暗殺武闘大会決戦~戦鬼達への鎮魂歌

    作者:長野聖夜

    ●終わりなき戦いへ
    「皆、第三次新宿防衛戦の勝利、お疲れ様。今はただ、ゆっくりとその疲れた体を休めて欲しい……と言いたいのはやまやまなんだが、つい先ほど、六六六人衆に不穏な動きがあるという情報が入った」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)の表情は硬い。
    「サイキックアブソーバーによる予知が出来ないから詳細は分からないけど、暗殺武闘大会の予選を突破したダークネス達が集結し始めていることは分かっている」
     集結場所として、15ヶ所は判明している。
     優希斗が告げようとしているのは、その内の一つ。
    「彼等がその場で殺し合うのか、それともルールを設けて試合をするのか、或いは全く別の何かをするのか……それは分からないけれど、少なくとも皆にとって不利益になる行動を取ろうとしているのは間違いない、と思う」
     だから……と申し訳なさそうに溜息をつきながら。
    「シャドウ大戦の直後で申し訳ないが、集結したダークネス達を偵察、状況を確認後、何らかの対処を行って貰えないだろうか? ……どうかよろしく頼む」
     優希斗の一礼に灼滅者達が其々の表情で返事を返した。

    ●墓痕に在りしものは
    「今回、皆に向かって貰うのは神奈川県の某所にある墓地になる。……ずいぶん昔にそこを管理していた神社が無くなって、もう跡地、といった感じの所だけど」
     そこにダークネスがそれなりに集まってきていると言うことらしい。
    「具体的な数は不明だけど情報から類推すると、5~8体位だと思われる。いずれも暗殺武闘大会予選を潜り抜けてきた強者達だ。まとめて相手にしたらまず間違いなく窮地に陥るだろう」
     ただ、もし暗殺武闘大会が続いているのであれば、彼等は必ず戦い始める筈だ。
    「それを確認したら、皆にはどう介入するかを判断して欲しい。戦っている最中に乱入するのも、決着がついた直後を狙うのも君達次第だ。予知では無いから現場に到着してからどう行動するのかを決めるか、それが重要になる。場合によっては、撤退も視野に入れてくれて構わない。逃げることは決して恥じゃない、ある意味では勇気の要ることでもあるから、ね」
     淡く微笑み呟く優希斗に灼滅者達が其々に頷くのだった。
    「今回の件、情報が少ないから不確定要素の多い危険な任務になるのは間違いない。ただ、これだけは聞いてほしい。たとえ、なにがどんなことがあったとしても、俺は、皆が選んだ行動を尊重する。それでも、一つだけ言わせてくれ」
     ――どうか、死なないで。
     優希斗の言葉を背に受けた灼滅者達は、静かにその場を後にした。
     
    ●墓跡に眠るは……
     神奈川県某所にある、神社及び墓場跡地。
    「……神社の境内の辺りには特にダークネスの気配はないようです」
    「今の所、神社内に入っても危険はないって感じだな。とは言え、油断するなよ」
     鬱蒼とした木々に登り、情報にあった神社を外から観察していた黒絶・望((闇夜に咲く血華・d25986) とアトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)が、マイクに向けて告げる。
    「了解だ。それじゃあ、少し偵察してくるね」
    「何かあったら、直ぐ連絡するように致しますわ」
     エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)と、ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)が望達にそう応じ、兎や猫に変身して、2手に分かれて神社内を探索する。
    「フー(特に周囲を警戒しているダークネスはいないようですね)」
    「そうデスね。これは幸いと言うのデショウカ?」
     兎姿の高野・妃那 (兎の小夜曲・d09435) の鳴き声と仕草から気持ちを読み取った狐雅原・あきら(アポリアの贖罪者・d00502)がそう答える。
    「シャー(この感じだと、本当に墓地へと真っ直ぐにダークネスは向かっている様だね)」
     蛇になったエアンの鳴き声に、あきらが頷くと。
    「皆さん、此方にダークネスの集団が向かったと思しき足跡が見つかりましたわ」
     ベリザリオ・カストロー (罪を犯した断罪者・d16065) からエアンのマイクへと連絡が入る。
     神社内にダークネスがいないことをアトシュ達に報告し、一旦、ベリザリオ達が向かった方角……古びて殆ど朽ちているお社の左側へ。
    「織久先輩が用心深く先行しているよ! ベリザリオ先輩と一緒にね!」
     殆ど獣道の様にも見える道の前に佇んでいた香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)が、現れたあきら達にそう報告した。
     あきらを先頭に灼滅者達は道無き道を奥へ、奥へと進んでいく。
     それから暫く進むと……神道式の墓石があちこちに点在する墓場へと到着。
     恐らく此処が、ダークネス達の集結している墓場なのだろう。
    「ニャー(此方です、皆さん)」
     猫の小さな鳴き声が聞こえた。
     それは、猫変身した西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)。
     翔が織久とベリザリオに合流して墓石に隠れ、エアン達が反対側にある墓石の裏に隠れている。
     彼等が見据えるその先に存在するのは、8つの影。
     暗闇の中で目を凝らしてよく見てみれば、その内の何体の額から天に向かう様に生えている角が見える。
    「フー(やっぱり、羅刹でしたか)」
     妃那の鳴き声に微かに頷くエアン蛇。
    「ヒー、フー……全部で8体の内、2体はその様デスネ」
     残りの6体に関しては、中肉中背の普通の人間の様に見えるが……。
    「フー……(この気配は……)」
     織久猫の毛が逆立つのを見て、ベリザリオが暴走しないよう、その首根っこを掴んでいる。
     その者達が纏う死の気配……それは正しく六六六人衆のもの。
     ただ、その8体の中に闇堕ち灼滅者がいる様子は無さそうだ。
     望達からもそれ以外のダークネスと思しき姿が確認されたという報告は無い。
     その事実に、翔は少しだけ安堵する。
    「……シャー(変だね?)」
     エアンが警戒するように鳴き声をあげたのは、彼等が直ぐに戦いだす様子が無かったからだ。
     いや、それどころか何処か自分達と似ている様な、そんな感じを受ける。
     協力、という生温い関係とは到底思えないが、利用しあおうという様子が伺えた。
     彼らはじっと佇んでいる。
     ――この墓地の中でも、一際巨大な墓石の前で。
    「まだか……まだか……?!」
    「焦るな、待て」
     地団太を踏んでいる羅刹の一人を六六六人衆の一人が制している。
     どうやら、時間を気にしているようだ。
     ――と、その時。
     不意に、墓から強大な鬼火が生まれた。
     それは踊るように、舞うように墓石の周囲を舞い、程なくして一人の巨漢の姿を形作る。
     全長180cmほどある髭を生やした30代位に見える男は、左手にガトリングガンを、右手に怪しげな霊気を纏った日本刀を構えていた。
    「……なんだ、てめぇら?」
     面倒臭そうに目を細め、怪訝そうにする男。
     その男を見て、先ほど呻いていた羅刹が歓喜の雄たけびを上げた。
    「序列第七十一位、戦神、久遠・猟魔。貴様を殺す!」
    「殺し合いか? いいぜぇ、少しは楽しませろよ、雑魚どもぉ!」
     叫ぶと同時に羅刹が勢いよく猟魔に鬼の腕にて襲い掛かる。
     だが、次の瞬間には……飛び出していった羅刹の背から宵闇の中、光り輝く銀色の刃が突き出ていた。
    「ひゃひゃひゃひゃひゃっ! どうした! 俺を殺すんじゃなかったのかよぉ! 雑魚が!」
     ずるりと刀を引き抜かれると同時に力尽きる羅刹を見て嘲笑う猟魔。
    「怯むな、殺せ!」
    「奴は俺達の手で殺すんだ!」
     次々に飛び掛かるダークネス達にガトリングガンを向け、反動など全く感じた様子もなく、無数の弾丸を吐き出していく。
     幾億にも分身したように見える弾丸に次々にダークネス達が次々に急所を撃ち抜かれ、其々に深手を負っていた。
    「ハッハァ! チームを組んだ雑魚なんぞが、この俺様を殺せるものかよ!」
     心底から愉快そうに嗤いながら。
     無限ともいえる弾丸と刃で、次々にダークネスを屠る。
    「オラオラオラオラオラ! もう少し楽しませろ、雑魚どもぉ!」
     嘲笑う猟魔を見据えながら、傷を負った1体の羅刹と、3体の六六六人衆が我先にと襲い掛かった。
    「あの六六六人衆……強過ぎる」
     状況の変化に気がつき、直ぐに此方に来るよう連絡を入れた翔を見ながら、猫変身を解き、今にも襲い掛かりたいという表情の織久が呻く。
    「……まさか、噂のハンドレッドナンバーが蘇った、ということでしょうか? ……依で無かっただけマシだと思うべきなのでしょうか……?」
     自分の推測がほぼ正解に近かったことを知り、驚いて兎変身を解除した妃那が溜息を一つ。
    「七十一位と言っていたね……。でも、だとしたら何故、彼等は戦っているんだろう……?」
    「……多分、暗殺が目的なのデショウネ。……理由は分かりマセンガ」
     エアンの呟きに、あきらが答えた辺りで、連絡を受けてた望とアトシュが合流し、情報を共有する。
    「……このまま戦闘を最後まで行わせて、勝ち残った側が消耗しているところを叩くのが吉なのかね?」
     アトシュがそう呟けば。
    「う~ん……案外、ハンドレッドナンバーの暗殺を阻止するのも一つの手かもしれないよ?」
     と翔が顎に手を当てて考え込み。
    「……いえ、話を聞いた感じですと、あの猟魔というハンドレッドナンバーは非常に危険です。ここは、私達があの4体のダークネスに加勢して戦うという手段もあると思います」
     そう望が提案すると。
    「……いえ、望さん。仮にそうしようとしたとしても、猟魔は勿論、暗殺武闘大会決戦参加者が、私達を攻撃してこないという保証はありません。最悪、彼等が一時協力して私達を倒しに来る可能性があります」
     と妃那が囁いた。
    「……それは想像したくありませんわね」
     織久を止めながらのベリザリオの呟きに、アトシュが小さく溜息をつく。
    「……もしどちらかに加勢するなら、自分達が攻撃されない様にする方法を考える必要があるってわけか」
    「そうだね。……さて、どの方法が最善なんだろうな……?」
     アトシュの言葉に、エアンが同意しながら夜空を仰ぐ。
     ――夜空には、まるで自分達の目の前にある複数の選択肢を象徴するかのように、星が瞬き、輝いていた。


    参加者
    狐雅原・あきら(アポリアの贖罪者・d00502)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)
    香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)
    黒絶・望(闇夜に咲く血華・d25986)

    ■リプレイ


     ――暗殺武闘大会決戦参加者と、ハンドレッドナンバーの戦い。この状況を見た灼滅者達の選択は……。
    「オラオラオラ! トロ過ぎるんだよぉ、そこの鬼!」
     後衛の羅刹に向けて、猟魔がガトリンガンを発射。
     無限にも思える数を吐き出していた弾丸の全てが羅刹の全身を撃ち抜き灼滅した。
    「……早いね」
     その状況を観察していたエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)が小さく呻く。
     戦いの経過を観察し始めていて、数分も経たぬ内に羅刹が灼滅されている。
    「頃合いですね。行きましょう」
    「そうですね」
     黒絶・望(闇夜に咲く血華・d25986)の合図と共に、灼滅者達が、一斉に戦場へ。
     高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)がそっとお墓の前に願掛けも兼ねて兎のぬいぐるみを置いて飛び出し、速弾きでギターを掻きならす。
     妃那の奏でる美しいメロディが既にかなり傷を負っていた六六六人衆の傷を癒していた。
    「なんだっ?!」
     思わぬ回復に、六六六人衆の一人が一瞬動きを止めて此方を振り返る。
    「アンタ達は、取り敢えずアイツを倒せば良いんだよな。共闘できるならオレ達も手伝うよ」
     香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)が振り向いた六六六人衆に告げるのに、ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)が同意した。
    「頭数が多ければ手数も増えますわ。猟魔を倒すまで、お互い他の事を横に置くのは如何ですの?」
    「……っ。確かに今は……」
     此方を振り向いた六六六人衆が躊躇う様に呻いている。
    「安心しろよ。何も、手柄を取ろうとはしてねぇ。あいつをぶっ殺したいだけだ。トドメは譲るから、今は手を組もうや」
    「こちらも久遠・猟魔には消えてもらいたいのです。目的は一致しています。頭数が増えればそれを達成できるかもしれない。どうですか?」
     アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)と望の言葉に、彼はふぅ、と一つ息をついた。
    「……良かろう。今は貴様達の手を借りよう。それから、奴に止めを刺すのは我々だ」
    「交渉成立だね。それじゃあ、行こうか」
     六六六人衆の苦々しげな同意にエアンが頷くと、猟魔の高笑いが墓場全体に木霊した。
    「ヒャハハハッ! こいつは傑作だ! 六六六人衆がまさかこんな子鼠共と協力するなんてなぁ! 雑魚は所詮雑魚だってこと、教えてやるよ!」
    「……久遠・猟魔。我等が怨敵。ここで確実に滅させてもらう」
     西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)が憎しみを籠めて睨み、百の妖の血を塗り込められた赤黒き闇器【百貌】を捻じりこむ様に猟魔へと襲い掛かった。


    「ハッ! その程度の速さで追いつけるものかよ!」
     迫りくる織久の槍を軽々と妖気を纏った刀で受け流す猟魔。
    「グッ……!」
    (「誠に口惜しきは自らの力の無さか……!」)
     ギリリ、と唇を噛み締めながら素早く離脱する織久の横を駆け抜け、狐雅原・あきら(アポリアの贖罪者・d00502)が中心に赤い宝石の埋め込まれた矢印型の長槍の先端から全てを凍てつかせる氷の弾丸を撃ちだす。
     猟魔はそれをガトリングガンで迎撃するが、その隙をついて六六六人衆の一人がその足に刃を放つ。
    (「あー、戦って頑張って散ってくださいね」)
     猟魔の足が斬り裂かれるのを見ながらあきらは思う。
     現状では、自分達の攻撃が届く可能性は想定より低い。
     ならば、精々彼らに頑張ってもらうしかない。
     最も……。
    「蒼の力、我に宿り敵を砕け!」
     スレイヤーカードを解放し、帯を放ってその武器を絡めとりながら自らの命中精度を高める翔の様なスナイパーであれば、話は別だ。
    「兵器としてのオレの力、何処まで通じるか試してやる!」
    「殺意ならこちらも負けていないようだしね」
     エアンが頷きながらレイザースラストで猟魔の日本刀を締め上げる。
     だが、猟魔が軽く日本刀を引くだけで、帯は振り解かれた。
    (「さすがに強い……」) 
     猟魔の実力をその一動作で見抜き、思わず不敵な笑みを零すエアン。
    「あなたの相手はわたくし達ですわよ!」
     ――織久や人々を守りたい。
     それが自らの罪悪感の発露であることを承知しながらも、満月の盾によるベリザリオの強打が、3人目の六六六人衆の刃でその動きを一時的に止めていた猟魔の体に吸い込まれる。
    (「ハンドレッドナンバー……! 絶対殺す!」)
     アトシュが自らへと戦神を降臨させて力を蓄えながら、目を細めて猟魔を睨み。
    「アトシュ兄様、無理はしないで下さい」
     望が呟きながら、純白の影を放つ。
     望の影を、猟魔は日本刀で斬り裂いた。
    「ハハハハハッ! こんなものかよ!」
     嘲笑いながら猟魔が一瞬で六六六人衆の一人の懐に飛び込み、得物ごと、その腕を切断。
    「ガァァッ!」
     痛みからか叫ぶ六六六人衆を妃那が高らかに歌を奏でて腕を再生していく。
     腕と得物は繋がるものの、肉の再構成が間に合っていない。
    (「流石はハンドレッドナンバーと言ったところでしょうか……?」)
     先の羅刹を屠った時に見切りがかかった筈なのに、その技の冴えが衰えない。
    「無謀なのは承知の上だ。それでも、出来るだけの事はするさ」
     エアンが上空へと飛び出し、流星の煌めきを帯びた蹴りを叩きつける。
    「織久先輩、六六六人衆だからって絶対無理はダメだからね! ベリザリオ先輩とオレと、ちゃんと一緒に帰るんだからね!」
     今にも襲い掛かろうとする織久を制しながら、翔がスライディング。
     先ずは、足止めを重ねるのが先決。
     とにかく当てることが出来なければ、猟魔を追いつめることなどできはしない。
    「六六六人衆は我らが怨敵。だが、翔さんの言うことも真実か……!」
     翔の動きに合わせて織久が人の腕の無数に蠢く影を放つ。
     影の手が次々に猟魔に襲い掛かり、その体を締め上げる。
    「ハッ! 俺様を殺せるなら殺してみせろ、子鼠の群れが!」
     一喝して影を破砕する猟魔の懐に、白の刃を閃かせると同時に捻じりこむ様にあきらが一撃。
     猟魔が回避しきれず、脇腹から僅かに血が飛散した。
    「そこだ!」
     アトシュが彼の背後から飛び出し、黒死斬。
     刃が猟魔の体を掠め、再びその足を穿つ。
    「わたくし達の連携、甘く見ないで欲しいですわ」
     ベリザリオが自らにソーサルガーダーを使用して防護の力を高め、望が純白の指輪から純白の弾丸を発射。
     望の放った弾丸に猟魔が撃ち抜かれ、舌打ちを一つ。
     六六六人衆達が、次々に死角に回り込み、三方から同時に攻める。
     猟魔は一人の攻撃を日本刀で受け流し、一人の攻撃をガトリングガンで牽制し、もう一人の攻撃を、左肩で受け止めた。
    「どうだ!?」
     その六六六人衆が思わず歓喜の声を上げた時。
     ――神速の速さで閃光が走り、一瞬でその胴と体が泣き別れになった。
    「ハッハ! 俺様がテメェ如きの刃で倒せるかよ!」
     消滅していく六六六人衆の向こうから姿を現すは、肩から血飛沫をあげながらも、堪えた様子の無い猟魔。
    (「もう少し再生が追い付いていれば……離脱しきれたかも知れませんね……!」)
     倒れたのは、先程妃那が傷を癒したダークネス。
     だが回復しきらなかった分、動きに精彩を欠いた面が否定できない。

     ――戦いは、時の運と言う。

     不幸なことに、戦の女神は、現在猟魔へと肩入れをしている様だった。


     ――それから、少し。
     妃那の回復を受けていた六六六人衆の一体が灼滅される。
     バッドステータスは確実に蓄積しており、織久達の攻撃も当たる様になってきてはいるが、猟魔はまだまだ健在だった。
    「オラオラオラオラオラオラ!」
     幾億にも分裂した弾丸が、最後の六六六人衆と、あきら達前衛を狙う。
    「織久をやらせはしませんわ!」
     怒りの付与によりターゲティングをずらし、負傷を蓄積させていたベリザリオが叫びながら織久の前に立って壁となる。
     体中が焼け付くように痛い。
    (「後何発まで耐えられますの……?!」)
    「ベリザリオさん!」
     ダークネスへの回復を捨て、妃那が清らかな歌声を奏でてベリザリオの傷を癒していく。
    (「……ったく、これほどとはなぁ……!」)
     あきらを守ったアトシュが望が放った純白の羽衣……ラビリンスアーマーに包まれながら舌打ちを一つ。
     しかし、その表情に浮かぶは笑顔。
     それは、闇堕ちした時に自らが抱いた……殺すことへの悦び。
    「さっさと倒れて欲しいんデスケドネ」
     ST-H4TW/BRAGUZINに、星々の力を込めたあきらが回し蹴りを猟魔へと叩きつけた。
    「織久先輩、行くよ!」
    「我等が憎悪、その身に受けよ……!」
     翔が接近しながら、地面との摩擦で生じた炎を帯びた蹴りを叩きつけ、織久が死角から猟魔の身を斬り払う。
    「……雑魚共が、思ったよりやるじゃねぇか! けどよ……!」
     翔達の連続攻撃を受けながら猟魔は笑い、ガトリングガンの砲口を、六六六人衆に向けた。
    「ちっ……!」
     直撃を受ければ、あのダークネスが力尽きると判断したアトシュが庇おうとするが所詮は一時的な共闘。
     ――否。
     利用する為だけの存在であった彼を庇う道理が無いと無意識が判断し足が止まる。
    「き……貴様らぁ……っ!」
     望達へと憎しみの目を向けながら、最後の六六六人衆が灼滅。
    「ハハッ! 次はデザートと行こうかねぇ……子鼠ちゃん達?」
     愉しそうに残忍な笑みを浮かべながら、舌なめずりをする猟魔。
     それなりに消耗はしているが、まだまだの様だ。
    「……修羅場だね。だけど、諦めはしない」
     エアンが強い意志を持つ瞳で猟魔を睨みつけ、光輝と共に上段から日本刀を振り下ろす。
     猟魔がその刃を妖気を纏った日本刀で受け流すが、妖気がほんの僅かに減じられていた。
    (「少し、介入するタイミングが遅かったかも知れませんね……」)
     望が内心で溜息を一つ。
     交戦を始めたのを観察している間に、猟魔は瞬く間に8体のダークネスの内、半分を殺害した。他の4体も負傷していた。
     つまり……双方の全滅を狙ってもう1体が灼滅される前から、既に危機的状況に暗殺武闘大会決戦参加者は陥っていたのだ。
     ならば、手数を増やすためにその段階で共闘を持ち掛けていたとしても、恐らく彼らは拒まなかっただろう。
     猟魔がダークネスを優先していた事、妃那がダークネス達を回復していたからこそ、何とか此処まで持ち込めたのが救いだろうか。
    「ここからが、わたくし達にとっての正念場ですわよ……!」
     ベリザリオが己の内にある獣の爪で猟魔を握り潰すべく走る。
     霊気が腕から放出され、猟魔の身を確かに締め上げていく。
    「我等が怨念、存分に喰らわせてくれる!」
     僅かに狂気じみた表情を浮かべながら織久が闇器【百貌】を捻じりこむ様に突き刺す。
    「クククククッ! いいぜ、いいぜ鼠どもぉ! もっと俺様を楽しませろお!」
     猟魔がその手に持つ刃を一閃。
     目に見えない神速で放たれたその斬撃があきらを襲うが……アトシュが立ち塞がった。
     放たれた刃に胸を斬り裂かれ、夥しい量の血が地面を叩く。
    「……前に立てたのが、奇跡だったぜ……!」
     無自覚に笑いながら、アトシュが接近して黒死斬。
     猟魔の足の腱を断ち切ると同時に、どうとその場に倒れ伏した。
    「アトシュ兄様……!」
     力尽き倒れたアトシュを見て、望が呻きながらベリザリオへとラビリンスアーマー。
    (「これなら、まだ動けますわ……!」)
     望の純白の羽衣に護られながらそう思い、気紛れに動く足で猟魔の脇腹へと蹴りを叩きこむ。
     猟魔がその一撃を脇腹に受けて僅かによろけた。
     表面上は冷静を保っていたが、自分を守って倒れていったアトシュを思い、これ以上仲間をやられたくないとあきらが螺穿槍。
     その突きが猟魔の体を大きく傾がせ、手数を増やしたほうが有効と判断した妃那が神薙刃。
    「この一撃で……!」
     鎌鼬が猟魔を斬り裂き、エアンがもう幾度目になるか分からない黒死斬を放つ。
     死角から放たれたエアンの刃が、猟魔の片足を叩き切った。
    「はっ……! 足をやられるとはなぁ……! だが、まだまだだぜ……!」
     猟魔が笑いながら、ベリザリオにガトリングガンを掃射。
     斬られても尚威力の衰えることのない無数の弾丸が、彼を撃ち抜いていく。
    「かはっ……!」
     あまりの火力の高さに力尽き倒れた。
    「貴様……よくも……!」
     ベリザリオが倒れる姿を見て、タガが外れたように怨嗟の叫びをあげて織久が我武者羅に影を放つ。
     幾千にも放たれた影の手が次々に猟魔に襲い掛かり、その体を締め上げ。
    「やっぱ、面白いデスネェ……あなたは!」
     あきらが笑いながら断罪ノ磔柱の先端から妖冷弾を撃ちだし、猟魔の身を凍てつかせ。
    「ベリザリオ先輩を、よくも!」
     怒りの翔のスターゲイザー。
    「久遠・猟魔。ここで私達が倒します……!」
     弧を描いた翔の蹴りが猟魔の顎に叩きこまれ、望もまた、赤いアネモネの花が描かれた刃で猟魔の身を斬り裂き、妃那が兎型の影を作り出し、猟魔の身を締め上げていく。
    「まだだよ。この程度の修羅場は此処にいる誰もが経験している……!」
     声を振り絞って疲労を振り払いながら、エアンが黙示録砲。
     回復を捨て攻撃へと転じたエアン達の攻撃は、猟魔を確実に追いつめていた。
     恐らく、猟魔も限界が近いだろう。
     だが、アトシュとベリザリオが倒れたことや、最初の段階で介入タイミングを遅らせたことが効いてきている。
    (「まずいですね、このままでは……」)
     兎型の影を放ち、猟魔を締め上げながら妃那がきつく唇を噛み締める。
     灼滅するには、手数が足りない。
     止めを積極的に狙っていたあきらや翔もまた、妃那と同じ結論に至ったその時。
    「死ねやぁ!」
     猟魔の剣閃があきらを斬り裂いた。
     それは、神業の如き一閃。
     あまりにも早すぎて、常人は勿論、歴戦の灼滅者達にも不可視の刃。
     致命的な一撃は、あきらを一瞬で『死』の間際へと追い込んだ。
     
      ――刹那。


    「チッ……そう、か……それがあった、か……」
     腹部に灼熱感を感じた猟魔が笑う。
     その腹部に突き刺されているのは白き刃を帯びた槍。
     そこに宿るは、深い闇。
     それに愉快そうな笑みを浮かべるあきら。
    「お主は強かったのぅ……じゃが……妾の『覚悟』は見抜けなかったようじゃな」
    「……いいぜ、テメェの勝ちだ。……この俺様の『戦神』の名と序列、くれてやらぁ……!」
     ずぶり、と言う音と共に。
     槍を引き抜かれ倒れ伏す猟魔。
     それと、同時に。
     闇堕ちしたあきらを何かが覆う。
    「あきら!」
    「あきらさん!」
    「あきら先輩!」
     エアンや、妃那、翔の呼びかけに『彼』は答えず、姿を消した。

     ――コレだから面白いんだよネ。

     ……灼滅者ってヤツはさ。

     戦果報告

     暗殺武闘大会決戦参加者:全滅
     灼滅:久遠・猟魔
     重傷:アトシュ・スカーレット
        ベリザリオ・カストロ―
     闇堕ち:狐雅原・あきら

    作者:長野聖夜 重傷:ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065) アトシュ・スカーレット(殺意なき白兎の死神・d20193) 
    死亡:なし
    闇堕ち:狐雅原・あきら(戦神・d00502) 
    種類:
    公開:2017年2月13日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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