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「みんな、第三次新宿防衛戦お疲れ様。……って疲れている所悪いんだけど六六六人衆に怪しい動きがあるみたいなんだ。サイキックアブソーバーの予知が出来ないから詳しい事はわからないんだけど、暗殺武闘大会の予選を通過したダークネス達が集まっているみたいなんだ」
分かっているのは「集まっている」という事実が一点。似たような場所は他に15箇所ほど。
「はっきり言って何をしようとしているのかは分からないんだ、ただあんまり歓迎したくない事が起きるのは間違いないと思う。……シャドウとの戦いの後で休みたいところだと思うんだけど、現地まで行って偵察して何が起きるのかを見てから、色々と上手くやって欲しいんだ」
何が起きるのか、そしてその時自分達がどのような状況であるかで為すべきことは変わってくるだろう。
「皆に行ってほしいのは、とある山奥に建てられた明治っぽい雰囲気の洋館だよ。そんな所にあるから周りに普通の人はいないみたい。そこにダークネスが5体から8体くらい。ごめん、ちょっと正確な数は分からないや。とにかくダークネス達はそこのダンスホールに集まってるみたいなんだ」
それで、とクロエは口ごもる。
「このダークネス達はそれぞれが予選を突破してるダークネスなんだ。だから実力も折り紙つき。まとめて戦ったらとっても危ないよ。ただ暗殺武闘大会が続いてるのなら、必ずダークネス同士で戦い始めるはず。だからどこかで介入するか、勝敗が決まった所で残ったダークネスを倒すとかそういう感じになると思う。今のところはだけど」
それさえも確定した情報とは言い難いのだろう。やや口ぶりが重い。
「今言ったのは予知じゃなくて予想だから、みんなのその場の判断が大切だよ。きちんと状況を確認してどう動くか決めてね」
状況次第では戦闘をせず撤退する事も視野に入れなくてはいけなくなるかも知れない。
「殆ど情報を渡せなくてごめんなさい。……それじゃ必ず無事に帰ってきてね、行ってらっしゃい」
●
静かさが辺りの異様さを演出する。妙なくらいに館の周囲からは生き物の気配がしな
い。かろうじて物音と言えるのは木々が風に揺らされて起こるざわめきくらいか。
「……静か……」
篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)がソラを撫でながら小さく呟く。不動峰・明(
大一大万大吉・d11607)は小さく頷き辺りを警戒するが取り立てて新しいダークネスが
現れるということは無いようだ。
「……罠ではないって事、だといいね」
灰色・ウサギ (グレイバック・d20519)が無線機を握りしめる。仮に罠ではないとす
るのなら、果たして何か。どうも妙な不安感が拭えない。
彼の隣で華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)は洋館の窓を双眼鏡で見や
る、カーテンが僅かに動いたのが見て取れたのをその目は逃さなかった。その事は無線
を通じて直ちに突入班に連絡された。
暫時。動物変身を用いて館内に侵入した者達は慎重に連絡のあった場所へと進む。そ
してたどり着くのは大きな木製の扉だもっとも長年の老朽化で立て付けは悪く中を覗き
見るのは容易だ。一行は慎重に中を見る。
(「ダークネスは……8体か。666人衆とアンブレイカブルか、だが」)
(「戦う様子は無いな、なんだ?」)
久遠・翔 (悲しい運命に抗う者・d00621)とニコ・ベルクシュタイン (花冠の幻・d03
078)は互いに目配せをする。8体のダークネスはそれぞれに武器を携えてはいるがそれ
を向け合う事はない。ただ表情からして互いに利用しあおうと言う印象であり、また腕
時計を見ている者もいる。
(「……待っている?」)
卜部・泰孝 (大正浪漫・d03626)の脳裏に疑問が浮かぶが答えが出るよりも早く、静
寂を打ち破るような音が響き渡る。
(「――柱時計?」)
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)の得た情報ではここは遺棄されて長い場所
のはずだ。まともに稼働しているわけがない。だが視線の先のダークネス達は一斉に武
器を構える。
「若輩者の挑戦を受けるのも、また道理というものであろう」
「ぎゃあああっ!?」
「さて、我らのナンバーに値するか見てやろう」
何者かの言葉ともにと突如ダークネスの一体が断末魔を上げながら消えていった。そ
う「断末魔」である。
(「なっ……!?」)
灼滅者達が一斉に息を呑む。殺されたダークネスの背後に立っていたのは古めかしい
背広と帽子を身に纏った、老紳士に見える何かであった。老紳士はまるで普通に散歩を
するかの様子でダークネス達の攻撃を躱し、手にしたステッキを軽く振るだけでダーク
ネス達に大きな傷がついていく。
(「ハンドレッドナンバー……!?」)
翔がその正体を即座に理解する。灼滅者達は即座にその場を離れて声がダンスホール
に届かない場所に移動する。
「……まさかあのダークネス達がハンドレッドナンバーを倒すために集まっていたとは
。これが暗殺武闘大会決戦なのか?」
「分からん。だが無関係ではなかろう。さて、どうするか」
車座になり相談を始める一行、こうなると彼らだけでは判断はできず無線を通じて待
機班も含める。
「このまま戦闘を最後まで行わせて、勝ち残った側が消耗しているうちに撃破すればい
い、しょうか」
「いや、むしろ暗殺武闘大会の目的がハンドレッドナンバーを倒すことならば邪魔すべ
きでは」
「……でも、ハンドレッドナンバーは危険……」
「やるなら、ウチたちだけじゃなくてそこにいるダークネスを手伝った方がいいかもね
。後のことはその時に」
「ですが、彼らが手を組んで襲ってくるかもしれません。そうならないような立ち振舞
も必要なのだと思いますわ」
考える時間はそう長くはない。灼滅者達はどう動くのかを決断せねばならない所にき
ていた。
参加者 | |
---|---|
久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621) |
華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389) |
ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078) |
卜部・泰孝(大正浪漫・d03626) |
不動峰・明(大一大万大吉・d11607) |
灰色・ウサギ(グレイバック・d20519) |
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809) |
篠崎・零花(白の魔法使い・d37155) |
●
「……待機組はまだですの?」
「機に間に合うことは能わず」
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)の問い掛けに外を窺っていた卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)は突入に間に合わないという意味の言葉を返した。
「仕方ない、俺達だけで行くしか無いだろう」
「……覚悟を決めるしか無い、か」
ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)と久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)互いに頷くと扉の向こうの死闘に意識を集中する。そしてそこから幾ばくかもしない間にアンブレイカブルがハンドレッドナンバーに殺されて消えていく、残りの通過者は5人だ。灼滅者ら4人は意を決して戦場へと飛び込んだ。
「何者か? 先程から窺っていたようだが」
「灼滅者!?」
ハンドレッドナンバーは突然現れた彼らにも動じず返し、通過者達は驚いた様子で声を上げる。通過者達が迷う前にニコが端的に説明する。
「ハンドレッドナンバーを灼滅することが目的だ」
「こちらからあなた達を攻撃するつもりはありませんわ」
白雛は自らの感情を押し殺して通過者達に伝える。目の前のハンドレッドナンバーの方がより力なきものに対する災いとなりかねないから。通過者達はそれぞれに不満げな表情を浮かべつつも武器をハンドレッドナンバーの方向からは外さない。
「的は増えたほうがお前らに行く攻撃は減る。こっちとしては攻撃力が足らん……つまりそーゆーこった。たがいに余裕はないだろ?」
翔がそう言いながら近くにいた通過者の傷を癒やす。回復量はダメージに対して大きくはないが、不調のいくらかは取り払えたようだ。
「……これは面白い。私が眠っている間に灼滅者を利用する世界になっていたとは」
ハンドレッドナンバーは帽子を目深に被り、口元の皺を歪ませる。
「成程、浦島太郎か」
「元からこの姿だがの」
泰孝と世間話をしているようにも見えるものの、老人は歩く様も気取られること無く相対する者の死角に常に入り込んでくる。
「俺の名は久遠・翔。殺人鬼だ……あんたを殺しに来た」
666人衆として純粋にその技を極めているように見える相手に翔は問う。
「……それで、あんたの名は?」
「序列六十、立壁・剣治郎。口の悪いのは『ウォール』と呼んでいたがの」
「ご老体よ、いざ、胸を借りよう」
「殻付きのヒヨコには負けんさ」
ニコの言葉にウォールは小さく返した。
●
その頃待機組は山道を全速力で急いでいた。それほど離れていないとは言っても、やはりそれなりに時間はかかる。そしてそれだけの時間の差は戦場に於いて生死を分ける境目と充分に成りうる。
「もう始めてるみたい!」
「間に合わなかったか」
灰色・ウサギ(グレイバック・d20519)が通信機から最後に聞いたのは突入するというメッセージだけ。不動峰・明(大一大万大吉・d11607)は淡々と状況を確認し足に力を込める。
「……戦争直後なのに忙しい」
「仕方ありません、どの組織も動いているのですから」
篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)と華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が互いに走りながら言葉をやり取りする。ただそれ以上は何も言わずに走るのみ。彼らの失念していた事があれば、ハンドレッドナンバーを除いても強力なダークネスが確実に居る場所に全員で行かなかったと言う点に尽きる。戦いの可能性は充分にあった以上、軽率であったと言えるだろう。
待機組の灼滅者達が草木を折りながら館に着き扉を開ければ、既に通過組のダークネスは4人になっており灼滅者達も傷がついていた。
「ふむ、まだいたのか」
「我ら、貴殿らダークネスに比べ脆弱な存在よ。仲間と合流待たず介入すれば各個撃破の良き的、無為な行動。尤も、此度は合流待つが悪手と見た故、危険承知で介入した次第也」
「だがお主等のようななりそこないを相手にするほど暇ではないのでな」
泰孝の言葉にハンドレッドナンバー・ウォールは事も無げに言う。実際に8人揃ったところで、通過組のダークネスと対等くらいの強さである。無傷ではないとは言えウォールは既に半数のダークネスを倒している。軽視されても仕方はないだろう。
「これがハンドレッドナンバー……!」
「これはお嬢様、あなたとのダンスはまた後でしましょうぞ」
「……っ。華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
紅緋の放った神薙刃は床の埃を舞い上がらせるだけの結果となる。そのウォールとは言うと既に傷を負っている通過者の背後に立っている。そこから放たれる神速の一撃は果たして届かない。
「………っ」
阻んだのは明の白刃とその体。かろうじてその表情を崩さなかったのは、僥倖と言っていい。
「耐えるか。なりそこないの身でここまでとは中々」
「……やばくない? あれ?」
「俺達も余裕で殺されるからな」
ウサギが冷や汗を垂らしながら呟けば、ナイフ使いの666人衆が目を敵から離さずに返す。多分似た表情をしているのだろう。
「……ソラ、一緒に回復を」
「にゃ」
零花は揃って明の回復にまわる。揃ってようやく二発目が耐えられるかどうか、と言うところだろう。限りないほどの死の香りがダンスホールに充満していた。
●
ウォールの言った通りにダークネスから次々と倒されていく。これは単に力量差と言う話だけではなく、灼滅者側の戦術に依る所も大きい。彼らの選択はどちらかと言えば万全に勝ち上がり組のダークネスを援護するような形ではなかったが故に。
「ぐあっ!」
また一体ダークネスが消える。積極的にかばう選択やメディックからの回復があればもう少し保ったかもしれない。合流が遅れ通過組が少ない状態で突入するという不利な状況が考えられる中で、さらに自分達が不利になる選択はハンドレッドナンバー相手では大きな失点だ。「これでは!」
ダークネスの力を利用するのは気乗りしないと考えていた紅緋は歯噛みする。そう言った内心の葛藤が戦況に影響した可能性は否めない。
「闇堕ち、か……!」
「成程それもよかろう、なりそこないでそれ程の腕なら強者と成るだろう」
ウォールはニコの言葉を聞きながら通過組を屠る。残りは1だ。
「ちっ! 貧乏クジ引いちまったぜ! これじゃあ殺す前に殺されちまう!」
「殺生しか使い道なき刃を振るう。いくら言葉で繕うとも、所詮は我も闇と同じやもしれぬな」
傷を負っている残り一体となった相手に泰孝は回復を行うが、それもどこまで保つか。
「……あと、一度くらいか」
冷静に自分の傷の状況を確認した明は零花達から回復を受けつつ呟く。そしてその一回もどれだけの役に立つだろうか。
「大ピンチってやつっだね……!」
「それでもヒーローは諦めない!」
ウサギの冷や汗は止まらないが、白雛は踏みとどまろうとする。そして続く逆境の中、遂に通過組のダークネスの最後の一体も倒される。翔はその隙をついてなんとか一太刀浴びせるものの、倒すにはまるで至らない。
「さて、おまたせしましたな。これより諸君らの相手をしよう」
●
改めて相対してみればウォールと今の灼滅者達との間には大きく力量差が開いている。当然である、灼滅者より強いダークネスの更に生え抜き8体で戦いを挑まれていた存在である。どんな攻撃も当てられなければ意味はなく、如何程の耐久力もそれ以上の攻撃力を持ってすれば紙に等しい。
「さて、まずは軽く見てやろう」
ウォールはステッキを床にとんと落とす。同時に身を焼かんばかりの殺気が灼滅者達に向けられる。
「……!」
だがその殺気が散らばるよりも早く、明がウォールの前に立ちはだかりその体で全てを受け止める。通過組を守っていた彼の体は流石に耐えきれず、ここに来て崩れてしまう。
「……相手も無傷じゃない。攻めましょう。ソラも」
「……さぁ、断罪の時間ですの!」
回復する相手のいなくなった零花が攻撃を放ち白雛がそれに続く、だがそれらの攻撃はなんとか届くものの大きな痛手にはならない。
「万事休す。全滅必至、か」
圧倒的な実力差、そして敵はハンドレッドナンバー。ここで負けてしまえば命は無いだろう。
「……悪い、皆」
翔が呟く。同時に強い殺意が彼を中心に放たれる。
「殻を破ったか。成程、お前さんならそれなりのナンバーを持てるだろう」
ウォールはどこか嬉しそうに言うと飛びかかってくる翔の一撃をステッキで受け止めるが、その勢いに弾かれて刃が深く背広を切り裂く。ウォールは痛みに顔をしかめならも、すぐさまに身を翻して彼の側面から一突きに。そこにウサギが割り込む。
「……! させないよ!」
虹の刃を打ち砕きながら自らに届いた攻撃の重みをその身で理解するウサギ。明はこれを数発も受けていたのかと改めて感じる。
「全力で彼の援護を!」
紅緋の赤い影がウォールを捕まえようと迫るが、その上からステッキを突き立てて棒高跳びの様に宙を待って回避される。だがその着地したところに翔のナイフが迫る。
「……これで、止めだ!」
「まずいっ!」
誰かの声がホールに響き渡る、同時にウォールの体が灼滅されて消えていく。
●
「……恐れるか、『ハンドレッドナンバー』を」
ウォールは膝をつきながら自らに止めを刺した相手を見上げる。
「……それだけではないがな」
ニコはゆっくりと武器を引き抜いた。すぐさまについそこまでいた翔に目をやると既にこの場にはいない。彼の表情からは強い悔しさが滲んでいる。
「彼奴にナンバーを継がせるのも悪くないと思っていたのだが」
「……それはきっと私達にとってろくでもない事になったと思いますわ」
白雛は小さく返した。闇落ちした殺人鬼は666人衆となる、そんな彼にハンドレッドナンバーが渡ってしまえばどうなるか。
「ともかくもお前たちは『壁』を超えた。その向こうに何があるのかを確かめるといい。老骨はここで退場だ」
そしてハンドレッドナンバーは消えていく。
「静かになったね」
「……はい」
ウサギが呟くと明に包帯を巻いていた紅緋が頷いた。ついさっきまでここで死戦が繰り広げられていたとは思えない。
「ハンドレッドナンバーは灼滅、宍戸の手の者も全滅。されど……」
「……これから忙しくなりそうね……色々と」
泰孝と零花はため息を吐いた。666人衆の脅威は未だ尽きそうにない。
作者:西灰三 |
重傷:不動峰・明(大一大万大吉・d11607) 死亡:なし 闇堕ち:久遠・翔(宿命終わりし者・d00621) |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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