名に込められし意味を求めて

    作者:長野聖夜

    ●カナシミレンサ
     深き山奥にある村。
     来訪者等殆ど無い閉鎖的な『村』の黄昏時。
     カンテラを持った幼子が通りかかる。
     見知らぬ来訪者に胡乱げな目を向けつつ、声をかける者はいない。
    「どこ……どこ、なの……?」
     ――みんなは、どこなの?
     見ているこちらが泣きたくなる様な……悲哀を感じさせる表情を浮かべた幼子。
    「ダア、ダア」
    「稚子ちゃん、稚子ちゃん、良い子ね」
    「本当に稚子ちゃんは可愛いなあ、きっと将来良いお嫁さんになるで」
    「よしよし、良い子、良い子。これで私達の村も安泰かな」
     ――稚子ちゃん、稚子ちゃん。
     声に思わず振り返ったその向こうに母の胸に抱かれて甘える稚児の姿。
     そして、その周囲に集まり『愛』の言葉を贈る村人達。

     ――ダメ、ダメ、ダメ。
     
     それはうそのお祝いだから。

     紛いものの愛情だから。

     ややが、『嬰児』(ややこ)の意味で名付けられた時と同じ様に。
     あの子も、きっと怖い目に遭わされてしまうから。

     ――護らなきゃ。

     想いを胸に秘め、カンテラを持った幼子が村人達へと近づいていく。

     ……稚子を守る為にややに襲い来る人々を殺し、稚子のことを護る為に。

    ●すれ違う想いの先の悲劇
    「赤ちゃんと言う意味そのままから、弥々子ちゃん、か。……この名前、弥々子ちゃん自身はどう思っているんだろうな……?」
    「……ゆ~君?」
     机に置いた吊られた男の正位置のタロットを眺めながら溜息をつく北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)に、南条・愛華(お気楽ダンピール・dn0242)が首を傾げつつ問いかける。
     愛華の促しに優希斗が顔を上げ、何時の間にか集っていた灼滅者達に小さく首を縦に振った。
    「ガイオウガ決死戦の時に闇堕ちした弥々子ちゃんが見つかったよ」
     彼女は、山奥の小さな村に新しく生まれた赤ん坊への祝福を村人達がしている時に現れるらしい。
    「閉鎖的な村だから、住人の数は少ないがその分結びつきが強いから皆でお祝いしよう、と言うことらしい」
     生まれたばかりの赤ちゃんの名前は『稚子』という。
    「稚子ちゃんか。良い名前だね」
    「まあ、名前にはそれをつける人の想いが込められていることが多いからね。ただ、弥々子ちゃんは嬰児……つまり赤ん坊と言う意味でそのまま名付けられているらしい。その上で彼女は村人に愛されて育てられた……偽りの愛情だけどね」
     具体的な内容は不明ではあるが、彼女はかつて『生贄』として村人達に殺されそうになったことがあるらしい。
     その時に闇堕ちし、『やや』と言う名のダークネスと化した。
    「『稚子』ちゃんの名前の由来が『稚児』……つまり嬰児と同じであれば、自分と同じような目に『稚子』ちゃんが遭わされてしまうかも知れない。だからそれを護る為に村人達を惨殺する……ということらしい」
    「……悲しい話だね」
     愛華の呟きに、頷く優希斗。
    「村人にそんなつもりは無いんだけど。ただ、『やや』が突然姿を現した異邦人なので、『稚子』ちゃんの危険を感じて襲い掛かってしまう、ということらしいんだ。……皆にはこんな悲劇が起きるのを回避するために、弥々子ちゃんを救出……最悪、灼滅して欲しい。その時の罪は俺も一緒に背負うから」
     優希斗の呟きに、その場に集いし灼滅者達が其々の表情で返事を返した。

    ●やや
    「ややは、自分が護りたいと思った者、または自分自身が襲われた時にだけ戦う専守防衛型のダークネスだ。だから、もし皆が望むのならば最初の方で話をする時間位は作ることが出来るだろう」
     今回の介入出来るタイミングは村人たちが『稚子』を祝福している所にややが近づいてくる時となる。
     そのまま戦闘に入ってしまえば、村人達が巻き込まれる可能性は非常に高い。
    「まあ、村人から稚子ちゃんを護る為に戦うのだから当然かもね。彼らを逃がすための時間を稼ぐためにも、最初は話しかけるところから始めたほうがいいだろう」
     尚、弥々子が最初に『やや』へと堕ちたのは、自分自身を護る為。
     一方で、今回の闇堕ちは一緒に帰りたいと思っていた仲間達を護る為だ。
     どちらも『護る』という行為は同じであるが、動機が対照的なため、記憶の混乱が生じているらしい。
    「そこを上手くついて、その上で弥々子ちゃんが帰るべき場所を教えてあげれば、弥々子ちゃんは戻ってくる可能性が高いだろう」
     最も、その為にはややをKOする必要はあるが。
    「そのややなんだが、『護る』ことに拘っている。戦い方も『護り』に特化した戦い方みたいだ。持久戦は覚悟しておいたほうがいいだろう」
     尚、使用するのは神薙使い、バトルオーラのサイキックの他にその手に持つカンテラの光による攻撃の様だ。
    「カンテラからの光は強烈だ。そこは十分、注意した方がいい。愛華には、村人の避難と皆の声を届ける手伝いを頼む」
    「分かったよ、ゆ~君!」
     愛華に頷き返した後、優希斗がもう一度灼滅者達を見る。
    「皆……どうか気をつけて」
     その言葉に背を押され。
     灼滅者達はその場を後にした。


    参加者
    結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171)
    九条・茨(白銀の棘・d00435)
    媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)
    久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    森村・侑二郎(一人静・d08981)
    ブリジット・カンパネルラ(金の弾丸・d24187)

    ■リプレイ


     ――某山村の黄昏時。
     カンテラを持った幼子を、胡乱気に見ている村人達。
     その村人達の中央に赤子を抱いた母親が一人。
    (「護らなきゃっ……」)
     あの子がややの様な目に遭わないように。
     ――奇異の目を浴びせてくる村人達に近づいた、その時。
    「や、探したよ。久しぶり、若しくは初めまして。オレのこと覚えてる?」
     銀髪の青年が村人達と、ややの間に割って入る。
     それは、九条・茨(白銀の棘・d00435)。
     その表情に浮かぶは、探していたものをやっと見つけられたという安堵。
    「……だぁれ?」
    「ずっと君のことを探してやっと見つけて、ちょっと話がしたくて来たんだよ~」
     そう返す久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)の呟きに、ややが、ほんの少しだけ怪訝そうになる。
    「やっと会えたね。今宵の月は普段よりも美しく見えるようになる……そんな気はしないかい?」
    (「護りの鬼」)
     悲壮さを感じさせる表情の幼き鬼の姿に紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)はふと思う。
     ――この子が……。
     弥々子さんを守り、そしてボク達の事を守ってくれた。
     なれば次は、自分達の番だ。
     ――そして、願わくば……。
     その心に負った悲しみを少しでも払拭できれば、最上。
    「今晩は。貴女が今護りたいものを、私達も一緒に守りに来ました!」
     ブリジット・カンパネルラ(金の弾丸・d24187)の溌溂としたそれに、パチパチと目を瞬くやや。
    「本当に久しぶりだな! 何はともあれ見つかってよかったぜ!」
     アンゼリカ・アーベントロート(黄金少女・d28566)の挨拶に、ややが困惑した表情になる。
     ――だれっ、だれっ、だれっ?
     変な感じだった。
     ややは、この人たちとは初めて会うのに。
     この人達は、まるでややを知っているかのように話しかけてくる。
    「どいてっ、どいてなのっ。このままだと、あの子が危ないのっ」
    「あの子は無事です。ほかの皆様が救いに向かってくれました」
    「はい。あの子は貴女が護らなくとも私達の仲間がちゃんと守ってくれます」
     今にも泣きだしそうなややを落ち着かせるように。
     媛神・まほろ(夢見鳥の唄・d01074)が優しく諭し、ブリジットも同意する。
    「そんなの、うそなのっ。きっと、きっと、あの子も……」
     泣き叫ぶややは、本当に必死の形相で。
     ――護らなきゃっ。
     ……きっとうその愛情を受け、最後に殺されてしまうあの子を。
     ややはきっ、と目の前に立つアンゼリカ達を睨みつける。
     この人達をやっつけない限りあの子を護れそうになかったから。


    「闇に堕ちても、あの子は優しいのですね……」
     警戒の表情を浮かべ、稚子とその母を護る様に前に立つ村人達を見つめる森村・侑二郎(一人静・d08981)・
     此方に敵意が無いことを示しても、余所者に対して村人は頑なだ。
     ――そんな時。
    「熊が冬眠から目覚めたから避難しよう」
    「そうじゃ! 此処にいるのは危険なんじゃ!」
    「私達が対処に当たります。皆さんは避難してください。急いで」  
    「いいか? 俺達が良いと言うまで絶対に外に出て来ないように」
     結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171)が、桃山・華織、唯空・ミユと、木本・明莉の3人と共に威風堂々たる風を吹かせながら村人達を無力化させる。
    「こっち、こっちですよ~」
    「慌てず、騒がずここから離れてね」
     ミユ達の呼びかけに応じた人々を、なるだけ安心させ、自分達の行きたい所へと誘導するは、ノルディア・ヴィヨンと、喚島・銘子。
     ただ、中にはその気配に畏怖され、動けなくなってしまった者もいる。
     例えば、稚子を命に代えても守らんとする母親や老人たち。
     伊舟城・征士郎や、萩沢・和奏が村人達を怪力無双で抱え上げ、戦闘区域外へと避難させる。
    「ここは、もう大丈夫そうだね!」
     アンゼリカの指示により避難の手伝いに回っていた南条・愛華(お気楽ダンピール・dn0242)にミユが頷き返し、それまで避難について具体的な指示を出していた仁奈と侑二郎を見た。
    「後は任せて。栄さんをお願いします」
    「ありがとう、ミユちゃん」
    「皆のこと、お願いします」
     2人が礼を述べて走り出す。
    「……あの子は、私よりも小さい体なのに強くてしっかりと意見を持ってて。それは過去があったから、なのかな」
    「そうかも知れません」
     仲間達の待つ戦場へ走りながら呟く仁奈に答える侑二郎。
    「ですが……だからこそ、彼女にはっきりと伝えないとと思います」
    「そうだね。ありがとう、侑二郎君」
     仁奈の言葉に頷きを返す侑二郎。
     大切な何かを『護りたい』、その想いは決して間違っていないと彼は思う。
     そう。だからこそ、
    (「俺達が……」)
     君が護りたい者を守れると伝えたい。
     
     ――迷子の貴女を暗闇の中から引き上げるために。


     ――護らなきゃっ……!
     何時から、この想いは生まれたのだろう。
     分からない。覚えていない。
    「茨ん!」
     茨に向けて放たれた拳を、織兎が代わりに受け止めると、まーまれーどが首輪を光らせ、傷を塞ぐ。
    「君が本当に守りたいものってなんだったんだろう」
     傷を癒されながら流星の力を込めた足払いを掛ける織兎。
    「護りたいもの……?」
     瞬きをするややの身を茨がダイダロスベルトで締め上げた。
    「キミはどうして闇堕ちしたの?」
    「あの人たちが、虐めるから……」
     茨の問いに答えるやや。
    「そうだとしたら、オレは此処にいないよ」
    「ふぇっ……?」
    「ありがとう」
     首を傾げるややの懐に獣の如き速さで飛び込みその腕に影を纏って放つは謡。
    「貴女のお陰で守れた命が沢山あるんだ」
    「護れた、命……?」
    「そうだ! お前は、仲間と一緒に帰りたいから堕ちたんだろ!」
     謡の言葉に混乱するややへと、アンゼリカが鬼神変。
     ブリジットが髪を留めた赤いリボン状のダイダロスベルトを射出、ややの身を締め上げる。
    「あっ、あぅ……!」
    「少し手荒になりますが、そこはご容赦くださいね。ですが、必ず助けますから! ……皆を守ってくれた分、今度は私達が助ける番ですので!」
     ブリジットの言葉の真意が理解できず体を締め上げられながらも彼女を見つめるやや。
    「貴女がその様な姿になってまで救おうとした命……私達は、この通り無事です。もう貴女は、闇に身を委ねなくても良いのですよ」
     まほろが瑠璃色の刃へと変貌した殺気を叩きつけながら然と告げれば。
    「えっ……?」
     ――あれっ、あれっ、あれっ。
     どうしてなのだろう。
     とても、とても胸が痛い。
     あの子を……護らないと……?
    「大丈夫だよ。貴女が守ろうとした稚子ちゃんは無事だから」
    「もう一人の稚子さんは、俺達も一緒に守ります。だから、一人で戦わないでください」
     戦場に戻るや否や傷ついた織兎を帯を射出して癒しながら仁奈が告げ、侑二郎が影でややの身を締め上げる。
     わさびが援護の猫魔法。
    「あっ……うっ……!」
     ――やっぱりそうやって。
     あの人たちと同じように、ややを皆で虐めるんだ。
     そうやって、大丈夫、大丈夫とうそをついて。
     だが……。
    「攻撃して申し訳ない。でもこれはキミを虐めるんじゃなく連れて帰るのに必要なこと。……あの時、キミと一緒に出撃した、オレ達を護る為に堕ちてまでくれたのと、同じように」
     ――弥々子が堕ちていなければ。
     恐らく、今、茨達は此処にいない。
     生きて……この子を連れ戻そうと出来た筈もない。
     狼型の影を放ち、ややの肩を齧り取りながらの茨の呟き。
    「あの……時……?」
    「そうじゃ! あの時、私も弁慶も身を張ったそなたに助けられたのじゃ!」
     征士郎や銘子に村人達の守りを任せて、戦場へと戻って来た華織が必死で叫ぶ。
    「君が優しい子だって知っているよ~」
     放たれたカンテラの光に眩暈を覚えながら、織兎が囁きかける。
     そう、彼女は優しい。
     だからこそ、『護られる』象徴たる稚児を守ろうとしている。
     ……村人たちと、同じ様に。
    「やさ……しい……?」
    「うん。優しいよ~。じゃないと、稚子ちゃんのこと護りたいなんて思えないよ~」
     目を瞬くややに、頷く織兎。
     ――やさ……しい……?
     なんで、この人達にはそんなことが分かるの?
     ――みんな、みんなはどこなの……?
    「……あれっ……?」
     変だ、なんだか頭がいたい。
    「貴女のお陰で皆は護られました。もう、がんばる必要はないのです」
     諭すように、あやす様に。
     呟きながら、接近して炎を帯びた回し蹴りを放つブリジット。
    「ここに集まったのは、皆仲間です。貴女の仲間です。誰が稚子様を……幼子を生贄にさせるものですか」
     その腕を鬼へと変貌させながら、確固たる決意と共に告げるまほろ。
    「かの村人達は純粋に愛し子を祝福する一般人だ。あなたが心配する畏れは起こらない。大丈夫だよ」
     流れるように走りながら、紫苑の彩宿す禍々しくも美しい十字砲による戦闘術で仕掛ける謡。
    「今の貴女が守ろうとしたこの『稚子』ちゃんは祝福って意味でね。村の人が貴女に立ち上がったのは、この子が大事だから。誰かを力で守りたいっていう貴女の気持ちと同じだよ」
    「どうして……分かるのっ……?」
     ややの問いに微笑を零す仁奈。
    「私も一度闇堕ちしているから」
    「……えっ……?」
     ――ややと……同じ……?
     そんなこと、信じられない。
     ……信じられない、筈なのに。
    「仲間を護りたくて堕ちたんだろ。自分じゃなく、仲間をだ!」
     アンゼリカの必死の叫び。
    「あなたは皆を護りたくて、護りきって、代償として今ここで迷い込んだ。だから迎えにきたわ。一緒に帰りましょう」
    「ここで一人ぼっちで彷徨ってたら、皆であの子も、他の沢山の人達も護れないじゃないですか!」
     背後で村人を護る銘子の言葉と、ブリジットの切実な想い。
     ブリジットの叫びを背に受けながら、アンゼリカがスターゲイザー。
     ――必ず帰って来い!
     アンゼリカの想いの込められた一撃によろけるやや。
    「貴女は自分を守る強さから、他人を助けるために強くなったんだ。それって凄いと思う。それに、貴女が守りたかった人達は皆、ちゃんと帰ってきているよ」
     仁奈の言葉に目を見開くやや。
     ――ややが、守りたかった人……。
    「大丈夫、君のその想いは、その守りたいという真摯な想いは決して間違っていませんから」
     侑二郎が囁きながら、妖冷弾。
     放たれたその一撃に、肩が凍てつく。
     わさびがそれに連携して肉球パンチ。
     それを受けながら、ややは思う。

     ――ややが本当に探しているのは……。

     この人達、なの……?


     声と思いが届いたのだろうか。
     風の刃が空を切り、仁奈に向かうが、その前に獣の様な滑らかさで割って入り、攻撃を受け止める謡。
     戦い初めに比べ、明らかにややの勢いは減じられている。
     記憶が少しずつ整理されてきているのだろう。
    (「そろそろだね」)
    「ややさんは、名を嫌っているのだね」
    「違う、ややはややじゃない……! ややじゃないの……!」
     ――お前は嬰児(ややこ)だから、弥々子だ。
     かつての記憶がトラウマとなり、ややの怒りと痛みを思い起こさせる。
     分かっている。
     これを伝えることが、彼女のそれを刺激することも。
     最悪の一手になる可能性も。
     それでも、伝えねば……。
    「けれど、ボク達にとっては決して忌み名じゃない。親愛なる弥々子さんと共にある大事な名だ」
     彼女の痛みを、悲しみを払拭することなど、出来はしない。
    「ややは……ややは……?!」
     嫌々と首を横に振り、動揺を深めるやや。
    「少しだけ聞いて欲しいんだ、栄」
     あくまでも穏やかにそう切り口を作るは、かつて謡と共にとある羅刹を説得した明莉。
    「今ここに栄を連れ戻しに来てる、学園で知り合った人達は君の名を生贄という「呪い」でなく親愛という「祝う」想いで呼んでくれたんじゃないのか?」
    「ややを……祝う……?」
     ややの動きがピタリと止まる。
    「そうですね。あなたの名前、俺は、その言葉そのものに沢山の人の祝福、愛情が込められていると思っています」
     明莉の言葉を引き取り、小さく頷くは若宮・想希。
    「『嬰児』……その言葉は、今まで沢山の人の祝福、愛情が込められて呼ばれてきたものだから」
     それと……と、少しだけ照れくさそうに微笑する想希。
    「以前、誕生日の話をした時、あなたは俺と近い事を喜んでくれた」
     ――それは、些細なことだけど。
     それでも。
    「そんな繋がりが俺は嬉しかった。名を付けて呼ぶことで、そこには確かに愛が篭ると俺は思います。少なくとも、俺は……俺たちは……あなたが護りたいと思った仲間はあなたがそうしてくれたように、あなたを護りたくて、慈しみをこめて呼んでいる」
    「あたし、弥々子ちゃんの事、大好きだよ」
     花の咲く様な笑顔で。
     想希の言葉を引き取る和奏。
    「だい……すき……?」
     キョトン、とした表情のややに和奏が頷く。
    「帰ってきてくれるの、ずーっと待ってるんだから。ここにいるみんなも同じ思いだから、お迎えにきたんだよ。弥々子ちゃんは、みんなに本気で愛されてるんだから!」
     あたしが証拠! と自らの胸を叩いて。
    「クリスマスやお正月、終わっちゃったよ? お誕生日にも帰ってこないとか言わないよね? 弥々子ちゃんの分のケーキ、食べちゃうからねーっ?」
    「私……あなたの過去……知りませんでした…」
     笑顔で舌を出す和奏に続けて小さく息をつくのは、北沢・梨鈴。
    「でも、今、貴女を……ううん、弥々子ちゃんを傷つけたいなんて思っている人はいません。貴女は本当に皆さんから好かれています」
     銀庭で、楽しそうに過ごす弥々子のことを沢山見かけているから。
     それを幸せそうに楽しんでいる彼女の姿に、嘘や偽りは感じられなかったから。
    「正直に言えば……私は、貴女が必ず銀庭の皆さんと戻ってくると信じていたので闇堕ちしたと聞いた時驚いたんです。でも……貴女が必ず私達の所に戻ってきてくれる。それだけは……信じています」
     ――だからこそ。
    「貴女に戻って来て欲しい。貴女がいないのは……嫌です」
    「栄さん。貴方と過ごしたいんです。学園で……皆と一緒に、嬉しそうに笑う貴方にまた会いたいだけなんです」
     梨鈴とミユの言葉に頷きながら、鬼神変を放つ茨。
    「キミが闇堕ちした理由、今のキミにはもう分かるだろ。オレも皆もキミに護られ学園に戻れた。キミは務めを十分果たした。そろそろ、キミが学園に戻る番」
     このままだと、イケメン部長の名折れだからね? と冗談めかしておどけながら。
    「でも、ややは……弥々子は……」
     返す言葉はあまりにも弱弱しい。
     ――だって……。
     あんなに嫌っていたはずの自分の名前を。
     こんなにも好きだと言ってくれる人がいるなんて……。
    「私は……媛神まほろであるが故に、掟としきたりに縛られて生きてきました」
     故にまほろの心は、自由を望んでやまない。
     そして、だからこそ理解できる。
    『名前』は贈り物であると同時に呪いでもあると。
     でも……。
    「名に縛られるなら呪ではなく祝を信じなよ。栄を呼ぶ仲間は、必ずその気持ちに応えてくれるよ」
     まほろの真意を読み取り補足する明莉。
    「貴女が僅かでも名を好きになれる日が来るよう、ボクも貴女を……彼女の守り手としての名を心に刻もう。それが、新たな価値になるならば」
     謡が静かにそう告げる。
    「新しい……価値……」
    「はい。貴女はもう、名に縛られずに生きて良いのです」
     まほろが優しく微笑み頷いた。
    「弥々子の名前。忌まわしくなんてないから。その名前、オレ達にまた呼ばせてくれ」
     茨の影喰らい。
    「……帰りましょう。……私、まだ貴女に恩返しをしておりませんもの……!」
     呟きながらの、まほろの神薙刃。
    「帰る場所あるんだぞ~? 皆、待ってる!」
     織兎のスターゲイザーに合わせてまーまれーどが猫パンチ。
    「お前がいないと“一緒”にはならないよ。皆の心から護られない! 私もまた一緒にチームを組みたいよ」
     初めてライブハウスで優勝できた時の思い出を振り返りながら。
     アンゼリカのグラインドファイア。
    「さあ、帰りましょう」
     呟きと共に放たれた、侑二郎のレーヴァテイン。
     わさびが炎で焼かれるややに猫パンチ。
    「貴女はもう一人じゃないから」
     同時に仁奈が神薙刃。
    「一緒に帰る為に、どうかこの手を取ってください!」
     刃に斬り裂かれ、動きを止めたややに、ブリジットが零距離格闘。
     その一撃にぐらりとよろけたややの懐に飛び込み、謡が黙示録砲を撃ちだした。
    「ねぇ……ややの中の弥々子は……この名前……好きなのかな……?」
     撃ち抜かれ、仰け反りながらのややの問い。
     謡はそれに優しく微笑む。
    「きっと、ね。だから……どうか、今は安らかな眠りを」
     その言葉に見送られるように。
     ややはゆっくりと瞼を閉じた。


    「うっ……うう……」
     そっと瞼を開いてみれば。
     彼女を心配そうに見つめる、自分が……『弥々子』が護りたいと思った人たち。
    「お帰り……弥々子」
     茨がぽむ、と優しく頭を撫でると、弥々子は嬉しそうに恥ずかしそうにはにかんだ。
    「ばかばか! 心配したぞ!!!」
     アンゼリカが涙目になりながら弥々子を放り投げ。
    「お帰り」
     織兎が。
    「お帰りなさい!」
     ブリジットが。
    「お帰りなさい、弥々子さん」
     侑二郎が出迎えの言葉と共に空中の弥々子を受け止めた。

     弥々子が、嬉しそうに微笑み、口を動かす。

     ――ただいま。

     と。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年1月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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