2月。もうすぐ、だいすきを、ありがとうを。大切な人に贈る、特別な日。
まだまだ寒さが続く街の中、色んなお店が華やかに着飾って恋の日を謳う。
でも、ほら。
あの真っ赤に潤む一粒だって、今は旬の季節――。
●Happy Valentine!
あるキャンパスの廊下にて。
「チャオ! ねえ、あなたは苺って好き?」
開口一番、笑みの花咲かせて唄うようにそう訊ねたのはジョバンナ・レディ(高校生サウンドソルジャー・dn0216)だ。
もうすぐバレンタインね、と。恋の色にも似た薄紅の瞳を綻ばせたまま、薔薇の娘は楽しげに知らせる。
「チョコレートもだけれど、色んなお店で苺の商品が並ぶようになるわよね。
旬の摘みたて苺とか、苺のコンビニスイーツとか。ねえ、さっき配られたこのチラシなのだけれど――」
――苺を使ったバレンタインチョコ、だなんて素敵だと思わない?
生徒数の多い武蔵坂学園では、企画を練って沢山の人数でバレンタイン準備を進める者も居る。
ジョバンナが示したそのチラシには『苺チョコ作り』といった趣旨の誘いが掲載されていた。
どうやら数あるキャンパスの中から家庭科室の一部屋を借り、苺を用いたお菓子を作るのだと云う。
「おっすおっす! なんか面白そうな話してんな。バレンタインデーか?」
「あら、カフカ先輩」
やたらとからから明るい声がする方へ振り向けば、其処には白椛・花深(大学生エクスブレイン・dn0173)が常の笑顔でこちらへ興味を示していた。
先ほどまで話していた誘いを説明すれば、「なるほど」と合点がいったように頷いて。
「最高の組み合わせじゃねーか。苺とチョコなら色々と調理のアレンジも広がるだろうし、何より贅沢なのはロマンだし!」
ぐっと拳を握って、唯でさえ高いテンションをさらに昂ぶらせる。
やはり青二才、ロマンを感じるものならば何でも楽しむ様子。
「ふふっ、ほら見て。包装グッズや調理器具だけじゃなくて、苺やチョコも沢山あるみたい。色んなお菓子を試せるし、それに味見もOKだなんて素敵ね」
大好きな苺を想い、ジョバンナもチョコのようにとろり蕩けて微笑む。
溢れる果汁に新鮮な果肉。甘美な苺を着飾るならば、チョコレートはもってこい。
チョコがけ苺や苺トリュフ、苺のチョコケーキ……などなど、どれを作るのか考えるのも楽しみの一つだろう。
都合があうならば友達や恋人などと一緒に仲良く、お菓子作りをするのも素敵だ。
協力して作ったり、一緒に味見したりなど。バレンタイン前にも思い出づくりをするのも一興というもの。
「折角だもの。甘いもの同士贅沢に、そして素敵なバレンタインになるようめいっぱい楽しみましょう」
赤く色づいた肌に、チョコレートのヴェール。
そして最後にリボンを結んで。
――贅沢なひとときを、作ってみてはいかがだろうか。
●Valentine Cafe!
2月13日。
明日のバレンタインに想いを馳せ、心弾ませ過ごす者はきっと沢山居ることだろう。
そう――此処、武蔵坂学園でも。
『家庭科室』の扉から、何やら賑やかな笑い声が聴こえてくる。
調理台を囲み、一際賑やかにチョコ作りを楽しんでいるのは、カフェ:フィニクスの面々だ。
さくらえが苺を一粒頬張れば、新鮮で甘やかな果汁が口いっぱいに満たされる。
そして、皆が調理し始める様子を楽しげに眺める。皆が考えるレシピはどれも多彩なものばかりだ。
「やっぱり見てると作りたくなっちゃうかも。なんか、今年は料理とかも大丈夫な気がしてるんだよね」
「……さくら、チョコとか刻むのはこっちに任せろ」
包丁を手にしかけたさくらえを止めるべく、勇弥は泡立て器とボウルを彼へ差し出す。
さくらえは残念そうに肩を竦めつつも、「りょーかい、撹拌だね」と幼馴染の頼みを笑顔で承って。
一方で勇弥は手際よく、ココアパウダーを混ぜたクレープ生地を次々焼いてゆく。
そして生地の間に、細かく刻んだ苺入りのカスタードやチョコクリームを重ねてゆけば――ショコラストロベリー・ミルクレープの完成だ。
「流石の手際ですね……。参考にさせていただきます」
調理工程をまじまじと観察しながら、オリヴィアもまたお菓子作りに挑戦。
彼女が選んだのは、苺を練り込んだストロベリーチョコだ。明日のバレンタインデーに備えてプレゼント用も準備するため、オリヴィアは気持ちを込めて作り始める。
――ちょっぴり、味見と称してつまみ食いも。
ひと匙掬って味わえば、口の中に広がる苺の酸味とチョコの甘美さに、オリヴィアは自然と金色の瞳を細めて満足げ。
(「あまくておいしいです……」)
「……オリヴィアさん、つまみ食いはほどほどにね」
背後からそっと、悪戯っぽく囁いたのは凜だ。
突然名を呼ばれてびっくりしたオリヴィアが振り返れば、凜はいちごジャムの瓶を手にしながら花咲くように笑ってみせた。
熟した甘やかな苺は、今回誘いをかけた娘が愛する薔薇の色に似て鮮やかで。
どうチョコと絡ませようか――と、凜は心弾ませながらレシピを考案した。
フリーズドライの苺を砕いてホワイトチョコと混ぜ合わせる。冷やして固めたならミルクチョコも注ぎ、隠し味には先程のいちごジャムを。
ミルクチョコとホワイトチョコ、そして苺。様々な食感を味わえる、よくばりいちごチョコだ。
段々と出来上がってゆく様々なお菓子を眺め、「皆、すごく美味そうだな」と勇弥は笑みを綻ばせる。
「そうね。皆違うスイーツで見た目でも楽しめるし、彩りも綺麗だし美味しそう」
楽しげに頷く涼子も、丁度苺のティラミスを作り終えたところだ。
苺ソースをたっぷり注いだフィンガークッキーの紅い層と、マスカルポーネの白の層が色鮮やかで美しい。
白と黒のチョコで彩った苺は、まるでタキシードを身に纏うかのよう。涼子は仕上げにと、ティラミスの上にミントの葉も添えて飾り付けて。
試食の時間のため、涼子は胸弾ませながらティラミスを冷蔵庫へ。
手寅の普段の無表情は、苺チョコを堪能するたび徐々に和らいでゆく。
(「苺うまい、チョコおいしい」)
調理用の苺やチョコを一口ずつ頬張りながら、レシピ本とにらめっこ。
――食べ専の私にも作れるチョコ料理……やめよう、何だか見てるだけでお腹いっぱいになってきた。
次々に机に並べられるお菓子を目の当たりにし、手寅はパタンと本を閉じた。
空凛は丁寧に形を整えたタルト生地の中に、生チョコクリームを入れてオーブンへ。
さくさくに焼かれたタルトに、仕上げに加えるのは新鮮な苺や生クリーム。苺とチョコで彩られた贅沢なタルトが出来上がる。
そして彼女の傍らには、パートナーたる双調の姿が。
双調が考案したふっくら焼きたてフレンチトーストは、苺やチョコ、生クリームをふんだんに使ったバレンタイン仕立てだ。
甘い香りにつられて、霊犬である絆は元気に尻尾を振る。「絆も食べますか?」と空凛が訊ねれば、頷くように一吠え。
「双調さんは甘味ならなんでも食べれますからね」
「ええ、空凛さん。もれなく全種類頂く所存です」
言わなくても分かっていますよ、と空凛は悪戯っぽく微笑む。
苺とチョコの香りで満たされた空間に、双調は幸せな心地に浸る。
甘味を愛する彼にとって、カフェ:フィニクスは天国と称しても過言ではない場所だ。今回のデザートも勿論、どれも食欲をそそるものばかりである。
その頃、紅音が練っているのは大福生地だ。
中にチョコ餡を詰め込み、チョコを塗って固めた胡桃に苺を真ん中に飾れば、チョコ餡の苺大福の出来上がり。
「苺×チョコ×大福、ってアリじゃない?」
甘党である紅音は、普段のクールな印象とは一味違って上機嫌の様子。
完成した大福に満足しつつも、皆の完成度の高いお菓子にも目移りしてしまう。
「皆のスイーツも美味しそう……。どれから食べようか迷っちゃう」
感嘆の溜め息を漏らす紅音。
「試食なら任せてください、いつでも食えますので」
食べ専である手寅もまた、多彩なお菓子を見渡しながら食べる気満々の様子。さっきは見ているだけでお腹いっぱいになった気がしたが、どうやら錯覚だったようだ。
そんな彼女の手には、市販の板チョコが一枚。調理を終えた勇弥の元へやってきて「あ、店主」と声を掛けて。
「市販のチョコで申し訳ないのですがこれ、どうぞ。日ごろの感謝の気持ちです」
手寅が差し出した板チョコを受け取った店主は、「ありがとう」とにこやかに微笑み返した。
「うんうん! いちごがいっぱい、チョコもいっぱい。やっぱテンションあがるよねっ!」
そんなとき、溌剌とした笑顔で完成したお菓子を運んできたのは天音だ。
彼女の作った2種類のチョコは、チョコを固めた生苺、ホワイトチョコを固めたフリーズドライの苺を食べ比べて楽しめるセットとなっていた。
違いの食感を堪能したところで、大事そうに包まれたラッピング箱がひとつ。
「あ、これ? いちごのガトーショコラだよ。これはね、離れて暮らしてる姉貴へのプレゼントなんだ」
笑顔を浮かべ、そう答える天音。胸元に飾るガーネットのブローチが、光を帯びてきらめいた。
このブローチを贈ってくれた大切な姉は、故郷の出雲へと旅立っていった。彼女もまた、カフェ:フィニクスの一員だ。
――『あたしも、フィニクスの皆も元気だよ』
リボンと共に添えたメッセージカードには、天音の字でそう綴られていた。
「ふふ、きっと嬉しすぎて泣いちゃうと思うよ?」
大事そうにリボンを結ぶ天音の姿を見守りながら、さくらえは小さく微笑んで言葉を掛けた。
こうして、10通りのお菓子が賑やかに勢揃い。カフェ:フィニクスの試食会が始まった。
皆の皿にそれぞれお菓子を切り分け、交換しながらひとつひとつを味わい尽くしてゆく。
「……苺とチョコって、最高の組み合わせね」
皿に盛られた沢山のお菓子を一つずつ味わいながら、紅音から溢れるのは至福の感情。
甘味を味わい尽くす幸せを堪能し、再びフォークを滑らせて。
「こうして美味しいものを皆一緒に食べられるのも、このカフェに出会えたおかげよね」
苺のティラミスを皆の元へ配りながら、涼子は猫のような瞳をそっと閉じて願う。
――これからもまた、皆とともに楽しさを分かち合いながら過ごしていきたいと。
「白椛さん、ジョバンナさんもどうぞ!」
凜の明朗な声を耳にしてやってきた二人は、多彩な苺チョコスイーツ達を目の当たりにして、
「わあ、どれもすっげー美味そうだな……! バレンタイン前にこんなに贅沢出来るなんて思ってなかったぜ」
「ふふっ、そうね。どのお菓子も美味しそうで……ぜひ、紅茶のお供にしたいわ」
またお店にお邪魔しても宜しいかしら? と夢見心地なジョバンナが訊ねれば、勇弥は歓迎だと言うように笑ってみせた。
カフェ:フィニクスの特別試食会。
珈琲にも紅茶にもぴったりな苺チョコスイーツの集いは、まだまだ続いてゆく。
●Very Berry Sweet!
「そういえば、何を作りましょうか?」
調理器具や材料を揃えたのち、そう訊ねたのは薫だ。
「苺を使ったバレンタイン向けのお菓子となると、まず思い浮かぶのはチョコケーキですが……」
他にも何かないだろうか、と薫は考え込む。
チョコケーキも良いけれど、結構な頻度で翔也に作ってもらっている。「何か良い案は有りますか?」と、お菓子作りを得意とする彼へと訊ねれば、
「そうですね。なら、ホットケーキにしましょうか?」
翔也はすぐさま閃いて提案し、自家製のいちごジャムを取り出してみせた。焼きたてのホットケーキに、甘いいちごジャムととろり蕩けるチョコレート。トッピングを加えるだけでも、バレンタインらしい華やかさが生まれる。
「簡単に作れますし、何ならジャムだけじゃなく苺を載せてもいいでしょうね」
「なるほど。ホットケーキなら私にもできる作業がありそうですね」
翔也のアイディアに賛成し、薫はさっそく準備を始める。緑と茶色でまとまった落ち着いた色合いのティアードエプロンをまとい、いざ調理開始!
繊細な作業は製菓学部である翔也に任せつつ、足手まといにならぬように薫は頑張って立ち回る。
(「……やっぱり翔也さんはかっこいいです」)
調理の最中、パティシエモードとなった彼の姿をじーっと見つめていると、薫の頬はすっかり真っ赤に染まってゆく。
彼女の視線を感じる翔也もまた、愛しい人との共同作業は何より幸せな時間だと想う。
――今の時間も、これからの未来も、楽しんでいきたいと願って。
卒業しても尚、こうして学園の設備を使えるというのはありがたいことだと友梨は痛感する。
(「彼とは同居してるから、内緒で作るって難しいんだよね……」)
サプライズを考えようとも、家で作るなら匂いでバレてしまう。友梨が作るのは、ストロベリークランチチョコだ。
ホワイトとビター。2種類のチョコをそれぞれ溶かし、苺とクランチも合わせて混ぜてかたどる。
さくさくとした食感に、苺の酸味。折角ならば見た目だけじゃなく味でも記憶に残るものにしたい――とは友梨本人の想いだ。
冷蔵庫からチョコを取り出し、「味見したい人がいればどうぞ」と声を掛ければ、生徒が何人か興味を惹かれて一粒ありがたく貰ってゆく。
そして自分の片付けを終えたのち、友梨は他の皆の手伝いをすべく動き始めた。
卒業してもなお、彼女の世話上手は健在のようだ。
「……何て贅沢なのかしら。これなら……」
そう微笑んだ恵理が此度紡ぎ出すお菓子は、チョコケーキだ。
煮詰めたジャムはゼリーでちょっぴり固めて、甘さ控えめのチョコクリームとスライスした苺を土台に挟む。
濃いめのチョコクリームで表面を彩ったなら、仕上げに沢山の苺を飾って華やかに!
「ねえ、ジョバンナ。一緒に作りません? 貴女のも余分に1つ増やして」
カップサイズのケーキの型を差し出し、恵理が親愛なる友へ誘いを掛ければ、
「まあ、可愛らしい……! エリさんと一緒に作れるだなんて光栄だわ」
ジョバンナはとびきりの笑顔を咲かせて頷いたのち、もう1つのケーキの送り主について訊ねる。
すると恵理はくすくす、と悪戯っぽく笑って。
「ロマンだと思いませんか? 同じ学校の女子二人から、揃ってのチョコなんて」
『ロマン』というワードで納得し、ジョバンナは薄紅の瞳を細めて「先輩には勿体無いくらい素敵ね」と微笑み返してみせた。
お気に入りのエプロンをまとい、腰のリボンを結ぶ。
粉を振るい、生地を混ぜて。卒なく熟すひよりの姿はまるで魔法を操るかのよう。
粗熱をとったショコラ風味のミニタルト生地に、チョコクリームを敷き詰める。
(「美味しくなりますように、喜んでもらえますように――……」)
ひよりの脳裏に大好きな皆の笑顔が思い浮かぶ。心から込み上げる願いは、内緒の隠し味。
そして最後に、主役の真っ赤な苺を飾り付け。
深まるダークカラーが苺の鮮やかさをより一層引き出し、愛らしく出来上がる。
「あっ、ねえ。花深くん? 良かったら一つ、味見してくれないかな」
「おっす、ひより! 雰囲気変わっててすげーびっくりしたぜ」
ミニタルトの一つを差し出すひよりの微笑みは、以前に逢った時より幾分か大人びて見えた。
花深はそれをありがたく受け取って頬張れば――口に広がるほろ苦いショコラと苺の甘みに、自然と綻ぶ笑み。
ひよりはその笑顔を見留めて、安堵と共に翡翠の瞳を細めた。
――手料理をしたい。
揺籃は生前、そう希った。その想いを汲み、烏芥は傍らに寄り添う彼女と共に菓子作りに備える。
当の揺籃は揚々たる風にエプロンを結ぶものの、烏芥自身は料理が不得手だ。
「せめて蔕取り等に何なりと使われます……喜んで」
冗句めかして云ってみせれば、娘もまた仄かに微笑み返した。
彼女の真白い指先が、求肥を薄く伸ばす。抹茶の緑と、雪の白でちょこ餡を包み。
苺色の着物を襲ねたなら、ちょこんと女雛の大福が鎮座する。
傍らには、『びたちょこ』羽織る男雛――嗚呼、雛人形だと烏芥は気付き、彼女らしい発想だと頷く。
揺籃の遊び心であろうか。天辺に飾った女雛の苺が、微笑み湛える。
ただ最後、男雛へ筆を入れるのを躊躇う彼女へ――「……貸してごらん」と烏芥はチョコペンを受け取って。
かんばせに揃いの微笑を描いたなら、揺籃の唇は嬉しさの余り蕩けるように綻んだ。
そんな彼女の耳許へ、小さく添えた囁き。
拒食である烏芥は普段云わねど、この日ばかりは――。
「……飾り終えたら、私も味見しても良いだろうか?」
――2月14日。
それはだいすきを、ありがとうを。大切な人へ贈る、特別な日。
口溶け苺が織りなす、ショコラの魔法は明日へと繋がって。
あなたにもどうか、バレンタインの祝福があらんことを。
作者:貴志まほろば |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:簡単
参加:16人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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