武蔵坂防衛戦~信頼と裏切りの狭間

    作者:湊ゆうき

    「みんな、新年早々集まってくれてありがとう」
     橘・創良(大学生エクスブレイン・dn0219)が全員を見回し、ぺこりと頭を下げてから説明を始める。
    「シャドウとの決戦を前に、みんなの中から選ばれた代表者が朱雀門との共闘を求めて交渉に行ったのはみんなも知ってるよね。その結果、爵位級ヴァンパイアがシャドウとの決戦に合わせて大軍を率いて武蔵坂に攻め込む計画があることが判明したんだ」
     そのことも皆は理解している。創良の言葉に深く頷く灼滅者たち。
    「朱雀門の会長からは『武蔵坂学園がソウルボードで決戦を行う』という偽情報を流した上で、先鋒として朱雀門全軍を率いて攻めてくるという情報を得たんだ。そして『朱雀門の軍勢が武蔵坂の奥まで侵攻することを確認』すれば、爵位級の軍勢が怒涛のように攻め寄せてくる手はずになっているみたいなんだ」
     そのことを踏まえ、武蔵坂が選ぶべき選択肢は3つ。
    「1つ目は、先鋒である朱雀門全軍を撃退すること」
     朱雀門を撃退すれば、爵位級ヴァンパイアの軍勢は攻めてくることはないが、本当のシャドウとの決戦時に介入してくる可能性が高くなる。
    「2つ目は、先鋒である朱雀門全軍を学園の奥まで侵攻させ、爵位級ヴァンパイアの軍勢を釣り出して、爵位級ヴァンパイアの軍勢をできるだけ多く撃破すること」
     この作戦が成功すれば、シャドウとの決戦時に爵位級ヴァンパイアが介入してくるのを防ぐことができる。
    「そして最後は……朱雀門高校の軍勢を引き入れた後にだまし討ちにして、その後、侵攻してくる爵位級ヴァンパイアを撃破すること」
     成功すれば最大の戦果を得ることができるが、かなり危険な賭けになるかもしれない。
     それぞれにメリットとデメリットがある選択肢であるが、年末年始で灼滅者同士で話し合いを重ねてきた。
    「みんなで決めた結果は、朱雀門高校の提案を受け入れ、爵位級ヴァンパイアを誘き出して灼滅する作戦」
     皆で悩み考え抜いた結果だ。
    「来るべきデスギガスとの決戦時に、爵位級ヴァンパイアからの襲撃があれば、防ぎきることは多分不可能だから、この選択を選ばざるをえないところもあったよね」
     ただ、この戦いで数多くの爵位級ヴァンパイアを灼滅することができれば、爵位級ヴァンパイアとの決戦でかなり優位に立つことができると創良は力強く頷く。
    「だけど、万一朱雀門高校の戦力が裏切った場合は、大変な危機に陥ることになるから、十分な警戒が必要かもしれないね」
     爵位級ヴァンパイアの有力な敵は、『バーバ・ヤーガ』『殺竜卿ヴラド』『無限婦人エリザベート』『黒の王・朱雀門継人』であるようだと創良は付け加える。
    「これらの有力敵に、配下の吸血鬼や眷属などが従っているみたいだよ。このことを踏まえ、みんなで話し合って、作戦目標を決定してほしいんだ」
     新年早々、学園にとって大きな戦いが始まろうとしている。だが、今までも数々の修羅場を乗り越えてきた灼滅者たちだ。今度もきっと力を合わせてこの困難な局面を乗り越えるに違いない。
    「今回も厳しい戦いになると思う……でも、みんなならできるって信じているから。どうか無事で戻ってきてね」
     信頼に満ちた視線を一人一人に向けながら、祈りを込めて創良は皆を送り出すのだった。


    参加者
    月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)
    ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)
    明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)
    博麗・夢羽(博麗の巫女・d16507)
    型破・命(金剛不壊の華・d28675)
    榎本・彗樹(自然派・d32627)

    ■リプレイ

    ●学舎での攻防
     シャドウとの決戦を前に、朱雀門との共闘を求め、灼滅者たちが選んだのは提案を受け入れて爵位級ヴァンパイアを撃破する道。
     ラグナロクやエクスブレイン、サイキックリベレイターなど守るべきものも多い中、武蔵坂の奥深くまで誘導するのはリスクも伴う。けれど、決めた以上は、果たすべき目的のため――。
     生徒たちは、それぞれの持ち場に分かれ、決戦の時を待つ。

    「どうにも防衛戦ってのは性に合わねぇが、そんなことも言ってられんか」
     見慣れた教室や建物で敵を迎え撃つ……そんなこれから起こる非日常に対し、型破・命(金剛不壊の華・d28675)は体育館の壁を見つめながら思わず呟くのだった。
    「無限婦人エリザベート、か……さて、そろそろ始めっか」
     榎本・彗樹(自然派・d32627)がその名を呟くと、いつでも戦闘開始できるよう身構える。
     今回武蔵坂に攻めてくる爵位級ヴァンパイアは4体。そのうちの1体、無限婦人エリザベートを狙うチームが体育館に集まっていた。
     既に戦いは始まっている。辺りに漂う緊張感は平時のものとは段違いだ。
    「真っ当にヴァンパイアと戦える機会が中々無くてな、僕は今不謹慎ながらこの戦いに喜びを感じてるよ。爵位級を一人でも多く倒す」
     白いキャスケットのつばをくいっと上げ、字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)は、好機とばかりに内に秘めた闘志を燃やしていた。
    「エリザベート……霧になっているとやっかいですね」
     もちろん爵位級ヴァンパイアが生半可な敵でないことは充分承知している。結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)をはじめ、他班のメンバーもその点には事前に注意を払っていた。
    「灼滅するつもりで当たろう」
     月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)の言葉は、他班を含めた仲間たちの思いだ。今後の戦いのためにも、何とか爵位級ヴァンパイアの数を減らしておきたい。
    「まぁ、とにかく……今厄介そうなのをどうにかできればなんでもいいわ」
     今自分にできることをするまで――博麗・夢羽(博麗の巫女・d16507)らしい、気負いすぎない発言なのだ。
    「あれ、無線が……?」
     ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)が無線を手に思案顔をする。同じくエリザベート狙いの班のひとつが、露払い役として先に戦闘に当たっているのだ。戦闘中は無線で連絡を取る余裕はなく、繋ぎっぱなしにしているようで、ひたすら戦闘音が聞こえてきていたのだが、先ほどとは違う音が聞こえてくる。
    「何か、あったのか……?」
     不安を感じ、明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)の普段はとろんとした目元が、きりっと表情を変える。

    ●迫る足音
     仲間達に何かあったというのか……異変を感じたのは、他の班の仲間も同じようだ。体育館の中が一気に緊張で高まる。
     無線からは、引き続き激しい戦闘音と乱れる呼吸の音や駆けていく足音が響いている。
     余裕がなく、連絡はできなくても、彼らは状況を仲間に伝えようとしている。おそらく、彼らの狙いは……。
     そのとき、白い塊が体育館の入り口を駆け抜けていく。
    「わおん!」
     霊犬モップに続き、露払い班の仲間達が倒れ込むようになだれこんでくる。深い傷を負った仲間を抱えながら、最後の力で体育館まで希望を繋いだのだ。
     この様子を見ただけで、エリザベートの軍勢の力を思い知る。劣勢に立たされながらも、露払い班は最後の力を振り絞り、体育館まで誘い込んだのだ。
     何人かが入り口で力尽き、近くにいた他班の仲間が素早く助けに動く。
     それと同時に、彼らを追い詰めた存在もまた体育館に集結しつつあった。
     小悪魔めいたメイド姿をした淫魔に、蛇を纏わせた執事――サイレーン灼滅戦の時に海上都市で得た配下を連れ、無限婦人エリザベートがその姿を現した。
     長い銀の髪に、赤い双眸。どこか愁いを帯びた表情が、喪服のような黒のドレスと相まって美しさを引き立てている。だが、彼女は爵位級ヴァンパイアのひとり。強敵であることは間違いない。
     軍勢が体育館の中に入ると、灼滅者の手によって出入り口は閉鎖される。手負いの灼滅者を追い詰めていたと思ったが、どうやらそうでないことに、エリザベートも遅まきながら気付いたようだ。
    『――まさか、罠ですか?』
     体育館の四方から、容赦ない攻撃が同時に無限婦人に襲いかかる。
    「油断も驕りも無く、だ。行くぞ……!」
     ようやく戦えるとばかりに、望は縛霊手ごとエリザベートに思いを叩きつける。静菜の巨大化した片腕が、ヴォルフの鋭い銀爪が、それに続く。
     四方からの一斉攻撃を受け、エリザベートは全てを悟った。
    『成程。私たちは誘い込まれた様ですね』
     それでも血色の瞳に、大きな感情の揺れを見ることはない。
     夜霧を展開しながら、朔耶はこの状況を分析していた。露払い班は、取り巻きの数を大幅に減らす予定だった。だが、想像以上に苦戦を強いられたのだろう。手下の数は思っていたより多い。配下を殲滅してエリザベートを灼滅できればと思っていたが、この状況ではそれは難しい。
    「配下は無視して、エリザベートを狙おう」
     他班の仲間達も、一斉にエリザベートを攻撃している。今は爵位級ヴァンパイアを撃退に追い込むことが重要だ。
    「了解だ、朔耶」
     意図を理解し頷く命。どこか楽しそうに、意志を持つ帯を解き放つ。
    「よし、あんたとはずっと喧嘩できるんだろ無限婦人! 楽しくやろうじゃねえか!」
     配下のメイド風淫魔・シルキーがモップを振り上げ襲いかかってくるのを、霊犬リキがかばい、仲間を守る。止水のリングスラッシャーと彗樹のレイザースラストが同時に襲いかかるが、配下の盾に阻まれる。夢羽は交通標識を黄色にスタイルチェンジし、仲間の守りを固めていく。
     四方からの一斉攻撃を受け、エリザベートは少しずつ、だが確実にダメージを受けている。しかし無限婦人の底知れぬ能力を、知るものはいない。
     エリザベートの白い指先から生まれた霧が、死の毒となって辺りに撒き散らされる。
    「本人が霧になってくると思っていましたが、意外ですね」
     エリザベートの霧化を警戒していた静菜は、攻撃に耐えながらもそう呟く。特に霧化する必要がないということなのか。
    「不審な行動は見逃さない」
     それでも油断はならないと、ヴォルフはエリザベートの行動を見逃さず警戒し続けていた。
     灼滅者達はエリザベート狙いで休みなく攻撃を続け、一定のダメージを与え続けていたが、その分配下の淫魔たちの数も減ることなく、時間が経つほどにその衝撃が重くのしかかってゆく。蛇の毒牙や淫魔の惑乱が灼滅者の体力と心を削っていくのだった。

    ●無限の重圧
    「回復が追いつかない……!」
     夢羽が白き炎で仲間を癒すが、それだけでは仲間を癒しきれず、命や止水も攻撃の合間に回復に回る。
    「手強い……だけど負けられない!」
     回復の手を煩わせまいと、望は緋色のオーラを宿した攻撃で、敵の生命力を自分のものにする。けれど、それはエリザベートも同じ。生命力を奪う霧で、灼滅者の体力を吸い取っていく。
     決して爵位級を侮っていたわけではない。けれど自分たちも強くなった。そう自負があったため、今後の戦いのためにもエリザベートの灼滅を狙った。けれど、爵位級を相手にするには、いささか戦力が足りなかったのも事実だ。撤退を促すことに徹した作戦なら、また違っていたのかもしれない。
    「例え戦場に最後の一人となっても、戦い抜く」
     初めから覚悟は決めていた。朔耶は決して退かないと心に決め、強い気持ちで魔法弾を解き放つ。仲間をかばい続けたリキは既に力尽きている。他の包囲班の状況も、こちらと同じく防戦を強いられ、似たようなものだった。
     風の力を宿した日本刀・風来迅刃を抜き放ち、疾風のごとく振り抜く彗樹。ダメージを与え続けても、エリザベートの表情は変わらない。
     いつもクールで無表情な彗樹にも、焦りの感情が窺える。度重なる毒の霧を受け、体力を削られた彗樹はついに蛇の毒牙にかかって倒れる。
     体育館中には重い空気が広がっていた。「敗北」、そんな二文字が頭をよぎり始める……。
    『愚かね。引き際を心得ていないなんて』
     いっそエリザベートが弱った灼滅者を殺そうとすれば、絶体絶命の危機を脱するため闇堕ちという選択肢を選ぶ道もあっただろう。しかし、敵がそうはしなかったことが、さらに灼滅者たちを追い詰めることとなった。
    「現状を打破するためには……」
     仲間の分の毒の霧を受け、静菜もぼろぼろだった。けれど決意に満ちた藍色の瞳は諦めてなどいなかった。
     そのとき、包囲班の一人として戦っていたシャオ・フィルナートによる割り込みヴォイスでの伝達が体育館に響き渡る。
    「闇堕ち……した、灼滅者の……一人が、増援として……来るよ!」
     エリザベートは不思議そうに目を細めるが、その言葉の意味はすぐに明らかになる。
     体育館の入り口から、カミの力をまとった風を連れた羅刹が現れたのだ。 
    「雑魚には興味が無い」
     銀色の髪をなびかせ、悠然と歩きながら、そばにいた蛇執事の頭を渦巻く風の刃で刎ね飛ばしていく。
    「エリザベートとやら、貴様の首を斬り落としてやる」
     朱雀門に下ったはずの詩夜・沙月が、この絶体絶命の状況で、援軍として現れたのだった。

    ●神風
     沙月は無表情でエリザベートを見つめ、何事か考えていたようだが、すぐさま刀を携え向かっていく。
     沙月は確かに援軍なのだ。彼女がどういった心境でここにいるのかはわからない。けれど、エリザベートに立ち向かう姿勢は偽りではない。
    「この機を逃す手はないね」
    「一気にいくぞ」
     ヴォルフの言葉に、朔耶も頷く。全てを言わずともお互い考えていることはわかる。いつもぎりぎりの状況で戦ってきた相棒同士なのだから。
     包囲班の考えは同じだった。沙月を援護するため、彼女を狙う配下の動きを阻害し、この機にエリザベートを撤退に追い込むことだ。
     静菜と命の炎を纏った蹴りが、沙月に襲いかかろうとしていたシルキーを地面に叩きつける。望は妖の槍から鋭い冷気の塊を撃ち出し、エリザベートを回復しようとしていた蛇執事の動きを阻害する。止水の裁きの光は敵を討ち、またあるときは沙月を癒す。
    「貴様の霧ごと吹き飛ばしてくれる」
     四方からの援護を受け、沙月が殺意とともに刃を向ける。息を吹き返した灼滅者たちは最後の力を振り絞り、全力で立ち向かう。
     それでもエリザベートの霧は、容赦なく身体を蝕んでいく。
    「くっ、俺はここまでか……」
     悔しそうに、膝を折った命に、よく頑張ったわ、と夢羽が健闘を称えて頷く。
     戦闘不能者が多く出ているが、誰ひとり諦めていなかった。
     沙月は軽やかな動きでエリザベートに迫り、灼滅者の援護を力に変え、確実にエリザベートを追い詰めていく。
    『闇堕ちした灼滅者……一人とはいえ厄介ですわね』
     ようやくエリザベートの口から焦りともとれる言葉が漏れる。
    「私たちの学園を……大切な人たちを……失うわけにはいきませんから」
     決して退けない戦いなのだ。破邪の光を放つ斬撃を放ちながら、静菜は大切な人たちの顔を脳裏に思い浮かべる。
     四方からの攻撃が波のようにエリザベートに襲いかかる。
    『これ以上は無意味』
     呟き、エリザベートはあっさりと撤退を選ぶ。
     その様子を見た沙月が追おうとするが、これ以上の深追いは無謀だと灼滅者に止められる。あのぎりぎりの状況から、撤退に追い込めただけでも充分だろう。
     全てが作戦通りというわけではなかったが、皆の絶対に退かない気持ちとチームワークが生み出した勝利とも言えるだろう。
    「皆、無事かしら?」
     夢羽が一人一人の無事を確認し、必要なら治療を行っていく。
     戦闘不能になった者も、致命的な傷を受けてはいないようだ。
    「無限婦人エリザベート……」
     爵位級ヴァンパイアの力を見せつけられ、望は小さく嘆息する。
    「他の班も上手くいってるといいけど」
     傷を負った自分たちはすぐに動くことができないとヴォルフは祈るように呟いた。
     確かなことは、目的を果たし、無限婦人エリザベートの撃退に成功したということ。
     厳しい戦いの中、お互いの戦果を称えながら、灼滅者たちは束の間、休息を得るのだった。

    作者:湊ゆうき 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年1月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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