の小屋が自らを防護壁として、主への着弾を阻止にかかった。
     がちり。内部のギアをシフトチェンジする事で、これまでの損傷を修復するのも忘れない。
     小屋の列がこちらを妨害にかかる中、戦線の維持を担うのは、癒し手たる碧。
     この場には、以前、自身が闇に沈んだ時に助けに来てくれた仲間もいる。誰一人として決して倒れさせたりするものか。だがそのために、内なるダークネスの力を借りるつもりもない。
    「人として、ここは勝ちます!」
     回復の時間を稼ぐように、チェーロが矢を繰り出す。
     小屋のガードなどものともせず、他の班からの攻撃も、間断なく続く。
    「バーバ・ヤーガ……いい加減灼滅者を見下すのはやめた方がええで! 俺達の結束力……しかとその目ん玉に焼き付けや!」
     迦具土・炎次郎の影の刃が、バーバ・ヤーガを狙う。それに続く攻撃が、相手に反撃の猶予を与えない。
     その一方で、攻撃の手を止め、小屋の襲撃の回避に徹する玉緒。しかしそれは、好機を見出すため。
     タイミングを見極め、影業を放つ。巧みに小屋の隙間を縫い、魔女へと喰らいつく。
    「気安く学園に侵攻した事を後悔させてやるぜ!」
     悠が、槍で歯車を薙ぎ払うと、蓄積した冷気を氷弾として射出する。
     刹那、冷えた冷気の中、阻む小屋を足場として高く舞い上がる鶉。ダイダロスベルトが、歯車の飛来をくぐり抜け、魔女の元へと到達する。切り 開かれた道をたどるように、翔也の影の刃が空中を駆け抜ける。
    「いけます! 皆さん、もうひと押しです!」
     鶉が皆を鼓舞した直後、聴き慣れぬ声が響いた。
    「またしても計算違いですか。いえ、これは裏切りですね。ならば、これ以上の戦闘に意味はありません。撤退します」
     言葉の主は、バーバ・ヤーガ。
     戦場を飛び交う雑音の中からそれを拾い取ったのは、ロードゼンヘンドだった。
    「こっちの意図に気づかれた? でも、逃がさないよ」
     言うや否や、ロードゼンヘンドが矢をつがえる。もし今の状況で朱雀門に裏切られたらまずい……そんな考えは、とうに吹き飛んでいる。
    「ここで引き留めないと!」
    「まだ魔女に攻撃は届きます!」
     仲間へと懸命に声を飛ばす、ましろや碧。
     玉緒や悠が、小屋の残骸を踏み越え前進するが、残存する小屋が立ちはだかる。
    「ちっ、邪魔するな!」
    「絶対に逃がさないわ、バーバ・ヤーガ……!」
     一回り大きな体躯の小屋が、こちらを威圧する。いくつかのチームがそちらへの対処に向かう中、自分達はそれを背後から狙う小屋へと仕掛けた。
     攻撃に専念していた皆は、気づかなかった。死角から歯車が飛来していた事に。
    「仲間は、やらせない」
     鶉が振り返った時には、翔也が全身で歯車をホールドしていた。勢いを殺し、歯車を投げ捨てた反動でふらつく翔也を、チェーロの癒しの力が支える。
    「みなさんは敵にとどめを」
     追撃にかかる小屋に、次の攻撃の機会は、永遠に訪れなかった。猛攻を浴びた小屋が、一体、また一体と撃滅されていく。
     追撃進路がようやく開けたと思った時……バーバ・ヤーガの姿は、戦場のどこにもなかった。
     爵位級を仕留めそこなった口惜しさが、灼滅者達の胸に広がる。
     しかし、命を落とす者も闇に沈む者も出さずに敵を撃退できたという安堵もまた、少なくなかったのであった。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年1月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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