バレンタインデー2017~無難にチョコでも――

    作者:聖山葵

    「そんな訳あるかーっ!」
     そう、鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)が絶叫したのも無理はない。
    「バレンタインと言えば素肌にチョコを塗りたくって意中の男子に突撃する奇祭だが」
     とか座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)が前置きしようとしたのだから。
    「まぁ、出会い頭の小粋なエクスブレインジョークは置いておくとして」
    「その酷い冗談にエクスブレインの名を冠した時点で他のエクスブレインの人達からの抗議必須だと思うんだけど」
    「それはさておき、だ。季節は移り変わり、いよいよ2月ッ!」
     ジト目をした和馬から顔をそらしたはるひはバレンタインに備えて準備をしないかと君達に問うた。
    「色々考えたのだがね、やはりここはオーソドックスにチョコ作りをしようと思う」
     なんでも家庭科室の一つを確保したそうで、道具も材料も100円ショップで確保したものがあるのだとか。もちろん、材料の持ち込みも歓迎だ。ただし、一般的に食べられないようなゲテモノを持ち込んだ場合、有志によってつまみ出されることになるだろうが。
    「備えあれば憂い無し、作るチョコレートは本命用でなくても構わない。義理チョコを量産するのも友チョコを作るのも自由なのでね」
     残念なことに相手の居ない私も作るのは義理チョコになるだろうと告げたはるひは、そのまま和馬を見た。
    「と言う訳で、少年も年頃の女の子として参加していってはどうかと私は思うのだがね?」
    「解っていて言ってるよね? オイラの性別わかってて言ってるよね?」
     自称ごく普通の男の子がはるひの襟首を掴んでがっくんがっくん揺さぶったのは、無理もない。
    「最近は自分用にチョコレートを用意する男性もいるそうですし」
    「緋那姉ちゃん、それフォローになっていないから」
     口を開くここまで黙って様子を見守っていた倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)に和馬ははるひの襟首を掴んだまま振り返ると顔を引きつらせたまま言い。
    「そう言う訳で、チョコ作りの日時と場所はあそこの黒板に書いてある通りだ」
     相変わらず和馬に襟首を掴まれたまま気が向いたら参加してくれると嬉しいとはるひは君達に後背の黒板を示してみせるのだった。


    ■リプレイ

    ●あつまれ
    「和馬、ここなんだぜ!」
     なんやかんやで結局参加することになったらしいクラスメートの姿を認め、葵は軽く手をあげて見せた。
    「あ……何だか盛況だね」
     自分を含めれば二十人近い人数が集まる家庭科室前で【七星】のみんなで参加してるしなと葵は補足し。
    「お、お世話になってる方に渡すのもいいですよね」
     たまたま示された先で【七星】の仲間と言葉を交わす満月が少し恥ずかしそうに微笑んだ。
    「何というか、平和だよね」
    「平和なんだぜ」
     そう、少なくともこの時点でハプニングの気配はない。
    「もっちぃ、バレンタインもっちぃ。鏡餅もいいけど今回はチョコにするなり」
     何やら決断を下す玲子はこの学園に来て一年になるも恋人は出来ないらしいが、悲しみのあまり胸からぶつかって行くとかそう言う奇行に出ることもなく。
    「オッス! はるひ先輩とはかなり久しいかな」
    「ふっ、かもしれんな。息災で何よりと言わせて貰おう」
     不安要素で言うなら上位の一角に当たる座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)はイヴと割とまともに挨拶をしているところであり。
    「暫く戦い続きだったから、今回のチョコレート作り楽しく参加させて貰うな」
    「そうか、満喫して行くと良い」
     そちらを見ていた誰かからすれば、耳を疑いかねない程不穏さが皆無なやりとりが行われる向こう。
    「諦めた♪ その代わり年下の恋人作りをするなり」
    「弟の凍華も一緒に来たから宜しく頼むぜ。ついでに小学生だ」
     何やら方針転換することを表明した玲子の方が尋常らしからぬ気配ではあるが、そちらをスルーしつつイヴが横にいた凍華を紹介し。
    「初めましてぜよ。わしは鑢と申しますぜよ。兄貴やイヴが御世話になっとるぜよ」
    「これはこれは、丁寧な挨拶痛み入る。初めましてだな、座本・はるひだ。以後よろしくお願いしよう」
    「今回はチョコ作りに参加させて貰うぜよ」
    「歓迎しよう。小学生とチョコ作り……何と素敵なこぺっ」
     割とまともな挨拶だったのに最後の方でメッキの剥がれる様を晒しかけたはるひの頭を丸めたパンフレットが叩いた。
    「まあ、こうなることは予想出来てたわね」
     ツッコミではるひの暴走を止めた翠はパンフレットを弄びつつ、くるっと向きを変え【七星】の仲間を見る。
    「分かってると思うけど素肌にチョコを塗って突撃する奇祭じゃないし普通のイベントよ」
     おそらく、真に受ける純粋な灼滅者や世間知らずな灼滅者がいることを考慮して釘を刺したのだろう、ただ。
    「だから、あれもバレンタインとは関係ないわ」
    「ごめん……なさい」
    「ふ、関係ないと言うよりただの事故だと言わせて貰おう」
     叩かれて蹌踉めいたところを支えようとした零桜奈に胸を鷲掴みされたまま、動じないはるひは徐に鍵を取り出す。
    「さて、人も集まってきたことだしそろそろ始めさせて貰おうか。零桜奈」
    「あ……ごめん」
     流石にそのままの体勢では鍵穴に鍵を差し込めなかったのか、声をかけられた零桜奈が慌てて手をどけると、扉の前まで移動し、家庭科室の鍵を開け。
    「さ、入ってくれ」
    「そうですね。みなさん、行きましょうか?」
     はるひに促されて頷き、蒼香は後方の仲間達へ振り返る。
    「ですね。まずは器具の準備からでしたか……」
    「材料もあるみゃね」
     ちらりと入り口脇に置かれたダンボールを結城が見れば、箱の隣にしゃがみ込んだクロがチョコレートの文字を箱に見つけて呟き。
    「では、ひとまず中に運びましょうか」
    「そうね」
     結城を含む幾人かが家庭科室には常備されていないであろうチョコ作りの道具屋材料を運び込んで行く。こうして、チョコ作りは始まるのだ。
    「は、始まるまでに、けっこうかかってしまっている気もしますけど」
     そこはスルーでお願いしたい。

    ●チョコを作ろう
    「おーっほっほっほ! チョコ作りは淑女の嗜み、私の腕前見せてあげますわ」
     家庭科室に響き渡るは、静夜の高笑い。
    「気合いは充分と見た」
     こうではなくてはなと笑みを浮かべたはるひは、取ってきたチョコレートを割るとまな板の上で刻み始め。
    「ひな先輩にはるひ先輩は誰にチョコレートをあげるぜよ?」
    「む?」
     先に問いを投げたのは、凍華。
    「鳥井君にあげるのにする。それとも小学生向けのにする?」
     だが、はるひの手元から顔へと視線をやって登も問いかけた。きっと、誰にあげるものを作っているのか計りかねたのだろう。
    「前言を撤回する気はないのでね、今回は義理チョコのつもりだ。となれば、友チョコをあげるのが妥当である少年は除外される」
    「ちょ」
     少し離れた所であがった声をスルーし、はるひは故に小学生向けだと登達へ明かせば。
    「私は誘ってくださった方や一緒に準備をしてくださった方にでしょうか」
    「なるほどな、わしは家族にやりたいぜよ。一口大なら数は作れるからな」
     少し遅れて緋那も答えれば、凍華が横目でイヴの方を見た。
    「うーん、カッコイイ物が好きな年頃だから……小学生の社長が操縦するロボット型とかどう?」
    「ほう、あまり本気を出しすぎると相手にドン引きされるのではとも思ったのだが」
    「難しいなら、戦車型とか……八九式とかオススメだよ」
     刻む手を止めて考え込む小学生好きエクスブレインに登は更に助言し。
    「……ああも真剣だとちょっとツッコミ辛いわね」
     微妙に複雑そうな顔をしつつもパンフレットを丸めた翠は己の責務を果たしに行く。
    「はぷっ」
    「……ツッコミを入れられるのは、通過儀礼? それともお約束?」
     叩かれる様子を目撃した千影がこてんと首を傾げ。
    「あはは」
     引きつった笑いを顔に貼り付けた和馬の横顔をちらりと盗み見たアルゲーは目の前にある材料に視線を戻す。
    「……和馬くんはホワイトチョコとかフルーツの甘酸っぱいのが好みといってましたしドライストロベリーを入れた白いガトーショコラが良さそうですね」
     材料の取捨選択しつつ手が触れたのはオレンジコンフィ。
    「……オランジェットも考えましたがやはりこれにしましょう」
     使わないものを除けて、一人の乙女はもう一度思い人を見る。
    「餅作りで料理の基礎は知ってるからな、得意だぜ」
    「へー」
     丁度湯煎に取りかかる葵の手元を感心した様子で眺めているところであり。
    「俺は具沢山のブロックチョコにするけど和馬はどうする?」
    「んー、実を言うと今、考え中かな? ほら、オイラ男の子だし」
     そもそも誘われ無ければ足を運ぶつもりもなかったのだろう、たずねた葵の前で苦笑をした和馬は頬を指でかき。
    「うちのキッチンとは違って低いですわね……これだと胸で見えませんわ」
    「っ」
    「え? あー」
     調理台を前に不満を口にする静夜の声を聞いて葵の肩が一瞬びくんと跳ね、反応に訝しんだ自称男の子が声の方を見て静夜を見つけ、何やら納得する。おそらくは、胸が大きくて作業しづらいことに納得したのだろうが、偶然見ていたアルゲーの誤解をいっそう深めたのは言うまでもない。
    「や、やっぱり慣れていると作業はラクですね」
     と、満月の方は慣れたのか胸の大きさを苦にすることなく作業をしていたのだから。
    「今日は魚型のチョコを作るのにゃ」
    「大丈夫だとは思いますが調理で分からない事があったら言って下さいね」
     クッキングシートを敷くクロを含む【七星】の面々に蒼香がこのタイミングで声をかけたのは、約一名固まってしまった仲間が居たからか。
    「あれだけ大きいのに支障はないのね……悔しくなんてないわ」
     ボソッと漏らした翠の一言を信じるには、手が震えすぎであった。
    「ここまでは順調ですね」
    「こんなものでしょう」
     一部別の思惑が有る者も居る中、参加者達の作業は続いて行く。例えば良太は彫刻刀やノミで一心不乱に茶色い塊を削っていたし、ハートや猫に熊といった動物をもしたチョコへ砕いたナッツをデコレーションし銀静が作っているチョコも見た目はたいへん可愛らしい。
    「あれも美味しそうですけど、一口サイズのケーキにチョコを纏わせてデコペンで彩るだけでも良い感じですね♪」
     知り合いである零桜奈が量産した小さめのチョコケーキに加工しているのを見た蒼香は、視線を戻すと温めて使用可能になったデコペンをお湯から取り出す。零桜奈が緋那へチョコレートソースをぶっかけたのは見なかったことにして。
    「ん、これを使って下さい」
     その一方で身内に何かあった場合に備えていた結城はクッキングペーパを数枚引き出すと、アクシデント中の零桜奈へ差し出す。
    「去年覚えた、直火はダメだと」
    「グラグラして危なそうね、押さえててあげるわ」
    「ありがとう」
     踏み台の上に乗りやや不安定な姿勢でチョコを刻もうとする千影のフォローに翠が向かっていたからこそ出来たことだ。
    「み、翠さんはそのまま千影さんの補助をお願いします」
    「わかったわ」
     満月の要請に翠は頷きで応じ、【七星】の面々のチョコ作りは続く。
    「湯銭は上が大きなボールで下が小さなボールのほうがいいにゃよ、これなら溶けるけどお湯は入らないのにゃ」
     誰に向けて課開設しつつクロも次の工程に移る様だった。

    ●おしゃべりも交えて
    「何時も一緒に風呂に入ったり遊んだり寝たりするなかだぜ」
     凍華のことをたずねられ、イヴは別に怪しかないだろと不思議そうに首を傾げる。
    「まあ、確かにな。何、先程話をしていたのでね」
     だから質問したとはるひが明かせば、会話に入ってきた者が居た。
    「是非とも年下の恋人作りの経験談を聞かせてもっちぃ」
    「……これは予想外のことを聞く」
     チョコペン片手に玲子の投げた問いが想定外だったか、僅かに間をおいてから口を開いたはるひは答える。
    「生憎、私は恋人いない歴イコール年齢だ!」
    「胸を張って言う様なことじゃないんじゃないかな?」
     謎の気魄とともにされたカミングアウトに登がツッコミを入れる。
    「だがな、『残念なことに相手の居ない』と私は言った」
     つまり、まぁ参考になる様なことは語れないと言うことなのか。
    「後輩ちゃんのとうか……」
    「華上先輩、その目は何ぜよ?」
     そして、玲子は落胆するよりも別の道を選んだ、らしい。
    「そもそも、私が小学生に抱く想いは恋愛感情ではなく、滾る母性をぶつける様な何かだ」
    「へー。あ、そうだ、はるひ先輩に聞きたいことあるんだ。母性てなんだ? イマイチピーンとこないんだ」
     まず誤解があるというはるひの言葉を聞きつつポンと手を打ったイヴは別の問いを投げ。
    「母性とは、母親として子供を守り育てようと言う気持ちを指す……つまり、小学生を見た時に可愛らしくて抱きしめたくなる様な気持ちのことだ。故に昔はそこにいる少年を抱きしめていた」
    「あれ、とりあえず抗議してきた方が良いよね?」
    「和馬、落ち着くんだぜ!」
     前半は割とまともなのに後半で酷くなったはるひの言葉に目の据わった誰かを葵は取り押さえる。そんな感じで一部賑やかではあったが、参加者達のチョコは出来上がって行く。
    「お、大きく伸ばして型抜きすればあとは焼くだけです」
     満月も工程の大半は終えたらしい。
    「……生地を落ち着かせる間にカラフルにするために色違いのトリュフでも作りますか」
     中にはアルゲーの様にもう一品作ってしまおうという猛者も居た。
    「こちらも完成ですね。須らく口の中で蕩け甘さが口に広がるでしょう」
     チョコペンで大好きな貴方へとチョコレートに書き終えた銀静は、チョコペンを調理台の上に置くと、既に作り終えていた可愛らしい動物チョコの方に視線をやる。
    「常に幸福と喜びは多くの苦悶と闇を潜める時があります」
     若干不穏さを帯びた独り言を呟くと作ったばかりのチョコも同じ場所へ置き。
    「具材は男の子なら多いほうがいいですわね、ナッツ、キャラメル、フレーク……これぐらいでいいかしら」
     溶けたチョコにこれでもかと具材を詰め込んだ静夜の手元に出来つつあるのは自身の大きな胸に負けないサイズをしたボール状の何か。
    「何とかガトーショコラが完成したわね。ツッコミ入れるのにあちこち移動したから遅くなってしまったけど」
     もし見られていたらツッコミの一つでも飛んできたかも知れないが、真っ先にパンフレットを丸めて叩いてきそうな誰かは自身の作品に茶こしで粉糖をふりかけ終えたところ。常時目を光らせるというのは不可能だったのだろう。
    「可愛いお魚さんの完成にゃ♪」
    「もうラッピングを始めてる人もますね」
     楽しい時間は流れるのが早い。受け取ってくれる相手の事を考えたり、仲の良い者同士で話し込めば尚のこと。クロはお魚の形にしたチョコが見える様にチョコへラッピングを施し。
    「なら、そろそろ仕上げだな。あくまで今日はチョコレート作り。渡すのは当日のお楽しみなのでね」
    「「えっ」」
    「ん?」
     独言に驚きの声が幾つも上がり、はるひは幾つかの声の方を振り返った。

    ●と言う訳で
    「皆さん味見してみてください、はるひさんも緋那さんもどうですか?」
     【七星】の仲間達にチョコを差し出した蒼香はそのまま近くに居た二人にも声をかけた。
    「成る程、それなら渡した訳じゃないからセーフだね」
    「いつも迷惑をかけているのでどうぞ」
     感心する登の横で便乗し、良太は笑顔でそれを和馬へ差し出す。
    「えっ」
    「ブイヨンとドリンクバーの節制生活で貯めたお金で材料を買いました」
    「あー、えっと、それじゃ……」
     顔をひきつらせたものの、悪いと思ったのか、和馬は彫刻刀で削られた茶色い欠片を摘んで口に運び。
    「っ、しょっぱっ」
    「カレールーで作ったので、これでカレーうどんが作れますよ」
     口元を押さえた被害者に良太は笑顔のまま答え。
    「何でカレールー?! って、あそこにあるのひょっとして……」
    「ええ、豊橋カレーうどん怪人……ではなく、豊橋カレーうどんコスの座本先輩像です」
    「うわぁ……見覚えあると思ったら」
     ツッコミ所が満載だった。いや、何処かおかしいのはこの一角に限らない。
    「葵様~私のチョコを受け取ってくださいませ~!」
    「助けて欲しいんだぜ?!」
     渡すのは当日の筈が何故か調理台の周りをぐるぐる回る少女と少年。
    「いつも……お世話に……なっています……今年も……よろしく……お願いし、あ」
     リハーサルなのか、味見用のチョコを持って雪、当然の用に転けて流れる様に緋那を押し倒す零桜奈。
    「はるひおねーちゃんにあげるんだよ」
    「っ、うおおおおおっ!」
     千影から味見用のチョコを貰って吼えるエクスブレイン。一言で言うなら混沌だった。
    「はぁ……ちょっと行ってくるわ」
     翠はため息をつくとパンフレットを丸め。
    「あ、お、お供します」
    「えーと、お疲れさま?」
     慌てて後を追いかける満月を含む二人を労いの声が見送る。事態の収拾に一手間かかったのは言うまでもない。
    「この前の戦争でのお礼ですよ」
    「こ、こちらこそいつもお世話になってます。そ、その、これ……」
     もっとも、収拾してしまえば残ったのは味見用のチョコと誰かに渡すチョコだけ。結城から余った和風のトリュフチョコを差し出された満月は、ツッコミ疲れも忘れて割れてしまったチョコビスケットでお返しをし。
    「はぁ、酷い目に遭ったんだぜ……あ、そういえば作ったけど和馬は誰に渡」
    「和馬くんは元気だったかにゃ?」
     ややぐったりしつつも、和馬の手元を見て思い出したのか問いを投げようとした葵の言葉に後ろからかけられたクロの言葉が被さる。
    「え? あ、うん……て、ちょ」
     虚を突かれた和馬が頷いた直後だった。クロは後ろからぎゅっと抱きしめ。
    「やっぱり温かいにゃ、はるひお姉ちゃんがよく抱きしめていたのも納得にゃ」
    「うむ、少年の抱き心地は格別だからな。イヴ、母性とは包容力であるとも私は見ている、つまり……論より証拠、いや百聞は一見にしかずとも言う。ここは実えぺっ」
    「ふぅ、このパンフレットも随分べこべこになっちゃったわね」
     クロに名を口にされ、ここぞとばかりに不埒な行いをしようとした誰かがパンフレットに沈む。
    「ふ、母性のためなら悔いは……ぐはっ」
    「はるひ先輩……」
     のたのた顔をあげ親指を立ててから突っ伏した先輩の名をイヴは口にする。
    「何、このカオス……」
     やっと収拾がついたと思ったらご覧の有様である。
    「……大丈夫ですか?」
    「うん……って、アルゲーさんまで?!」
     お疲れモードになりつつも反射的に頷いた和馬が顔を上げれば豊かな胸を押しつけつつ密着するアルゲーの姿が至近距離にあり。
    「まあまあ、ここは落ち着いてカレーうどんでもどうですか?」
    「カレーうどん?! 作ったの?!」
     宥める良太に誰かが思わず叫び声を上げたとしても仕方ないかも知れない。
    「相変わらず仲が良いですね……そういえばお二人共バレンタインの予定は決まったのですか?」
    「っ」
     更にそこへ微笑ましげな視線と一緒に蒼香が爆弾を投下し。
    「こっちのチョコも美味しいんだよ」
     赤くなってわたわたする二人の向こうで、オオカミ型のチョコを抱えた千影は味見用のチョコを堪能するのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月13日
    難度:簡単
    参加:16人
    結果:成功!
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