武蔵坂防衛戦～吸血鬼勢力の襲来

■リプレイ

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　――軍勢が、進む。
　先頭を進むのは殺竜卿ヴラド配下たる騎兵部隊。それに続く本陣には、殺竜卿ヴラド自身の姿もあった。
（「態々御招待したんだ、きっちり持て成してやるぜ。懇切丁寧に、な」）
　上からその光景を見下ろして、ダグラス・マクギャレイ（獣・d19431）は目を細める。その表情には、不快の色があった。作戦である以上仕方がないとはいえ、学内をダークネスが彷徨つく状況に苛立ちを覚えているからだ。
「行こう、明日を勝ち取るためにネ」
　狐雅原・あきら（アポリアの贖罪者・d00502）の言葉に、仲間たちもうなずく。彼らともう一チームの役目は、戦力の分断だ。いわば、あの竜騎兵のど真ん中へと飛び込む――いわば死地への特攻を行なうのだ。
　だからこそ、あきらの表情には笑みしか浮かばない。
「……覚悟は、既に背水だしネー」
「今回は敵の分断と攪乱が目的だから、しっかりお願いね」
「もちろん！　任せといてくれよ飛鳥姉ちゃん！」
「いつも言ってるけど、調子に乗り過ぎないでね」
「へいへい」
　辰峯・飛鳥（紅の剣士・d04715）と未崎・巧（緑の疾走者・d29742）は、同時にスレイヤーカードを掲げる――！
「「着装！」」
　光と共に赤と緑の強化装甲服をまとった二人が、地面を蹴る。
「よし、作戦開始！　ヴラドと前衛の間に割って入る！　たぁー！」
　飛鳥が、跳躍した。それに巧が続いた。
「――ッ！！」
　不意に跳び下りてくる灼滅者達の姿に、騎兵部隊の動きが乱れる。三点着地した巧は、思わず呟いた。
「あ！　オレ今すげぇヒーローっぽいかも！？」
「ここから先は通さないよ。学園にも、君らの主の下にもね」
　清浄・利恵（華開くブローディア・d23692）の言葉に、軍勢がざわめく。その中の一騎、ヴラド遊撃竜騎兵が前に出た。
「邪魔を――」
　するな、という言葉が、途中で止まる。それは、快音を立てて地面に頭から突き刺さったモノに邪魔されたからだ。
「とうっ！！」
　高速スピンの貫通力は、見事に上半身を地面に突き刺す――動きが止まった敵の目の前で悠然とやり遂げた男の顔をした可罰・恣欠（リシャッフル・d25421）が立ち上がった。
　呆気に取られた軍勢が、言葉を失う。
「あー……」
　だが、その空気はその一括で掻き消された。
「このような小勢、どうという事は無い。騎兵部隊、そのまま前進、サイキックアブソーバーを破壊せよ」
　そのヴラドの一言で、戻ろうとしていた騎兵隊が前進を再開する。
（「――乗ってくれたな」）
　日下部・優奈（フロストレヴェナント・d36320）は、表情に出さずにそう判断した。騎兵隊との分断、これがなされればこちらの目的の半分は達成したも同じだ。
「皆はよく知っているらしいが私は初めて見る。あれが、爵位級……緊張してはいるがなんてことはない、学園のひとつくらいは守ってみせるさ」
　ヴラドの姿に、優奈は吐き捨てる。その一言に、ヴラドが手を上げる――その指示を受けて動いたのは四騎の竜騎兵だ。その内、ヴラド剣竜騎兵とヴラド遊撃竜騎兵がこちらへと向かってくる。
「蚊トンボ風情がこの武蔵坂を落とせると思うなよ」
　フードを脱ぎ、空月・陽太（魔弾の悪魔の弟子・d25198）が言い放つ。それに対して竜騎兵達の返答は、ただ加速するのみ。
「どうしてこの手薄なときに～！」
　もうひとつのチームからも声が上がる――分断作戦が、始まった。

●
（「ヴラドの判断は、間違いじゃない」）
　ダグラスは、そう頭の片隅で思う。何故なら、目の前に迫る二騎でこちらの八人を打ち倒せる可能性が十分にあるからだ。
「伸るか反るか――いいぜ、嫌いじゃない」
　それは同時に、この分断に払った四騎はヴラドに刃を届かせうるか否かを左右するほどの戦力である事も意味している。この分断は、ヴラド攻略の分水嶺と言っても過言ではないのだ。
「殺竜卿の御前だ！　その首、差し出せ！！」
　まず突出したのは、剣竜騎兵だ。白馬を駆っての突撃――ドォッ！　と轟音が周囲に鳴り響いた。
「まだだ！」
　優奈の叫びに、仲間達が上を見上げる。そこには、高く跳躍した黒馬の姿があった。
「――蹂躙せよ！！」
　遊撃竜騎兵の黒蹄蹂躙撃、その巨大な蹄による踏み付けが続いて灼滅者達を襲った。
「この身に代えても、必ずここは死守する！」
　蹄を受け止めた利恵が、零距離でダイダロスベルトを射出する。利恵のレイザースラストが突き刺さった遊撃竜騎兵の黒馬が、不意に上を見上げた。
「こんな熱い展開……好きダネ。絶望的な崖っぷち……ゾクゾクする」
　空中で一回転、あきらの踵落としが放たれる。重圧を伴うあきらのスターゲイザーを、遊撃竜騎兵は両手の銃で受け止めた。
「――おのれ！！」
　遊撃竜騎兵の意志を悟った黒馬が、加速する。だが、その前にダグラスが回り込んでいた。
「おいおい、こっちは通行止めだ――！」
　野生の勘だ、黒馬の動きを見切ったダグラスの雷をまとった拳が黒馬の顎を強打！　黒馬は、ダグラスの抗雷撃に大きくのけぞった。
「させるか！！」
　そこへ剣竜騎兵が、駆けつける――はずだった。しかし、不意に剣竜騎兵は白馬の動きを止めた。ギギギギギギギギギン！　と咄嗟にかざした剣が、火花を散らす――恣欠の操るインビジブル・スレッドに絡め取られる寸前だったのだ。
「春先の蜘蛛の巣って、妙にからんできますよね？」
「知るか！」
　恣欠の軽口に、剣竜騎兵は剣を薙いでインビジブル・スレッド振り払う。そこへ、優奈が跳んでいた。空中で横の捻りを加えた右回し蹴りが、剣竜騎兵の側頭部を捉えた。
「連携など、させるものか」
　ドン！　と白馬の足元で、地面に亀裂が入る。優奈のスターゲイザーの重圧――だが、剣竜騎兵は猛るように吼えた。
「殺竜卿ヴラドが配下、竜騎兵を舐めるな！！」
「――舐めてなんていない」
　その声は静かに、死角から紡がれた。陽太の殺意の魔弾が、白馬の足を撃ち抜く。
「全力で、殺しに来ているとも」
「チイッ！！」
　剣竜騎兵が振るう剣、それを柄から発生させたPLBG-11 拾壱式光刃刀によって受け止め、飛鳥が言い放った。
「この試製壱式の性能、甘く見ないでよね！」
　剣を受け止めた勢いを利用しての斬撃で、飛鳥は剣竜騎兵の脇腹を切り裂く。すかさず切り返そうとした剣竜騎兵だが、白い炎に遮られる――巧の白炎蜃気楼だ。
「攪乱工作なら任されたぜ！」
「く――」
　剣竜騎兵が苦々しげに顔をしかめた瞬間だ、そこに遊撃竜騎兵の凛とした声が鳴り響いた。
「――落ち着け。どうやらこの連中は、雑魚ではないらしい」
「……の、ようだ」
　遊撃竜騎兵の言葉に、剣竜騎兵も白馬をなだめてうなずく。その様子に、陽太が鋭い視線で確認した。
（「……厄介だな」）
　強者という驕りがあれば良かった、激高するならなお良し――だったはずだった。だが、このやり取りだけで敵は認識を変えた。切り替えの早さは、さすがは精鋭と褒めるべきか。
「――厳しい戦いになる」
「で、しょうね」
　利恵の言葉に、恣欠は漂々と答える。茶々を入れる余地などない、それは予想と言うには生々しく感じられる『現実』だった。

●
　――剣竜騎兵が、白馬を走らせる。
「真正面から――いくヨ」
　剣竜騎兵が構えた剣、それにあきらが真っ向から応える。突進する騎馬に対して、あきらは自らも真っ直ぐに断罪ノ磔柱を構えて疾走した。
「――ッ！！」
　ジャラン！！　と長柄の捻りに合わせて鎖がなる。剣竜騎兵の紅蓮斬を、あきらは螺穿槍で受け止め――大きく、断罪ノ磔柱を弾かれた。
「……ああ、本当に――」
　あまりに鋭く重い斬撃が、自身の渾身さえ嘲笑うように体に滑り込む。その感覚に背筋を震わせながら、あきらは鎖をつかんで強引に断罪ノ磔柱を引き戻した。
「ぬう！？」
　確かな手応えがあったからこそ、剣竜騎兵の驚きは大きい。切り裂いた相手が、なおも放った氷柱の一閃――あきらの妖冷弾を受けて、剣竜騎兵の動きがわずかに鈍った。
「――鈍ったな？」
　ほんの一瞬、その間隙を野生の獣は見逃さない。ダグラスが放つ炎の軌跡を描いた高速の後ろ回し蹴り、グラインドファイアが剣竜騎兵の首元を捉えた。
「が、あ！？」
　剣竜騎兵がのけぞる、そこへ優奈が光の刃を放った。引き戻そうとした剣竜騎兵の剣は、間に合わない。肩口を穿たれ、剣竜騎兵の体が白馬からずり落ちそうになった。
「今だ！！」
　優奈の声に応えたのは、利恵だ。狙うのは騎兵ではない、その機動力の要である白馬だ。大きく跳躍、その落下を利用した跳び蹴り――利恵のスターゲイザーが白馬の頭頂部へと放たれる！
　バキバキバキバキ！　と地面を砕きながら、白馬が急停止。重圧に耐えた白馬の上で、剣竜騎兵が体勢を崩し――。
「――頼む」
　利恵の呟きと同時、陽太が駆けた。
「させ、るか――！！」
　剣竜騎兵は、それに反応する。緋色のオーラを帯びた剣、その薙ぎ払いを陽太は、紙一重で見切った。その手の中ではVerpflichtungen magic bulletに魔力を注ぎ込み、陽太は魔弾を生み出す――！
「わざわざ首を差し出しに来てくれて、手間が省けたよ」
　零距離で炸裂する魔弾、陽太の制約の弾丸が剣竜騎兵を白馬ごと撃ち抜いた。直後、ドン！　と破裂音をさせて剣竜騎兵が消滅した。
「――隙ありだ」
　その直後、遊撃竜騎兵の双銃が火を吹いた。降り注ぐ銃弾の雨、雨、雨――それと同時に巧が夜霧を展開する。
「体勢を立て直せ！」
「――させるとでも？」
　巧の声、その直後に再び遊撃竜騎兵が動く。黒馬の機動力、それで灼滅者達をかく乱しようというのだ。それに、恣欠は偽りの誓約環を手に叫んだ。
「あ、一口いかがです？　これ、絶対にお得です。お客様にのみ、特別に！　お話して――」
　詐欺そのものの勧誘の返礼は、銃弾だった。それに、恣欠も偽りの誓約環から放つ魔力弾で応戦する。
「焼き尽くせ！　レーヴァテイン！」
　拾壱式光刃刀の光刃に炎をまとい、飛鳥が切りかかる。袈裟懸けの斬撃を、遊撃竜騎兵は銃によって受け止めた。
（「ようやく、一体か……！」）
　深い息をこぼした巧が、呼吸を整える。それほどまでに、心身共に疲弊しているのだ。二騎の竜騎兵による猛攻、それを凌いで一騎を倒す事には成功した。
　だが、その折り返しに至るまでに払った代償はあまりに大きい。
（「ヴラドは油断なんてしていなかった――正確に戦力を見切っていた」）
　陽太は改めて、そう思う。あの時、分断の戦力へ放った四騎はどれもが実力者だったのだ。もしもヴラドの傍に控えていれば――あるいは、ヴラドに刃は届かなかったかもしれない。
　ここに至れば、余力を考える者はいなかった。ただ、全力で目の前の竜騎兵を倒す――倒さなければならない。もしもこの竜騎兵を合流させれば、ヴラドと戦う仲間達が危険にさらされる――！
　ならばこそ、死力を振り絞った。全ては勝つために、殺竜卿ヴラドを討つために！
「ちょこまかと――！！」
「それがお仕事ですので」
　遊撃竜騎兵へ、恣欠がそう薄い笑みで答えた。迫る黒馬、その蹄――恣欠が行なった事は、実に単純だ。
「失礼、後で掃除はいたしますので」
　恣欠が、右手を引いた。その指は、糸くずでも摘むような形で――実際には、鋼糸を摘んでいたのだが。
「――ッ！？」
　ズザン！　と周囲に切断音。絶妙のバランスで張り巡らされていたインビジブル・スレッドが、遊撃竜騎兵へと一気に収束したのだ。その見えざる鋼糸で遊撃竜騎兵の突進が相殺、動きが止められた。
「ここだ！」
　そこへ優奈が、一気に詰める。メスサイズになったサイキックソードによる、的確な急所への一撃――優奈の殲術執刀法に、遊撃竜騎兵が鮮血を吹き出した。
「ぐ、う……ッ！」
　それでもなお、遊撃竜騎兵は怯まない。見事に黒馬を操って体勢を立て直した瞬間、あきらが地を蹴った。
「そうは、させないデス！」
　あきらの跳び蹴り、スターゲイザーが遊撃竜騎兵の胸部を強打する。ミシミシミシ、と骨が軋む感触が足から伝わる――それを断つように、陽太の魔弾が射出された。
「ここで押し切れ」
　陽太の感覚が告げている、ここで押し切れなければ逆に押し切られるのはこちらだと。遊撃竜騎兵の瞳は、闘志を失っていない。ヴラドへの忠誠、吸血鬼たる誇り、そして強き敵への闘争心――それは燃え上がる事はあっても、決して消える事はないのだ。
「ならば、押し返すのみ！」
「いいや、駄目だね」
　黒馬の疾走、それを利恵がシールドの打撃と共に受け止める。ガリガリガリガリ！！　と利恵の靴底が二本の溝を地面に刻み――止まった。
「巧くん！」
「任せろ、飛鳥姉ちゃん！」
　それを見て飛鳥と巧が、同時に駆け出す。連携に目配せも声もいらない、互いに互いの動きを熟知しているからだ。
「文字通りの鋼の拳、受けてもらうよ！」
　加速を得た飛鳥の右拳が、黒馬を殴打する！　見事な巨体を誇る黒馬が、遊撃竜騎兵ごと宙へと浮かされた。
「装甲展開！　こいつでキめるぜ！」
　そこへ上から獣化した右腕に合わせるように装甲が拡張するクローアームを巧が振り下ろした。手応えがあった、会心の一撃が竜騎兵を捉えた――はずだった。
「――ハハッ」
　血を吐きながら、遊撃竜騎兵が壮絶な笑みを浮かべる。巧の胸元へ押し付ける銃口――主のために、一人でも戦力を削るために遊撃竜騎兵は引き金を引いた。
「……な！？」
　引いた、はずだった。しかし、銃弾は明後日の方向へ――Ruaidhriで銃を弾いたダグラスが、肉食獣のそれに似た笑みで言い捨てた。
「灰は灰に、塵は塵にってなあ、吸血鬼！　古い文言に従うのも、古臭え爵位なんぞを冠する輩にゃお似合いだろうぜ」
　放たれたのは、螺旋を描く刺突。ダグラスの螺穿槍に胸を刺し貫かれ、竜騎兵がついに消滅した……。

●
「……ヴラド、倒したみたいだね」
　周囲の歓声や無線に錯綜する声に、利恵が呟いた。それに答える声はない、全員が全力を尽くして疲労していたからだ。
　――ヴラド撃破。この影に分断を行なった彼等の活躍があった事は、言うまでもない。加えて、こちらの二騎と合わせて竜騎兵四騎の撃破は、価値のある勝利だ。
　死闘を終えた彼等が、武蔵坂防衛戦全体の結果を知るのはもう少し先の事――まずは、この戦いの勝利に安堵するのだった……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年1月20日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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