これが、友情ッ!

    作者:聖山葵

    「え゛っ」
     おはよーと挨拶しつつ教室の扉を開けた一人の少女は、目の前の光景に硬直した。
    「ふはははははっ」
    「「友情、友情、友情ッ!」」
     哄笑する一人の少女を学友達が取り囲み、シュプレヒコールっぽいものをあげていたのだから。
    「そうか、美智恵は先日から風邪で休んでいたのであったな」
     固まったままの少女こと美智恵を現実に引き戻したのは、学友に囲まれて胸を反らす少女で。
    「えーと、あんたそんなキャラだっけ? って言うかこれは何事?!」
     美智恵からすればこの光景自体理解不能であってもっともな問いだったことだろう。
    「お友達作りだ」
    「はぁ?」
     少女は単刀直入に真実を語ったつもりだったのかもしれない。だが、美智恵には――というか一般常識の観点から見てこんなお友達作りがあって良い訳がなく。
    「選ぶが良い。お友達になるか、お友達にされるか」
     能動的と受動的の差、だが提示された選択肢にはお友達にならないというものがなく。
    「時間切れだ、ならばお前もお友達にしてやろう」
    「へ、あ、ちょ……なにをするきさまらー」
     学友達に取り押さえられ、意識が遠のきつつある美智恵が最後に聞いたのは、少女のあげた満足そうな高笑いだった。
     


    「んな友達作りがあってたまるかよっ! ……あ」
     誰も居ない方向に向かって吼えたエクスブレインの少女は灼滅者が来ていたことに気づくと顔を引きつらせて固まった。ひょっとしたら痛い娘認定されたと思ったのかもしれない。
    「あー、一般人が闇堕ちしてダークネスになろうとする事件が発生しようとしている」
     場所はとある中学校、そこに通う女子生徒の一人が闇堕ちしかけているぽいのだが、まだ人間の意識を残しているらしい。
    「闇堕ちすれば、本来なら人間の意識は消えてしまうモンなんだけどな」
     つまり彼女は、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状況にある。
    「もし、こいつが灼滅者の素質を持つっていうんなら何とかして闇堕ちから救い出してくれ」
     そうでないなら、完全なダークネスになってしまう前に灼滅を。
    「放っておいたら遠からず完全なダークネスになっちまうからな」
     避けなければいけないのだ、新たなダークネスが野に放たれるなどと言うことは。
    「それで、闇堕ちしかけてる奴の名前は鴨宮・寛和。本来は引っ込み思案で友達も居なかったっぽいな」
     スタイルが良かった為、隠れファンはクラスにいたようだが当人は知らず。
    「で、友達が欲しくてソウルアクセスを使いまくり『級友全員友達化』を目論んでるみたいなんだが」
     人間の意識の抵抗とたまたま風邪で休んでいた学友が居たことで『友達化』はまだ完遂されずにいる。
    「おそらくこの『級友全員友達化』が分岐点だ」
     目的を達成を防ぎ、人間の心に呼びかけること、それが勝利の鍵になるだろうとエクスブレインは語る。
    「闇堕ち一般人と接触し人間の心に呼びかけることで戦闘力を下げることが出来る」
     寛和が堕ちかけているのはシャドウ。現実世界では高い戦闘力を持つダークネスだ。KOする為には、説得はひっすになることだろう。
    「知っているとは思うが、闇堕ちしつつある一般人を闇落ちから救うには戦ってKOする必要がある」
     灼滅にしてもどのみち戦闘は避けられない訳だが、それはそれ。
    「次に接触だが、美智恵も学校も無視して学校へ向かう寛和を通学路で待ち伏せることを推奨する」
     戦場を学校にしては他の学生を巻き込みかねないこともあるが、どうやって校内へ侵入するか等の問題も持ち上がってくることだろう。
    「こっちに都合が良すぎるからこそ盲点になって出し抜けるのかはしらんが、とにかくそう言うことだ」
     待ち伏せるポイントとしてエクスブレインが勧めるのは、膝より高い丈の草が茂った空き地。
    「しゃがんでいれば姿が隠せる上、ある程度の広さがあるんでな。う戦場にもってつけだろう」
     ちなみに、寛和は戦いになればシャドウハンターのサイキックとほぼ同じものを使って攻撃してくるとか。
    「説得に関しては友達をほしがっていたようだからな、寛和の気持ちを応援しつつダークネスの力に頼るのは良くないといった路線が無難じゃないか?」 
     ソウルアクセスも友達を得る為に乱用しているのだ、鍵は友情とか友達か。
    「私から言えるのはこれぐらいだ」
     じゃあよろしく頼んだぜと少女は続けると、教室を後にする灼滅者達の背を見送って。
    「友達、か」
     ほぅ、とため息をついた。彼女もまた友達が少ないのかもしれない。
     


    参加者
    琴月・立花(高校生シャドウハンター・d00205)
    安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)
    リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)
    黒崎・美言(全ての悪を呑み込むモノ・d03992)
    東雲・朔(月なき美空・d05087)
    弓筈・薊(小学生シャドウハンター・d05444)
    皇・もこ(アホ毛の王子様・d06015)
    十津金・旭(桜火転身トツカナー零五・d06921)

    ■リプレイ

    ●出会い
    「友達の形は多様性も楽しさの一つです。ですが、お互いを認識し合う事は最低限の要素です」
     本に書いてありました、と弓筈・薊(小学生シャドウハンター・d05444)は言う。
    「む?」
     闇堕ちしかけた一人の少女と。
    「初めましてである。我輩は皇もこである」
    「初めまして、寛和。俺は東雲朔と言う」
     東雲・朔(月なき美空・d05087)や皇・もこ(アホ毛の王子様・d06015)達との出会いは、少女こと鴨宮・寛和にとっては唐突で――。
    「こんにちわ、お嬢さん。……お友達、沢山『作れました』か?」
     灼滅者の面々はこうなることを予期していたからこそ、動じることなく切り出した。
    「とも……だち?」
     いかにも知っていますといった風に話しかけた黒崎・美言(全ての悪を呑み込むモノ・d03992)の表情ではなく、口にした単語の一つに少女は反応を示し。
    「力づくで友達を沢山作って……今、幸せであるか?」
    「今の友達の形が本当に正しいと思っているの?」
     琴月・立花(高校生シャドウハンター・d00205)は問う、もこに続く形で。
    「友達、ていいよな。一緒にご飯食べたり、馬鹿な話でもりあがったり、勉強を教えあったり」
     でも、と前置きし、朔は言葉を続けた。
    「ダークネスの力に頼って操ったのなら、それは友達じゃない。人形だよ?」
     と。
    「我輩は……昔、力を使って沢山仲間を作っても……寂しかったのである」
    「貴女がが欲しかった友達は、こういう形じゃないと思う」
     灼滅者達の言葉が届いているのか、寛和は黙ったまま説得の言葉に時折ピクリと震え。
    「心を操って得たものは友達とは呼ばんよ。必要なのは『友達になってください』と勇気を出して言うことさ」
    「寛和さん、キミのやっていることは間違ってる!」
     口を開いた安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)に続き、十津金・旭(桜火転身トツカナー零五・d06921)は指摘した。
    (「一緒に泣て笑って、時々ケンカもしちゃったり、そうやって絆を深めるのが友達、だよね」)
     ただ友情って叫ぶのは違うと思うから、旭は言葉を続ける。
    「そんなことをしても、本当の友達は出来ないよ!」
     そんな中、美言が口にしたのは。
    「ああ、勘違いしないで欲しいのですけれど。私は別に、何も咎めては居ませんの。貴女がそれで良いなら、クラス全員でも全校生徒でも好きなだけお友達にすると良いと思いますの」
     仲間達とは違う、肯定の言葉。
    「貴女が、本当にそれで満足なら、ね」
     但し書きのようなものを付け加えた。
    「意識を無理やりだなんて、ひとりぼっちと変わらない辛い思いをするだけだと思います……」
    (「本当、おばかさんだこと。そんなもの、結局は虚しくなるだけなのに」)
     どこか冷めた目で美言に見つめられた少女は、尚も続く真摯な言葉へ。
    「くくく、ふははははは。何を言うかと思えば我に対する意見であったか」
     高笑いをしながら胸を反らした。
    「だから、いいのですよ。好きにしても。私はどちらでも構わない」
     向けた言葉が届かなかったかのような態度。それに対して覚える感情は何なのか。
    (「私は唯、自分と似たような後悔を抱えた存在なんてものが許せないだけ」)
    「ううん、届いてないこと何てないよ」
    「ぬうぅ」
     苛立ちを否定するように旭が見返せば少女は僅かにたじろいで。
    「力に頼らずとも、寛和が望んでくれるなら我輩は寛和の友達である!」
    「うぐっ」
     求めていたはずの友情を逆に差し出された少女は何故か呻いて後退した。届いていたのだ、灼滅者達の言葉は。ただ、表層に出づらいだけで。

    ●ぶつけあうもの
    「ええぇい、ならば我が力で一人残らずお友達にしてやろう」
     ただ、話し合いだけで少女を闇堕ちから救えないのも最初から分かり切っていたこと。
    「転身!」
     予期されていた戦闘に備えて、旭はカードから力を解放し、ポーズを決める。
    「太陽てらす草原を、駆け抜ける蒼い風の如くッ。トツカナー、ユニィスタイル!」
    「ふふっ」
     ここまで来れば、リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)も隠れて成り行きを見守る必要はない。
    (「自分のいう事を聞く傀儡を増やしたがるなんて──素晴らしいわね」)
    「ぬっ」
     ただ、とだけ短く漏らしたリリシスは、瞳にバベルの鎖を集めつつ、丸腰で説得に望んだ仲間達から興味が逸れるよう草を鳴らして少女の前に身を晒す。
    (「どちらかというと私達向きの嗜好じゃないかしら。ふふ、シャドウごときにしておくなんて勿体無いわね」)
    「ほぅ、もう一人隠れていたか」
     驚きから魔王めいた笑みを作った少女の視線を受け止めたままリリシスは、微笑み。
    「俺は今から君を攻撃するよ。痛いだろうけど……ごめんね、俺にはこのやり方しかわからないから」
     恨んでくれていいと続けながら、朔は視線を逸らさず。
    「でも、俺は君を救いたい。これは、俺のわがままだ」
     己が跨ったライドキャリバーへ呼びかけた。
    「……いこう、ボストーク」
     戦いが、始まる。
    「さて」
     姿を現したリリシスの登場に引っ張られる形で乃亜は地面を蹴っていて。
    「何時の間に」
     封印が解かれたことによって出現した咎人の大鎌は、少女が気づいた時には振りかぶった状態で乃亜の頭上にあった。
    「お仕置きタイムだ。手加減は出来そうにない、許せ」
     死の力を宿した刃は寛和へと振り下ろされ。
    「ぐああっ」
    「……っ」
    「薊君、、今だ!」
    「は、はい」
     上がる悲鳴を前にして、緊張から固まっていた薊が乃亜の声で我に返る。鋭い眼光のせいで、乃亜は攻撃のタイミングを見計らっていると誤解していたのかもしれないが、どちらにとってももたらされた結果は良いものになった。
    「うぐあっ」
     放たれた裁きの光条は、斬撃に怯んでいた寛和の腕に突き刺さる。
    「ねえ、その力で出来た『友達』と、友達らしいことした?」
     肩を押さえる少女に語りかけながら、旭は己の背中を切り開いた。
    「その力で『友達』を作っても、結局はずっと独りぼっちのままだよ」
    「ふはははは、何を言う。後一人でクラスの全員がお友達になるのだ。独りぼっちな筈が……」
     顕現した炎の翼を背負い、真っ直ぐ見つめてくる瞳に、寛和は向けられた言葉を笑い飛ばそうとして失敗し。
    「その力に頼らずとも、君は友達を作ることができるよ」
     突撃するボストークへ跨ったまま、朔は事実を口にして無敵斬艦刀を上段に構える。人馬ならぬ人機一体となった突撃に。
    「そんな、ことは。そんなこ……ぬっ」
     動揺した少女は、反応が遅れた。
    「貴女にとって友達とは、そうやって作られたものであるなら、私は止めませんの。そうでないのなら……今のうちに止めておきなさい」
     忠告と共に美言が撃ち出した光の条は、薊の放ったものと同じもの。
    (「友達が欲しい気持ちはわかるもの」)
     救う為、友達になるために、立花は中段の構えから真っ直ぐ日本刀を振り下ろす。
    「この斬撃、簡単には止められないわ……!」
    「ふはは、させ」
     実際、斬撃は寛和の反応より僅かに早く。
    「っ、がぁ」
     拳に纏う影の様なものごと少女の身体を斬り裂いた。
    「勝たないと全て水の泡であるな。みこと」
    「ナノナノ~」
     もこは仲間達が果敢に攻める姿を眺めつつ、空き地に隠れていたナノナノの名を呼ぶと、指輪から魔法弾を放つ。
    「これで終わるとは思えぬのである」
     おそらく反撃が来る。その回復をみことに命じて魔法弾の軌跡を追い。
    「うっ、ふはははは、当然だ」
     魔法弾の直撃に一瞬顔をしかめつつも、拳に影を宿した寛和はアスファルトを蹴る。
    「一人ずつ礼をしてやろう。まずはお前からだ」
    「うあっ」
     撃ち込まれたのは、立花にも馴染みのある……いや、これから放とうとしていたものと似て異なる殴打の一撃。
    「まだまだ、これくらいじゃ私は足を止めないわ……」
     口から悲鳴を漏らし、重い一撃に身体が揺れたが、それでも立花は止まらない。
    「はぁぁぁっ、せいっ!」
    「ごふおっ?!」
     身体に少女の拳をめり込ませたままの姿で、影を宿した日本刀の刀身を叩き付ける、鬼神の如く。
    「ナノナノ~」
     割り込むタイミングを見計らっていたかのようにみことが立花へハートを飛ばし。
    「みこと、よくやったのである」
     もこも裁きの光条を癒しの力をもつものへと変換して撃ち出した。

    ●言葉の力
    「なかなかやる。喧嘩から始まる友情、も悪くないか」
    「ふはははははっ、理解したか」
     胸にトランプのマークを浮かべて口の端をつり上げた乃亜を見て、胸元をハートマークで隠した少女は笑う。
    「あのマーク、みこととお揃いであるな」
     そう言う問題ではない。流石に現実世界での戦いだけあって、寛和は強かった。いや、強い。
    「できるだけ、傷は付けたくないけれど……」
    「ならば、なにもしなければいいではないか。当たらぬぞ?」
     説得や揺さぶりをかけないタイミングでしかけた立花の攻撃を余裕で回避するほどに。
    「ところで貴方の言うお友達、というのはどういうものなのかしら」
    「っ」
     逆を言えば、揺さぶりをかけた時の攻撃は、高い確率で少女を捉える訳で。
    「まさか、自分の言う事を忠実に聞いてくれる人、だなんて言わないわよね?」
    「うぐっ」
    「今よ」
     呪いにより髪の一部が石となり始めた寛和から視線を逸らさぬままにリリシスは仲間へ声をかけ。
    「だが、生憎何時までも殴り合いという訳にもいかなくてな」
     己の傷を癒していた乃亜が真っ先に応じ、漆黒の弾丸を形成し始める。
    「酷いことをしたらダメです」
    「酷いこと……だと? 我は」
     友達だとしたら尚更ですと続ける薊へ動揺した、少女は撃ち出された弾丸に対応出来ず。
    「いきます」
     薊が撃ち出した光条にも狙われる寛和へ向けて。
    「キミに足りなかったのは、力なんかじゃない」
     語りかけた旭は、全力で走り出す。
    「ほんのちょっとの、勇気だよ!」
    「ゆう……き」
     少女に突きつけた言葉の余韻をかき消してしまわないように囁くように小さく。
    「豊田立体交差殺法!」
     呟いた旭の手が、いつの間にか寛和の身体をがっちりホールドして持ち上げる。
    「いっけぇぇぇぇ!」
     掲げるように高く上がった少女の身体は、次の瞬間アスファルトの上に叩き付けられ。
    「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
     悲鳴と共に生じた爆発の中から残像でも出来そうな早さで抜け出した旭は。
    「言って解らないのならば、力ずくで解らせてあげますの」
    「ぐあぁぁっ」
     背後から聞こえてきた美言の声に続き、魔術によって引き起こされた雷が身を起こそうとした寛和を打ち据える姿を見た。
    「ぬぅぅぅ、まだまだぁっ!」
    「友達か。難しいよな、確かに」
     結局の所、そうやって少女が闇に堕ちかけ、傷だらけになりながら戦っているのも全ては友達が欲しいという気持ちが故。
    (「俺も作るのあまりうまくない性質だし、ね」)
     続く、激しい戦いに身を置きつつ、朔は苦笑する。
    「ん、それでも、寛和は間違っている」
     緋色のオーラを宿した無敵斬艦刀が陽光に一瞬光って。
    「相手の意思を自分の意のままに操るなんて……それは人形だよ」
     前傾姿勢を作るのに武器を横に払った姿勢で、朔はボストークへ突撃を促した。
    「我はお友達を集、がぁぁぁぁ」
     残った闘志を絞り出すように吼える少女の身体が言葉の途中で影に飲まれて。
    「行こう、みんな」
    「「おおっ」」
     呼びかけに呼応した声が。
    「うおおおおっ、我は、我はぁっ」
    「いくよ、豊田立体交差殺法……」
     影を突き破り出てきた寛和へ向けて最後の一撃を繰り出す。
    「これで、終わり……!」
    「って、手加減攻撃じゃKOできないわよ?」
    「む、うっかりしていたのである」
     何だかちょっとだけまごついた気もするが、それは許容範囲だろう。
    「とも、だ……ち」
     いい感じにボコボコにされた少女はポテッと倒れ。戦いは終わりを迎えたのだった。

    ●はじめての
    「……んっ」
    「おつかれさま、怪我はないか?」
    「傷は痛まないであるか?」
     寛和が意識を取り戻した時、最初に目へ映ったのは、手を差し伸べてくる乃亜ともこ、そして朔だった。
    「あ……わたし、確か……ひうっ?!」
     どこかぼぅっとしたままその光景を眺めていた少女は、自分が何をしていたか思い出したのだろう。悲鳴を上げたのは、人と接し慣れていなかったせいかもしれないけれど。
    「ごっ、ごめんなさい。その……わたし……」
     我に返った少女は、スカートが擦れるのにも構わず後退り、プルプル震えながら膝に顔が付きそうになるぐらい頭を下げた。上半身だけ身を起こした体勢でなかったら土下座していたかもしれない。
    「ごめんなさい。わたし、わたし……」
     何というか、闇堕ちしかけていた時との落差がハンパではないが、おそらくこれが少女の素の姿であって。
    (「今のは拒絶ではないのである。べ、別に気にして何て」)
     テンパっている少女は、密かにもこが凹んでいることにも気づかない。
    「その……はじ、は、初めまして」
    「朔君、おちついて……」
     一方、目を覚ました少女との初対面に緊張し、頭の中が真っ白になってパニックになっている灼滅者も居て、収拾が困難にも見えた光景だったが。
    「ナノナノ~♪」
    「ごめんなさ……あ」
     流れを変えたのは、ふわふわと怯える少女へ近寄っていったナノナノのみことだった。人懐っこく寛和の懐までやって来たみことを押しつぶしてしまう訳にはいかず、結果的に少女の謝罪が止まって。
    「良い戦いだった、これからもお互い切磋琢磨して行こう。よければ友達になってくれるかね?」
     テイク2、切り出したのは乃亜。
    「あ、あの……」
    「必要なら勇気を分けてあげる! だから、ファイトだよ!」
     申し出にまごつく寛和の手をとって、旭が微笑みかければ、はじめての『ほんとうのともだち』が出来るまではあと僅か。
    「……っ」
     少女が灼滅者達に背を押され、顔を赤くしながら頷けば。
    「これで我らはお友達である」
    「そうね。目も覚めたようだし、お友達くらいにはなってあげますの」
     美言ももこの言葉に首を縦に振って――この日は、一人の少女にとって記念すべき日となった。
     はじめての、お友達が出来た日に。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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