ありがとう。
だいすき。
そばにいたい。
力になりたい。
誰よりも笑顔がいとしくて。
泣きたいほどに――あなたを、想う。
秘めた想いが、こころから溢れそうなら。
そのひとしずくを、そっと。
甘いあまい、チョコレートの宝石に。
●a peine
都心であることを忘れさせるほどの、広大な緑。
その森とも言える公園のそばにあるのは、1軒のショコラトリー『le cœur』だ。
白い外壁を彩るのは、冬でもなお鮮やかな常緑樹。同じく白で統一された店内に満ちるのは、淡く柔らかな木漏れ日のぬくもりと、甘い香り。
チョコレートの出来上がりを待つ来店者のために用意された木目の建具は不規則に、遊び心たっぷりに置かれ、ソファや椅子に添えられたビビットカラーのクッションが彩を灯す。
「ビーントゥバー?」
聞き慣れぬ言葉に首を傾げた多智花・叶(風の翼・dn0150)へと、甘味と珈琲をこよなく愛する小桜・エマ(高校生エクスブレイン・dn0080)はほわりと笑う。
Bean to Bar――カカオ豆(ビーン)から板状(バー)になるまでの、買いつけは勿論、焙煎や製造に至るまでの一貫作業。それを行っている店なのだと、娘は瞳を煌めかせる。
「そこに、この季節だけ作られる特別なチョコレート……ううん。『宝石』があるんです」
宝石ショコラ。
その呼び名に相応しいそれは、宝石に似た色と形が選べるという。
たとえば、同じ赤でも色の濃いガーネットならビターチョコレートを、ピンクに近いルビーならホワイトチョコレートをベースに色を乗せる。
形も、カボション・カット(半球状)をはじめ、ラウンド・カット(円形)、スクウェア・カット(正方形)、ハート・カットやドロップなどの珍しい型も用意されている。
そうして選んだ色と形をもとに、ショコラティエが創り出す。
世界で唯ひとつの、宝石ショコラを。
止まない想いがあるなら。
言葉にできない願いがあるなら。
こころから溢れたそのひとしずくを、甘いあまいチョコレートに包んで。
燦めく宝石にして渡してみれば、きっと。
きっと――届くはず。
●弾む聲、踊る心
緑の路を抜けたその先に佇む店の前に立てば、甘い薫りがふわりと鼻腔を擽った。
カラン。
扉の鈴の音と同時に、店内に満ちるぬくもりが冷えた身体を包み込む。外の冷たい空気に冷えて赤みを帯びた耳に、じんと熱が染み渡ってゆく。
ディスプレイの内に並ぶ、色とりどりの燦めくチョコレート。見入るように眺める彰の傍ら、悩んだ彩希は、恋人を想いながら濃青のカボション・カットを注文する。
「わ、私は、色はオレンジで、形は円のを……」
「彰ちゃんは誰にあげるのかしら」
「はわっ!?」
おひさまのような宝石が似合う誰か。浮かんだ姿は恐らく同じだろう。頬染むまま顔を振り、動揺しながら悩んだ末、ないしょなのです、と俯く彰に、彩希も「頑張って」と頭を撫でる。
おひさまに似合う煌めくクリスタルの箱。ショコラより尚深い蒼のベルベット。互いに選んだ想い人の箱色に、ふたりの笑顔がもひとつ重なった。
高校で共に過ごす時間もあと僅かだから、想い出になる贈り物を。そう都璃から助言を求められ、エマがふふ、と愉しそうに笑う。
「都璃ちゃんってば可愛い! んー……私なら、相手が私を想って用意してくれたものなら何でも嬉しいかも」
「……そりゃそーだけど。もっと具体的にねーのか?」
異性に送ると見せかけて、実はエマ本人へのものだろうと察した叶が尋ねれば、
「私の好み? なら、ビターでローズカットかなぁ」
夜空の星みたいなチョコレート。そう綻ぶ親友と、都璃もまた同じことを想っていた。きっと喜んでくれる。そう安堵しながら、つられて微笑を零した。
いつものように叶を巻き込み、サンプルを眺めるシエラ。
「宝石は実家で色々見た記憶はあるんだけど……あ!」
祖母が身に着けていたものによく似た、薄紫色のアレキサンドライト。
「これにするのです……って、カナ君は何用でここに?」
「何って……バレンタインの贈り物探しに、だろ?」
「はっ!?」
「知らなかったんかい!」
「じゃあ、できあがったらカナ君にあげるのです!」
いつも世話になっている礼に。ついでにクラブの皆にも買収用に何かを。色々ツッコミ所の多い娘に苦笑しながら、濃い桜色が似合いそうな娘へ、少年も返礼の品を考え始める。
想うのは大切な家族たち。口の中でそっと呼び名を紡ぎながら、左手の指を折る。
父母や兄は貰ってくれるだろう。けれど、暫く顔を合わせていないもうふたりの親戚の兄たちには渡せるだろうか。
それでも、陽桜は選ぶ。
誕生月を模した半球状のちいさな宝石。今でも世界に唯ひとつの、大切な家族たちのために。
決して枯れぬ愛しい想い。どれ程に眩しく、頼れ、大切な存在か。蕩ける甘さとともに伝わるように、華月は願いを籠めてチョコレートを選ぶ。
どんな青とも違う、心の泉から溢れた想いの水面。
その淡い青に散らした銀箔は、水に燦めく光たち。ビターな雫石に零れ閉じ込める想いも、甘く、甘く。
アイオライトを思わせるティア・ドロップ。艶のある青みを帯びた淡いブラウンは、ミルクチョコレート味。
選び終えた響は、あの人からのショコラを想いながら微笑する。
――こ、これ、真空パックして、冷凍して、一生保存しておきますねっ!!!
どんなものでもきっと、嬉しくて舞い踊って。顔を赤らめ高揚しながら、そういうに違いないのだ。
最高の宝石を、と璃依が選んだのは翔琉への想いの形――ハート型。箱は憧れのジュエリーケース。
「カケル、何色がいーい? というかどんなの作るんだー?」
「俺のは……秘密」
毎年貰ってばかりだった翔琉が意気込み選んだのは、ベリーで甘酸っぱさと艶やかな赤を加えたミルクチョコレート。光沢煌めく円形は、尖りのない彼女そのものだ。
あいつは自分のことをクールだのシャープだのと言ってるけど。くすりと微笑しながら、ちいさな宝石箱を思わせる箱を選ぶ。
「食べるのもったいないよねー」と、ふにゃり笑顔を向けたと同時に響いた腹の音。思わず苦笑する翔琉に、璃依は顔を染めながら翔琉の服の裾を掴んだ。
●流るる刻、紡ぐ想い
店内を包む穏やかな冬の陽だまりが、葉陰が揺れるたびに形を変える。
オフホワイトのソファに身体を預けながら、囁き交わすのは恋の話。いつもは声にできない心の内も、甘い薫りにつられて毀れてゆく。
ひよりが選んだのはサンストーン。互いの想いがぬくもりと優しさと安堵感をくれる。彼の隣にいて良いのだと自信をくれる。
そう染まる頬を隠すようにカカオティーを飲むひよりに、面映くなった顔を掌で覆いながら瑠音も返す。
「私も、並べてるかなって少し不安になるの」
けれど、想うだけで胸があたたかくときめく唯一の存在。
優しい瞳の色を、相棒のナノナノを想い選んだローズクォーツ。格好良く頼もしく、男らしいのに押しつけない。いつも可愛いと紡いでくれる、大好きで大切な彼。
「……すごくすごく、大好きなんだね」
煌めく瞳が運ぶ甘い想い。伝わるぬくもりに、ひよりも花のように綻んだ。
ホワイトチョコレートを元に作った、カボション・カットのペリドット。クリスタルの箱入りで出来上がるであろうそれを待ちながら、宝石ショコラの発案に感嘆の声を洩らす周。
「本当、凄いですよね。ところで周さんは誰に贈るんですか?」
「特に決めてはいないな。やっぱりアタシからチョコもらいたいなら、竜を倒してくるくらい強くねえと! 素手で」
「素手!」
驚きながらも笑うエマへと、ひとつの提案。
「もしよかったら交換してくれないか?」
「ふふ、喜んで!」
じゃあ、私も何か選んできますね。周さんなら赤い色かな? そう独りごちながら立ち上がった娘は、ひとつ笑みを残してゆく。
思っていたよりもずっと綺麗で、更に甘くて美味しい宝石ショコラ。
それって本物の宝石よりすごい気がする! と、ショコラショーを飲みながら声を弾ませる穂純に、叶も微笑み頷く。
「穂純はどんなのにしたんだ?」
「私はね、サファイアをラウンド・カットにしてみたよ」
叶の誕生石を模したそれは、いつも共に遊んでくれる少年への感謝を込めて。交換して貰えたら益々嬉しい、と微笑む娘に、叶も礼を添えながら照れくさそうに笑う。
「なら、おれからはオレンジの石な」
穂純って陽だまりみてーだから。あ、サファイアでオレンジってあるか? 形は好きなの選んでいいぞ。少年からの感謝も、石に変わる。
ちいさな満月と三日月に分かれるラウンド・カットの月長石は、叶とその父親への贈り物。そう語る言葉の意味に気づく様子のないエマへは手製の指輪チョコレートを渡し、問いかける。
「ね。この間の防衛戦――貴女は、覚悟を決めたりしました?」
「……覚悟なんて勇気の要ること、できるような人間じゃありません」
だから、未だ歩き出せずにいる。依頼でも皆に縋り待つことしかできない。祈ることしかできない。そうカップを両手で包みながら瞳を伏せる娘へ、魔女は言う。
「それでも構いません」
いつまでも、最後まで私たちの魔法を待っていて欲しい。この指輪にかけて。友達に先に諦めさせるなんて、魔女の永遠の恥ですもの。
想いの彩と象。
己とは縁遠いものに、如何したものかと顔を伏せた先。絡繰人形の烏子の、その綻ぶ夕色の双眸の奥に朧気な景色が浮かぶ。
唯々微笑み続けていた、名も顔も過去も知らぬ彼女。唯ひとつ覚えているのは、夕闇が影を落とす雨の日に濡れた、あの眸の色だけ。
彩失くした烏芥が悩み選んだオレンジピンクの金剛石を、職人がティア・ドロップにカットしてゆく。ビターもミルクも綯い交ぜにした、ほろ苦くほの甘いひとしずく。
償える訳はないと識れど、君が安心して泣ける世界をほんの僅かでも。そう祈りながら、毀れたこころの雫を水晶匣へ収めて、そっと蓋を閉じた。
●甘く、甘く、溶けゆく心
ひとつ、ひとつ。
完成の報せを受けるたびに増えてゆく、甘く香るチョコレートと笑顔の花。
今日はぎょーさん、おなごらしいことするんや。なんて瞳を輝かせるまり花が一番、女の子らしいと千波耶は思う。
「あの人のお誕生月って、いつか分からはる?」
「12月かな?」
「せやったらこれとか、どないやろ?」
指さしたターコイズ色に、宝石言葉を思い浮かべた千波耶も賛成の声。箱は黒ベルベットに決めて仕上がりを待つまり花へ、一足先に出来上がった千波耶がベルベットの紅色箱を差し出した。
「滑らかな乳白色の中に色んな彩のfireが揺らめいてて、まり花みたいだと思ったの」
「えろう綺麗や……。千波耶はん、ほんに、おおきになぁ」
ホワイトチョコレートで作られた煌めくカボション・カットのオパールに、まり花は一等愛らしく花綻んだ。
真珠貝を思わせる色合いの箱をそっと開ければ、ホワイトチョコレートをビターチョコ、更に銀箔で包んだ真珠のような宝石ショコラ。
「お、すげー綺麗なチョコだな」
見かけて立ち止った叶がそう声をかければ、
「以前に……そして最近も会った、奇妙なご縁のある少女『達』のことを想ってお願いしたものです」
「……あのシャドウたち?」
窺うように問う叶へと、ステラは頷く代わりにふわり瞳を細める。
言葉にできぬ想いを抱く錠と、言葉にならぬ想いを抱く葉。
すっげェ! と出かかった感嘆を堪え、高揚気味にクリスタルケースを受け取る相棒横目に、女子かよ、と葉は半ば呆れ気味に嘆息した。
内に眠るのは、薔薇輝石をモチーフにした雫型の真紅ひとつ。
「鮮血みたいでイカしてるだろ」
ずっと紅い月を追っていると想っていた相棒に、もう遠慮はない。いつかこれよりも血濡れた世界を見せてやる。そう音にならぬ言葉に、葉もまた不器用に言葉を手繰る。
一番苛立たせるのも煩わせるのも、望みを理解っているのも、そしていつかそれを叶えてくれるのも――お前。
味だって容易に想像がつく。ぐにゃりと柔く、口の中で溶けて絡みつく、あまくてきれいな殺意。
「ああ、すげぇイカしてる」
イカれ加減も含めて、な。
とてもありきたりでくだらない、特別なもの。それを言葉にしないまま、葉は血色の石を胸にしまう。
「見て見て茨センパイ、ボクの瞳の色に似てない?」
顔の高さに黒のベルベットケースを掲げた結奈に、茨も硝子の奥の眸を細める。
「へぇ……凄いな」
オーバル・ブリリアントカットの柘榴石。金の散る深紅を、最上の研磨法で形作って生まれた煌めきは、彼女らしい彩と光。
「すごく想いの詰まったチョコになったね」
綺麗過ぎて食べるのが勿体ないけど、と内に秘めながら。オレも嬉しいよ、とそっと白磁の頬に触れれば、
「うん……帰ったら、一緒に食べようね。キレイだからだいぶ勿体な……」
娘は心地よさそうに伏せていた瞳をぱちりと開いて、とびきり愛らしく笑う。
――茨センパイ。もしかして今、おんなじこと思った?
本当は虚勢程度の自信を微笑で隠して、櫟は鈴親と唯ひとつの石を贈り合う。
銀箔散らしたアクアマリンとターコイズ。彼が生まれた日もこんな優しい青空だったのだろうか。そう嬉しさを滲ませる娘の様子に、知らずと互いに誕生石を意識したことに気づいて頬が熱を帯びる。
「食べ物に青色なんて……ちょっと不味そう」
「あはっ、本当。どんな味がするのかな」
それはきっと、今まで食べたどれよりも、甘くて、特別な味。
赤らむ顔を意地の悪い笑顔で胡麻化して、その深く澄んだ瞳の色には適わないな、なんて思いながら。
先に味見してよ、と櫟が差し出し娘がそっと口づけたそれを、気づかぬ振りで味わって良いだろうか。
愛してます、と頬染む想希が差し出したのは、クリスタルケースに入った紅玉。君の色たる赤は、愛と勝利を齎す石。いつも導いてくれる彼そのもの。
「想希のハート受け取ったで! その気持ちを丸かじりしたる!」
変わらぬ愛を願って選んだハート・カット。石ごと抱きしめた身体を一度離し、左手貸してや、と悟が囁く。
首傾げれば、そっと薬指に嵌められた銀環。煌めくのはシャンパンのジュレとガナッシュで作られたダイヤモンド。
俺の王様には、宝石の王様を。愛してるで! と溢れる笑顔に益々火照りながら。銀環煌めく左手を顔に添えて、似合いますか? と想希もはにかむ。
そっとしまった大切な煌めきはきっと、唇に触れれば甘く溶けてゆく。
明莉の石は、ドロップ・カットのローズクォーツ。ほんのり桜色のホワイトチョコレートは、ベルベットの小箱のワインレッドも相まって、最近綺麗だと想うことの多くなった少女に良く似合いそう。
心桜の石は、カボション・カットのガーネット。
クリスタルケースの内に在るフランボワーズで包んだビターチョコレートの玉石に、思わず感嘆の息を洩らす心桜から聞いた宝石言葉。倣って明莉も調べてみれば、『愛と美の象徴』――成程、道理でナノナノのここあに色合いが似ている。
「……問題は、明莉さんが食べられるかどうかじゃなあ」
甘い物が苦手な青年を伺う娘には、笑顔をひとつ。
「食べるよ、心桜の贈り物なら何でも」
……口移しでくれてもいいよ?
せーので開けよう。その壱からの提案に頷くと、みをきは想いを籠めて一撫でした小箱を対面へ。
ベルベットの内に見つけたハート・カットの薄紅色は、まるで毎日貰っている甘い甘い心の形。思わず吹き出す壱に、勇気を出した甲斐あったとみをきも柔く笑う。
壱からは、ドロップ・カットの琥珀。
「身につけるのなら似合う色にするんだけど」食べてしまうなら、俺にある色がいい。照れ混じりの笑顔に、幸せ心地で返す微笑み。
「ね。あなたから貰える色なら、俺は何でも喜んで身に付けますよ」
だから、全てを俺に下さい。そう願う掌には、一等大好きな榛色。輝く宝石の味は、きっと何よりも甘い。
「これ、暫くは飾っておきましょうか」
「えっ、また?」
みをきの言葉に、脳裏を過る去年の失敗作。今年は食べてもらえるよう、家に着くまで壱の脳内会議が始まった。
若草色の箱の中には、銀箔舞う白のブリリアン・カット。
ダイヤモンドの持つ言葉と力を、きみに。重なる左手薬指の指輪とメレを見つめながら染みゆく幸せ。
「……ありがとう、希沙さん……」
返した言葉にはにかむ希沙へ小太郎が贈るのは、夜空色の小箱。
「こたろ、これ……!」
淡虹浮かぶ乳白色のラウンド・カット。2周年祝いの贈り物にも潜ませた月長石は、ふたり歩む道を照らす石。
形を変えて伝わり、繋がる心。破顔と感謝で重ねた掌を、小太郎もまた握り返す。
「こたろ……だいすき」
「だいすきですよ、……希沙」
そんな不意打ちの呼び捨てに、もひとつ笑みを重ねて。
体温に、心に解け合う想い。もっともっと伝えたいたくさんの心を交換しよう――何度でも。
作者:西宮チヒロ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:簡単
参加:32人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 3
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