勝利の余韻が冷めやらない灼滅者達の前に、くるみは慌てて駆け出した。
何事かと見守る灼滅者達に深呼吸で自分を落ち着かせたくるみは、真剣な表情で語り始めた。
「皆、第三次新宿防衛戦、お疲れ様や。疲れとるところ申し訳あらへんけど、六六六人衆に不穏な動きがある、いう情報が得られたんや」
サイキックアブソーバーの予知が行えないため、詳しいことは分からない。
だが、暗殺武闘大会の予選を通過したダークネス達が終結を始めているというのだ。
ダークネスが終結している地域は、15カ所まで判明している。
彼らがその場で殺し合いを始めるのか。ルールを設けて試合を始めるのか。或いは全く別の作戦行動に出るのか。
現状では何も判明していない。
だが、何か良からぬ動きであることだけは確かだろう。
「シャドウとの戦争直後で、皆疲れてはるのは分かってるんや。ほんまやったら、ゆっくり休んで欲しいて思うとる。せやけど、この状況も放置できひん。集まったダークネスの動きを偵察して、状況に応じて適切な対応ができるように現場へ急行して欲しいんや」
ダークネスが集結しているのは、とある地方都市の郊外にある寂れた劇場だ。
かつては多くの人々が集まっていたであろう劇場は閉鎖され、立ち寄る人もいない。
時代に取り残された劇場には多くの古い椅子が並び、舞台の幕は上げられている。
舞台中央には等身大のピエロの人形が、虚ろな笑顔を周囲に振り撒いている。
集結しているダークネスは、5~8体程度だと思われるが、正確な人数は分からない。
彼らは予選を勝ち抜いたダークネスのため、複数のダークネスを相手取るのは危険となるだろう。
暗殺武闘大会が続いているのならば、ダークネスは遠からず戦い始めるだろう。
戦闘に介入するか、勝敗を見て勝ち残った方を灼滅するか。
他にも色々考えられるが、状況を見て現場で判断して欲しい。
場合によっては、戦闘を仕掛けずに撤退する勇気も必要となるだろう。
「戦争直後で大変なところに、また大変な依頼でほんまに堪忍やで。せやけど、皆やったら最良の結果を出せるって思うてるさかい、よろしゅう頼むで!」
くるみはにかっと笑うと、頭を下げた。
猫に変身した花藤・焔 (戦神斬姫・d01510) は、壊れた天井の隙間から客席をそっと覗き込んだ。
劇場の中へ入った時から感じていたピリピリするような殺気が、痛いくらいだ。
劇場に入った時から、カメラが機能しなくなっていた。
まるで劇場内の撮影を禁止するかのように沈黙したカメラを置いて、焔は劇場内を一通り探索した。
ダークネス達が終結しているのは、客席と舞台。他にはいない。
事前に入手した見取り図のお蔭で無駄なく見て回った館内の他の場所は、静まり返っていた。
眼下にいるダークネスは七体。そのほとんどは、六六六人衆のようだ。
(「予選を勝ち抜いただけあって、なかなかの手練れのようね。武装は……解体ナイフや日本刀が多いみたいね」)
無論、殺人鬼のサイキックは普通に使うだろう。
焔は注意深く、敵の様子を観察していた。
焔が敵の情報を得るのと同じ時に。
蛇に変身した槌屋・透流 (ミョルニール・d06177) は、一階客席の破れた壁からそっと客席を観察した。
集まった七体の六六六人衆は、互いに距離を取り警戒し合いながらも、今すぐ殺し合いを始める様子はない。
信頼し合っている様子は全くないが、互いに互いを利用し合っている様子が窺えた。
六六六人衆は皆一様に、舞台を警戒している。
そのため、こちらに気付いた様子はない。
解体ナイフを装備した六六六人衆の一人が、苛立ったように踵を踏み鳴らした。
「……奴の復活はまだか! 高位序列を奪える機会なんて、そうはないんだ。ナイフが疼いて仕方ない!」
「焦るな。儀式の効果が出るまで、もうすぐだ」
(「高位序列? 儀式? 奴らが復活させ、暗殺しようとしているのは、まさか……」)
透流が嫌な予感に眉を顰めた時、開幕のベルが鳴った。
高らかに鳴るベルが鳴り終わると、ピエロが動き出した。
派手な格好のピエロは、殺気を強めた六六六人衆達に一礼するとジャグリングを始めた。
「本日はお忙しい中、当劇場へお越しくださいまして誠にありがとうございます。
開演に先立ちまして、注意事項がございます。
劇場内の撮影や録音は、禁止させていただいております。
また……」
「うるさい! 黙れ!」
耳障りな声で語るピエロの首が、ふいに落ちた。
ピエロの何かが、六六六人衆の心の琴線に触れたのだろう。思わずというように飛び出した六六六人衆の動きが止まった。
「……舞台に上がったのならば、あなたは役者。そうね?」
捕縛されたように動きを止めた六六六人衆の前にこつ然と現れたのは、一人の女だった。
見事な肢体を紅いドレスで包んだ女は、驚愕に目を見開く六六六人衆の頬にそっと触れた。
六六六人衆の目を見つめることしばし。
やがて目を逸らした女に、首を戻したピエロが拍手喝采を贈った。
「よくぞお目覚めになられました! 我らが団長にして主演女優にして舞台監督にして脚本家にして演出家! アクトリア様!」
「静かになさい、クラン。――さあ、大根役者。お客様にご挨拶なさい!」
「はい、アクトリア様!」
催眠にかかった六六六人衆が、敵ではないはずの六六六人衆に向けて襲い掛かる。
それを合図に、他の六人がアクトリアに向けて一斉に攻撃を仕掛けた。
催眠や捕縛、服破りやトラウマといった多彩なバッドステータスを影に乗せて操るアクトリアと、彼女を守るクラン。
まるで主人とサーヴァントのような連携を前に、六六六人衆はあっという間に三体倒される。
その強さに、舞台袖から見ていた外法院・ウツロギ (殺人階位の観測者・d01207) は思わず興奮に身を乗り出した。
(「アクトリアは強いね! あれは紛れもなくハンドレッドナンバーだよ! しかも、中位から上位! 序列何位なのか、早く教えるさー!」)
殺人階位の観測者魂を何とか宥めたウツロギは、この状況を伝えるために尻尾のロープを二回引っ張った。
戦いは膠着状態になったとはいえ、続いている。
互いに戦わせて、勝者に戦いを挑むのか。
暗殺武闘大会を阻止するために、六六六人衆を撃破するか。
危険すぎるアクトリアを撃破するか。
灼滅者達は決断を迫られていた。
参加者 | |
---|---|
外法院・ウツロギ(殺人階位の観測者・d01207) |
花藤・焔(戦神斬姫・d01510) |
槌屋・透流(ミョルニール・d06177) |
黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538) |
可罰・恣欠(リシャッフル・d25421) |
斎・一刀(人形回し・d27033) |
雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195) |
サイレン・エイティーン(嘘月トリックスター・d33414) |
六六六人衆への攻撃を終えたクランに、白いベルトが迫った。
「ふははははは! ゆけ、偽りの巧工帯!」
高笑いを上げながらクランを引き裂いた可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)の一撃に、劇場内の全ての視線が灼滅者達に集まった。
予想外の攻撃に手を止めた六六六人衆は、振り返ると鋭い声を上げた。
「誰だ!」
「我らは、アクトリアと敵対する者!」
「強力なダークネスが出るって聞いて来たら実際に出てきたし、どぉみてもアカンから倒したいんよ」
どこか楽しそうな恣欠の脇をすり抜けた雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)は、訝しむ六六六人衆に向けて祭壇を展開した。
虚ろな目で仲間に斬りかかる催眠六六六人衆は、祭壇の光に我を取り戻したかのように顔を上げた。
「敵の敵も敵なんだけどねぇ……ケケケっ」
嘯きながらも放たれた斎・一刀(人形回し・d27033)の集気法に、まだぼんやりとしていた催眠六六六人衆が意識をはっきりとさせたように頭を振った。
「俺、は……」
「あら、新しいお客様かしら? ようこそ、私の舞台へ」
催眠を解除した六六六人衆を一瞥したアクトリアは、陣を整える灼滅者達ににっこりと微笑んだ。
魅惑的な笑みを浮かべたアクトリアのドレスが翻り、影が灼滅者達へと襲い掛かった。
どす黒い殺気を帯びた影が前衛を包み込み、容赦なく切り裂いていく。
纏わりつくように残る黒い霧に抵抗するように、光の盾が展開されていた。
WOKシールドで黒い霧から前衛を守った黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)の癒しを支えるように、黄色い光が前衛を包んだ。
槌屋・透流(ミョルニール・d06177)の交通標識が翻り、破魔の加護を与えて消える。
癒しの力に息を吐いたりんごは、アクトリアを専門に狙う六六六人衆に少しだけ眉を顰めた。
「鬼九が求めたもの……そろそろ見えてくるのでしょうか?」
「それは……分からない。だが、アクトリアだけはぶっ壊す」
ぶっきらぼうに答えた透流は、戦局を睨みながら殲術道具を構えた。
灼滅者達の姿を隠すほどの濃密な影を裂き、【背徳】がクランへ迫った。
クランを袈裟懸けに切り裂き、舞台上に長居せずに戦列へ戻った外法院・ウツロギ(殺人階位の観測者・d01207)は、警戒を解かない六六六人衆のリーダー格にひらひらと手を振った。
「今は君達の相手をしてる暇も、邪魔するつもりもないよ。こっちはこっちで勝手にアクトリアとやりあうから、気にせず続けてよ。その方が敵が増えるより、確実に目的を達成できるでしょ?」
「状況に流されるようですが、手数が増えてラッキーくらいに思えばいいですわ」
ウツロギに同意して頷くりんごを、否定する灼滅者はいない。
「今だけでもウチら味方やとお得なんよぉ? ……とゆーより誰かにこーなるよぉに、お膳立てされとるよぉな気ぃもするー」
暗に宍戸を匂わせる丹の言葉に、六六六人衆は格上と思われる一人を振り返った。
「屍斬さん……」
「……好きにしろ。ただし、奴の首を狩るのは俺達だ!」
着流しを翻した屍斬は、日本刀を翻すとアクトリアへ向けて斬りかかった。
一応の共闘が成立した六六六人衆に、サイレン・エイティーン(嘘月トリックスター・d33414)は鋭い声で警告を発した。
「舞台に上がることが、あの催眠が起きる条件かも。上がらない方がいいよ!」
言い終わるのが早いか、舞うようにダイダロスベルトを放ったサイレンの攻撃に、アクトリアは手を叩いた。
「まあ、よく分かったわね。そう。私は団長にして主演女優にして舞台監督にして脚本家にして演出家。舞台の上は、私の領域」
アクトリアの言葉に、恣欠は頷いた。
予想通り、舞台上は危険だ。だが、舞台に上がっただけでは催眠等は発生しない。それはウツロギの攻撃が示していた。
ならば、舞台上でアクトリアの攻撃を受けることが大変危険なのだ。
「ほう、やはりな。しかし何故それを私達に教える?」
芝居がかった動きと声で応える恣欠に、アクトリアは嬉しそうに手を口元へ当てた。
「たかが成り損ないに知られたからといって、戦局に影響はないわ。それに、このくらいのハンデがなければ、舞台は面白くないものよ」
アクトリアの言葉に、花藤・焔(戦神斬姫・d01510)は殲術道具を握り直した。
長く封じられていたアクトリアは、現状の灼滅者達を知らない。
付け入る隙があるとすれば、そこだろう。
余裕を崩さないアクトリアに、焔は知らず口元を歪めた。
「さすがはハンドレッドナンバー、といったところね。気合いをいれないと!」
余裕の表情を崩さないアクトリアに、腕を大きく上げると強酸性の液体をクランへと放った。
強い攻撃の意思を見せた灼滅者達に、アクトリアは高らかな笑い声を上げた。
●
「舞台の範囲は、私の意のまま。すぐに殺してもいいけれど、面白くないわね。少し遊んであげる」
心の底から嘲るアクトリアの言葉に気を悪くした様子もなく、ウツロギは一礼した。
「改めまして、アクトリア。僕は外法院・ウツロギ。殺人階位を記録する者。殺人階位の観測者にして、六六六人衆の全てを求める者」
演技するように一礼したウツロギは、胸に当てた手をアクトリアへと差し出した。
「僕自身が新しい殺人階位になるために、まずは貴女の序列をくれないかな?」
「私を倒せたら、教えてあげるわ」
言い終わるのが早いか。アクトリアの全身から沸き上がった黒い影がナイフとなり、ウツロギへ向けて真っ直ぐに伸びる。
「危ない!」
影のナイフを受け止めたりんごは、襲う痛みに思わず膝をついた。
腕を抜き、露わにした左腕の付け根に深く突き刺さった影の刃は、ハンドレッドナンバーの名に違わぬ威力でりんごの体力を奪っていく。
「回復を!」
額に脂汗を浮かべるりんごに、透流のダイダロスベルトが放たれた。
癒しと護りの力を帯びたベルトがりんごを包み込み、傷を癒し防護を固める。
表情一つ変えないクランを横目に見ながら、丹はりんごへ駆け寄った。
りんごの頭上で展開される祭壇の光に息を吐いたりんごは、続く戦いに思いを寄せた。
かつて闇堕ちし、暗殺武闘大会暗殺予選に出場したところを救出されたりんごにとって、この大会は特別な思い入れがある。
己の中に棲まう鬼――鬼九は、この大会に何を求めたのだろうか。
「こんな大会、認めるわけにはいきませんが……」
りんごの不安に、丹は元気づけるように頷いた。
「正直どぉなるか分からへんけど、どぉなっても悪い事になる予感はするやねぇ≪LEVITHMONG DE A VL TORZVLP VORS DE CNILA≫」
丹の言葉と被って聞こえた理解できない言葉に、りんごは思わず振り返った。
「丹さん?」
「まずはアカン方優先……って、どぉしたんー?」
首を傾げる丹は、声に気付いた様子はない。りんごは首を静かに振った。
「いいえ。まずはアクトリアを倒すことを優先しましょう」
立ち上がったりんごは、改めて殲術道具を構えた。
「食らえ!」
灼滅者達に気を取られた一瞬の隙を突いた屍斬が、強烈な一撃をアクトリアへ向けて放つ。
「アクトリア様!」
駆け出したクランは、屍斬の一撃を受け止め弾き飛ばされる。
立ち上がり、何事もなかったようにジャグリングを繰り返すクランに、サイレンは思わず感心の声を上げた。
お道化たピエロのように語る語り部と、ピエロ服を着させた翼猫。
ピエロを盾にして攻撃していくスタイルはサイレンと共通するもので、ちょっと気は合うかも知れない。だが。
「生憎彼女の演劇は今回限りにしないと、他の物語がいっぱい犠牲になりそうだしね。絶対に止めるよ!」
声と共にクロスグレイブを構えたサイレンは、砲口をクランへと向けた。
同時に飛び出した翼猫のアルレッキーノが、主人に呼応して猫魔法をクランへと解き放った。
業を凍結させる光の砲弾がクランに突き刺さり、氷結した脇腹に猫魔法が追い打ちを掛ける。
灼滅者達の連撃を受けても表情を変えないクランに、一刀は大きく腕を振り上げた。
「……カカっ。人形回しとビハインドの舞。特とご覧あれ」
男女2体の操り人形【雨姫と砂侍】を繰り出した一刀は、花弁のように広がる鋼糸を巧みに操ると包囲するように配置した。
同時に放たれる、四方八方からのオーラの塊が、クランを貫いていく。
攻撃の合間を縫い、踊るようにクランに斬りかかるビハインドの攻撃に、クランはたまらずよろけた。
舞台のひと幕のような連携に、アクトリアは感心したように手を叩いた。
「あなたの人形舞い、素敵ね。――堕ちたら私の元へいらっしゃい。前座にしてあげるわ」
「ククッ。貴様の前座など、願い下げだねぇ」
一刀はおかしそうに笑うと、殺人鬼の鋭い視線でアクトリアを睨んだ。
アクトリアが六六六人衆に攻撃を仕掛けたのを確認した焔は、舞台の端を蹴るとクランへとヴェイル・アーヴェントを振りかぶった。
「逃げられませんよ」
声と共に放たれた黒死斬に、クランは思わず足を止める。
累積するダメージに追い打ちを掛けるように、恣欠は七不思議を語った。
「これより語るは、恨み辛みの物語……」
陽気な表情でジャグリングを繰り返すクランに、七不思議奇譚がまとわりついていく。
灼滅者達が攻撃をしている間にも、六六六人衆は我関せずとばかりにアクトリアを狙い攻撃を仕掛けている。
楽しそうにダイダロスベルトの【絶望】を繰り出し攻撃するウツロギは、六六六人衆を振り返った。
「ねえ、六六六人衆の皆も序列を教えてよ」
「無駄口を叩くな! 来るぞ!」
屍斬が一喝した時、膨大な量の影が前衛へと迫った。
●
戦いは激しさを増した。
相手を格下と侮ったアクトリアは、彼女の中にある「灼滅者」の常識から外れた強さを持つ灼滅者達に興味を持ち、力を測るように攻撃を繰り出してくる。
クランは主を護りながらも、アクトリアばかり狙う六六六人衆に反撃を繰り出していく。
まずはクランを倒すべく重点的に攻撃を仕掛ける灼滅者達の攻撃は、確実にクランの体力を削っていく。
催眠を受けた六六六人衆を回復し、一応の共闘態勢を整えることに成功したため、奇妙な連携は意外と功を奏していた。
四者四様の攻防は膠着を生み、体力の削り合いへと発展していく。
長い攻防の末、最初に崩れたのはクランだった。
「斬り潰します」
裂帛の気合と共に放たれた焔のイクス・アーヴェントが、戦艦を切り裂くほどの威力を持って叩き込まれる。
クランをバラバラに切り裂いた直後に戦列に戻った焔に虚ろな目を向けたクランは、アクトリアに向けて拍手を送りながら消えていく。
消えたクランに、アクトリアはそっと目を閉じた。
「――そろそろフィナーレの時間も近いわね。楽しかったわ、成り損ない。本気を出してあげる」
六六六人衆の攻撃を避けたアクトリアは、背後から膨大な量の影を顕した。
影はやがて形を作り、女王を守護する騎士団のような姿へと変ずる。
「行きなさい、私の忠実な騎士」
前衛へ向けて放たれた膨大な影が、一斉に灼滅者達を切り裂いていく。
ディフェンダー故の高い体力で重傷を免れた一刀は、力尽きたように倒れた。
仲間を庇い、殺傷ダメージの深いりんごは、襲い来る衝撃に耐えきれずに意識を手放す。
最前線に立ち、攻撃を受け続けた焔もまた、壁に叩き付けられ動かない。
倒れ伏した三人の首に狙いを定めたアクトリアは、影の刃を振り上げた。
「素敵なレッドカーペットに、なって頂戴ね?」
アクトリアの影が三人を切り裂く寸前、ウツロギは大きく声を上げた。
「させないね!」
戦いながらも己への防護を積み重ね、アクトリアの攻撃を何とか凌いだウツロギは、危機的状況とアクトリア灼滅のチャンスに魂を闇に委ねた。
次の瞬間、アクトリアの姿が弾き飛ばされる。
六六六人衆と化したウツロギの笑い声が、劇場に響き渡る。
そこにあるのは、異形だった。
破壊され、打ち捨てられたブロックのようになったロードローラーを融合させ、積み上げた上で高らかに笑う人影。
「あんたのサイキックエナジーを喰ってみせる」
「なっ……!」
驚きに目を見開くアクトリアに、灼滅者達と六六六人衆は一斉に動いた。
著しく攻撃手に欠けた今、短期決戦を挑むしか勝ち目はない。
そう判断した透流は、回復の手を止めダイダロスベルトを解き放った。
「ここで、ぶち抜く!」
透流の攻撃を皮切りに、猛攻撃が始まった。
「畳みかけるよ!」
大きく叫んだサイレンは、クロスグレイブの砲門を大きく開いた。
光の弾丸が氷となって空を切り裂き、派手な光と共にアクトリアへと突き刺さる。
「外法院様にトドメを刺させる訳には、いきませんね!」
恣欠が振りかざした偽りの巧工帯が、生きもののように伸びてアクトリアを引き裂く。
その攻撃に合わせて、丹のダイダロスベルトがアクトリアを貫いた。
「悩む暇もあれへんし、早よトドメ刺さなね!」
ベルトの連撃を受けたアクトリアは、初めて余裕の表情を崩すと苦痛を顔に出した。
「……! 少し、甘く見過ぎていたようね」
「貴様の序列は、俺が奪う!」
六六六人衆が振りかぶった惨殺ナイフが、袈裟懸けにアクトリアを切り裂く。
「邪魔よ!」
攻撃を受け切ったアクトリアは、舞台に立った六六六人衆の首に手を掛けると一気にねじ切った。
手を払ったアクトリアの胸に、【背徳】が突き刺さった。
止めを狙い日本刀を振りかぶった屍斬を蹴り飛ばし、即座に放ったウツロギのクルセイドソードは、狙い違わずアクトリアを貫いている。
異常なまでの執念でアクトリアの止めを狙いにきたウツロギの攻撃に、アクトリアの体が脆く崩れ始める。
色あせ、風化する己の手を見たアクトリアは、それでも嫣然と微笑んだ。
「私としたことが……とんだ誤算。あなた達とのお芝居が楽しくて、幕の引き際を見誤るだなんて。団長失格ね、クラン」
「ねぇ序列を教えてよ」
子供のように無邪気なウツロギの声に、アクトリアは残った手を差し出した。
「そうね。約束だったわね。私の序列を、持っていきなさい。六六六人衆・序列第六三位――ロードローラー」
色あせたポスターが剥がれるように消えたアクトリアとは対照的に、ウツロギは――ロードローラーは高らかな笑い声を上げた。
「ウツロギさん!」
サイレンの声に一度だけ振り返ったロードローラーは、口の端をにやりと上げると舞台へ上がった。
「さぁ楽しい殺戮劇の始まりさ!」
アクトリアの代わりに舞台に上がったロードローラーの姿に、屍斬は日本刀を納めるとその脇へと控えた。
屍斬を従者のように従えたロードローラーは、舞台の壁を破るとそのまま走り去っていく。
二月の風が吹き込む劇場に取り残された灼滅者達は、その背中を見送ることしかできなかった。
作者:三ノ木咲紀 |
重傷:花藤・焔(戦神斬姫・d01510) 黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538) 死亡:なし 闇堕ち:外法院・ウツロギ(殺人階位の観測者・d01207) |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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