井の中の鏡餅? 紅白鏡モッチア現る

    作者:聖山葵

    「ふーむ、鏡餅と言えば当然紅白もちぃのに、時々白一色を見かけるもちぃな。あれは何処のご当地鏡餅もちぃ?」
     ブツブツ呟きつつ首をかしげる手足の生えた巨大紅白鏡餅を見つけ、雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)はそれが何であるのかをすぐに理解した。
    「おそらくご当地怪人ですね~」
     しかも紅白の鏡餅が特定地域のモノであると知らず、全国区で逆に白い鏡餅こそ一地方のマイナーなモノだと思っている様子であり。
    「真実に気づいて暴れ出したりしても問題ですね~。ここは応援を募りましょう」
     まだご当地怪人が気づいていないのをこれ幸いと菖蒲は来た道を引き返し始めたのだった。

    「成る程、確かにそれは真実を知って激昂して暴れ出すことも充分に考えられますね」
     話を聞いて、倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)は菖蒲の危惧に同意すると、ところでと言葉を続けた。
    「いつもの流れですと、まず説得でしょうか? 堕ちかけかごく普通のダークネスかを見極める術はありませんし」
    「あぁ、そうですね……エクスブレインさんが居ないとその辺りわかりませんものね」
     緋那の言葉に菖蒲は納得した様子で頷くと、ご当地怪人を目撃した場所について説明し始める。
    「目撃したのは街外れでしたが、雪の積もった農地の方へ向かっているようでしたので今すぐ追いかければ、そちらで接触出来ると思います」
     日が沈むにはまだ早いが、雪が積もっているからか、引き返してきた菖蒲がご当地怪人以外の何者にも出会わなかった程度に人気もない。おそらく明かりも人避けも不要だろう。
    「問題は、接触後に真実を話すかどうかですね」
     知ってしまえばショックを受けるのは間違いない。だが、ここで誤魔化したところで近い将来真実を知ってしまうことになるのは間違いなく。
    「知れば最悪、怒って暴れますよね?」
    「おそらくは――」
     想像には難くない。
    「そして……戦いになれば、ご当地怪人ですから、ご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃で応戦してくると思います」
     闇もちぃもとい闇堕ちした一般人だったとしても救出には戦ってKOする必要があり、戦闘は避けられない。
    「やはり、鍵は出来るだけショックを受けないようにして紅白鏡餅が地元ルールであることを知らせるか、ですね」
     ショックを受けたご当地怪人をフォローするという手もあるが、真実を知った反応が未知であることを考えるなら、まずは前者に全力を傾けるべきであろう。件のご当地怪人がただのダークネスならアフターケアなど必要ない訳でもあるし。
    「ここに紅白の鏡餅があります。これを渡せば話のとっかかりぐらいにはなるでしょう」
     何でもそれは件のご当地怪人が歩いている最中に落とした物なのだとか。
    「では、みなさんよろしくお願いします」
     餅をしまいぺこりと頭を下げると菖蒲は君達を扇動する形で歩き出した。
     


    参加者
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・d21014)
    新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218)
    四軒家・綴(二十四時間ヘルメット着用・d37571)
    如月・オウカ(形無き白刃・d37576)

    ■リプレイ

    ●俺達の戦いは
    「鼻炎薬がなくなる気がしてましたから、買い置きしておきました」
     薬局のポイントカードを中指と人差し指の間に挟んだまま、雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)は仲間達の方を振り返る。
    「さぁ、皆さん行きましょう~……花粉はもう飛んでますから、油断したらいけませんよ!」
    「もちろんだ!」
     カメラ目線で応じた四軒家・綴(二十四時間ヘルメット着用・d37571)はそのままライドキャリバーのマシンガジェッターに跨るとマシンを駆った。
    「いくぞ、花粉共ッ!」
    「あ、雪道なのでスリップに注意して下さいねぇ~」
     ポイントカードをしまい終え手を振る菖蒲の声を背に綴は走り去る。そう、花粉との戦いはまだ始まったばかりなのだ。
    「――じゃなくて、誰か止めろよ!」
     姿が程良く小さくなったと思われたところでクーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・d21014)が追いかけ走り出す。
    「それはそれとして、紅白の鏡モッチ……じゃなくて鏡餅ってあるんだね」
     そんな流れを赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)はフリーダムにさらりと流すとポツリと漏らし。
    「鏡餅が紅白の地方があるとか、ボクははじめて聞くよ。やっぱり縁起がいいからなのかな?」
     日本ってまだまだ広いよねと続けたのは、新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218)。
    「紅白鏡餅は北陸の1部地域にしかないのです。紅白でおめでたいから、私も全国区だと思っていました……」
     補足しつつも真逆の勘違いをしていたことを菖蒲は明かし。
    「もっちあって……いなくなることが……ないような……気がしてきた……」
     既に幾度か餅のご当地怪人になりかけた一般人と相まみえたことのある皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)の独言へ十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)は無言で頷く。
    (「久しぶりの、依頼、だけど、もっちあの、依頼は、減るどころか、増えてる、気がする」)
     もし深月紅が他者に聞こえる様に思ったことを口に出したなら、こう言った者も居たかも知れない。
    「餅に限定してご当地怪人を捜している人が幾人もいれば、内の誰かが見つけることで事件が灼滅者達の目につくのは仕方のないことなのではありませんか?」
     と。
    「まぁ、何にしてもほっとくと何やかんやで世界征服目指すと思うし、ちゃんと止めてあげないとね! 雪乃城さんの鼻炎も心配だし」
    「そうですねぇ。さてさて、紅白鏡モッチアさんに真実を告げなければいけませ」
     緋色の言葉に同意すると菖蒲は歩き出そうとして足を止め。
    「鼻炎なら薬を買い置きしましたから大丈夫です」
     再び登場するポイントカード。
    「で、目的地はどこだよ」
     綴を連れ戻してから今まで黙っていたクーガーが口を挟んだのは、このままだと話が脱線する恐れがあると思ったのか、素で思ったことを口にしただけなのか。
    「たぶん、この先ですよ~ほら」
     答えつつ示す先には、歩く紅白鏡餅らしきモノが小さく見え。
    「じゃあ、このままあそこに行けば接触に関しては問題なさそうかな」
     ボクはとしてはまず説得したいねと駄菓子を掴んだ手を止め如月・オウカ(形無き白刃・d37576)が続けて意見を口にする。
    「そうですね。では少し急ぎましょうか」
     ご当地怪人に追いつくべく倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)は足を速め。
    (「今回は……緋那や……深月紅もいるし……まあ……頑張らないとね……。……何事も……なければ……いいけど……」)
     自身も少し早足になりながら零桜奈はそんな緋那と弟子である深月紅の背を眺め、胸中で漏らす。明らかにフラグ以外のなにものにもならなそうな危惧を。

    ●接触
    「まぁ、遅かれ早かれ分かってしまいますから……助けられるいま告げないとですね~」
     そう独り言を呟くと、菖蒲はようやく声をかけられそうな所まで近づいたご当地怪人へと歩み寄る。
    「あらあら、初めまし――」
     そのまま声をかけ、説得という流れになるかと思われた。実際そのつもりであっただろう、菖蒲は。
    「……あ」
     声を上げたのは、凍結した地面につるっと滑って今まさに倒れ込もうとしている零桜奈、倒れ込む先には緋那が居り。
    「どう……っ、きゃあ」
     辺りに雪が積もっていたのは、転んだ者にとって幸いだった。転倒のダメージを下敷きになった雪が緩和し。
    「零桜奈、緋那、大丈」
     師匠と押し倒された形の緋那に手を差し伸べようとした深月紅が今度は凍結した部分を踏み、滑る。
    「うっ」
     説明しよう。綴は目の前で起きたラッキーすけべを思わず目撃して声を上げてしまったのだ。当然、ご当地怪人にも気づかれ。
    「最近は進んでるもちぃな。雪の上、しかも男女比1:2とは。あ、みんな女の子だったもちぃか?」
     感心しつつ質問したのは、三人が折り重なっていて挟まれた形の零桜奈の体型が確認しづらかったからだろう。巻き込まれる寸前で零桜奈の声に気付き、振り返ろうとして仰向けに倒れた緋那の上に乗っかった零桜奈は顔の下半分までを柔らかな膨らみに埋めており、起きあがろうにも胸を押しつける様にして倒れ込んだ深月紅で身動きもままならぬ状態。
    「ともあれ、そのままだと体温で雪が溶けてあちこち濡れて風邪ひくもちぃよ。余計なお世話かも知れないもちぃけど。良かったら手を貸すもちぃけど?」
    「やたらフレンドリーなご当地怪人というか、人が良いというか……」
    「気遣われちゃいましたね」
     身体を前に傾け、重なる三人を覗き込む手足の生えた紅白鏡餅に桃子達の間で何とも言えない空気が漂い。
    「はむはむ」
     オウカはまたお菓子を食べていた。今度は和菓子、大福餅の様だ。
    「って、何のんびり――」
     おやつタイムしてるんだと腕を組み待機してたクーガーも黙っていられなくなった直後のこと。
    「ふははははー」
     何だか、高いところから笑い声がした。具体的に言うと、雪の積もった農機具の倉庫の屋根に立てた脚立の一番上ぐらいの高さから。
    「小江戸の緋色が何やかんやであなたのことを救いに来たよ!」
    「なっ、何時の間に?!」
    「えいっ」
     驚き仰け反るご当地怪人の前で脚立の最上段を蹴って飛び上がった緋色は放物線を描き、ずぽっと雪に埋まって見えなくなる。
    「……位置エネルギーが力に皮って雪にめり込んだもちぃな、割とけっこう深く」
     雪にぽっかり空いた穴を巨大鏡餅はマジマジ見てからくるりと他の灼滅者達に向き直る。
    「お知り合いもちぃか?」
     出会ったタイミングが同じなら問いかけは道理であった、ただ。
    「あらあら、初めまして紅白鏡モッチアさんですね~実は私のご当地にも紅白鏡餅がありまして」
     真っ先に口を開いた菖蒲はマイペースだった。
    「え?」
    「あ、お近づきによかったからこちらの紅白鏡餅をどうぞです」
    「あ、どうももちぃ……って、さっきの埋まった子スルーもちぃ?!」
     きょとんとしたご当地怪人をそのまま流しかける程には。まぁ、結果的にはツッコまれる結果に至ったが。否、同じクラブだしお互いに知っていたのだろう。
    「あとですねぇ、少し白い鏡餅についてお話したいのですが……いいですか?」
     指摘には反応せず、巨大紅白鏡餅に確認を取れば。
    「紅白の鏡餅ってお正月感あふれててなんだかおめでたいって感じにあふれてるよね」
    「もちゃぁっ?!」
     いきなり雪から生え、何事もなかったかの様に会話に加わってきた緋色にご当地怪人が思わず悲鳴をあげる。
    「ったく、フリーダムすぎんだろ、オイ」
     ボソッともらしたクーガーの顔が引きつっていたかは定かではない。
    「今の内に一般人避けをしておくね」
     仲間に断りを入れつつ殺気を放ち始めたオウカがスナック菓子を口の中に放り込み。
    「私もサウンドシャッターしておきますね」
    「……お願い」
    「えっと、お願いは良いですから、そこは緋那ちゃんの上から降りた方が」
     便乗した桃子もESPを使用すれば、相変わらず女の子にサンドイッチされたままで顔だけ自分達の方に向けた零桜奈へちょっと困った顔で桃子は言い。
    「やっぱり助けるの手伝った方が良いもちぃか?」
    「ううん、おかまいなく。それより、さっき渡した鏡餅なんだけど……」
     協力を申し出るご当地怪人に頭を振ったオウカは話を本題に移した。

    ●まあ、そうなるな
    「しろい、ほうが……ぜんこくく」
     まず、時代や地域によって違いがあることをオウカが教えワンクッションを置いた上、紅白鏡餅についても桃子が褒めたりしてから事実を明かしたにもかかわらず、衝撃は大きかったらしい。
    「私、出身が小江戸川越だけど白いのだけで紅白鏡餅って見たことないんだ」
     そんな緋色のコメントがぶっ刺さったり。
    「残念だけど……一般的な……鏡餅は……白一色だよ……」
     零桜奈の言葉に膝から崩れ落ちたりした巨大鏡餅は、まだ現実に帰ってこない。
    「その証拠に……全国展開の鏡餅は……真っ白だッ!!」
     見える位置で懐から鏡餅を取り出し謎のポーズをとる綴にもノーリアクションである。もちろん、灼滅者達もこれを良しとはしない。
    「県を跨げば白しかありません……辛いですが、これが現状です。しかし、これはご当地ブランドです誇っていいものですよ」
     でっかい鏡餅の方と思わしき部分を菖蒲はポンと叩き。
    「でも……紅白の……鏡餅は……色合いも……綺麗だから……」
     性別不詳のご当地怪人だが、零桜奈は念のため距離を取ったまま。
    「そう。一般的な、鏡餅は、白色しか、知らなかったけど、紅白の、鏡餅は、見た目が、綺麗だと、思う」
     何故か起きあがったのに師である零桜奈の背中にくっついたまま深月紅は師匠の言葉に続き声をかけ。
    「だから、色んな人に、知って、もらえれるように、伝えていくのも、いいと思うよ」
    「……つた、える?」
     ご当地怪人から反応が返ってきたのは、深月紅が続けて訴えた後のこと。
    「うん……闇堕ちから……戻れたなら……みんなに……知ってもらえるように……布教して……頑張ってみるのも」
    「う……ぐっ」
     更に弟子の言葉を受けて零桜奈が語りかけるさなか、ご当地怪人は橙を押さえ急に悶え出し。
    「あ、危ないところだったもちぃ。一度落としてから優しくするとか何て恐ろしい策略家達もちぃ……もう少しでこの身体を完全に我がものと出来たというもちぃのに」
     ピタリと苦しむ様を止めた巨大紅白鏡餅が戦きつつも一同に敵意っぽいものを向けた時には幾人かが既に動いていた。
    「ちっ、説得じゃ……終わりにならねーのは面倒だぜッ」
     クーガーは組んでいた腕を解きご当地怪人目掛けて駆け出し。
    「ソノ死ノ為ニ……対象ノ破壊ヲ是トスル」
    「四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ」
     一組の師弟がスレイヤーカードの封印を解き。
    「相手は鏡餅怪人……単体攻撃が多いなら『少数派』の弱さ、突かせてもらおう」
    「ふっ、そううまく行くもちぃか?」
     緊迫感が生じる中、綴が指を突きつければ、巨大鏡餅は笑った。
    「なに?」
    「もーっちもちちもち、見るが良いもちぃ、この雪で作った巨大鏡餅をぉぉ!」
     訝しむ綴の前で得意げに示した先には、農地に無断で作られた複数の雪だるまならぬ巨大雪鏡餅。
    「白一色鏡餅の研究のため作ってみたもちぃが、人生何がどう転ぶかわからんもちぃな! ……は、おいておいて、あの雪鏡餅に紛れてしまえばどれが本物かわかるまいもちぃ? 数の不利さなどなにするものもっちぃぞ!」
    「な、なんだとー?!」
     ノリで驚いて見せたが、綴にはわかっていた。怪人は紅白だが、雪の鏡餅は白一色紛れるのには無理があると。
    「……いずれにしても、KOはしなきゃならないんだよね」
     桃子はわかっていたけど、スルーして別のやるせなさを言葉にした。
    「さーて、お仕事開始っと」
     オウカは無手のまま、得意げな紅白鏡餅の死角に回り込んでいた。
    「もぢゃばっ」
     バトルオーラで覆った手にご当地怪人が斬られたのは必然。
    「な、何故本もぢゃばっ」
    「答えるまでもない」
    「もげ、ぎょ、ぢべっ」
     慌てる巨大鏡餅に深月紅の指輪から放たれた魔法弾が命中したところを零桜奈の繰り出す槍の突きに貫かれ、出現した赤き逆十字に引き裂かれる。
    「何だかよくわかりませんがチャンスですねぇ~便乗しちゃいましょっか。時期遅れですが、鏡開きと行きますよ?」
    「はーい、もう1月も終わりだし鏡開きも過ぎちゃってるからどんどん割らなきゃ」
     好機と見た菖蒲もちらりと緋色を見れば、返ってきたのは元気なお返事。
    「ひっさーつ」
    「ひ、ちょ、ちょっと待つも――」
    「大丈夫、貴方の頭の鏡餅を割るだけですから大丈夫!」
     回復の必要も皆無だからと攻めに加わる緋色達にご当地怪人が血相を変えるも、二人は構うことがなかった。マイペースとフリーダムなんだもん。
    「もっぢゃああーっ」
     あがる悲鳴。
    「貰ったッ! お汁粉放射!」
     攻撃に加わる綴の指示にあわせ、マシンガジェッターに備え付けられた機銃の先からお汁粉が噴射されたかどうかは想像にお任せしたい。
    「餅は焼かねば食えねえぜッ!」
     寄って集ってボコボコにされる巨大鏡餅にクーガーも容赦なく手刀の形を作った浄焔禍狐を叩き付けた。
    「もぢゃばーっ」
     炎に包まれながらご当地怪人はたたらを踏み。
    「いっくよー! せーのっ!」
    「もぢぎょっ、おぶっ」
     桃子の蹴りに吹っ飛ばされる形で宙を舞うと雪の鏡餅に激突、粉砕した雪の塊と共に雪上を転がる。
    「ぐ、もちぃ……これぐら」
    「こんなんじゃ倒れるのは早いぜ?」
     呻きつつ身を起こそうとしたご当地怪人の前でクーガーが足を止め。
    「これでもくらえっ!」
    「ばもぢゃっ」
     立ち上がる時間すら与えられず再び始まった集中攻撃。
    「もう……無理もちぃ」
     弱体化していた巨大鏡餅は耐えきれず傾ぐと人の姿に戻りながらポテッと倒れたのだった。

    ●スタッフが美味しく
    「さて……まだまだ冷える……帰りに暖まるものでも食べつつ親交を深めるのはどうだ?」
     綴の提案へ最初に反応したのは、緋色だった。
    「雑に餡子とか持ってきたし、折角だから割ってお汁粉とかにしてたべよー」
     有言実行とばかりに取り出した餡子がどこから出てきたかは秘密である。
    「まだ寒い時期ですし、温かいものは良いですね」
    「ですよねぇ~そう言う訳で、よろしければこのお茶をどうぞ」
     相づちを打つ緋那に同意して菖蒲は防寒着に身を包んだ少年へ湯気の立つお茶を勧めた。
    「あ、ありがとう」
     気遣いに少しは気が紛れたのだろう。自身のダークネスのお馬鹿さ加減や知ってしまった紅白鏡餅こそ少数派という真実からは逃れられなかった少年はちょっと無理に作った感じではあったものの漸く笑顔を見せ。
    「ね……紅白鏡餅がメジャーじゃなくて辛いなら、君の力でメジャーにすればいいじゃない!」
    「えっ」
     顔を覗き込み自分のかけた声にあっけにとられた様子の少年へオウカは鯛焼きの袋を抱え笑顔で続ける。
    「誰も傷つけないやり方なら僕も手伝うよ!」
     と。
    「はい。あ、私の名前は……銀鏡・紅(しろみ・こう)と言います。よろしくお願いしますっ」
     答えてから名乗っていないことに気づいたのだろう。少年は慌てて自分の名を口にし。
    「これで、一件落着ですね」
    「……だね」
     謝るタイミングをはかっていた零桜奈は謝るべき相手の一人である緋那の言葉に同意する。
    「……あ」
    「手伝って貰ってもいい?」
     そして、切り出そうとした零桜奈の声に被さったのは、お汁粉を作り出していた緋色の声。
    「ええ」
     緋那が承諾したことで謝罪の機会が潰え。
    「……あの」
     今度こそと切り出そうとしたのは、完成したお汁粉が振る舞われた後のこと。
    「零桜奈」
    「……深月紅?」
     自分を呼ぶ声に零桜奈が振り返り、弟子の深月紅の姿を認めた。ただ、無意識に手を伸ばしたまま、顔だけ別方向に向けたのが拙かった。
    「あ」
     伸ばした手が感じたのは柔らかな感触。遅れて自分の体質を思い出したとしてももう遅い。仲間達に重い怪我が無いのを確認して一緒に帰ろうとした深月紅からしても、それは予想外のハプニングであり。
    「先行くぞ?」
     内心巻き込まれなくて良かったと安堵しつつ、クーガーは踵を返す。
    「ボクも行こっかな。ええと、お疲れさまでした」
     一部、謝罪というやることの残ってるメンバーもいたが、あくまで私的な事情。桃子も幾人かの残った仲間へぺこりと頭を下げると帰路へとつくのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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