武蔵坂防衛戦~ブラッドデッドエンド

    作者:空白革命

    「皆、朱雀門との交渉に行ってきた仲間たちのことは覚えてるな? この会談で爵位級ヴァンパイアがシャドウとの決戦にあわせて武蔵坂へ大軍を投入する計画が判明したんだったな」
     朱雀門は味方に『武蔵坂がソウルボードで決戦する』という偽情報を流し先鋒として攻めてくるということだ。
     一方の爵位級軍勢は朱雀門が奥まで侵攻することを確認した上で攻めるという手はずになっているらしい。
     と言うことで、朱雀門の提案をはねてまるごと迎撃する作戦、一旦朱雀門を信用して攻め落とされたフリをする奇襲作戦、信用したフリをして最終的に両方撃破する騙し討ち、と三つの作戦から皆の投票で選択することになったのだが……。
     
    「皆の投票の結果、『朱雀門の提案を受け入れて、爵位級軍勢と戦う』という選択をとることになった。
     来たるべきデスギガスとの決戦に爵位級軍勢の襲撃が起これば防ぎきることはできないからな。
     この戦いで爵位級のヴァンパイアを多く灼滅出来れば、ヴァンパイアたちとの決戦時にも優位に立てるだろうし。
     ただ、この作戦中に朱雀門が裏切ったら大変だ。警戒は、要るよな。
     さて、爵位級軍勢の有力敵だが、『バーバ・ヤーガ』『殺竜卿ヴラド』『無限婦人エリザベート』『黒の王・朱雀門継人』といった所だ。この連中に配下の吸血鬼や眷属が従っているらしいから、仲間同士で話し合って作戦目標を決定してくれ」
     爵位級ヴァンパイアを撃退するには3~5チーム以上が力を合わせなければ不可能だ。
     そのうえで灼滅するとなれば更に倍以上の戦力が必要になるだろう。勿論作戦によっては少人数での灼滅もありえる。
     爵位級ヴァンパイアと配下の吸血鬼戦力を分断できるかが、成否のポイントになるだろう。
    「と、いうわけだ。皆の選択に、俺はどこまでもついて行くぞ。さ、気持ちよく戦いに行こうぜ!」


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)
    叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)
    ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)
    シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)
    イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)
    シルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)

    ■リプレイ

    ●世界の命運と人々の命を守る壮絶な戦いの物語
    「絶対守るよ! 大好きな学校だから、ずーっと過ごした場所だから!」
     幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)は拳を固めて突きの型をとると、滑るように廊下を走った。
     ダッシュの勢いと腰のひねりを乗せた拳が繰り出され、それを相手は裏拳で弾く。こめかスレスレを抜けていく拳。
     ノーガード状態になった胸に肘が入りそうになるが、桃琴はそれを手のひらでキャッチ。接触点を中心にして反転し、相手と背をつけあう。
     死角と死角。次の間合いを奪うようにじりじりと動く二人。振り向きと同時に手刀を放った相手をかがんで交わすと、脇腹に向けて突きを繰り出――す直前で止めた。
    「よし、イメージトレーニングはこのくらいでいいだろう」
     第二の手刀を桃琴の首にとんと当て、対戦相手の叢雲・宗嗣(黒い狼・d01779)は頷いた。
     にっこりと笑う桃琴。
    「もしダークネスが襲ってきても大丈夫だね!」
    「ここまでやって来ればの話だがな……」
     周囲を見回す宗嗣。
     そこは(東京の学校には割とよくある)地下教室のひとつだった。
     窓はないし通路は限られている。防衛にはもってこいだが、それ以上にサイキックアブソーバーや瑠架といった敵の重要攻略目標と離れており、侵攻ルートにもかかっていない。
     おかげでさっきから全く戦闘が起きていなかった。
    「しかし、本当に自宅待機をさせなくてよかったのか?」
    「想定外の防衛には予想外の危険って言ってな」
     腕組みをして現われる風真・和弥(風牙・d03497)。
    「学園内以上に安全な場所はないし、動きを察知されて襲撃されたらおしまいだ……と、言われたよ。だから念のためコレを配って置いた」
     和弥は小学生がよく持ってるような防犯ブザーを翳した。何かあったら鳴らすようにと護衛対象に配っておいたらしい。
    「それにしても、戦闘がないわね」
     壁に背をつけて呟くシャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)。
    「ここは敵の侵攻ルートにもかかってない。ラグナロクが大量に集まっていると事前に知るでもないかぎり、かなり優先度の低いポイントだ。逆に言えば、ここまで敵が来るのはかなり末期的な劣勢状態と言っていい」
    「つまり、私たちが暇なことはいいことなのね……」
     シャルロッテとしては声をかけたい人間がいたのだが、どうやらそれはまた今度になりそうだった。
    「それで? 他の皆はどうしているの? 『もうひとつ』のチームと一緒?」
    「ああ……彼らなら……」
     和弥は虚空を見上げた。

    「はい敵が来る! その通路を進む!」
    「こうっすか!? ヘヘヘ、要人をまとめて頂いてやるでがんすぅー」
     メガホンを叩いて指示を出すナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)と、可能な限りワルを演じるアプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)。
    「はいそこで罠発動! ヒモ引いてヒモ!」
    「ござる」
     シルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)がひもをくいっと引くと、天井にセットされたタライが落下した。ごいーんといってアプリコーゼに直撃する。
    「ぎゃみん!?」
    「続いて落とし穴!」
    「ひゃいん!?」
    「くくりなわ!」
    「にゃいん!?」
     (割と自発的に)罠にかかっていくアプリコーゼ。
     天井から逆さ吊りになったまま、スカートを押さえてぶらんぶらんしていた。
    「ほんとにこれでダークネスをしのげるんっすか?」
    「えっ……?」
    「んっ……?」
     微妙な間を挟んでから、ナハトムジークは壁際に立てたマネキンに寄っていった。
    「少しでも足止めできればいいんだよ。ねーナハトムー?」
    『セントウニハイリマース』
     予め録音した音を慣らすマネキン(命名:ナハトム)。
     そのナハトムの胸が槍でごっそり貫かれた。
    「ナハトムウウウウウウウウウ!」
    「何を遊んでるんだ」
     槍を引っ込めて床に立てるイサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)。
    「条件のいい部屋が見繕えたんだ。別に罠はいらないだろう」
    「えーでも防衛戦ってこういう――あっやめて腰はやめて」
     槍のこじりでナハトムジークの脇腹をつんつんやるイサ。
     そこへ、白い髭のおっさんがやってきた。
     おっさんっていうか校長、緒形時雄がやってきた。
    「皆さん、お疲れ様です」
    「ウィッスウィッスー」
    「コーチョー、ナハトムが息してないの!」
    「フォッフォッフォ」
    「誰か一人でもいいからまともな挨拶をしろ」
     イサに脇腹をやられるナハトム一同。
     その様子を一旦スルーしてから、校長はごほんと咳払いをした。
    「皆さんの護衛は嬉しいのですが、ここにいれば襲撃されることはないでしょう。そう思いませんか」
    「えっ、思う?」
     ナハトムジークは判断をゆだねるように振り返った。
     腕組みをするイサ。
    「どうだかな。裏切りや内通があれば即座に襲撃されそうなものだが」
    「ですが、今現在襲撃されていないということは安全ということでしょう。皆さんはここを離れて、爵位級ヴァンパイアの迎撃に当たってください」
    「フッ、なるほど。そういうことっすか……」
     アプリコーゼはニヤリと笑って、三秒待って後ろを振り向いた。
    「どういうことっすか?」
    「分からずにあんな軍師フェイスしてたの?」
    「いや、なんかノリで。言ってることはわかるんすけど、こう……あの……」
    「理由が分からない、な」
     イサは腕を組み、校長に向き直った。
    「ここに集まっている教師、ラグナロク、エクスブレインといった要人は武蔵坂学園を構成する上で重要な人間たちだ。その重要性を捨てるわけにはいかない」
    「それもわかりますが、いまは黒の王を討てるチャンスなのです。私たちのことは気にせず、爵位級ヴァンパイアと戦っている皆さんの援護に向かってください」
    「フッ、つまりこう言いたいんっすね……」
     アプリコーゼはニヤリと笑って、三秒待ってから後ろを振り向いた。
    「なんて言いたいんすかね」
    「天丼はギャグの基本!」
    「少し黙っていて貰おうか」
     ナハトムジークとアプリコーゼの脇腹を槍でガッてすると、イサはもっかい校長に向き直った。
    「エクスブレインはどうする」
    「サイキックアブソーバーがなければ一般人と変わりありません。確かに減ってしまうことは驚異ですが、拉致されることは無いでしょう」
    「では、ラグナロクはどうだ。ラブリンスターのようにラグナロクダークネスにされる危険があるだろう」
    「その危険はゼロではありませんが、敵の手に渡る前に自死するという手段がとれます。いえ、その手段をとるでしょう」
    「ふむ……」
     言い方を考えるように目をそらすイサ。
     その後ろで、誰かがぽつりと漏らした。
    「そうよ。敵の手に渡るくらいなら死んだ方がマシだもの」
    「その声は!」
    「カミツレちゃん!」
    「イエスアイアム」
     と、神津零梨の格好をしたバルタンが喋った。
     誤解の無いようにもっかい言っておこうか。
     神津零梨の格好をしたバルタンが喋った。
     あと腕んとこハサミのままだった。
    「ダメだなあこれは」
    「360度どっからみても偽物っすね」
    「馬鹿な、私の忍法を見破れるとは……でござる」
     スッと槍を手に取るイサ。
    「少し黙っていて貰おうか」
    「天丼はギャグの基本!」
     三人そろってガッてされるバルタンたち。
    「まあ実際、いざとなったら死ぬ覚悟は出来てるって言ってたっすよ。カミツレちゃんが」
    「えっ喋ったの? いいなあ!」
     イサの槍の下敷きになりつつ語らうアプリコーゼたち。
     そんな光景をまたもスルーして、校長は咳払いをした。
    「どうしても味方の援護には行けませんか」
    「行けないな。例えば優貴先生を奪われればコルネリウスやオルフェウスにまで被害が及ぶ。この場所に二つのチームをさく戦略的価値は充分にあると考えている」
    「むう……」
     そこまで言われるとぐうの音も出ないのか、校長はむっつりと黙って背を向けた。
    「分かりました。皆さんがそこまで言うのでしたら……」
     そう言って、別の部屋へと向かう校長。
    「どこ言ったんすかね」
    「トイレかなあ」
    「あっちは別のチームが護衛してる部屋でござるよ」
     下敷きになりつつ語らう三人。
     イサはため息をついて、槍をとってやった。

    ●援護要請
     暫く『いい意味での暇』が続いた。
     桃琴や宗嗣たちは組み手をしながら時間を過ごし、外の戦いが終わるのを待っている。
    「外の様子はどうなってるんだ?」
     組み手と止めて振り返る宗嗣に、ミネラルウォーターのボトルを手渡す和弥。
    「戦闘に入るか入らないかってところじゃないか。見えないからどうとも言えないが」
    「皆さん、お疲れ様です。聞いていただきたいことがあるのですが」
     話をしていると、校長が扉を開けて入ってきた。
     おや、という顔で振り返る桃琴とシャルロッテ。
    「何かの緊急事態かしら?」
    「いえ、そういうわけではないのですが……」
     少し言いにくそうにしてから、校長は咳払いをした。
    「先程、朱雀門のルイス・フロイスから提案の連絡がありました」
    「ルイス・フロイスか……」
     何か思うところがあるようで、和弥は少し妙な顔をした。
     様子を察して前に出る桃琴。
    「どうしたの? 何か言われたの?」
    「ええ」
     まともに話を聞いてくれる人が現われたみたいな顔をして、校長は咳払いをする。
    「爵位級ヴァンパイアとの戦闘に関してのことなのですが、朱雀門が前線に立って戦うことができないそうです」
    「えっと、なんでだろう。だめなの?」
     桃琴が首を傾げると、宗嗣がボトルキャップを閉じながら語った。
    「全線に朱雀門のダークネスが出てくると、罠であることが早速バレてしまうんだろう」
    「その通りです。さすがですね」
     校長は頷いて、続きを語った。
    「そこで、こちらの要人護衛チームから戦力をさくことはできないかという提案が成されました」
    「つまり、エクスブレインやラグナロクたちの護衛を放棄して爵位級ヴァンパイアとの戦闘に加われということか」
    「あくまで提案です。武蔵坂学園の半分以下の戦力を融通して、武蔵坂から出た闇堕ち灼滅者を部隊に入れるがどうだろう……とのことでした」
    「んー……」
     桃琴は頭をぐるぐるとさせてから、むつかしい顔で唸った。
    「やっぱりダメだよ。ここの皆を守るって決めたんだから、ちゃんと守らなきゃ。先生たちだって、危険にさらしちゃダメだよ」
    「私もその意見には賛成ね。護衛任務は放置していい役目じゃないわ」
     壁に背をつけたまま、小さく手を上げるシャルロッテ。
    「それで、あなたはどう思うの? 校長先生」
    「私は、受け入れるべきだと思います。ここは安全ですし、万一のことがあっても対策がとれますから」
     顔を見合わせる宗嗣と和弥。
    「俺は受け入れられないな。雑魚一匹でも紛れ込めば最悪の事態になる。損害時に敵へのメリットをなくせたとしても、こちらのデメリットが大きすぎるだろう」
    「そうだな……俺もだ。カミツレちゃんをはじめ、沢山の事件に関わってきた身としちゃあ見過ごせないぞ」
    「それは、俺も同じだ」
     宗嗣と和弥はなんだか昔を懐かしむ顔をした。世田谷戦は壮絶だったなあ、みたいな。
     そういう意味では、桃琴も同じである。それ以降の話をするなら、皆同じだった。
     皆の顔を見てから頷く宗嗣。
    「ということだ。俺たちはそちらの戦線には加われない。相手にはそう伝えてくれ」
    「分かりました。仕方ありませんね……」
     校長はそこまで言うと、くるりと背を向け別の部屋へと移っていった。

     それから暫く、要人護衛チームの皆は外の戦闘が終わるまで警戒状態のまま過ごした。
     結局の所ダークネスがここまで侵攻してくることはなく、『いい意味での暇』が最後まで続いたことになる。
     校長は爵位級ヴァンパイアを倒すチャンスだと言ってちょこちょこ声をかけてきたが、途中からはそのチャンスも消えたようで大人しくなった。
     かくして。
     武蔵坂学園はラグナロク、エクスブレイン、教師陣といった重要な人間たちをキッチリと守り抜くことに成功したのだった。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年1月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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